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■オープニング本文 「ひいいいいぃ〜」 それは、ある絶壁に囲まれた砂浜のことだった。 「お、恐ろしい光景じゃあ〜」 垂直にそびえる崖の上から、付近の漁師が木々に隠れながら身を震わせている。 なんと、下の砂浜には人の白骨がうろついていたのである。 うようよ、うようよ。 その数、約二十体。 浜辺に散っては、足元を見ている。時折屈んでは手にした槍を突いたり棍棒を振り下ろしたり。 注意して見ると、岩場に多いか。 どうやら蟹などを捕食しているらしい。 特筆すべきは、砂浜の周囲は大人の背丈五倍程度の垂直な崖がぐるりで、密室状態であること。崖の下は、岩がごろごろだ。そのおかげか音の響きがよいらしく、骨だらけのアヤカシが立てる音が良く聞こえる。半面、崖の上の音は届きにくいのかもしれない。 「くそっ」 と、崖の上。 「わ、わしらの縄張りを荒しおる‥‥」 縄張りといっても、主に取れるのは牡蛎である。蟹は、食用にならない小さなものしかいない。 「どうする。これじゃ仕事にならんぞ」 「さりとて、あんな化け物がいてはなぁ」 「とはいえ、このまま放置するわけにも‥‥」 「そうじゃ。今は蟹しか取っとらんようじゃが、いつわしらの牡蛎に手ぇ出すかわかったものじゃねぇ」 「ああ‥‥。早く娘に牡蛎の殻付きを食わしてやりてぇ」 「バカ。この時期に稼がにゃ、我が漁村は来年一年食ぅていけんぞ。なんとか手立てを考えんと」 「おお、村に帰って相談じゃ」 漁師たちは各々抱えたロープを崖下に下ろすことなく、ひとまず退散するのだった。 かくして、開拓者ギルドに依頼が寄せられた次第である。 表題は、「求む、怪骨退治の開拓者たち。牡蛎の浜焼きもあるよ」――。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
橘 琉璃(ia0472)
25歳・男・巫
雲母坂 優羽華(ia0792)
19歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
橋澄 朱鷺子(ia6844)
23歳・女・弓
瀧鷲 漸(ia8176)
25歳・女・サ
和奏(ia8807)
17歳・男・志 |
■リプレイ本文 ● 「わぁ、いるいる」 件の海岸の崖の上。茂みから下を覗いた天河ふしぎ(ia1037)が好奇の目を輝かせた。事前の聞き込みの通り、浜の両端に怪骨が分かれたむろしていた。 「ああ、海が綺麗だな」 隣では、怪骨どもを見ることもなくからす(ia6525)が気分に浸っている。骨が居ねばな、とかつぶやいているところを見ると、役目は忘れてないらしい。 「そうですね。穏やかなものです。戦闘に支障が出ることはなさそうですね」 さらに隣で和奏(ia8807)が相槌を打っている。 「骨を折って、牡蛎を食べる」 空を仰ぎ胸の前で拳を固めるからす。「うん、損はない」としみじみ。 「この寒い時期に、水場は、キツイかもしれませんねえ‥‥」 「チャチャッと倒して、早く皆で楽しく牡蛎を食べよう」 目を細め冷たい響きでつぶやく橘琉璃(ia0472)に、やる気満々の水鏡絵梨乃(ia0191)。ちなみに絵梨乃。言外に「ノリ良く一気に行こう」と主張している。 「ええ。早く倒してお楽しみと行きましょう」 続けてつぶやいた琉璃の言葉に、満足した絵梨乃は目尻を下げるのだった。 「中央からで、いいな?」 長身の瀧鷲漸(ia8176)が村の漁師から借りた縄を取り出し、準備に掛かっていた。手短に作業確認をする。 「皆で一緒に降り片方ずつ殲滅、でいいですね?」 同じく長身の橋澄朱鷺子(ia6844)が言葉を継ぐ。一緒に降りるためには人数分、縄を崖の木の幹に縛っておく必要がある。 「隙を見せないように、両翼にいる怪骨集団のちょうど真ん中辺りに降りるようにしよう。その後、全員で片方の集団を攻撃だな」 「いきなり囲まれるのは、嫌だもんね」 分かってますねという口調で念を押す絵梨乃に、分かってるといった感じのふしぎ。和奏や漸も各個撃破に異論はない。 「うちは下を攻撃しはる人らの援護をするつもりどす」 にっこりとたおやかに、雲母坂優羽華(ia0792)が笑顔を作る。 これで陣容は決まった。 ● 崖は高い。 しかも下は岩場。 飛び降りれば怪我をすることは必至。地元の漁師たちは縄を下ろして漁場を行き来するという。道はない。開拓者たちは漁師の言葉に従って戦場となる浜へと突入した。 「あっ!」 浜に無事に降り立つとも、開拓者は皆驚きの声を上げた。 何と、怪骨たちが開拓者に気付きすでに走り寄っているではないか。あるいは、独特の形状をしているので小さな音も響いてしまうのかもしれない。 「さぁ、みんな行くよっ、方翼ずつ撃破だっ!」 予定は狂ったがやることに変わりない。ふしぎが声を上げて走り出す。とった進路は、右だ。 無論、全員走っている。迷ってその場に留まれば挟撃の憂き目に遭う。 「さぁこい化け物ども。私が全て槍の錆びとさせるがな」 漸が長槍「羅漢」をがっちり構え最前線は任せろとばかりに駆けている。 「まずはさっさと怪骨退治だ」 さすがは泰拳士、絵梨乃が低い姿勢で快速を飛ばし先行する。回転の速い足に、浜の砂が飛び散る。 (村人に魚のアラを撒いてもらったのですが‥‥) そんなことを思っているのは、ジルベリア製の短槍を手に走る和奏。依頼した村人によると、上から何か投げると怪骨たちはその場を離れは域警戒してしまうので降下作戦前に撒いておいたとのこと。餌が多くなっている分、その場に釘付けになるのではとのことだったが、そううまくはいかなかったようだ。 それはともかく、迫り来る左翼の怪骨たちを無視していいのか。結構な速度で開拓者らに迫っているが。 「気付いたか。やらせはせぬよ」 声は、崖の上。 実は開拓者は、全員が降りたわけではなかった。 からすである。 引き絞るは、自身の身長の二倍弱はあろうかという、藍染の弓。都合の良いことに、左翼の怪骨どもは分散していない。 「味方を巻き込むことがないのであれば」 バーストアローで、狙った。 怪骨たちは、前方の開拓者と崖の上のからすを見比べどちらの対応をするか迷ったようだが、からすを若干遠巻きにして、無視して移動した。それでも時間差各個撃破の援護としては大きな効果があった。 場面は再び、右翼最前線。 「腹が減っているんでな、悪いがさっさと終わらせてもらうぞ」 先頭の絵梨乃の足運びが直線から左右に、変わった。酔拳だ。敵の突撃をかわしつつ、踵落とし。延ばした足が円弧を描き怪骨の肩口に炸裂する。『転反攻』と呼ばれる極意だ。 「炎精招‥‥火炎輪!」 次に近付いていた、ふしぎが炎魂縛武で強化した円月輪を投げつける。絵梨乃が囲まれないよう、先手を打ったのだ。この間に、後続が次々と最前線に突入する。 「本来なら崖上から狙うべき所でしょうね」 弓術士の朱鷺子が緑の長髪をなびかせ、走る。手には弓ではなく長柄斧。 「ですが‥‥こういう戦い方もできるのですよっ!」 ぐわしと、狂骨に食らわせる。 一方、武器に不安を抱く者も。 (骨を相手に切ったり突いたりというのは難しそうです‥‥) 短槍の和奏だ。 それでも、わきまえている。確実に怪骨を一対一で引き受け、味方が戦いやすいよう配慮する。受け流し、巻き打ちと攻防両輪の折り目ある技術が光る。 「これが、私の全身全霊の一撃だ。受けきれまい」 漸の方は、攻撃特化。槍構からの両断剣で一気に畳み掛ける。 「師走‥‥って、何だ、この忙しさ」 つぶやきとともに後方から神楽舞で味方を支援しているは、琉璃。素早く軽やかな舞で、主に動きが良くなる効果がある。ちなみに琉璃。女性の外見だが男性である。 「はいはぁい、みんな頑張っとくれやっしゃ〜」 後方からの神楽舞支援は、もう一人。優羽華だ。こちらはゆったりとした暖かい舞で、防御にご利益がある。緩やかな着衣。ふよんとふくよかな胸が、揺れる。 緒戦は、開拓者が圧倒している。 が、しかし。 ● 「若干、残ったな。頑張れ、男性陣。あとは任せた。私は傍観する」 崖の上を移動しながら左翼怪骨陣を射撃していたからすの動きが、止まった。左翼の敵がついに開拓者の後背に取り付こうとしていたのだ。‥‥ちなみに彼女の言葉を解説すると、女性の方が多いので男性陣は奮戦して男を上げるべし、私は遠くから応援しているぞ、といった感じが当たらずしも遠からじといったところか。 そして、開拓者の後詰め。 当然、巫女二人。 「む」 後背からの敵に気付いた琉璃が、扇子で口元を隠しながら事態を一言で表現する。 「うちはただの飾りやおへん? 甘う考えとったら痛い目見ますえ?」 一番近いのは、優羽華。瞬時に覚悟を決め、前線援護にと用意していた切り札を使う。「力の歪み」だ。 ぐぎり、と体を捻り倒れる怪骨。 ただし、まだ敵はいる。 「優羽華ッ!」 ふしぎが叫んで砂を散らしながら駆け寄った。背中のドクロの旗指物が激しくなびく。 「ふしぎはん、応援しとるさかいなぁ、あんじょうお気張りやすぅ」 頼りになるわぁ、と優羽華。脇を駆け抜ける拠点仲間を誇らしげらに見送る。 「紅・葉・剣‥‥紅蓮Vの字斬りっ!」 紅蓮紅葉の燐光が散り乱れる斬馬刀が力強い軌跡を描くッ! 「そんなとこに固まってると、私のいい餌食だ」 赤い瞳が一撃入魂の意気込みで燃える。瀧鷲漸、サムライ。溜めていた力を今、ぶつけるっ! 「地断撃!」 砂が派手に飛び散る広域の衝撃波。 最前線で引き気味に戦っていた二人の派手な攻撃で、一気に流れを掴んだ。もともと右翼の敵はすでに殲滅していたこともあり、後続左翼もあっという間に片付けるのだった。 と、ここで予期せぬ事態が。 開拓者が降りてきた崖の付近から大きなときの声が上がり、さらに縄が下ろされ大人数が浜に突入してきたのだッ! ● 「よっしゃあ、急げ急げ!」 「これで遅れが取り戻せる」 「火をおこせ火をおこせ」 「おおい、金網持って来い」 「野菜や米もどんどん下ろせよ!」 どうやら村の漁師や主婦たちで、開拓者がアヤカシを倒すのを待ちきれずに待機していたらしい。まるで戦のような喧騒だ。 「何事かと思いました」 ほっと、和奏が胸をなでおろす。 「悪くない、な」 にんまりと、絵梨乃。というか、すでにノリノリで新たな戦――無論、彼女の得意の料理――に参加すべく駆けだしている。 「焚き火はもっと必要でしょう」 寒さのしみる潮風の来し方行く末を見ながら、琉璃が動く。 「せっかくだから自分で獲りたいのだが、構わないか?」 いつの間に降りてきたか、からすが海女さんらに近付いて言う。漸も同じ思いのようで、からすの後ろで頷いている。 「腕によりをかけて御飯をこしらえますえ」 優羽華は牡蠣めしを作るべく、ちゃっかり炊き出し組に溶け込んでいたり。 岩場では、牡蠣がどんどん揚がっていた。岩のくぼみなどにあること、殻自体が堅いこともあり、怪骨たちに踏まれても潰されてはかなったようだ。 (あ‥‥) くん、と鼻を鳴らす和奏。牡蠣を殻のまま焼き始めたありたから、潮の香りが一段と強まったのだ。内陸では決して感じることのできない、海辺ならではの体験だ。 「ほら、焼けた。さあ、召し上がれ」 殻の平たい面を網に置き、口が開いたらひっくり返してしばらく焼く。そうして食べごろになったものを、和奏はもらった。手に持ったくぼんだ貝の中の身は大きく、やはり潮の香りが強かった。楊枝で刺して、食す。ぷりぷりした食感と、奥行きのある味わい。 「おいしい」 あるいは、海岸という場所柄も満足度に寄与していたのかもしれない。 と、そこへ開拓者二人が走って来た。 「さ、さすがに冷たかった」 「早速焼いてくれ」 牡蠣を取っていた、からすと漸だ。我先にと浜焼きの焚き火に足と手をかざす。収穫はばっちりで、漸が和奏にいくつかの牡蠣を手渡した。 「優羽華が牡蠣飯も作ってくれるみたいだね」 ふしぎもやって来た。 「あっ。汁がじゅって溢れて、美味しそう‥‥」 「ん。取って欲しいのか。牡蛎はよく焼いて食べましょう、と聞いた。これなぞ良さそうか」 からすが、網の上から見繕ってふしぎに渡す。 「って、自分で取れるんだぞっ」 ふしぎ、そうは言うもちゃっかり渡されるままだったり。顔は真っ赤っか。でもぱくりと一口食べて、今度は満面の笑顔。やはり塩が利いておいしいらしい。 「労働の後の味は、格別に美味しいですね? これもどうですか?」 新たにやってきたのは、琉璃。鍋を作った。出来具合いは彼の微笑が物語る。味噌の豊かな香りと磯の匂いが鼻をくすぐる。 「鍋も、うまいな」 「そ、そこに座りますか。瀧鷲さん」 「こういう風に自然に近い形で食べるのが私だ」 砂浜に座る漸と、それを見て突っ込んだ和奏。「自然」といわれればそうかもしれないと真似してみる和奏だったり。 「ちょっと待った。琉璃さん、食べてないじゃない」 ふしぎが鍋を給仕だけしてその場を離れようとした琉璃を止めた。 「あ、いや。食べるより作る専門なので‥‥」 「楽しんでるか? ほら、飲め飲め!」 琉璃が言葉を濁していると、派手に絵梨乃がやって来た。そつなくまんべなく酌をして回り、きっちり飲ます。そして自分も飲む。 「それにしてもちっちゃくて可愛いなぁ。もう、抱きしめたいくらい」 ぎゅう、とからすに抱きつく絵梨乃。からす、無言。冷静そのもの。 「あっ。エリーさん、ダメですよ。こんな可愛い子に悪戯したら。ほら、芋羊羹を持ってきましたから」 「きゃ〜、芋羊羹、芋羊羹♪」 調理手伝いを終えてやってきた朱鷺子がからすを危険な魔の手(?)から救う。絵梨乃は至福の、甘味タイム。その隙に、朱鷺子が絵梨乃の取り皿に香辛料を入れていたり。以前、彼女にお尻を触られたらしくちょっと仕返しがしたいようで。 「牡蠣めし、炊き上がりましたどすえ」 そこへ、優羽華がつつましくひつを持ってやって来た。もわわんとした白い湯気が、醤油と潮の香りを伝えてくる。 「ほな、ふしきはん」 「べ、別に一番に欲しかったわけじゃ‥‥」 しっかりお椀に手を差し伸べるふしぎだったり。 ところで、からすの姿が消えている。 「どうした。ショックだったか?」 波打ち際の岩場に座っていたからすを見つけ、漸が声を掛けた。絵梨乃に抱きつかれた後、席をこっそり外したので気になって追ってきたのだ。 「いや、問題ない」 からすに特に表情はない。いつもと一緒だ。「ならば良いが」と漸。 「せっかく海に来たのだから、な。ウミネコはここまでは来ないのだな」 「アヤカシ、なにもこういう時に出なくてもいいのにな。ウミネコまで近寄らなくなる」 漸の言葉に、からすは笑みを見せるのだった。 ところで、朱鷺子に悪戯された絵梨乃の運命は? 「‥‥辛味噌鍋風味。しかも激辛」 泰で食べたものに似た味を見たか、どんどん箸が進む。実に満足そうだ。 朱鷺子の方は、がっくり。 が、落ち込むことはない。翌日、食べすぎで苦しんだそうだから。 |