重ね式お好み焼きいかが?
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/03/20 18:44



■オープニング本文

「じゃ、俺の用件はそれだけだ」
 一抹 風安(iz0090)は最後に「すまんな」とつぶやき背を向けて、ぼさぼさ頭をかいて姿を消した。
 ここは、神楽の都の港。
 コクリ・コクル(iz0150)たちのたむろする中型飛空船「チョコレート・ハウス」の前。
「スイートショコラっ酒?」
 コクリ、風安が立ち去る前に置いた酒屋の貸し徳利一つを見ながら教えられた名前を復唱する。貸し徳利の銘は「菊柾」。
「そうにゃ。コクリしゃんに届けてもらったチョコと北面のお酒……というか酒粕で作ったのにゃ」
 風安の相棒、猫又のポチが説明する。
「へえっ、どれどれ」
 酒、と聞いてチョコレート・ハウス副艦長の八幡島が食いついてきた。
「お酒といっても甘酒にゃよ?」
「なんだ、甘酒かい。……それよりいろんなところの名物を合わせるってのが面白れぇじゃねぇか」
 ポチ言われて八幡島は試飲するのをやめたが、顎を撫でていろいろ考えている。
「酒粕マーブルクッキーもあるにゃ」
「あ」
 ここでコクリ、ピンときた。
「甘酒とお菓子なら、ホワイトデーだけじゃなくひな祭りでも喜ばれるんじゃないかなぁ?」
「それもそうにゃね」
「そんじゃ早速、港で屋台でも出すか? ここならちょいとした許可で賄い品として売りに出せるぜ?」
 仲良く盛り上がるコクリとポチに八幡島が言う。
「おやっさん、それなら希儀産ワインも増産したことですし、これも売らないと」
 乗組員からはそんな声が。
 しかし、この話題は思わぬ騒ぎとなる。
「昼前から売り出すなら食い物もあった方がいいだろ?」
 突然、別の飛空船乗りたちが首を突っ込んできた。
「うどんでも出すのかよ?」
 八幡島、あまり乗り気ではない風に聞く。
「いやいや。いろんなところの名物を合わせた、俺たちのまかない料理だ。名づけて『重ね焼き式お好み焼き』」
 どうやら普通のお好み焼のように小麦粉を使うが、鉄板でまぜ焼きにするのではなく小麦粉の皮、ジルべリア産甘藍(かんらん:キャベツ)の千切りと薄切りの肉、天儀産のもやし、かん水を使った泰国式の麺を重ねて焼き、薄焼き卵を乗せそぉすをかけるらしい。世界が世界なら、「広島風お好み焼き」と呼ばれているかもしれない。
「待った」
 これを聞いた八幡島、ぎらんと瞳を輝かせた。
「それ、おそらく希儀産の赤ワインと合うんじゃねぇか?」
「とにかく焼き方を教えるからいろいろやってみりゃいいよ」
 盛り上がる大人をよそに、コクリたちは。
「……うんっ、これなら子供でも飲めるね。体もなんだかぽかぽかするよ」
「北面でも評判だったにゃ」
 ショコラっ酒を試飲してみてぱああっと振り向くコクリを見て、ポチはご機嫌だった。

 そんなこんなで、重ね式お好み焼きをマスターして三月三日のひな祭りの日の屋台でショコラっ酒やマーブルクッキー、希儀産赤ワイン、そして重ね焼きを売る人、求ム。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
猫宮・千佳(ib0045
15歳・女・魔
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔


■リプレイ本文


「あれ、なんかいい匂いしない?」
 神楽の都の港の一角でそんな声が。
「あの天幕からだな」
 通り掛かる人の指さす先には、「チョコレート・ハウス」と書いてある看板が。天幕の中で何をしているのかは分からない。
「何かうまいものでも焼いてるのかなぁ」
 もちろん、そんな匂いに気付くのは人ばかりではない。
『ふしぎ兄、あっちで甘くて美味しそうな香りがするのじゃ』
「ってひみつ、そんなに引っ張らなくても……」
 ちょうどここを通り掛かっていた天河 ふしぎ(ia1037)は、相棒の天妖「ひみつ」に耳を引っ張られていた。ひみつの指差す方を見たふしぎ、「あ」と瞳を輝かす。
「『チョコレート・ハウス』……きっとコクリたちなんだぞっ」
『早速行くのじゃ、ふしぎ兄』
 駆け出すふしぎと浮かんでそれを追うひみつだった。

 その時、港の入口で。
「コクリちゃんと遊ぶにゃよ〜♪」
 にゅふふんふ〜ん、と猫しっぽを揺らし猫宮・千佳(ib0045)が歩いていた。
『……まさか、また空に?』
 とんとん、と千佳の前をしなやかに急いでいた相棒の仙猫「百乃」がぴたと止まって主人の顔を見上げる。少し嫌な顔をしていたり。
「チョコレート・ハウスは今日入港にゃから大丈夫にゃ♪」
『それならいいけどにゃ』
 ここで千佳に近寄る影が。
「そうですね。まずは荷捌きをして数日滞在。何か面白いものを運んで来ているかもしれません」
 朽葉・生(ib2229)である。肩には相棒の上級迅鷹「咫」が止まっている。
「にゅ! 何か楽しみになってきたにゃ。急ぐにゃよ〜」
『……張り切る姿を見ると何か嫌な予感しかしないにゃ』
「数日滞在する、と言ったばかりなのですが」
 ダッシュする千佳を百乃と生が追う。咫は翼を広げて空に舞って続いた。

 一方、別の場所で。
「ナニかおもしろいコトないかしらねぇ?」
 いつもな感じで御陰 桜(ib0271)がのんびり歩いていた。アップにまとめた髪の下で両手を組み、胸を反らす。
『おもしろいコト、ですか』
 横を歩く相棒の闘鬼犬「桃(もも)」が主人の顔を見上げた。
『おもちょ……』
 桃さらに横には、又鬼犬の「雪夜」がいる。桃の言葉を真似ようとしたが失敗していたり。
『あぅん……』(むずかしいなぁ)
「ま、散歩もおもしろいんだけどねぇ」
 桜、黒白の子しばわんこのがっくりしている様子を堪能しつつも、やっぱり何か刺激がほしいようで。
 と、その時。
 どどどどど……、と急ぐ一団に気付いた。
「あら、千佳ちゃんに生ちゃんじゃない?」
『行ってみますか?』
 知人と知って桜に、しばわんこの桃が精悍な顔を上げる。
「そうね。なんだか楽しそうだし、行ってみようかしら?」
『わかりました』
『あんっ』
 こうして桜たちも千佳や生について行くことに。



 そして、チョコレート・ハウスと書かれた看板の立つ天幕内。
「ええっと、まずは小麦粉を溶かしたものをお玉で一杯だけすくって鉄板に。で、薄くまあるく伸ばす……」
 コクリ・コクル(iz0150)が鉄板を前に奮闘していた。
「次に千切りにしたジルべリア産の甘藍(かんらん:キャベツ)をたっぷりのせてしばらく焼いて、その間に薄切りの肉を横で焼く、と」
 じゅう、と音がして肉が早速縮れる。コクリは休む暇なく両手に持った大ヘラを使って肉を裏返して軽く焼くと、キャベツの上にのせた。
「で、次は今の場所で泰国風のそばを焼いて……さらにその横でたまご」
 たまごは目玉焼きにはせず、ヘラで黄身を崩しておたまの底を使ってこれもまあるく伸ばす。
「そしていよいよ……」
 コクリ、最初に焼いていた小麦粉の下に両手で持った二つの大ベラを入れる。もこり、と上に乗るキャベツなどが盛り上がる。
「よし。そこから一気にひっくり返して……」
 指導していた船乗りがぐっと拳を固めた。
 コクリ、呼吸を整え大ベラを持つ手を一気に――
「コクリちゃん発見〜♪ 何してるの?」
 この時、天幕にリィムナ・ピサレット(ib5201)が入ってきた。コクリの背中を見つけると早速いつもするように後ろから抱き着いてあっちこっち手を差し入れくすぐりくすぐり……。
「い、いやぁぁぁん!」
 ばっさー、とキャベツがぶっ飛んで散らかった。
 お好み焼き、失敗である。

「なるほど、混ぜるんじゃなく重ねた状態で焼くんだねー」
 リィムナ、自分の頭をなでながらこれ以上ないほど真面目な顔で呟いている。近くには「まったく」とか腕を組んで怒りを抑えている船乗り。リィムナにげんこつでごちんとやったらしい。
『それじゃ、練習あるのみですにゃー♪』
 相棒の上級からくり「ヴェローチェ」も早速エプロン姿になっている。
「ヴェロは家事全般得意なんだよ。コクリちゃんももう一度やってみよー」
「あ、ちょっと待って」
 誘われたコクリだが、外を気にしたぞ?
「コクリ、何か楽しそうなことをしてるねっ」
 ばさー、と入ってきたのはふしぎ。
『妾たちも混ぜるのじゃ!』
 もちろんひみつも一緒。
 それだけではない。
「コクリちゃん、来たにゃよ〜♪ って、うにに? 何してるにゃ?」
『変わったにおいがするにゃね』
 今度は千佳が。一緒の百乃は鼻先を上げてふんふんと周りの香りをかいでいたり。
「あら、楽しそうじゃない?」
 もちろん桜も。
『賑やかそうですね』
『にぎゃ……あんあんっ』
 桃はこの騒ぎを静かに見つめ、言葉を真似た雪夜は……途中であきらめ尻尾を振るだけにとどめたり。
「どうやら今回はこれを売るようですね」
 最後に入ってきた生はそう判断すると、さっそく手近にあったエプロンを身に着け後ろ手で大きなリボンを作っていたり。
 とりあえず、みんなで重ね焼き式お好み焼きの作り方を習うことになる。



「というわけで、いろんなところの特産品を使って美味しいものを作って売りたいんだ」
「では、焼き方を教わり実際に焼くのを手伝いましょう」
 説明しながら背中越しに振り向くコクリ。生はコクリのエプロンを蝶々結びで着せてやりつつ頷いた。
「お料理にゃ、お料理にゃ〜♪」
 千佳もくるっと回って真っ白なエプロンを身に着ける。そこへ百乃が声を掛けた。
『お料理、得意だったかにゃ?』
 ぴた。
「……コクリちゃんと遊ぼうと思ってきたら何か面白い事になったにゃねー♪」
 一瞬止まった千佳だが、再びるんるん気分でエプロンの猫柄模様部分をちょいちょいいじってしわを伸ばす。
『図星かにゃ』
 ふう、と脱力する百乃。
 こちらは、ふしぎ。
「わあっ。そぉすが香ばしくて熱々ふっくらしてる。麺もボリュームがあるんだぞっ」
『いろいろ入ってて美味しいのじゃ』
 はふはふ、と出来立てをまずは試食している。ふしぎは小さなヘラを使ってお好み焼きを小さく切って口に頬張り、ひみつは箸でつまんでほふほふ。
『こちらはなんですにゃー?』
「スイートショコラっ酒って……こないだのうまいもん祭で売ってたやつだね♪ あたしも貰ったよ♪」
 ヴェローチェが飲み物を発見。もぐもぐとお好み焼きを堪能していたリィムナがのぞくと、北面での依頼でかかわった商品だった。
「こっちの希儀産赤ワインはお好み焼きに合うぜ?」
 八幡島がすい、とワインを勧める。
 手を伸ばしたリィムナの横から、桜がひょい。リィムナの方はヴェロから「年齢的にダメにゃ」とか言われてたり。
「ふうん?」
 桜の方は、ちびり、と試飲。すると、ははぁというような顔に。
「甘味のあるお好み焼きには、たしかにいいかも♪」
「だろ?」
 ウインクする桜に、ぐっと親指を立てる八幡島。
「食材にお肉を使っているなら赤ワインも確かにいけそうです」
 準備を終えた生も飲んでみて、こくと頷く。
「それじゃとりあえず、ちゃちゃっと焼き方をますた〜シちゃわないとね♪」
 ふんふん、とエプロンを後ろ手で装着してお玉をてにする桜。
「……桜さん、手馴れてるね」
 やってきたコクリが感心している。
「こういうのは慣れね」
 ふんふ〜ん、と桜は鼻歌交じり。余裕だ。
「それでは皆さん、どんどん焼いて練習してください」
 生は補助を頑張る。キャベツを千切りにしたりと下ごしらえに精を出す。
「ひっくり返す時に失敗する可能性が高いね。両手にヘラを持って下に差し込んでヘラの先と先がくっついたら持ち上げてサッとひっくり返す感じ?」
 リィムナは軽やかにひっくり返す桜の手際を見ながら大ベラを動かしてみたり。
『練習あるのみですにゃー♪』
「よし、僕もやってみるんだぞ」
 ヴェローチェの言葉にふしぎも参戦。
「うにに……」
 千佳は猫のように山盛りにしたキャベツを上から見たり下から見たり。終いには両手に持った大ベラでぺちぺち押さえたりも。
『押さえていいのにゃ?』
 見ていた百乃の素朴な疑問。
「うにゅ、先に押さえて固めたら散らからないに違いないのにゃ」
「確かにしっかり押さえて焼くのもうまいらしいが……ひっくり返すのはどっちにしてもコツがいるらしいぜ?」
 見兼ねた八幡島からの忠告。
「……うに?」
 ここで千佳、振り返った。いつの間にか自分の着ていたエプロンが光り輝いていたのだ。
「あ、いえ……もしかしたら火傷するかもと思って……」
 どうやら危険を察知した生が相棒の咫に他者同化で金剛の鎧を命じたらしい。
「うにに、これできっと失敗しても問題ないにゃ! 思い切っていくにゃ〜っ!」
『失敗する気満々ともいうにゃ……』
 思い切ってどかーんとひっくり返した千佳だが、どかーんとキャベツが盛大に散ってぱらぱらと自分に降りかかる。横では百乃が、もろにとばっちりを受けてキャベツまみれ。
『やれやれにゃ』
 とかいいつつおひげをへにょりしてとぼとぼと避難する百乃。今回もしっかりとひどい目に遭ったようで。



 おっと、こちらでもキャベツがどかーんとなっている。
「今度こそ、今度こそなんだからなっ!」
 鼻の頭とか頭の上とかにキャベツをのせたふしぎ、もう一度、とお玉に小麦粉をすくう。
『頑張るのじゃふしぎ兄、ふしぎ兄ならできるのじゃ……』
 横ではひみつが健気に応援しているぞ。
 そう。
 器用にお好み焼きをヘラでひっくり返しつつ。
「……」
 その事実を知ったふしぎ、しょぼん。
「力んでるとうまくいかないから肩と腕の力を抜いて手首だけで返してみよう♪ うまくできるかなっ」
 おっと。
 その横でリィムナがピンときている。
 ひょい、と何気なくやると見事にきれいにひっくりかえっていたり。
『リィムにゃんさすがですにゃー♪』
 ヴェローチェがぱちぱちと拍手。
「あっ、ホントだ。うまくできた!」
 この様子を見ていたコクリもやってみて、見事にくるん。
「にゅ? にゅにゅにゅっ!」
 千佳が目を丸くしているのは、うにゃうにゃと遊んでいると偶然したっ、とうまくひっくりかえったから。これを見て退避していた百乃もしたっ、と戻って来る。
「ねえ、生さんもやってみて」
「コクリさんが言うなら……」
 生も一応チャレンジ。
 したっ、と一発で決まる。
「……この差はなんだろう」
 この様子を見ていたふしぎが悲しそうにぼそり。
『元気が有り余ってるのから失敗してるのじゃ』
「そんなこと言ったら、ひみつだって元気が有り余ってるんりだぞっ」
『妾は元気よくひっくりかえしてるのじゃっ!』
 ひみつ、そんなことを言いながら、ぶうん、そぉい、とひっくり返し。実に前から後ろと結構な距離を元気よく移動してたり。
 つまり、ありあまった元気が移動距離に消費されているのだ。
「そ、それなら僕だって!」
 ここでふしぎ、ついに目覚めたっ!
「それっ!」
 鉄板の右の端からどたたたたっと移動しつつ、左の隅にぺしーん、とひっくり返した。元気の良さに見合ったアクションで、これなら余計な力は移動距離以外に行くことはない(※注:よいこは絶対にマネしないでください)。
「ど、どうだっ! できたんだぞっ!」
 ふぅ、と一仕事終わったふしぎはキラキラと瞳を輝かせ皆を振り返った。
 が、しかし。
「うんっ。おいしーよね〜」
「……この材料だったらそぉすをかけなければわんこも食べられそうよねぇ?」
「やっぱり肉料理には赤ワインですね」
 リィムナと桜がもぐもぐやってたり。生はもぐもぐした後ワイングラスをそっと傾け優雅に。
「うに、結構美味しいにゃね♪ コクリちゃん、あーん」
「ち、ちょっと千佳さん、熱いんじゃない?」
「ならフーフーしてあげるにゃ〜♪」
 千佳とコクリがきゃいきゃいもぐもぐ。
「誰も見てないっ!」
『ふしぎ兄も早くこっちきて食べるのじゃ』
 ががん、と立ち尽くすふしぎにもぐもぐやりつつ手招きするひみつだった。
 こちらは桜。
「桃達も食べてみる?」
『はい、食べてみたいです』
『ちゃべちゃ〜』
 しっかりと相棒二匹を気に掛けている。
「そぉすがかかったのはダメだから、すぐ焼くわね」
 桜、再びじゅ〜と焼く。
 一方、千佳たち。
「百乃さんも食べるかな?」
 千佳に食べさせてもらい、今度はお返しとばかり千佳にあ〜ん、してもらったコクリが気を遣っている。
『魚があれば我はよいのにゃー』
「海鮮はないにゃよ?」
『うにゃぁ……』
 主人に冷たく言われへにょりした百乃。
「アツアツだから少し『待て』よ」
 一方、桜はそぉすなしのお好み焼きを焼き上げたようで。桃と雪夜に差し出しつつ、掌を掲げる。
 そしてコクリは気を遣って百乃の前にお好み焼きを置く。
「でも美味しいよ?」
 コクリに言われそれなら、と百乃はがぶり。
 その瞬間!
『熱いにゃ!』
 猫舌の百乃がびくっ、としたり。
 で、桜たち。
「もうイイわよ♪」
『頂きます』
『いちゃぢゃきみゃ〜♪』
 こちらはしっぽふりふりして美味しそうにはぐはぐ。桜は幸せそうにその様子を見守っている。
『相棒天国と地獄の図ですにゃ〜♪』
 百乃と桃たちを見比べ、ヴェローチェがぼそり。
「咫には……無理ですかね?」
 生も念のために相棒の上級迅鷹に皿をのぞけてみる。
「……あ」
 ダメだろうな、とか思ったらくちばしを器用に使ってしっかりと肉だけをついばんで、はぐりもぐもぐ。何とも満足そうだ。
「……ひみつ、口の周りにこんなにソースつけて」
『♪♪』
 ふしぎもようやくお好み焼きにありつけたようで。赤ワイン片手に満足そうだったが、相棒の口の周りに気付いて拭いてやったり。ひみつ、食べてふしぎに世話してもらってと上機嫌。
「この様子なら明日の販売もうまくいきそうだな」
 八幡島もワインを傾け満足そうだ。



 さて、翌日。
 港の一角でがばぁ、と大きな団扇が掲げられた。
 団扇には、「ショコラ隊」と大書してある。
「いろんな国の魅力が詰まった、美味しい美味しい重ねお好み焼きだよ、期間限定、今だけの特別なんだからなっ!」
 ぶうん、と団扇を振り下ろしふしぎが呼び込みの声を張る。
「うわあ、何だこれ?」
「へえっ、いい匂い」
 ふしぎの扇いだにおいは周囲に広がり道行く人の足を止める。
 そこに、じゅうじゅうと鉄板で焼ける音。
「そうそう。コクリちゃん、音が出るよう押さえてしっかりヤってね」
「こ、こうだね、桜さん」
 桜とコクリが、焼ける音を強調するようにお好み焼きを焼いている。
「そぉすをワザとてっぱんで焼くのも手ねぇ」
 じゅううう……。
「材料の千切りや洗い物はこちらに任せてください」
 屋台の奥では生が完全バックアップ。とととと…と小刻みな包丁さばきでキャベツの千切りを量産している。脇には薔薇の石鹸を溶いた湯を桶に入れて洗い物をつけていたり。
 一方、屋台の前では。
「はーい、美味しいお好み焼きにゃ♪ いっぱい食べてにゃー♪」
 焼きあがったお好み焼きを千佳が給仕している。
 おっと。小さな子供もこっちを見てるぞ?
「にゅ、いま手が離せないにゃ!」
 千佳、百乃を振り返る。
『……何故猫なのに猫かぶりをしないとならないのかにゃ』
 ぶつぶつ言いつつ百乃、猫かぶり。
『…にゃーん♪』
 仕方なく招き猫のポーズ。子供たちの目がきらめき、親の袖を引っ張る。親は子がお好み焼きがほしいのかと勘違いしやってきたり。
「チョコレート・ベアだクマ〜♪」
 そして突然、リアルではあるが仕草のコミカルな濃い茶色毛の小熊が出現。来場者は一瞬ぎくり、としたがしゃべっているので安心する。
「う〜ん……とっても甘くて美味しいクマ〜♪」
 マーブルクッキーやショコラっ酒を美味しそうに食べたり飲んだりして、ぷはーっ。
「あれ可愛い〜」
 これでさらにちびっ子がやってきた。
「さっき食ったし、お好み焼きはボリュームありすぎるからなぁ」
 そんな大人にも好評で。
『いらっしゃいませですにゃー♪』
 売り子としてヴェロがついているので取りこぼしなし。
「ちょっとー、焼くのが追い付かないよぅ」
 ここでコクリから悲鳴が。
「しかたない。僕に任せるんだぞっ」
「うに……一応頑張るにゃ」
 ふしぎは平行に並んだ鉄板を使ってひっくり返し。千佳はちょん、と猫っぽくちょこちょこっと小さくひっくり返し。
 その派手さとかわいらしさに観客から「おおー」と拍手が。
「よーし、無限ノ鏡像も使うクマ〜♪」
 リィムナは一瞬だけ分身して二枚をくるっ。
『希儀産赤ワインがとっても合いますにゃー♪』
 こちらにも拍手が。
 ヴェロはその間もしっかり販売販売。
 そんな、リィムナとヴェロの横で。
「あっ。鉄板がこんなに汚れちゃった」
「コクリさん、下がって」
 コクリの声に反応した生、汚れた鉄板にばしゃ〜、とせっけん水を流した。
「そんなので焦げ付きが落ちるかなぁ?」
「水と一緒にしてキュアウォーターします。そして……」
 ざざっ、と大ベラを使い鉄板を削ると、見事綺麗に。
「さ、これで大丈夫です」
「うんっ。それじゃあ……」
「コクリちゃん、一緒に呼び込みするにゃ♪ 二人の魅力でメロメロにするのにゃー♪」
 生に感心したコクリ、さあ焼くぞと思った瞬間、千佳に抱き着かれて販売に。
『代わりに焼きますにゃ♪』
 空いた場所にヴェロが入って量産体制持続。
「にゅふふ、いっぱい呼び込んでいくにゃよー♪そこのお兄ちゃん、美味しいお好み焼きとお酒はどうにゃ?」
「どうですか?」
 千佳とコクリで愛嬌を振りまく。
「あら。だったらこっちも……お好み焼きいかがですか〜♪」
 桜が千佳たちとは別の方に宣伝に出る。
『わん!』
『あんっ♪』(おいしいよ〜)
 桃と雪夜も一緒に宣伝♪
「こういうのはどうですか?」
 屋台では、生が甘刀「正飴」を鍋で煮ていたようだが……。
「へえっ、これもいいね」
「ホットワインともいいます。熱燗のワイン版、のようなものです」
 生の説明を聞いてたちまち大人たちが集まった。
「実際は香辛料も少し加えるのですが、今回は重ね式お好み焼きとお客様の口の中で合わせて召し上がって下されば」
「美味しいね、最高だね♪」
『美味しいですにゃ♪』
 説明する横でリィムナとヴェロが美味しそうに。
「ま、可愛い娘さんたちは呼び込みの方がいいだろうからな」
 焼くのは八幡島たちが交代しているようで。 
「期間限定! お勧めは赤ワインと一緒に、甘い物が大好きな人にはチョコ甘酒もあるんだからなっ!」
『今だけなのじゃ』
 再びふしぎも売り子になって団扇ぱたぱた。横ではひみつが十二単姿で団扇パタパタ。
『リィムにゃんベアーを抱っこするですにゃ♪ 可愛いですにゃー!』
「く、くすぐったいクマー!」
 何やら後ろではリィムナが短いクマ尻尾パタパタ。
「はいはい、こっちよ。ならンでね♪」
『わんわんっ!』
『あんっ』
 こちらからは桜が大勢客を連れてきたり。桃も雪夜も尻尾パタパタ。
「……うにゅ?」
 それを遠くから見た千佳、足元を見る。
『これで後で魚でも貰えないと割にあわないにゃね。生魚を後で主に希望しておくにゃ』
 百乃が主人の催促の視線を受けて、尻尾パタ。
「というわけで、美味しいよ〜」
 これを見てコクリの声が響く。
 お好み焼きもショコラっ酒も酒粕クッキーもホットワインも好評。
 まだまだ賑わいは続きそうだ。