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■オープニング本文 ●南那のこと 泰国南西部に位置する南那は、領主・椀栄董(ワン・エイトウ)氏によって平和に統治されていた。 海に面しているため漁業が主産業で、遠浅の浜が長大に広がることから製塩業が盛ん。主要交易品として内地の台所を支えている。 半面、南那の内陸地は平地が少なく、主要河川の眞河(シンコウ)が水量に劣るため穀物生産力が低く他地域からの輸入に頼っている。 決して豊かではない土地柄。 陸地は山地で囲まれ、しかもアヤカシがうろついている。 土地にうまみが薄いため他地域から省みられることはなく、守りやすく攻めにくい地形であるため、内向的で閉鎖的な発展を遂げた。もちろん、交流の停滞は先鋭的な発展から取り残されるという事態を招いたが。 そして突然襲われる、漁業の長期的不漁。 停滞する南那経済に光をもたらしたのは他地域の旅泰、そして開拓者だった。 旅泰と開拓者たちは沿岸の尖月島を観光地に開拓すると、本土の特産・コーヒーに目を付けた。 天儀本島は神楽の都に「珈琲茶屋・南那亭」を開店し需要を掘り起こすと、南那では山一つを開拓し珈琲栽培を新産業に育て上げ地元の経済を救った。 しかし、好事魔多しとはよく言ったもの。 新たな問題が発生することとなる――。 ●南那亭にて 「あら、林青さんお久し振りです〜」 南那亭めいど☆の深夜真世(iz0135)は、来店した林青商会代表のひょろりとした姿を見て首を捻った。 「‥‥何か、困った事でもあるんですか?」 「まあね」 コーヒーを頼んで林青が頬杖を突く。 「実は、南那正規軍の親衛隊、瞬膳(シュンゼン)氏から開拓者の人集めを頼まれたんだが‥‥」 どうやら、南那の自然の防衛壁となっている西部山林地帯でアヤカシが活性化しているというのだ。問題はその直接的な原因で、どうやら馬賊がうろついているかららしい。 「旗の目撃情報から、『紅風馬軍』とだけ分かっている。‥‥まあ、狼藉略奪の輩であることは間違いないんだが、神出鬼没らしくてね」 まあ、馬賊である。当然だろう。 「へええ、それは大変ですねぇ」 「そう、大変なんだよ」 気軽に言う真世に対し、林青は深刻だ。 「何せ、西部山林地帯全体を調査しなくてはならないらしくてね。‥‥しかもその中には、珈琲収穫を計画していた山も含まれるわけなんだよ」 「ええっ!」 実は南那亭、現在珈琲豆が不足気味だったりする。年末に特別価格で振舞ったことと、認知度向上により開拓者ギルドや各方面に卸す量が若干ながら増えているからだ。もともと、まだ流通させてまもなく収穫と供給量が絶対的に不足している面もある。 「とにかく、我々珈琲通商組合としてもだまって見ているわけにはいかない事態なんだが、事が事だ。うかつに手出しできなかったところ、瞬膳隊長から気を使ってもらってな。椀氏が依頼する形で開拓者の動員をかけてもらった。‥‥この私を通して」 「‥‥う?」 林青の話に真世は付いていけない。 「ともかく、これからは南那本土でも開拓者の仕事があるってことだ。これはいいことだが、アヤカシの活性化と馬賊の跋扈にはまいった。‥‥ともかく、手始めに親衛隊の西部山林地帯全体の調査に協力する。軍馬に乗ってとにかく短期間に広範囲を確認する作業だが、アヤカシか馬賊との遭遇戦闘がありうるという内容だ。‥‥私は他に武天に行ってやることがあるから、ギルドへの依頼は真世くんに任せた。頼んだよ」 「ええ〜っ!」 ともかくこうして、開拓者ギルドに泰国は南那で軍馬に乗って山林を駆け巡りアヤカシと馬賊の存在を確認する依頼が張り出された。珈琲収穫予定地か、ある村の段々畑開拓予定地のどちらかを担当することとなる。 軍馬は、開拓者の好みの馬が用意され、愛称を付けて騎乗するよう求められている(当然、最上級の馬は貸し出されない)。乗り捨てなど愛のない使われ方をされないための処置で、今後も開拓者が望めば同じ馬を使うことが出来るようだ。 ちなみに、龍や飛空船を使わないのは、アヤカシも馬賊も山林に潜伏しているから。さらに言うと、南那は周囲に対し不戦の姿勢を示しておりとにかく目立つ上、防衛より攻撃のイメージがある航空戦力は極力整備していないため。逆に、目立ちにくい軍馬の配備や軍事転用できる小型飛空船の配備は充実している。どちらにしても、南那では陸地上空での航空移動はかなり規制されている。 |
■参加者一覧
檄征 令琳(ia0043)
23歳・男・陰
萬 以蔵(ia0099)
16歳・男・泰
真珠朗(ia3553)
27歳・男・泰
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
ジルベール・ダリエ(ia9952)
27歳・男・志
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
リン・ヴィタメール(ib0231)
21歳・女・吟
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ● 山は遠く、平原は広い。 「故郷のジルベリア以来。久々やけど、やっぱ馬はエェなぁ」 目を細めて口を開け、ジルベール(ia9952)が風と同化したようなさわやかさで言う。 なびく髪にひらめくフォークロアコート。 選んだ黒鹿毛「ミネルヴァ」に乗って颯爽と冬の草原を駆け抜けていた。 ――ここは泰国の南那。正規軍の駐屯地。 南那に平野部は少ないとはいえ、水系の問題で農地転用に向かない丘陵部は多い。 そんな景色の中、南那の職業軍人たる親衛隊の長、瞬膳がうなる。 「さすが開拓者。多彩な人材がそろう。‥‥これならすぐにでも偵察に出発してもらえるな」 そして、周りを見回す。 「鏡王(チンワン)、おいらと一緒に頑張ろうな」 大柄で筋肉質の萬 以蔵(ia0099)が、昔師事してた師匠の尊称をつけた馬に乗り馬体を回すなどして感覚を掴んでいる。 「ん、キミが今回の相棒だね。レグルスっていうんだ、よろしくだよ」 鹿毛で顔に白い筋が通っている――美しい流星の馬をなでているのは、新咲 香澄(ia6036)。安須杯競馬優勝騎手でもあり、横顔に乗馬への自信と誇りが浮かぶ。 「放っておいても必要な準備をそれぞれしてくれる。これが、ただの志持ちと開拓者の差だ」 言葉を厳しくする瞬膳に、両脇にいた若い兵士がびくっと身を引き締めた。 と、フルートの音が草原に優しく流れた。愛の詩を思わせるような優しい旋律。 リン・ヴィタメール(ib0231)だった。 「うまいものだな」 彼女にそう声を掛け寄って来たのは、ロック・J・グリフィス(ib0293)。 「馬が、好きなのか?」 「勿論、大好きやけどね。こんな瞳で見つめられて好きにならん訳ないですやろ?」 続けて問うロックに、リンは馬を撫でながら答える。馬の方も、優しい眼差しでリンを見て首を擦り付ける。白に近い芦毛。賢そうな面差しをしている。 「名前はシルフがええなぁ」 「ん?」 満足そうなリンを見て微笑んでいたロックだが、ちょっと待て。 なんと、黒い馬がロックの目の前を通り過ぎたではないか。 「ほぅ、この白馬は良い毛並みをしていますね」 その先には、檄征 令琳(ia0043)がいた。大柄で立派な白馬にご執心のようだが‥‥。 「うわ、何ですか?」 先の黒い馬が、令琳と白馬の間に強引に割り込んだ。この隙に白馬はツンとその場を離れたり。 「いや、あの、そっちの白馬がぁぁ‥‥」 哀れ、令琳。ぶるるんと体を震わす黒い馬に阻まれ気に入った白馬とは泣き別れ。 一方の白馬は、ロックの元へ。 「気に入った、俺はこの白馬を借りるとしよう‥‥。お前は今日から『白蘭花』だ。伝説の馬賊の名にあやからせて貰った、これから宜しく頼むぞ」 そっと撫でてやる。馬も嬉しそうだ。 「やれやれ。‥‥まあ、馬に選ばれるというのもいいでしょう。黒衝(こくしょう)、これでいいのですかね?」 ロック様子に、諦め気味の令琳。幼少から馬を見てきたという彼は、ちゃんとこの馬の賢さは見抜いている。黒衝も、ひひん、と満足そうだ。 「きゃん。いった〜い」 ここで、深夜真世(iz0135)がやってきた。馬に乗っていたのだが無様に落馬する。 「馬に、乗れないのですか?」 「べ、別に乗れないわけじゃないもん。さっきまでちゃんと‥‥」 「いや、それなら別にいいんですけどね。他の人にちゃんと教えてもらうんですよ」 「う‥‥」 ちょっとツンぎみな令琳に、尻餅をついたまま口を尖らせる真世。 この様子を、瞬膳と若手兵士2人が見ていた。 先ほどまで緊張していた若手2人は、真世を見てくすくす笑ったり。やれやれと困った様子を見せる瞬膳。 と、ここでびしりと登場する姿が。 「珈琲の平和を守るため、いや、南那の平和を守るため、やってきました美人帝国騎士アーシャ・エルダー参上!」 洋装で涼やかにきめたアーシャ・エルダー(ib0054)が、借り受けた馬、ベガを操りきりりと空気を引き締めた。堂々とした立ち姿に、若手2人はまた押し黙る。 「んで、真世お嬢さん。お土産は何がイイすか?」 その背後では、真珠朗(ia3553)が乗っていたぢごくうさぎから降りて真世に手を貸していた。 「‥‥やっぱり留守番なんですね、私」 「ほら、馬肉なんてどうすか。結構うまいんすけ‥‥」 「真珠朗さんひどいひどい‥‥」 「冗談すよ、冗談」 「‥‥ともかく、馬賊でもアヤカシでも、南那に手を出すんじゃないと示しをつけますっ!」 背後のどたばたを隠しつつ、開拓者の威厳を保つアーシャであった。‥‥もちろん内心は苦笑交じりだったりするが。 ● 「さあ、おいらたちは段々畑へ一直線だよなっ」 「さて、馬賊かアヤカシか、それとも両方か‥‥。いずれにしてもしっかり準備しないとねっ!」 先頭で鏡王を飛ばしていた以蔵に、わくわくとレグルスの動きに合わせ風を感じている香澄。 「調査が最優先ですが、戦いたい衝動を抑えきれない所もありますねぇ」 「あ、ちょい待って。‥‥寄り道、して行かへん?」 楽しそうな令琳の横から、ジルベールが先頭に出て隊列を止めた。悪戯そうな笑顔である。 「段々畑予定地周辺に集落があるなら、最近森周辺で変わったことがなかったか尋ねておくのもええんちゃうかな。なぁミネルヴァ、お前もそう思うやろ?」 自分の馬にも聞くジルベール。 つまるところ、遠回りだ。 「まあ、いいんじゃない?」 香澄が同意したのは、レグルスに長く乗っていられるから。 「ほんじゃ、まあ」 馬首を巡らせるジルベール。実際、近くに集落はあった。段々畑ならではである。 そしてこれが図に当たった。 今朝、鬼らしきアヤカシの姿を段々畑予定地付近で見たとの情報が出てきたのだ。 ● そして、珈琲収穫予定地組。 なだらかな斜面に通じている広い道を進んでいた。 「特に変わった様子はないようすね」 一列縦隊の殿を行く真珠朗が言う。 馬に乗って、ちょうど目の高さの位置での変化に注意を払っていた。 木々の枝折れ。 幹の擦り傷。 あればいずれも、馬賊かアヤカシの活動痕跡と見る。 が、特に異常はない。 「賊は得てして慎重なものだ‥‥。それを考えると、こちらは馬賊の斥候と遭遇する可能性が高いと踏んだが」 先頭のロックが言う。こちらは最近訪れた馬の跡や、何かしらの賊の符丁が残ってないかなど、下を気にしている。 「馬賊が、収穫する珈琲を狙うにせよ、それで潤ったこの地の財を狙っているとしても、まず珈琲の収穫予定地に斥候を放っているのではないかと思う」 「どちらにせよ、しっかり守っていることを教えてあげましょう」 続けるロックの読みに同調するアーシャ。 「まあ、大事な収穫予定地やから、戦う際馬で荒らさへんよう気をつけんとな」 二列目のリンの言葉に、三人は無言で頷くのだった。 ● さて、段々畑として土地を拓いた場所に来た一行。 「目視ではアヤカシはいないようだけどな‥‥」 皆はおいらが守る、の気概で前に立つ以蔵が周囲に目を走らせる。 木々の合間に蠢く影、仲間以外の足音、雰囲気にそぐわない匂い‥‥。 近接で戦う泰拳士の観察。紫色の瞳が右から左へと動いていく。 「ほんじゃ、アヤカシの方を探っとこ」 ジルベールは、予備と思われた二本目の弓を取り出していた。 呪弓「流逆」。 索敵用に使っている、知覚力と射程に優れる弓である。鏡弦の準備をするジルベール。 「さて、何がおでましになりますかね‥‥。馬賊はいないとは限らないからね」 その横で、香澄が子狐を抱いていた。人魂である。いま、そっと手を伸ばし放した。こーんと鳴いて着地すると、するするっと森へと向かう。 「さぁ、あなたも探して来てください」 令琳の方は、蝙蝠型の人魂を放った。地面と空中からの偵察。見事な連携である。 「おった。かなり距離があるなぁ」 ジルベールは西方面を指差した。が、木々に阻まれ先は見通せない。とはいえ、下生えは密とはいえず。起伏もあるので視線が通らないだけか。 「馬から下りるならひとまとめに‥‥」 「騎乗で行けるやろ」 ジルベール、行った。 「レグルス、信用してるよっ!おびえなくて大丈夫だからね」 香澄も続く。令琳も前へ、前へ。 「壁役がおいらの務め」 遅れてならじと以蔵も突入した。 果たして枝など上手く避けられるか。 ● 鬼のアヤカシは、7体いた。 さすがに茂みを走っているので音で気付かれ、敵が寄って来る 「行くでミネルヴァ。俺とお前の初陣や」 主戦の戦弓「夏侯妙才」に持ち替えたジルベールが叫ぶ。森の中で走る速度は落ちるが、この言葉こそ分け入った理由。視線が高くなり狙いやすくなるという利点もあるが、共に戦う感覚と経験はかけがえない。 安息流騎射術の揺らぐことのない一撃は、威力十分。敵1体が隊列から遅れた。 「フフフ。さぁ、楽しませていただきましょう」 薄く笑う令琳は眼突鴉を召還し行って来い。 「引いて戦わないことになったからには‥‥」 鏡王の以蔵は二人を追い抜き前に出るッ! 顔の位置まで上げた手の平には気が渦巻いている。 「前に出て盾となるまでっ」 放つ、気功波。 続けて間を詰めると鏡王からひらりと下りる。得物は鉄甲。鬼に囲まれての戦闘に臨む。くねる体にうなる蛇拳。皆の盾にとの思いで奮戦する。 「無茶だよ」 香澄はレグルスを突っ込ませて敵をかく乱した。一直線に離脱するころには以蔵も瞬脚で攻囲から離脱。 「いまや」 射撃の好機とばかりにジルベールが三本射撃で各個撃破を狙う。破壊力は抜群で、アヤカシ消滅の瘴気が舞う。 「逃がしませんよ」 あっという間に数が減り陣形を崩された鬼が散り散りになろうとしたところ、黒衝を回した令琳が襲い掛かる。振り上げた手には、少剣「狼」。 「こちらの方が手早いですね」 近接戦闘を恐れず、馬上から霊青打の一撃。鬼から反撃も食うが怯まない。いま、止めを差した。にまっと、笑み。 再び瞬脚で散る鬼を背後から倒した以蔵に、三本射撃で最後の敵を屠るジルベール。香澄は治癒符で仲間を支援し、圧倒した。 ● その頃、珈琲収穫他組は。 「我こそはアーシャ・エルダー。誇り高きジルベリア帝国の騎士なり。さあ、貴方達も名乗りなさい!」 不審者を発見したアーシャが挑発していた。 彼女に対峙するは、馬に乗った男たち5人。 日に焼けた浅黒い肌。 色の付いた紐を長髪に編みこむファッション。 軽武装も風になびくような飾りの付いた洒落た服装に、弓と剣。 鞍上の様子は落ち着き、経験を感じさせる。 決定的なのは、開拓者と同じく馬の鉄面子などの武装。 明らかに戦闘を想定している。 「ほらよっ。こういうモンだ」 男たちは赤い布をアーシャに放った。「紅」の字が刺繍されている。 「先手必勝、行くぞ白蘭花!」 ロックが槍「白薔薇」を構え突っ込んだッ! 狙いは、翻弄することにより戦いの主導権を握ること。 「私に剣を向けるとは100年早いですっ。というか、100年経っても私を越すことなんてできませんね!」 身を屈めてリベレイターソードを雄々しく溜めるアーシャも続くッ! 駆るベガ の反応も良いっ。 ――瞬間の、攻防だった。 いや、実際に剣は交わしていない。 戦場の位置関係は、開拓者側が収穫用馬車道路側。馬賊がまばらに生えるコーヒーノキの林中。 「それじゃ、セコくヤらせてもらいますよ。相応にね」 真顔の真珠朗は、戦弓「夏侯妙才」を用意していた。 遭遇した距離は遠く弓術戦の距離だったが、いきなり射撃はしていない。捕縛の可能性を探っていたからだ。また、収穫するコーヒーノキを背に取られている。アーシャ、リン、ロックからも荒らさないよう言われている。 しかし、状況が変わった。 なんと、馬賊がまっすぐに突っ込んできたのだ。 しかも、初速が違う。 「む!」 「あっ!」 進入角度のあったロックが抜かれ、旗を前に放られていた正面のアーシャも左右に交わされた。 まるで魔法のようだった。もちろん、魔法は使われていない。 ――騎馬戦は、間合いが違うッ! 「あたしの腕で騎乗射撃が、どの程度、出来るか‥‥」 真珠朗はついに、射撃。言葉とは裏腹に腕には自信がある。 しかし、真珠朗も抜かれた。 距離が近かったのか。 いや、違う。 一発は撃てた。体を赤くして集中し、骨法起承拳できっちりと狙った一矢は見事馬に命中した。 そのはずなのに、敵はまったく速度を落とさず彼を抜き去った。次の矢を撃つ暇もない速度だった。 「そんな‥‥。うちの夜の子守唄も利かへんなんて」 シルフに乗り、フロストフルートで夜の子守唄を奏でていたリンが呆然としていた。もちろん、抜かれている。 「まだだっ。‥‥雷神の如く地を駆け、その角で刺し貫け。ユニコーンヘッド、人馬一体!」 最初に抜かれて馬首を巡らせたロックがユニコーンヘッドの極意で追うが、届かない。最初にこれをしなかったのは、距離があったから。今回も走る馬を追う形では射程が届かなかった。 この後、四人は馬賊を追うが、前に逃げた彼らに追いつくことはできず、森の中に入られ完全に見失うこととなった。 ● 「これが、騎馬戦闘です」 帰営すると、瞬膳が四人にそう話した。 長い間合いがあり、その間で速度の変化をつけられる。 「俺たちの戦い方と違うな」 「そうやなぁ」 「確かにそうですね‥‥」 ロックが振り返ると、ジルベール、アーシャが考える風な素振りで応じた。 「この面子、かなり硬いすね?」 「そこを狙ったんですか? 外へ流れる形状なので、馬の額を狙っても少々では‥‥」 真珠朗の問いにはそう答える。加えて、馬賊も南那の馬も似たような装備。前方への射撃は全て、外に流れる。 「だから、馬は弓で狙うと逃げるか突進してきます。その方が生存率が高くなりますしね」 「うちの眠らせる旋律も利かへんかったなぁ」 リンも加わる。 「騎乗戦闘中、睡眠などは通常より利きにくいですよ。‥‥それに、競馬でも馬は少々骨折しても最後まで走りきるでしょう? よそではともかく、南那では馬を狙うより人を狙った方が得という諺があるくらいです」 「分かる分かる。馬は賢いから」 ボクもそっちがよかったなぁ、と残念がりながらも香澄が理解する。 「騎乗射撃も、ちょいとだけ難しいようすしねぇ」 ため息の真珠朗。 「おいらたちはアヤカシを全滅。偵察もしたわけだし、結果は出したよな、っと」 以蔵は語尾を柔らかくしながらも、しっかりアピール。 「ああ。望んだ結果を出してくれた。‥‥我々の一斑も馬賊と接触戦闘した。巡回警備の計画も立てやすい。状況によっては、また協力をお願いします」 にこやかにいう瞬膳。ともかく、巡回警備の目処は立ったようだ。 ●おまけ 「どうです、少しは上達しましたか? 」 「な、なによう。‥‥これが速足でしょ、そんで駈足。速駈けは‥‥きゃあ!」 あわわとのけぞりぐしゃっと落馬する真世に、あ〜あ見てられないと目を押さえる令琳だったり。 |