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■オープニング本文 ※このシナリオはハロウィンドリーム・シナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません 「すまんが、また人集めを頼む」 開拓者ギルドを訪れたのは、妙に威厳のある若い女性だった。 「これは、シエラ艦長。‥‥今回はどうされましたか」 「ふむ、貴様もマシな対応が出来るようになったな。‥‥今度は陸戦での猛者を募りに来た」 女性の名は、シエラ・ラパァナ。超時空船――オォラシップ「グラン・ラガン」の艦長で、過去に別の時空に開拓者を連れて行き戦艦大和の護衛任務や呉軍港空襲の防衛任務などをこなしてきている。余談だが、対応したギルド担当者は、まるで貧乏クジを引くかのようにシエラの訪問時に受付にいる。今回は、「貴様も男だろう。こういう時こそ男を張るがよい」などと怒鳴られる事はなかったが。 「空中戦ではないのですか。‥‥一体、何があったのです?」 「簡単な話だ」 ふっと微笑し目を細めてから、シエラは説明を始めた。 時は、西暦1945年8月。 場所は大日本帝国の広島県は呉市。 前回シエラたちが戦った呉軍港空襲の後、敵国の各種機関が大小さまざまな新兵器を投入し実験していた。 「軍港のある呉市には、厄介な新兵器が投入された。‥‥聞いて驚け、この世界のアヤカシのような敵がわいてくる生体拠点を投下したのだ」 「アヤカシのような敵?」 「そうだ」 つまり、生命力がなくなると黒い瘴気となって地面に沈んでいくというのだ。 敵爆撃機から投下された爆弾は炸裂することなく外板が剥がれたという。中からどくんどくんと脈打つ不定形生命体が出現すると、たちまち一軒屋ほどの大きさに卵となり次々に鬼を生み出した。呉市のにぎわいの中心たる、商店街で。時は朝のにぎわいの最中だった。 鬼はすぐさま住民を襲い、呉市中心部の人的被害は壊滅的。 現在、残存する帝国陸海軍は呉軍港を死守しつつ生存者の保護に務めている。先の戦闘で航空戦力が残っていないのが痛恨である。 一方で、山に囲まれた土地柄を利して要所を封鎖。被害拡大を防いでいるという。 「‥‥逆に言うと、自力で軍港や封鎖場所にたどり着けない民草は見殺し、ということだな」 「攻め込めばいいでしょうに。何のための軍隊か」 ギルド担当者はいきり立った。この様子にシエラは満足そうな笑みを見せる。 「そう言ってやるな。敗戦目前の軍隊だ。はっきり言って、封鎖と拠点防衛で手いっぱい。掃討に割く人数がいない。というか、封鎖できたのは不幸中の幸いだ。これが平地の都市であれば被害は拡散する一方だったな」 「では、こちらから大人数を投入して‥‥」 「駄目だ」 シエラがとめた。 「派手にやると歴史の変わり具合がコントロールできなくなる。小数精鋭で、とにかく鬼のわいてくる生体拠点を叩く。‥‥我々が到着するときには、すでに逃げられた者以外、生存者はいないはず。この卵型の拠点を滅すれば鬼の数が増化することもなく、拠点防衛と封鎖地点の維持が可能で、被害拡大はない。あとはこの時代の者たちの仕事だ」 「あ。生存者がいないなら龍の炎で一気に‥‥」 「派手すぎる。それに、復興のことも考えてやれ。‥‥すでにガラス戸が割られるなど街はこまごま壊れているが、大破させることだけはまずい。それならその時代の者でもやれる。我々が判断を下してはならない。逆に、少々なら街を壊してもいい。出来るだけ鬼を減らしつつ、生体拠点の破壊を」 そんなわけで、8人の募集がなされた。 今回も当然、自身のダメージだろうが朋友のダメージだろうが、すべて自分の気力が減少する。気力が0になると死亡扱いとなり元の世界に強制送還される。練力によるスキルは使用可能だが、生命力回復スキルは意味をなさないなど特殊な状況なので注意が必要だ。 なお、帝国陸海軍はこの鬼を「妖禍使(あやかし)」と命名したようだ。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
コルリス・フェネストラ(ia9657)
19歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ● 「市内は敵・敵・敵のひどい有様だ。存分に暴れてくるがいい」 帝国海軍の呉軍港内でシエラ艦長が鋭い言葉で現状を伝えていた。引き締まった白い面に、肩の後ろに払う青い長髪。こういう職に就いていなければただの良家の令嬢として大切に扱われていただろうが、若くして艦を任されたためその美しさは厳しさの色が濃くなっている。 「目標は商店街奥の生体拠点。‥‥いいか。生きて帰れとは言わん。死んで来いッ!」 出撃の合図を受け、開拓者8人が敬礼してきびすを返す。 と、ここで羅喉丸(ia0347)が振り返った。 「念のために現地の地図を借りることはできないか?」 「これを使うといい。私にはもう用のなくなったものだ」 丸めた地図を投げるシエラ艦長。 「多少目立ったとしても視界が良い場所を進軍ルートにしたいからな」 受け取りぴらっと開く羅喉丸。 「羅喉丸。地図に書かれた丸の印はなんじゃろうか」 羅喉丸の顔の横から、「指定席」としてすっかり彼の肩に居ついている人妖・蓮華が覗き込んで主に聞いた。 「さあ、な?」 顔を上げてシエラ艦長を見る羅喉丸。 「‥‥き、気にするでない。とにかく早く行って死んで来い。‥‥いや、帰ってくればキッスの一つもしてやるぞ」 真っ赤になって声を荒げるシエラに、開拓者たちはとにかく出撃するのだった。 ● 呉軍港の敷地入り口の見張り兼門番詰所建物に立つ人影が一つ。 すらりとした姿に、ピンクの肩掛けがなびく。地面近くはそうでもないが、ちょっと上は風が吹いているようだ。あるいは戦いの風か。 「ニンジャの力で、妖禍使の生体拠点をやっつけちゃいます!」 可愛い顔をきりりと引き締め、ルンルン・パムポップン(ib0234)がふくよかな胸の前で組んでいた腕を解いた。すると、とん、たんと塀を一回入れてから地上に降り立った。三角跳びで上がった逆の要領だ。「自由に舞う花☆」はここでも健在。 「ルンルンさん、どうでしたか?」 人呼んで「かえるますたー」、陰陽師のアルネイス(ia6104)が寄って来て聞いた。 「シエラさんの言うとおり、敵・敵・敵でうようよです。最短ルートは、左に向かいつつ大きな通りに出て、後は一直線ですっ」 伝えておいてから、ルンルン忍法におまかせですっ、とばかりにウインクして走る。 「よしっ! いくぜぃ!」 出陣だな、とサムライのルオウ(ia2445)も腰を落とし続く。小さな村で育ち、育んだ心は強い正義感に弱者を見捨てない心。今回の惨状を放っておいては被害が拡散する恐れがあるのなら、体を張るのみと敵を求める。そんな彼の姿を見て、「希望の星詠」と誰かが呼んだのかもしれない。 って、ルオウさん。なんだか胸元がもこもこもぞもぞしてないですか? すると、もぞっと何かがルオウの上着の胸元から顔を出した。 白い猫又である。 「雪。あぶねーからここにいろよ?」 優しく言うルオウだが、ちょっと待った。雪はツンと横向きましたよ。 「やれやれ」 どうやら日常茶飯事のようで、前に集中するルオウだった。 「水明、行きますよ」 長い呪弓「流逆」を手に走るのは、コルリス・フェネストラ(ia9657)。大きな三角の「夜空の魔法帽」が飛ばないよう手で押さえつつ、相棒の忍犬と急いでいる。 ――そんな開拓者の中で、出遅れた者もいる。 「‥‥ボク、イストリアはお留守番だから、パートナーがいないの〜」 指をくわえてしゅんとしているのは、プレシア・ベルティーニ(ib3541)。イストリアとは彼女の相棒の甲龍で、さすがに今回の作戦では連れてくることができない。 と、ここで。 「ほみゅ?」 何だか袴の裾を引っ張られているようだ。下を見る。 「‥‥おお!? ボクがいる!?」 「ええい、早う気付けっ。お前のお師匠様に言われて手伝いにきたのよ」 何と、人妖がいた。名はフレイアと言う。げしっと蹴りを入れツンと言ってのける。 「えっ、ホント〜!? ありがとうなの〜」 「あ、こら、こんなところで抱きつくんじゃないのっ」 ‥‥フレイア、ツンツンしている割に赤くなってたり。 ともかく出遅れたが、仲間を追いかける。 ● 「流石に風景が違うわね〜。コレはコレで一興」 余裕があるふうなのは、葛切カズラ(ia0725)。趣味で大人な遊びなどもする彼女は、いつだってゆとりがある。でないと白い肩をさらしてずらす服がさらにずり落ちてしまう。落ちそうで、落ちない。これ大切。 「カズラ、僕が思うに緊張感が足りないぞ☆」 びしっ、と言うのは、カズラの人妖・初雪。少年的少女で走る姿はきびきびして格好良く、純白地に青い縁取りラインのミニスカートを折り目良くきっちり着こなしているしっかりさんだ。主人に見習うべき点は多そうではあるが‥‥。 「ふぅん。だったら初雪ちゃんはガッチガチに緊張してるんだぁ。一体、体のどの部分が緊張してるのかなぁ?」 「う‥‥」 ねっとり聞かれ真っ赤になる初雪。「‥‥体全体」と消え入るように答えたのは、素直な性格から。 「そうなんだ。初雪ちゃんは、体全体が初めての(中略)みたいにガチガチに緊張してるのね〜」 ‥‥可愛そうなので描写はここまで。 ここで、地図を持ち先頭に立った羅喉丸の声が響いた。 「おい、敵が来るぞ。進路を塞ぐ敵のみ攻撃し、突破を優先する」 商店街に入る前に、鬼の姿をした妖禍使が寄って来た。 「速いな」 「広視の援護者」の名で知られる竜哉(ia8037)が目を細めた。後方から放つコルリスの弓を受け消滅しながらも、敵の後続が数を頼りに詰めてきている。 が、基本的に技量の差は歴然としていた。斬竜刀「天墜」を振るう竜哉と「アーマードヒット」を纏う拳をうならせる羅喉丸の二人で退けた。 いや。 竜哉が、相手は格下と見てわざと敵の攻撃を受けていた。棍棒を振り下ろされたが、体に痛みはなく若干気が遠くなっただけだ。 (なるほど。詰まる所今の俺らは一種の「幻想」という奴か) 改めて、前を見据える。 人は全滅したが、建物は残っている。 呉の街は、まだ死んでいなかった。 (諦めない思いが俺達を「呼んだ」とすれば‥‥) 「よし、商店街だな。‥‥竜哉殿?」 羅喉丸は考え事をしているような仲間を気遣った。次の敵が来ている。圧倒的な数である。 「‥‥それに応えない訳にゃいかないな」 微笑する竜哉。再び戦闘態勢。 と、ここで誰かの歌声が聞こえていた。 ♪沈む夕日に過ぎ行く今日 何を成したか掴んだか 竜哉の足元に付き従う人妖・鶴祇が歌っていたのだ。 「鶴祇、紅嘴鴉になってくれ」 わらわら寄って来る鬼を斬竜刀の長さを生かした横薙ぎで払っておいてから、指示を出した。 「歌は途中なのじゃがのう」 とか言いつつも、改造メイド服姿の鶴祇は人魂で鳥に姿を変えた。 ♪生きる為の精一杯、諦めたくない強い思い 上げた顔には光差し、奇跡の予感に風が舞う 続きは、竜哉が歌っていた。 斬る、斬る、斬る。 その『諦めない心』に、仲間も大いに奮戦していた。 ● 竜哉と羅喉丸の脇から、今度はルオウが前に出た。 「雪、建物の上からの敵に注意してくれ」 ルオウは相棒の猫又にそれだけ指示を出すと、殲刀「秋水清光」を手に敵を切る。 「よっし!」 手応えを感じ拳を固めるのは、一撃で敵を滅することができたから。 と、ここでコルリスが別行動に移るのを目の端に捕らえた。敵が狙っている。 「頼んだぜ! 雪、クロ!」 上着の胸ぐらを広げて猫又が出動した。 とん、と着地するとそのままたん・たんと跳ねて敵を襲う。ここでオォラの燐光を放つ雪。なぜか黒いもう一匹の猫又が現れると、大きく跳躍。 掲げた前肢からむき出しになった爪が光り、バッテン印に敵を引っ掻く! 『クロウ』、しかも威力倍増のハイパー技。分身したのはハイパー技の影響のようだ。ルオウ、可愛い相棒のため気力を惜しみなく使ってきている。 が、敵はまだいる。 「敵がいっぱい。ボクも助けるよ〜」 先ほどまでは人妖のフレイアを抱いたまま走り、「ふかふかなの〜」とかほわわんしていたプレシアがついに働く。「まったく。ようやく気が済んだようね」とは、呆れ気味のフレイアさん。 「わんわんおいで〜♪。向こうにいっぱいいる敵をご〜ってやっちゃえ〜☆」 火炎獣を呼び出し、コルリスを狙っていた鬼どもを一気にあぶってやった。 「皆さん、助かります」 忍犬・水明と走るコルリスは礼を言うと百貨店のビルへと入っていった。 ――さて、羅喉丸。 「なるほどな」 シエラからもらった地図を改めて見て、呆れていた。 丸印がついているところを見ると、「うどん」とか「居酒屋」とか「御食事処」とか書かれた幟やら看板が立っているのだ。どうも、現地の美味しい料理店マップだったようで。 閑話休題。 「俺はサムライのルオウ! かかって来い」 一人突出するルオウが咆哮で敵を引き付けていた。狙うは当然、回転切り。 「どうだ!」 ざざざ、と回転の勢いを殺し見栄を切るルオウ。周囲は全滅させるが、次が寄って来ている。 「皆、俺に任せて先に! 後から行くぜぃ!!」 自分の呼び寄せた敵だ。他人の世話にはなりたくない。 「そういうわけにもいかんだろう。‥‥四神の長の力をその身に刻むがいい、『地龍星脈陣』」 瞬脚で敵の裏に割り込んだ羅喉丸が、オォラ力を込めたハイパー技で崩震脚。周囲の鬼どもが瞬時に黒い瘴気に姿を変えた。 ここで、鳥がすいーっと一人立つ羅喉丸の元にくると、ぽんっと人妖の姿に戻った。 「泰拳士とは、気功を使う闘士。そうじゃのう、気功闘士(オーラバトラー)と呼べる存在なのじゃ」 蓮華である。主の破壊力ある一撃に目を細めて誇っていた。 ● その頃、ルンルンは。 「流石ニンジャ伝説の世界、丁度いい建物が沢山です!」 三角跳びで建物の上に。本体とは別ルートから、一直線に生体拠点を目指していたのだが‥‥。 「て、敵もたくさんです!」 眼下の裏路地に、いや、各方面からぞくぞくと鬼が集まってきているのである。これを放っておくと、本隊が包囲される危険性がある。 「あっ。邪魔はさせないんだからっ‥‥シュリケーン&ニンジャーアローガン!」 突然、ルンルンのいる屋根の反対側から鬼がたくさん現れた。はしごで昇ってきたか。 ともかく、きゃぴるんと可愛らしいサクラ形手裏剣を乱れ打ちしておいてから弓へ。 さすがに換装に手間取ったため最後は近接射撃となり、退けつつもここでルンルン、下に落ちる。当然下は鬼地獄。 「ニンジャ伝説3体の朋友の様に、ニンジャの力で目覚めるのです‥‥。いでよ、餓魔(がま)」 重包囲のピンチに朋友のジライヤ・パックンちゃんを呼ぶッ! しかも更にオォラ力でパワーアップ! 巨体を生かし回転の速い張り手でぐわしぐわしと暴れまくるパックンちゃん。‥‥ちなみに、ちゃんまでが名前である。 そして、別働隊のもう一人。 ――ガシャーン。 百貨店の一階で、コルリスが敵の攻撃に跳ね飛ばされショーケースのガラスを割っていた。 「水明、助かります」 彼女を攻撃した鬼は、忍犬の水明が飛跳躍で始末していた。絶対嗅覚で敵を調べてもらったところ、数体いたことが分かったのはいいが、狭い売り場で弓使いには若干不利だった。しかし、近寄る敵に対しては水明が頼りになった。 「鬼以外も、人の死体に取り付いている妖禍使もいるなんて‥‥」 と、ここで綺麗な鏡に気付くコルリス。 隣には、女性のマネキン。唇が綺麗なピンク色だった。その下に、ルージュ。発色の鮮やかなピンクで今年の新色らしい。 「‥‥上に急ぎましょう、水明」 平面にいては狙える敵が限られてくると読んだコルリスは、角度をつけて味方を援護することを思いついていた。後、ビルの屋上から味方を長距離から援護射撃。戦線を支えることとなる。 にこっと緩めた唇には、今年の新色が鮮やかに引かれていたとか。 ● 場面は、本隊に戻る。 「あらっ。何かしら、この音」 本隊後衛で、うにょうにょとうごめく触手の塊ともいうべき式を斬撃符として飛ばしていたカズラが異変に気付いた。 「初雪、暗視で確認して頂戴」 彼女の前でよろっと回避したあとげしっと豪快にミニスカートのハイキックを見舞っていた人妖に指示を出す。 「建物の向こう側までは見えないよ」 酔拳で戦っていた初雪は戻ってきて肩をすくめる。ちなみに、自分が攻撃を受けると主人にダメージがあると分かってからは、健気にも必死に戦っていた。 「‥‥この音、聞いたことはないわね」 首を傾げるカズラ。 ――きろりろり〜ん。 「大きな敵が来ます」 覚醒音とともに、開拓者全員にコルリスからの報告が来た。 次の瞬間、とんでもないものがカズラの視界に入ることになるッ! ズキュキュキュ! なんと、本隊が突入してきた側から鉄の箱が猛スピードでやって来たのだ。 オート三輪。別称、バタンコ。 無論、この時代の者は知っているが、開拓者が知るわけもない。操縦者は、人に取り付いた妖禍使。 「よ〜し、でっかいはんぺん!」 プレシアが前に出て、ぬりかべを召還した。 「あっ、気を付けて」 手にする刀、鴉丸で守っていたフレイアが振り返った。 「おおっ!」 その彼女が見たものは、圧倒的な破壊力でぬりかべを突破し突っ込んでくるバタンコ、そしてその突進に跳ね飛ばされる主人の姿だった。 「あ、もうやめて〜。ボクのさんちはぜろだよ〜」 「何言ってるの。って、あっ、先に帰っちゃだめ〜!」 姿の薄くなるプレシアを見てとっさに神風恩寵するフレイアであるが、今回それは意味をなさない。主人が消えたことでフレイアも後を追うように姿を消した。 「ひどい。敵味方お構いなしですか」 屋上からバタンコを狙っていたコルリスは、プレシアを跳ねた後、後輪を滑らせ方向転換をしつつ周囲の敵味方を片っ端に跳ね飛ばす光景に戦慄した。敵は一撃で消えていたが、味方はプレシア以外は健在。ただ、全員相当気力を削られたようだ。 「あっ!」 ここでコルリス、屋上から落下。 敵の大群が上がってきて、物量に押されたのだ。水明も戦ったのだが、敵も一緒に落ちているという雪崩れっぷりはどうすることもできず。転落で気力の大半が消えたが、力を振り絞って本隊へと戻る。 ● 「仕方ありません、『白黒塁壁の陣』」 本隊では、力を温存していたアルネイスがついにハイパー技。ぬりかべとモノリスの白黒二枚看板を、気力を込めてどげしっと召還。その場にいた敵をふっ飛ばしつつハの字に並べ、前方から群がる新たな敵をシャットアウト。入り口に向けて相棒のジライヤ、ムロンを召還。狭い入り口から来る鬼を獣大剣「岩砕」でぐわしぐわし。力の限り暴れ回る。 ところで、バタンコは放っておいて大丈夫か? 「パックンちゃん、ゴーです!」 どこからともなくルンルンの声がする。 「ムロンちゃん!」 ジライヤと入れ代わり、アルネイスはおたまじゃく型の斬撃符で受け持ち叫ぶ。「任せるのだ」と巨体を翻すムロンッ! すうっ、と空気を深く吸い込む。 「技の1号力の2号、蝦蟇砲オォラ充填率120%‥‥んちゃ!」 ルンルンの叫びに、ジライヤ2体が呼応する。オォラの力をこめて、今、夢の螺旋砲十字砲火ッ! ――ガスッ! 衝撃波に跳ねるバタンコ。弾き飛んで建物にぶつかる。タイヤ3輪はずたずた。運転席などのガラスは吹っ飛んでいる。 「この一撃は、天より穿つ!」 続けて、竜哉が階段を上って跳躍ッ。全体重を乗せ、ボンネットから運転者の妖禍使を直閃ハイパー技で串刺しにした。これでようやくバタンコ、沈黙。 ● 「見えましたっ。‥‥『秘射、朧観音』」 ついに卵型生体拠点を視界に収めたコルリスが、鷲の目と朧月の合成射撃をハイパー技として放つ。‥‥どうやら黒い霧らしいものを発生するようで、これにより遠くからはかすんで見えにくくなっていたようだ。 「硬いです。‥‥というか、ずいぶん柔軟なようです」 ぐにゃぐにゃと呼吸をしているように表面は脈打っている。コルリスの放った矢の跡からは、新たな鬼が湧いて出ている。 「あれは正に暗黒卵」 ルンルンが足を止めて言う。確かに、世の暗黒面が固まったような禍々しさがある。 「道は俺達が作ろう」 ここまではルオウが先頭で頑張った。今度は俺だとばかりに羅喉丸が突っ込み地龍星脈陣で敵を蹴散らす。そして‥‥。 「必殺のオーラナックルだぁ〜」 生体拠点に気力を込め必殺の拳をぶち込んだ主人の勇姿に、あらためて指定席に戻った蓮華が拳を上げて喜ぶ。 「耳元で怒鳴るな」 ざっ、と交代してそこから発生した妖禍使を叩く。効いてはいるようだが、厄介だ。 「竜のにーちゃん! いくぜ!!」 続くルオウ。胸元から雪が閃光でまばゆい目くらましを放つ。そしてルオウ自身は非常階段を駆け上がり、跳躍した。 「よし、行くのじゃ!」 鶴祇の声を背にそれと心得た竜哉も走る。こちらはベンチを踏み台に、跳躍。 「これが! 一撃に秘めし我が誇り!」 叫んだ竜哉の振り上げた剣が金色に輝き巨大化する。気力を込めて、今、唐竹割ハイパー。 「必殺の、オォラ斬りXだーーーっっ!」 ルオウは空中で一発蹴りを入れておいてから。羽ばたく紅い竜のようなオォラを纏い、ドラゴンブレスのようなオォラを纏った拳を重い咆哮のような轟音とともに振り下ろすッ! ズバッ、と右袈裟。合わせた竜哉の剣は、逆袈裟に。紅い軌道と金色の軌道が敵をクロスに切り裂いたッ。 「コレが私の全力全開!!」 「スーパームニエちゃんテイルですっ」 カズラ、アルネイスの後衛陣もこの好機を見逃さない。 血の契約iによって胸の下から逆五芒星の文様に血を流したカズラは、普段はしない二重契約で威力を増すだけ増した白狐を召還し襲わせる。 アルネイスは、気力を込めておっきくしたおたまじゃくしの斬撃符を放つ。 「そんな‥‥」 もちろん、コルリスも「秘射、朧観音」を打ち込んでいた。 それでも、生体拠点は消滅するどころか巨大化していた。逆に、今の連続攻撃で新たな秘射、鬼は吐き出していない。 「行くのだ」 巨体には巨体か。 この様子を見て、ムロンとパックンちゃんの2対のジライヤが動いた。ぴょ〜んと大跳躍をする。 アルネイスとルンルンも視線を交わす。そして頷く。 「ジライガーダブルキックですっ」 合わせた声とともに気力を込め、技の一号パックンちゃんと力の二号ムロンのジライガーキックが炸裂ッ! っていうか、なぜにこの時だけ謎なお面が顔の横に付いているか! ――ぐしゃあっ! 「わが道に、敵なし! なのです」 見栄を切るルンルン。しかし。 「そ、そんな!」 見守るコルリスの声が、非情に響いた。 ● 結局、ジライガーダブルキックは止めとなった。 しかし、四散した拠点の欠片は鬼となり、開拓者を襲った。 加えて、各方面からわんさと集まった鬼が重包囲。遠距離にいたコルリスが孤立して力尽きた。 また、必殺の一撃にすべてをかけ心に隙のできていた開拓者たちに、事態の急変に対応する力は残っていなかった。 前に、新たな鬼。後ろからは逆包囲。 そしてなにより、生体拠点のあった場所に大きな竪穴があったことが開拓者の判断混乱に拍車を掛けた。この穴に落ちたジライヤ2匹に動揺したアルネイスとルンルンが敵に揉まれ姿を消した。気力が高いとはいえない竜哉とカズラも奮戦ここまで。 「この事実を知らせなければ」 羅喉丸とルオウは撤退しての伝達を決意。 「‥‥今度こそ、俺に任せて先に行けよな?」 多勢に無勢。ルオウはそう言って最後の咆哮と回転斬りで仲間を逃がすのだった。 使命を優先した羅喉丸のみ、無事に呉軍港までたどり着いた。 「‥‥分かった。調査が必要だな」 シエラ艦長はそれだけ言って労うと、羅喉丸にキス。気力を奪い取ることで元の世界に帰すのだった。 余談だが、戻った羅喉丸の唇には今年の新色が付いていたという。 |