【踏破】さよなら対馬丸
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/23 19:04



■オープニング本文

「コクリちゃん、ちょっと」
 ろりぃ隊、もとい小手毬隊に出資する資産家の内の一人が、コクリ・コクル(iz0150)を呼びとめた。雰囲気のある中年女性である。
「実はお願いを聞いて欲しいの」
「はい、何でしょう。ボクにできることなら」
 コクリ、えらく下手に出ている。実は、遺跡から出た成果で故郷が懐かしくなり、しばらく出資者の指示する出撃を休ませて欲しいと思っていたりする。‥‥別に出資者の指示に従わなくともなんら支障はないのだが、これまで良い関係を保つ事が出来ていると感じている。いきなり袖にはできない。
「カンタンな事よ。‥‥新大陸開拓の可能性があるこのところの一連の動きだけど、新たな情報が入ったの」
 平たく言うと、興志王が直接指揮する飛空船調査船団『朱』が行方不明となった要人の捜索と併せ、新大陸開拓の橋頭堡とすべく鬼咲島のアヤカシ退治に出たというのだ。
「この動きに乗り遅れると、私たちが困る事になるの」
 中年女性、にまっと微笑んで平易な表現をする。つまるところ、美味しい話になったときに乗り遅れてしまうということだ。
「その船団に追随して、ボクに戦えと?」
 コクリ、露骨にイヤな顔をした。彼女としては里帰りがしたいのである。
「いいえ、そうではありません。私たちのコクリちゃんも、連戦で疲れてるでしょう」
 猫撫で声で、有閑マダムは言った。
「一から説明します」
 要約すると、こうだ。
 この中年女性は、「対馬丸」という飛空船を所持していた。製造年、設計思想とも現代ではすでに通用しないため廃船を目前に控えていた。
 ただし、過去には空輸で華やかな活躍をしている。ただ解体するのも忍びない。
――最後に、もうひと花。
 そんな心情の折り、調査船団『朱』の護衛の話が舞い込んだ。
――最後の晴れ舞台にぴったりだ。
 が、増築改築して広い甲板を後付けするなどして空賊対策・大量空輸対策などしたが、実戦では足手まといになる可能性がある。
 そこで、行方不明の要人探索――つまり、地上探索――に、まさに移るタイミングで参戦し、空戦に惜しくも間に合わなかった、しかし作戦には参加した、という事実が欲しいのだという。
「何と言うか‥‥」
「待って、コクリちゃん」
 呆れるコクリに、慌てて続きを話すマダム。
「実はこの対馬丸。魔の森に飲み込まれた鬼咲島と交易したことがあるの。私の父によると、ずいぶん儲けさせて貰ったようだわ。‥‥だから最後に、対馬丸に恩返しをさせてあげたいの。鬼咲島に」
 つまり、対馬丸としては引退するにも引退できない、と。
「分かりました。そういうことならボクもわがままいってられません」
 どうやらコクリ、この美談を意気に感じたようだ。
「でも、間違えないでね。コクリちゃんを失いたくはないし、対馬丸も重要な部分を再生して新たな船を作る予定だから失いたくはないの。無理は、厳禁よ」
 結局、空中戦を絶対しないタイミングで船団に参加し、着陸後に陸上探索で貢献する事となった。
「ただし、コクリちゃんは疲れてるわ。‥‥船団の目的は、捜索。アヤカシと戦う必要はないし、直接重要人物なんかを捜索する必要もないのよ。手柄はほかの人に譲ること。そうね。戦わずに駐屯地の周囲をできるだけ隠密襟に広範囲捜索すれば一番喜ばれそうね。‥‥くれぐれも、重要人物を探しては駄目よ。逆にやっかまれて後の商売がうまくいかなくなるから」
(世の中って、難しいなぁ)
 むー、とうなるコクリだったり。
 とにかく、興志王指揮下の調査船団『朱』の築いた駐屯地周辺の魔の森を広範囲探索してもらえる人材、求ム。
「あ、コクリちゃん。今回は特に背が低い人とか関係ないから、とにかく協力してくれる人を募っていいわよ」
 どうやら今回は募集制限は設けないようだ。


■参加者一覧
静雪 蒼(ia0219
13歳・女・巫
のばら(ia1380
13歳・女・サ
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
月野 奈緒(ia9898
18歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
万里子(ib3223
12歳・男・シ


■リプレイ本文


「よう。どうしたい、兄さん」
「ん‥‥。ああ、八幡島艦長。特には」
 飛空船「対馬丸」内でたたずんでいた真珠朗(ia3553) は名を呼ばれて振り向く。すると、三代目対馬丸の艦長、二代目八幡島が大きな体を揺すりながら近寄っていた。――今回の現場である、鬼咲島到着にはもう少しだけ時間がかかる見通しだ。
「しかし、兄さん以外はちっこいのばかりで面白い部隊だな」
「まあ、そうなりますかねぇ」
 卑屈に微笑する真珠朗に、八幡島はがははと笑う。
「俺としては願ったりだねぇ。この対馬丸も近代の飛空船に比べると大きくない部類になっちまったが、船ってのは大きけりゃいいってもんじゃない。出資者の娘さんも‥‥おっと、今じゃいい歳か。ともかく、三代目対馬丸の最後の仕事にぴったりの人材を寄越してくれたもんだ」
「‥‥三代目、ということは四代目対馬丸になるのですかね」
「いや、そりゃねえ。世界も広くなってきてる。もう、この設計思想の船の時代は終わったんだよ」
 もっとも、新造船で艦長をやらせてもらえるなら、俺は八幡島の名を引き続き名乗るがね、などと続ける。
 そこへコクリ・コクル(iz0150)がやって来た。元気がなさそうである。
「初めましてコクリちゃん。私ルンルンって言います、宜しくお願いしますね」
 コクリを呼び止めたのは、ルンルン・パムポップン(ib0234)だ。にぱっ、と明るく元気。
「あれっ、なんだろう? 初めて会ったのに、なんかとても懐かしい気がしちゃいます」
 ルンルンは、指を頬に添えて首を傾げる。コクリも「うん。ボクもそんな気がする」と笑った。‥‥真偽のほどはともかく、どうもコクリ、世渡りが上手くなったようで。
「コクリさん、ちょっと元気が無さそう?」
 わ、とコクリ。いつの間にかのばら(ia1380)が近寄っていたのだ。
「そんな時は好きな人にぎゅっとして貰うと良いって母さまが言って‥‥。はっ、いけません。のばらもちょっと寂しくなってしまいました」
「あ、そんな。ボク、元気出たから。のばらさんの姿を見たら」
 慌てて言い繕うコクリ。
「コクリはん、どないしたん?」
 そこへ、静雪蒼(ia0219)もやって来た。今のいきさつを話すコクリ。
「ほな、お互い無理せんよにがんばりまひょな?」
 蒼、コクリをぎゅっと抱き締めた。その様子を見ていたのばらにも、ぎゅっ。
「冒険はまだあるよって、元気出していきまひょ」
 にっこりと、蒼。いつもの世話好きな様子に、二人はにっこりと元気を取り戻すのだった。どうものばらの言葉は真実のようで。
「そうそう、頑張ろう」
 近付いて拳を突き上げるのは新咲香澄(ia6036)。
「ボクとしても開拓には参加したかったからね。色々制約あるみたいだけど‥‥その中でがんばりますか!」
 大きな紫の瞳が特徴でとにかく元気が良く、前向き。背が高くないこともあり、コクリは一発で好意を抱いた。
「にゃお!」
 改めて周囲を見回していたコクリと目が合ったのは、月野奈緒(ia9898)。指を伸ばして額に当て挨拶する姿と丸く見開いた青い瞳の輝きが、まっすぐ人生を貫いてきたかを雄弁に物語っている。
 と、奈緒の視線が横に行き、びくっとする。
 その先に大きな鼠の耳の少年がいた。
「べつにあたいは猫が苦手って訳じゃないよ」
 獣人のシノビ、万里子(ib3223)である。
「沈みかけの船からは鼠すらなんとやら。アンタがいるってのは縁起がいいねぇ」
 この様子に、がははと笑う八幡島だった。
 ともかく、鬼咲島には調査船団『朱』が確保した駐屯地の広間に無事に着陸。大きくない船体を生かし、隙間を見つけて強引に下ろす荒業だ。
「船ってのは大きけりゃいいってもんじゃねぇんだ」
 と八幡島。
 景気付いたところで、さあ、探索だ。


 開拓者たちは、四人ずつの二班に分かれて広域捜索に出発した。
「森が泣いてるようだよ。‥‥里の森とは大違いだ」
 瘴気あふれる魔の森を行くコクリが泣きそうな顔つきで言う。森は薄暗く、植物の形はどこかいびつにゆがんでいた。
「可愛らしいコクリお嬢さんにはこれを。疲れた時に舐めると良いですよ」
 同行する真珠朗はそう慰めてから飴を渡した。念のため素肌をさらさないような工夫をしている抜け目ない男だ。さすがに気が回る。
「万里子さん、場所の目印とかは頼んだよ〜。ボクは人魂で色々チェックするから〜」
 同行する香澄は元気いっぱい。今、万里子にちなんで人魂をネズミで出し偵察に向かわせた。
 真理子の方は、シーマンズナイフを出して木の幹に切りかかり印をつけていた。周囲の状況も持参した手帳に記入。えらく熱心だ。
「あたいは、新儀に関する情報収集の為に開拓者になったんだったよ」
 コクリの視線に気付いて、そんなことを言ったりも。目を丸めるコクリに、微笑する真珠朗。
「そうだね。ボクは、いろんな世界を見るために開拓者になったんだ。へこたれてる場合じゃない」
 コクリの言葉を聞いて、万里子もにまっと笑った。
「あ。こくり、しんじゅろー。ここに『いかにも』って印がある。既に調べ終わってる場所かな」
「そうかもね。この先は何も危険はなさそうだから」
 冴える万里子に、人魂の消えた香澄が補足。彼女は思い切って先に行くことを提案した。
「でも、要人捜索はせず、そして戦闘は極力避けると‥‥ある意味難しい依頼だね」
 香澄、複雑な顔をする。要約すれば、「何もするな。でも何かしろ」。中途半端な依頼だ。ゆえに気になったのかもしれない。
(足跡。‥‥これは万里子君の言う調査船団の調査隊のでしょう)
 一方の真珠朗は静かにやるべきことをやっている。
(しかし、これだけの戦力でいわば敵陣。戦闘は避けないと)
 そう打算する。しかし、真珠朗も戦闘力は取らず効率から二班に分けることを主張した。
「皮肉なもんだ」
 苦笑する真珠朗であった。

 さて、別の場所。
「ねえ、蒼さん。出発前になにやってたんですか?」
 のばらが蒼に聞いていた。
「『朱』の上層部に手紙を渡しておいたんやわぁ」
 柔和に蒼が答えた。内容は、空戦に間に合わなかったお詫び、代わりに探査に力を入れること、女性が多いので隠密で動くことなど。
「手ごたえはどうでした?」
「下手に、下手に出とったら、相手、特に男衆はんは悪い気ぃせいへんよって。‥‥男衆はんはほんま、分かりやすいわぁ」
「な、なんか蒼さん笑顔が暗黒です〜」
 友人の恐ろしい一面を見てぶるぶる震えるのばらだったり。
 ともかく、目立つことのないよう偵察し、目立たないながら感謝されなくてはならない。
「正しいニンジャは一人で万の力があるから、表舞台で目立っちゃ駄目なんですよ、ちゃんとニンジャのひみつに書いてあったんだから」
 ルンルンが華やかに姿をさらし前進・前進。見事な目立ちっぷりだが、これでもシノビである。誰も突っ込まないのは、意外と明暗はっきり分かれるこの森で、暗い部分を選んでいるようだから。
「ルンルン忍法ニンジャアイ。‥‥ニンジャアイなら暗視力♪なのです」
 続けて、暗視で視界を明確に。奇襲を受けないよう気を配る。「縁の下の力持ちは、ニンジャの勤めだもの」と、暗闇でも明るい。
「ちょっと待ってください」
 ここで奈緒が仲間を止めた。すっと、大型弓「五人張」を構え、そのまま引いた。
 鏡弦で広域索敵したのだ。
「しばらくアヤカシはいないと思います」
 結果を聞いてルンルンがさらに前進・前進。蒼が殿を務め後背や上部を警戒。のばらが手帳に書き込みながら続くのだった。


 しばらく後。
「う、これは怪しい‥‥のカナ?」
 人魂偵察をして「不審な場所があった」という香澄の報告を受け、一人先行偵察した万里子はあまりのありえない光景に言葉を失っていた。
 目の前には、縁台に猪口や徳利が並んでいた。例えるなら、今にも宴会を始めようとしていたところ、突然宴会参加者が姿を消したような光景だ。
「っていうか、こんな場所で宴会しようって人はいないよね」
 真理子のいる地点まで近寄ったコクリが、明らかに罠でしょうと、呆れた。
「植物系のアヤカシもいそうですし、近付く際は奇襲に備えておきますかね」
「ようし。じゃ、周囲を念のために確認するから〜」
 真珠朗が縁台に近付いたときに包囲される危険性を指摘した。抜け目ない。香澄はこの言葉を聞いて、改めて人魂を出して周囲を走らせた。――結果、異常なし。

 一方、別の班も同じ現象を目の当たりにしていた。
「鏡弦は完璧な技じゃないからあくまで参考まで、ですが‥‥」
 ん〜、と細い顎に指を当てる奈緒。鏡弦でまったく周囲にアヤカシ反応がないのだ。それなのに、目の前には縁台に徳利や猪口が整然と並んでいる。
「ニンジャアイでも周りに敵は見えないのです。蒼さん、のばらさんはどう思いますです?」
 きょろきょろするルンルン。
「仲間を呼ぶアヤカシ以外は避けときまひょ」
「でも、のばらは明らかにおかしいと思うのです」
 慎重な蒼に、それでもここを放っておくこともできないとのばら。

 結局、周囲にアヤカシがいないことから、どちらの班も調査の必要を感じ全員で近付くことになった。
 ここで、信じられないことが起こるッ!
「うわっ!」
 全員が悲鳴を上げた。
 なんと、縁台や徳利、猪口が飛んで体当たりをしてきたのだ。
 そればかりではない。頭に直接、不気味な呪いの言葉が響く。想定外の事態の連続に、まったく対応できない開拓者。
 さて、どうしたか。
――蒼・のばら・奈緒・ルンルン班。
「逃げますぇ〜」
 事前の申し合わせどおり、逃げを打つ。
 が、のばらとルンルンが止まった。
「放っておくと大変かも」
 ちゃきりと刀「水岸」を構えるのばら。一気に飛んできて体当たりをしたり知覚攻撃をしてきたりと、逃げる間にもひどい目に遭うかもと判断。仲間を守る形で最後尾に立ちふさがり、両断剣で迎え撃つ。
「のばらさん」
 奈緒も止まり、気力を攻撃力に変えとにかく撃ちまくる。
 そして、ルンルン。
「火遁の術は火でしかない、でも不知火になれば炎になる。‥‥炎になったルンルン忍法は無敵なんだからっ!」
 瞬間、猪口が炎に包まれ燃え上がるッ!
 ド派手にいった、忍法不知火。
「のばらはん、大丈夫おすぇ」
 止まった蒼も急ぎ回復の風恩寵。練力を出し惜しみしない。
 結局、こちらは手こずりながらも敵を全滅させた。
――そして、コクリ・真珠朗・香澄・万里子班。
「真珠朗、逃げなきゃ」
「コクリのお嬢さんこそ早く。‥‥歳の順、って奴ですよ」
 両手で剣を振るいながら叫ぶコクリに、骨法起承拳で風魔手裏剣を投げる真珠朗。すでに万里子は早駆で戦線離脱、香澄はなかなか逃げない二人に業を煮やしながら火輪で援護射撃。
「よし。‥‥ま、セコくヤるって話ですよ。何時もの事ですがねぇ」
 やがて、真珠朗の放った空気撃で縁台をすっ飛ばしたとき、戦況全体の流れが止まった。そそくさと逃げを打つコクリと真珠朗だった。
 こちらのほうは、とにかく逃避成功。
「あれ、万里子さん何やってるの?」
「まりね流鬼咲島の歩き方、だよ。かすみ」
 早期脱出をしていた万里子は、先ほどのアヤカシの特徴など、気付いた点をつぶさに記録していた。のちの報告に大いに役立つこととなる。
「ふうっ。水が冷たくて美味しい」
 とは、コクリ。蒼が全員に持たせた氷霊結の氷入りの水は、要所要所で重宝された。


 この後も、両班とも魔の森をうろついては少数のアヤカシに遭遇し、やり過ごしたり逃げたりと忙しかった。
 無事、駐屯地に帰還。ずいぶんと走破できたようだ。
 先の徳利や縁台のアヤカシは、器などに宿るアヤカシ「器の番人」であると判明した。
「対馬丸さん、お疲れ様です」
 のばらは舳先に立ち、横笛を吹いて最後の仕事を終えようとする対馬丸をねぎらっている。
「めちゃくちゃ頑張ったんです!」
「おう、分かる分かる。いっぱしの仕事をした職人の顔つきだからなぁ」
 奈緒は両お下げを揺らしながら、力強く自分たちの活躍を報告した。八幡島はこれをにこやかに頷きながら聞く。奈緒、気分を良くして笑顔にっこり。身振りを交えて「赤いもふもふの大きなウサギもいたんですよ〜。おっきさ? 鹿くらいあったかなぁ。もちろんやり過ごしましたけど」など、冒険談の続きを披露した。
「う〜ん、こんな感じでいいのかな? 少しでも開拓に貢献できればいいね♪」
 香澄は、万里子と仲良く地図の清書作業。
「『器の番人』ですか。あれは罠なんでしょうねぇ。ほかのアヤカシはいませんでした」
「逆に、罠がない場所の先には巨大ウサギちゃんがいたような気がしちゃいます!」
 真珠朗の考察に、ルンルンの指摘。
「でも、行く前にここの男衆はんらに聞いた戦いの激しさに比べたら、静かなもんなんでひょな?」
「うん。瘴気があふれている割に静かだったような」
 蒼が首を傾げると、コクリも真似したように首を傾げたり。
 それはそれとして、何だか香澄の目がキラキラ輝いてますよ。
「ね、ね、真理子ちゃん。ボクにその耳触らせて〜♪」
「う? まあちょっとなら」
 どうも神威人と仲良くなるのは初めてのようで、興味津々。この勢いに真理子、いつもの元気少女的な悪戯っぽさは消えてたじたじ。
「わ〜、ぷにぷにで気持ちいい〜」
 ううう、我慢我慢と真理子。
 と、香澄の視線が真珠朗の耳に行きましたよ。
 ちなみに真珠朗。両耳に真珠の耳飾りをしているお洒落さん。彼女の視線はこの耳飾に集中しているようで。
「それは駄目だよっ☆」
 全力で否定する真理子。この様子に真珠朗もほっとしたり。
 と、香澄の視線が今度は奈緒の髪の毛に行きましたよ。
「こ、これは耳じゃないです」
 両お下げに手をやる奈緒。そりゃそうだ。
 一方、舳先。
「生まれ変わって対馬丸さんじゃなくなっても、また、誰かを大事に運んであげてくださいね」
 曲を終えて片膝を付き、船をなでなでしていた。
 その様子を見ていたコクリは、そういえばのばらさんの姓を知らないな、最初にお母さんを思い出して寂しがってたな、などと思い巡らせたり。
「コクリさん?」
 そっと近付き、振り向いたのばらに優しくぎゅっと抱きつくコクリだった。
 やがて、対馬丸最後の――本当に最後の出航の時。最後の仕事も、鬼咲島からの運搬だ。
 今、浮かんでいる大型飛空船「赤光」の巨体とすれ違った。対馬丸の古さが際立つ。やがて、分かれの加速。
 空は、ゆるゆると茜色に染まろうとしている。