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■オープニング本文 「あ、コクリ」 コクリ・コクル(iz0150)が開拓者ギルドを訪れたとき、猫耳の背の低い人物に呼び止められた。 「あれっ。もしかしてチプサンケ? 久し振り〜」 どうやら知人で、孤児だったコクリを受け入れ育てた神威の隠れ里の幼馴染みらしい。コクリと同年代の少年で猫の獣人だが、特に猫背というわけではない。 「‥‥実はね」 適当な茶屋に移り、お茶を飲みながらチプサンケが言葉を絞り出した。ちなみに、猫の獣人だが猫舌というわけではない。 「ええっ。なんで早く報せてくれなかったの?」 がたっ、と立ちあがって血相を変えるコクリ。 どうやら、コクリの故郷でもある隠れ里が人間の盗賊に襲われ奪われたのだという。 「君なら知ってるだろう、コクリ。僕たち一族は背が低くて力に劣るんだ。そんな一族を守るため戦闘術は磨いたけど、結果は戦うために力を付けた者が亡くなるという矛盾。‥‥そんな歴史があるから、争いを嫌って隠れて住んでるって。ほら、マクタ・キシタのじいちゃんも昔話で言ってたろう? だから、戦わない」 「それはそうだけど」 肯くコクリ。 隠れ里は付近の人里に好意的に受け入れられている。特産品を上納することと里の裏にある精霊の森の力でアヤカシの防壁になることで、公にはされていないながら存在は認められているという。人の子ながら、名前もなく親もいなかったコクリを引き受け名付け親となったマクタ・キシタは家族同然の存在である。 「‥‥そうだ。襲われたんでしょ。マクタは無事? ううん、みんなは大丈夫なの? 里はどうなったの?」 一気にまくしたてる。 「ほとんど皆殺し。‥‥盗賊どもは特産品を奪ったらどこかに行くだろうからって、生き残った僕たちは付近の人里に逃げたんだけど、奴らは里に居座ってるみたいなんだ。今度は、人里の方に襲いかかってくるかも」 「ええっ! じゃあ、マクタは? 長のシノビリカさんは?」 涙目で聞くコクリ。しかし、チプサンケは首を振った。 「シノビリカさんは死んだよ。‥‥無事なのは、特産の厚司織『満月』や神威の木刀を人里に収めにいってたマクタたちと、何とか逃げ延びた僕たちの10人足らず。あいつらは、殺すのを楽しんでいた」 「でも、シノビリカさん強かったじゃない」 「おそらくコクリ、君と一緒だよ。‥‥敵も、志体持ち。シノビリカさんが負けるほどだから、それ以外に考えられない」 「ひどい」 コクリはぽろぽろと涙をこぼした。 「仕方ないよ。これが僕たち一族が辿ってきた運命だ。‥‥いまさら、変わりゃしない。でも!」 ここで、チプサンケは力強い口調になった。 「盗賊は里を根城にして僕たちがいる村を襲うんじゃないかって言われてるんだ。‥‥僕たちの里が悪用されるのを何とか阻止しなくちゃいけないんだよ」 「ダメ。里は取り返さなくっちゃ」 コクリが涙を振り払って言い切った。 「もう、それはいいんだよ、コクリ。盗賊にばれた以上、取り戻してもまたあの場所が争いの場となるかもしれないから。‥‥それより、今まで僕たちに好意的だった村の人を危険にさらすわけにはいかない。何とかして盗賊だけは全滅させないと」 チプサンケが開拓者ギルドに姿を現していたのは、この仕事を依頼するため。 が、これにはさらに理由がある。 「実は、予算があまりないんだ」 風信機を使わずわざわざこちらまで来たのは、神威の特産をできるだけ高く売ってから予算にしようとしているから。 「そんなことする必要ないよ。急がなくちゃいけないし。‥‥ボクに任せて」 ぱあっと明るい表情を取り戻し、コクリが胸元に手を当てた。 「ボクが一肌脱げば、出資してくれる人たちがいるんだ」 こうして、神威の小さな隠れ里奪還戦の参加者が募られる事となった。 |
■参加者一覧
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
ベアトリーチェ(ia8478)
12歳・女・陰
リエット・ネーヴ(ia8814)
14歳・女・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
シャルロット・S・S(ib2621)
16歳・女・騎
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
エリス・リード(ib3986)
12歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ● 「私たちのコクリちゃん、気持ちは分かるけど落ち着いて。いつもの貴女はそんなにそわそわしてないでしょう」 「焦ってなんかないよっ!」 コクリ・コクル(iz0150) に出資する中年女性は、彼女の様子にため息をついた。同じく彼女に出資する中年男性たちも「弱ったモンじゃわい」などと困り顔。 そこへ、今回出撃する小手毬隊の皆がやって来た。 「おお、これが今回のろりぃ隊の面々か」 「また可愛い娘がそろうて。これだからろりぃ隊への出資はやめられん」 たちまち、うはうはと目を輝かすエロ親父ども。 「ろりぃ、隊?」 知らぬうちに「ろりぃ隊」になってしまったことに首を傾げるエリス・リード(ib3986)。が、瞬時にここの雰囲気を察知。「頑張って‥‥来るよ」などとおどおどした様子で騙しを入れる。健気な様子に盛り上がる親父どもを見て、にやりと小悪魔的な笑みを浮かべたり。 「コクリちゃん、あの時里帰りさせてあげられなくてごめんね」 「悪い盗賊達は絶対に許せないんだから」 「‥‥あ。香澄さん、ルンルンさん」 新咲香澄(ia6036)とルンルン・パムポップン(ib0234)に話し掛けられ、コクリは目を丸めた。先日、同じギルドの仕事をした馴染みの二人を見て、ひとまず落ち着きを取り戻す。 「隊長、お久しぶりだじぇ♪ 今回はよろしくぅ!」 「リエットちゃん。わあっ、久しぶり〜」 そこへ、リエット・ネーヴ(ia8814)が全力で駆け寄ってきた。拳を上げいつもな挨拶をすると、コクリの腕に抱きついてはくるくるきゃあきゃあと回る。 「小手鞠隊再びですの。精一杯頑張りますの!」 シャルロット・S・S(ib2621)も抱きついてきゃあきゃあ。その様子をベアトリーチェ(ia8478)が遠巻きに眺め、妖しい笑みを浮かべていた。彼女にとって満足の笑みである。 今まで一緒に戦ってきた小手毬隊の面々を見て、ようやくコクリはいつもの様子に戻るのだった。 そこへ、すっと近寄る者がいた。朽葉・生(ib2229)だ。 「朽葉生と申します。よろしくお願いいたします」 涼やかである。「背はちょっと高いが、こういう『お姉さん』的な者がいるとまた、絵になるな」とエロ親父ども。 「よろしくお願いするの〜。神威の里に行くんだね!‥‥もしかしたら、ボクのお父さんお母さんがいるかもなの〜! 楽しみなんだよ♪」 ぺこりとお辞儀すると、長い金色の髪やふさふさの尻尾が華麗に踊る。狐の獣人、プレシア・ベルティーニ(ib3541)も参加だ。「あああ、触りたい〜」、「だめじゃ。お触りだけは我慢じゃ。それがろりぃ隊出資者の紳士協定〜」などと悶々とするエロ親父たち。 「んお? ろりぃ隊なの〜?」 言外に「小手毬隊ではないのか?」とコクリを見るプレシア。コクリは恥ずかしそうに視線をそらせるだけ。 一方、有閑マダムは、「あら、プレシアちゃん。毛並みが乱れてるわよ」などと上品にお触り。どうやら女性はある程度お触りしてもいいらしい。「ならばわしらも」、「いやいや、まずい」と親父ども。 「‥‥ねえ、コクリ。そろそろ粛清してもいいかしら、あの出資者のエロじじい共」 すっとコクリに身を寄せたベアトリーチェが暗黒な笑みを浮かべて言う。 「き、気持ちは分かるけど、今回出資してもらうためにばかんすに付き合うって言っちゃったし‥‥」 「冗談よ。‥‥って、コクリ。今さらっと何言ったのよ!」 「あ、ううん。何でもない」 どうやら出資してもらうために「一肌脱ぐ」とはそういうことだったようで。 とにかく、神威の里へ。 ● チプサンケやマクタ・キシタの待つ村に着くと、早速開拓者たちは動き出した。 といっても、まずは偵察。 「ええっ、そんな暇はないよ! すぐに行こう。この村に襲ってくるかもなんだし」 コクリは、またも落ち着きを失った。里が滅ぼされたのだ。無理もない。 「気持は分かりますが、奇襲攻撃による殲滅であるなら現状把握は必要です」 朽葉が青い瞳でちらとコクリを見る。 「でもっ、シノビリカさんやみんなの敵を一刻も早く取らなくちゃ」 「こりゃ! 落ち着かんか、コクリ。仮にここへ襲ってくるなら進攻してくる道は一つ。逆に盗賊どもは今、袋のネズミじゃ。仲間が偵察に行っている間に、コクリたちがここに至る道を見張れば良い。‥‥わしらの里の建物を破壊しているということは、何かしら罠を仕掛けている可能性があるという皆さんの意見は一理ある」 そのコクリを、マクタが一喝した。育ての親たる老人の言葉に、コクリは恐縮し従うのである。 そして、森の上空 「しっかり偵察しないと!」 香澄が滑空艇・シャウラで風に乗りながら面を引き締めた。 「うん。コクリちゃんの気持ちを思うと、その盗賊達絶対に許しておけないんだからっ!」 同じく滑空艇を駆るルンルンもぷんぶんと義憤に燃えている。ちなみに滑空艇の名前は、「大凧『白影』」。「ルンルン忍法大凧の術」と叫んで空に舞うのが彼女流だ。 さて。視認されないよう上空高くから近寄る二人。 目標は、簡単に識別できる。森の中、わずかに開けている場所が集落だからである。 「ん、何か罠とか作ってる様子あるかな?」 下を覗く香澄。 確かに、家屋が破壊しつくされている。が、罠があるかどうかは判別できない。 どころか、いきなり見つかった。日向ぼっこをしている者がいたのだ。 「まずい」 すぐに隠れ、式を小鳥の姿で出して低空飛行。 「ルンルン忍法ジゴクイヤー‥‥これで聴音もバッチリです」 ルンルンは盗み聞きで情報収集する。 結果、敵の警戒は「何かおかしいが用心しておこう」程度であること、罠はないことなどが判明すた。 でもって、皆のいる村に帰還。 「ふえ? ばれたの」 「うん。空を警戒するようになったかな」 戻った報告に狐耳をぴくりと動かすプレシアに、香澄が説明する。 「よし、好機だ。ボクたちは空から攻めないからね」 コクリの様子に、朽葉とベアトリーチェが短く笑った。どちらにしても急ぎたいようで。 というわけで、里に至る一本道を急ぐ。 「周囲警戒は私にお任せだじぇ」 リエットに警戒を任せ、とにかく急ぐ。 「こくりさん、辛いかも知れませんが里についてお話をお聞きしたいです、よろしいですの?」 シャルロットも頑張って早歩き。 「里が無防備なのは、ふもとの村に『ボクたちはここに立て籠もっているわけではないです。不審に思えばいつでも攻めてください』って意思表示するためだって聞いたことがある。だから、奇襲でも強襲でも攻めやすいんだ」 「そうであるなら、敵は攻めの立場を取るかもしれません。気付かれたわけですし取り逃がすわけにはいきませんから、ここは縦深陣でしょうか」 「そうだね、朽葉さん。里ではあまり戦いたくないし」 「こくりさん、シャルは偵察に行こう、待っていようか悩んでますの。じっとしてるのもなんですし‥‥きゃん」 「あ、シャルちゃん。大丈夫?」 「コクリねー。ここだね」 リエットが腰を落として右腕を広げて全体を止めた。シャルロットが躓いた地点が、ちょうど里を視認できる場所だったようだ。 木々の向こうの里は、すでにコクリの知っている風景ではなく見事に破壊された廃墟だった。 「まあ、こんな所かしらね?」 ベアトリーチェが珍しく猫ではなく狐の式を出して、偵察に行かせた。 ● 「ん、好機だわね。あの見張り一人を倒せば、後は奥に固まって悠長に罠を作るかどうか話してるわ」 「今のところ、罠はなさそうだじぇ」 偵察結果を話すベアトリーチェに、忍眼で見た手ごたえを話すリエット。 「念には念を入れて‥‥奇襲は確実に成功させなくちゃ」 ジゴクイ‥‥もとい、超越感覚で聞き耳を立てておいてから、ルンルンが走ったッ! シノビの暗殺術、奔刃術と影の極意である。背後でベアトリーチェの狐が音を立てた隙を狙い、見張りとの距離を一気に詰め斬り付ける。 「逃さないんだじぇ」 リエットの円月輪が敵の足を狙う。 「紅き薔薇よ、彼の者を切り裂く刃となれ!」 花びらの塊がカマイタチとなって飛ぶ。ベアトリーチェの斬撃符が追撃だ。 「よし。シャルちゃん、みんな、行くよ」 「リエットちゃん、ニンジャマンの力存分に見せちゃいましょう!」 コクリの号令で、第一陣突撃。ルンルンも引き続き前衛だ。 「じゃ、ボクたちはボクは後ろで戦う準備だよ〜」 「そうですね。皆さんを信じて」 プレシアと朽葉が、一本道で待機する布陣だ。 「コクリ、敵はあの廃屋だから」 「ん、状況は変わってないよ。残りは5人だ。‥‥あ、気付いた。たぶん心眼だ」 ベアトリーチェがコクリを見てあごをしゃくり、小鳥の式を改めて出し手厚い偵察をする香澄から異常有りの報告が入る。 「シャルちゃん、手筈どおり突っ込むよ」 が、敵も早い。シノビが早駆けで出てくると、シャルロットが敵からの攻撃をオーラとガードを駆使し防ぐ。 「‥‥ここには色々な思い出とこれからも紡がれる筈だった未来が確かにあった筈ですの。それなのに皆さんは何故こんな酷い事をしたんですの?」 反撃の突きを繰り出し敵の出鼻をくじくシャル。コクリは続いて出てきた泰拳士を狙い援護する。 「これ以上、貴方達にこくりさんの故郷を荒らさせたりしません。‥‥例え、形は変わってしまっても、その思い出の地はあなた達が居座っていい場所ではございませんの!」 「なんだぁ。チビッこいのばかり。しかも女だらけじゃねぇか」 大柄な敵のサムライ風の男が出てきたところで、きらりん☆とベアトリーチェの目が「これは、いいカモね」と光る。その脇を、香澄が抜けた。前に立つ。 「女の子ばっかりなのに怖いのかな? 里の人だけいじめて楽しいの?」 「ここにいた奴らか? いじめてねぇよ。ああ簡単におっ死なれてしまっちゃなぁ」 「貴様ッ。皆を殺しておいて〜」 香澄の問いに対する敵の挑発に、コクリが負けた。怒りに我を忘れたかスキルも使わず突っ込む。 「ちっこいのがいくら束になってかかってこようが敵じゃねぇ」 「コクリッ!」 敵の剣に血しぶきを上げ倒れるコクリ。もう、演技どころではない。シャルロットが駆け寄り盾となり、ルンルンが脇の下から担ぐと、ベアトリーチェが治癒符を使った。 計画が崩れたか。 ――と、その時ッ! 「ぐっ」 そのまま攻め込もうとするサムライが歩みを止めた。足に細長い針が刺さったのだ。 「‥‥お前。コクリねー困らせたな?」 撃針を放ったリエットが怪気炎を上げ、薄く開いた瞳でにらみつけている。一瞬怯む敵5人。一気に場の雰囲気が変わった。 ここを、小悪魔娘・エリスが見逃すはずはない。 「こんな小さい女の子相手になに怖気づいてるの? ‥‥弱虫」 くすっ、と微笑。 「大の大人が子供に怖気付くとかだらしないわね。恥ずかしくないのかしら?」 さらに、ベアトリーチェが嫌味たっぷりに。こちらも、小悪魔。 「ぐ。この小娘どもぉ〜」 今度は、盗賊どもが怒りに我を忘れた。 「まずいかも。いったん退こう」 慣れないながらも大鎧「双頭龍」を着込んで来た香澄が、これ以上コクリをやらせはしないと盾になりつつ叫ぶ。リエット、シャルロットとともに難しい撤退戦を繰り広げながら退いていく。 そして、森の一本道まで撤退したとき――。 ● 「あっ」 盗賊達が、息を飲んだ。 何と、巨大な龍が目の前に現れたのだ。 「へへっ」 仲間の撤退を待ち構えていたプレシアの大龍符だ。 その瞬間。 同じく味方を待っていた朽葉がストーンウォール。敵後方に石の壁を構築し退路を絶つ。 ルンルンとリエットは、素早い動きで左右の森へと展開し包囲。 シャルロットと回復したコクリが敵前方を固め、今、その間から香澄が進み出る。 「一本道だからね」 火炎獣を呼び出すと、火炎放射。敵に大打撃を与えその後ろの石の壁も崩した。 「皆さん、下がってください!」 続けざまに、朽葉が前に出る。言葉は両翼の二人のため。今、燃え移った火消しもかねて、「氷岩鋼壁」お得意のブリザーストームが吹き荒れる。 (勝負あった) 開拓者9人の、誰もがそう思った。 ここで、誰も想像しなかった事態が発生するのだったッ! ● 「おかしいです。何か来てます」 「えらくおっきいじぇ。何だ、こりゃ」 最初に気付いたのは、超越聴覚の残るルンルンとリエットだった。 そして、吹雪が消えると同時にとんでもないモノが全員の眼前に迫っていたのだッ! 「んお? これは‥‥」 プレシアの狐耳がピクリと動いた。 「は、ハンザケだっ」 叫ぶコクリ。ハンザケとはオオサンショウウオのことだが‥‥。 「こんなに大きなのは見たことないよっ」 畳二畳を縦に並べた程度の大きさがある。生体としては異常という大きさで、ゆえにアヤカシではとの思いが走る。「そういえば、『里ができてからアヤカシが出なくなった』と聞いたことがある」とコクリは思い返す。 ハンザケの呼び名は、丸い顔の半分が裂けているから。――つまり、口がとにかく大きい。 里方面から物凄い勢いでやってきたわけで、当然、生き残りの盗賊が後背から襲われた形となる。 「うわぁぁぁぁ〜」 哀れ、ひとかぶり。 「今まで好きなだけ殺して楽しかったんでしょ? だから次はあなたの番だよ」 ぞっとするが、目の前に盗賊がやってきたのなら話は別。エリスが至近距離から斬撃符を放つ。飛翔する丸鋸刃は敵を屠るが、道は一本。ハンザケもやってきている。すでに残りの盗賊は丸呑みだ。 「前衛をやらせはしないわよ。さあ、コクリ。決めてしまいなさい!」 ベアトリーチェは新たな敵に斬撃符を放つと指を差す。が、表面の粘液が飛び散るだけで効果は薄そうだった。 「くそっ」 今度は冷静に二刀を構えフェイントを入れ、横をすり抜けざまに狙うコクリ。 「う‥‥。なんだ、これ?」 粘液が剣に巻いて手ごたえが薄い。 「許しませんの!」 シャルも突くが、ぬめって上手くいかない。反撃の体当たりで吹き飛ばされるコクリとシャル。 「うう、ねとねとですの〜」 「紅き薔薇よ、我が友の傷を癒せ」 ベアトリーチェが二人の回復に専念する。 「喰らえ〜ぃ! プレシアうぇぇぇぇぇぶっ!!」 まずは止めるの、とプレシアが渾身の霊魂砲。こちらは剣よりは効いたようだ。しかし、まずいことに至近距離での戦闘。距離のあるリエットは投擲攻撃をするが効果が薄い。いま、ルンルンが突っ込むがやはり手ごたえは薄い。 至近距離の危険は、問題は敵の回転で全員が被害を被ること。実際、一回りする尻尾にほぼ全員が巻き込まれた。‥‥食われるよりはましであるが。 「これは‥‥無理かも。今のうちに退こう、みんな」 エリスが呪縛符を放ちながら言う。 「もう一体里のほうにいるし」 リエットも引き始め、コクリすら悔しそうに頷くのだった。 香澄の火炎獣と朽葉のブリザーストームを放っておいて、ねとねとになった全員がいったん撤退の決断をするのだった。 |