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■オープニング本文 「そ、そのっ‥‥。空戦のできる者を募ってくれまいか」 開拓者ギルドに訪れた女性が、一定の威厳を保ちながらも恥ずかしそうに視線を逸らしながら言った。 「どうされたんですか?」 ギルド員がそう聞いたのは、以前この女性からの依頼を処理した事があるから。その時は、「貴様も男だろう。こういう時こそ男を張るがよい」などとむちゃくちゃを言われた。えらく怒鳴られたものだ。 しかし、今回は顔を赤らめている。シエラ・ラパァナ、一体何があった。 「いや、海軍さんのカレーが‥‥いやいや、ここより別の時空の沿岸。太平洋戦争という世界規模の戦争の中、大日本帝国という敗北目前の国の軍港が空襲にあった。七月二十四日のことだ。‥‥また、四日後に空襲がある。このままいくと、すでに戦闘能力のない戦艦、空母、重巡洋艦などがすべて沈んでしまう。技術の粋を集めた守るも攻めるも鉄の勇士や海戦の女王などが、沈んでしまうのだぞ。何たる文化財的損失か。‥‥頼む。何とか、一隻でも守って欲しい」 「守るだけで、良いのですか?」 「ああ。戦争の勝敗はもう決まったようなものだ。敵空母に攻撃を仕掛けても意味のないこと。それより、戦艦の雄姿を、空母の美しさを守って欲しい。さすれば‥‥」 「さすれば?」 「無事な艦内の食堂で海軍さんのカレーや海軍さんのコーヒー、ビールとかいう酒をご馳走してもらう約そ‥‥コホン」 シエラ・ラパァナ、またも真っ赤になる。 「‥‥」 「ええい、うるさいうるさい。いずれか一艦でも守れば珍しいその時代ならではのご馳走にありつけるのだ。ぐだぐだ言わずに空戦のできる猛者を集めるだけ集めるがいい。毎度毎度男を張れない奴だ」 「な、何も言ってないのに」 ギルド員はそういうが、顔は「これでこそこの人だ」と満足そうだったり。 「それはともかく、今回は遠海ではなく沿岸だ。龍はいろいろまずい。グライダー乗りに限定させてもらうぞ。戦場まではもちろん、オォラシップ『グラン・ラガン』で行く」 「ええっと。オォラ力、というか気力により敵の戦闘機・爆撃機と同等の速度が出て、敵から受ける攻撃はすべて乗り手の気力減少となり、気力が尽きるとこっちの世界に強制送還されるんでしたかね」 「そうだ。ただし、今回は絶対に生きて帰れ。気力枯渇は許さん」 「前回は、『生き残れとは言わん、死んで来い』と言ってたでしょうに」 「事情が違う。せっかくのうまいものも戦った皆で食さねば味気なかろう。この私に一人寂しくビールで乾杯などという無様をさせるような人材をよこすなよ!」 赤くなってた様子はどこへやら、若き戦う指揮官の表情を取り戻し凄むのだった。 ※このシナリオはミッドナイトサマーシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません |
■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
各務原 義視(ia4917)
19歳・男・陰
海月弥生(ia5351)
27歳・女・弓
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
趙 彩虹(ia8292)
21歳・女・泰
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ● 時は西暦2010年7月28日。広島県は呉市上空に大きな雲が浮かんでいた。 今の時期に見られる積乱雲ではなく、風に流されているわけでもなく。 ――明らかに、不自然。 見上げる市民はそう思っていた。四日前に呉軍港に空襲があった直後で、皆不安がっている証拠でもある。 そのうろんな雲の上、大型の空飛ぶ船の艦内。 「‥‥新たに諸君ら滑空艇乗りの魁とも言える戦士を迎えることができてうれしく思う。本艦『グラン・ラガン』は我がオォラ力により発生させたお椀上の雲の上にある。敵機が飛来せし折には全機発進し、軍港及び周辺湾岸に分散停泊する戦艦、空母などを護衛。最低でも一艦を守り抜いてほしい」 オォラシップ「グラン・ラガン」で、若き女性艦長のシエラ・ラパァナが厳しい表情で作戦概要を最終確認していた。異世界の空の上に来た開拓者八人は整列し、身を改める。 「オォラ力と言うのは良く分かりませんが、精一杯頑張ります」 桜を思わせる和装に赤いリボンと帯が純情可憐、艶やかな黒髪は人呼んで「もふもふ巫女。」。ああ十二歳、鈴梅雛(ia0116)が面を引き締め覚悟を話す。 「本当は、全てを守りたいのですが‥‥」 「その心意気や、良し」 ぐっと胸の前で拳をにぎりうつむき加減で視線を横に逃がす彼女の言葉を、シエラが止めた。 「しかし、先の空襲で地上の空対空・地対空戦力は壊滅。頼りの各艦の対空防御もほぼ無力化しておる。我々が参戦せねば一方的にやられるだけの戦いとなるほどひどい戦況だ」 「戦える戦力が私達だけなら1、2隻残せれば御の字でしょう」 シエラの説明を聞いてから、宿奈芳純(ia9695)が能面「風霊」を外して目元の涼しい素顔をさらし言い切った。目立って体格の良い陰陽師 で、力押しの最前線支援から対商人の交渉ごとまで幅広くこなしている。ここは現実路線にいち早く舵を取った。 「うむ。彼我の戦力差は絶望的、しかも戦場は広域となるから分散防衛の愚は避けたいところ」 「はい、はいっ。シエラ艦長様!」 ここで、肉球の手が上がった。きぐるみ「まるごととらさん」はすでに古い戦友、誰が呼んだか「天色白虎 」こと趙彩虹(ia8292)が元気に突っ込む。 「私は『はるなちゃん』を守りたいですっ」 「ん? 趙様、『はるなちゃん』とは‥‥」 知識人の各務原義視(ia4917)が彩虹の表現に疑問を呈した。 「あ、ホンちゃんが言ってるのは戦艦『榛名』だよ」 「かみちーの言う通り」 新咲香澄(ia6036)が解説したところに、彩虹がえっへんと胸を張る。 「恐らく敵は空母を集中して攻撃してくるでしょう。逆を言えば、空母攻撃に手間取ればそれだけ他の艦への攻撃は疎かになるはずです」 悪くない案です、と能面を被りながら芳純。 「あ。そ、そんなに堅苦しく話す必要はないぞ」 突然、身を乗り出してシエラが待ったをかけた。 「うん、はるなちゃん。いいよね。やっぱり戦艦はシルエットがいいし。‥‥あと、少なくとも空母は一隻守りたいよね、海戦の女王だし。守るなら、どっちがいいかなぁ」 妙にわくわくし、口調もくだけてきた。というか、明らかに楽しんでいる。もしかしたら、戦う船が大好きなのかもしれない。 「じゃあ、天城」 「天城でしょう」 雛と芳純が言い切った。 「空母であればどちらでも」 「義視君、もしかして調子悪い?」 若干上の空発言の義視を、天河ふしぎ(ia1037)が心配して声を掛けた。ふしぎ、水兵さん上着の白色が目に眩しくさわやかだったりする。 「いや、ふしぎ。いろいろ戦い方を思い巡らせていただけです」 さすがは実践派。何を守るかではなく如何に守るかに重きを置いているようだ。 「まあ、丁度グライダー購入したばかりだし、試運転代わりにやるのも良いよね」 あーらら面倒なことになったわね、と紫の瞳をいたずらっぽく光らせて海月弥生(ia5351)が口を挟んできた。 「じゃあ私は『葛城』。まあ、引き受けたからにはちゃんと任務は達成してみせるわよね♪」 にやりと続ける。無責任を装ったわりに、現状で一番手薄な持ち場を口にした。 「私は空母‥‥。できれば天城を守りたいところですが、これは葛城守備に付いた方が良いかもしれませんね‥‥」 くいっ、とずり下がった大きな眼鏡の位置を直して、水津(ia2177)が言う。確実に空母を一艦を守るなら、挙手の多い天城だがこれを採らなかった。もしかしたら、恋愛小説でよくある三角関係に悩む主人公の構図を己の立場に置いたのかもしれない。 「幸い、天城と葛城は比較的近い位置に停泊しているな」 地図を指し示し、シエラ艦長がうなった。 「とりあえず、どちらも守るということが狙えなくもない。こっちの世界では諸君らの『気力』は『オォラ力』となりさまざまな効果を生む。声を出せば離れた位置でも直接耳に響いてくる。声を掛け合って連携することだな」 「あ、艦長。その『オォラ力』について詳しく知りたいんだけど」 「いよぅし、仕方ない。説明しようか」 ふしぎの挙手に、またくだけた感じとなったシエラが応じた。詳細ははしょるが、簡潔に説明する。 「そっか、異世界ではオォラ力が増大するんだ‥‥でも、調子にのって憎しみに取り込まれないように、しなくちゃいけないんだね」 そうそう、「ハイパー化」しちゃうからね、とシエラ。 「艦長! 敵機補足しました。数は‥‥数え切れませんっ」 索敵していた乗員が報告した。 さあ、出撃だ! ● 「天河ふしぎ、天空竜騎兵(スカイドラグーン)出るっ!」 ふしぎが、大切な人の形見のゴーグルを下げ親指を立てた。水兵服の大きな襟が風に舞う。グラン・ラガンのカタパルトはすでにスタンバイOK。いま、射出。 「すごいGだっ」 瞬間的な圧力に耐えるふしぎ。それが過ぎると、周囲に広がる青い青い空と眼下の海。オォラ力の証、七色の燐光を纏って自由に空を舞う。龍とは違う、動かない静かな翼。天空竜騎兵と一緒に風を全身に感じ、身を預ける感覚――これが滑空艇、グライダー。 「そのまま出る」 次に、カタパルトの準備を待たず義視が行く。敬礼したまま、ふっと甲板から落ちる感覚。見送るシエラたちはあまりの唐突さに「あっ」と声を漏らしたが、愛機「鍾馗」を上手く上昇気流に乗せたらしい。甲板の下から浮き上がり無事に飛んでいる姿を見せた。また敬礼。見送る艦橋から歓声が沸いた。 「さあ、『Blue Blaze』(蒼き流星)。空を駆け抜けて武威を示せたら良いわよね!」 次に弥生が、金髪をなびかせ出た。マリンブルーの機体横には眩しく白い流れ星。「蒼き流星」、いま、大空に放たれるッ。 「ひいなの『ひよこ1号』、初飛行です」 続いて黄色い機体が加速し射出される。雄雄しく右旋回する翼に「ひよこ1号」の文字。ひよこは飛ばないと誰が言ったか。巣立つ鳥のように雛を乗せ自由に空を舞う。 「この世界だと、焔の魔女の名前より鋼の乙女の方がふさわしいですね‥‥」 水津も発進。駆るは名付けて「クトゥグァスター」。異界の火の神と風の神をもじったのは、火に属する自らが風となるため。あるいは名状しがたき名となったかもしれないが、鋼の意志で貫く。 そして芳純が愛機「黒羅」で、彩虹が鯱を思わせる配色の「翔虎」で、最後に香澄がさそりの毒針の意味を込めて「シャウラ」と名付けた滑空艇で、それぞれ戦場へと飛び立つのだった。 ――きろりろり〜ん。 「どうですか、乗り心地は」 彩虹の耳に、閃きの音とともに宿奈の声が直接響いてきた。 「最高! 空を泳ぐってこーゆーコトなんだなーって。かみちーは?」 「うん、きりきり動く。思った通りに整備できてるかな」 振られた香澄はさわやかに口を開き気分上々。証拠に急旋回してみせる。突風に舞う木の葉のような素早い身の翻し方だ。 「こら、遊ぶな。もう敵が目の前だぞ。まずは、制空権確保のための艦戦だな。健闘を祈る」 「ようし。それじゃあ急いで榛名の上空に」 香澄、今度は空から落ちるように。真っ赤に塗装のシャウラが、獲物を狙うさそりのように鋭く急降下。彩虹とふしぎが両脇を固めた三角編隊を整え、突っ込んだ。 ● 最初の敵は、コルセア戦闘機だ。 上空から襲い掛かる形となった滑空艇部隊は、うまく「被る」ことができた。迎撃の主導権を取ったといっていい。 「シャウラ、厳しい戦いだと思うけど一緒にがんばろうね」 「為虎傅翼‥‥行くよ翔虎!」 積極的に襲い掛かったのは香澄だった。これに遅れまじと彩虹が続く。いや、加速して高速接近。何をするつもりだ? 敵三角編隊は彩虹の駆る「翔虎」に反応した。先頭の隊長機の軌道がずれる。 「今だよ! かみちー!」 彩虹の声に呼応し、香澄が加速。右一直線を狙うような位置に動いた。 「まずは挨拶代わりに主砲発射だよ! 駆け抜けろ、炎の馬よ!」 陰陽符「玉藻御前」で召喚するは焔のけだもの。現れたのは一瞬だが、口から紅蓮の焔を一直線に吐き出したッ! 戦闘の隊長機が炎上すると、右翼の二機も同じ運命を辿った。 「な、なんだ、アレは。噂の烈風か震電か富嶽かっ」 この信じられない光景と破壊力に、米国パイロットは敵国で開発中との噂を聞く新兵器を連想し驚愕・混乱したという。 「彩虹から凄いオォラ力を感じる‥‥まさか、聖戦士」 後続のふしぎが、オォラ力の証である燐光の一番強い彩虹に感心していた。 「でも、僕も負けないんだからなっ」 戦艦・榛名を守るため、行く。 「‥‥うるさい、分かったから、耳元で騒いじゃ駄目なんだからなっ!」 何者かの援助もあるのかもしれない。右手から来る敵機に気付いたふしぎがひとりごちると天空竜騎兵を巡らせ空中静止。すぐにまた加速し一気に接近すると、敵に撃たせずすれ違いざまに刀「水岸」を一閃した。翼を根元から斬られた敵機がきりもみしながら落ちていく。 その、落ち行く敵機の向こう側では。 「はいぱー絶招! 白雷烈吼!」 彩虹が敵機に突っ込み、極地虎狼閣の白い気で包まれた槍「疾風」を見舞う。命中した瞬間、「グオゥ‥‥」という虎の唸り声とともに白い気がほとばしる。一機、撃墜。 「敵もまさか、虎に襲われるとは思わなかったでしょう」 風に吹かれるままきりっと面を引き締め、彩虹が口走る。 「生きて還ってもトラウマものじゃないかと」 なんちゃって、と破顔しておどけるあたり、どうも照れ屋さんなところもあるようで。 「ちょっとホンちゃん、雷撃機も来たよ」 「おっとっと、すぐいくから」 戦艦・榛名。こんな守りだが、いまだ健在。 ● そして、空母護衛組。 葛城の上空前方では、水津のクトゥグァスターと弥生のブルー・ブレイズが戦闘を繰り広げていた。 と、水津が滑空艇の上で弾むように踊った。神楽舞「進」である。 これを受け、弥生の動きが冴え渡る。手放し飛行から星天弓をきりりと引き絞り強射「朔月」の一射勝負。風防を割り敵操縦士に刺さった。動きの乱れた敵機は隣の友軍機と接触しもろともに落ちる。 「艦戦は単独で相対しないで!」 「攻撃は最大の防御‥‥なら、防御こそ最大の攻撃です。時間を稼げば相手にも燃料の余裕はない筈ですよ‥‥」 さらに弓を放つ弥生が声を張ると、水津も我慢の防衛行動を説く。 「えっと、艦戦より艦攻を優先するのでしたっけ」 艦戦に対し激しく戦っていた雛が、弥生と水津の言葉に我に帰った。 「でも、やっぱり。‥‥そこっ、はいぱあ射撃です」 敵戦闘機から攻撃を喰らい気力が減少した。やはり放っておけないとひよこ1号から理穴弓でハイパー技。確実に天城上空の敵を屠る。 「‥‥どうやら艦攻と艦爆のお出ましのようですね。行きましょう」 同じく天城を守る宿奈が遠くを見て雛に伝える。艦戦のエンジン目掛け氷柱をぶつけて撃墜していたが、黒羅をくるりと翻して迎撃に向かった。 「よし、ここからだ」 鍾馗に乗る義視も、するするっと迎撃に。 この時、敵機が最短距離で空母を狙う射線に乗るのではなく、わざわざ大きく回り込んでから突っ込んでくるのに気が付いた。 「なるほど、四日前に続き二回目の攻撃ですからね。そこからだったら防雷網がありませんか」 冴える洞察。 しかし、もう魚雷投下阻止には間に合わないタイミング。 「防雷網の代わりを呼び出すことはできるのですが‥‥」 海面をみながら残念がる。 その時。 「手助けをしてやろう」 ――きろりろり〜ん。 シエラ艦長の声と覚醒音が脳に直接響いたかと思うと、眼下の海底と思しき映像が頭の中に浮かんだ。 「ありがたい。 南斗北斗三台玉女 左青龍避万兵 右白虎避不詳 前朱雀避口舌 後玄武避万鬼 前後輔翼 急々如律令」 一体何を言ったか。 ともかく、結界呪符「白」でヌリカベを海底に召還。 同時に、アベンジャー雷撃機が低空飛行から浅深度魚雷を投下した。義視の方はさらにもう一枚。 果たして。 ――ズズゥン。 ヌリカベに魚雷命中。初弾を防いだ影響は敵後続に利いてくる。突入角度の微調整は、魚雷の最終的な命中率低下に影響したという。 しかし、ここで決定的な事態が発生することとなった。 ● 「葛城ッ!」 ――ドゴ〜ン。 金髪を振り乱した弥生の叫びがむなしく響く。 対艦攻で惜しみなくハイパー射撃を使い奮戦するも、ヘルダイバー急降下爆撃機からの爆撃で飛行甲板に大破孔を開けられたのだ。 「これは‥‥無理しない方がいいかもしれません」 各種神楽舞で弥生の援護に徹していた水津が、天城の一点防衛に切り替える案を示した。 無理もない。 戦況はひどいもので、戦艦「日向」が上甲板以下に浸水し大破着底したのを筆頭に、軽巡洋艦「大淀」が転覆着底するなど燦々たる有様だ。さらに戦闘機が寄って来て、爆撃・雷撃隊も第二波が押し寄せている。 「分かった」 もともと両対応だった義視が方針転換に素早く対応する。旋回を多用する巴戦も快調、新たにやってくる敵に対して氷柱でプロペラを狙い落とすなどハイパー技に頼らず極力長く戦おうとする。 「どうしよう」 逡巡するのは、弥生。一番気力が低く、今まで奮闘した分オォラの燐光が薄まっている。 「あなたはまだ動けます‥‥私達の底力見せてあげましょう‥‥」 神楽舞「防」で励ます水津。とにかく、ブルー・ブレイズを信じ天城を守る決心をする弥生だった。 「天城集中ですか、いいでしょう」 仲間の動きを察知し、芳純は黒羅を急起動。呪声など練力に頼る攻撃で気力の低さをカバーしていただけに、まだまだ動けるといったところだ。と、敵編隊に横撃しながら黄泉笏でハイパー攻撃。状況に応じて敵を葬る。 「これ以上は、近づけさせません」 雛も、ここが勝負どころとハイパー射撃。が、敵を倒せど別方向から攻撃も喰らう。 「カレーを食べずに、帰れません!」 ひよこ1号を翻し、粘り強い。 ――ズズゥン‥‥。 ここで、見捨てた葛城が大破着底。 果たして戦力分散していた状態で守りきれたかどうか怪しいところだ。 「くらえハイパーオォラ斬りですよ‥‥って、杖だからハイパーオォラ突きでしたか‥‥」 水津も手にした清杖「白兎」で白兵攻撃。 もう、なりふり構っていられない。 手厚い防御は雷撃機だけでなく爆撃機にも手が回るようになり、何とか天城を死守できた。 ● 一方、榛名の護衛の三人。 「正義の空賊として、争いを生みこの空を汚す物を、僕は許しておけないから」 ふしぎが猛り敵を落とす。 「‥‥べっ、べつに本場の海軍さんカレーに釣られたわけじゃ、ないんだからなっ!」 さらに落とす。 「手に入れたグライダーの慣らしついで、なんだからなっ!」 ‥‥いやもう、分かりましたから。はい。 「簡単にはやらせないよ!」 手当たり次第のふしぎに対し、香澄はしっかり雷撃機を狙い効果的な攻撃。火輪で増加タンク投下後の燃料痕を狙い発火させたり、至近距離から斬撃符で攻撃したり。いま、敵の攻撃で緊急回避。シャウラの動きも良さそうだ。 彩虹も健在。 豊富なオォラ力を活用し、翔虎とともに為虎傅翼を体現中。 「深き愛の心にて、今、憎しみを生む機械の源を断つ‥‥焔桜剣、ハイパー精・霊・斬っ! オォラエンド」 そしてふしぎが、呪殺符「深愛」に紅焔桜の輝きを宿し、オォラ力を込めた必殺の精霊剣で突っ込んだ! 爆発の硝煙を抜け、天空竜騎兵が舞う。ふしぎ、その上で健在だ。次の獲物を求め、翼を傾ける。 榛名の方は、担当した三人の気力の高さがものを言っているようだった。 ● そして、敵の攻撃は止んだ。 軍港は壊滅状態で、停泊していた戦艦・空母もほぼ全滅した。 無事に浮いているのは、開拓者が主に守った戦艦「榛名」と空母「天城」。無事、作戦をやり遂げた。 「ま、上手くいったかしらね‥‥」 空母に着艦できるとは、と感慨深げな弥生。それもみんなで守ったからこそ、だ。 次々仲間も空母の着艦コースに入っている。 「誘導作業、痛み入る」 先に下りていた芳純は、作業員に挨拶し誘導の労をねぎらっている。 「私はかなりの辛党なのでカレーが楽しみです‥‥」 うふふふふ、と水津。火を吐くような辛さを想像したか、すでにいつもの火を扱っているときみたいな雰囲気で。 そう。きょうは金曜日。 さあ、海軍で言うところのカレー曜日だ。 「よくやってくれた。こうして無事に食事にありつけるのも、戦に生き残ってこそ」 天城の食堂に、シエラの挨拶と乾杯の音頭が響いた。ぐびり、とビールをやるシエラ。口元に泡をつけたまま陽気に笑う。 「海軍さんのカレー、美味しそうです」 わくわくとスプーンを手にする雛。ちなみに辛口は苦手なので甘口にしてもらったり。余談だか、この特別措置は神風恩寵で怪我をした軍人を手当てしたから。「カレーの、お礼です」と彼女は言ったが、それだけでは軍人の気がすまなかったのだろう。 ちなみに、ほかの人は。 「うふふふ、激辛」 一口食べて満足そうな水津。味付けはつまり、そういうことのようで。海軍さんのコォヒィには、ミルクたっぷり。 「胸が大きくなるためのミルクは欠かせません!」 ほ、ホントですか、水津さん? それはともかく。 「こ、これくらいの辛さ、平気なんだからなっ」 勢いよく思いっきり食べたふしぎは、ちょっと涙を浮かべていたり。あまりに無防備にがっつきすぎですよぅ 。 「あ、美味しい‥‥」 礼儀正しく「頂きます」と手を合わせてから食した義視は、特に激辛好きというわけではない。肉のうまみがしっかり出ていることに目を丸くしているのだ。 「ん、少なくとも頑張ったかいはあったかな?」 香澄は頬張ってからにっこりと今回のオチをつけるのだが、ちょっと待った。なにやら騒々しい人がいますよ。 「このまろやかさ! 祖国の辛口料理とはモノが違いますね♪」 彩虹が猫の目のようにくるくると好奇心と興味で瞳の色を変えつつ、海軍さんのカレーを絶賛していた。と、「料理長に挨拶したい」とか言い出したり。 「あの‥‥よろしければ作り方とか教わりたいのですが」 「軍事機密だから、駄目」 しおらしく聞く彩虹に、あっさり言い切る料理長。 「けちっ。私たちがいないと完全に負けてたのに」 「たとえ帝国海軍が破れようとも、帝国海軍伝統のカレーに敗北はないですから」 なんとカレー無敵宣言。が、これで引き下がる彩虹ではない。 「元の世界に帰っても絶対に覚えていて、帝国海軍の伝統を伝えますから〜」 「う。版図を広げる、か」 この一言は利いた。早速厨房に行く。 「ホンちゃん、天儀に戻ったらボクに作ってね♪」 期待して見送る香澄だが、ちょっと様子が変ですよ。 「‥‥野菜とか材料や煮込みが大切なのは分かったけど、肝心のコレはなんですか?」 「業務用のカレー缶。粉のルゥが入ってるんだ。これから、好みの味付けに微調整して‥‥」 当然、天儀に業務用カレー缶なぞは、ない。 「やだ。持って帰る持って帰る‥‥」 もちろん、無理だったという。 |