【泰猫】山賊砦の防衛戦
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/26 17:21



■オープニング本文

 人の繋がりというのはありがたいもので。
 ここ武天の片田舎の山中にある宿「山賊砦」は開拓者たちの協力があり、無事に運営されている。故郷の泰国を離れ開拓者と一緒に悪い山賊を退治。根城を占拠すると、そこを宿として経営して行く事になった。すでに周辺村への挨拶も済ませた。今は、施設の充実を急ぎながら、地元村の田植えなどを手伝い広域な生活圏を持つ新たな住民・集落としての足場を固めているところである。
「瑞鵬!」
 そんなある日、山賊砦を運営する泰猫隊リーダー・瑞鵬(ズイホウ)を呼ぶ声が響いた。
「前に退治した山賊の残党を捕えたんだが‥‥」
 山中の警備巡回に出ていた者が3人の男たちを捕らえていた。
「重要な情報を持ってきた」
 その、彼らの頭とおぼしき男が堂々と言う。
「この砦に数日後、夜襲がある。即刻、防衛策を練るべきだ」
 男。名を錐間(きりま)といった。
「俺たちは、その山賊から抜け出して来た。この情報を手土産に、ここの仲間に入れて欲しい。もちろん、俺たちも戦う」
 瞳は、まっすぐ。
 どうする、と泰猫隊の青年達は瑞鵬を見るのだった。

 錐間の話によると、襲ってくるのはもともとここを根城にしていた山賊の残党。あまり数は残っていなかったのだが、各地で増員したと言う。無論、錐間もここで泰猫隊と戦った敵山賊の一員だ。
 しかし、増員した事で山賊内の勢力図が一変し、新規参入組が乗っ取った形になったという。
「やつらは、ここを落とした後は焼き払うと息巻いている」
「俺達が苦労して築いた砦だ。焼き払うなんてェのはもってのほかだ!」
 どうせなら、泰猫隊の軍門に下って、心を入れ替えまっとうに生きたほうがいいという話になったらしい。
「‥‥もともと、俺たち若手は仲間の中年どもにこき使われてたんだ。あの時、砦前面から飛ぶ矢が減ってあんたらが無事に突入できたのは、今までの扱いに嫌気のさしていた俺たちが先に脱出していたからだ」
「黙れ」
 仲間の言葉を、錐間が諌めた。
「とにかく、俺たちは負けた。‥‥今の話を信じようが信じまいがあんたらの勝手だ。むろん、このまま役人に突き出してもらってもいい。抜けて来た事で覚悟はできている。‥‥ただ、俺達が手塩にかけたこの砦のことが気になる。どうせ死ぬなら、ここで死にたい」
 まあ、前はこき使われた以前の仲間のために死ぬのはまっぴらだったんで逃げ出したがな、と錐間は自らを嘲笑する。
「‥‥敵の、数は? 方向は?」
「俺たちが抜けたから、27人。ただし、その内3人ほど開拓者崩れのチンピラがいる。方向は、この裏手からだ」
 瑞鵬の問いに、錐間がこたえる。
「分かった」
 やがて言葉を絞り出した瑞鵬の脳裏に何が蘇ったか。
「あんたらを信じよう。ただし、夜襲があるまでは軟禁だぞ」

「瑞鵬っ、前の敵だった奴らの言葉を信じるのか!」
 後、泰猫隊は瑞鵬に詰め寄った。
「俺たちもそうだったろう。人足の仕事でこき使われ抜け出て、気付いたら悪さばかりして。‥‥泰猫飯店のおやっさんなら、きっと奴らにチャンスをやったはずだ」
 声を絞り出す瑞鵬。この一言で、決まった。
「まあ、やってくる奴を追い払えばいいこと」
「しかし、開拓者崩れがいるんだろう?」
 開拓者の戦闘力は、泰猫隊は味方として肌身で知っている。これが、今度は敵となる。
「こちらも、開拓者を雇おう。現役バリバリの」
 瑞鵬はさらに、「住み込みの娘達は東西両村へ避難を。結婚した奴と数人、各4人ずつを付けて、念のために村の防備を固めてくれ」と指示を出した。
「オイ。敵は下の長屋も攻撃するかもしれんぞ」
 砦からかなりはなれた水辺に、彼らは非番の者の居住する長屋を築いている。こちらも要防衛の拠点。防壁がない分、守るのは難しいと言える。
「開拓者は7人雇う。俺たちの残り7人と錐間たち3人の計17人をうまく配分して切り抜けるしかあるまい」
 厳しい表情をして瑞鵬は言う。
 さて、戦力配分、装備、用兵、戦法。否、果たして防衛計画に対する動員はこれでいいのか。村の戦力を呼び戻すか。錐間はやはり外すか――。
 どう戦う?


■参加者一覧
燐瀬 葉(ia7653
17歳・女・巫
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
燕 一華(ib0718
16歳・男・志
花三札・野鹿(ib2292
23歳・女・志
アルトローゼ(ib2901
15歳・女・シ
鹿角 結(ib3119
24歳・女・弓
朱鳳院 龍影(ib3148
25歳・女・弓


■リプレイ本文


「出ろ」
 山賊砦の中にある小屋の扉が開き、仁王立ちする一人の少女がそういった。
「作業を手伝え。力仕事だ」
 少女の名前は、アルトローゼ(ib2901)。長い黒髪に、黒い衣装。見下ろす赤い瞳。若いが凄みがある。
 小屋に閉じ込めていた、敵側の寝返り組・錐間とその仲間たちは「どういうことだ?」と顔を見合わせながらもとにかく小屋を出た。
「襲来前にできるだけのことはやっておくことにした。すまんが、手伝ってくれ」
 外にいた瑞鵬はそう声を掛け、錐間たちにこれから取り掛かる作業の詳しい説明した。
「‥‥それは当然だと思う。もちろん、手伝う」
 火を付けられる危険性と延焼防止の意味合から塀に土を塗るなど文字通り汗と泥に塗れる地味な仕事だが、錐間たちはいやな顔一つしない。
「お前達、裏切りなどと詰まらん事をして私の楽しみを邪魔などしたら‥‥、その首即刻刎ね飛ばしてやるからな」
 この様子を見て睨みを利かせるアルトローゼ。‥‥彼女が本気で睨めばその恐ろしさはこんなものではない。錐間たちの意識の高さに気を良くしているのだ。その錐間ら、アルトローゼの脅しの文句にびくっとしたが、軽く顎を引いて覚悟の程を見せている。アルトローゼ、笑み。
「新たな道を選ぶというのなら、それ相応の覚悟を見せるべき。そして信じられたいのなら、信じられる事をするべき」
 作業中、花三札・野鹿(ib2292)も寄ってきてそう言った。白い姿に銀色でまとめた衣装。まぶしい。
「私は信じよう。期待も、してみよう。‥‥覚悟ができたならば、共に戦おう。うむ」
 ぐっ、と泥を練り込んで錐間を見る。錐間が目を細めたのは、光が野鹿の銀色に跳ねてまぶしかったから。彼も、ぐっ、と塀に泥を塗り込む。
 一方、砦の中。
「役者さん、このあたりでいいかね?」
「そうそう。敵は裏口から来るんだよね。これでばっちりだよ」
 泰猫隊に声を掛けられ、三度笠が元気に躍動している。燕一華(ib0718)だ。今、台車に槍を固定した兵器を裏口前に設置した。突破された場合、これがなだれ込む敵に突貫することになるだろう。
「一人、所望するのじゃ。砦に詳しい者がよいのぅ」
 手首を返して人差し指をくいっと曲げて指示するのは、朱鳳院龍影(ib3148)。赤くまとめた姿は高く、後ろに伸びる頭部の角に背中のたたんだ翼、大きな胸と、堂々としたいでたち。龍の神威人だ。
「どうしましたか?」
 泰猫隊一人と、念のために元の製作者たる錐間一派の一人が来た。
「石落としの罠を作る。良き場所を示すのじゃ」
「おい、お前」
 と、ロック・J・グリフィス(ib0293)が錐間一派の方を指差した。「少し話を聞かせろ」と。
「‥‥悪いこともしましたけどね、砦は砦なんですよ。砦がまっとうに生きるのなら、俺たちもまっとうに生きる」
「そうだな。瑞鵬が信じるというなら、俺も信じるとしよう‥‥。昨日の敵は今日の友という言葉もある、宜しくな」
 前回は敵だった者の言葉を聞き、ロックは瑞鵬を立てながら納得した。ロックは騎士だ。仲間を裏切った彼らに懐疑的だったが、砦に剣を捧げているのだと理解。後、長屋の方へと移る。
「元々地形的に見つかりにくい地点というのは幸いか。‥‥と、悪いがそこはもう少し自然にだな」
 連れた泰猫の者と協力して偽装工作にいそしんだ。
――さて、砦の正面門では。
「結さん、うちも手伝うわぁ」
 燐瀬葉(ia7653)が一人作業する鹿角結(ib3119)に近寄り、言った。
「ありがとう。‥‥僕は思うんです」
 結は手薄となる場所に鳴子を設置しながら言う。
「元山賊。正直に言えば僕とて手放しで、何の疑いもなく信用できるわけではありません」
「でも、ええ感じに頑張っとる」
「失った信用は、それでしか取り戻せませんから」
「せやね」
 結、微笑。葉も笑顔。‥‥もっとも葉の視線は結の銀狐の耳に注がれていたりするが。


 さて、未明。
 かがり火に浮かぶ山賊砦が戦場となった。
 緒戦は、敵想定進軍経路に近い長屋である。
「来たよっ、ロック兄ぃ」
「気づかず通り過ぎてくれるというわけにはいかぬか」
 心覆で殺気を隠す一華と、優雅に胸に飾った高貴なる薔薇に触れるロック。
 敵は、3人。こちらは、泰猫隊含め4人。気付かれてないので好機だ。
「どうする、燃やしとくか?」
 敵の言葉。これを聞きロックが躍り出た。泰猫の二人も続く。
「やらせぬ」
 ロックの繰り出した槍「白薔薇」はしかし、敵に受け防がれた。どうやらこの敵はサムライ。
「やはり伏兵がいたか。逃げた奴らの動きなど手に取るように分かるわい」
 豪快に笑うサムライが反撃、がっちり受け防ぐロック。
 その瞬間!
「ぐわっ」
 薙刀「牙狼」がきりりと回り敵の山賊を切り伏せた。
 潜伏してわざと遅れて出てきた一華である。屈んだ姿勢に、ひらりと斬撃を見舞った余韻に舞う蒼天の外套。くいっと上げた三度笠から、戦士のそれとなった瞳が光る。
「雑技衆『燕』が一の華の演舞、お見せしますっ」
 揺らめく切っ先。葉擦だ。敵サムライを幻惑しておいてから、薙刀のもう一方の剣先が死角から円弧を描くッ。
「とどめだっ」
 一華の一撃でひるんだ敵に、ロック渾身の突き。「志を失った志体持ちに容赦はせん」と、崩れ落ち沈黙する敵に背を向けた。残りの一人は、泰猫隊の二人が根性を見せ互角に。サムライが負けたことで容易に捕縛できた。
――そして、山賊砦の裏門前。
 砦で見張る結の銀狐の耳がぴくっと動いた。
 ひゅん、とすっ。
「来ました。応戦してください」
 飛来する矢が増す中、弓「緋凰」で応射しながら泰猫二人、元山賊一人に指示を出す。
(意外です。火矢で攻撃してくるものと思ってました)
 内心、そんなことも思う。
 飛んでくる矢の数は多いが、火矢は交じってない。敵の狙いが焼き討ちならば、当然使ってくるものと思っていた。ただし、飛んでくる矢の数は多い。どうやら手数を取ったのか。もっとも、結の方も火矢も炎魂縛武も使わず手数を見せているのだが。
「あっ! いったん撃ちかた、やめっ」
 ここで、結は右手を横に伸ばして部下に指示を出した。
 砦の周りに伏せていた仲間が両翼から白兵突撃を仕掛けたのだ。
(でも、おかしいです。敵が突っ込んできたところを後背から味方が襲い挟撃するはずだったのに)
 殺到してこない敵に焦燥する結。しかし、答えは出ない。
 下では、シノビのアルトローゼが早駆で単独突貫。
「さぁ、お楽しみの始まりだ」
 二ィっと笑いとにかく手当たり次第に敵の弓兵に切りつけ右翼を切り崩す。
「ふっ。こちらもお留守じゃの」
 遅れて逆の左翼からは白兵本隊が突入。龍影が龍の翼のように左右の手に刀を構え、二天・弐連撃でド派手に舞い切り刻む。
「城門突破兵器を狙え!」
 その後ろから、野鹿が長槍「羅漢」の長さを生かし空間を作りながら味方に指示を出す。こちらには瑞鵬と錐間が部下を一人ずつ連れ参加している。
「頑張ってる姿見ると、応援してあげなぁあかん思うな」
 こちらにはさらにもう一人。引き気味に位置する葉が、神楽舞「武」で開拓者以外の攻撃を支援した。積極的に前に出る瑞鵬たちに目が行ったからだ。
「絶対に守る」
「今度こそ、まっとうに生きるぜ!」
 瑞鵬の雄叫びに、錐間の気合。
「それでこそや」
 踊った流れから、さらにきりっと回って鉄傘を開く葉。前に出て、危なっかしい元山賊の前で傘を開いた。「おわっ」と敵がたたらを踏んだところで閉じ、元山賊が切り込んだ。
「姉ぇさん、助かった」
「これ終わって落ち着いたら、皆で晩御飯とか食べれたらえぇね。みんな無事に、やで」
 礼もそこそこに、続けて戦う元山賊。にっこり見送る葉。またも止まることなく白霊癒につなげ、そっと右手を伸ばす。白く輝く葉の先、傷ついた泰猫隊の一人の体も白く光っていた。
「さて、お次やね‥‥」
 首を巡らせるがしかし、ここで遠くから意外な声が上がるのだった。


(敵は、やる気があるのか?)
 戦いながら、アルトローゼ、龍影、野鹿はそんな疑問を抱いていた。
 敵の抜刀隊は、弓術隊の援護に集中していたのだ。野鹿の警戒していた城門破壊兵器も見受けられない。
――その時だったッ!
「しまった、正門からですッ!」
 長い黒髪を振りみだし後背を見た結が、力の限り声を張っていた。念のために仕掛けていた鳴子が鳴ったのだ。
(どうしましょう)
 自問する結。自身、志士ではあるが弓を愛用している。
「中を警戒。とにかく時間を稼いでください」
 そのまま弓を使うことを部下に指示した。距離を生かしながら、時間稼ぎに特化するつもりだ。さりとて敵に好きに動かれるわけにはいかない。自分は台の下に降りて移動砲台になり、隠れて火をつけられるなどを防ぎにいく。
 さて、開拓者の主戦、白兵部隊は。
「こっちが陽動だったか」
 とっさに、アルトローゼが反転した。ここぞとばかりに早駆で飛ばす。
「くっ。どうしたもんじゃ」
 龍影は迷っていた。戦っていた敵は引いていたが、こちらが浮き足立ったことで敵後衛の弓隊が撃ってきた。それを護衛する剣を持った山賊も隙あらば寄ってくる構え。ただし、数はずいぶん減っているので敵も戸惑っている。
「戻ろう。‥‥錐間らも前に出るな。仲間と連携してこそだぞ、うむ」
 野鹿の言葉の真意が、仲間に伝わった。
「そやね。中は弓だけやから、心配やわ」
「そうじゃの、奥の手もあちらにあるしの」
 敵の腕を力の歪みで狙っていた葉が得心し、龍影も納得。全員砦へと転進した。
――そして、砦内部。
「結!」
 高速で取って返し砦の塀を越えたアルトローゼは、敵の志士と戦っていた結を発見した。今、弓を射掛けたが敵は傷つきながらも距離を縮め、斬りつけていた。のち、アルトローゼと目が合う。
 ここでアルトローゼの周りに木の葉が舞った。木葉隠だ。
 瞬間、動いた。
 幻惑しておいてから一気に距離をつめ、逆手持ちの死鼠の短刀で斬りつける。さらに、葉が引きながら一射。その間にアルトローゼがさらに斬り、葉が執拗に狙う。この繰り返しで、傷つきはしたものの敵志体持ちを撃破。あとは数人の山賊だ。
「一人も逃がさないと、言ったはずだなぁ?」
 残りに吠えるアルトローゼ。
 元山賊一人の援護射撃を背に、刹手裏剣を見舞いながら殺到する。もちろん、敵ではない。
「皆さん、お手柄です」
 結は泰猫三人が狙っていた敵を別方向から射撃。十字砲火で黙らせる。
 砦内の戦闘が落ち居たころ、外も勝敗が決しようとしていた。
 逃走することで、弓と剣を分離することに成功していたのだ。
「あの障害物に逃げ込まれたら弓でも射抜けん。追うぞ」
「はは、それに気付くとは目敏いことよのぅ」
 敵抜刀隊の言葉を聞き、逃げる龍影は感心していた。
「じゃが、上は見とらんかったようじゃの」
 障害物に隠れると、追っ手との距離を見計らって手近にあった縄を引いた。
 ガツっ、グシャン。
 塀の上から落石が追っ手の頭上を襲った。命中とはいかないまでも、敵はひるんだ。
「よし。泰猫隊、いくのじゃ」
 ここで再び白兵突撃。ちなみにこのとき、葉は障害物を足がかりに砦の中へ。結やアルトローゼの支援に向かったのだ。
 と、ここで決定的な事態が。
 なんと、後方から撃っていた敵の矢が、止まったのだ。
「ロック・J・グリフィス、参‥‥オーラドライブ・イン‥‥響け白薔薇の旋律、カラミエテッドチャージ!」
 森の中から途切れ途切れに、そんな雄叫びが聞こえてくる。ロックが敵弓隊の背後から得意の長駆突撃を仕掛けたのだ。
「うむ。敵足が乱れたな。一気に攻めの態勢でいってみよう」
 平正眼からの巻き打ちで追っ手を屠った野鹿は、敵後背からの援軍に再転進を指示した。
「砦の中は大丈夫だろうか」
「私の仲間が二人行った。信じろ。‥‥錐間たちは、長屋を守っていた泰猫隊と共に戦うと良い。行くぞ」
 手柄を欲しがる元山賊を従え、戦場に走るのだった。


 こうして、山賊砦は無事に守られた。
 その晩。
 然るべき事後処理をして、山道でつながる東西両村から仲間と妻を呼び戻し‥‥。
「‥‥泰猫飯店のおやっさんに言われたからじゃない。林青の旦那に金を出してもらったわけでもない。俺たちが自分の意思で開拓者を雇い、俺たち自身で守ったんだ」
 山賊砦宴会の名物、瑞方の青臭さの残る演説が始まっていた。もちろん開拓者も参列し、すでに杯を持っている。
「ただし」
 おっと、瑞鵬さん。なんでそこでフェイント入れるよ?
「錐間たちは、どうする。新たな仲間として迎えていいのか?」
「一緒に戦ったんだ、迎えていいに決まってるだろう?」
 泰猫隊から温情の言葉が出る。
「‥‥錐間たちは、裏口から来ると言った。実際は、正面からも来た。開拓者がいないと危なかったんじゃないのか」
 瑞鵬が厳しいことを言う。泰猫隊員は真っ向から反論できず、押し黙った。自分が言っておきながら、残念そうな顔をする瑞鵬。
「俺が言うのもなんだがね」
 ここで、錐間が口を開いた。
「もしも、そういう意図があるなら背後から襲撃があったとき呼応して俺たちがあんたたちに攻撃しているに決まってるだろう」
「そうだそうだ」
 ようやく同意の声があがる。瑞鵬、ふっと笑みを作った。
「じゃあ、いいんだな。‥‥では改めて、俺たちの砦の無事と、新たな仲間に」
 お、やっとかい、と開拓者たちも身を正す。
「乾杯!」
「乾杯!」
 声高らかに唱和すると、皆の意思を統一した酒を飲み干した。
「ああ‥‥とても良かった。すばらしい闘争だったとも。お前達もよくやった」
 アルトローゼの周りには、前回鍛えてやった者たちが集まっていた。気分良く褒めてますます励むよう言っては、酒を飲む。
「姉ぇさん、戦闘中はお世話になりました」
 葉は、支援した者から酌を受けていた。「俺が先だ」、「いや俺が」とかやる様子に目尻を下げながら結と龍影を手招きして「けもみみさんかわえぇなぁ」とか本音をポロリ。結の方は、おっきな山賊むすびに目を丸くして、あ〜ん。龍影は山賊焼きにどこから食べようか斜めにしたり横にしたり。
「錐間たちは、よく共に戦えていたな、うむ」
「錐間兄ぃ達も力合わせて、もっと素敵な義賊街道してくださいねっ♪」
 野鹿は一華といっしょに、瑞鵬と。
――きゃ〜っ!
 って、ここでなにやらにぎやかな一団が登場しましたよ。
「新たな仲間が増えたんですってね」
「私たち、またお手伝いにきちゃいました〜」
 両村からのかしまし年頃娘部隊が到着したのだ。
「どうして前は来てくれなかったんですかぁ?」
「きゃ〜、薔薇がお洒落です〜。私にください」
「私よ、私よ」
 どうも、ロックが集中砲火を受けているようで。
 もっとも、ちやほやされるのに耐性があるようで、薔薇を奪われないようにする以外は「はっはっは」と涼しい様子ではあったが。

 砦だけに、十分休息し体を癒してから開拓者は帰ったという。