【香鈴】みんな走れッ!
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/01/04 20:04



■オープニング本文

 泰国のその町は、比較的裕福だった。
 農業に適した、水量の豊かな大きな二つの川が町の西側と東側の外周をきれいに包むように流れていたからだ。日照も良く平地が多く、そして周辺交通の要衝という位置付けもあり、大いににぎわい繁栄している。住民もとても多い。
 逆に、川が氾濫すれば一気に町や農地が水没して大被害に見舞われてしまう危険と隣り合わせとなっている。もっとも、川は強固な土手で整備され、よほどのことがないと崩れることはないだろう。
「今日も、雨じゃのう」
 住民たちは連日の雨にうんざりしていた。
「いやなことでも起きねばええがの」
 不安。
 見上げる空には、一面の雨雲。その底は、いまだ黒かった。

 場所は、変わる。
 夜の闇に沈む林の中、木々に張った天幕の下に暖かい明かり。
 香鈴雑技団が、焚き火を囲んで一緒に仲良く夕飯を食べていた。
「もうすぐ次の町だな」
 リーダーの前然が思案深そうに呟いた。
「そうだね。比較的裕福な町らしいから、人もたくさんいる。秋の祭の後だけど、きっと歓迎してもらえるに違いないよ」
 最年長の陳新が前然の様子をいぶかしみながらこたえた。
「‥‥いや。こう雨が続いちゃ、到着しても手応えがどうかなと思ってね」
「何言ってんだよ。長雨が上がる、そして俺たちがやってくる。久し振りの晴れ間の下で俺たちが公演する、町のみんなも溜め込んでたうっぷんを払って大満足。‥‥これで決まりじゃねぇかよ」
 晴れない気持ちを説明した前然に、迷いのまったくない様子で兵馬が力強く断言した。
「相変わらず兵馬は気楽でいいよナ」
「でも、兵馬君の言う通りになるのが一番ですよね」
 烈花が呆れて、皆美が控えめに言う。皆美の隣にいる在恋は「うふふ」と笑っている。
「違いねェ」
 前然もこの言葉には納得であった。
「どちらにしましても、皆さんは明るく元気良くすることが仕事です。一人前に、世間で存在を認められて生きていくために大切なことです。‥‥次の町に着く頃には、呼んでおいた開拓者の皆さんが来るはず。暗い顔をしていると開拓者の皆さんに笑われますよ」
 雑技団の後見人、老紳士の記利里が優しく言う。
 小雨ながらも、連日の雨の中での長旅。
 経験しないとこの辛さと厳しさは分からないだろう。泰国の比較的温暖な地方のこととはいえ、ただ歩くだけでも体温は奪われ、疲労は積み重なる。記利里の言葉に、子どもたちが「わあっ」と一斉に笑顔を浮かべた事からも雨中の長旅の辛さは分かる。
「そうだ。町に着いたら日頃お世話になっている開拓者のお姉さん、お兄さんに贈り物をするっていうのはどうでしょう?」
 手を合わせてうふふ、と在恋が提案する。たちまち、「お、それはいいナ」、「そうだな。依頼の報酬じゃない、何か安っぽいものでもいいから感謝の気持ちを伝えたいな」と盛り上がる。
 結局、それぞれのおこずかいの中からこれはという物を買ったりそろえたりしようということになった。
「バラバラに用意して、俺たちもだれが何を贈ったか秘密にしようゼ」
「いいな、それ。楽しみが2倍ってわけだな」
 兵馬の提案に、烈花が身を乗りだす。
 そんな楽しい秘密の計画に、最後の行程の辛さもふっ飛んだようだ。

 ところが。
 香鈴雑技団が町に到着し宿に落ち着き、子どもたちが楽しい買い物にそれぞれ散った後、とんでもない事態となった。
「な、何ですと?」
 聞こえ始めた騒乱の音と伝え聞いた噂を聞いて、一人留守を預かっていた記利里は青くなった。
――町に、アヤカシが突然現われ手当たり次第に暴れている。
「‥‥ともかく、開拓者の皆さんは雑技団の子どもを探して下さい。私はしょもふーと集星を連れて避難場所を確保しておきます」
 ちょぅど町に到着したばかりの開拓者にそう伝えると、記利里は雑技団の大切な荷物をまとめて、町の東側の川向こうを目指して避難を始めた。
 雑技団の結成一周年の会に招かれていた開拓者たちはそれぞれ武器を取り、阿鼻叫喚の殺戮地獄と化した町へと駆け出すのだった――。


■参加者一覧
桐(ia1102
14歳・男・巫
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
煌夜(ia9065
24歳・女・志
アルーシュ・リトナ(ib0119
19歳・女・吟
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ


■リプレイ本文


「騒ぎは中心からのようです。私はここから近い東の橋にしょもふーや集星、それに皆さんの荷物‥‥一年前は何も守るものもなかった子どもたちの、やっとできた大切な財産を運んでおきます」
 香鈴雑技団の後見人、記利里が到着して間もない開拓者たちに説明していた。
「記利里さん、待って。‥‥お願い。子どもたちがどこに行ったか、もうちょっと手がかりはありませんか?」
 アルーシュ・リトナ(ib0119)が必死に記利里に聞いた。
「もともと、子どもたち同士でさえ秘密の贈り物。いつものように大まかな行き先だけは私にこっそり教えてくれたのですが、それ以上は。‥‥しかも性格にクセのある子は、言葉通りの行き先に行ってない可能性もありますので」
「ああ‥‥」
 記利里の説明に、手を胸元に当てて天を仰ぐアルーシュ。
「きっと前然さんと紫星さんと‥‥陳新さんもかしら」
 困った子たちね、といった様子のつぶやきに、記利里は「おそらく」と。
「近くに防火櫓はありませんか?」
 ため息をつく二人に、桐(ia1102)が横から声を掛けた。
「中央、でしたね。町は大通り沿いに背の高い建物が並んでいます。ここに上がってもある程度は見通せるはずです」
「じゃ、わしは桐と一緒に行くかの。下は任せとき」
 にかっ、と白い歯を見せて笑う斉藤晃(ia3071)。
「ぁー‥‥。全く、もう。折角の一周年だってのに」
 ぼやいているのは、九法 慧介(ia2194)。雑技の子どもたちとの一周年の祝いを楽しみにしていた分、嘆きも大きいようで。
「とにかく、街中を捜索してみよう」
「俺は紫星の行った砥屋に向かう」
 慧介の言葉に、琥龍 蒼羅(ib0214)も声を上げた。
「じゃ、私は遠い場所に行きますね」
 ルンルン・パムポップン(ib0234)が、ニンジャですからと胸を張る。
「私は町中を。‥‥あまり足は速くないしね」
 さばさばと煌夜(ia9065)が言う。状況に飲まれて適材適所を見失うわけにはいかない。
「でもそうすると、町の外が手薄なんだけど‥‥」
 続けて煌夜は視線を流す。
「いいすよ。あたしも用水路の陳新を探す予定でしたし」
 煌夜に見詰められた真珠朗(ia3553)は手短に応えた。なぜか乗り気でないふうだったり。
「ではみなさん、頼みます」
 記利里の掛け声。
 開拓者8人はそれぞれ頷くと宿の外へと出て行った。


「ちょっと失礼しますね」
 外に出ると桐がいきなりそんなことを言って裾を手繰りまとめる。
 桐。
 見た目おっとりふうな少女巫女である。が、これは当たらずしも遠からじ。
 一方の晃は「おお、好きにしたれや」。
 何と、桐は晃の肩を足場に屋根の上によじ登ったのだ。
「田んぼの方に人がいない分、こっちに向かってきてます。町の真ん中、南北に結んだ線上に多くアヤカシがいますね」
「通りももう、ここまで来てます」
 桐の報告に、きょろきょろどちらを探すか迷うアルーシュ。
「わしは桐と一緒にアヤカシを止めとく。鍛冶屋は中心部なんやろ?」
 押し車と背負子をどこからか持ってきた晃が即断即決する。そこには闘国がいるはずだ。
「古物商も仕立て屋も砥屋も中心部。皆で行こう」
 慧介の言葉で、晃、蒼羅、アルーシュ、煌夜が西へ走り出した。それぞれ、兵馬、皆美、紫星の行き先。
 ルンルンは、三角跳で屋根の上。
「ルンルン忍法ニンジャイヤー。‥‥この騒ぎの中だって、みんなの声は聞こえるんだからっ」
 屋根の上から耳を澄ます。
 その向かいの屋根では桐が走りだした。
「長屋が多いのは助かりました」
 彼女‥‥もとい、彼の見下ろす通りでは、ついにここまできた白い霧を纏った狂骨が逃げる住民相手に暴れまくっていた。開拓者たちは逆流を避けながら戦闘態勢にッ!
「道を阻むなら・・・断ち斬るのみだ」
 蒼羅が駆け抜けざまに雪折で歯向かって来る霧狂骨をぶった切る。カウンターの冴えで一撃撃破。
「楽しい人の邪魔をするのがアヤカシならそれを退治するのが人間ってか。ホンマ迷惑な話やで」
 晃は長い蛇矛「張翼徳」を小さく取り回してから振りかぶり、一撃必殺の両断剣っ!
「戦闘はなるべく控えたいんだが‥‥」
 慧介は刀「鬼神丸」を振るい切払であしらいながら黙らせる。
 ここで、煌夜が声を上げたッ!
「あらっ? みんな、気をつけて!」
 煌夜は心眼を使っていた。これが図に当たる。
 敵は、白い霧を纏い肋骨などが見えなくなっている狂骨だ。初めて出会う敵である。
「心眼で、敵の気配が二重にあるわよっ」
「何っ!」
 もう遅い。
 攻撃した三人は、怪骨を撃破したものの、怪骨と一緒にいた吸血霧に取り付かれ血を吸われることとなる。
「くそっ」
「中央の目玉が本体だ」
「当たれば一発なんやが、厄介なこっちゃ」
 口数が減る慧介に、むしろ得意な状況と冷静に対応する蒼羅、逆に苦手の晃。とにかく本体たる目玉が回避するし、何より長物に不利な密接戦闘。無駄に時間を食う。
「アルーシュさん、あのあたりに商店が固まってます」
「桐さん、感謝します」
 晃に纏いついていた吸血霧に「怠惰なる日常」をかけていたアルーシュは、頼んでおいた情報に目を輝かせた。
「在恋さん、在恋さ〜ん」
 一番親しくなった在恋の名前を叫び、桐の指差した方向に走る。
「どの道わしは子どもらの顔は知らん。皆、行ったれや」
 晃は、咆哮で敵を一手に引き受ける。そして住民が避けたところで回転切りっ!
「‥‥まあ、知らなくてもこの状況だと判断してくれるはずですけどね」
 桐は晃を支える道を選んだ。屋根の上から精霊砲をぶっぱす。
 そして、二人に感謝しつつ走る者たち。
「前然君か、紫星さんあたりが向かった場所の確定ができないんでしたっけ?」
「そうだったな」
 煌夜のつぶやきに、並んだ蒼羅が手短に。
「それにしても、いきなり町中にアヤカシが大量発生っていうのも不思議な感じだけれど」
「原因他色々と気になる事はあるが、考えるのは後回しだな」
「そうね」
 まずは、救出。
 頷きあって二手に分かれるのだった。


 所変わって、田園地帯。
(子供ってヤツは‥‥)
 真珠朗が走っていた。長雨の泥濘で汚れるのはお構いなし。
 もちろん、広い場所なので霧怪骨がわらわらやって来る。
「あっさりコッチの間合いに入ってきて‥‥」
 瞬脚でもっとも効果的な間合い――複数の敵の中心の位置――に入ると、崩震脚で一気に殲滅する。単独行動で守るべきものもいない。暴れたい放題の脅威の威力である。
 と、ここではっと我に帰る。
「こりゃ、子供より厄介なことで」
 どうやら今までのつぶやきは子供全般に関しての愚痴だったようで。
 それはともかく、霧狂骨。狂骨が倒れても吸血霧が残る。無論、範囲滅殺の位置取りは重包囲の中心で。
「急いでるんすけどねぇ」
 三節棍「絡踊三操」でとにかく数を減らす。
「陳新君、どこすか?!」
 何と真珠朗、戦闘中に大声で陳新を呼んだ。
(‥‥あっさりコッチの間合いに入ってきて、どう接したモノか解らない。危なっかしくて見ていて不安になる。なけなしの心が乱される。でも‥‥)
 心中のつぶやき。しかし、今はどこにいるか分からず、距離も遠い。
「泣けてくるすねぇ」
 再び陳新の名を呼びながら戦い、つぶやく。
「キザ兄さん、こっち!」
 と、ここで陳新が泥だらけの姿を用水路のくぼんだ茂みから出して手を振った。
 真珠朗の目の色が変わる。
 周囲の敵を蹴散らしてから、陳新の隠れる用水路のくぼみに滑り込んだ。
「ありがとうございます。助けに来てくれたんですね? アヤカシは人のいる方に行ってますから、このまま隠れながら北へ。それから東を目指しましょう」
「‥‥でも、泣いてる子供を見るのって、もっと苦手なんでねぇ」
「え?」
「無事で涙が出るほど嬉しい、ってことすよ」
「‥‥キザ兄さんらしいです」
 ともかく、一人確保した。


 さて、一人屋根の上を西へ向かうルンルン。
「ひょっとしたら、陶芸家さんの工房が山近くかも?」
 走りながら唇に指を当てて、そんなことも思う。
 が、表通りから一本入ったここではっと足を止める。
「あ、前然さん!」
 逃げ惑う人と襲い掛かる霧狂骨で混乱する中、雑技団の仲間の名を呼びながら走る前然を発見したのだ。
「あ、忍者姉ェ」
 ナイフを投げ狂骨をけん制していた前然がルンルンに気付いた。
「‥‥ニンジャにとって、短銃は最後の武器なんだからっ! ‥‥これで皆が来ますっ」
 ルンルン、狼煙銃で仲間に知らせる。
「在恋は北西の染物作家の工房に行ったらしい。忍者姉ェ、頼む」
「絶対無事に助けてくるから、安心しててください。‥‥こういう時のニンジャです!」
 目標らしき建物も発見。場所が分かればあとは楽ちんとばかりに快速を飛ばす。
「前然君、無事だった?」
 前然がナイフを投げていた敵は、駆け寄った煌夜が霊刀「カミナギ」の白梅香でバッサリ。二の太刀で吸血霧も倒していた。
「ステラ姉ェ! 今日も格好いいゼ」
「減らず口が叩けるようじゃ、大丈夫そうね」
 ひとまずほっとする煌夜である。

「歌姉さんっ」
 アルーシュは、逃げてきた皆美に抱き付かれた。
「皆美さん、良かった」
 下手に移動すれば入れ違いになるかもとしれないと判断し立ち止まり、いつか在恋と一緒に歌った曲を笛で奏でていたのだ。皆美は、大親友の在恋が口ずさんでいたメロディを頼りに仕立て屋から逃げてきた。
「もう大丈夫です。さあ、一緒に逃げましょう」
 促すが、駄目だった。
 安堵した皆美の足が、今度は震えに襲われていたのだ。
「ごめんなさい。私、動けない」
「大丈夫よ、心を落ち着けて。‥‥うっ」
 優しく言うアルーシュが、近寄る敵の攻撃の盾となった。
「歌姉さんっ!」
「‥‥大丈夫ですから」
 にっこり言うアルーシュ。夜の子守唄をハープで奏で敵を眠りにつかせた。皆美が落ち着くまで、敵が来るたびに何度も。

「洒落にならないな」
 無事でいてくれと祈りながら古物商までたどり着いた慧介は愕然とした。
 暖簾をくぐった土間が荒れ果て、すでに誰もいなかったのだ。比較的単純な性格の兵馬のこと。来るとしたら町一番のこの店に来るはずである。
「ちくしょーっ」
 ここで、裏から声がした。兵馬の声だ。
 急いで回り込むと、真剣を手にした血まみれで転倒していた。その前にそそり立つは、霧狂骨。
「おいっ!」
 いつものぼんやりしたふうな慧介はどこへやら。一言気を発するかのように声を荒げると殺到し、刀「鬼神丸」で紅椿。さらに切払と虚心で吸血霧も一刀の元に切り捨てる。
「大丈夫か?」
 兵馬を抱え起こす慧介。
「‥‥刀を貸してくれた店のじいちゃんを、守れなかった」
 浴びた血の大半は、その老人が切られた時のに浴びたようで兵馬自身の傷は浅かった。
「ついて来い。ともかく東に」
 走る。
「可愛い弟妹達の命が懸かってる。邪魔をするなら容赦せんぞ」
 途中で出会う敵は、紅椿や切払を連発しながら急ぐ。目を輝かせる兵馬。後の話だが、兵馬は切払などの見切りの技に感動したという。


 さて、ルンルン。
「ルンルン忍法でひとっ飛びなんだから!」
 奔刃術で寄る敵を叩きながら農地を駆け抜ける。目指すは、染物屋の工房。
「この〜。離れちゃってください」
 工房の小屋に取り付くアヤカシを倒す・倒す。
「お久しぶりです、助けに来ました!」
 扉を破壊しようとしていた敵を全滅させると明るい声を出す。
「わあっ、忍者姉さん」
 出てきた在恋は涙を浮かべながらルンルンに抱きついた。よほど怖い思いをしたのだろう。
「安心して、絶対みんな無事だから」
 にっこり笑って安心させるが、東の橋は遠い。ここからが茨の道だ。

 そして、町の中心近く。
「心覆を使っても限度があるか」
 蒼羅は砥屋から出たところだった。殺気を消しはすれど、こうアヤカシが多くてはどうしても戦う必要が出てくる。
 雪折と銀杏。
 抜刀の技の冴えを見せつつ、とにかく誰もいなかった砥屋からどこに逃げたかを考え走っていた。
「蒼兄ィ」
 突然、路地裏から声を掛けられた。
「‥‥紫星、探したぞ」
「名前くらい呼べばいいじゃない」
 ツンと言う紫星だが、ぴとっと蒼羅にくっつく。
「怪我はないな、よし。必ず、無事に送り届ける。‥‥行くぞ」
「まあ、あまり人の名前を大声で呼ぶタイプじゃないか」
 突っ込む紫星。

 元の場所では。
「サムライ忍法壁破りの術‥‥なんてな!」
 晃が暴れ放題だったり。
 犬矢来越しに悲鳴が聞こえれば窓を破って助けに行く。
「斉藤さん、新手が来てますよ!」
 屋根の上から広域を見る桐の声が聞こえると、通りに戻っては咆哮。
「こっちのが肉肉しいんで切りがあるで!」
 住民を襲うアヤカシを、我が身に受け持っては回転切り。もちろん数の違いから生傷は絶えない。
「戦いに巻き込まれたくなかったら行った! 行った!」
 大通りを避難道として、とにかく死守する。
 屋根の上の桐はといえば。
「うっ」
 一瞬暴れて、尻餅をついていた。
「目敏いのがいますね」
 いつの間にか屋根の上に漂って来ていた吸血霧多数に一斉に襲われたのだ。精霊砲を放っておいてから、下に逃避。
 そして、走る。
 あらかじめ場所を確認していた鍛冶屋の近くで、闘国らしき人物を発見していたから。
 出会う、二人。
 特に言葉を交わさないが、一瞬頷き合うと闘国は引き続き樽を持ち上げては霧怪骨に投げつけ、桐は怪我している闘国を閃癒でいやす。
「こっちに‥‥。斉藤さん、一人見つけました!」
 それだけ言って、闘国を誘導する桐。
「ほいきた。やれきた。アヤカシは一昨日きな!」
 斉藤も呼応。敵を片付けつつ無事に合流した。
「聞こえたわよ」
 煌夜もやって来た。アルーシュと慧介も一緒だ。それぞれ助けた子どもたちも。
「あともう一人‥‥」
「おそらく町中はこれで。とにかく、先ずは東に」
 意気込む桐を煌夜がたしなめ、闘国、前然、皆美、兵馬を連れ走る。

「キザ兄さん!」
 農地では、陳新が青くなっていた。
「優先順位の問題。もしくはプライドの問題だって話でして」
 逃げる陳新を庇って真珠朗が傷ついたのだ。
「そのキザ兄ィっての、どうにかならないもんすかねぇ」
 ともかく、補足されたのなら仕方ないと陳新を庇いながら戦う真珠朗。全て倒してから、また走る。
 目標の東の橋は、もうすぐ――。

「遅くなっちゃいましたけど、ただいまですっ」
 最後に、在恋をおんぶしたルンルンが東の橋を渡った。
「在恋さんっ!」
 アルーシュが駆け寄り、在恋を抱き締めた。この後、音符の首飾りを渡した。
「お守り、です」
 在恋は改めて、アルーシュに抱き付いていた。
「烈花さまは、いませんでしたか?」
 青くなって記利里が聞いた。
「烈花は大丈夫だ。まだ生きてるに違いない」
 前然が力強く言った。
「それに、まだ住民は残ってたよな‥‥」
 振り向いて続ける前然。まだ屋内に人が残っているのだ。
 そして、アヤカシたちはまだ町中をさまよっている。
 物語は、終わらない。