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■オープニング本文 「真世くん。ここが尖月島の対岸。南那(ナンナ)の一番古い都市・椀那(ワンナ)だ」 林青商会代表の林青は、深夜真世(iz0135)を連れ市場などにぎわいのある大通りを歩いていた。 「ふうん。やっぱり魚介類が豊富なんですね」 目を輝かす真世。 椀那は漁業が盛んで、特に広大な海岸線に延びる塩田の生産力は高く、周辺陸地へ大量供給している。逆に平野部に恵まれない南那全体の農産物需要を満たすため、各種穀物なども活発に商いされている。 「どこの国も市場ってのはいいもんだ」 さすが商人、林青の目が生き生きしている。 確かに天儀でも海岸に面した都市の市場は似たような賑わいがある。 が、南那は人々が皆涼やかな夏威夷衫(アロハシャツ)に身を包んでいたりと雰囲気が違う。並ぶ魚や貝も、似たものや同じものでもどことなく目新しく映る。異国情緒というべきだろう。 「おっと、ここだ」 林青は一軒の店で立ち止まった。 「ちょっと休んで行こう」 「え? 別にまだ疲れてないよ」 「今回の目的はここでね」 そう言って、林青は真世を連れ込んだ。二人の着る夏威夷衫の背中に書かれた「愛ラブ 尖月島」の文字が建物の間に天幕を張っただけの店内に消えて行く。 ● 「オヤジさん、コーヒー二つ」 「こぉ、ひぃ?」 店内で注文した林青の声に、真世は目を丸くした。聞き慣れない単語だ。 やがて、安っぽい厚手の飲み口の器に入った、白い湯気の立つドス黒い液体が運ばれてきた。 真世は、横から見たり上から覗いたりして珍しがっている。 「無理もない。泰国南方ならではのお茶だからね」 「お茶?」 これが、と真世。 「とにかく飲んでみて」 「‥‥にがぁい」 顔をしかめ舌を出す。しかも熱いし、などと続ける。 「ははは。実際この地方でも朝に飲んだり頭をスッキリさせたい時に飲む程度で、商売にしているところは少ないんだよ」 林青は香りを楽しんでから、飲んだ。 「ただし。『商売は誰もやらないことを誰もやらない時にやる』もの」 人差し指を立て、ぐいっと身を乗り出す。 「コーヒーの実の生るコーヒーノキは、この地方には驚くほど多い。誰も商売にならないからと必要最低限の収穫しかしてないが、これを天儀で流行させれば、私や他の旅泰仲間が尖月島に投資した額はあっという間に回収できる」 にやり、と続ける。 「でもこれ、苦いですよ」 「しかし、飲みごたえや舌や喉にしっかり乗ってくる重さがある」 「まあ、そうかな?」 ちびちびすすりながら確認する真世。 「‥‥ある程度供給さえしっかりしていれば、文化になりうると睨むね」 「でも、それで得をするのは林青さんと旅泰さんだけでしょう?」 真世、ずけずけと苦言を呈した。 「否・否。飲んだ人は飲んだことで得。そして、南那の人も得をする。ここの主産業、漁業と製塩業は水物だ。不漁があるし、塩田もこの土地特有の集中にわか雨一発でやり直し。製紙業もあるようだが、輸出までには至らない。もう一つ、安定する産業が必要な土地柄なんだよ」 真顔で言う林青。すでに真世にはついていけない話になりかけている。 「でも、余所者が勝手にやっていいのかなぁ」 「南那領主の椀栄董(ワン・エイトウ)氏にはすでに打診してある。というか、椀氏もここ数年の不漁で頭を抱えている最中。逆に期待されている」 南那は閉鎖的で保守的な風土があり、むしろこういう土地は商材が眠っているものだと林青はまとめる。 「そっか、ここの人たちのためなのか。だったら頑張らないとね」 「そこで、開拓者に飲んでもらって、天儀で流行りそうか、どうやったら流行らせることができるかを話し合ってもらえれば」 「‥‥私も開拓者なのにぃ」 口を尖らせる真世。 「もちろん反対意見も必要だから真世くんは必要。決して、頼りにならないと思ったわけではないですよ」 しれっと話をまとめる林青だった。 そんなこんなで、コーヒーを飲んで意見を出してくれる人、求ム。 |
■参加者一覧
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
来島剛禅(ib0128)
32歳・男・魔
アイシャ・プレーヴェ(ib0251)
20歳・女・弓
モハメド・アルハムディ(ib1210)
18歳・男・吟
唯霧 望(ib2245)
19歳・男・志
万里子(ib3223)
12歳・男・シ
禾室(ib3232)
13歳・女・シ
ディディエ ベルトラン(ib3404)
27歳・男・魔 |
■リプレイ本文 ● 「これが、泰国」 泰国は南那の都市、眞那の市場で志士の唯霧望(ib2245)が実に満足そうに言った。 午後で一番の賑わいは去っているが、初めて訪れる異国の市場が新鮮に映る。面長で細い眉に力強さがあるが、このときばかりは面差しに柔らかさがあふれていた。こういう雰囲気が好きなのだろう。あるいは、異国の文化に触れるのが楽しいのかもしれない。 「いい雰囲気じゃ。この分じゃと新たな食べ物にも出合えそうな気がするのじゃ」 「情報もたくさん飛び交ってそう。あたいの活躍できる場所がたくさんありそうだね〜」 望の両脇、食べ物にこだわり右に頭を振ったのは狸の耳がふかふかな禾室(ib3232)。情報を求めて左に頭を振ったのは鼠の耳がまあるい万里子(ib3223)。ともに神威人で、シノビ。小さい。 「ちょっと。禾室ちゃん万理子ちゃん、どこか行っちゃ駄目だよ」 深夜真世(iz0135)が慌てて声を掛けた。二人とも活発そうで、放っておいたら姿を消してしまいそうだと感じたのだ。‥‥自分も好奇心旺盛でとにかくふらふらどこかに行ってしまうのは棚に上げていたりする。 と、本当にどこかに駆け出してしまいそうだった真理子が振り返って、にこっと元気少女的な笑みを浮かべた。 「じゃ、まよねーって呼んでイイ?」 「う? うん。じゃ、私はまりねちゃんって呼ぶね」 再びにこっと、万里子。じゃあおとなしくしてる、とばかりに落ち着きを見せるのだった。 「あんたが来てくれたとは非常に助かる。今回も宜しく」 その後ろで林青が声を掛けている。 信頼の視線の先には、来島剛禅(ib0128)がいた。 「ヤー、林青さん。この方とはお知り合いで」 その隣にいたモハメド・アルハムディ(ib1210)が確認した。 「ええ、モハメドさん。クリスさんとは私の友人ともども、よく力になってもらっているんです」 「黒にして商人、クリシュナル・ゴーゼンと申します。是非クリスとお呼びください」 なぜに黒いのかは、謎。 「モハメドさんも商人だそうで。心強い限りです」 「ナァム、そうです。人助けはサダカ、喜捨です。上手くいくといいですね」 モハメドのセリフに、なぜに部分的に普遍的ではないのではと思われる言語体系が交じっているのかは、謎だ。 「ところで、あなたも商人でしょうか?」 林青はさらに、ひょろりとしたいかにも不健康そうな青白い肌をした開拓者に話を振ってみた。モハメドと同じく、変わった服装をしている。あるいはと思ったらしい。 「いいえ、私は違います〜。ただのグルメですから」 ディディエ・ベルトラン(ib3404)が細い人差し指を立てて飄々と言ってのけた。 「グルメって‥‥。美味しいものを食べてればもうちょっと肌の色はつやつやしそうだが」 疑問に感じる林青に、ディディエは含み笑いをするのみ。このあたりの真相も、謎である。 「あれ?」 ここで、真世が事態に気付いた。 人数が足りないのだ。 きょろきょろ見回すと、売り場にいた女性が振り向いた。 「やほ〜。真世さん、海水浴ぶり〜♪」 アーシャ・エルダー(ib0054)だ。真世に気付いてぶんぶん手を振っている。 「お久しぶりですよ〜。姉のアーシャ共々よろしくお願い致します」 双子の妹、アイシャ・プレーヴェ(ib0251)がアーシャの影から顔を出し、小さく手を振ってにっこり。 「‥‥気をつけなくちゃならなかったのは、アーシャさんたちだったか」 がっくりと、真世。その横で禾室と万里子が真世の顔を見上げている。どこかに行くかもは、この二人ではなかったようで。 ともかく、一行は例のカフェに到着した。 ● さて、さっそく試飲することになったのだが。 「コーヒー‥‥ですか。はじめて見ますね」 「うっ、真っ黒」 アイシャが目の前に置かれたカップを斜めから見ると、アーシャは見た目の悪さに眉の根を寄せた。 「透き通ってるから墨とかとも違うよね。う、不思議な色だけど、‥‥だけど、綺麗だね☆」 カップを傾けるとくるくると表情を変える光沢に、万里子はうろんな視線から少し和らいだ表情になった。 「随分色の濃いお茶じゃのう」 禾室は、鼻を近付けふんふんと。「ふむ、独特じゃが良い匂いじゃ」などとひとまず納得顔。 「っていうか、早く飲んでよ」 突っ込む真世。反応が楽しみで楽しみでたまらないのだ。 「これに怯んでは帝国騎士の名折れ、いただきます!」 さすが帝国騎士。「匂いは香ばしいですね」などと慎重だったアーシャがいつもの思い切りを取り戻し、行ったッ! 「うぐ‥‥」 口が苦み走り、顔が引きつった。この様子を見て真世はやったやった、とおおはしゃぎ。 「お、おいしいよ? う、嘘じゃないよ? ほら、アイシャも飲んで〜〜っ」 「お姉ったら凄い顔です」 アイシャは、姉の甘言には乗らない。一口ずつ慎重に。真世はこの様子を見つつ、「この姉妹、きっとこういう日常なんだろうなぁ」としみじみ思ったりも。 「ん‥‥。苦い、ですが味わいながら飲んでいけば‥‥。酸味もありますしなかなかいけるんじゃないでしょうか?」 上品な様子に、ちょっとつまんないな、と真世。 「‥‥苦いのじゃ」 横で、狸の耳がしおりとなっている。禾室だ。涙目。真世はこの様子に喜び、にこにこと水を差し出したり。 「‥‥っ!? にっがぁーーっい!!」 背中を丸めてすすっていた万里子の背筋が伸びる。後ろに倒れるのではという勢いに、真世はとっさに反応し抱き止めたり。あまりの楽しい反応に、幸せそうな表情ですりすりと頬ずりをしている。 「あたい無理っ!」 「え〜。大丈夫だよぅ。もう一口」 勧める理由はただ一つ。もう一度反応が見たいから。 ――ところで、落ち着いた人たちも。 「コーヒーさん、お初にお目にかかります。それでは遠慮なく〜」 えらく丁寧なのは、ディディエ。前例を見たからか、少量ずつ確かめるように口に含んでゆく。 「色には最初ぎょっとさせられましたが、香りが素晴らしいです」 取っ手のあるカップを掲げて言う。 「不思議な後口。‥‥ある種の甘みと申しましょうか、いやコクと評すのが正しいですね。これが得も言われぬ満足感を与えてくれます」 理路整然とした評に、おお〜とどよめきが。 「ふむ‥‥。何と言うか、見た目と同じく『濃厚』な味わいですね。香りも中々‥‥うん、良いものですね」 「ちょっと、望さん。何か硬くなってないです? 気軽に行きましょうよう」 「いや、泰国は初めて訪れる身ですし、ありがたいことに特産品となりうるお茶を」 「硬い、かたぁ〜い」 「ともかく、しっかりと味わい、意見を出していきませんと」 真世にねだられながらも、自分の姿勢を貫ききった望。どうもこればっかりは性分のようで。 そして、ここで今後の運命が決まる事態が発生するッ! ● 「なるほど、確かに見慣れませんが‥‥。薬茶ほど苦いだけではありませんし、苦いと判っていましたから、強烈な違和感を感じませんでしたしね」 ふうむ、とうなるクリス。暗に悪くないという姿勢を示す。林青は、ここで手ごたえを掴んだといってもいい。 問題は、ここからだ。 「ハカン、なるほど、これがカホワ・アルナンナティ、南那のカホワですか」 モハメドがそう言って、慣れた風にカップを傾けたのだッ! 「私の氏族ではイルティヤーハ、安らぎや、ハヤウィーヤ、やる気を得る為に飲むこともあります」 「!」 彼の言葉に、林青の眼光が光った。 「知って、いるのか?」 「ナァム、私の氏族にはカホワを扱う文化があり、豆を湯に入れて煮出し、濃いめのそれに砂糖や香辛料を混ぜて飲みます」 カホワとは、コーヒーを意味するらしい。 林青、無言で真っ青になっている。 「なるほど。濃い薄いができますか。‥‥では、苦味・酸味・深みなどの微妙なバランスも調整可能かも、と。精神安定の薬湯として売るのは簡単ですが少量に収まり薬匠の問題も出ますかね」 一方のクリスは、新たな情報からさまざまに思い巡らせている。 もちろん、商人の林青も同様だった。 違いは、言葉にしていないこと。 (この男はコーヒーを知っている) ぐるぐる回る思考。 (確かモハメドは吟遊詩人だと言っていた。知識の幅の広い人種だが、逆に情報の出所としては浪漫の色が濃くなる傾向がある。が、今は日常生活の中でのこととして話した。確度は高いだろう) しかし、商人の情報網、流通の痕跡が林青商会、いや、旅泰の情報網に引っかかってこない。コーヒーノキの生態を聞きかじったところ、泰国南部など冬がないような場所以外での自生の可能性は低い。となれば、産地からの調達だがこれは前述の理由から考えられない。産業として確立せず収穫量も少ないのに、だ。ただし、少量であれば「流通」としての痕跡は残らないだろう。 (つまり、「普及している」と彼が表現しなかった理由か) 林青、目の前の黒い飲み物に眼を落とす。自分の顔が写っていた。 (存在を知っている者がいて、少量ながら国外に持ち出している状況) この見立てが正しいかどうかは謎であるが、林青自身が持っている情報と泰国南部及び天儀・泰国・ジルベリア間の流通・交易事情、そして新たに知った情報から考えれば、ここに落とし込むしかないだろう。コーヒーに写っていた顔が、焦燥にゆがんだ。 「モハメドさん。カホワについての情報は、確かか?」 「シャーイ・アッターイー、泰国茶のことは知りませんが、カホワについては確かなことです」 モハメド、微笑してコーヒーを飲む。不自然さはない。例えて空気を吸うような、日常お決まりの行動としてまったく疑問の余地もない、絵になるような自然な飲みっぷり。 「‥‥終わった」 机に両肘を突き額を支え、静かに一人呟く林青であった。 ● 影のように一人沈み込む林青をよそに、卓は踊っていた。 「一般に広めるとなると、見た目で少々敬遠されそうではありますかね‥‥」 「望さんかたぁい。少しは笑ってよぅ」 「匂いもあたいは好きかな? ‥‥苦さの方は、ミルクとか蜜とかの甘味料使ったり、そういうので誤魔化せないかなぁ?」 無茶を言う真世はほっとくとして、望の呟きに万里子が身を乗り出していた。 「そうですね〜。私は何か入れたりするよりもそのまま味わう方向で考えたいですね。香りを楽しみながらじっくり飲むなら苦味もむしろいいと思います」 「アイシャさんかたぁい。いつものアイシャさんに戻ってよぅ」 「そういえば、天儀の抹茶もかなり苦いです。茶菓子を沿えていますよね。天儀で流行らせるには甘いお菓子を添えてみませんか?」 まだ無茶を言う真世はほっといて、真顔で素材の可能性を指摘するアイシャに、揚げ菓子を取り出したアーシャ。どうやら先に市場で見ていて林青が清算していたものはこれだったらしい。もっとも、味はほとんどしないため「甘いお菓子」と強調したようだ。 「珈琲、冷やして飲んでみても良いかの? どういう風に風味が変わるのか興味があるのじゃ。猫舌の者には冷たい方が良いかも知れぬ。麦茶の印象じゃ。‥‥そういえば、麦茶に砂糖も入れるの」 禾室も乗ってきた。先の涙目はどこへやら。可能性を並べては目を丸くし、緑の瞳を輝かしている。このあたり、実に狸的。 「コレは食事の最中に飲んでもいけるんでしょうかねぇ。それともやはり食後の締めの様な形でデザートと共に頂くのが相応しいのでしょうか? ともかく、お米との相性を確認したいですね」 「じゃ、これ」 ディディエの言葉に、真世がおにぎりを出した。 「どうして?」 「乙女の秘密♪」 魔法使いのディディエは、魔法のようにおにぎりを出した真世の顔を覗き込み突っ込んだ。どうやら甘味などを入れている非常食袋にたまたま今日はおにぎりが入っていたらしい。 「これは‥‥」 実際におにぎりをぱくついてから飲んだディディエ、実に残念そうな顔だったり。実際に試すあたりはグルメの根性である。 「ん、そうだ。このお茶、薄く淹れる事は出来ませんか?」 突然言ったのは、望。 「薄いカホワはラー・ラズィーズ、美味しくありませんよ」 どうやらモハメドは濃いのがお好き♪のようで。 ――と、そこへ一人の地元住民が入ってきた。 「ねぇ、オヤジさん。喉が渇いちゃったから、いつもの頼むわ」 これを見て、ディディエが立ち上がった。店の主人にあることをお願いする。 「クリスさん、これをあのご夫人に」 「分かりました」 こういうこともあろうかと、とは言わなかったが、キリリと燕尾服に蝶ネクタイの執事服で極めていたクリスが給仕に立った。 「マダム、お待たせしました」 優雅に言ってから、婦人にコーヒーを出した。 「まあ、今日は変わった趣向ね。‥‥じゃ、もう一杯いいかしら?」 一気に飲み干した後、今度はじっくりと味わった。 「とっても満足したわ。コーヒーもこんなに美味しく飲めるのねぇ」 つまり、喉が渇いていた客に薄く量を多くしてまずは潤ってもらい、次に少量で濃いのをじっくり味わってもらった、と。あるいは、時が戦国であれば武将に取り立ててもらえたかもしれない心配りだったり。 「ふむ、産地でも可能性は十分練られていないのですね。‥‥真世君を見ると、歓談を楽しむ人にはワイワイとした雰囲気が良いようです」 得心したようにクリスが言う。真世は確かに前よりおいしそうに飲んでいる。 「そう。可愛い女性とかカッコいい男性の給仕なら、さらに美味しくいただけます。だから、メイドさんの格好しましょう」 「お姉、ちゃんと用意してきましたよ」 「きゃ〜、アイシャ可愛い〜。真世さんも一緒にどうです?」 フリルふりふりなエプロン付のワンピの裾を持ち上げ、右足引いてつま先ちょこん。双子並んで腰を落としてにっこり挨拶する姿は、実に可愛らしかった。真世はお目目キラキラで着てみたいオォラをだすが、アンタ事前に林青に言ってなかったから彼も用意してないよ。 「 アーシャやアイシャに比べるとスタイルはまだまだじゃが‥‥。その内育つからいいんじゃもん」 メイド服で負け惜しみな禾室。ツンとした感じが可愛いらしい。 「‥‥それしかないか」 ここで、沈んでいた林青が顔を上げた。 「先に供給量を何とかしようと思っていましたが、皆さんのノリに賭けます。先に我々が一般流通させ、南那の経済を救いましょう」 つまり、コーヒーを知っている人がいようがいまいが先に流通経路を確保して価格設定などの主導権を握れば同じこと、ということらしい。 「まずは需要から。期間限定ですが、喫茶店を開きますよ。‥‥思い切って価格を下げ一般層に切り込みます。これは、賭けです」 「あたいは、ギルドの記録員さんに勧めたいな♪」 頭が冴えるっていうんならきっと喜ぶよ、と万里子。 「無論、そういう出張販売もいいでしょう。頼みにしてますよ、万里子さん」 さあ、これからが勝負です、と林青は拳を固めるのだった。 |