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■オープニング本文 ●海老園次々郎 さて、志士の海老園次々郎(かいろうえん・じじろう)。ふらふらと各地に顔を出すが、今回は泰国某地方の山中にいた。 「周りは反応だらけ。心眼よりイガ栗が飛んで来た方に攻撃した方が早いですよ」 ひゅん、と殺人的な速度で飛んでくるイガ栗を避けながら次々郎は声を張った。 そう。 現在、依頼仲間と一緒にアヤカシと交戦中である。 「見つけたっ! カズラの蔦が延びてる栗の木」 仲間の弓術師が射線の通る場所に移動して矢を番えたところ、四方八方からイガ栗を食らった。 「きゃあっ!」 「くっ。‥‥栗林にいる狂骨退治のはずが、こういう裏があったとはな。だがッ!」 「よせ。いったん引こう」 猛るサムライを次々郎が止めた。この二人に加え、騎士が盾となり弓術師を守っている。今、巫女も寄ってきて無事に回復。 「次々郎〜。お前はいつもいつも‥‥」 「依頼にあった狂骨の群れはほぼ全滅させたんだ。依頼の失敗にはならんさ。それに、俺はもう練力は残ってないぞ。狂骨より数段厄介な敵の包囲陣を崩す余力はないだろ。‥‥さあ、早く」 「くっ。確かに余力はねぇわな」 次々郎は何とか仲間を説得。撤退行動に入るのだった。 ●香鈴雑技団 前回、海辺で開拓者達と遊んだ香鈴雑技団の子どもたちは、山中にある次の村に向かっていた。 「わあっ、栗です♪」 「やった。栗拾い栗拾い〜」 道中、そばの林にイガ栗が落ちていることに気付いた皆美(みなみ)が言うと、兵馬(ヒョウマ)が小踊りして近付くのだった。 「待て、おかしい」 それを、前然(ゼンゼン)が止めた。 「何だよ、前然」 「‥‥村がもう見える位置。それなのにこんな目立つ場所にイガ栗が残っているっていうのは異常だね」 代わりに陳新(チンシン)が答えた。 その時、突然林の奥からイガ栗が飛んで来た。 「きゃっ!」 「在恋!」 在恋(ザイレン)をかばい、イガ栗をもろに背中に受ける闘国(トウゴク)。‥‥イガ栗はかなり遠くから飛んで来たようで、幸い威力は弱まっていたようだ。闘国は痛みに顔をしかめるが、大きな被害ではない。 「闘国、大丈夫?」 「チクショウ、何がどうなってんだ?」 涙目の在恋が闘国を心配し、烈華(レッカ)が前に出て遠くをうかがった。 「よしておきなさい、烈華」 紫星(シセイ)が止めたところで、大人数人が走ってやってくるのだった。 「おい、ここはアヤカシがいて危険だ。早く村まで帰るぞ」 逃げてきたのは、海老園次々郎たちだった。 ●村にて 「そうですか。怪骨はほぼ退治したものの、栗の木にとり付いた別のアヤカシがいましたか‥‥」 村長は開拓者たちの無事を喜んだが、肩を落とした。 「これで、さらに栗拾いが絶望的か‥‥」 栗林はかなり大きかった。村の貴重な財源であろう。 「すまねぇが、俺たちに再出撃する余力はもうねぇ」 次々郎の仲間のサムライが頭を掻いた。「いや、最初の約束を果たしてくれたから感謝しておる」と村長たち。 「ただ、なぁ」 もう、開拓者を雇う余裕がない。次々郎たちを呼んだのだって、無事に栗拾いをして収入を得る事を前提として雇ったのだ。もう、捻出する資金は残っていない。それどころか、このまま栗を拾うことができなければ間違いなく、村は正月を越せなかった。 「‥‥じゃあ、俺たちが開拓者を雇うよ」 「お兄ィやお姉ェたちなら、ちょっと賃金が安くてもきっと来てくれるサ」 前然が名乗りを上げると、烈華が胸を張った。‥‥実は、前の海辺の町から公演してないので資金的に不足気味ではあるのだが。 「いやいや。たまには出資者としての顔を立てさせていただきたいですな」 お任せ下さい、と記利里(キリリ)が手を胸に沿えて一礼した。 「村としてはぜひともお願いしたい。無事にアヤカシを一掃して栗拾いができたなら、栗料理をたくさん振る舞いますので‥‥」 「よぅし、決まった。‥‥俺たちのお兄ィやお姉ェは、強いんだからなっ!」 兵馬は得意そうに鼻の頭を親指で弾くのだった。 |
■参加者一覧
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
真珠朗(ia3553)
27歳・男・泰
浅井 灰音(ia7439)
20歳・女・志
趙 彩虹(ia8292)
21歳・女・泰
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
霧咲 水奏(ia9145)
28歳・女・弓
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
繊月 朔(ib3416)
15歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ● 「『やったぁ。絶対だからね、ステラ姉ェ』か‥‥」 ぽつりと呟いてから、「前回は迂闊だったわ」と煌夜(ia9065)が嘆く。銀色の髪が秋風になびいた。 「海は、楽しかったでござるよ?」 そんな煌夜に、「香鈴の弓姉ェ」こと霧咲 水奏(ia9145)が悪戯っぽく、くすっと微笑した。「香鈴のステラ姉ェ」こと煌夜が悔やんでいるのは、前回、子どもたちと遊べなかったこと。 「姉ェ失格にならなよう、今回は張り切らないとね」 煌夜、さばさばしたところのある女性だが実は義理堅い。 ――さて、そんな今回。開拓者が向かっているのはアヤカシがいるという栗林。 「村の人のためにも、私たちのためにも栗林を救いましょうね!」 その栗林を前に、狐の獣人、繊月 朔(ib3416)がひとつ跳ねて振り返った。 「ん? 朔さんて食いしん坊だったかしら」 ここで、疑問の声。朔とはお隣さんの仲、浅井 灰音(ia7439)が右目を瞑ってウインク――もとい、思案顔で首を傾げた。 「繊月様は美味しい物が好き〜♪ これは楽しみが増えましたねっ」 灰音の並んで歩くのは戦友でライバル。白虎の泰拳士は趙 彩虹(ia8292)が上機嫌に言う。料理が趣味で、美味しく食べてもらうのが大好き。しかも故郷の泰国で味わってもらえるのだからなおさらだ。 「秋といえば、やっぱり食べ物が美味しい季節だねぇ」 にこにこと九法 慧介(ia2194)も会話に加わる。 「美味しい栗と雑技団の弟妹達のためならば、お兄さんは何でも頑張っちゃいますよ!」 雑技の子どもたちからは、「香鈴の手品兄ィ 」と慕われている。やる気満々である。 が。 「例えそれが、栗の木と戦う事であろうとも‥‥」 聞いたことないよそんなアヤカシ、と遠い視線。空に鰯雲が流れる。 「前から思ってたけど季節感がありすぎるぞアヤカシっ」 「ま、そもそもアヤカシに常識を求めるのが間違いだしね」 やり場のない突込みを入れる慧介に、灰音がクールに応じる。って、灰音さん、あなたも「栗を投げつけるアヤカシって‥‥妙なアヤカシ」とか呆れてたじゃないですよぅ。 「しかし、栗の木に紛れた木のアヤカシか。まさに木を隠すには森の中、だな」 それはそれとして、整然と並ぶ木々を見ながら琥龍 蒼羅(ib0214)が静かに言う。「香鈴の蒼兄ィ」は今日もクールだ。 「素敵ぼーいずあんどがーるずに栗を持って帰る約束をしましたからねぇ」 胡散臭いジルベルア語まじりで話す真珠朗(ia3553)。頑張りますか、と厚手の布を首周りなど肌の露出した部分に巻きつけ始めるのだった ● 「念のために」 栗林突入前に、水奏が弓「神緑」を構えた。矢を番えず引き絞り、びぃん、と弦の音を響かせる。弓術師特有の索敵技、「鏡弦」である。 「どうだ? 水奏」 蒼羅が確認すると、水奏は困った顔をした。 「林全体に満遍なく居るようで御座いますな。固まるということはないので御座るが、どうにも全体にぼんやりした反応で‥‥」 「ま、手近なところが分かればいいんじゃないかしら。時間が掛かるけど、あとはそこから片っ端。‥‥接近すれば蔦が飛んでくるかもよ。遠くから叩くのが良いでしょうね」 迷っても仕方ないと煌夜が結論付けた。 「そうですね。飛んでくる栗も怖いっちゃ怖いんすが、焦って突っ込んで、蔦やら骨やらに、文字通り足元掬われても業腹ですし」 「ああ。接近して直接攻撃する際は蔦の攻撃に要注意だ」 真珠朗と蒼羅も同調する。真珠朗に限っては、敵の攻撃の本命は蔦だと読んでいるが。 「この反応は確かに蔦かも知れませぬな。木に矢の効果は薄い可能性があるゆえ、拙者は怪骨や蔦への攻撃をいたしまする」 水奏も蔦の危険性に気付いている。前衛部隊の突貫による速攻を進言した。 「分かりました。少しでも長く囮を続けて皆さんの負担を減らしますね♪」 さ、真珠朗様と声を掛けて彩虹が林に踏み込んだ。 戦闘開始である。 「‥‥お早いお出迎えっすねぇ」 「その程度の攻撃‥‥避けてみせる!」 早速飛んできた栗のイガ毬に対し、真珠朗が、彩虹が、ひらりひらりと回避する。ともに泰拳士。背拳の使いどころはこことばかりに見事ノーダメージ。 「おかしい。真珠朗殿、趙殿、お気を付けを!」 ここで後方にいる水奏が声を張った。 開拓者は、弓の水奏と防衛的補佐の巫女・朔を志士の四人が守りつつ、朔の神楽舞で防御力を上げた泰拳士二人が前々に躍り出て囮として陽動する戦法を取っている。 今、真珠朗と趙に攻撃が集中しているのは本来理想的であるが、先に索敵をした水奏が戦場の違和感に気付いた。 泰拳士二人に飛んでくるイガ毬の方向には、アヤカシの栗の木はいないはずなのだ。 「そっちか!」 弓を装備していた慧介が体をひねってイガ毬の飛んできた方を狙う。紅蓮紅葉の燐光がきらめき舞う中放たれた矢は、栗の木の陰から投擲しようとしていた蔦を貫いた。蔦、瘴気を散らしボロボロになって地に落ちる。 「木の陰から投げつけてくるか」 周囲の木の位置によっては弾除けなど利用できると目を配っていた蒼羅も看破した。 アヤカシは、自分のいない方向からイガ毬を投げていたのだ。 「まずい、距離が離れ始めたわね」 「あっ。精霊よ、この者を守りたまえ」 陣を崩し前進する煌夜に、朔があわてて神楽舞。 「なるほど、誘導させられているというわけですな」 水奏も気付いた。 この時、前衛の二人は「前方に避けるように投げられていた」攻撃から、「当てるために集中して投げている」に変わった攻撃にさらされていた。 そしてここで、戦いの局面が大きく変わるのだったッ! ● 「な、何ですかぁっ!」 上半身へ投げられるイガ毬攻撃を避けたり受け落としたりしていた前衛二人だったが、その隙に足元に張り巡らされた蔦に両足を絡め取られてしまった。一気に転倒させられると、そのまますごい勢いで引き摺られる。 「っ☆Σ△♭□д○‥‥!」 地面には、当然収穫できていない栗が落ちるだけ落ちている。 「彩っ!」 親友の危機に灰音が走る。水奏、慧介は前方の栗の木に一斉射撃。が、引き摺られる二人はその木を通り過ぎた。同じ方向のもう一つ先の栗の木の幹が、ここで不気味に変形した。ぐわっと縦に割れて口が左右に開く形となる が、これはむしろ好機となった。 「逆に助かりましたかねぇ」 「粉・砕!」 引き摺られる二人にとっては、距離が長かったことは脱出の猶予があると同義。真珠朗は忍刀「風也」で、彩虹は飛龍昇による鉄拳制裁で絡みつく蔦を攻撃、無事に脱出していた。‥‥痛かったのだろう、彩虹に至っては気力を込めるほどのお怒りっぷりだ。 「むしろ良かったかしらね‥‥カミナギの力、初披露。ってね」 煌夜の振るう霊刀「カミナギ」から雷電の刃がほとばしる。飛び行く雷鳴剣の一撃は栗アヤカシの幹に食い込むッ! 「この場合は、本体でしょうな」 「水奏さんに同じく」 腕を磨いた水奏の即射は一矢一矢に威力が籠もる。慧介も射撃を集中。 この時、蒼羅の目が光った。 本隊横合いから怪骨が大きな剣を振り上げて襲い掛かってきていたのだ。 「先ずは」 虚心。 これを食らった者は、我が目を疑うだろう。当てるために必殺の気を込め襲い掛かったはずが、そのみなぎらせた気がゆえにかわされる。剣で大地を耕すことになった怪骨の隙だらけの体に、釵「猫胡」を叩き込む・叩き込む。 「‥‥数の少ないこいつらを片付けるのも、いい」 ざっと身を引く蒼羅。いまいた場所で、しばらく一方的に攻撃を食らっていた怪骨が黒い瘴気となって消えうせた。 一方、対栗アヤカシ。 「もう、食らいやせんぜ」 百虎箭疾歩で姿勢を低くしつつ一気に距離を縮める真珠朗。勢いを生かし突いた後、さらに蹴りを入れる。今回は少ない挙動で戦うようだ。 「もう後ろへは攻撃させません‥‥よっ!」 彩虹も裏一重で蔦を交わしつつ、幹へと飛龍昇を叩き込む。 ‥‥ところでお二人さん。肉弾攻撃で栗の木を揺らしていいんですか? が、イガ毬は落ちてこなかった。 と、ここで虚心を駆使し突っ込んで来た灰音の一撃。ヴィーナスソードで流し斬る。さらに水奏と慧介の矢が立ち、アヤカシは力尽きた。 「ふうん。ボロボロになった木が残るのね」 知識欲の高い煌夜が観察した。どうやらアヤカシに取り付かれすでに食われていたようだ。つまり、実際の実をつける力はない。 「手品のネタはこれで割れた、かな」 手品好きの慧介は得意げに言うのだった。 ● のち、八人はこの戦法を繰り返した。 「虚心を使っても、これじゃな」 蔦に引き摺られていた慧介が、弓から持ち替えていた刀「乞食清光」で脱出してぼやいた。前衛の番が来て、蔦に注意していてもその数に最後は取り付かれてしまう厄介さに舌を巻く。 「ああ、数が多い。‥‥とはいえ、村と雑技団のためにも無事解決せねばな」 釵「猫胡」から刀と朱苦無に換装した蒼羅が慧介と入れ替わり、前衛での仕事に就く。 「風よ、傷を癒して」 慧介は朔の神風恩寵を受けてから、再び弓を持つ。 「ハイネごめん! 囮代わってー」 「ん、まかせてよ、彩。ここは私が受け持つからしばらく休んでて」 一瞬背中合わせになって全方位からくるイガ毬を落としておいてから、彩虹と灰音の二人も前後衛を入れ替わった。彩虹の方は、生命波動で自力回復。 「しかしまあ、判別が付き始めただけでも楽になったっすよねぇ」 真珠朗がイガ毬を叩き落しながらつぶやく。 そう。 栗アヤカシは実をつけてもそれは形だけ。ゆえに、下に栗の少なめの木が怪しい。さらに、敵を近付ける・近寄せてから捕食するという行動から、遭遇初期のイガ毬の飛び具合から本体の方向の見当がつくということ。 「厄介なのには変わりないんだけどね」 ぼやく煌夜の視線の先では、蒼羅と灰音が蔦の絡め取り攻撃の前の全方位一斉攻撃を食らっていた。足元を防ぐ戦法に出たようだが、こんどはイガ毬を食らうだけ食らっている。「全く‥‥こうも多いと球と言うか栗と言うか、とにかく軌道が読み難いっ!」とか灰音の声が聞こえる。まあ、まさにそういう状況で。 と、ここで本隊にも飛んできましたよ。 「あっ。‥‥栗を傷つけると、もらいが‥‥じゃなくて、村人のためにも栗には傷はつけないようにしないとですね!」 「繊月殿は優しいで御座るな」 朔がイガ毬を杖で受けて落とすと、肩を並べる水奏が優しく言ってから、狙眼で蔦を狙う。 「あ。結局絡めとられやしたね」 前方で転倒させられる二人。さ、出番かと真珠朗が突っ込む準備をする。今回は、先に蔦の数を減らしていたので後衛の突撃が容易で手早く止めを刺せたようだが。 そして。 「雷鳴剣は撃ち尽くしたけど、カミナギの切れ味は変わらないわよ」 前衛に回った煌夜が止めの一撃を振るう。 「ふぅ‥‥もう大丈夫でしょうか?」 彩虹は最後の怪骨を「粉砕!」した後、汗をぬぐいながら周囲を見回す。もう、アヤカシはいない。 そして思い返すにつけ、栗林は広かった。 それが八人の感想である。 ● 「これで栗林のアヤカシは排除できました!安心して下さいね」 村に戻ると、にっこり笑顔で朔が両手を広げる。 「やった」 「さすがじゃ」 村人は大喜びで籠を背負い火箸を手にする。雑技団の子どもたちも開拓者活躍を信じていたようで、すでに同じ格好をしている。 「そういえば、怪骨はいなかったで御座るな。‥‥先の開拓者殿たちの手柄でありまするな」 「‥‥弓姉ェ、なんかいつもと口調が微妙に違うくない?」 気を利かせた水奏がさりげなく村長の前で言うと、疑わしそうに烈花が突っ込んだり。 「ははは。変わらぬで御座るよ。さ、烈花殿、栗拾いに参りましょう」 「そうだ、いいんだよ。ほら、烈花、行くぞ」 前然も気付いて慌ててやって来ると、水奏と一緒に烈花の手を取りその場から離れる。 「故郷でも秋になれば山に入っては栗拾い、栗料理をねだったものに御座いまするよ」 と水奏。「へえっ、弓姉ェがねぇ」、「ちょっとイメージ変わったかな」とか烈火と前然。それを、在恋がうらやましそうに眺めていた。 「怪我だけはしないように気をつけてよ? 棘が刺さると地味に地味に痛いからね」 火箸で取るのをまどろっこしく感じた兵馬が素手でイガ毬に手を伸ばそうとしたところで、灰音が注意した。普段クールな灰音であるが、このときばかりは地味に眉の根が寄っていたとか。身をもって確かめた後だけに、思いがこもる。 「皆と食べる秋の味覚。楽しみだなぁ」 慧介は笑顔でひょいひょい収穫。隣で皆美が両手を合わせて「すごい、手品兄さん」と歓喜している。 と、ここで陳新に出合った。「ちょっと」と連れられ皆美と分かれる。 「元気そうで何よりだな」 「ねえ、手品兄さんに恋人は‥‥」 あ、と二人とも気まずい表情。まさか掛けた言葉が被るとは。 ぷ、と笑って陳新が答えた。 「うん。僕はもう大丈夫だよ。‥‥在恋は、僕を兄とみているような感じでね。まあ、僕が最年長だから仕方がないんだけど」 陳新はびっくりするほどよくしゃべった。どうやら「在恋がそばに誰かいて欲しい時にそばにいることができる立場」というのにある程度満足しているようだ。 「はいはい。料理ができましたよ〜」 そのうち、同時進行の炊き出しや料理も準備ができたようで。 「わぁ、栗ご飯大好きなんですよ♪」 ほくほく山盛りの茶碗を手に、にっこり朔が狐しっぽくりんくりん。 「栗と鶏肉の炒め物です♪」 「彩の手料理を泰国で、か。ほら、朔さんも」 「う?」 灰音からたっぷり山盛りを渡され、しっぽくりんくりん‥‥。 「料理のできない拳士はタダの拳士なんすよ。半分くらい嘘ですが」 うさんくさいうんちくとともに、真珠朗が栗餡と栗の甘露煮を求肥に包んだ手作り菓子を渋茶とともに出す。‥‥たっぶりと。 「う‥‥」 しっぽのくりんくりんが少し弱まったような‥‥。 「そーいや闘国君、頑張ったそうじゃな〜い?」 煌夜は、闘国に身を摺り寄せ甘い声で言った後、甘い栗金団を「あ〜ん」とか。闘国、真っ赤になって唖然と口を開くだけ。 「んもう。もうちょっと『あ〜ん』」 「‥‥危険だな」 二人の様子を見ていた前然は、巻き込まれないうちにとそそくさと逃げ出したとか。 「記利里殿」 水奏が、雑技団の後見人を見つけると呼び止めた。 「収穫にあわせ、問屋が来ているのでは。公演に向きそうな村町の話も聞けるのではありませぬかな?」 「お、おお。そうですな。‥‥では早速」 感謝の礼をして記利里は姿を消した。無事に次の公演先も決まったようだ。 そして、お別れ。 「また何かあったらいつでも呼んでくださいね」 上機嫌に朔が手を振る。雑技団の子どもたちも、村人も手を振っていた。みんなみんな、上機嫌の笑顔。 「‥‥朔さんは美味しい物好き」 「繊月様は美味しい物が好き〜♪」 いつもの朔を真似てメモをする灰音と彩虹だった。 |