【香鈴】見えない絆
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/15 22:11



■オープニング本文

「烈花、無事でよかった」
 開拓者に連れられ東の橋を渡った烈花は、留守番をしていた陳新、兵馬、在恋、皆美に迎えられ歓喜の輪が広がった。今度は無事に彼女を探し出し保護した開拓者と探しに出ていた子どもたちもこの様子に頬を緩め見守った。
「兵馬たちも無事で良かったな」
 仲間の輪の中で烈花も笑顔だったが、それは一瞬だった。
「‥‥まだ、やることが残ってるんだ。ごめん」
 烈花が助けた小さな女の子に掛け戻ると、彼女の知り合いを探し出すため声を掛け始めるのだった。
「烈花、やっぱり凄いよね」
 寂しそうに、皆美が呟いた。
「すいません。‥‥ここから見てた感じなんですが、アヤカシはこの増水した川に近寄ろうとしないようです」
 陳新は、戻ってきた開拓者に観察していた状況を告げる。確かに、町の若衆が固める橋に近付こうともしない。人がいるのは見えているし分かっているようなそぶりではあるのだが。
「しかし、放っておくわけにはいきますまい。あれは飛ぶようですから」
 記利里が、突然町の中心地から現われた巨大なアヤカシを指差す。人の手足やトカゲの手足、魚の背びれなどが不規則に出ている、太い巨大な蛇のような「祟り蛇神」がいま、鎌首をもたげて長屋の屋根を越えた。すると、町並みに沈み姿を消す。
「中心部に残っているのは、まだ避難できていない人を襲っているからでしょう」
 記利里は開拓者の1人とともに、祟り蛇神を近くで見た。その時、一緒だった開拓者は知覚攻撃を受けたようだった。
「おい、あれ。こっちに近付いてないか?」
「あれだけでかいと、川を渡ってくるかも知れんぞ」
 橋を守る若衆が騒いでいる。確かに、祟り蛇神はじりじりと東の避難地へと近付いてきているようだ。
「‥‥行って来い」
 どうする、といった感じの雑儀団の中で、兵馬が言い切った。
「人助けができる力があるなら、力の出し惜しみをせず暴れて来りゃいいじゃねェか。‥‥こっちは、もう腹をくくったんだ。俺たちに遠慮することはねぇ」
 前は「行くな」と叫んでいた兵馬が、覚悟を決めたように言う。
「お待ちを。‥‥あれは、駆け出しの開拓者では手に負えませんぞ」
 記利里が止めた。
「しかし、この惨状を見てじっとしてるなんてできるわけねェだろ?」
 常に、全力。
 兵馬は自分の信条に従い、さらりと言ってのける。
 一方の前然は、歯軋り。
 兵馬の言うように駆け出したくあり、記利里の言葉への理解も重く受け止めている。
――どうする?
 前然の胸中を去来する思い。
 いや、雑技団の全員の思いでもある。

 開拓者の、判断は?


■参加者一覧
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
各務原 義視(ia4917
19歳・男・陰
煌夜(ia9065
24歳・女・志
龍威 光(ia9081
14歳・男・志
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
ユリゼ(ib1147
22歳・女・魔


■リプレイ本文


「仕方ないッ! 出るぞ」
 前然が決断し、雑技のメンバーを振り返った。
 烈花、闘国、紫星が面を引き締め頷く。そして、誇らしげな兵馬に、寂しそうな陳新、両手を組んで祈る在恋に、そんな親友を抱き締める皆美‥‥。
 この様子に、龍威 光(ia9081)が動いた。
「ぼくも余り強くないのでがんばりましょうねぃ」
 前然、闘国と肩を組むように抱き付き、笑顔。
 と、この時。
「そ、それはまだ早すぎでございます。私どもの予定では‥‥」
「私どもの、予定?」
 四人の出撃を止めに入った記利里がこぼした言葉尻を、前然が鋭く振り返って捉えた。
「‥‥仕方ありません、全てをご説明します。‥‥そう。あなた方四人は将来的に、私の主人の私設部隊に優秀な志体持ちの戦士として加わっていただきます。私の真の役目は、志体持ちの子どもを探して育てること」
「じじいッ、突然何勝手なことを言い出しやがンだっ」
 力強く言い放つ記利里に、兵馬が激怒した。
「ではっ、皆さんで決めましょう。これからどうするかを。‥‥私は今までの旅で、皆さんが好きになりました。主人の命に逆らうことにはなりますが、このまま皆さんと逃げてもいいと思っております」
 記利里は毅然と続けた。いつもの思い遣りに溢れた言葉の響きはない。
 対等な、大人と大人の会話。
「私の望みは、ただ純粋に皆さんの無事な成長です。他はどうでもよくなりました。‥‥今が大変楽しゅうございます。ですから、今はご自重を!」
 やがて、いつもの温かみのある口調に戻った。どうする、と雑技の子どもたち。
「出るのは止しておけ。流石に今回ばかりは危険が大きすぎる」
 すぱっと、琥龍 蒼羅(ib0214)が言った。
「私達は多分、祟り蛇神にかかりきりになる。他の人を助けたり、皆がついてきても守る余裕は、ないわ」
「ステラ姉ェ」
 続く煌夜(ia9065)の言葉の響きに、前然が息を飲んだ。
「あくまで一意見ですが。‥‥あなた方には住民達と避難場所の防衛をお願いしたいですね」
 玲璃(ia1114)が言葉を継ぐ。煌夜の思いも一緒で、真顔で軽く頷く。
「攻めるだけが戦ではないので」
 ぽん、と各務原 義視(ia4917)が前然の肩を叩いた。「任せた」という視線。
「‥‥目に見えないモノなんてのはね。無いのと変わりませんよ。だからこそ。それは確かにあるんだと信じる事が大切なんですが」
 真珠朗(ia3553)が目も合わさずに言い捨てて戦場へ向かう。
「キザ兄ィらしいですねぇ」
 にやりと見送る陳新。
 あえて、視線を合わさなかったと見る。
 でも、見える。
 真珠朗の眼差しの優しさが。
 それが、見えない絆の在り処を感じさせる。
 自らの胸に手をあてがう陳新。そして――。
「前然、開拓者が出たら橋から少し前に瓦礫で壁を作って防衛線を張って。橋の死守から避難者受け入れの陣に切り替えないと。残った僕たちは情報を。きっと僕たちの兄さん姉さんがアヤカシを退治してくれる。その後、逃げ遅れた人をすぐ助けられるように!」
「おおっ!」
 最年長の陳新が、はじめてリーダーシップを執った。
「安心してお願いしちゃいますよっ。私には出来ない事だから」
「心配してる人から頼まれて来たの。‥‥あなた達を信じているから、やれる事、やりましょ?」
 ルンルン・パムポップン(ib0234)が、ユリゼ(ib1147)が、そう声を掛けて走る。
 いや、全員走っている。
 町へ、そして悲しむ町の人へ。
 方向は違えど、目指すところはひとつ――。


 さて、町の大通り。
「皆で声を出してお互いにフォローしあうのがいいですねぃ」
 光がつぶやいたのは、出発前に前然に掛けた言葉。上手く作業していると信じる。
「さ、これでいい」
 そっと玲璃が触れてきたのは加護結界を掛けるため。光、これを待っていた。雑技団に掛けた言葉は、自分たちに掛けた言葉でもある。
 そして、目の前に迫ってくる霧狂骨。
「速戦即決でお願いますっ!」
 後方から義視が声を張っている。
「僕が受け持ちますねぃ」
 名刀「ソメイヨシノ」を平らにすると腰溜めに。
 最初の一撃が肝心と、体全体を使った平突を食らわす。そして二の太刀できっちり止め。残った吸血霧は、中心部の本体目玉の回避能力が高いが蒼羅の手裏剣「鶴」がきっちり捕らえる。こちらは生命力が低いので一発で黒い瘴気の塊に戻る。
「混戦になる前に片付けたいすねぇ」
 するっと最前列の光を追い抜いたのは、真珠朗。
 霧狂骨密集地帯に瞬脚で突っ込むと、崩震脚。鍛えに鍛えた技、装備、そして身体。これらが驚異的な破壊力を生む。死地に自ら飛び込むだけのことはある。がしゃりと崩れる怪骨ども。そして残った吸血霧どもには、忍刀「風也」で切り掛かる。浮いている敵に地の衝撃波は伝わらないからだ。
「人々の夢を、笑顔を守る事が、正義のニンジャの使命なんだからっ!」
 ルンルンが刀「水岸」を手に吸血霧の包囲陣に切り込んで来た。
 戦う。
 蛇神を、叩き潰すまで。
「霧狂骨の大量発生が祟り蛇神のせいなら、放っておけば霧狂骨を生み出し続ける可能性もあるわね?」
 霊刀「カミナギ」で奥義を温存しつつ戦う煌夜が、怪骨に止めをさしてから蒼羅に身を寄せた。
「ありうる。長引けばこちらが不利になるだろう‥‥。ともかく、先ずは霧狂骨を片付けんとな」
 手裏剣で残った吸血霧を倒しながら蒼羅が言う。
 その、祟り蛇神。
 今は裏通りに入って姿を視認することはできないが、移動する音や震える家屋で場所が特定できるのがありがたい。
 その祟り蛇神と同時に出て来た霧狂骨は、大通りをまっすぐこちらにやって来ていた。まだ、敵第一陣を掃討しきっていない。
「私が足止めします」
 なびく黒髪に、意思を秘めた青い瞳。北斗七星の杖を構えたユリゼが開いた場所から前に出た。
 そして、吹き荒れるブリザーストーム。
「自然に分断してくれるのは助かりますね」
 腰を落とすは、各務原義視。吹雪に巻き込まれなかった怪骨の足を狙って斬撃符を放つ。がらり、と崩れる骨の体。残った吸血霧にも斬撃符を見舞う。
 そしてまた真珠朗が突っ込み崩震脚。援護に入るは光の平突に、煌夜とルンルン。後ろからは蒼羅の手裏剣とユリゼのフローズ。玲璃は閃癒の見極めをしつつ、加護結界の連発で減った練力回復に豆をぽりぽりしつつ場所移動。霧狂骨の殲滅はもう、時間の問題‥‥。
「あ‥‥」
 思わず上げたのは誰の言葉か。
 いや。
 ここで開拓者全員が事態に気付き、息を飲んで空を見上げたッ!


 戦場の流れが、一気に変わった。
「真珠朗さんは知覚攻撃を受けた。‥‥安全圏はない、と思っていたけど」
 煌夜の、そんなつぶやき。「まさかね」という言葉は出なかった。
――がっしゃぁぁぁん!
 何と、祟り蛇神が裏通りから鎌首もたげて一気に平屋を飛び越え、大通りに雪崩れ込んできたのだッ!
 不幸中の幸いは、祟り蛇神の滞空時間が長かったこと。
 開拓者はこの直撃を避けたが、瓦など飛び散る残がいすべてを避けきることはできず。
「ひどいわねぇ。落とすつもりが自分で落ちてくるなんて」
 ぼやく煌夜は下がって距離をとりながら得意の雷鳴剣を放つ。
「利いてるんだか利いてないんだか」
「空に飛ばせてはいけません!」
 ついに火を噴く玲璃の精霊砲。ちょうどまた浮き上がろうとしていた機先を制した。
「残ってる霧狂骨は僕にお任せですねぃ」
 光が橋方面に引きながら、霧狂骨退治に専念する。
「あたしも気になるんでね」
 真珠朗も橋方面に引きつつ距離をとった。こちらは戦弓「夏侯妙才」に持ち替え遠距離支援に切り替えるつもりだ。
 逆に、突っ込む者もいる。
 義視だ。
 いや、祟り蛇神の頭部に回り込んでいるというべきか。
「出現したのは祟りのためですか? 神は神でも明らかに邪神ですよね、これ」
 どこが目ともつかない醜い顔を鋭くにらみながら、手にした「彷徨う刃」を目の前に構える。
「もしかして!」
 この時、ユリゼが声を上げた。
「これはおそらく、水の精霊か何かが変質したもの‥‥」
 水の旅人、と称されるユリゼ。今までの記憶が合致したっ。

 時は若干遡る。
 雑技団が出撃を迷っていたとき、ユリゼは戦闘準備や情報収集に徹していた。
「氾濫する心配はないといっても、増水して激流となった川から水は汲めないよ」
 川の水を汲もうとしたら、村人からそう止められた。
「この町は大昔、町の中心に川があったらしい。これがよく氾濫して多くの人死にが出たってんでこの位置に付け替えたと伝え聞く。二度と水害にさらされないよう、頑丈に作ったから今じゃそんな話を覚えている人も‥‥」
 よほどのことでは洪水の発生しない町。それは、過去に何度も泣かされた洪水被害から生み出されたものだった。
 ここで雑技団に動きがありユリゼは仲間のもとに戻った。

 そして、その記憶が祟り蛇神の姿で思い起こされた。
 人の手足や魚のひれ、トカゲの足がばらばらにくっつき飛び出たオオサンショウウオのような体‥‥。
「きっと、洪水で亡くなった人や川の付け替えで住む場所を追われた生き物たちの無念で変質したに違いない」
「どちらにしても過去の遺産。恨みも無念も水に流してもらったほうがいいでしょう!」
 ユリゼの言葉に揺ぎ無い言葉で返す義視。
 そして、召還された首輪付き白狐がオオサンショウウオの化け物に襲い掛かる。
「‥‥生命力の化け物か? ならばっ」
 義視、連発するつもりだ。
 半面、割を食っている者がいる。
「‥‥やはり、一筋縄でいく相手ではないな」
 飛んできた瓦礫を虚心で交わした蒼羅が、がくりと肩膝をついていた。呪声を食らっていたのだ。というか、目に見えない攻撃が集中している。最初に奇麗に交わしたことで目の敵にされたか? もっとも、玲璃が回復支援をしているが。
「祟りか何だか知らないけど、霊力勝負なら負ける気はないわよ?」
 煌夜が一転、前に出た。蒼羅を助けに行くためだ。「斜陽」で援護する目的もある。
 しかし、この動きは大通り一直線の形。
 当然、祟り蛇神は前へと突進してきたっ!
 橋まで距離はあるが、取って返して雑技団の築いた防壁に取り付く霧狂骨に当たっている光が、そして雑技の四人が危機に晒される可能性がある。
「これ以上は行かせません‥‥。ルンルン忍法マジカル水流!」
 ルンルンが水遁で祟り蛇神を水柱に巻き込む。続けて影縛りで押さえ込む。
「させやしませんぜ」
 動きが鈍っている隙に、体制を整えた真珠朗が好機とばかりに撃ち込む・撃ち込む。
「水、なら凍らせたりするのが弱点かしら‥‥」
 ユリゼはフローズやブリザーストームを使うが特筆すべき効果はない。
「これだけ叩き込んだのに‥‥」
 義視は白狐の連発で練力切れ。「備えあれば憂いなし」と戦弓「夏侯妙才」を構えつつ距離をとる。
「痛みがないのかもしれないけど、これは異常でしょう?」
 ついに本格的前進を始める祟り蛇神。まさに歩く祟りの破壊力で義視、そして嘆いた煌夜を弾き飛ばす。祟り蛇神が回避する気なしの攻撃一本なら、開拓者側もとにかく攻撃を加えることに専念していた。
 暴れるだけが本能の災害アヤカシと、とにかく護るもののため体を張る開拓者。
 そして、どちらも非物理攻撃の効きが悪い。概ね双方打たれっぱなしの泥仕合と化していた。
「蒼羅さん」
 ユリゼは、仲間にアクセラレート。一旦引いて、荒っぽい鞘入りの斬竜刀「天墜」に持ち替えた蒼羅が、ここで本格的に動き始める。紅蓮紅葉に染まる、鞘の中の斬竜刀。祟り蛇神の突進は虚心で軸をずらしつつ‥‥。
「これが・・・、今の俺の全力だ。斬竜刀・抜刀両断」
 脅威の両手剣での居合いっ! すれ違いざまに薙ぎ斬った。
 合わせて、ルンルンも刀「水岸」を構え突っ込み影の極意で一刀に懸ける。
 それでも、止まらない。
 そして、真珠朗と義視の放つ矢。霊刀「カミナギ」で煌夜も体を張る。
 消耗激しい乱戦。
 洪水を思わせる暴れっぷりの祟り蛇神の前進はしかし、いつの間にか止まっていた。
「ふぅ‥‥ですねぃ」
 橋までの最後の砦と覚悟する、光の目の前だったという。
「格好のいい戦いじゃなかったわね」
 泥にまみれたままうんざりとした表情でつぶやく煌夜だったが、背後では護られた人々の晴れやかで大きな歓声が上がっていた。


 ここからも戦場の慌しさが続いた。
 逃げ遅れた者を捜し求める声、他に危険がないか捜索に出るもの。知人の生存確認。
 その中で、開拓者はとにかく休んで欲しいと頼まれ疲れを癒していた。
「ま、どうでもいい事ですがね、あたしにゃ」
「だから、キザ‥‥違った。真珠朗兄さんは一人ででも戦ってるんですね?」
 何を話したか、陳新にそう言われふいっとそっぽ向く真珠朗。
「開拓者になって戦うだけが、力の生かし方じゃ無いと思うもの」
「こらっ、ルンルン!」
 ルンルンは闘国に話し掛けていた。義視が怒ったのは、調子に乗って烈華の軽業のように闘国の力瘤につかまってぶらぶらして遊んだから。
「よく護りましたね」
 玲璃は、言いつけておいた拠点防衛任務の褒美代わりとして烈花に節分豆を分けていたり。
「我侭になりなさい。そうすれば出来ることとやりたいことがいっぺんにできる。開拓者で雑技団っていうのも悪くはないと、私は思うわね」
「ステラ姉ェたちはあれもこれもやったけど‥‥」
 無茶を言う、と前然。
「開拓者になった場合、雑技団に残った場合、それぞれ想像してみて比較するっていう考え方もあるから‥‥。残った場合でも志体持ちだから出来ることもあるはず」
 兎に角、後悔だけはしないようにと心配そうに一言添える義視。
「ちゃんと、町の人を励ましてあげられたようですね」
 ユリゼは、皆美と在恋に優しく声を掛けた。緊張ぎみだった二人の顔はこの言葉でようやく不安と安堵のにじむ素顔に戻った。そして、目尻に涙。掛けてもらった言葉が、無事が嬉しいのだ。
「蒼兄ィ?」
「‥‥まだ、今の俺は超えられる」
 紫星に声を掛けられた蒼羅が自分に厳しい様子を見せたのは、あるいは優しさからだったのかもしれない。
「近くでも心が離れてしまうのは悲しいですねぃ? 仮に別々になっても皆を笑顔にしたいという気持ちがあれば、一緒ならどんなことがあっても大丈夫ですねぃ!」
 光は兵馬と話していた。
「ああ。飛べる奴は飛べばいい。俺は見てるし、たまに帰って着てくれりゃなおいいってもンだ」
「気持ちが一緒にならこの二本の足でいつでもあいにいけますねぃ。この空の下ただ違うのは巡る日の時間だけですねぃ」
 空を見上げる兵馬に、光もそうそうと見上げる。曇ったままで光は差さないが、いずれ晴れる日は来る。
 雑技団がどうするのかは、この町の混乱が収まってからとなりそうだ――。

「ま、町中にアヤカシの大群なんて事態の理由が分かっただけでも、良しとするわ」
 知識欲の高い煌夜の表情には晴れ晴れしたところもあったようだが。