【珈琲】ようこそ南那亭
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 46人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/11 23:22



■オープニング本文

「ふんふんふ〜ん♪」
 コーヒー豆の飾りをあしらったジルベリア風メイド服姿の深夜真世(iz0135)が、ばさーっと泰国風丸机に敷物の布を広げた。鼻歌交じりでご機嫌だ。がた・がたと椅子の位置を整えて、くるくる〜んと回って移動してから天儀風の障子にはたきを掛けて。

♪異国の地より届けに来ました
 開拓者たちはギルドをあとに

 一緒に冒険した開拓者の歌っていた曲を口ずさむ真世。
――お客さん、来てくれるかな。
 そんな、期待。
――無報酬だけど、ギルドに告知を出したからきっと来てくれるよね。
 希望に近い願いに目を輝かせている。
――そうそう、それから頑張って珈琲を収穫したみんなも。
 そう。
 ついに、泰国土着の飲料、コーヒーを商品開拓し天儀で本格的に売り出すときが来たのだ。
――大好きな人と、特別のゆったりした時間を過ごしたりー。
 キスをねだるようにうっとりと目を閉じあごを上げる真世。
――たくさんの仲間とわいわいお話したりー。
 くるんと回ってメイド服の裾を広げる。
――そんでもって、一人でコーヒーの味をじっくり堪能したり☆。
 椅子を引いてとすっと座り、肘を突いて小首を傾げたりも。
「‥‥真世くん、可愛らしいけどまじめにね」
「きゃああああああ〜っ!」
「どうしましたか?」
 あまりの真世のとりっぷぶりに、一緒に店内を整えていた林青(リンセイ)があきれた。響いた真世の悲鳴に、奥の厨房から加来(カク)がやって来る。
「いや、なんでもない。‥‥しかし、『珈琲流通開拓者』の皆には悪いことをしたな。場所は結局、開拓者ギルドのある通りから一本入ってしまった。目印の人形も、さすがに予算がなくて」
「こちらにはこちらの文化があります。目立った場所だとやっかみもあるでしょう。‥‥目印は、『太陽の香り、南国の味「香陽」』ののぼりを立てたから大丈夫。逆によそから来た者としては、こんな場所でちょっとほっとします」
 閉鎖的な南那から来た加来は、控えめにそう言う。
「そうそう。それに、店員も前の臨時開店で頑張ったみんなだから、きっとお客さんに満足してもらえるよ」
 真世が明るく言うと、また歌を口ずさむのだった。

♪裏道一本 はためくのぼり
 遥かな芳香漂うところ
 カホア・アルナンナティ
 香陽(コーヒー)ある南那亭

 そう、南那亭。
 珈琲茶屋・南那亭。
 記念すべき開店記念日まで、あとちょっと――。


■参加者一覧
/ 柚乃(ia0638) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 大蔵南洋(ia1246) / 巴 渓(ia1334) / 真珠朗(ia3553) / 慄罹(ia3634) / 瀬崎 静乃(ia4468) / 平野 譲治(ia5226) / 氷那(ia5383) / ガルフ・ガルグウォード(ia5417) / 菊池 志郎(ia5584) / からす(ia6525) / 亘 夕凪(ia8154) / 和奏(ia8807) / リエット・ネーヴ(ia8814) / 以心 伝助(ia9077) / 茜ヶ原 ほとり(ia9204) / ラヴィ・ダリエ(ia9738) / ジルベール・ダリエ(ia9952) / ユリア・ソル(ia9996) / フラウ・ノート(ib0009) / セルシウス・エルダー(ib0052) / アーシャ・エルダー(ib0054) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / アイシャ・プレーヴェ(ib0251) / 十野間 月与(ib0343) / キオルティス(ib0457) / 琉宇(ib1119) / モハメド・アルハムディ(ib1210) / 唯霧 望(ib2245) / リア・コーンウォール(ib2667) / 万里子(ib3223) / 禾室(ib3232) / 月影 照(ib3253) / ディディエ ベルトラン(ib3404) / 十野間 修(ib3415) / ライディン・L・C(ib3557) / 寿々丸(ib3788) / 常磐(ib3792) / 桐谷 紺(ib4009) / 雨宮 瑠璃(ib4061) / 真田 幸村(ib4129) / *吹雪*(ib4171) / 魁 翔耀(ib4172) / 鶴谷 天馬(ib4185


■リプレイ本文


――カチャカチャ、カチャ。
 土間の奥の厨房で、加来がカップと受け皿を整理している。
――ざざざっ、ざ・ざっ。
 これは、林青が珈琲豆を焙烙している音。
「ヤー、真世さん。歌を気に入っていただけてショクラン、ありがとうございます」
 テーブルを拭いていたモハメド・アルハムディ(ib1210)が、奥からやって来たメイド服姿の深夜真世(iz0135)に微笑んだ。真世、モハメドの作った曲を今日も口ずさんでいる。
「だって楽しい歌だもん。楽しく働いていたら自然に鼻歌が出ちゃうよね」
 真世はウインクしてからパチン・パチンと指を鳴らす。
「わしも精一杯働くのじゃ!」
 そこへだだだっとメイド服の禾室(ib3232)がやって来る。モハメドは布巾を置いて同じくリズムを取りながら真世の横に。
「うん。働こう、一緒に♪」
 真世は肩を波打たせ腰を振り、横にちょっとずつ移動。揺れるスカートの裾に触れるほどモハメドも近寄って同じくダンス。背は低いが禾室も傍に来て波打つように横移動。笑顔。
「こういったものはイケ面な方が着てこそな気がするのですが〜、どう思われますです?」
 そこへ、奥からぼやきながらディディエ・ベルトラン(ib3404)がやって来た。くるっと振り向く三人。ディディエは、着慣れない執事服をきっちり着こなしているがちょっと不満顔。
「ええ〜。ディディエさんは涼しい系のイケ面だよっ」
「ラーキン、しかし暑いですからね。着崩してもよいのでは」
 真世とモハメドが気軽に言う。ちなみにモハメドは南国の雰囲気が伝わるいつもの格好。
「それじゃあ」
 ディディエは上着を取って着崩し、いつもの服装のようにふんわりと。装黙頭巾はあらためて着用。くるんと回った三人にあわせ、ディディエも回る。
「ちょっと、のぞむ。恥ずかしいよ」
「こういうのはきっちり着こなすのが良いのですよ」
 さらに奥から、執事服の万里子(ib3223)(以下、まりね)と唯霧望(ib2245)がやって来た。実直で折り目正しい望はとても似合っているが、まりねの方は‥‥。
「あはっ。まりねちゃん、黒っぽい服はいつも似合うね☆」
「そうじゃ。いつもと変わらんわい」
 真世と禾室がやんやの拍手。鼠の神威人ということでむしろ似合っているようで。
 ところで、南那亭めいど☆はもう二人いるはずだが。
「うん、きょうも笑顔バッチリ」
 奥の方で、アーシャ・エルダー(ib0054)が鏡を覗き込んでいた。顔の角度を変えて、にこっとか、うふっとか笑顔の練習。
「お姉、お待たせ」
 そこへ、妹のアイシャ・プレーヴェ(ib0251)が登場。どうやら妹の着替えを待っていたらしい。
「アイシャ、鏡は?」
「お姉がキレーなら、あたしもキレーです」
 そんなこんなで手を取り急ぐ。実はアイシャ、奥で小さな鏡でしっかり笑顔練習していたのは内緒。どたんばたんと出てきたが、片足引いて腰を落としてにっこり笑顔でポーズ。
「あいしゃ、良かった」
「真世さん、もういいですよ」
 まりねがにっこりすると、望が振り返って真世に指示。
「よぅし。それじゃいくよ」
 引き戸に手をかける真世。「せ〜の」と言いつつぐっと開ける。
「珈琲茶屋・南那亭、本日開店ですっ!」
 明るく、皆で声をそろえた。


「コーヒー? 聞いたことない飲み物ですね」
 呼び込みの声に足を止めたのは、菊池志郎(ia5584)だった。どうやら興味を持ったようで、早速入店。
「‥‥薬みたいです」
 出てきた黒い液体を見てぼそりと。さすがはシノビ、慎重である。
「でも、きっとこれから流行ります」
 給仕した望がにこりと主張。志郎に説明する。
「泰国で飲まれているのですか? ‥‥でも泰国料理には合わないと思うのですが?」
「いいえ。飲み物を味わうために食べ物があると思ってください」
 セットのかき餅は、仲間の提案でほんのり甘く仕上げている。
「泰国でしか栽培できませんし」
「暑い気候の島ですか。それでは天儀本島で栽培するのは難しそうですね」
「だから、私たちが頑張っています」
 今まで数多くの依頼をこなしてきた志郎。頑張る人は嫌いではない。にこやかに砂糖を入れたりミルクを入れたりしながら楽しむが、どうも何も入れないものが一番美味しいと結論付けたようで。
 一方、真世。
 獣人の魁翔耀(ib4172)を接客していた。
「実は依頼初心者でね」
「私もこの春に初依頼を受けたばかりなんですよ」
 真世、仲間だとばかりに親しくする。
「へえっ。疾風脚の得意な泰拳士さんなんですか」
「ああ。戦闘することがあったらスキルを使ってアヤカシを退治するぜ。‥‥あ。今は気晴らし骨休めだがね」
 じゃ〜んとばかりに力こぶを作ってみせる翔耀。
「南那亭も、今日がはじめての開店。真世たちも頑張るから、翔耀さんも頑張ってね♪」
 ひらりと腰のリボンを翻し給仕に戻る真世。
「おう。頑張るぜよ!」
 翔耀の声は、力強かった。


「おっ。きっとここだじぇ!」
 裏通りで南那亭ののぼりを発見し元気良く振り返ったのは、リエット・ネーヴ(ia8814)。そして、彼女の様子に目を細めているのは、リア・コーンウォール(ib2667)だ。姪のリエットの元気一杯の姿が大好きだが、たまに元気爆発っぷりに頭を抱えることもある。
「そうだな。‥‥苦い飲み物が飲める、か」
 言って、さらに目じりを下げる。
「い・らっしゃいませ〜♪」
 入店すると、ちょうど背を向けていた真世が忙しそうにしていた。ノリよく働いていたようで、くるりんと振り返ってにっこり。
「おお〜」
 この様子に目を丸くするリエット。きゃあきゃあと飛び跳ねては真世の両手を握りぶんぶんしたり。
「リエットなの。今回はよろしくっ!」
「初めてお目にかかる。リアだ。よろしく頼む」
 リエットは真世と仲良くなった様子。リアはほかの店員にも挨拶していた。
「これはご丁寧に。こちらへどうぞ」
 望は空いた席に案内しつつ、珈琲について簡単な説明をしたり。
「楽しみ楽しみ♪ うっ、きゅっきゅ!」
「深呼吸すると、雰囲気がより楽しめるな」
 珈琲二つを注文して待つ間に、リアがそう諭した。すうっ、と胸を膨らませる二人。店内の匂い立つ香りに顔を綻ばせるリア。そして、珈琲が来る。カップを持ってからも、白い湯気と香りを改めて堪能。
 と、リエットが舌を出す。
「苦ぁ〜い♪」
 口に合わないようだが、ちょっと待て。何だかうっ、きゅっきゅと喜んでいる。不思議な娘だ。
「すまないが、ミルクか砂糖を頂けないだろうか」
「おぉお。なんかまろやかになった?!」
 リエット、ミルク入りに大満足。この後、実家の話で盛り上がったりしたようだ。


 さて、中には一人で来る客も。
「え、これを飲むの!?」
 和奏(ia8807)である。
「香ばしい匂いが致しますね‥‥」
 どうやら和奏、香りは気に入った様子。
 が。
「焦げた豆の煮汁?」
 そう眉をひそめた。隣にはミルクと砂糖がある。
 が、見ただけで特に入れもせずに飲む。
「‥‥癖になりますね」
 どうやら酸味は苦手のようだが、「悪くない」という評価のようで。
「よぅ、和奏」
 そこへ、ガルフ・ガルグウォード(ia5417)がやって来た。
「ん? いい香りに誘われてなぁ」
 和奏の視線にそう答えると、砂糖どぱどば。これに驚く和奏。数えて、3杯。「え、これを飲むの!?」とまじまじガルフを見る。
「いただきますっ。‥‥う〜んこの香り、癒されるなぁ」
 飲んだガルフは至福の表情。ハの字眉で至極ご満悦だ。
「わぁ、いい香りだね〜」
「そうだな。‥‥豆のにおいか。これは当たりだな」
 そこへ連れ立って入店したのは、茜ヶ原ほとり(ia9204)と慄罹(ia3634)。さては恋人同士かというほどの仲の良さだが、「あくまで妹」(慄罹談)とのこと。白いワンピでおしゃれしたほとりと向かい合って座る様子は、本当に仲良しさんで。
「あそこのフリフリな服の人、凄いねっ」
 うきうき話すほとりだが、ちょっと待った。あなたの頭の飾りもフリフリでしょう。って、「これは兄さまからもらったから」? なるほど、フリフリ好きは慄罹さんの方で。って、慄罹さん。ガルフさんに手を振って話題から逃げないでくださいよぅ。
 それはそれとして、珈琲が来る。ほとりは両手でカップを包みながら「兄さま、これって泰国のどの料理に合うの?」などと笑顔で聞いたり。
 その時、新たにからす(ia6525) がやってきた。黒赤のシャツとミニスカートの颯爽とした姿で、すとんと隣の机に一人座る。
「からすさん、お茶以外も飲むんですね」
「苦みある飲み物に甘いお菓子。茶も珈琲もそこは変わらない」
 ほとりを流し見て言うからす。
「なるほど。妙に納得するな。‥‥この席、いいか?」
 ここで登場したのは、琥龍蒼羅(ib0214)。からすは「構わないよ」と頷く。
「真世、俺もからすと一緒でいい。茶もそうだが、苦いのは好みなのでな」
 蒼羅の注文を取って下がろうとした真世だが、慄罹に止められた。
 どうやらほとりのために、ミルクを多めにした珈琲を頼んだようだ。
「実はね‥‥」
 それはできないと真世。理由は、極端に短い保存期間の問題からミルクは大量に仕入れてないようで。
「惜しいな。手を変えれば三度でも楽しめる飲み物なんだが」
「ごめんね、兄さま」
 どうやらほとり、香りは好みだが飲むのは一杯が限界のようで胸焼けがするとか。
「なんか、わりぃな‥‥。つき合わせちまって。けど、本当に旨いの飲めば違うと思うぜ」
「あ、じゃあこれを。‥‥研究熱心な店員の一人が配合した高級品だから」
 慄罹とほとりの様子に瞳を翳らせた真世が、こっそり四人に持ってきた。
 と、ここで。
「おおっ、モハメドじゃねぇか」
「マルハバン、いらっしゃいませ。ガルフさん。‥‥相変わらず、おいしそうに飲まれますね」
「でも、お砂糖3杯‥‥」
「ヤー、和奏さん。タファッドァ、どうぞ。砂糖ですよ」
 砂糖3杯欲しいととったモハメドが和奏に砂糖を進める。が、これには和奏、慌てて首を振る。
「ふむ、砂糖などを入れるあたりは紅茶と似ているのだな」
 3人のやり取りを見ていた蒼羅が感心する。
「‥‥うん、これならなんとか」
 砂糖を入れて飲んだほとりの笑顔に、場がぱあっと明るくなるのだった。


「新しいお茶‥‥こーひーとやら、楽しみですぞ」
 からっと扉を開いて入店したのは、狐の獣人・寿々丸(ib3788)。
「え? 外の席ですか」
 対応したアーシャが小首を傾げる。
「気持ち良い風が感じられるし、寿々が飲んでいる様子を見て、同じ年頃の者達も入って来易くなると思うのですぞ」
 ふふっと、アーシャ。ちょうど中の席も空きが少なくなってきたので、外の席、開放である。
 そんなこんなで寿々丸、耳を前後にぴくぴくさせて珈琲が来るのを待つ。
 と、店の面する往来を歩いていた獣人を見つけた。黒い耳や尻尾がつやつやと美しい。歳の近い常磐(ib3792)だ。南那亭の看板を見上げている。
「珈琲‥‥。買い物も済んだし一休みしていくか」
 近付いてくる常盤に、寿々丸が声を掛けた。
「これは常盤殿、今日はどうしたのです?」
「買い物帰りだ」
 買ったものはどうやら、金平糖であるらしい。星の形。
「あ、俺のためではない」
 とか、常盤。
 やがて珈琲が二つ来る。
「っ。‥‥苦いと聞いていましたが」
「挑戦者だな。俺は、砂糖とミルクを入れる。‥‥覚えて家でも作ってやれば、アイツも喜ぶだろうし」
 ちなみにアイツは、甘党であるらしい。あるいは買った金平糖もそのためか。
「しかし、甘いお菓子と一緒だと良いですぞ」
「‥‥ああ、いいな。のんびりくつろげるのも、いい」
 ぴくぴく、ぴこぴこと動く耳。
 獣人同士の弾む会話は見る人に安らぎをもたらすようで。ふらっと入店する人が増えたとか。


「お、ここが南那亭か。なかなかエエ感じやんか」
「真世さま、こんにちわ♪」
 連れ添っての入店は、ジルベール(ia9952)とラヴィ(ia9738)。真世は「私が接客する〜」と駆け寄り、にぱっ。
「これは開店祝いや」
「わあっ。ありがとっ」
 真世、もらった花束にある向日葵のような笑顔。
 早速二人に珈琲が運ばれた。
「香ばしいような、うっとりする香りですわね」
「えらい黒々してるんやな。濃い麦茶のような」
 立ち上る湯気に顔を寄せて、ほわっと表情を緩めるラヴィ。一方のジルは不審そうにしたが、「でも、エエ匂い」。椅子の背もたれに左肘をかけて満足顔だ。
「よし、ラヴィ。一緒にせーので飲もか」
「いただきます♪」
――その時、瀬崎静乃(ia4468)が入店した。
「‥‥お邪魔します。相席いい?」
「にゃっ!」
 突然声を掛けられびくっと反応したのは、フラウ・ノート(ib0009)。‥‥猫目になってきょろきょろ周りばかり気にしてるからびっくりするんですよぅ。
「‥‥どう、かしら」
「味? ん。紅茶と違って、苦味と酸味が強いかしらね」
 静乃に聞かれて答えるフラウ。最初は香りを楽しみつつ、「ふむ。独特な香りだけど、そんなに嫌いなのじゃないわ♪」とか言っていた。今はゆっくり飲み「これ、料理の品に使えないかしらん」とか考え、厨房の中に入りたいなぁと猫目で狙っていたのだったり。
 静乃は、ぼーっと運ばれてきた珈琲を見ている。と、両手でカップを掴み一口。
 で、固まる。
「‥‥不思議な苦味だね。薬草か何かかな?」
「ちょっと、フーちゃん。この娘大丈夫なの?」
 カップを見たまま固まる静乃を心配しながら、ユリア・ヴァル(ia9996)がやって来た。「はぁい、真世ちゃん。私にも一つね」と注文。
「あらぁ、ジルベール。ラヴィちゃん、どうしたの?」
 続けてユリア、隣で俯いたまま固まっているラヴィを心配する。どうやら珈琲を飲んだ直後のようで。
「‥‥こ、これが大人の味なのでしょうか」
 ラヴィ、ついていけませんでしたわ、とぐっすん。ジルは「ほら、お菓子もお食べ」と、はい、あ〜ん。あまりの苦さに、人前では控えがちなラヴィも素直にあ〜んする結果に。
「苦いけど落ち着く不思議な飲み物やな」
「ふぅん、コクのある味なのね。苦味があるからちょっと蜂蜜とかミルクが欲しいかしら」
 ジルとユリアの好意的な感想に、ラヴィは「お二人とも大人ですのね」。
「あ。でしたら、いずれはラヴィたちの店でもお取り扱い出来たら嬉しいですわね♪」
「あぁら、ライバル店の偵察なの?」
 にこっと笑顔を取り戻すラヴィだが、ユリアから茶化されたり。
 それはそれとして、静乃。
「不思議な味だった。‥‥美味しかったよ。南那亭‥‥」
 ぱちん、と手を合わせて目を瞑り一礼をする。何の奥義か、妙に威厳に溢れていたという。
 

「いらっしゃいませ♪ 南那亭へようこそ!」
 入り口で笑顔を振りまいているのは、アーシャとアイシャ。
 そこへ、真世がふらりと様子を見に来る。「すごぉい、お人形さんみたい」と感心する。
「真世さんもご一緒にどうですか? なんならポロリとか」
 極上の笑みを浮かべ実行に移る小悪魔的妹、アイシャ。真世は反射的に胸元をガードしたが、これはフェイント。スカートの裾をばさーっとめくる。
「きゃ〜っ!」
 黄色い悲鳴に往来の視線が集まる。真世の下着の色は、伏せる。
「さあ、どうぞいらっしゃいませ〜」
 妖しくふっと耳元に息を吹きかけ腰砕けにしておいてから、真世を店内にずるずる引きずり込むアイシャ。これで男性客数人が釣れたとか。
「‥‥ん」
「ああ、良かった」
 真世が正気に戻ると、真珠朗(ia3553)と向かい合って座っていた。
「相変わらず深夜のお嬢さんはらぶりーで安心しましたよ。元気そうで何より」
 カップを置いて、にっこりと真珠朗。
「何で真珠朗さんがここに。って、まさか、見ました?」
「そんなわけないでしょ」
 余談だが、真世の下着はらぶりーなのだったとか。
「それはともかく、これ」
 そう言って珈琲を指差す。真世の方は目を細めつつ、あ、話題から逃げたな、と。
「天儀で日常的に捌くってんなら、其処の風土にあった工夫が必要になってくると思うんすよねぇ。あたし的には」
 まっとうな話である。どうやら逃げたわけではないようで。
「風味を楽しむ飲み物なんでしょし、ちょいと考えたんすがね。寒天に混ぜ込んで、付け合わせとして販売したらどうでしょ」
 天儀で馴染みだし味は淡白だから風味も生きるでしょ、とか。
「ふんふん。ちょっとやってみましょうか」
 そんなこんなで奥に行く二人。
――時は少し、遡る。
「珈琲は飲んだことがないから‥‥どんな飲み物か楽しみ♪」
 上機嫌で柚乃(ia0638)が入店した。
 そして、カップに入った黒い液体が来る。
「香りはとてもいいね。‥‥味はどうなのかな?」
 見た目に「えっ」と一瞬引いたものの、薬草採取好きとしては怯むわけにはいきませんと飲む。‥‥砂糖もミルクも入れずに。
「‥‥にがぁい」
 どうやら甘いのが好きなようで、涙目。
「にっが〜い!」
 時を同じくして、近くの席から声がする。礼野真夢紀(ia1144)だ。
「‥‥でも後味はさっぱりしてますのね。香りを楽しむのならいいかな」
 ん〜、と下唇に人差指を当てて考え中。
「焙煎したタンポポ茶の様な味わいですね」
 そう評したのは、真夢紀と同席の十野間修(ib3415)。
「修さんはともかく、まゆちゃんにも美味しく飲めるようにできるかしら。‥‥ちょっと厨房を借りてお手伝いさせてもらいましょう」
 そう言って立ち上がるのは、明王院月与(ib0343)。がたがたと二人も立ち上がり、厨房へ。
「それじゃ、私も」
 これを見た柚乃も続くのだった。
 果たしてどうなる、南那亭厨房ッ!


「美味いモノだねェ‥‥日本茶とも紅茶とも違う良さが在るってモンだ」
 じっくり味わっているのは、キオルティス(ib0457)。赤毛の詩人で、珈琲のことは風の噂で知っている。
「店員もイイ感じだねェ」
 祖国風の衣装を翻して働く姿を見て、懐かしさに目を細めている。
 そこへ、禾室がやって来た。
「申し訳ない、店内込み合ってる故相席を願ってもよろしいか?」
「構わないよ」
 涼しく言うキオルティス。にぱっと笑顔の禾室が案内したのは、ライディン・L・C(ib3557)だった。
「珈琲、天儀に来て手に入りにくくてね。助かるよっ」
 禾室に感謝しつつ席に着くライディン。
「どうやら馴染みがあるよさね?」
「まぁ〜、ね」
 詩人に聞かれ、ライディンが返す。
 一方、注文を取った禾室は別の客に呼び止められていた。
「おお、おぬし。ようこそなのじゃ」
 彼女が挨拶したのは、以心伝助(ia9077)。
「ちょこまか頑張ってるっすねぇ。‥‥あ、砂糖とミルクを」
 耳には触れないよう、頭を撫でる伝助。普段の禾室の我侭放題ぶりを知っている保護者なので、感じるところがあるようだ。
「あ、あなた林青さん? いつもうちの禾室がお世話になりやして‥‥」
 さすがは情報屋。林青を見分けると、保護者的に挨拶したり。
「こういう雰囲気も、イイねェ」
 その様子を見てキオルティス。
「一番のお茶請けならぬ珈琲請けは、こうやって皆とお喋りしたりして、楽しい時間を過ごす事だよっ」
 にやりと、ライディン。
「この裏通りで、一曲やりたくなったさね」
「俺はちょっと厨房へ」
 ハープを抱えるキオルティスに、席を立つライディン。
 って、あああ、また厨房ですかぁ?


 さて、別の場所。
 店内で給仕するディディエの動きが、不意に止まった。
「これは、いらっしゃいませ」
「あなたに聞かされてた噂の飲み物、飲みに来ましたよ」
 大蔵南洋(ia1246)が笑顔で言う。
「よ、ご近所さん」
 連れの亘夕凪(ia8154)も挨拶。早速テーブルに案内するディディエだった。
「家でも淹れれるかな‥‥。よし、南方に仕事で出向いた時は市場を覗いてみよう」
 どうやら、南洋には珈琲は受けた様子。
「ああ、いっておいで。‥‥最近、何だか表情がさえないようだしちょうどいいよ」
「はは、鋭いですね。実は‥‥」
「‥‥大変だねぇ、お父さん」
 内容は伏せるが、しみじみと郷里に残して来た身内の話を語った南洋に同情する夕凪。
 しかし。
 ここで「えっ?」とディディエが振り向く。
(‥‥やはり結婚されていたようですね〜。改めて御挨拶、御挨拶〜)
「改めまして、本日は御夫婦での御来店まことにありがとうございます〜」
「違う!」
 南洋と夕凪、否定の息もぴったりだったとか。


「あら、いらっしゃいませ」
 新たな来店に、アーシャが目を輝かせた。
「ちょっぴり気になって、ね」
 客は、氷那(ia5383)。お一人様だ。
「え、端っこでいいの?」
「ええ。構いません」
 どうやら知り合いらしいアーシャが目を丸めた。こくりと頷く氷那。
「ありがとう」
 しばらくしてコーヒーが来ると、軽く微笑。長い足を組み替え銀の長髪を背中に払う。
「せっかくなのでブラックで、かしら?」
 砂糖は入れずに、飲む。ほぅ、と一息。夕凪など知人と視線が合うが、今日は目で挨拶するだけ。自分の時間を大切に。
「美味しいわね‥‥」
 ふっと出た一言は、味だけに向けたものではないだろう。
 じっくり滞在してから、席を立つ。
「ごちそうさま」
 今度は友人達を連れて来ます、と帰りがけに。
――そんな不思議なひと時、珈琲茶屋・南那亭。


 次にアーシャが案内することになったのは、長い金髪で眼鏡を掛けた、浴衣姿の男だった。髪は不自然で、着慣れてないのか浴衣も崩れた感じ。どうも風体の上がらない男だった。
「いらっしゃ‥‥、ッ!」
 ところがアーシャ。何だか頬を染めてうきうきした表情に。
 って、アーシャさん。あなた、旦那さんいたでしょ。いいんですか知りませんよ。
「に、似合ってますか、この服?」
 もじもじとメイド服の裾を握って聞く彼女。
「ええ、もちろん」
「こ、珈琲でいいですか?」
 さらに顔を真っ赤にしてかろうじてそれだけ聞くと、あわあわどたばたと引っ込んでいく。
「ま、真世さん!」
 ここで、妹のアイシャが厨房の真世を呼んだ。「いいものが見られますよ」とか言ってこっそり隠れる。
 さて、アーシャは例の男に高級な珈琲を持っていった。
「ね‥‥。どうです、美味しい?」
 熱い視線を送るアーシャ。
「うん、美味い。‥‥綺麗なメイドさん、この後ヒマなら俺とどう?」
 なんとこの男、ナンパするではないか。
「‥‥ええっ。あの人がアーシャさんの旦那さん」
 隠れて驚く真世に、しっ、とアイシャ。「きっとラブラブしますから」となだめる。
「ええ、喜んで。‥‥って、もうだめ。セラ、来てくれたのね!」
 ついにラブラブ袋の緒が切れたか、アーシャは客のカツラと眼鏡を取って、赤毛緑眼の男性に抱きついた。この男が、セルシウス・エルダー(ib0052)。威厳のある男だが妻の前ではお茶目なところのある、アーシャの妻。‥‥アイシャと真世は「夫婦なので大目に見てあげてください」と、ぺこぺこ店内を駆け回ることになるのだったが。


 キオルティスがハープを奏でる店の外の席にも、ずいぶん客が。
「やあ、照」
 人待ち顔だった天河ふしぎ(ia1037)が、明るく手を上げた。鼠の獣人の月影照(ib3253)がやって来たのだ。
「珈琲ってどんな味するんだろう、楽しみだね♪」
 うきうき話すふしぎ。知人が見れば、「めかしこんでるなぁ」と感心する可愛らし‥‥もとい、男らし‥‥違う! ともかく、そんな格好。
「そうですね。拙者としても興味深いところです」
 照の方はごく自然に。ともに好奇心旺盛で、特に実際に行動に移すあたりが激しく共通している。
「あっ、真世」
 席に着くと、知人の店員に手を振ってから、照を見る。ほわほわと彼女のメイド服姿を想像‥‥。
「ふしぎ殿?」
「あっ。べ、別に照がメイド服を着たら似合うだろうなって思っていたわ‥‥」
 ふしぎ、ここで何とか踏みとどまった。いつものように「わけじゃないんだからな」とか言い切るわけにはいかない。照の方は、至極学術的に「服の種類は多いですよね」と流し気味に。ふしぎ、助かったのか残念なのかは、不明。
「へえっ」
 照の表情が華やかになったのは、珈琲を一口飲んだとき。
「味は苦いですが癖になりそうな味です。それにこう、頭にスーっと効く感じがまた‥‥」
「うん。何か不思議な味だね」
 特上の微笑で返すふしぎ。内心「苦っ!」とか思ったのは内緒だ。
「照が夜遅くまで記事書くなら、珈琲差し入れしてあげたいな」
 ぼそりと、そんなことも言うふしぎ。実は照は記者だったりする。
「それはありがたいですね。良い眠気覚ましになりそう」
 今日一番の笑顔を見せる照。ふしぎはそっと、「照と来れてほんとに良かった」とつぶやく。
 照、今度は優しく目元をゆめるた。ふしぎの言葉が耳に入ったのかもしれない。


「ま、そういうのも悪かねぇがな」
 ラブラブな店内を横目にカップを傾けるのは、巴渓(ia1334)。孤高を好む彼女らしく、一人でじっくりと珈琲と対話するように味わっている。
「うまい」
 と遠くに視線をやる。思いを馳せるは、泰拳士として修行中に親しんだ味か、はたまたもっと別の場所で活躍していたころの光景か。瞳に優しい色が宿る。
 と、長く編み込んだ髪が踊った。
「店員、万人に広めたいなら味に幅を持たせるべきじゃねぇか?」
「ああ、それでしたら」
 望が丁寧に対応し、厨房へと連れて行く。
 果たしてどうなっている、南那亭厨房ッ!


「こんなの作ったんだけど、どかな?」
 厨房では、まりねが加来に試作品を見てもらっていた。加来は真珠朗と寒天珈琲に挑戦してたり。
 そこへ、ミルクなど食材を持参した月与を先頭に、修と真夢紀がやって来た。
 そればかりではない。柚乃にフラウ、ライディンも続いてきた。
「それじゃ、苦い珈琲を美味しく飲めるようにお茶請けを作りましょう」
 月与はメイド服に着替えると、ジルベリア風の菓子作りを始めた。
「じゃ、あたしは氷霊結で氷作って甘くして‥‥」
「柚乃も氷〜。かき氷にして濃い珈琲をかければ‥‥」
 真夢紀がどんと「手回し式かき氷削り器」を出せば、柚乃も協力体制に。
「ぁ、うん。俺の事は気にせずに、どうぞ続けて?」
 ライディンは、挽き方など確認中。まりねは煎れ方など簡単にまとめたメモを配っている。南那亭は珈琲豆の卸しもする予定で、豆販売の促進のため必要であるからだ。
「あっ。ちょっと待って!」
 が、冷たい珈琲やミルクの比重の高い珈琲には、戻ってきた真世がストップを掛けた。
「林青さんが、『商売は安定供給。できるだけ、常に出せるもので商売すべし』って」
 つまり、珈琲かき氷など出して客がついても、いつも出せるものではないので次回来店時の客に失礼に当たるとの考えだ。本日開店で、ここがいつでも南国の茶が飲めることを伝える日であるため、なおさらその場限りのことはできない。とはいえ、可能性を探ることは悪いことではない。
「だから、変わった珈琲はここだけ。開拓者だけで楽しんでね」
 つまり、まかない料理扱いなら大丈夫ということで。
 手が止まっていた月与たちは、安心して作業に没頭した。
「真世のお嬢さん、できましたよ。寒天珈琲。なかなかの食感でしょ」
「う? うん」
「ああっ、すでに盛り上がってるぜよっ!」
 新たに入ってきたのは、平野譲治(ia5226)だ。
「かひっ! 飲み物なりよねっ!」
 と客席で盛り上がりつつ飲んでいたのだが、「おおぅ‥‥摩訶不思議、なりね」と、いたくお気に入り。
「譲治くん、さっきまでは『はにゅ! 珈琲に嫌われたのだっ!』とか苦そうにしてたのにね。あはは」
 琉宇(ib1119)も入ってきて、暴露話。
「るー。それは言わない約束なりっ」
「それはともかく、冷たくできないかな。まだ暑いしね」
「はい、琉宇さん。氷」
「ありがと、柚乃さん」
「これが淹れ方なりかっ。民宿のお茶係として覚えたいなりねっ!」
 そんなこんなで、まりねのメモを元に奮闘する譲治。
 そこへ、禾室がやって来る。
「ちょっと、お客が多くて手が足りないのじゃっ」
「きゃ〜。あなた、禾室ちゃん? 可愛いわね」
 背後から忍び寄ったユリアにぎゅうっ♪てされ、禾室脱落。
「し、仕方がないわね。もぉ‥‥」
 メイド服に着替えるフラウ。
「うっ、きゅっきゅ。リエットも〜」
「姪が心配だし、私も‥‥」
「ほら、セラ。執事服執事服〜」
「修さんも、執事服で‥‥(赤面)」
「ラヴィも手伝わな。真世さんピンチやで」
「う‥‥」
 あああ、もう誰が誰やら何が何やら。なぜかメイド服も執事服も豊富にあったのでそれぞれ可憐に優雅に変身したり。もう開拓者は全員集合。店員仕事だっ!
「まよねー、お疲れ」
「真世さん、これの実験‥‥試飲してくれます?」
「真世、他人が淹れる珈琲はまた別の味がするさね」
 まりねとアイシャとキオルティスはくたばり気味の真世に珈琲を差し出す。って、寒天珈琲も残ってるしいろいろ試作品もあるんですよ?
「ええい。てめぇら、何やってんだ。‥‥よぉし。俺がまとめて試食、試飲してやる」
 ここで、手帳片手に巴渓がどど〜んと登場。
「じゃ、珈琲豆を糖衣でくるんでみました」
「濃い珈琲と蜜のかき氷〜」
「お、おおぅ」
 真夢紀と柚乃が、どん。‥‥ちょっと、大丈夫ですか巴さん。と、横から「ところで、お菓子は無いのかな」とかいって琉宇がひょいとつまんだり。
「おっしゃ、負けるか。お世辞なしの辛口審査で行くぜ」
「じゃ、店内も頑張るわよっ」
 ついに暴走状態となったフラウを先頭に、臨時メイド部隊が行くッ。続いて、臨時執事部隊。琉宇はリュートで音楽担当。
 そのリズムに乗って臨時店員部隊は、すたすた・ざっ、ざっと一列縦隊から一列横隊に組み直し全員でポーズ。そして、給仕開始ッ!
「おぉい、机を貸してやれ貸してやれ」
 外では周辺住民も協力し、あふれた客用に席を準備する。
「‥‥チェック」
「む!」
 そんな中、からすと蒼羅のチェスも白熱していたとさ。

 とりあえず珈琲茶屋・南那亭、無事に開店ですっ!