南那〜九頭龍が来る!
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/02/28 23:22



■オープニング本文

 ここは泰国南西部、南那――。
「九頭龍か……」
 新たな開拓者街「開窓」で、親衛隊長の瞬膳(シュンゼン)はため息をついた。
「その名前が正しいのかどうかは知りませんがね」
 向かいに座る、部下の論利(ロンリ)が珈琲を飲みながら応じた。
 現在瞬膳たち南那親衛隊は、西の「防壁の森」征伐に力を入れていた。
 防壁の森は、専守防衛を基本方針とする南那の西側に広がる森林地帯である。魔の森ではないが、アヤカシが巣食っているため突破は困難とされている。古くは侵略側が奇襲をしようと分け入ることも多く、そのいずれもが失敗している。さらにアヤカシが増える原因となった。
「紅風馬軍が防壁の森を突破したときは、どうだった?」
 瞬膳がテーブルに身を乗り出して聞いてきた。
 論利、顔をしかめた。
「いましたよ。……ボスの山千(サンセン)が咄嗟に逃げるよう指揮したのでほとんど戦ってないですけどね」
「あの好戦的な山千が?」
 瞬膳、意外そうな顔をした。
「いまのアンタと違うのは、紅風馬軍は突破すればいいだけ。あんなのまともに相手をしませんよ。それでも逃げる間に数人餌食になりましたけどね」
「やっぱり長い獅子舞のような姿だったか?」
「ええ。間違いなく」
 論理の言葉にうなずく瞬膳。
 やはり、雪切・真世(iz0135)たち英雄部隊が目撃した敵に間違いはない。
「ただし!」
 ここで語気を強める論利。
「情報は錯そうしています。人を丸呑みできるほどの龍の頭を持ちますが、獅子舞の胴体部分からそれが八つ出てきます。いずれも頭だけで胴体はありません。突撃体当たりやかみつきをすると思われますが……それぞれ色が違います」
 いいですか、と紙を取り出し筆を走らせる。

・銀龍…一直線の氷の息を吐く
・赤龍…炎をまとい体当たり
・金龍…?
・黒龍…?
・青龍…?
・緑龍…?
・黄龍…?
・桃龍…?
・白龍…?
※戦場では「氷のブレス」、「炎の体当たり」の他、
「擬人化」
「回復波動」
「放電」
「周囲の暗闇化」
「全周振動」
「毒の霧」
「姿を消す」
 の現象を確認。一体に一つの特殊能力があるとみられる

 以上の情報を書き連ねた。
「……これが、紅風馬軍が少なくない被害を出して逃げ出し、後から目撃したり体験した情報をまとめたもの。今まで黙っていたのは、この情報は紅風馬軍の財産だから。本来なら相当高い値段で売れるはずだから。……もちろん、仲間を失った身としては――仲間から見捨てられた身だけどね――とにかく、あの混乱した戦場で散っていった仲間をないがしろにしたくないからだ!」
 最後に、どすん、とテーブルを叩いた。口にしてはいけない、昔の仲間の大切な情報を、今は大切にしている組織とはいえ、言わざるを得ないと判断した、その葛藤にイラついているのだ。
「ありがとう。感謝します」
 瞬膳は身を正し、ただの部下でしかない論利に深々と頭を下げた。丁寧に、そして思いを込めて。
「言っておきますけどね、紅風馬軍もその気になればきっと倒すことができた。……でも、それは目的が違う。代わりにこれを倒せるのは真世さんたちのいる『英雄部隊』だけですよ。紅風馬軍の他には。親衛隊なんかで倒せるわけが……」
 論利、ここまで言ってはっとした。
 感情に流されすぎて口にすべきでないことまで言ってしまったのだ。
「いいよ」
 しかし、瞬膳の言葉は優しかった。
「倒せる倒せないじゃない。紅風馬軍は倒す目的ではなかった。そして、我々親衛隊も倒せる倒せないではなく、倒すことを目的にしてはならない。……これが市街地に出れば話は別だけどね」
 これを聞いて、今度は論利が深々と頭を下げた。丁寧に、そして感謝の気持ちを込めて。
「九つの竜頭が一度に襲ってくるわけか……一つひとつの強さはどうだろう?」
「強いなら群れる必要はなし。群れているから強いんだという認識ですね」
「逆に言うと、どんな敵でも柔軟に戦えるようになっている……か」
 おそらく、一体の強さはそこまでではないはず、との見解だ。
「英雄部隊……いや、深夜真世部隊に任せよう」
 瞬膳、開拓者を呼ぶ手筈をする。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
猫宮 京香(ib0927
25歳・女・弓
龍水仙 凪沙(ib5119
19歳・女・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
愛染 有人(ib8593
15歳・男・砲


■リプレイ本文


 ここは防壁の森の中、駐屯地。
「次から次にいろいろなアヤカシが出てきますね〜」
 猫宮 京香(ib0927)がすらりと立ったままにこにこと微笑んでいる。
「九つ頭の龍……か」
 隣に座り爆連銃の手入れをしていた愛染 有人(ib8593)がぼんやりとつぶやく。
「またおかしな敵が居た物です」
 そう続けたのは有人の相棒で翼妖精の「颯」。
「……というか首だけだと微妙にシュールですよ〜?」
 京香の方は変わらずにこにこ。ただし、手入れしていたゲイルクロスボウの先がきら〜ん☆と鋭く陽光を跳ねているのだが。
「京香さんも微妙にツンツンしてるような……」
 これを見た雪切・真世(iz0135)は、殺る気だ、と汗たら〜。
 その時。
「いよいよ真打登場ですか!」
「きゃん!」
 真世の悲鳴は、背後からアーシャ・エルダー(ib0054)に抱き着かれたから。
「真世さんったら透夜さんとラブいちゃしてもいいけども私にもはぐだきゅさせてくださいね〜」
 アーシャ、そのまま真世をはぐはぐすりすり。
 そんな、やんやんきゃいきゃいしている二人を見ている人物が。
「……いつもラブいちゃしてるの?」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)、二人から視線を外し真世の旦那である雪切・透夜(ib0135)に聞いてみた。
「あー、どうですかねぇ」
『主よ、とぼけたか……』
 透夜、しらばっくれた。相棒のオートマトン「ヴァイス」は『このような苦労をいつもしているのだろうか?』な視線を送っていたり。
『め、珍しくいたずらに参加しない……』
 そう呟いたのは、リィムナの相棒、上級人妖「エイルアード」。少年の出で立ちをした彼ははっとしたように少女のような丸い目を見開いていた。
『どこの相棒も苦労しておるようじゃの』
 この様子にしみじみとそんな声を漏らしているのは、管狐の「たまも」。優雅にふさふさ尻尾を揺らしている。
「それより九頭龍、きっちり撃破するよ。相棒の『たまも』ちゃんと一緒に!」
 たまもの主人、龍水仙 凪沙(ib5119)が細身の体で元気よく手を伸ばす。うさ耳も、ぴーん。
『ええい、じゃから、たまもだと何度も……あ』
 おや。
 たまも、まるでいつものように「たまちゃん」と言われたように突っ込んだが……。凪沙はしてやったりとにやにや流し目。『くっ、お、おのれ……』とか体を震わせすたまも。
「頭が九つでお得感ってかい? 数が多いってのはいいねえ」
 そんなたまもはさておき、アルバルク(ib6635)がぼさぼさ髪をかいてたり。
「得か? しかも特殊能力を九つも持つとか。贅沢なこった。七つにしとけよ」
 これにはクロウ・カルガギラ(ib6817)が眉をしかめて突っ込む。
「まあ、おまけみたいなもんだろ? よし働けリプス」
「おまけなら酒場だけにしてほしいぜ」
「そりゃそうだ」
『待っておじさん。最近ボクにちょーっと甘え過ぎだよね。僕が可愛くって面倒見がよくって強いのはわかるけどー』
 楽しくクロウと会話するアルバルクだが、彼の相棒の翼妖精「リプス」はしれっと混ぜた一言をしっかり聞いていた。目の前に飛んで移動しお尻を上げて人差し指を立てて会話に割り込む。
「はっはっは……そりゃナインってな」
『どれがさ?』
「おまけなら甘いものでもいいんだぞっ。ちゃんとひみつをつ……」
 アルバルクとリプスの会話に今度は天河 ふしぎ(ia1037)が割り込んだのだが……。
『ふしぎ兄と一緒に、九頭龍と言う化け物を倒すのじゃ!』
 ふしぎの相棒、天妖「天河 ひみつ」がふしぎのほっぺをぶぎゅる、と押し退け元気いっぱいに話す。
『頭の数が多いだけの龍なんて、妾とふしぎ兄の敵ではない…それに、久しぶりにふしぎ兄とお出かけ、楽しみなのじゃ♪』
 ひみつ、しゃべるしゃべる。ふしぎはセリフをすべて取られてあうあうぱくぱく。
 この様子を見ていた有人は颯を見上げた。
「当てにしてるんだから」
『颯におまかせですの!』
 颯、胸ドン。
「あらあら、にぎやかですね〜」
「にぎやかだよなぁ」
 京香、相棒の霊騎「千歳」をなでなでしながらにこにこ。クロウも寄ってきた翔馬「プラティン」の首筋を撫でてやりつつ騒動を見守る。
「真世さん、透夜さんはどうなんですか?」
「ええと」
 うにゅり、と真世の背後から顔を出すアーシャ。真世の顔を見てから一緒に透夜とヴァイスを見る。
「普通ですっ」
『主と我は普通だ』
 強調する透夜。ヴァイスはぷい、とかしながらぼそり。
「あたしたちも普通だよね〜。さ、奥義のお披露目も兼ねてサクッとやっちゃおう♪」
『あ、は……はい!』
 リィムナとエイルアードは顔を合わせて頷く。
「とにかく3班に分かれて行くわよっ!」
 凪沙、いい加減出発だからと拳を上げる。
「うーっし仕事だぜー」
『どれがさ!?』
「まだやってるのかよ……」
 アルバルクとリプスに呆れるクロウ。
 アーシャは戦馬「テパ」に、真世は霊騎「静日向」に乗って、とにかく現地へ向かう。



 英雄部隊は一団となって慎重に前進していた。
「前に戦ったあたりから結構奥に来たね」
 静日向に騎乗した真世が振り返る。
「仕方ないわね。ここからは各班距離を取って前進するしかないわね」
 凪沙がすぐに指示を出す。敵はでかい。痕跡が見つかればそこを辿るなどができる。
「鳥や獣の気配がない。もう縄張りだ。……いくぜ?」
「お? おう。了解了解」
 プラティンの手綱の左を引き締めたクロウ、左翼に開きながらアルバルクを促す。
「エイル、瘴気結界しとく?」
『射程が短いですから』
 リィムナもエイルアードを伴い続いた。
 一方、凪沙。
「じゃ、右かしらね〜。敵に包囲されても洒落にならないし」
「ですね〜♪ 能力がわからないですが、色から想像出来る一番厄介そうな黒いのから倒してしまいましょう〜♪」
 千歳に揺られながら凪沙と右に開く京香。
「ですよねっ、京香さん。回復や支援タイプの龍から……黒龍がきっと暗闇ですよね? そして白龍が姿を消すんじゃないですかね」
 テパを急かし千歳に並ばせるアーシャ。敵の話題で盛り上がる。
『妾らはまっすぐ行くのじゃ!』
「そうですね。手っ取り早くていい」
 びしり、と前を指差すひみつ。透夜はこれに頷き直進する。
「ふしぎさん?」
「べ、別にひみつに先に言われたとかじゃないんだからな、真世」
 真世は口を開けて固まっていたふしぎを気にする。ふしぎは、ツン。
「颯、わかってるね?」
『付かず離れずの距離を保って敵の射程外まで上昇しない、ですの』
 最後尾の有人は颯に手筈の確認。力強く頷く颯。
 その時だった。
「音がする」
 ぴた、と透夜が止まった。
 そしてフードを深くかぶった。ぐっと額の位置から押し下げた手の奥で温厚そうだった瞳が鋭く前を見据える。
「……出るぞ、ヴァイス。手早く始末する」
『そこまでの相手か。戦時の主は怖くて敵わぬぞ?』
「俺とて普段の方が好みだがな。が、それは……」
 口調も変わった。戦闘準備するヴァイスを振り返ったところで一瞬瞳に温もりが戻る。
「終えてから。……真世にヴァイス、背中は頼んだぞ」
 それだけ言うと鋭い瞳で前を向き、全速で走った。
『委細承知。心行くまで剣を振るわれよ』
「透夜だけじゃないんだからなっ!」
 見送るヴァイスを抜き、ふしぎも鋭く前に出る。
『妾が援護するのじゃ』
 ひみつも行く。
「真世さん、狙撃ならこっちです」
 有人は位置取りに集中。真世とヴァイスを連れて射線が味方に被らないようずれる。
 この時にはもう、かなり前方に不気味に移動する龍の背が見えていた。
 いや、消えた。
 一瞬沈んで低木に身を隠したのだ。
――どっ、ぱ〜ん!
 次の瞬間、銀龍の頭が大きく跳ねて姿を現した!
 恐ろしい形相の大きな頭が威圧感たっぷりに口を開くと、一直線に氷のブレスを吐き出した。
「けん制のつもりか?」
 透夜の掲げた盾が一瞬で巨大なオーラの障壁を成す。がががっ、とブレスの大半を止めた。
「ひみつ! ここは龍に力を出させて様子を見るんだからなっ!」
『もちろんなのじゃ』
 ブレスが去った後、透夜の背後からふしぎとひみつが左右に分かれて出てきた。
 それは龍も同じだッ!
 胴体と思われた部分がふわりと布のように舞うと、その中から八つの龍頭が飛び出し左右からふしぎたちを包み込もうとしているのだ。

「おい……敵さん、包囲狙ってねぇか?」
「止めるだけだな!」
 左翼、アルバルクが眉を顰めクロウが叫ぶ。二人して中央に向かって絞った。
 対して、赤龍が開いてきている。桃龍、青龍がこれに続く。
 もちろん、リィムナはこれをばっちり観察している。

「最初から飛ばすわよ。『たまも』ちゃん、合体!」
『……わかった、わかった。名前を強調するでない』
 右翼は凪沙がたまもと焔纏合体。燃える装甲戦うウサギ獣人、凪沙の爆誕だっ。
 対して、黒龍と金龍が来ている。
「黒龍、来ましたね!」
「射程に入り次第一発撃ち込みますよ〜!」
 アーシャが松明片手にアックス「ラビリス」を掲げて突っ込み、京香がクロスボウを構える。

 こちら、中央後方。
「よし、狙える」
 灌木の影にダイブして転がり、ぴたと膝立ちし爆連銃を構える有人が手ごたえをつかんだ。
 乗馬している真世と今の動きで完全に離れ身を隠すことに成功。あとは狙い放題。
「あっ!」
 ところがここで真世の声。
 戦況が一気に動いたのだッ!



「一匹上から跳ねて来てる!」
――どし……ん。
 咄嗟に狙いを変えて撃った真世の至近に黄龍の巨体がつるべ落とし。泰拳士の技のように全周に黄色い波動をまき散らした。全員がこの衝撃にさらされる。
 黄龍、さらに真世を狙う。
「もらった!」
 有人の爆連銃が火を噴いた。一瞬動きを止めた黄龍は、ぎらんと有人をやぶにらみした。
 来るっ。狙いを変えた、速いッ!
『あると様の元へは行かせません!』
 颯が青い髪を振り乱し、威嚇狙いで身をひねりながら一直線に飛ぶ。右前腕部に固定した漆黒のデーモンズソードがまがまがしく光る。
「こっちへ来るなら!」
 すべては一瞬。
 黄龍の体当たりは颯の刃を受けたまま有人に命中。
「零距離、獲った!」
 声と同時に爆音が響く。
 有人が銃剣刺突と同時に二射目を見舞ったのだ!
――ぶるん。
 これを受けた黄龍、勢いで通過したもののきききと止まり振り向いた。片目が刺突射撃でつぶれている。
 その目で捨て身の一撃で吹っ飛んだ有人を狙うが、ぶるんと首を振ってやめた。透明化した颯がしつこく攻撃しているのだ。真世も反転して撃っている。これを嫌って黄龍再び跳躍。
――どしん……。
 またも真世付近に着地し全周攻撃を繰り出す。

 一発目の波動が広がった直前、左翼では。
「あー、めんどくせーのが来ちまったなぁ」
 先に仕留めたいのはこいつじゃないんだが、とぼやくアルバルクの宝珠銃「軍人」が火を噴く。
 が、狙った赤龍の火を纏った突撃は止まらない。狙っているのは馬に乗って目立つ、クロウ!
「プラティン!」
 叫んだクロウに反応し、翼を波打たせ宙に浮くプラティン。至近で突撃をかわす。
 かわしながら鞍上でまずは一発、宝珠銃「ネルガル」をカウンターでぶっ放す。ついでに装填しつつ身をひねり通過した敵の背後にもう一発。
「さあ、俺を狙えよ……うわっ!」
 着地と同時に味方のために的になろうとしたが、着地と同時に一発目の波動が来た。

 そのちょい前。
「出番だぜ?」
『ヘイここで登場働く妖精ー相棒のおじさんを連れて参戦ー』
 アルバルクの声でひらり躍り出たリプス、赤龍の次に来た桃龍に相棒魔槍砲「ピナカ」をどぉん。
 同時に、一発目の衝撃どん。
「おわっ、と」
『どの首がどれとかボクわかんな……ちょっとおじさんこれ!』
 着弾した桃龍。なんと桃色のげっぷをした。
 もわわん、と毒々しい桃色の瘴気が広がる。明らかに毒だ。
「うわっ!」
 間髪入れず青龍が突撃してきた。クロウとプラティン、背後からの攻撃につんのめる。
 同時に青い波のような瘴気が全周に広がった。瘴気回復波動だ。

 時は少し遡り、リィムナ。赤龍が最大突出した時点で。
「エイル! 奥義、いくよ!」
『は、はいっ』
 声と同時に戦線後方で分身。「無限ノ鏡像」だ。さらに同時に二人で怨霊の式神を赤龍にぶち込む。
――がはっ!
 赤龍、びくんと顎を上げるとそのまま横に倒れて動かなくなった。
『や、やりましたね……わっ!』
 主人を回復していたエイルだが、ここで一発目の波動が来た。間髪入れずに桃色瘴気と瘴気回復波動。
「遅いよね。回復役もこれで青龍だって分かったし……」
『た、大変。解毒しても桃色のこれを晴らさないと回復しないです』
 次なる標的を定めたリィムナだが、エイルからの声を聞き構えを解く。
 ここで右方向で闇が発生したことに気付く。

 一発目の波動の前、右翼。
 黒龍と金龍が巧みに木々に隠れながら蛇行し迫っていた。
「そんなことしても全身は隠れないし、無駄だけどなぁ」
 凪沙、陰陽師として構えた四神剣を拠り所に毒蟲を放つ。
 さらに凪沙の後方、馬上の京香、がくんがくんと移動で揺れるも無我の境地でたおやかな笑みを浮かべている。いや、一種のトランス状態。月涙だ。
「障害物があってもこれなら関係ないのです〜!」
 京香、隠れる敵に構わずクロスボウを構え撃った!
 放たれた矢は薄緑色の気を纏い枝はもちろん幹すらも不思議なことにすり抜けて……。
『がふっ!』
 幹に隠れた時の黒龍に激しく命中。動きを止めた。
 が、金龍はこれで早めに仕掛けてきた。
 ざっ、と跳躍する。
「飛んできましたね〜っ!」
 機敏に反応したのはアーシャ。テパで一気に着地点に到達する。
――ばりっ、ずぱっ!
 着地間際の放電と、長柄の遠心力を利用した斧の流し斬り。
「たまもちゃん、耐えるわよっ!」
 凪沙は相棒の炎の防具を信じ、攻撃に専念。目突鴉を放つ。
「あらあら、もう出てきて……。新しく覚えた技ですし、試しにまだまだ使いたいのに〜」
 京香は放電射程外。さらに撃ち込む。
 が、ここで一発目の波動が。毒はここまでは来ない。
 代わりに……。
「あっ!」
 アーシャの短い叫びとともに、周囲が闇に閉じた。

「あっ!」
 こちらは、中央に残っていた緑龍に突っ込んだふしぎとひみつの声。
 斬撃符を食らった敵の姿が消え、ひみつの相棒斧「ウコンバサラ」が空を切ったのだ。
 そして後背からの衝撃。その後に、闇が訪れた。



 どしん、と二発目の全周波動が響いた時。
「真世!」
『主よ、敵が消えたぞ』
「透夜、きっと行ったんだぞ!」
 中央引き気味の透夜が嫁の悲鳴を聞き振り返ると同時にヴァイスとふしぎの声。直後にざざざと背後から何かが近寄る音。
「くそっ!」
 半身になったところに見えない巨体が体当たり。すぐさま何かを取り出しぶちまける透夜。
 そこで闇か訪れた。
 すぐさま暗視を使った透夜。
「真世!」
 落馬した嫁のそばにいる黄龍に向かい走る!
 暗闇化の影響で一瞬止まっていた黄龍も透夜に気付いた。体当たりで来る。
 透夜、構えた太刀「鬼神大王」を力いっぱい引きシールドを前に。
「シルト全開っ」
 盾を中心に展開するオーラ。敵の突進を止めたッ。最後の一つの目に太刀を突く。
 そしてッ!
「……悪いが幕引きだ。白雪と散れッ!」
 口の中で誓いを呟くと体重を乗せて突き切る。そして、薙いだ。
 さらり、と眼窩から塩と化し黄龍は力尽きた。

 その少し前、左翼。
『真っ暗とかめんどくさしーおじさん光をもっと光を! 閃光プリーズ』
 リプス、桃龍に相棒剣「ゴールデンフェザー」を突き刺したまでは良かったが、毒を吐いた後、闇の中に逃げ込んでしまった。
「あいよ、釣りはいらねーぜ?」
 これを聞いた闇の外のアルバルク。閃光練弾をぶっ放した。リプスと桃龍が闇に浮かぶ。
『みんな、毒はこいつだよ〜。この輝ける聖槍とお掃除さ!』
 リプス、周りに一斉清掃……もとい一斉攻撃を呼びかける。
『行ってきますの!』
『颯、合わせるのじゃ!』
 左右からデーモンズソードの颯、相棒斧のひみつが詰めてきた。
 相棒トライアングル、ここに完成!
 しかもアルバルク、有人、ふしぎの援護射撃が着弾。びくりと桃龍が仰け反った。
 ここで閃光は消える。
「清掃ってかい!」
『そうだね、おじさん! ゴールデンタイムな妖精剣技をくらうがいーいー』
『颯におまかせですの!』
『くらえ、人妖トマホーク!』
 リプスと颯とひみつの声が響き、ごふっと音がした。
 桃龍、ここに潰える。

 時は戻り、闇に閉じた時の右翼。
「真世さんは私が守ります。中央には行かせませんよ〜っ!」
 闇の中に浮かんだ松明は、アーシャ。光を灯して黒龍が方向転換し、真世に突撃をかましていたのに気付いた。正義と真実に対する誓いを立てると瞬間移動のように真世の前に盾を構えて立ちふさがり、黒龍の突撃を……止めたッ!
「黒龍からでしたよね〜。うふふふ……」
 とすとすっ、と京香からの矢が立つ。
「金龍より回復役は……」
 凪沙は目突鴉を放ちつつ敵陣営を再確認。
「あはは、ちょっと大きいの撃ち込みますので気をつけてくださいね〜♪ そこ、串刺しなのですよ〜!」
「真っ二つです!」
 今度は千歳のステップで射線を確保した京香が烈射「天狼星」。とどめにアーシャが大上段から斧でばっさり。黒龍の額を割りノックアウト。
「いた。青龍、ふしぎさんの方に!」
「ふしぎさん、そっちに透明なの行きました!」
 解毒符を使っていた凪沙と透夜の声が被る。
『青龍……任せよ』
「やはり回復からでしょうね」
 ヴァイスと有人の射線が青龍に集中。
「しょうがねえ」
 アルバルクも黄金短筒に持ち替え青龍と並走。一発撃つと止まった青龍。口を開いて襲ってくるが……。
「砂迅騎ってのは……」
 ウィマラサースで次弾装填し、ずどん。
『なんだよ、おじさん』
「さあな?」
 遠くリプスの突っ込みを無視して力尽きた青龍を見るアルバルク。

 この少し前。
 すとん、とエイルの前に翔馬が下りた。
「すまんが解毒を頼む」
『あ、はい』
 クロウ、それだけ言うとすぐにプラティンを走らせた。
「ありがとう。それだけの働きはするぜ!」
 すぐにネルガルを放つ。金龍が迫っていたのだ。
 銃で積極的に向かっていく姿に目を丸くするエイル。ウィマラサースで連射し、しかも……
「これが、飛鷲襲」
 クロウ、放電より体当たりを選択した敵に圧倒的手数で撃ち倒した。
 が、この時冷気ブレスが一直線。
『だ、大丈夫?』
 食らったエイル、振り返る。
「もう終わったよ」
 リィムナももちろん食らっていたが再び分身して銀龍を滅していた。

 この冷気ブレスをかわした者がいる。
「千歳、いいですね〜。ん、射撃、今です〜!」
 京香、ここまで移動していた。
 何を撃ったかというと……
『我らが九龍部隊、このようなところで……』
「はっ!」
 隠れていた有人の隣に、古い泰国軍人のような男が立ち振りかぶっていたのだ。
『あると様』
「この……」
 京香の射撃と颯の相棒銃、そして突き上げた有人の刺突射撃を受け、軍人は仰け反った。
 そして白龍の姿に戻る。
「たまもちゃん、力を貸してよね」
 ざざざ、と炎の鎧をまとったままの凪沙が流れて来て威力を上げた斬撃符。矢と射撃も集中し、これで滅した。

 一方、ふしぎ。
「もう逃さないんだからなっ」
 消し炭のマーキングの突撃に吹っ飛ばされながらも振り向く。瞳の闘志は衰えていない。
「唸れ霊剣、今僕は蒼き流星になる!」
 その半身の体勢から、通り過ぎた敵を一気に追う跳躍を見せたッ!
 ざしゅっ。
「これが天歌流星斬……なんだぞ」
 着地したふしぎが立ち上がる。
 背後では緑龍が姿を現しごろんと力なく倒れていた。



「よっ、と」
 最後に、胴体の抜け殻を発見したクロウが剣で突き刺した。
「九龍部隊と言っていました」
 有人が隣に立ち呟く。
「矢のように駆け抜けてたのかもですね〜」
 防御より攻撃の、短い烈火のような攻防を思い出しつつ京香は言うのだった。