【未来】敵の名はホノカサキ
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/04/03 21:35



■オープニング本文

※注意
このシナリオは舵天照世界の未来を扱うシナリオです。
シナリオにおける展開は実際の出来事、歴史として扱われます。
年表と違う結果に至った場合、年表を修正、或いは異説として併記されます。
参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。

※後継者の登場(可)
このシナリオではPCの子孫やその他縁者を一人だけ登場させることができます。


 時に天儀歴108X年ッ!
 天儀の魔の森も残り少なくなった半面、新たに発見された儀「ヴェ=ガ」と対立するなどいろいろある中で、それでも神楽の都は比較的平穏だった。約70年前にはアヤカシの侵入が頻繁だったりしたことを思うと、特に。
 4年前には遭都が神楽の都に正式に遷都し、新たな試みも始まっている。
 それでも神楽の都は神楽の都。
 さまざまな場所から人が流れ着き、それを受け入れ、雑多な文化が融合し良くも悪くも多彩な価値観が溶け込んでいた。
 交易は盛んで、闇では悪が密かに笑う。
 そんな時、一つの都市伝説が生まれた。
 ほら、耳をすませば聞こえてくる。
 慄然とした悲鳴がこだまするのを――。

 ここは、尾野派一刀流の某道場。
「ど、道場破りじゃ〜っ!」
 渡り廊下を走る音と出合え出合えの声が荒々しく響く。
『手合せ……願おう』
 どた、と道場に入った門下生たちは見た。
 青白い肌でほっそりとした男が、ぱたんと手にした分厚い書物を閉じたところを。
「さ、最近神楽の都の道場を渡り歩いては連戦連勝している、噂の道場破りか?」
「な、なあ。俺、じーさんに聞いたことあるんだが……」
 遠巻きに眺める門下生たちは息を飲みこの不気味な来訪者を監視している。
 そしてほっそりとした男、爪先立ちしたまま閉じた本を掴んだ手を大きく横に振った。ばさ、と外套がなびく。
 そして言葉を続けるのだ。
『では始めよう。……我々生命の到達点を見せよ、命の輝きを示せ』
 大仰なセリフを、淡々とした口調でッ!
「き、聞いたことがあるッ! 俺、じーさんに間違いなく聞いたぞ、このセリフッ、その姿ッ!」
 一人の門下生が恐怖に目を見開いて指差した。
「旧世界に『ホノカサキ』っていう化け物がいたこと……を?」
 その門下生、自分にいま何があったか気付いていない。
『くだらん……指差しただけか?』
 どた、と門下生は倒れた。ホノカサキは元の場所で爪先立ちをしたまま腕を組んでいる。わずかに手にした本から血が垂れている。
 ぶしゃーっ、と首から血を吹きだして倒れる門下生。
「い、今の……」
「超スピードで接近して書籍の一ページを剃刀のように使って喉を切って……」
「……一瞬で元に戻りやがった」
 ざわ、と門下生たちが動揺する。
『太極煉気胞覇天……と言ったかな?』
「尾野派一刀流の覚悟を見よ、天覚ッ!」
 ホノカサキが言ったところ、一人が刃を水平にし中段の位置で相手に点に見せて突っ込んだ。間合いを幻惑する尾野派一刀流の基本技である。
 どしっ、と渾身の突きが入る。
「どうだっ!」
『天覚、か。面白くはある』
 ここは道場。獲物は木刀。
 ホノカサキは左肩口を骨折するほどに突かれたが、倒れる風もない。なぜ、と技を繰り出した者は目を見開いて振り返る。その瞳が恐怖に打ち震えていた。
「う、うわあああっ!」
 悲鳴は、周りから。
 突っ込んだ男が分厚い本の「鬼切」で吹っ飛ばされたのだ。幸い、刃物でない分血がしぶくことはなかったが、周りが熱くなった。
 一対多数の乱闘が始まった。

 数日後、珈琲茶屋「南那亭」で。
「へえっ。また謎の道場破りが出たのか……今度は尾野派一刀流の道場がもみくちゃにされた、か」
 珈琲を飲みながら瓦版を読んでいた若者が顔を上げた。どこか熱血風である。
「よし、貸本の題材にもらった! 某吾のじいさんも草葉の陰でうらやむにちがいねぇ」
 どうやら熱血貸本絵師としてまにあの間にだけ知られていた下駄路 某吾(iz0163)の孫らしい。名は、下駄路 某該(げたろ・ぼうがい)。
 そしてその血筋は間違いなく受け継がれていた。
 後日、偶然訪ねていた道場でホノカサキの襲撃を目の当たりにすることになる。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
パラーリア・ゲラー(ia9712
18歳・女・弓
サエ サフラワーユ(ib9923
15歳・女・陰
鏖殺大公テラドゥカス(ic1476
48歳・男・泰


■リプレイ本文


 神楽の都の某所を、一人のからくりが歩いていた。
「ふぅむ」
 その姿、「破壊大帝」で名をはせた鏖殺大公テラドゥカス(ic1476)であった。
「護大との決戦後……」
 風に舞う桜の花びらを見上げ、思う。
 世界を征服し圧制による平和をもたらさんとの野望の下、総合格闘技団体「デストゥカス」を立ち上げ人材を集め世界を巡業し、決起の時に備えた。
 が、世界情勢を眺めるにつけその野心に変化が現れる。
「あの……」
 突然、道行く親子連れに声を掛けられた。
「うむ、何だ?」
「もしかして、活劇映画スターのテラドゥカスさんではないですか?」
 そんな二つ名で呼ばれた。
「その通りであるが、内緒だぞ」
 テラドゥカス、母に隠れつつもあこがれの眼差しを送っている子供の前に屈んでこっそりと言ってやった。実は映画が発明され上映されるようになってから、そんな仕事もしている。今は次回作打ち合わせの空き時間だったりする。
 その屈んだ姿に、「わしが世界征服しなくても平和が訪れるのでは?」と思った昔日の様子が重なっていることを、誰も知らない。

「たいへんたいへんたいへん〜」
 その前をどたばた通り過ぎた少女がいた。
「あっちの方で肉まん泥棒が出たんですって〜っ!」
 パニックに陥っているのではないか、というほど落ち着きがない。
 年配者ならもしかしたら、若き日に似たような姿を見たかもしれない。
 まるで、「天晴挑戦」の二つ名で知られた――いや、おろおろ娘といった方が通りがよかろう――サエ サフラワーユ(ib9923)のようだった。
「ちょーっと待ったぁ!」
 ここで元気な女の子登場。
「ひいっ!」
「ちょっとあんた、肉まん持ってるけど……まさかあんたが泥棒ってことはないよね?」
 額のゴーグル、首の赤いマフラーの空賊風娘は元気に確認する。
「そ、そんなことはありません。これは可愛そうだからとちゃんとお金を払って……それよりあなたは?」
 サエに似た少女が逆に空賊風娘に聞いた。
「アタイかい? 七つの空をまたに駆ける大空賊『夢の翼』三代目団長、天河ふーま!」
「あ、あの……私、ヤエっていいますっ!」
 まるで若き日の天河 ふしぎ(ia1037)のように挨拶するふーまに、サエの孫、ヤエが負けずと元気よく名乗った。
 これに、ふーまが感心した。
「へえっ。ホノカサキの秘宝を噂に聞いてやってきたけど……あんた、どう? 『夢の翼』に入らない? 団員は女の子ばっかりだけど」
 いろいろふしぎとまったく変わらないようで。
「それより肉まん泥棒……」
「え? まさかホノカサキが肉まん泥棒?」
 まったくふしぎと変わらない……かな?
「ちょっと待つにゃ!」
 ここで、新たな人物が首を突っ込んできた。
「記録によるとホノカサキは特に食べ物に意地汚いとかはないにゃ!」
 泰国出身っぽい猫族な女の子が理路整然と猫語尾で解説した。
「あんたは?」
「葱流弓術開祖として開拓者ギルドに記録の残るパラーリアの孫、震電(しんでん)にゃ」
 聞いたふーまにてきぱきと答える震電。かつて「葱は永遠に不滅でっす!」の名言を残したような気もする……というか、きっと流派門下生には伝えたに違いないパラーリア・ゲラー(ia9712)の孫である。
「開拓者? あなたたちは開拓者ですか?」
 さらに新たな人物が。
「あんたは?」
 腕組みしたふーまが聞いた。
「私、絆琉(ほたる)。石鏡の巫女よ」
 新たな人物は、青いさらさらストレートの長髪に大きな紫の瞳をした娘だった。
「近々開拓者になるのだけど、その登録で神楽に来たの……よろしくお願いします」
 そう言って会釈するたたずまいは、もしかしたら古い開拓者なら知っているかもしれない。もしも藤色のもふらさまを抱かせたらさらにピンとくるだろう。在りし日の柚乃(ia0638)そっくりだと。
「ならばちょうどいい」
 この時、新たな男がやってきた。かなりがっしりした体格だ。皆の注目が集まると、小脇に抱えていた人物をどさりと投げ出す。
「あんたは?」
「ホノカサキを探している者だ……羅喉丸の直弟子に師事している」
 聞いたふーまに、やってきた男が言う。すでに羅喉丸(ia0347)は数多の功績を残し天寿を全うしている。自らその境地に達した「真武両儀拳」の奥義などを後世に伝える道場を開き多くの後進を輩出していた。この若者もその一人である。
「そのっ、それより肉まん泥棒……」
「こいつだ。もう反省しているらしいから代金だけで勘弁してやるといいだろう」
 気丈に話を戻すヤエ。それを聞き、羅喉丸道場の弟子は先ほど投げ出した男を顎でしゃくる。両手は縛られすっかり観念していた。
「あ、ありがとうございます」
 ようやく追い付いて来た肉まん売りがぺこぺこ礼をする。
 その時だった。
「う、うわあっ!」
 近くの剣術道場から悲鳴が上がる。
「お、お前はまさか噂の道場破り……」
「ホノカサキッ!」
 この言葉を聞き、ふーまと羅喉丸の弟子が顔を見合わせた。
「え、何の騒ぎ? まさか……兄さんがいる道場かしら?」
 絆琉も不安そうに顔を上げた。
「えっと、えっと、どうしましょう?」
「行ってみるにゃ!」
 わたわた周りを見るヤエ。震電は敢然と顔を巡らせ走り始めた。
 それを合図に、全員が走る。
「……打ち合わせ予定の道場からではないか」
 もちろん、テラドゥカスも。



『……どうした? 命の輝きを示せ』
 道場では、すでに不気味な立ち姿のホノカサキに向かっていった門下生が周りに倒れていた。
 ぬう、と道場の隅にいる下駄路 某吾(iz0163)の孫、下駄路 某該(げたろ・ぼうがい)の方へと歩いている。
「ちょい……俺は絵描きだ。この道場のモンじゃねえって」
「客人に手出しはさせん!」
 真剣を持ち出した師範がその間に入る。きええ、と突っ込むと見せ掛け蹴りを見舞うが……。
『タイ捨剣……だったか』
 ホノカサキ、「深雪」で抜刀反撃し返り討ち。
「……強い」
 ごくり、と某該が唾を飲み込んだ時だった。
「待てっ!」
 道場入口から声がする。
「あんたが噂の道場破りだね……アタイは大空賊『夢の翼』団長、天河ふーま。人呼んでふしぎ3世……ホノカサキの秘宝について、教えてもらうよ!」
 ふーまを先頭に開拓者の孫たちが勢ぞろいしている!
「……ホノカサキの秘宝なんてどこにも記録に残ってないにゃ」
 ぼそ、と背後で震電が解説するが、もちろんふーまは知ったこっちゃない。
「さぁ、やーっておしまい!」
 「傀儡操術」で手にしていた人形「きりんぐ★べあー」をけしかける。
 爪ぎらん、な腕を振り上げた一撃は……なんと、見事にヒット。瞬時にふーまの手元に戻る。
 が、ホノカサキが瞬時に移動しふーまの前にドアップで迫った。額のひっかき傷から血を流した顔のまま、「べあー」を奪い取ると元の場所に瞬時に戻る。
『ふむ、こうか?』
 そして、マネをした!
 ふーまに襲い掛かるくま。
 ――すとっ。
 くまに矢が刺さり、へろっと落ちた。
「ああああ、くまさんがぁ……べっ、べつに可愛くてお気に入りとか、そんなことないんだからねっ」
「先即封でペシペシしたけど……余計なことしたにゃ」
 真っ赤になってツンするふーまを見て、弓で援護した震電が微妙な顔つきになる。
「ええい、何をやっておるか!」
 緩い展開に業を煮やし、テラドゥカスが前に出る。
「た、たいへんです……」
 その直前に、ヤエが横に動いていた。
「ヘンな道場破りの人のおかげで死にそうな人もたくさん、なんとかしなきゃ」
 けが人やうめいて倒れている人を助けに行ったのだ!
 これを背中で感じているテラドゥカス。前の敵を睨む。
「先の戦いではホノカサキと戦う機会がなかったからな。丁度良い、稽古をつけてやろう!」
 だっ、と駆け出した!
「アレがホンモノのホノカサキなら勾玉はないし、解決は無理にゃ」
 各流派ばかりではなく過去の出来事もしっかり調べている震電が声を張った。
「もちろん。……よく見ておれ! テラドゥカス、アターック!」
 テラドゥカスも分かっているようだ。瞬脚で風になると腰をしっかり落として相撲のぶちかましを繰り出した!
 ――どごぉん……。
 吹っ飛ばされたホノカサキ。しかし、むくりと不気味に起き上がる。
「それでいい」
 テラドゥカス、さらに詰めて手を挙げた。思わずその手を取るホノカサキ。テラドゥカスは、にやり。
「あ、あれは『正統派ストロングスタイル』にゃ!」
 震電の解説通り、力比べから寝技の静かな展開になる。ホノカサキ、首根っこに腕を巻かれ締め付けられつつ脱出を狙う。この動きを利用し、今度は脚四の地固めに移行する。
「じ、時間稼ぎですね。私も手伝うわ」
 絆琉、何を狙っているのかを理解しヤエのけが人介抱を手伝うため、走る。
「私、有名ですごかったお母さんとはちがってぜんぜんダメで役に立てるのか不安だけど、ちょっとでも怪我する人がへればって……」
 ヤエ、おろおろしつつ治癒符を使っている。
「お母さんにはそんなじゃダメって叱られるかも……でも私、お母さんの言う『格』とか『家柄』とかの誇りなんかよりおばあちゃんの言ってたコトの方が解る気がするもの」
 一生懸命けが人と向き合う肩に、ぽんと手が乗る。
「ヤエさん、手伝うわ」
 絆琉だ。真っ直ぐで力強い紫色の瞳は、先祖譲り。
「努力して身につけた力は自分を見せ付ける為じゃなくって、みんなの幸せを護る為にあるって思うもん!」
 振り向き言い切るヤエ。
「私も……いつか、ひいばあ様のようになりたいって……幼い頃から日々精進してきたわ。私もね、持てる力で人々の役に立ちたいの」
 にこり、と微笑む絆琉。ヤエの涙の浮いていた瞳に希望があふれた。
「偉そうに言ってもそんな力ないかも、だけど……でも、今できることくらいはやってみる!」
 こくり、と頷き合う二人。治療に専念する。

 この時、前線。
「む? おおっ!」
 おっと。ホノカサキ、身を反転させて逆にテラドゥカスを痛めつけてから脱出した。なかなか理解が早い。
 そしてヤエと絆琉の方に行こうとする。
「させぬわ」
 テラドゥカス、背後からフルネルソン。
「同時攻撃にゃ」
 震電、隙ありと胸板に矢を放つ。
 が、万歳してするりと下から抜ける。逆に背後を取って真似をしてフルネルソン。
「飲み込みが早いな。しかし!」
 テラドゥカス、さらに抜け出てまたも背後からフルネルソン。いや、そのまま仰け反ったぞ!
「あっ、あの技は……なんだったっけ? 確かにじっちゃんから聞いたんだけど……」
「『飯綱落とし』とは違うにゃよ?」
 注目するふーまに、冷静に突っ込む震電。
「うっ、うるさい、頭脳労働はアタイの担当じゃないんだからっ……バカって言うなっ!」
 ちなみにバカとはいってない。ふーま、よく言われて癖になっているのだろう。
「フルネルソン・スープレックス!」
 代わりに技名をテラドゥカス自ら叫ぶ。
 そして……。
 どがしー、とブリッジして敵の後頭部から床に叩きつけた。プロレスならカウント3だろう。
 ――びくり、むくっ。
 痙攣したような動きでホールドから抜けると、またも不気味に立ち上がるのだった。



「今だ! これが夢の翼団長の証し……一気に畳みかけるよ、あんたらもアタイについてきな!」
 この隙に、ふーまが叫んで剣を抜き走る。
「『空賊戦陣「夢の翼」』にゃか……」
 まさか生でこれを見ようとは、と感慨深げな震電が友情の同時攻撃。
「いいだろう」
 じっと観察していた羅喉丸道場の弟子も続く。
 さらにテラドゥカスも味方の援護を感じ横に外すと身を投げ出して跳躍し、敵後頭部を蹴りで狙う!
 ――どかっ!
「うわあっ!」
 ふーま、激しく吹っ飛ばされた。
 テラドゥカスの延髄斬りを受けた敵がそのまま前転して「大車輪」を放ったのだ。いつの間にかホノカサキの手は斧状になっていた。
 さらに回転斬りで立ち上がったテラドゥカスと羅喉丸弟子を吹っ飛ばす。
 おっと。
「羅喉丸の英雄譚に憧れて……」
 羅喉丸の弟子は耐えている。倒れない。
「羅喉丸が開いた道場で鍛えた」
 ゆらり、と交差防御姿勢を取っていた腕を解く。
「そして学んだっ。『己の道を見出し、貫け』の教えを!」
 ついに拳を固め、突っ込む。
「精霊の力を借り、天地分かれて両儀となる……『真』」
 まずは一発目。
「『武』!」
 続いて二発目。
「『両儀拳』ッ」
 そして最後の三回目攻撃!
 ずざざ、と後ずさりするホノカサキだが、大して利いた様子もない。
「なぜ?」
 愕然とする弟子。が、すぐ理解した。
 ホノカサキも真武両儀拳を使ってきたのだッ!
「……ふふ……」
 もろに食らって吹っ飛んだ弟子だが、不気味に微笑しつつ立ち上がった。
「これがあの羅喉丸の英雄譚に出てきた……」
 もろに食らったから分かることもある。
「これは、師の『真武両儀拳』に劣る!」
 言い切った。
 なぜなら、ホノカサキの真武両儀拳は羅喉丸が境地に達して間もないころに食らっているから。修練の鬼たる羅喉丸がそこから立ち止まるはずは、ないッ!
 しかし、ホノカサキは止めとばかりに突っ込んできているぞ。
 その時ッ!
「蒼きの旗の下、今、アタイは蒼き流星になる!」
 傷だらけのふーまが、不死鳥のごとく蘇っていた!
 天歌流星斬で突っ込む。これがホノカサキに入った。
「ならば、起より始まりて、両儀に至り、転結に達す」
 この隙に弟子が骨法起承拳、真武両儀拳の構え、そして最後に謎の構えを取ったぞっ。何かの境地に達したのかもしれないッ。
「これぞ命の輝き、天をも動かせし一撃、天動転結拳……」
「だめにゃ! 代わりにあたしの葱流奥義を食らっとくにゃ!」
 弟子の攻撃の直前、震電が「月涙」で……いや、「無月」も込めて矢を放った。
 それは薄緑色の気を纏い弟子の小脇をすり抜け、ホノカサキに刺さると纏った葱の記憶を開放しさく裂したッ! どばーん、と青と白の葱の映像が一瞬舞う。
「なるほど、まだ繰り出してない奥義は取っておけということか!」
 テラドゥカス、得心した。
「全員避難させました!」
 この時、絆琉の声が響く。
「あ、あのっ! だいじょうぶですからっ!」
 さらにヤエが呪縛符でホノカサキを一瞬縛る。
 一同、被害は防いだととにかく脱出する。

 後日。
「一応、『時の蜃気楼』で調査してみます」
 絆琉が襲われた道場で顛末を探る。
「そういえば、あんたに似た人を見たことあるような?」
 その横顔を見て、某該が呟いた。
 確かヴェールで顔を隠した下から、「ふぅ……私のお迎えはいつ来るのでしょうね?」と漏らしていたと思い巡らせる。
「祖母かも、です」
 絆琉の返事。
 柚乃がもしも長寿であればまだ存命であるし、生きていれば『ラ・オブリ・アビス』を使うこともできるだろう。若き日の自分のままで。

 この後調査は進み、真の奥義を習得する羅喉丸の弟子や一同を巻き込み、歴史的事件はさらに深みを見せていったという。