【浪志】月夜に開く蛇の目傘
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/03/16 19:51



■オープニング本文

「ああ、宴席での舞台は久々ですね」
 希儀風酒場「アウラ・パトリダ」で、クジュト・ラブア(iz0230)が明るく言った。
「で、どこでですか?」
「話が早いですね、クジュトさんは」
 聞いたクジュトに、もふら面を被っていた男は言った。「どこで」に満足しているようで。
「もう旅館街からは締め出されたと同然ですからね。……もしもあるとしたら、荒事前提。もしくは若手貴族からの指名」
 クジュトはそう肩をすくめる。
「ご明察。ですが、いいですねぇ。非常に都合がいい」
 もふら面の男は激しく肩を揺らして言う。
「何がですか?」
「いるのかいないのかわからない一座になっていることが、ですよ。どうやら最近、ミラーシ座のことを聞きまわっている連中がいるようで」
 聞いたクジュトに顔を寄せるもふら面の男。
「客では……なさそうですね」
「ミラーシ座と同じ、荒事専門の一座のようです」
「……ミラーシ座は別に荒事専門じゃないんですけどねぇ」
 きっぱり言われて思わず言葉をこぼす。
「そうですね。ミラーシ座より、はっきりと暗殺一座としているでしょう。裏筋からそんな一座がいるという噂は聞いてましたが、まさか神楽の都に入ってくるとはね」
「どういうつもりでしょうかね?」
 クジュト、聞いてみた。もしかしたら観光だと楽だなぁとか思ったのは内緒だ。
「神楽の都観光なんかじゃ、もちろんないですよ。……クジュトさんを嗅ぎまわってるんだから、これはもう復讐でしょう」
「ええっと、心当たりがないんですけど……。同じ荒事一座として力比べに来てるとか……」
「……だといいなぁ、とか思ってるわけですね。そんなわけないじゃないですか。そもそも、心当たりはありすがるほどあるでしょうに」
 ばっさり切り捨てるもふら面の男。
「まあ、ありますけどね」
 浪志組の屯所の一つを得たあの時のならず者か、いつか荒事一座として現場を取りさえた時の関係者か、それとも元罪人だった浪志組隊士の連中か……。
 クジュト、くくっと小さく笑った。
「おや、どうしましたか、旦那?」
「いやね。神楽の都に来て、良き縁も増えたけど御免こうむりたい因縁も増えたな、と」
「いいことじゃないすかね」
「まあ、そうかもしれません」
「宴席は、若手貴族たちの屋敷で。その帰りあたりで蛇の目傘の花が開くかもしれません」
「ほぅ、蛇の目傘」
 ん? とクジュトが聞き返す。
「暗殺一座は、雨もないのに蛇の目傘を持ち歩くそうです。……抵抗を高めて状態異常攻撃を防ぐほか、身を隠して必中技からも逃げるようですよ。かなりの手練れです」
「それはまた一座っぽいことで。……ところで、敵の狙いはミラーシ座ですか? それとも私?」
 ここでもふら面の男、一呼吸置いた。
「クジュトさんでしょうねぇ……。何せ、ミラーシ座のメンバーは毎回違うことが多いですから」

 とにかく、貴族邸宅での公演ののち、暗殺一座に襲われる模様。
 宴席を盛り上げ、闇討ちを切り抜けるメンバー、求ム。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
ニーナ・サヴィン(ib0168
19歳・女・吟
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
綺堂 琥鳥(ic1214
16歳・女・ジ


■リプレイ本文


「公演ねぇ」
 ぷか、と煙管をふかしながら脇息に肘を置き、笹倉 靖(ib6125)がしなだれるように座っている。
 ここはミラーシ座の楽屋。
「靖さんは薄化粧、いい感じです。はい、次は眉を塗ります」
 そんな靖に、ミラーシ座長のクジュト・ラブア(iz0230)がせっせと化粧をしている。
「舞も演奏も本業がいるからなぁ……」
 靖、眉を描かれるに任せのんびり。
「これでよし。着崩し方も様になってますよ」
「わあっ。靖、女装がとっても似合うんだぞっ!」
 一仕事終えたクジュト。それを見守っていた天河 ふしぎ(ia1037)がはやし立てる。
「って、ちょっと待て。どうして俺が……こういうのはふしぎでいいんじゃね?」
「ふしぎさんはもう終わりました」
 ごちゃごちゃいう靖に、クジュトがきっぱり。そのわりにふしぎ、中性的な軽い化粧だけで衣装は男性のままだ。
「あたしはおめでたくコミカルな歌を歌うよ!」
 何か不平を言おうとしたが、横から元気にリィムナ・ピサレット(ib5201)が割り込んできてうぐぐ。
「ええ。期待してますよ」
 クジュト、にこにことリィムナの片結いの髪の毛に櫛を入れる。リィムナはローレライの髪飾りをつけ直してうきうきしている。
「それにしても」
 ここで、のんびり座っていたクロウ・カルガギラ(ib6817)がいたずらそうな笑みで口を挟んだ。
「クジュトさんも色々恨み買ってるんだな。そんな風には見えない人だったんだが……」
「何を言ってんですか」
 クジュトが突っ込んだところで、襖がすたん。
「そうよねぇ。ミラーシ座が暗殺集団にライバル視されるとか……人なんか殺した事ないのに」
 ニーナ・サヴィン(ib0168)が隣室での支度を終え、クーナハープを抱いたきらびやかな吟遊詩人衣装で出てきた。
「そりゃそうですよ、ニーナ」
 クジュト、恋人に頷くが……。
「失礼ね、一緒にしてほしくないわ。……物騒な座長の所為よ全部っ」
 ニーナ、びしと指差して指摘して全力でツンした。
「……なんてな、って冗談のつもりだったんだが」
 クロウ、不穏な流れにちょっと責任を感じるがまあ手を貸すんだからいいかとか。
「冗談……」
 この言葉にジプシーの綺堂 琥鳥(ic1214)が反応した。薄い布を両手に持って何かしようとした状態のままクロウの方を向いた。
「お嬢さんがお冗談…」
 琥鳥、靖の方を向いてぼそり。
「だからお嬢さんじゃねーって。女性にだ笑顔を振り撒いたりしようって思ったのに台無しじゃね?」
「あら、大丈夫よ。女装してた方が女性受けするんじゃない? 全部座長が悪いんだけど」
 煙管をくわえるのをやめて琥鳥に抗議する靖だが、今度はニーナから突っ込みが。クジュトの「いや、殺してないから」とかいう言い訳は完全無視だ。
「さーて、国全体に名前が知れ渡る迄に成り上がったあたしがご利益たっぷりに歌うよ〜♪」
「じゃあ、とりあえず歌をバックに踊ってるんだからなっ」
 リィムナも騒ぎを無視して盛り上がる。ふしぎもやる気になっている。
「郷里の音楽や踊りなら俺も何とかなるかな」
「あの〜」
 クロウが言ったところで、申し訳なさそうに襖が開いて女中が告げた。
「ここで盛り上がるより宴席で……そろそろ時間です」
 はたから見れば楽しそうに盛り上がっていたようで。



 そんなこんなで宴もたけなわ。
 若手貴族たちの酒も進んでいる。

♪出世街道まっしぐら〜
 人生楽ばかり〜♪

 舞台でツンツン・テン、とクジュトが爪弾く音に合わせ、リィムナが歌っている。
 背を向けひょいと差し出した南瓜提灯に、「天下雷名」と書かれた小さな懸垂幕が。にまっ、と振り向き微笑するリィムナ。宴席から万雷の拍手が鳴った。
「いやあ、縁起がいいですなぁ」
「左様左様、これからは我らの時代」
 酒を酌み交わし口々にそんな言葉が交わされている。
 見守る若手貴族たちにかなり受けた。

 そんな大部屋の隅では。
「出張鑑定承りー…。鑑定するのはあなたの運命ー…。出張運命鑑定団…」
 琥鳥が水晶玉を前に呼び込んでいる。
「…一人だけど」
「へえっ、楽しそうであるな。では早速、今年の運勢を占ってもらおうかな?」
 物好き貴族がやってきた。
 こくと頷く琥珀。うにゃうにゃと水晶にかざした手を動かす。
「そーとー、いい…。下剋上して総統にー…」
「おお、私の時代が来るのだな!」
 琥鳥さん、焚き付けちゃ駄目ですよ?

 もちろん、酌もちゃんとしている。
「ああら、ニーナちゃんじゃない。何年ぶりかしらねぇ」
 ニーナ、突然おかま風な貴族にちょいちょいと手招きされた。
「あら相変わらず。お元気そうで何より」
「そうそう、ちょっと」
 寄って酌をすると耳を貸せ、と。口を寄せて何か紙を渡す。
「ニーナちゃんが、これは、と思った男性はこの温泉に招待してあげてね」
「へえ、それはどうして?」
 首をかしげるニーナに、しーっと念押ししてからにやり。
「逃げられなくして私たち好みにしてもらえる温泉だからよ」
 なんか恐ろしいことを言った!
「うーん、ミラーシ座に変な噂が立っても問題だしねぇ」
「あら、冗談よ。さすがニーナちゃんは真面目ね」
「どういたしまして。これからも私含めミラーシ座をよしなに♪」
 そんな会話が進む近くで。
「……この席に女性客がいないのはそういう意味か?」
 靖が青くなっている。
 この時、わあっとひときわ大きな歓声が。
「か、変わり身なんだからなっ!」
 クジュトの演奏とリィムナの歌で踊っていたふしぎが「いやん」な格好で上と下を隠していた。先ほどまで着ていたシノビ衣装が周りに散っている。変わり身を披露したようで。
 もちろん素っ裸ではない。ちゃんと着ている。薄くて煽情的な女性用ジプシー衣装だが。
 リィムナは「人生変わり身、成り上がり〜♪」とか歌っている。予定調和のようで。
「いいぞいいぞ〜」
 これを見た、ニーナと話していたおかまっぽい貴族たちが舞台に釘づけになっていた。
「し、仕方ないんだぞっ」
 ふしぎ、汗汗しつつ無理矢理笑顔でキメっ、してから踊り続ける。中性的な軽い化粧を施された意味をかみしめつつ。
「お、恐ろしいな……」
 明らかに熱烈な視線が集まっている様子に、改めて靖が身震いしている。
「靖、合わせとけって」
 これを見たクロウ、周りをしらけさせないよう合いの手の拍手を送りつつ声を掛ける。
「慣れてんな、クロウ」
「ま、付き合い長いしな」
 仕方なく手拍子を合わせる靖だったり。



「いや、良かったですよ。靖さんもふしぎさんも」
 宴も無事に終わって帰り道。クジュトが熱心に話していた。
「べ、別に好きでああしたわけじゃ……」
「俺はふしぎのような恰好はしてね〜し」
 真っ赤になるふしぎ。靖は、後でしっとり巫女舞を踊っただけだ。
「ふしぎさんはあれでばっちり。靖さんはほら、先にクロウさんと琥鳥さんが踊ったでしょ?」
「占い時々踊り子なので踊りも可……。激しい踊りも静かな踊りも任せろー……」
 クジュトの言葉に琥鳥がこくこく。踊るのは好きらしい。
「ま、歌や踊りは専門じゃないが郷里の音楽や踊りなら、な」
 クロウは頭をかきつつ。
「私とニーナで演奏して、琥鳥さんとクロウさんのアル=カマルの踊りは決まってました」
「あの貴族さんたち、ああ見えてしっかりしてるのねぇ。ちゃんと『これは勉強になる』って感心してたし」
 クジュトの説明に、唇に指を添えて思い直すニーナ。「あれだけやましい放しで盛り上がってたのにね」とか。
「やましい話?」
「詳しい話は聞かない方がいいぜ?」
 ん、と聞き返すクジュトをクロウが苦笑しつつ止めた。
「俺、そこにはいね〜じゃん」
「その後でしょ。靖さんの巫女舞。……しみじみと見入ってましたよ」
 ぶーたれた靖だが、説明されて「そうか」と髪ぼりぼり。
「のし上がる野心もあったみたいだし、盛り上がってくれたよね〜」
「いろんな野心の塊みたいだったけどね」
 思い出しつつ言うリィムナ。ニーナは苦笑していたが。
「ま、いいけど……」
 煙管をぷかぷかやりつつ先を急いだ靖。
 その、ぷかぷかの動きが止まった。
「ん?」
 リィムナも気付いた。
 南瓜提灯を巡らせ、柳の木の下に立つ人影に光を当てた。
 瞬間。
――ばっ、ばっ……。
 柳の下で一斉に蛇の目傘が開き、人影たちは自らの身を隠した。
 その数、五つ。
「我ら宵闇傘巻一座。そこなミラーシ座のご一同……」
 誰かが口上を述べると、中央の一人が傘を上げた。隈取り化粧の男性が姿を現す。
「何者だでめえら?」
 クロウの誰何の声。
「死んでいただきます」
 答えるとちょ〜ん、と拍子木がひとつ鳴り、動いたッ!
「殺されてなんか、やらないんだからなっ!」
 ふしぎ、前に出て霊剣「御雷」と妖刀「血刀」を両構えで交差させる。
「来ました、暗殺一座です!」
「蛇の目傘? 面白いじゃん♪」
 続いてクジュトの合図。リィムナが横に膨らみつつ奥へ突っ込む。
「噂の蛇の目暗殺者……。蛇に睨まれても蛙じゃないからなんともない……。女王様と呼ばせてやるー……」
 琥鳥も鞭「インヴィディア」をぴしりとしごいて前に出る。
「クゥ、頼むわよ。私の身を守りなさい」
「深夜の部の公演開始ですね♪」
 ニーナがハープでハイテンションな曲を。クジュトは敵に負けじと紙吹雪を散らす。
「傘に身を隠すって話だっけ?」
 靖はけん制の白霊弾。
 一直線に飛ぶ白い光弾はしかし、敵の掲げた傘に阻まれた。通常、白霊弾としてはありえない防がれ方だ。
 この時、敵の最前衛はすぐ手前に来ていた!



「近寄る奴は相手になるぜ?」
 するりと前に出てきたのは、クロウ。名刀「ズルフィカール」をひらひらと踊らせている。
 その動きに、月明かりがきらり。曲刀がまるでクロウの左半身、敵からの右袈裟をけん制するかのように守っている。その一瞬の軌道は……
「三日月のごとく」
 クロウ、三日月の動きから右上段に曲刀を構えた。それまで守っていた左が開く。
 敵サムライ、この瞬間を待っていたと踏み込んでくるが……
「暗蠍刹!」
 それはクロウの誘いに乗ったも同然の動き。敵の左側面死角から一気に――先ほど描いた三日月を斬るかのごとく右袈裟を一閃した!
「やるじゃない?」
 背後からニーナが美しい音色を当てる。
「天儀流に『三日月殺法』ってとこだな」
 クロウの声と同時に敵は倒れた。

「傘は、くるくる上に茶釜でも載せて回してる方が、平和的なんだぞ」
 ひら、と三角跳で宙に舞っているのはふしぎ。敵の傘越しの五月雨をこれでかわした。
 すたん、と敵後背に着地する。
 振り向きまずは傘を掲げるところ、夜。先んじて懐に入って跳ねあげた。
「その傘の動き、見切ったんだぞ!」
 傘が舞った。敵の手が……いつの間にか鞘に収まっている刀の柄に伸びる。
「志士の技なら、ある程度僕も覚えているんだからなっ!」
 敵、目を見開いた。雪折りを狙っていたのだが体が動かない。
「いまのが餓縁だッ!」
 敵の技を封じて、斬る。
 ふしぎの剣を受けた敵は戦意をなくし逃げを打った。

 こちらは、敵に仕掛けていった琥鳥。
「抜けば玉散る氷の刃。寄らば叩いて斬る…。…寄らなくても叩いて斬る…」
 呟きつつ、敵の陰陽師に。
 この時。
 ――するする、ぴしっ!
 細長いものが伸びて捕まえる音がした。
 琥鳥、大地から突然現れた蔦に足を絡まれていた。
 同時に、琥鳥の放った鞭が敵の掲げた傘の持ち手に絡んでいる。
 相打ち、だ。
 距離を保てれば良いという考えの敵は余裕の笑みをたたえている。
 が。
「あなたの運命、占う…?占うまでもなくお先真っ暗、何も見えないという結果だけど…」
 琥鳥も慌てた風もない。
 ぐいっと鞭を引き寄せる。
 これぞマノラティの極意。
「くそっ」
「一緒に踊る…?」
 敵、引き寄せられるに任せナイフで突いてくるが、琥鳥は舞うような円運動でかわし逆にナイフを突き立てる。

 一方、敵陣最奥。
「はっ!」
「もう遅いよ」
 白霊弾を撃ったり味方を回復援護していた敵が横を見た時、そこにはリィムナが立っていた。
 リィムナが微笑すると分身が姿を現した。無限ノ鏡像だ。
「このっ!」
 敵の反応もいい。白霊力弾がリィムナを襲う。
「おらおらおらっ!」
 分身は三段突き。もう一体分身が発生したがすでに敵は崩れている。最初の分身も消えていた。
「いいもの手に入れた♪」
 リィムナ、敵の手放した蛇の目傘を手ににこにこしている。

 そして、靖。
「傘に身を隠させなきゃいいんだろ?」
 最初の一発を撃った後、横に移動していた。
 角度をつけて最初に狙った敵にもう一度白霊弾。これも傘でかわされた。
「これならどうよ?」
 三発目はかなり角度をつけている。これで傘をこちらにかざすのなら正面が完全にお留守となる。
 が、敵が消えた。
 三角跳だ。
 すとん、と背後に着地された。敵の攻撃が来る。
「おっ、と」
 靖、遠くからのニーナの演奏が耳に入っている。
 敵の攻撃にナイフを抜いて受け流す。体は半歩右後ろへ。さらに敵が出る。これは月歩で下がり捌く。まるで、先の宴席で踊ったような動きだ。その時はナイフと扇を持っていたが、と苦笑する。
(そういや一応、クジュト狙いなんだよなこいつらって)
 踊りながら思い出した。
「そっちの狙いはこの男でしょ、置いていくから好きにしなさい。でも顔は売り物だから傷つけないでねー」
 思った瞬間、遠くからそんなニーナの声を聞いた。
「おいおい」
 靖が思わず呟いた時。
「敵の数は減った、連携しろ!」
 クロウの声が響いた。さらに短銃を撃ち鳴らす。
 はっ、と戦場の誰もが冷静になった。すでに敵は二人倒れている。
「今宵はここまでっ!」
 敵の声も響き、急いで引いていった。
 残った敵は薬何かで自害していた。



 で、希儀風酒場「アウラ・パトリダ」。
「クジュトって疫病神的な……憑いてんじゃね?」
「まったく。貴方、身を隠してた期間、意味なかったんじゃ?」
 酒を片手に眉を顰める靖がクジュトの方を向くと、ニーナもやれやれねな感じで視線を向ける。
「だったら、靖さんの巫女舞で厄払いしてほしいですね」
 仕方ないでしょ、な感じで酒をあおるクジュト。
「……払っても呼び込むんじゃ意味ねぇよ?」
「もう、そういう星の下と開き直るしかないわね」
 けらけら笑う靖。ニーナの方は仕方ないわね、と控えめにくすっ。
「へえ、そんなことがあったんだ?」
「傘は面白かったんだぞ。今度宴席で踊るならひらひらした服の早変わりじゃなくて……あわわ」
 店主のビオスに聞かれ、ふしぎが余計なことまで言った、と口を押える。
「嵩にかかってきただけに、傘を取るとあっけない…」
「で、その傘はどうだった?」
 琥鳥がぼそりと言い、クロウが振り向く。
 そこには、敵から奪った傘を調べていたリィムナがいた。
「……内側に糸が何本も垂れているだけで何の変哲もない傘みたい」
 残念そうなリィムナ。
 何か特定個人にだけ作用する工夫があったのだろう。