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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません ●これまでのお話 シエラ・ラパアナは超時空船――オォラシップ「グラン・ラガン」の若き女性艦長である。 どこから来たのかどこへ行くのかは誰も知らないが、西暦で数えられる世界の歴史が捻じ曲がりそうなのを感知。これのねじれ解消に奔走している。 もっとも、西暦1945年4月にあった戦艦大和の海上特攻への手向け、同年8月の呉軍港空襲から空母を守るなどその行動はささやかなものでしかなかった。さらに言うなら、もともと戦艦や空母が好きなだけではないかと疑われるが、呉軍港空襲の後、人外が呉市街で暴れているのを感知。 「この世界の者ではない何者かが、歴史を捻じ曲げようとしている」 大幅な歴史の変更に一連の戦いの転換点を見た。 「ともかく、超時空渡航者は大幅な世界干渉をするのはご法度。このままでは私に大幅干渉の嫌疑がかけられる。異変現象を鎮圧しつつ、一連の騒動の黒幕を探す」 シエラの決意である。 黒幕探しはシエラが直接指揮を執るため、異変の鎮圧は別の者に頼る必要がでてくる。 「敵は、帝国陸海軍の命名するところの『妖禍使(あやかし)』(以下、あやかし)。退治は天儀暦で数えられる世界にいる同様の存在『アヤカシ』の退治に精通している開拓者に頼むのが適任であろう」 シエラは、呉市街地の新たな展開に、またも開拓者を雇う決意をした。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
各務原 義視(ia4917)
19歳・男・陰
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
ウィンストン・エリニー(ib0024)
45歳・男・騎
ルー(ib4431)
19歳・女・志
長谷部 円秀 (ib4529)
24歳・男・泰
袁 艶翠(ib5646)
20歳・女・砲
アナス・ディアズイ(ib5668)
16歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ● 「土地が‥‥死んでるじゃないですか」 呉市街の上空で、長谷部 円秀(ib4529)が目を見開いていた。駿龍・韋駄天を駆る彼の眼下には、焼け野原が広がっていたのだ。 「この世界は戦争直後なのですね‥‥」 すうっと高度を下げ、韋駄天の円秀の横に付けた柊沢 霞澄(ia0067)の銀色の瞳が煙る。 「やるせなく思いますが、せめて今は‥‥」 「そうですね」 霞澄がつぶやいて炎龍・紅焔の手綱を捻る。円秀も習った。二騎が並んで降下する。 その方向には、龍ぐらいの大きさをした蟻の妖禍使(あやかし)がいた。わきわきと足を動かし三体が徘徊している。 ――ゴウゥ! 紅焔が火炎で攻撃すると、韋駄天が龍蹴りで追撃。蟻の方は巨体の前半分を浮かせて噛み付いてくる。激しい戦いが繰り広げられている。 街に生存者は、もういない。 鬼の妖禍使を吐き出していた生体拠点を潰した後、その下にあった穴から巨大蟻などが出てきた。 戦勝国GHQ(連合国総司令部)は、鬼と巨大蟻退治に空爆を実施。 呉市街は、完全に廃墟となっていた。 その廃墟を、ジープやトラックが行く。 「うむ、頑張っておるな。‥‥出来るだけ実弾は節約せねばならんから、この先行作業は大変助かる」 霞澄と円秀の奮戦を双眼鏡で確認し、ジープのナビシートに納まるシエラ艦長は面を引き締め頷いた。 「よし。最後の一体を龍部隊が倒したら一気に竪穴まで詰めるぞ。‥‥その後、決死隊が突入するっ!」 シエラの説明が終わるより早く、紅焔の炎が最後の巨大蟻を屠った。この作戦に先立ち、米国空軍はもう一度空爆をして、際限なく出てくる巨大蟻をほぼ一掃していた。 ただし、爆撃で倒せるのは陸上に出ているものだけ。 その直後に出てきた巨大蟻を、霞澄と円秀が倒したのだ。次に出てくるまでに、本営を前進させておきたい。シエラを乗せたジープと、残りの開拓者を乗せたトラックが廃墟の呉市街を走り抜ける。 やがて、竪穴付近に到着。紅焔と韋駄天も着陸した。 「揃ったな。‥‥では、決死隊突入! 生き残れとは言わん。死んで来いッ!」 シエラ艦長の声が、凛々しく響き渡った。 ● 「ふうむ。見覚えのなく馴染みのない地上であったが、むしろ地下はどの世界でも変わらぬものであるな」 最初にロープを伝って降りたウィンストン・エリニー(ib0024)が、貸し出しされたヘッドライトに照らされた光景に安堵した。 広い空間。 もしも敵がいれば即座にアーマー・バルバロッサを惜しみなく展開しようとしていた。最年長者として、騎士として、まずは安全地帯の確保をと思って意気込んでいたがほっと胸をなでおろす。オールバックの赤髪をかき上げ、「まずは一安心であるな」と背後に声を掛けた。 「アーマーケースの貸し出しがあったので良かったですね。局所的な展開ができます」 続いて降りてきていた若き女性騎士、アナス・ディアズイ(ib5668)が力強く頷いた。金髪がゆれ、紫の瞳が意思の強さを表す。背負うアーマーケースには、初陣となるゴールヌイが収められている。いつ展開するか。これを勝負どころとして心得る。 「ほら、安全だったろう?」 続いて降りてきたのは、各務原 義視(ia4917)。上を見ているのは、次に人妖の葛 小梅がつつつーっと降りてきていたから。 「師、曰く‥‥」 「ほら、小梅。次の人が降りてきてますよ」 「し、仕方ないですねー」 書籍から得た薀蓄を口にしようとした小梅だったが、義視が肩を寄せてきたのでおとなしくそこに座る。小梅としては肩に乗ったまま降りたかったのだが、義視の言う通り安全に降りてもとの位置に納まった。文句はない。 「‥‥本当は、こんな穴もあるはずがなかったんだよね」 義視の向こう、背を向けた形でうなだれているのは天河 ふしぎ(ia1037)だった。 「どうしたのじゃ。元気がなくて妾は面白くないのじゃ」 ふしぎの肩に乗る人妖・天河 ひみつがぐぐっと前屈みになり主の表情を覗き込む。 「もしかしたら、僕達の干渉がさらに歴史の歪みを大きくしてしまうことは、無いのかな?」 街に出るまでは、こんなことはなかった。 「シエラ艦長、今度はひみつと一緒に手伝いに来たよ。‥‥だけど、町が酷いことに。僕、許せないよ」 シエラ艦長にそう話していたふしぎはいつものように明るく、元気で、庶民の食らったいわれなきひどい仕打ちに怒りを覚える正義の空賊そのものだった。 「師、曰くっ!」 ふしぎの逡巡を断ち切ったのは、小梅の声だった。 「‥‥ほころびは一度走ると広がるもの。止め得るものは、新たな糸のみ」 その言葉を引き継いだのは、義視だった。腕を組んで思慮深そうにふしぎを振り返っている。 つまり、自分たちはほころびではなく、ほころびをつなぎ戻す存在であればいい、と。 二人の後ろでは、忍犬を背負ったりミヅチを背負ったりして次々と仲間が降り、全員地下に立ったところだ。 「分かった」 義視の言葉に納得したふしぎは力強く頷くといつもの元気を取り戻し、一同を振り返った。ウィンストンが広間に一つしかない通路を親指で差している。 「よし。行こうみんな、オォラの導きのままに、妖禍使達を地の底深くに封じ込めるんだっ!」 「続け、この旗の元になのじゃ」 顔を上げ走り出すふしぎ。ひみつも大紋旗をバサッとなびかせ意気を上げる。 「死地を思う存分味わうとしましょう」 「大丈夫‥‥。紅焔があそこにいてくれると思えばきっと帰ってこれるから」 覚悟を決め円秀が走り出す。そして、竪穴の上を見た霞澄も。 もう、世界へ与える影響への迷いはない。 地下探索殲滅行、開始である。 ● 「こういう場所は全裸の徒手空拳単独突破で攻略出来る様になりたいものだね〜」 縦隊の右翼を固めるは、「疾駆の間影」こと叢雲・暁(ia5363)。 「‥‥シノビというか、NINJAとしては!」 独特の発音で言うと、速度を上げる。通路に入るとお供の忍犬・ハスキー君とともに若干位置を下げる。 「あ、前方から敵‥‥」 瘴索結界を張って移動していた霞澄が前を走る仲間に知らせた。 巨大蟻である。かなりの速度で接近中。すでに補足され攻撃行動に移っているようだ。 「全力で行かせていただきましょう」 走りつつ叫ぶ円秀の顔が沈んだかと思うと、泰術棍「林冲」が下から弧を描き伸びていく。 ――ガシッ! 横合いから巨大蟻の顎先を捉えた。突進が止まる。 「前方以外への攻撃はないですから、回り込んで下さい」 陸上で戦った時に得た弱点を叫ぶ円秀。 「任せてっ」 ふしぎは奔刃術で駆け抜けざま敵を斬る。 「突破なら僕も負けないよっ。おいで、ハスキー君」 暁も奔刃術。風魔手裏剣を投げ、ハスキー君も忍犬苦無で狙いを集める。もちろん一撃で抜き去るだけ。 「意外と堅いってわけね〜」 敵先方に止めを差したのは、砲術士の袁 艶翠(ib5646)だった。後衛の位置で、つば広の帽子をくいっと上げる。マスケット「バイエン」が火を噴いたのだが、射線のない位置取りである。 「味方がおばさんの前にいるからね。そのままだと当たっちゃうでしょ」 どうやらクイックカーブを使い弾道を曲げたようだ。 「マァ、無理ハキンモツ」 艶翠に付き添う土偶ゴーレム、七星揺光が淡々とした声を出した。 「いいのよ。ベストを尽くせ! ってことなんだから」 単動作で次弾装填しながらまくし立てる。敵は多いと聞いた。腕が、うずく。 「次も来てます。温存、したかったけど‥‥」 霞澄が、ふしぎと暁の対峙する巨大蟻に精霊砲を放った。 これで何とか、二体との遭遇戦を制した。 しかし、さすがに巨大な敵。鎧袖一触というわけにはいかない。開拓者たちの表情は硬い。 そんな中、小さな陰陽師、鈴木 透子(ia5664)の瞳に会心の色が浮かぶ。 「‥‥この世界でお借りしたこの装備が役に立つというものです」 「それは?」 赤いポニーテールをなびかせ振り向いた砲術士、ルー(ib4431)が問い質した。 「高度1万メートルからの攻撃を想定して作られた優れモノです」 透子が着ているのはもんぺに防空頭巾。 「現地にも、溶け込んでますっ」 「いや、現地の人は全滅だったはず‥‥」 控えめに突っ込むルー。 「住所は不定、血液型は不明です」 ‥‥透子さん。認識票も不要ですよ? ● その後。 「‥‥今度は広いな」 「敵は三方から多数来てます‥‥。その先に、通路があるようですね‥‥」 ウィンストンが振り返ると、霞澄が状況を説明。一同を順に見て顔色を伺った。 「協力して一点突破でしょ」 迷うことなく中央へとぶっ放す艶翠。何と、一撃で一体を屠った。どうやら景気付けに気力を込めて撃ったらしい。ハイパー射撃だ。 「これが『ばいぱー』。本当にイチコロなのね」 ひゅっ、と口笛を鳴らして威力に目を見張る。 「‥‥でも、多くは撃てないみたい」 敵からダメージを受けた時と同じ感覚だ。 「ともかく、行こう!」 ふしぎ、暁とハスキー君の先行部隊が動く。中央突破に意思決定した瞬間だった。 「くっ。‥‥羽根付きの蟻は、蟻酸(ぎさん)を飛ばしてきてるわっ!」 ルーの指摘。確かに、右から来ているのは別種の巨大羽根蟻で遠距離攻撃を仕掛けている。 「大丈夫ですか?」 巨大な盾を利き手に持ち、防衛に専念する覚悟のアナスがルーを庇った。 「左からは‥‥巨大な蜘蛛‥‥」 霞澄が手裏剣を放つ先には、またも別種。巨大蜘蛛の妖禍使が天井に跳躍し、尻を向けて糸を飛ばしてくる。 「そんな手が通用すると思ってはいけませんよ?」 義視はすかさず火輪で飛んできた蜘蛛の糸を迎撃。よく効くようでうまいこと相殺できた。 「きゃっ‥‥」 ただ、霞澄は食らったようで。糸には酸が混じりダメージもある。 「とにかく、前に」 まずいと判断した義視は結界呪符「白」を展開。上手いことに、巨大蜘蛛はこれを新たな敵と判断したようで突如現れた塗り壁に攻撃を集中させる。 この隙に、前衛主力組の開けた中央洞窟へと駆け込むのだった。 ● 通路状の洞窟は、まだいい。 開拓者たちは崩れることなく遭遇する敵を倒しながら前へ前へと逃げていた。 そして、通路の終わり。 「ふしぎ兄、今度は左からなのじゃ」 「わかったから‥‥。耳元で騒いじゃ駄目って、この間も言ったんだぞっ」 暗視を使うひみつのナビに、ハイパー奔刃術で左を狙うふしぎ。一撃の下切り崩した。 「ハスキー君、僕たちは右」 豊かな胸を揺らしつつ、忍刀「風也」で切り掛かる暁。先にハスキー君の放った苦無で隙の出来た巨大蟻にハイパー技をぶち込む。 「中‥‥」 空いた中央。敵が雪崩れ込んでくるのを霞澄が精霊砲で狙う。 これで、通路を突破し次の広間に出た。 「中っ」 次の波に二列目の円秀が気力を込めて突っ込む。 「左ぃ」 羽根蟻の蟻酸を警戒し七星揺光を立たせ盾にして、その肩に銃を乗せ固定した艶翠がハイパーでぶっ放す。 「右っ」 天井の巨大蜘蛛から狙われたルーは、示現流の極意「隼襲」で先を取るや身を投げ出し敵射線から外れ宝珠銃「皇帝」で気力射撃。威力に満足行かない武器でも、ここが勝負どころと手堅い運用を見せる。 だが、制圧には至らない。 またも前方から敵が来る。先は一本道だ。 しかし、今まで全滅させずに突破してきている。後ろからも敵が来ている。 挟撃である。 「決死行‥‥。擬似的とはいえ死ぬ機会とは中々ありません。存分に力をふるいましょう」 円秀、次の敵を求め左右を確認する。前か、後ろか。 「覚悟を決めました」 ここで、透子が凛とした声を張った。 今までのぼ〜っとした雰囲気はどこへやら、小柄な体、十三歳の若い瞳に迷いはなかった。 「後ろを足止めします。私に時間を下さい」 「分かりました」 「鈴木さん、私もあなたのために」 守る力にならんと円秀が呼応し、今まで殿を共に務めていたアナスがついにアーマーを展開した。 「ここで奮戦せずにいつ奮戦しようか?」 気合いの奇声を上げて円秀が今しがた抜けてきた通路から出てくる敵に突っ込む。紅蓮紅葉を使うのは、出来るだけ目立って敵を引き寄せるため。敵の足を狙うなど、とにかく時間稼ぎに主眼を置く。 一方、右にも通路があり、こちらからも敵が出てくる。 こちらはゴールヌイに乗り込み起動したアナスが迫撃突でまず距離を詰め攻撃。ギガントシールドを前面に出し鉄壁の防御を見せてからアーマーソードを繰り出す。とにかく壁にならんと踏みとどまる。 「先に戻ってなさい。すぐ追います」 透子は、連れの忍犬・遮那王に時間稼ぎを託す。小さな、茶色毛の豆柴。そのくせ勝気。今も主人の指示に元気良く飛び出す。 が、直接敵に襲い掛かることはしない。指示はあくまで時間稼ぎ。敵の周りを逃げ回っることで戦っている。 そして、透子。 今までしてきたように、地縛霊を仕掛けまくる。何度も、何度も‥‥。 「ここまでというなら貴様ら一匹たりとも先には行かせん」 温厚な円秀の声は、覚悟を決めた響き。 そして、バルバロッサ。 壁となっている分、攻撃されるままの叩き合いとなっている。ずいぶん倒したが、ずいぶん食らった。いつもの世界とは違い、アーマーのダメージは搭乗者にそのまま来る。 「こちらディアズイ。先に戻ります。もとの世界で先に貴方がたがいたら承知しませんよ!」 アナスの声は外に漏れることはないが、オォラ力で仲間に伝わった。 ここで、バルバロッサの姿が、消えた。 そして、奮戦むなしく円秀も、蟻酸の雨を食らい消えた。 「来ましたか」 アナスと円秀の稼いだ時間は、透子には十分だった。陣の中央に正座した彼女に迫る巨大昆虫。瞬間、地縛霊が多数同時発動。まるで花火のように円を描いて飛んでは敵に命中し、次々落としていくのだった。 「ですが、ここまでです」 竹槍を手にする透子。先程、地縛霊は撃ちつくした。鋼の戦闘機も落とすとの触れ込みの武器を手に、最後の突貫を掛ける。遮那王も主の背中を追う――。 ● さて、先に行った開拓者たち。 「ここなら難儀はせぬであろう。俺の番である」 またも広間に出て広域戦闘が繰り広げられていたところ、ウィンストンが前衛ギリギリの位置まで出てアーマーケースを下ろした。義視が慌てて結界呪符「白」で壁を作り時間稼ぎをする。 「義視、感謝であるな。‥‥帰り道の確保は任せてもらう。若人は先に行くが良いぞ」 赤い髭面に、満面の笑み。ここぞ一代で身を立てた騎士の意地の見せ所と筋肉質の腕をぐっと固めてバルバロッサに搭乗する。 「まずは巨大蜘蛛から」 きっちり敵の攻撃をガードしてから、大きく振りかぶってアーマースマッシュ。渾身の一撃で前衛の暁らが痛めておいた蜘蛛を叩き潰す。 しかし、蟻酸や蜘蛛の糸など遠距離攻撃は食らうだけ食らっている。ギガントシールドで防ぎきれるものではない。 「ローレライは隠れてて。‥‥戦いには向いてないもんね、お前は」 この様子を見て、ルーが観念したように優しい瞳をした。ここまで連れて来た相棒、ミヅチのローレライを撫でてやる。 ただ、ルーも分かっている。 臆病で甘えん坊のローレライが自分から離れたがらないこと。そして隠れる場所などないこと。 「でも」 きっ、と意を決すると、咆哮。 これで、目の敵にされるのは自分。 「行って。‥‥生体拠点は、何とかしてよ?」 「わかった‥‥でも、必ず生きて中枢の間で」 振り返るルーに、ふしぎらが頷いて先に行った。 「さあ、いくよ。つきあわせてごめん、ローレライ‥‥っ!」 今度は自分たちが行く番。できるだけ、ウィンストンのバルバロッサから離れるように。剣気で怯ませた敵に狙いを定め、蟻酸や蜘蛛の糸を食らいながらも気力を乗せて――。 「見捨てはせんて、ルー。連携集中攻撃でここを守るぞ」 ウィンストンは機体を回してルーの後背を護衛。スキル多用でかなり早く練力切れを起こすがここからが圧巻っ! 「何、動かぬアーマーをどう使うかも騎士の知恵よ」 何と、アーマーを乗り捨てそれを砦のように拠って戦い始めた。大剣「ヴォストーク」を振るう・振るう。 この隙に、先に行った開拓者は後ろを気にせずずいぶん楽に前進したようだ。 ● あるいは、方角が正確に分かれば気付いたかもしれない。 「‥‥ここは」 義視が声を上げたのは、地底湖のある大広間に出たから。もちろん、巨大蟻と巨大蜘蛛はうようよ。 いや、そればかりではない。 「生体拠点に‥‥」 「すごい。戦艦だっ」 ターゲット発見に帽子のつばを整える艶翠と、湖面に浮いた戦艦に目を輝かせるふしぎ。 実はこの場所。呉軍港付近の岬の地下で、大日本帝国が戦局転換を図るため密かに最終兵器を建造していた秘密の地下ドックだった。 「あれ‥‥。もしかして‥‥」 霞澄が指差したのは、戦艦だった。 何と、巨大羽根蟻を吐き出す生体拠点と融合していた。 「あっ。逃げる」 暁が指差すとおり、戦艦は巨大羽根蟻を吐き出すと潜水していった。 「ここは一発イくかっ。ハスキー君! ドッグボイス! ドッグゥゥ! ラムゥゥゥゥ!」 ハスキー君に寄り添い屈んで手を添えた暁が、寄って来た妖禍使の群れに向かって、気力を込めた咆哮烈を指示した。大きく喉を震わせ発した不快な音波は、前面広範囲の敵を滅した。気力を込めたハイパー咆哮烈だ。 「道は僕が作るよ」 続けて、気力を乗せた颯で投擲攻撃。ハスキー君もダッシュアタックからのクロウで残った陸地の生体拠点までの道をこじ開ける。 「おばさんはねぇ、『一点突破』って呼ばれてんのよ!」 それが突貫を見捨てるわけないじゃない、と撃ちまくる艶翠。援護射撃は全て巨大蜘蛛に。味方を糸で狙わせるわけにはいかない。 「小梅、いきますよ?」 義視は、五芒星の形を線で描くように手を動かし相棒と暁に続く。呼び出した白狐は気力を込めずとも敵を一撃で粉砕している。 「開いた‥‥。いきます、術式発動‥‥。精霊力集積‥‥」 隣の霞澄は、陸の生体拠点までの射線が通ったことで前を向く。もう、気力を残しておく必要はないと、閉じていた瞳を開く。 「エレメンタル・キャノン、フルバースト‥‥!」 ハイパー精霊砲がいま、火を噴いたッ! ――ドゴオッ! 震える生体拠点。 「まだまだっ。命中低いとか、関係ないんだからなっ!」 近距離でついに抱え大筒を構えるふしぎ。 「行くよひみつ、天空砲フォーメーションだっ。‥‥オォラ充填率120%」 ひみつと一緒に抱え、もう残ってない気力を込めるッ。 「くらえっハイパーオォラバスター!」 ――ズズゥン! 強烈な轟音が響いたが、抱え大筒の爆煙が視界を塞ぐ。いや、白煙の向こうで大きな影が姿を消したようだが‥‥。 「とにかく、待ってても仕方ないですねー。突撃し成敗! ですー」 「小梅っ」 小梅が獣剣を手に比較的安全な主人の方から飛び降りたのは、練力がほぼ底をついた義視が背負っていたマスケット「クルマルス」を構えるため片膝をついたから。 「実戦で使うのは初めてですが‥‥」 迷う暇はない。突撃する相棒のためぶっ放す。おそらく小梅の向かった方角の敵に当たったようで、気力を込めた分きっちり仕留めた。 「歪みが正されない限り、僕は必ずこの時代に戻ってくる、絶対」 「ふしぎっ!」 義視の叫びむなしく、ふしぎとひみつが消えた。やられたのではなく、最後はハイパー攻撃で果てたのだ。 生体拠点は潰しても、残った巨大昆虫の数は多かった‥‥。 「あとはお任せします‥‥。紅焔、ごめんなさい‥‥」 「‥‥マモル為ニ頑張ル」 「七星揺光っ」 霞澄が消え、艶翠も彼女を庇った相棒の受けたダメージで消えた。 「あとはやれるだけやるだけ」 きっ、と前を見据える暁。 義視とともに頑張ったが、ほかの開拓者と一緒で本営に帰投する姿はなかったという。 「‥‥あれは」 陸上では、シエラ艦長が呉の海から浮上し空に飛ぶ戦艦に目を見開いたという。 つづくッ! |