【踏破】大規模戦の影で
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/06 19:19



■オープニング本文

●「飛び地」
 鬼咲島に棲んでいた「キキリニシオク」は、その身体を崩しながら海へと沈み、瘴気の塊と化した。
 退却した飛行アヤカシは訪れていた白竜巻李水と合流したが、一方、鬼咲島に築かれた橋頭堡を攻撃した陸上のアヤカシは量質両面で上回る開拓者から反撃を受け、その多くが撃破された。
 魔の森に逃げ込んだ陸上アヤカシの群れであるが、彼奴等は数を大きく減らしている筈だ。
 徹底的に掃討するなら、今しかない。
 元々、魔の森は大アヤカシが力を及ぼし、支配を確立する事で拡大するものだ。大アヤカシによる直接的な支配を受けていない鬼咲島は、そうした「直轄地」に比べれば「飛び地」のようなもの‥‥一匹でも多くのアヤカシを撃破すればそれだけでも瘴気を減ずることができ、魔の森は弱まる。
 魔戦獣との決戦を控えた今だが、開拓者に余裕があるのであれば幾らかでも敵の数を減らしておきたい。どのみち、鬼咲島はいつか平定せねばならないのだから――ギルドの重役達は互いに顔を見合わせると小さく頷き、大伴の許可を仰がんと風信機を準備させる。 やがて、ギルドに依頼が張り出された。
 そこに記されている依頼内容は至極単純なもの。

 曰く――鬼咲島の残党を駆逐せよ、と。

●もう一つの任務
「なあ、遅潮よ」
 神楽の里の、夜。
 飲み屋で酒を冷やでちびりとやりつつ、貸本絵師の下駄路某吾(iz0163)(げたろ・ぼうご)が呟いた。
「あ。どうしたい、下駄路」
 隣で焼き鳥串を持っていた貸本作家の厚木遅潮(あつき・ちしお)が、鳥肉にかぶりつくのをやめて下駄路を見た。
「開拓者ギルドは今、やれ新大陸への礎を築くのだ大規模戦だとかかまびすしいが、俺たち一般人にゃ大まかな事しか知らせてくれんのだな」
「当たり前だろう。重要な機密までだだ漏れするわけがない」
「いや、そういう意味じゃねぇ」
 くいっ、とぐい呑みを干してから下駄路が向き直った。
「激しい戦闘が繰り広げられてるというじゃないか。‥‥怪我をする者もいる、歯をくいしばって無理をする者もいるだろう」
「おお。毎回、ギルドの報告は燃えるな。うん、あれはいい。すべてが終わってからの報告じゃないからな。次が待ち遠しくてたまらねぇ」
「いや。そうじゃねぇんだよ、遅潮」
 徳利から手酌しながら、首を左右にしみじみ振る下駄路。下を見る顔が若干力ないのは、酔ったからか思いがあるからか。
「戦いってのは、前で剣を振るだけじゃねぇ。これはお前も分かってるだろう。‥‥報告にある手柄者の影には、地味に頑張ってる者がいるはずなんだ。支えている者がいるはずなんだ。これを労わずして大部隊はありえねぇ。ここをしくじると、猪武者の烏合の衆になり下がっちまう」
「‥‥逆に、落ちぶれることなく戦えてるってのは、そのあたりうまく指揮して擦り合わせてんだろう。開拓者たちはそういうことに慣れてるはずだぜ」
 聞くに値せんな、とばかりに焼き鳥にかぶりつく遅潮。このあたり、当然の事である。
「そりゃそうだが、俺たちの読者的にはどうだ? ‥‥ギルドの報告を読むだけじゃ、戦いの細かなところはかわりっこねぇ。貸本の物語も、やれ英雄がどうだ鬼退治がどうだと、特殊な力に恵まれた奴らだけがもてはやされる。‥‥俺たちは違うだろう。市井の人の涙を、俺たちと一緒の力のない人を見捨てない、流した汗は裏切らないってのを伝えるため、売れない日々を我慢しながらやってるんじゃないのか!」
「お、おお。下駄路、その通りだ。‥‥開拓者を英雄にした話にしても、困っていた人たちを薄っぺらく扱わず。たとえそれで読者が少なくても、分かってくれる読者のために俺達が歯をくいしばる。‥‥俺たちの存在価値はここにしかねぇ。ちっとは売れはじめた今こそ、忘れてはならんことだッ!」
「さすがだ。それでこそだ、遅潮ッ! やるぞっ、地味で日陰者だが、俺たちでしかできねぇことを」
「おおっ。華やかでない任務について、仲間のため、全体の任務のために人知れず汗と泥にまみれている開拓者の生きざまを、汗と泥にまみれながら歯をくいしばって日々の生活を支えている市井の人に伝えるんじゃッ!」
 立ち上がり、熱い視線を交わす二人。手にしたぐい呑みをともにぐっと付き出す。やるぜ、おお、と無言の視線。きゅっと、一気に呑み干す――。

 後日。
 下駄路たちは募集がかかったばかりの、鬼咲島のアヤカシ掃討戦の依頼を発見することとなる。投入できる戦力を可能な限り逐次投入し、島にいるアヤカシの各個撃破を図るものだ。「キキリニシオク」はすでに討伐しているため、華やかな手柄は残っていない、どちらかといえば地味な作戦となる。しかも、「幾らかでも数を減らしておきたい」という、なんとも微妙な作戦展開であるため状況を見誤ると一敗地に塗れる作戦でもある。
「やや地味であるのはむしろ望むところ!」
 下駄路たちは、この依頼の一部に追加出資することで同行し、護衛してもらうこととなった。


■参加者一覧
桔梗(ia0439
18歳・男・巫
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
ロゼオ・シンフォニー(ib4067
17歳・男・魔


■リプレイ本文


「よく来ていただきました。戦況はいまだ制圧まで至りませんが、ぼちぼちと開拓者の小集団が到着して成果が挙がっています」
 開拓者と下駄路某吾(iz0163)、厚木遅潮が鬼咲島の橋頭堡たる駐屯地に到着すると現地の係員がそう説明した。背後では拠点守備隊が右往左往し、偵察報告の声が飛んでいた。
 いまだ最前線。そういった印象だ。
「まだこのあたりも戦闘地域なのか?」
 ラシュディア(ib0112)が雰囲気を読み取って聞いた。
「いえ。拠点を前進させるかどうかの判断と調査のために飛び交っているだけです。‥‥このままでは、出撃する皆さんにとっては補給路が伸びすぎて危険が増しますし」
 しかし、一筋縄ではいかないらしい。
 それはともかく。
「‥‥彼らは一般人だ」
 別の場所で、桔梗(ia0439)が下駄路たちに説明した。
「何と。‥‥では、アヤカシが来たらどうなる」
「もちろん戦うだろう。弓を射るなり手はある」
「必死に守る、か。漢(おとこ)じゃのう!」
 拳を固め震わせ感じ入る下駄路と遅潮だった。
「‥‥東方面と西方面、どちらに向かわれますか?」
「東へ行くよ。まずは北に向かって、ぐるっと南下。上手くいけば南から帰還するけど、もう一つ任務があるから‥‥」
 係員の問いにはきはきと答えた新咲香澄(ia6036)だったが、ここで下駄路たちを見た。
「事情は伺っています。くれぐれも、無理はなさらぬように」
 係員は香澄の視線の先を一瞬見たが、すぐに戻して言った。この様子に下駄路が熱くなる。
「くっ‥‥足手まといになぞなるものか。弓だ。俺たちにも弓を持てっ!」
「待て、下駄路。お前の使命は読者の目となり耳となることだろう。履き違えるな」
 熱く揉み合う二人。
「わぁ、某吾さんと遅潮さんから、お空の彼方から降り注ぐような、不思議な熱い力を感じちゃいます。‥‥これなら、蜥蜴が来たって鬼が来たって、平気なんだからっ!」
 このノリに、ルンルン・パムポップン(ib0234)がなぜか同調し一緒に盛り上がる。
「お、おおっ。そうだな。俺たちにできることは、皆さんに熱い期待を掛けることで存分に戦ってもらい、それを読者に伝えることだ」
「任せちゃってください。ルンルン忍法でアヤカシ残党をやっつけて回っちゃいます!」
「おおっ。それでこそ貸本の女英雄! ‥‥やるぞ。俺はやるぞ」
 ぐぐっと筆を握り締める下駄路。
 そこへ、小さな影が近寄る。
「初めまして、ロゼオです。えーっとあの。よろしく! おねがいします‥‥」
「む、狼耳がシャキーン。あんたも絵になるな。よろしく頼む」
 挨拶するロゼオ・シンフォニー(ib4067)には、がしっ! と握手。熱血注入とばかりに、一つ力強く上下に振った。
「皆さん、よろしくお願いするの〜☆。下駄路さんもよろしくね〜♪」
「む、狐耳がぴこぴこ。毛並みが良くて見栄えがするな、あんた。よろしくだ」
 今度は、ぺこりとお辞儀するプレシア・ベルティーニ(ib3541)と熱血握手。くるくるふわんとプレシアのふわふわしっぽがねだるように動く。
「ん〜、某吾さんでもいーいー?」
「無論だ。『某』(それがし)でも、いい」
 キラリと目を輝かせ、下駄路は親指を立てて自らを指差すのだった。


「ん?」
 キラリと、ラシュディアの目が光った。
 すでに一行は出発し、魔の森深くを走破している。
「しかしこう、空気がねっとりしとるようじゃのう」
「遅潮、しばらく静かにしていてくれ。‥‥プレシア?」
 超越感覚で遠くの音に注意を払っていたラシュディア、遅潮と下駄路に静かにするよう指示して、陰陽師のプレシアを見た。
「よぉ〜し、燕を召〜喚☆ ボクに周りがどんな感じか教えてねっ!」
 プレシア、人魂でツバメを出すと両手を上げて空に送った。下駄路たちに「ボクはまだまだ駆け出しだから〜、こういうお仕事頑張らないとダメなんだよ〜?」と説明していた、大切な小技である。
「どう、何かいるかな?」
 ロゼオが狼の尻尾を立てながらプレシアを覗き込んだ。プレシアの方は、ツバメに視界を合わせているので彼に視線を合わせることなくどこかを凝視している。
「いた。いたよ〜。おっきな赤茶色のウサギさん〜」
「確か、火兎っていったっけ?」
「数は? 3匹以上か」
 香澄が以前鬼咲島で戦ったときの記憶を手繰り、桔梗が数を気にした。
「ん〜。4匹、だね〜」
「ん、ちょっとこの数は危険だね」
 どうする、と仲間を見る香澄。
「‥‥一般人がいるんだ。今回は避けよう」
 桔梗、判断が素早い。
「え〜。正義のニンジャとしては、これが鬼咲島に平和を取り戻す一歩になるなら、放っておく事は出来ないです〜」
「ルンルン、気持は分かるが‥‥」
 つまらなそうにするルンルン。桔梗としては何とか抑えたい。
「あれっ。1匹だけ来るよ〜。こっちには気付いてないかも」
「よっし。じゃ、撃破するよ!」
 プレシアの報告を聞き、香澄が行けると判断。遠方の敵を発見すると早速動く。
「分かった。できるだけその一体を早く。後は一体ずつで!」
「周りは大丈夫。‥‥集中しよう」
 各個撃破を指示する桔梗に、戦闘区域にこれ以上敵はいないことを報告して突っ込むラシュディア。
「やっつけて回っちゃいます!」
「ええっと、僕の魔法の間合いは‥‥っと」
 シノビのルンルンも突っ込み、ロゼオが自分の攻撃魔法の間合いへと詰める。
「よし。わしらは見やすい位置に動いて隠れるぞ」
 下駄路と遅潮も斜め前方を見ながら走る。すでに香澄はお得意の火炎攻撃のひとつ、火輪で火兎を攻撃している。けっこう効いたようで、火兎はのけぞっている。ここで、ほかの火兎も開拓者たちに気付いた。駆け寄ってくる。
「‥‥あれが兎か。むちゃくちゃでかいじゃないか!」
 目をむく下駄路。兎との予備知識が裏目に出て遠近感を失っている。思っていたより前に出てしまったことに気付いた。
「くっ」
 香澄、反撃の火の粉を食らってしまうが、落ち着いている。新しく寄って来た火兎から下駄路たちの隠れた場所が丸見えであることに、敵の視線から気付いた。
「こっちは大丈夫だ、香澄」
 ラシュディアが殺到し、最初の一匹に死鼠の短刀を切りつけた。
 と、矢が立った。火兎、絶命。
 振り向くと理穴弓を構えた桔梗がいた。
「ラシュディア、次を」
「‥‥今回、俺を抜けた敵は気にしなくてもいいかな?」
 ふ、と微笑し前を向くラシュディア。速さを生かした一撃離脱の撹乱戦術と、抜かれれば背後から追いつきバッサリやる戦法は彼の十八番だ。今回は前を張る人材に乏しい分、自分が前で引き付ける役に徹する。
「危ない! ‥‥くっ」
 どさーっと倒れこんだのは、香澄だった。火兎の火の玉にわざと当たりに行ったのだ
「だ、大丈夫か?」
「お、俺たちのために‥‥」
 庇ったのは、下駄路と遅潮だった。倒れた香澄は陰陽師だてら、大鎧「双頭龍」を着込んでいる。はなから皆の盾になるつもりだったのだ。
「いいから、早く逃げて」
 香澄の言う通りだった。火兎の脅威はまだすぐそばにある。
「やらせませんっ。ルンルン忍法影技‥‥私の一撃は、無敵なんだからっ!」
 その姿は風に舞う桜か薔薇か。軽やかに割って入るのは「華の小手毬隊☆」ルンルン・パムポップン。別の戦場から舞い戻った勢いそのままに腰を落として刀を薙ぐ。伸身した切っ先の手応えは深く、今、ざざざと地面を滑って勢いが止まる。
「どうかな?」
 大きな胸を揺らしてルンルンは振り返るが、火兎もさるものでいまだ闘志は衰えていない。
「ガッ」
 ここで悲鳴を上げるアヤカシ。横合いから不可避速度で飛んできた石が命中したのだ。さすがにたたらを踏んでいる。
「僕だって立派な魔術師だからねっ!」
 これが初陣、ロゼオ・シンフォニーここに有り。ストーンアタックの威力に拳を固める。狼耳も、ぴぃ〜んと天を突くほど立派に。
「はっ!」
 別の場所では、桔梗がローブを翻し「月歩」を生かして敵の突進をかわしていた。
「‥‥やっぱり、気になってしまうな」
 その火兎に、早駆で戻ってきたラシュディアの刀が刺さる。清杖「白兎」に持ち替えた桔梗の力の歪みを食らっていた火兎は、これで力なく崩れ落ちた。
「よーし! これでも喰らえぇっ! プレシアぁ、うぇいぃぃぃぃぃぶぅうっっ!」
 ラシュディアが先ほど相手をしていた敵にはプレシアが遠距離で、今、渾身の霊魂砲。資質以上に伸ばした能力でもって放つ霊魂が矢か疾風かとの速度と衝撃波で飛んでいくと、対峙者が消え無防備になっていた火兎に命中。二度と立ち上がることがないほどの威力を見せた。
「な、なんちゅう目まぐるしい戦闘じゃ」
 下駄路と遅潮は、後衛型偏重編成による戦闘の展開の速さに息を飲むばかりであった。


 それからのち。
「くそう。情けない」
「これでも鍛えているつもりなんだが」
 地面に大の字になった下駄路と遅潮がぜえぜえと息を荒げていた。最初に戦闘があってから特に戦ってはいないのだが、かなり走破している。
「某吾さん遅潮さん、ゆっくり休んでいてくださいね。‥‥ルンルン忍法ジゴクイヤー!」
 ルンルンを広範囲索担当にして、小休止することになった。
「‥‥ほみ?」
 突然、プレシアがピクンと狐耳を立てた。
「下駄路某吾さんて、もしかしてげっ・たー・ろ‥‥」
「あいや、待たれい!」
 変わった名前に興味を覚えたらしいが、下駄路は止めた。
「もちろん、本名ではない。魂に誓った名前だ」
「魂に、誓った?」
「そうだ」
 どうやら、特に下駄路の苗字に思い入れがあるようだ。
「俺は、特段絵が上手いわけじゃねぇ。その代わり、歩く。この下駄で、歩いて歩いて歩き回って、絵師としての路を切り開く。‥‥才能だけにおごって座敷で胡坐をかいてる絵師なんかに、負けるわけにはいかねぇ」
 熱く持論を語る。
「僕は、生涯の師に出会って『ロゼオ』って名前をもらったんだよ」
 思うところがあるのだろう。ロゼオが首を突っ込んできた。
「おお、仲間だな。自分の支えになる名前は、いい。‥‥そうだ。苦しいときにこそ、魂をささげたこの筆が俺を支えてくれる。今こそ描くとき。この息苦しい森を」
 何と下駄路、紙を逆さまにして描き始めた。根元から描いていく力強さに、荒い息でぶれる筆致が禍々しさを強調している。
「へえっ。げったーさん、面白いことするね〜」
 プレシアが感心する。出掛けに下駄路の描いていた上手いだけの絵と比べると、訴えてくるものが断然違っている。
――その時だった。
「あっ。何か物音がしますっ」
「ようし、今度はボクの番だね」
 ルンルンの声に反応し、香澄が人魂で小鳥を出し偵察に飛ばす。
「また火兎だよ。‥‥数は2匹」
「一気に蹴散らそう」
 香澄の報告に、弓を持つ桔梗。
「じゃっ、ここにいてくれ」
「逆に、こうなると下駄路はしばらく動かんぞ」
「なるほど」
 遅潮の返事に、指示したラシュディアは苦笑した。下駄路を見るとどうやら開拓者6人もその絵に入れようとしているらしい。しばらく動くことはなさそうだ。
 下駄路は、描く。
 軽やかに舞っているように刀を振るうラシュディアとルンルンを。火を放つ香澄と魔法の石を飛ばすロゼオを。そして、腰を落とし弓を射る桔梗に霊魂を放つプレシアを。
 その一枚絵は、開拓者たちがお互いに助け合って戦っている様子が手に取るように分かるような構図であった。
 そして、今。
「ジュゲームジュゲームパムポップン‥‥ルンルン忍法、イグニッションフラ‥‥」
 踊るようなルンルンの声が聞こえる。
「ちょっとルンルン。あっちから新手が来てるよ」
「ええっ。炎の華に包まれ燃えちゃう不知火は中止です〜」
 ワンドを回して攻撃しようとした瞬間だったが、索敵の香澄からの報告に方針転換。技は中止して、もう一度音に集中する。
「新手は3匹。ボクが止めにいくね」
「こっちは任せて〜。せーのっ、『ぼえーっ!』」
 戦場を後にする香澄の代わりに、プレシアが全力で。糸引く謎の怪音響が空気を震わせる。一見、この声自体に攻撃力がありそうだが、実はただの呪声だったりする。
「くらえっ。目潰しのコショウ!」
 新たな声がするが、すぐに悲鳴が。
「ああっ。あまり効いてない」
 どうやらロゼオらしい。
「無事かっ。‥‥念のため」
 桔梗の声は、おそらく閃癒。
「ようし、一直線。くらえ、火炎獣ッ!」
 香澄はついに主砲をぶっ放したようで。
「‥‥」
ラシュディアは、言葉から何をしているかは分からない。が、「形だけでも挟撃の体勢を」と繰り返していた。実際、早駆から背後に回り込んで、自分に攻撃が集中しそうならあっさり早駆で逃げると、戦線のかく乱と維持を中心に働いていた。
 下駄路は、描く。
 開拓者の活躍を、一心不乱に――。


 結局、一行はあれから小規模戦闘をかなり繰り返した。
「わあっ。これ、前に見たことある気がします」
「‥‥また、『今にも酒宴が始まりそうな雰囲気』だね」
 ルンルンと香澄が、器の番人を発見した。すでに二人は鬼咲島でこのアヤカシと戦ったことがあり、二度と奇襲は食わないぞという意気込み。数が少なかったこともあり、きっちりと始末した。
――そして、帰投。
「全体は回れなかったけど、出来る範囲はやれたかな」
「そうだな。‥‥今日の依頼も、拠点で働く皆を守ることに繋がってると、いいな」
 少しでも役に立てたかなと晴れやかに言う香澄に、桔梗が頷いた。
「‥‥地味な仕事って言われるけど、俺たちの仕事って大体こういうものじゃないかな」
 帰りの飛空艇の甲板で、改めてラシュディアが言った。斜陽にきらめく金髪が風に揺れている。
「そりゃあ、どういうことだ?」
 聞きとがめる下駄路。
「ま、派手な仕事なんてのは大掛かりな事件って事で、困ってる人が大勢居るって事だからね。地味な仕事が多いのは喜ばしい事だと思ってるよ、俺は」
「お、おお。漢(おとこ)じゃ〜」
 下駄路、この言葉がいたく気に入ったようだ。ラシュディアはふっと笑みを浮かべると鬼咲島を見た。この島の派手な仕事は、どんどん減るだろうと読む。また、笑み。
「ところで、貸本」
 今度は、桔梗が声を掛けた。
「読むのは子供が多い‥‥のだろうか」
「いや、少ねぇ」
 正直に答える下駄路。
「読むのに金が要るからな。親が借ねぇと、まず子どもは読まねぇ。‥‥これを、何とかしたい。遅潮にゃ悪いが、絵の多いものを刷ったり工夫はするんだが」
「なぁに。子の成長を願う親なら、きっと見せるはずだ。絵が多いとなおさら。今回のものもいい絵ができてるじゃないか。親子で見てもらって、この6人の活躍を楽しんでもらいたい。助け合うことのできる仲間の素晴らしさを伝えなくちゃな!」

 今回の新作貸本は真面目一辺倒の内容であったが、異質な魔の森や迫力ある開拓者の戦い、そして大まかな開拓者の冒険の結果が伝えられたことで、多くの人の好奇心を満たしたという。