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■オープニング本文 「闘国ッ!」 烈花が叫んで闘国に向って走った。腰を落とし両手を前に組み合わせ構える闘国。 そして、大地を蹴る烈花。 「ふんっ」 闘国は両手に乗った烈花の足をがっちり受け止めるとそのまま上空に放った。烈火は身伸した美しい姿勢でとんぼ返りする。ひらひらなびく、泰服の長い裾。 「前然ッ!」 今度は烈花、前然の名前を叫んだ。実は前然、烈火を追う悪者の役をしている。 落下しながら態勢を整え、前然に強烈な蹴りを見舞う。が、これは次の跳躍を兼ねている。前然は腕で受けながら彼女の次の跳躍の補助をし、やられたように見せ掛け倒れる。 「大丈夫だったか?」 「ええ、ありがとうございます。‥‥そしてここで、私が歌う流れですね?」 後方にいた在恋のそばに着地してから声を掛ける烈花。在恋は役を演じておいてから、次の展開を確認した。 「うん、気合の入った良い演技だったよ。在恋は、歌に入る一声目に集中を。音は遅れて入る演出だから、ここでお客さんにはっとしてもらえるかが勝負。一気にしっとりと雰囲気を変えるような、魔法のような出だしを心掛けて」 ぱちぱち拍手しながら、全体を見ていた陳新が指示した。 ――この子どもたちは、香鈴雑技団。 泰国を巡る気ままな雑技旅を続けている。今日はどうやら公演の練習をしているようで。 「あの3人、どんどん信じられない演技をするようになっていくな」 この練習を見て、兵馬が寂しそうな顔をした。 「兵馬の演舞も最初の頃より凄くなってるじゃない」 彼の隣にいた皆美は、そう言って微笑する。兵馬はこれを聞いて「ま、俺も開拓者の兄ィたちに鍛えてもらってるからな」と、得意そうな顔をする。元気が出たようだ。 と、その時。 「皆美。‥‥私、ちょっと出てくるわ。あの子を探してくる」 紫星がそう言って出掛けて行った。 「あの子って?」 さっさと消える彼女を見送って、兵馬が首を傾げた。 「ほら、あの猫。最初に私たちがここに野宿した時にいた黒猫のことよ」 「‥‥紫星のヤツ、いつも身勝手だよな」 皆美の説明に納得するが、兵馬はここぞとばかりに日頃彼女に対して抱いている不満を口にした。‥‥実は、この8人の中で紫星だけが途中加入のメンバーだったりする。孤児として下町で長く辛い生活をしてきた7人とは違い、彼女だけとある町の顔役の娘という異色の存在だ。 「そもそも、何で俺たちについて来たんだか」 「いろいろあるんじゃないかなぁ。でも、仲間なんだからたまには悩みとか話してもらいたい‥‥」 気色ばむ兵馬をなだめながら理解を示す皆美だが、やはり彼女も思うところがあるらしい。 「では、開拓者の皆さんにそれとなく聞きだしてもらいましょうか。‥‥猫が見つからなければ、猫探しも兼ねて」 雑技団の出資者からの指示で後見人として同行している老紳士、記利里が寄ってきて言った。 結局、紫星の探していた黒猫は見つからずじまい。 「右目が怪我をしているようね。尻尾は短くて、右耳に切れ目があったわ。‥‥相当用心深いのは知ってるわよね」 紫星は探す黒猫の特徴を話すが、あまり乗り気でない。 「可愛そうだけど、きっともう死んでるわよ。‥‥でもまあ、開拓者を呼ぶのはいいわね。聞いてみたいこともあるし」 「なんで紫星は、その猫にこだわるんだい?」 陳新が聞いてみた。 「目が死んでなかったからよ。‥‥そのくせ、世渡りが苦手。多分自尊心が高いのね。甘えるのが、苦手。‥‥放っておくとのたれ死ぬと思ったけど、おそらくそうなったわ。‥‥ホントに、世渡りが下手」 妙に、しゃべった。 「じゃあ、何とかして見付けだしてやらないとな。その黒猫が一緒に来たいってんなら、俺たちと一緒に行けばいい」 「え‥‥」 前然の言葉に、一瞬目を見開く紫星であった。 あるいは、雑技団に同行しつつ初期メンバーに溶け込めていない紫星が、仲間としてより溶け込む良い機会かもしれないと記利里や前然は判断。開拓者を募る事となった。 |
■参加者一覧
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
霧咲 水奏(ia9145)
28歳・女・弓
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
アルーシュ・リトナ(ib0119)
19歳・女・吟
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
リン・ヴィタメール(ib0231)
21歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ● 香鈴雑技団と開拓者たちは今日もにぎやかだった。 「人慣れせん猫は自分を好いてくれるかどうかよう見極めてからやないとえさも食べてくれへんから」 「あの子が人慣れない程度の猫ならこんなに苦労しないわ」 微笑するリン・ヴィタメール(ib0231)に、ツンとあごをそらす紫星。 「けど、懐いてくれるとえらいかいらしいんやけど」 「べ、別に懐いてもらおうと思ったわけじゃ‥‥。才能があるのにくすぶってる様子を見るのがイヤなだけよ」 猫のように肩を寄せてくる。そんなリンから逃げる紫星。リンの方は、「世渡りが苦手で甘えるのが苦手。どこぞの猫と一緒やね」とつぶやいたり。 「やれやれ」 この様子を見て琥龍蒼羅(ib0214)が頭を振る。 続けて見ていると、今度は宿奈芳純(ia9695)と話した。 「‥‥紫星さん、これは大切なことですから」 「うーん。とにかく目を見れば分かるはずよ。諦めた風な動きをするわりに目は希望を捨ててないから」 どうやら芳純、黒猫の外見的特徴をさらに詳しく聞いているらしい。が、要領を得ない。 「どちらかというと小柄です。歩く姿は悠々というより、警戒してせわしないといった感じですか」 陳新が補足する。この様子に「ふん」と機嫌を傾け立ち去る紫星。芳純と陳新は目を合わせて肩をすくめるるだけ。 「上手くいっていると思っていたが‥‥」 蒼羅もため息を吐くと、紫星を追うのだった。 一方、霧咲水奏(ia9145)とアルーシュ・リトナ(ib0119)は一緒にある人物と向かい合っていた。 「記利里殿」 香鈴雑技団の出資者から使わされている後見人の老紳士である。 「記利里さんは、紫星さんの親御さんから何か頼まれているのですか?」 アルーシュが問うた。 実は水奏、先ほどリーダーの前然を捕まえてすでに同じ内容を問うていた。 「所で、紫星殿が同行する際に紫搭殿──お父上は何か仰っておりましたかな?」 と。 前然は答えた。 「『娘をよろしく頼む』とだけ。訳ありなんだろうが、特に聞いちゃいない」 「なぜ?」 「俺たちも、何で親もなく一人で下町にいたのか今となっちゃ分かんないからさ」 答えた前然の目には、今にも泣き出しそうな弱々しさがあった。 さて、記利里の答えは。 「何も。‥‥ただ、才能のある子にこういう問題はつきものでございますから」 これだけだった。 ところで開拓者はもう一人いるはずだが――。 「とにかく、手分けして猫を探しましょう」 煌夜(ia9065)が手を叩いて、まず動くよう指示する。 「じゃ、前然君はおねーさんと来なさい? 世話を焼いてあげるわよ」 「‥‥いや、俺は一人でいいから」 「あら。私が嫌い? それとも女の人は苦手?」 「そうじゃねえ! っていうか、その質問は意地悪だろ」 真っ赤になって距離を置こうと後ずさりな前然に、人差指を立てて迫ってくる煌夜(ia9065)。真面目だったかと思うとおふざけに走る。今日もステラ姉ェはステラ姉ェだった。 そんなこんなで、捜索開始。 ● 川原の橋の下で、すっ、と水奏は弓を構えた。 瞳は閉じている。 ――ひゅん。 矢は番えていないが、ひとつ弦を鳴らした。 「このあたりにアヤカシはいませぬな。安心して探しましょう」 スキルの緊張を解いた水奏が、見守っていた闘国に言った。 「烈花や在恋とは、一緒に探さないのですね」 闘国は、「女の子たちと仲がいいのになぜ自分と?」といった様子だ。 「‥‥闘国殿は志体持ちでしたな」 水奏の問いに頷く闘国。 「拙者も幼い頃は同年の子らとは打ち解けるのに時間掛かりましたな‥‥」 視線を外して彼女は言う。拙者「も」。‥‥つまり、闘国は仲間と打ち解けているのか、と。 「武家の子で志体持ち故に一線を引かれておりましたから」 身の上話を続ける水奏。闘国は、心配そうな視線を向けるだけ。 「切っ掛けは父上に悪戯をして一緒に怒られてからでしょうか?」 改めて闘国の方を向いて、くす、と笑う。意外そうな顔をする闘国。 「共に何かする、そんな簡単な事で友となれた気が致しまする」 そう、結ぶ。 「紫星殿の事、どう見ておられる?」 結んでからの、矢継ぎ早の質問。 「もう、弓姉さんは全て分かっているようです。‥‥猫探しが、『共に何かする』になれば」 「『全て』とは、さて。‥‥ともかく、猫を。水辺を探しつつ、黒いので注意深く、で御座いまするな」 そしてこの二人も、「共に何かする」状態に。笑顔で、「拙者はこちらを」、「では、自分はこっちで」と探索に打ち込んだ。 ● 「仲ええんやね。ふたりとも、えらいかいらしいわ」 別の場所では、リンがにこにこ顔だった。 「どこが!」 兵馬と烈花が声を合わせてリンに突っ込んだ。どうも口論のように激しく言い合っていたらしい。が、これは喧嘩していたわけではなく、いつものことである。証拠に二人とも赤くなってたり。 「ええからええから。どうぞ、よろしゅうおあがりや」 用意してきた大福餅を二人に振舞うと、気分が乗ってきたのか「ほんにほんにね」と破顔してはリュートをぽろろんしはじめていた。 「‥‥このお姉ェさん、何ていってんだ?」 「アタシに分かるわけないだろ」 でも、何か心が引かれる。 リンをどう呼ぼうか迷いつつ兵馬が言うと、烈花も優しい顔つきになって言った。 スキル「心の旋律」。 精霊語による愛の歌は、言葉の意味を人々に伝えなくともその安らぎや情熱は伝わるようだ。 それだけではない。 道行く村人も足を止めて聞き入ったものだから、大層な人だかりができていた。 「‥‥あ」 爪先立ちで空に飛ぼうとしているかのような格好で演奏を終わっていたリンは、この状況にようやく気付いた。顔を赤らめ一礼するあたりは可愛らしいが、ここからはたくましい。 「なあ、‥‥黒猫、見掛けへんかった?」 一瞬その場にいた人は意表を突かれて言葉を失ったという。 その後。 「なあ、そこまでしなくてもいいんじゃないか?」 「ほらぁ、こんなに汚れて」 「ええからええから。季節柄、身を隠す為どこぞに潜りこんでるんやと思いますのや」 兵馬と烈花が呆れるのは、リンが軒下などに入り込んで探していたから。 猫は探せなかったが、二人からは信頼されたようだ。 ● 「最近、うまくいってないの?」 煌夜は、前然を連れて人気のない静かな場所に来ていた。村はずれの竹林である。 「なぜ?」 「前然君、笑わないじゃない」 先を歩いて猫を探していた煌夜が振り返って言う。からかいの表情は、ない。 「あんま、笑うタイプじゃないしな」 「余裕のない顔をするタイプでもないでしょ」 すっとぼける前然に、切り込む煌夜。 「‥‥折角一緒に旅をするなんて貴重な経験なのに、ぎくしゃくしてお互いの距離が離れてるなんて勿体ないわよねー」 う、と言いよどむ前然を見て、前を向いて煌夜がすぱっと言った。 「別にぎくしゃくはしてなかっただろう。ステラ姉ェが来たときには」 「また開拓者に頼った。‥‥ま、それはいいんだけど、何かあるたびに開拓者を呼ぶ訳にもいかないんだからね?」 またも振り向いた顔は、ずぶ濡れの猫を見るような目だった。前然、さすがにこれは堪えた様子。 「周りが不満を溜める前に、それが愚痴になって出てくる前に貴方が何とかしないと。‥‥『叱る』のが、怖い?」 「女性には、ね」 確かに、きつい言い方をするのは兵馬に対してくらいだ。 「へええ。女性には、ねぇ。私もわがまま言っちゃおうかなぁ」 「ま、真面目な話じゃなかったのかよ!」 真っ赤になる前然。それはともかく。 「‥‥お互いを合わせる為の我慢は集団に必須だけど、それだけがやり方じゃないわよ? 叱ることも大事、理解して歩み寄ることも大事」 「ふざけたり真面目だったり、わかんない人だよ、ステラ姉ェは」 「結構な怪我をして警戒心が強い、ってことは、誰かに心ないいたずらでもされたか、縄張り争いにでも負けたか。とにかく探しましょ」 優しい瞳の煌夜。頷く前然。 「そういえば下町にいたころも、みんなが一人のために無駄な努力を意味もなくしてたもんだな」 「え?」 「いや、何でもないよ。ステラ姉さん」 苦い思い出もあるのだろう。前然は自分をせせら笑っていたようだった。 ● 村外れは、もう一組が捜索していた。 「猫が、好きだったんだな」 ぶっきらぼうに、蒼羅が紫星に聞いた。 「猫によるわよ。‥‥ただ甘えてくるようなのは嫌いだけど。あの子は好き」 「才能があるのにくすぶってる、だったか?」 「猫の才能なんか分からないけど、何て言うんだろ。運命に逆らうだけの気力がありそうな気がして、そんな子が運命に飲まれるのを見るのが辛くて‥‥」 紫星、今日は妙にしゃべった。あるいは、どこか打ち解けないまま雑技団の一員として旅しているのに疲れ始めているのかもしれない。 「才能、か。‥‥そういえば海の時に言ってたな。『だれが志体持ちか分かるか』と」 蒼羅、切り込んでみた。 「蒼兄‥‥さん」 瞬間、紫星は蒼羅に抱きついた。いや、顔をうずめたのだ。 「私は、志体持ち。‥‥だから、私一人だけ家から離れて兵隊として余所の家に取られるところだったの」 「無理に言う必要はないぞ」 「聞いて、聞いてっ!」 いやいやしながら涙声で続ける紫星。続けて語られた話は、まあつまりそういうことで。 「‥‥雑技団は、おそらく烈花、闘国、前然が志体持ちだわ。私を含め、このままじゃ才能がもったいないと思うの」 志体持ちを判別したがっていたのは、そういう気持ちからだったらしい。が、果たして「親も何もない、生まれつき恵まれなかった者たち」の絆で一緒にやっている雑技団で、生まれつき志体に恵まれていた者がいるという事実は容易に受け入れられないかもしれない。実際、闘国は仲間に明言していない。 「とにかく猫を探して救ってやろう。まずはそれからだ」 蒼羅の言葉に、まくし立てて落ち着いた紫星は「もうちょっとこうしていたい」。これまで蒼羅は「高い木に登って降りられなくなったかもしれん」などと、精力的に探している。休憩も必要だ。 「猫の名前は、黒い黒曜石から取って『黒陽』なんてどうだ? 一緒にいれば、太陽のように輝くだろうからな」 紫星の目も、太陽のように輝いていたという。 ● 村ではアルーシュが大きな籠を腕から下げて情報収集していた。 「歌姉さん、今度は私が持ちますね」 抱きつきそうな勢いで在恋が大きな籠を引き受けた。中には布がふかふかに敷かれている。黒猫をここに寝かせるつもりだ。布は皆美の収集している端切れだ。 「猫は‥‥最期を見せないと言います。でも、急げば‥‥。頑張って探しましょう」 アルーシュは二人を勇気付け、引き続き聞き込みをする。 ♪独り行く 黒い猫 片星の瞳に何映す 片葉の耳に何刻む 短き尻尾の影を追う 命の灯火繋がんと‥‥ 歌いながら二人を励まし、路地で遊ぶ子どもや見守る母親に聞いて回る。 「ううん、ウチはみてないよ」 「そうねぇ、見掛けてませんねぇ」 「猫はよくいるからなぁ」 結果は、芳しくない。 「‥‥歌姉さん。ちょっと休憩を」 そう言ったのは、在恋だった。皆美が息を上げていた。 「ごめんなさい。私、あまり体力なくて」 「いいのよ、皆美さん。あそこで休みましょう」 アルーシュは材木置き場を指差した。 ♪風斬る短剣 流るる剣舞‥‥ 技・きらり星 楽しき香鈴雑疑団 沈む雰囲気を明るくしようと、いつか歌った曲を披露する。 と。 ――にゃあ。 力のない鳴き声がした。近くの材木の下の隙間からだ。 見ると、右目が怪我した黒猫が隠れていた。右耳に切れ目もある。 なんという幸運。 「あっ!」 皆美が近寄ろうとすると、びくっと警戒された。ツキがない。 「待って、皆美さん」 アルーシュは咄嗟に「夜の子守唄」。黒猫はその場で眠った。 ● 時は若干遡る。 「紫星さんは、あまりしゃべらないのですね」 芳純が村の中を歩きながら、陳新に言った。紫星は、誠実に話を聞こうとしても話そうとしないのだ。 「こちらが歩み寄れば逃げますし、一歩引くと寄って来ます。ただし、それと分かると逃げるので」 つまり、どうしても距離が詰まらない。当然、会話も少なくなる、と。 「紫星さんがその猫さんに拘るのは、どこか紫星さんと重なる部分があるからかもしれませんね」 これは他の開拓者の多くも感じているところだ。 「陰陽さんの言う通りかも。あの猫も、紫星に対してそうでしたから」 ため息を吐く陳新。前然が猫の捜索と同行に意欲を示した次第である。 「ただ、『重なる部分』がね」 改めてため息を吐いた。芳純が問うと、「今度はきっと、志体があるかどうかで問題が出る」と。 「今は苦しかった下町の絆でやってるけど、その垣根を取り払うと今度は心の拠り所が失われてしまう」 志体のあるなしの問題を、そう表現した。 「‥‥距離の離れた者同士で連絡を取ること。これが私にできること。まずは猫探しでしょう」 「僕たちは、探さないんですか?」 「そろそろ連絡を取ってみる時分。‥‥猫が弱っていたら私の出番ですから」 「じゃあ、僕はこのあたりを探して見ます」 人魂を小鳥にして飛ばす芳純に、その間周りを探す陳新。 「あ」 何体人魂を飛ばしたか、やがて芳純は目の色を変えた。 「陳新さん、アルーシュさんが見つけましたよ。‥‥傷ついているようです。急ぎましょう」 ● 結局、眠った黒猫は、芳純の人魂を猫にして隠れ場所から眠ったまま引きずり出した。怪我は治癒符で回復。 「良かったですね」 籠に入れた黒猫を、紫星に差し出すアルーシュ。 「ほら、紫星」 「あ、ありがと」 蒼羅につつかれ礼を言う紫星。瞬間、全員集合して輪になっていた雑技団と開拓者から歓声と笑顔がわいた。 「ごめん。‥‥ごめん、時間を頂戴」 驚いた紫星は猫を蒼羅に預けると、走って逃げた。涙を拭いているのが背後からも分かった。 「いつまででも待とうゼ」 前然の言葉に、皆が力強く頷くのだった。煌夜はこの様子に笑顔。 「『詩人と猫が冬の友』か‥‥」 紫星は、川原に座っていた。捜索途中で合流したリンから聞いた言葉を繰り返したり。 「冬を越えるとき、どちらも欠かせない。‥‥面白いわね」 思わず出合った面白い話。旅に出てよかった、という実感。 「もう疲れた、好きに生きるわ。才能もなるようになればいいわ」 うーんと背筋を伸ばす。実家を含め全てを捨てきれていなかったのだ。 「拙者にとっては紫星殿も大切な妹の一人に御座いまするよ」 戻った時、水奏が微笑した。闘国にした身の上は、すでにこっそり話している。 「我侭に困っても知らないんですからね!」 ツンとそらした紫星の顔は笑っていたという。 ところで、黒猫はどうなった。 「蒼兄ィ、ごめん」 「なに、いいさ」 名前は、アルーシュの唱えた「集星(しゅうせい)」に決まった。集まって覗き込む笑顔に、目覚めた集星は逃げることはしなかったという。 |