【香鈴】だって海だモン
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/25 19:15



■オープニング本文

「さあっ、あとは海で遊ぶだけだゼ?」
 だだっと駆け出した烈花(レッカ)がくるんと振り返って腕を広げ、陽気に言った。
 笑顔。
 それもそのはず。
 香鈴雑技団は海辺の町に来て、たった今雑技公演を終えたところだった。たくさんの拍手を浴びた。多くのおひねりをもらった。そしてなにより、いっぱいの人が来て笑顔になった。雑技団の子どもたちの顔もニコニコだ。
「もうすぐ開拓者の皆さんも来ますから、一緒に遊んでもらうといいでしょう」
「いつものお兄ィやお姉ェが来てくれるといいなぁ」
 雑技団の後見人、記利里(キリリ)が言うと烈花はご機嫌そうに微笑んだ。
「さあ、それは。皆さん忙しい身ですから、どなたに来てもらえるかは分かりませんよ」
「あ、もちろん新しい人でもいいだけどナ。いろんな冒険の話が聞けるから」
 慌てて言い直す烈花。
 彼女らはもともと家族のいない身だ。開拓者との交流をいつも心待ちにするのは、「いて欲しい時にいてもらえる、来て欲しい時に来てもらえる」という嬉しさがあるからかもしれない。
「俺は、思いっきり体を動かしたいな」
 兵馬(ヒョウマ)が言う。
「私は、ちょっと漬かって、後はのんびりしたいかも」
 皆美(ミナミ)が両手をあわせて目を細める。
「前然(ゼンゼン)はしっかり泳ぎを教えてもらえよ?」
「ちえっ。偉そうに」
 ここぞとばかりに嫌味を言う兵馬に、前然は赤くなって苦々しく言うだけ。どっと皆が笑う。
「‥‥あれ。陳新(チンシン)さん、どうしたんです?」
 在恋(ザイレン)が、元気のない陳新(チンシン)に声を掛けた。
「ちょっと悩みがあってね。‥‥せっかくだから開拓者に聞いてもらおうかと思って」
 どうやら陳新、恋の悩みがあるようだ。
 もう一人、難しい顔をした人が。
「どうなさいました、紫星(シセイ)さま」
「ちょっとね」
 記利里に聞かれ、はぐらかす紫星。内心は、「開拓者から見て、この中の誰が志体持ちかそれとなく聞いて回らなくちゃ」などと思っていたりする。
「ともかく、水着を用意いたしましょう。さ、これから早速選びにいきますよ」
 そう話をまとめる記利里だったり。闘国(トウゴク)は無言で肯くのだった。

 そんなこんなで、香鈴雑技団のメンバーと波の寄せる広い砂浜で遊んだり泳いだり、一緒に羽を伸ばしてもらえる開拓者、求ム。

 なお、子どもたちの中には思うところのあるのもいるが、まったく無視しても大丈夫のようだ。
 今回の金の出所は、出資者の記利里。
 その記利里からはそれとなく、「雑技団の子どもたちに、開拓者になって良かったことを聞かせてやってもらえると嬉しい」との注文がついてます。が、これは参加者の裁量に任せるようで、無視しても結果には影響はしないとのこと。
 難しく考える必要はなさそうである。


■参加者一覧
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
からす(ia6525
13歳・女・弓
エメラルド・シルフィユ(ia8476
21歳・女・志
霧咲 水奏(ia9145
28歳・女・弓
アルーシュ・リトナ(ib0119
19歳・女・吟
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
アイシャ・プレーヴェ(ib0251
20歳・女・弓


■リプレイ本文


 海は青く遠く、空も青く高かった。遠くで入道雲がもこもこと――。
 夏である。
「よぉし。じゃあ行くゼ!」
 気合一発、シダ柄のトランクス水着姿の兵馬が拳を上げて音頭を取ると砂浜を駆け出した。赤いビキニの烈花が追い、黒水着の闘国も元気良く続く。一方、緑の水着の陳新は控えめに。青でまとめた前然に至っては「好きにすりゃいいサ」と斜に構える。黒ビキニの紫星はその様子にやれやれとため息をつき、隣でフリル付きセパレートの在恋が笑っている。
「あまり沖まではいかないようお気をつけを」
 木陰で記利里が声を掛ける。そばでは花柄ワンピの皆美がしょもふーを撫でながら、まぶしそうにみんなを見送っていた。
 と、そこへ開拓者がやって来た。
「やー、やはり夏と言ったら海だよね」
 しみじみ頷くのは、九法慧介(ia2194)だ。
「さてっ、此度は思い切りにと羽を伸ばすと致しましょうかっ」
 高く覆う首から八の字に伸びて胸元を包む深い青色の水着は、霧咲水奏(ia9145)。
「皆さん、開拓者さまがご到着されましたぞ」
 記利里が呼ぶと、子どもたちはわあっときびすを返し戻ってきた。
「弓姉ェ!」
 水奏の腰にがっちり抱きつく烈花。
 その一方で。
「今日はゆっくりできそうだな」
「蒼兄ィ、ちょうどいいわ。前然に泳ぎを教えてやって頂戴」
 海と子供たちを見てのんびりと目を細めた琥龍蒼羅(ib0214)だが、紫星がやって来てそんなことを言う。
「いや。彼女に任せることにする」
 ふっと微笑する蒼羅。低い身長に細身の体、見た目雑疑団の子どもたちと同じくらいの年齢(実際には1〜2歳程度上)のからす(ia6525)を見る。
「青と水色の色彩が美しいな」
 からす。黒いビキニに白い袖無しパーカーを羽織って海を見る姿はどこか飄々としたところがある。くすっと笑ったのは、夕方にはきっと「赤と橙の色彩が美しいな」というだろうと思ったから。
「歌姉さん、お久しぶりです」
 在恋は、アルーシュ・リトナ(ib0119)見つけて抱きついている。アルーシュの水着は黒地に白い小さな点模様が整然と並んでいるもの。腰の高い位置からふわっと広がるワンピのシルエットで裾が短め。太ももの白さがまぶしい。
 それはそれとして、新たに子どもたちの視線が一点に集中してますよ。
「はじめまして。あたし、南那亭のメイドウェイトレスのアイシャと言います」
 メイド服姿のアイシャ・プレーヴェ(ib0251)がぺこりとお辞儀した。
「雑技団か、面白そうだな。よろしく頼む」
 エメラルド・シルフィユ(ia8476)がローブをまとった姿で胸を張る。
「‥‥水着は?」
 兵馬が不平を漏らした。
「海に来たから泳がねばならないという法はない」
 堂々と、エメラルド。「え〜」と不満そうな雑技団の面々。
「現に浜辺で楽しんでいる者もいるではないか」
 確かに、いる。
「じゃあ、水着に着替えて楽しめばいいってネ」
「じいさん」
「かしこまりました」
 烈花の指摘に、前然が記利里を振り返る。初老の記利里が一礼して、用意していた女性用の水着を取り出す。
「さあ、着替えて着替えて」
 烈花、在恋、皆美、紫星の四人がべたべたと抱きつき、エメラルドとアイシャを着替えに連れて行くのだった。
「って、どうして手品兄ィも普通の服なんだよぅ」
 兵馬、実は水着を着てなかった慧介にも突っ込む。「ほら、着替えて」と慧介を押す兵馬。「わかったわかった」とこの二人もいったん引く。
 と、ここで一同の脇を一陣の風が駆け抜けたっ。
「海もふ!」
「ちょっと待ってよ、もふ龍ちゃん〜」
 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)とその朋友「もふ龍」だ。元気良く、「泳ぐもふ〜☆」とざぶ〜ん。白いワンピの紗耶香もざぶ〜んするが、もふ龍はさらにまっしぐら。いったいこれ以上どこに行こうというのか。
「もふ龍ちゃ〜ん、あまり遠くに行っちゃ駄目よ〜」
 ああ、波と戯れる金色のもふらが一匹。紗耶香は仕方なく好きにさせて、戻って雑技団に挨拶。
「‥‥しょもふーも一緒に遊べばいいのに」
 陳新が雑技団のふもらさま「しょもふー」に声を掛けるが、こちらは「もふー」と言ったきり寝こけている。いや、いつもより元気がないのか。
「闘国」
「分かった」
 陳新の視線に気付き、力持ちの闘国がしょもふーを担いで海に。やがてどぷーん。
「とにかく、初めての者もいるので日が暮れてからはバーベキューというのはどうか?」
「ええ、素敵です。花火も良さそうですよ」
 皆見送っていたが、ふと蒼羅が口走る。アルーシュが続いたことで、雑技の少年たちもわあっと盛り上がった。
 さあ、いろいろ忙しくなるぞ。


「まずはひと泳ぎと行きますかな」
 だっと駆け出したのは、水奏だった。みずみずしい肌の広く露出する背中で、まとめた長い緑色の髪が左右に揺れている。
「よっし。そうこなくっちゃ」
「手品兄ィもほらっ、置いて行くゼ」
 烈花が追う。そして、もふら柄の水着に着替えた慧介を連れて来た兵馬も。慧介は「まさかこんな柄とは」と、用意してこなかったことを後悔するが、まあ これはこれで喜んでもらえたからいいかなどと思っていたり。
「あ。エメラルドさん、アイシャさん、おかえりなさい」
 残ったアルーシュが振り返ると、二人がいた。
 エメラルドは真っ赤な、そしてアイシャが桃色のビキニだった。首を包んでから前に伸びて胸の部分を隠すトップであるのはいいのだが、ちょうど胸の谷間にハートマークの大きな切り抜きがある。
「うう、恥ずかしい‥‥」
「でも、可愛いじゃないですか」
 胸元をしきりと気にするエメラルドに、「猫耳もあった方が可愛かったかしら」と持参しなかったことを悔やむアイシャだったり。
「ねえ、蒼兄ィ。ちょっと」
 ここで、紫星が蒼羅を手招きした。離れた岩場に座り、話を切り出す紫星。
「‥‥良かったかしら」
「何。ただ遊ぶだけとなると、逆に何をするか思いつかないと言うのが正直な所でもある」
「だったら」
 紫星、「開拓者から見て、雑技団のメンバーで志体持ちはいるかしら?」と切り出した。
「そうだな」
 蒼羅は周りを見回した。
 水辺では、水奏と烈花が水の掛け合いをしている。身体能力の高い娘だ。志体持ちでもおかしくはないが、どうだろう。目を転じると、紗耶香がしょもふーをからかい、闘国がもふ龍にばしゃばしゃと水を掛けられていた。
(闘国は志体持ちだが、本人はだまっていてほしいと言ってたな)
 蒼羅、義理堅い。
「‥‥全員、志体持ちでもおかしくないんじゃないのか?」
「ありがとう。参考になったわ」
 にこっ、と紫星は笑った。
「どうして紫星はそんなことを知るたがる?」
「‥‥まあ、いいじゃない」
 逆に聞くと、すっと立って背中を向け話をはぐらかされた。
「分からないがな。‥‥どれ、兵馬を鍛えて試してみるか」
 まったくの嘘を言ったわけではないことを伝えるため、そんなことを言って自身も腰を上げるのだった。


 さて、前然。
 浅瀬で膝下までしか浸かっていない。
「‥‥大丈夫ですって。とりあえず足のつかないような場所に行けば泳げるようになるものです」
「おわっ。‥‥ちょっと」
 突然前然の背中を押したのは、アイシャだ。悪戯そうな笑顔のまぶしさに負けて視線を落とすと、刺激的なハートマーク。
「じゃ、行きますよ」
「い、いや。いいからっ!」
 恥ずかしさもあり、逃げ出した。
 途中、水奏とすれ違った。
「実は拙者の想い人も泳ぎは苦手のようでして。特訓している最中に御座いまする。前然殿も頑張って下さい」
 水奏は前然を抱きついて止めると、そっと耳打ち。くすっと微笑して、肩を押した。
「まったく、みんなして‥‥」
「よっ、前然」
 今度は慧介と出会った。銛を持っている。
「釣りでもいいけど、こっちは運が良ければ貝も採れるしねぇ」
 地元の漁師に借りたらしい。これも夜の浜焼きのため。
 さらに、紗耶香も。
「前然さんは、夜は何が食べたいですか?」
 腕を振るいますよ、とにこやかに。
「まったく」
 と前然がため息をつくのが、二人とも「じゃ、特訓頑張れ」と言い残したこと。もう、前然は泳ぐ練習をして当然と思われているようだ。
「よう、前然。貴公も泳ぎを習うのか?」
 そこへ、エメラルドがやって来た。
「私もあまり泳いだことがなくてな。よし、どっちが早く上手くなるか、競争しようか」
 そう言って、浜辺にひとりたたずむからすの方へ連れて行く。そう、がっしり腕を掴んで。
「ほら。教えてもらうんだから頭を下げんか!」
「まあそう硬くならず。座って手製の水羊羹でもどうだ?」
 エメラルドにどやされ、ようやく前然は泰然としているからすに「泳ぎを教えてください」と頭を下げるのだった。


「海辺の強い陽射は女の子の肌の大敵。木陰で休みませんか?」
 波打ち際ではアルーシュがそんな提案をしていた。すでに兵馬は蒼羅と一緒に木刀を持ち出し稽古を始めている。
「水の中で体を動かすのは地上の時とは違う力が必要。俺もやっていた訓練の一つだ」
「おおっ」
 熱血している。
 このノリは、女の子としては距離をおきたいわけで。
「そうですね、ゆっくりしましょう」
 もともとゆっくりする派の皆美が賛同した。
「わあっ。歌姉さんにも、恋人さんがいらっしゃるんですね」
 木陰で話をするうち、在恋がそう言って目を輝かせた。
「ふふ 開拓者も普通に恋、しますよ? 水奏さんは素敵な方がいらっしゃいますよね」
「そうで御座いますなぁ」
 二人が並んで、しっとりと微笑し合う。
「どんな人なんです?」
「一緒に居ると心地良い‥‥話す時も 言葉が尽きても――まっすぐで、優しい眼差しの人」
 アルーシュの言葉に、また花が咲くようにわあっと歓声。
「いいですねぇ」
「でも、私たちにはちょっと早いかも」
 在恋がうっとりしたところで、皆美が釘を刺すように言った。「どうして」とアルーシュ。
「前然が、『俺たちは恋愛をするため雑技団を始めたんじゃねえ』ってサ」
「きっと、みんながぎくしゃくしないためだと思うけど‥‥」
 そっぽを向きながら烈花が言い、皆美が横目で在恋を気遣うように付け加えた。
「‥‥思えば香鈴の皆とは拙者が開拓者として初めて受けた依頼からの縁に御座いましたなぁ」
 ここで水奏が話をそらした。
「ふふ、縁とはまこと不思議なものに御座いまするよ」
 特に在恋を見て、付け加えた。以前に彼女と陳新、そして前然との出会いの話を聞いている。
「雑技団も同じく、良い縁を紡いでおられまする」
 改めて視線を波打ち際にやる。
「仰向けになって力を抜けば、特に海なら浮くはずだ。‥‥そしてバタ足。何でも経験してみるものだよ」
「くっ」
 からすの指導で前然が励んでいる。
 と、木陰にアイシャとエメラルドがやって来た。
「恋の悩み、ですか〜。いいですね♪。私も目下彼氏募集中です」
「あ。‥‥それより、いいのでしょうか」
 アイシャの言葉はともかく、アルーシュが心配そうにする。
「大丈夫。私より上達が早い」
 太鼓判を押すエメラルドだった。
 その後、アイシャのノリで重苦しくない恋の話となった。双子の姉を引き合いに出し、「まさか先をこされるとは〜って言うかスッゴいラブラブなんですよ」とか。きゃっきゃとえらく盛り上がる。エメラルドは雑技の子どもたちと一緒に、顔を赤らめドキドキして聞いてたり。


 場所は、移る。
「ねえ、手品兄ィ」
「おっ。どうした、陳新」
 岩場で素潜りしていた慧介と陳新だが、そろそろ戻ろうかというところで雰囲気が変わった。
「ちょっと、相談が‥‥」
 聞くと、どうも陳新は在恋に懸想しているとのこと。しかし、在恋は前然が好き。しかし、前然は団員内での恋愛沙汰に前もって釘を刺しているという。
「それはいいんだけど、やっぱり好きな人がほかの男に好意を抱いているのを何もせず見ているってのは辛くて‥‥」
 肩を落として言う陳新。話は複雑極まりない。
「好意を抱いているのなら、伝えた方がいいと思う」
「え?」
 慧介、まっすぐな瞳で簡潔に言う。
「報われるかどうかは分からないけど、伝えずに終わってしまうのはとても寂しい事だと思うよ」
 陳新、まっすぐな瞳に耐えられずおびえたように震えている。
「もしかしたら、一発逆転もあるかもしれないしねぇ」
 あ、まずいと冗談めかす慧介。視線をそらしたが、今度は陳新がまっすぐ見詰めてきていた。瞬きもせず涙を流している。
「ど、どうした?」
「‥‥ありがとう、慧介兄さん。自分は、恋に焦がれてあせっていた。‥‥そう。伝えて終われば、いい。僕たちが、『雑技団結成の夢の第一歩を、終わる覚悟で踏み出した』ように」
 心配そうにしていた慧介だが、ほっとした。
「もう、あせらない。一緒にいればいつでも伝えることができるから」
 そう言って、いつもの笑みを取り戻す陳新だった。


「さあ〜、皆さん。お腹いっぱい食べてくださいね〜」
「お、おお〜」
 こう見えて料理人ですからと胸を張る紗耶香の声に、雑技の子どもたちがどよめき目を輝かせた。
 サザエがある。アサリもある。キスやハゼも網の上で焼けている。そして彼女の買い出しでそろえた野菜も。
「こりゃ美味そうだ」
 特訓で腹が減ったのだろう。前然が箸を伸ばして「あちち」。
「あ。もう下ごしらえしてるからじゃんじゃん焼いてね」
 美味しい夕食に、元気のいい紗耶香の声。
「これ、手品兄ィが獲ったんだろう?」
「外れ。弓姉ェが素潜りで獲った魚サ」
 兵馬の言葉に、烈花がいーっと否定する。どちらもたくさん獲ってましたヨ。
「おや。アルーシュさま」
「うふ。記利里さんもいかがです?」
 アルーシュは香ばしい焼きおにぎりを貝殻に乗せて。
「わあっ!」
 皆の視線が一つに集まったのは、アイシャと皆美が花火に火をつけたから。吹き出す火の粉に、「きゃ〜」と仲良く戻ってきた。
 やがてからすと慧介は、線香花火に。
「この儚い輝きが美しいのだ」
 静かな様子に、闘国と陳新、エメラルドもやって来て屈んで楽しみ始めた。
「そうだ。これをあげよう」
 からすは、陳新に連理の桜の栞を渡した。
「成就したら、相手に片割れを渡すといい」
 ふっと笑って受け取る陳新。もう、取り乱したりはしない。

♪囁く波の音 夢誘う
揺れる陽炎 透い色(とおいいろ)
仄かな想いが姿を映す
浜辺で何時か あなたと私

 風に乗って、歌が流れてきた。
 アルーシュが在恋を誘って波打ち際を歌の散歩で楽しんでいるのだ。
「‥‥楽しきひと時はまこと短いものに御座いまするな」
 しみじみと、水奏。手にした線香花火の火が、ぽとりと落ちた。
「また、呼ぶよ」
 と、前然。
 雑技の旅も、時に寂しいのかもしれない――。

●おまけ
「‥‥こ、これは!」
 普段着に着替えたエメラルドの顔が、赤かった。
 ちょうどさらした胸元がハートマーク型に焼けていたのだ。ちなみにアイシャはメイド服なので、セーフ。
「うう、恥ずかしい」
 と色っぽく。