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■オープニング本文 「よ〜し。いつものように夜間航行はせず、森の泉に停泊するぞ」 ここは天儀の、武天国のどこか。 ある商用中型飛空船が日暮れ前に、森の中の湖に着水した。このままここで夜を過ごすようだ。 飛空船は一般的に、それこそ食料や水などがあれば四六時中飛んでいることができるといわれている。 もっとも、それに加えて乗組員が二交代で常時飛空船を運用することも必要条件になってくるが。このあたり、海を行く船と変わらない。視界がはっきりしない雲の多い夜などは山腹への衝突などの危険も付きまとう。無理せずに下ろして休む、ということも人員運用上、とても大切なことだ。 そして今着水した森の中の湖も重要な休憩場所で、この付近を航行する飛空船に重宝されていた。 「しかし、冬で湖面が凍ったらどうなるのかな?」 「そんときゃ氷の上に着陸すればいいじゃねぇか。氷が敗れても問題ないんだし」 甲板では停泊作業の終わった甲板員が冬ならではの話題を交わし、緊張を解いていた。 その時だった。 ――ばさっ、ばさっ! 「う、うわあっ! 翼のある鬼じゃあ!」 背中にある氷の翼で羽ばたく氷鬼が森から飛んできたのを目の当たりにした甲板員が恐怖の叫びをあげる。 「宝珠、吹かせ!」 「無理です。たった今機関停止しました! すぐには起動できません」 「ちっくしょう、空賊もいないんで護衛は全く……うわああっ!」 森の奥の湖の惨劇は、どこからも助けの手は伸びない。 アヤカシ「飛空氷鬼」八匹によって乗組員全員が犠牲となり、飛空船は手慰みにぼろぼろにされた。 後日、神楽の都は珈琲茶屋・南那亭で。 「まあ、その空域で翼のあるアヤカシの目撃情報が出始めていたんではあるがな」 中型飛空船「チョコレート・ハウス」の副艦長、八幡島がうまそうに珈琲を飲みながら言った。 「それで、湖にボロボロになった飛空船が残されてるだけで状況が分かるんだね」 向かいに座るチョコレート・ハウス艦長のコクリ・コクル(iz0150)が納得する。 「で、そのアヤカシはいつも出るってわけじゃねぇらしい。戦闘できる船が周囲を低空で飛んでも奴らは襲ってこなかったし、見つけることはできなかった」 つまり奴らは、湖に着水して機関停止したところを狙う狩りをしてるわけだな、と八幡島。 「戦闘船は着水しなかったの?」 コクリ、不思議そうに聞く。 「着水したさ。出てくりゃ地獄に逆落とし、ってな心意気でな」 襲わせておいて反撃するつもりだったが、それでも敵は出てこなかったという。 「もしかして、もうそこにはいないかもだよ?」 「一理あるな、コクリの嬢ちゃん。……が、その後一般商船が着水したら襲ってきやがった」 八幡島は苦々しそうに言うがもちろん、珈琲の苦さに顔をしかめているわけではない。 もちろん、一般商船は「襲ってくるかも」という警戒はしていたので機関停止を遅らせていた。それで、逃げることに成功したらしい。 「敵が武装船と一般商船をちゃんと選別してるって話だ」 「だったら、偽装船で着水して襲わせて返り討ちにすればいいんだね」 コクリ、納得して身を乗り出した。 「そういうこと。で、毎度のことながら俺たちに打診が来たわけだ。……やるか、艦長? あっち航路は俺たちで言えば希儀路線。この依頼を成功させれば、航路組合の中でも発言力は上がるぜ」 「商売もだけど、困ってる人を放っておくことはできないよ」 ちら、と様子を見つつ珈琲を飲んで知らんふりしつつ話を振る八幡島。立ち上がって使命に瞳を輝かすコクリを見て、嬉しそうにするのだった。 というわけで、囮作戦をするチョコレート・ハウスの対空迎撃作戦に参加してもらえる人材、求ム。 |
■参加者一覧
海神 江流(ia0800)
28歳・男・志
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟 |
■リプレイ本文 ● 夕暮れ前の空。 低い太陽を横目に、中型飛空船「チョコレート・ハウス」が飛ぶ。 「もうすぐ夕焼けにゃね〜」 甲板の船縁に立つ猫宮・千佳(ib0045)がわくわくしながら横にいるコクリ・コクル(iz0150)に身を寄せた。 「うん。前は渡りの蝶々を見に行ったこともあるんだよ」 「いつかあたしも見に行きたいにゃ」 『……その時は確か海に行ってたにゃ』 懐かしそうに話すコクリの横顔を見て千佳が盛り上がる。が、彼女の頭上の仙猫「百乃」はぶるると身震いして乗り気ではない。というか、いま空を飛んでいることにも落ち着かなそうだったり。 「いつかまた一緒にいくにゃ♪」 「へぇ。そんな冒険もしてたんだな」 目をキラキラさせる千佳の反対側には、海神 江流(ia0800)が船縁に背中を預けてだら〜んとしていた。 「地上の冒険が終わった後は、ボクも結構だら〜んとしてたけどね☆」 「おい、まるでいま僕がだら〜んとしてるのような……」 コクリのいいように江流がばりと身を起こす。 『似たようなもの』 そんな様子に、江流の向こうでオートマトンの「波美−ナミ−」がくすくす。 江流はそっぽを向いたが、そちらにはリューリャ・ドラッケン(ia8037)がいた。 「まあ、今はしっかり見張りをしような?」 少し離れた場所で真面目に索敵していたリューリャ、口調優しく諭す。 「あたしは百乃がちゃんと見張ってたにゃ♪」 千佳はにゃふんと胸を張る。頭の上の百乃はおひげへにょ、な感じだが。 「はいはい。しかし、事前の動きが見て取れないねぇ」 「やっぱりチョコレートハウスも警戒されてるのかな?」 再び周りに目を転じるリューリャ。そこにケイウス=アルカーム(ib7387)がやってくる。 「単独航行を見逃す敵かね?」 考え込むリューリャ。 それはそれとして。 「未だに船の名前とは思えん」 『……センスが見て取れるわ』 「あはは……和名好きな人からはそう思われちゃうかも」 江流、波美、コクリはそんな会話を。 ここでさらに新たな人物が。 「狡猾な鬼どもだよな。戦う力のないものばかり狙いやがって」 クロウ・カルガギラ(ib6817)だ。胸に下げた青い宝玉のペンダントをいじっている。 「本当だね。船を選ぶなんて、敵も考えるなぁ」 ぽろぽろん、と詩聖の竪琴の調律を確かめるケイウス。 「こっちも考えりゃいいさ……しかし、どうした?」 その言葉に軽く頷いたリューリャが、クロウに向かって背中越しに聞く。 「もうすぐ着水って聞いた。最後の打ち合わせは必要じゃないかな?」 確かに乗組員からそういう触れが回ったらしい。 新たな人物もやってきた。 「コクリちゃんやっほー! あたしも志士になったんだよー♪」 「わっ! ああん、だめ。リィムナさんちょっとやめてよぅ」 リィムナ・ピサレット(ib5201)だ。コクリの甘い声が響く。背後から抱き着いてあそことかこことかをさわさわさわさわしてたり。 『リィムにゃん?』 「はっ!」 リィムナ、背後から上級からくり「ヴェローチェ」の声を聞いてハッとした。自分のお尻に手を当てつつ、もじもじと大人しくなる。うんうん、とヴェロ。リィムナの躾は進んでいるようで。 「自重したか……」 「自重と言えば……ふしぎも参加してるんじゃないか?」 ぼそりとリューリャの言った言葉に江流が反応した。 ――ばっ。 「ぼ、僕はいつだって自重してるんだからなっ」 話題に上った天河 ふしぎ(ia1037)、皆の背後にあった覆い布の中から姿を現し拳を固めて主張した。聞き捨てならなかったのだろう。滑空艇・改弐式「星海竜騎兵」とここに隠れていたようだ。 「そうだったかなぁ?」 江流、いつかの洞窟依頼を思い出してぼそり。まったく自重してなかったような、とか思っていたり。 ともかく。 「湖が見えたぞ〜」 舳先から甲板員の声がする。 「よし。二度とこんなふざけた真似の出来ないように、ここで叩きのめしてやるぜ」 クロウの叫びとともに、全員の顔が引き締まった。 ● 「あっ。クロウさん!」 着水後、コクリが叫んだ。 「俺はこっちだ。行くぞ、プラティン!」 クロウ、翔馬「プラティン」にまたがるとチョコレート・ハウスの隣――岸側に浮いている廃船に向かって飛翔した。 「さんざんやってくれてるな……それが奴らの命取りになるがな」 以前にアヤカシに襲われた廃船は、力任せに艦橋などが破壊されていた。そこを探索するかのようにクロウは中へと入っていく。 「さて、あんぐり空を眺めてるかな」 『居眠りしそうな勢いね』 江流の方はのんびりと。波美は微笑しつつ船内へと戻っていく。 「じゃ、最初は俺と江流で見張りかな?」 やれやれ、と船縁に腰掛け竪琴を構えるケイウス。はたから見ると警戒しているなどとは思われない自然さだ。 「なんだー、てっきりすぐ敵が来るのかと思ったなぁ」 『思ったにゃん』 うーん、と伸びをするリィムナとヴェロ。とはいえリィムナはいたずらそうにウインクしているが。 「のんびりした方がいいのかにゃ? それじゃコクリちゃん、まったりするにゃ〜」 『空の次は湖にゃか……』 千佳はコクリに抱き着いて、百乃は眼下の水面にぶるると毛を逆立てていたり。 「いや……」 ここでリューリャが船縁に手を掛け前のめりに空を見た。 廃船越しに、何かが遠くに浮き上がってきた何かを見たのだ。 その姿、有翼。複数で、しかも手には棍棒。 しかも早い。 どんどんこちらに向かってきている。 「来たぞ! コウ!」 リューリャ、相棒の輝鷹「光鷹」の名を呼び高々と左手を掲げた。 同時に背後から明るい金色の姿が飛んで来た。 いや。 その姿が光に包まれ、消えた。 同時にリューリャの背中から光の翼が生える。「大空の翼」だ! 「リューリャさん!」 「あちらの領域に飛び込まなきゃ……」 呼ぶコクリの声を背中に聞きながら……。 「話にならんさ!」 いま、羽ばたく。 ――ばさっ! 大きな音がしたのは、コクリたちの背後から。 「空の安全を脅かすアヤカシを、正義の空賊としては放っておけないんだからなっ!」 振り返ると、覆いを跳ねのけたふしぎがそそり立っていた。望遠鏡をしまいつつ、滑空艇・改弐式「星海竜騎兵」に飛び乗った。 「一体残らずやっつける!」 ばすん、と宝珠が吹いて空の上。 リューリャの目の前には四体の飛空氷鬼が迫っていた。 「これだけか? ……まあいい、空にいるうちに出来るだけ多く削る!」 ソードウィップ「ウシュムガル」を抜き一直線に殺到するが。 「おっと」 アヤカシの一体が左手をかざし強烈な冷気を一直線に放ってきた。これは余裕でかわす。そこへ、表皮に氷を纏った鬼どもが殺到してくる。 「行かせるか!」 立ちふさがるようにソードウイップを展開。ひゅん、と冷たい音をさせて刃を振り回す。 『グァウッ!』 果敢に突っ込んでくる敵の手をめがけて刃の鞭を振るう。これで敵の前進は止まった。 「棍棒を弾き飛ばされたければ近寄るがいい」 覚悟を込めて叫ぶリューリャ。 身体を伸ばして最大半径約4メートルの絶対防空権を形成する。 『ガッ!』 すっかり覚悟に飲まれた敵だったが、囲んで押しつぶす動きに切り替えた。力押しだ。 「舐められたものだな」 迫る敵にリューリャは落ち着いて換装。ウイップの防空権を捨て、背負っていた神槍「グングニル」を構える。 元防空権に四方から敵が迫る! 「力任せでも負けん!」 叫んだリューリャ。渾身のハーフムーンスマッシュ。敵の攻撃も受けたがひるまず振り切った! きらめく氷塊。前と左右の敵を吹っ飛ばした。 しかし、後方はがら空き! 回り込んだ分遅れた敵が、相打ちでバランスを崩したリューリャを仕留めに入る。 その時、黒い機体が来たッ! 「お前達の好きには、させないんだからなっ!」 ざしり。 リューリャの背後を狙った敵が仰け反る。背後を横切ったふしぎの魔槍砲「赤刃」がその背中を貫いている。 「咆吼を上げ、貫け赤刃!」 ――ごぅん……。 響く爆音に吹っ飛ぶ敵。表皮の氷塊が砕けて散った。 「見たか、これが零距離咆哮なんだぞっ!」 飛び去るふしぎの持つ魔槍砲が硝煙を上げている。 いや、さらにその姿が消えた。 「蝶の様に舞い、燕の様に刺す!」 くん、と巴戦で強引な方向転換。先の敵が改めて顔を上げたところに突っ込んでいる。すでに魔槍砲は背中に。手には霊剣「御雷」。 狙うはとどめの……。 「うわっ!」 いや。 敵が冷気を放った。 覚悟をもって突っ込んでいたふしぎ、これを避けることはできず。とりあえず直接やり合うルートはともに外した。 「こっちだって離れてもやれるんだからなっ!」 ふしぎ、改めて魔槍砲を持ち直し砲撃。射程距離ギリギリで命中することはなかったが改めて一対一の体勢に持ち込んだ。 ● この少し前、甲板。 『下からも来てるにゃ!』 空戦が続く中、百乃が岸辺からの異変に気付いた。敵が湖畔から飛んできているのだ。 「本当に敵も考えるね……。ここは任せるね、行ってくるよ!」 ケイウス、軽やかでハイテンションなリズムをひとくさり演奏し味方支援すると嵐龍「ヴァーユ」に跨った。 淡い空色の体に金色の鋭い瞳。 ヴァーユは好戦的に低空から迫る敵四体に突っ込む。 「ありがとう」 ケイウスは、指示してなくても思い通りに跳ぶ相棒に優しく言った。そして、かっと目を開く。瞬間、ヴァーユが竜巻撃。これで一直線だった敵の動きが止まった。 そして! 「響け、荒ぶる神霊を鎮める旋律たちよ!」 満を持して「魂よ原初に還れ」。これを受けてぱりん、と敵の纏っていた氷塊が砕けた。敵にダメージはない。表皮に纏っていた氷塊が身代りとなっているらしい。 間髪入れず冷気が来る。 「うわっ!」 これをまともに食らった。 ヴァーユ、右に流れ集中砲火から逃げる。そして怒りの「風の咆哮」。目立つ動きだ。 「鬼さんこちら、なんてね」 ケイウスは役目を見失っていない。敵を船から遠ざけようとさらに右に流れる。 「二度と食らわないけどね」 もう一度くる冷気を暈影反響奏で反射させながら。 しかし、敵は目的を忘れていない。 リューリャ、ふしぎ、ケイウスが派手に戦うが飛空氷鬼たちの対応はマンツーマン。逆に、船と分断されての一対一となっている。 残り五体は船に来た! 「商船を襲う悪い鬼さんは魔法少女が退治するにゃ♪ 鬼は外、にゃね♪」 まずは千佳がマジカルワンドを元気に振るう。ホーリーアローが一直線。 『それは魔法少女関係なくないかにゃ?』 百乃はひらりと千佳の頭から甲板に着地しつつ突っ込み。 「あたし達は飛べないからここで迎撃するにゃよ! 百乃、前衛でお願いにゃ♪」 『何故に!? ええい、よるにゃ! 寄ってくるんじゃないにゃー!』 一発放った千佳はそのままバックステップで大きく後退。前にどうぞされた百乃は尻尾を立ててびっくりして、慌てて閃光を放つが、早い。逆に目をつけられた。 『にゃ〜っ!』 「ヴェロ、来たよ〜っ!」 百乃の悲鳴と一緒に、リィムナも怯えて相棒の後ろに隠れてしまう。 『リィムにゃんを守るにゃ』 ヴェロはリィムナを守りつつ相棒銃「テンペスト」で対空射撃。これが見事に外れる。 が、背後でリィムナはニヤリ。 気付く者はいないが、外れた弾道はすべて艦橋寄り。必然、敵は舳先寄りに移動し戦場は艦橋から外れた甲板上となる。 敵も黙っていない。反撃の冷気が一直線にくる。 「飛び道具避けると甲板に傷がつくんだが…これ修理代大丈夫だよな?」 「この船、少々の攻撃はへっちゃらだよ」 ごろん、と二人並んで甲板を転がりかわす江流とコクリ。 「でも、一方的に上から攻撃されるのは問題だよな!」 「それはそうだね!」 江流、片膝立ちして起き上がると力強く両手持ちしている太刀「阿修羅」を一閃。コクリも同じ姿勢で少剣「狼」を振るう。会話の語尾が強いのは剣を振りぬいていたから。二つの雷鳴剣が敵を襲った。ぱりん、と敵の纏う氷塊が砕ける。 「……空のみんなの攻撃で弱ってないのは表面の氷のせいだったのか」 からくりの背後で観察していたリィムナが看破した。そして非戦闘員を装い弱弱しかった様子が一変した! ――とん、とん……。 ついに、敵五体が甲板に着地したのだ。 弾かれたように無痛の盾で冷気を受けていたヴェロの背後から出る。そして片手で印を結びながら一瞬目を閉じた。 「喝ッ!」 すぐに気合とともに括目。ごう、と精霊力が全身にみなぎると……。 「遊びは終わりだよっ!」 千早の袖を両手でつまみながら腕を広げて一瞬で敵の懐に入った。夜を使ったのも敵は気付くまい。 「乱舞!」 振るう袖から白い燐光散り、白蓮華抄が蒼白く光り香る。 「乱舞、乱舞!」 リィムナの右手が、左爪が、敵を砕き引っ掻き精霊力とともに敵を青白く燃やす! この時、江流。 「おっと」 着地と同時に叩きつれられた棍棒を横踏でかわしていた。どすん、と甲板に命中するが大丈夫のよう。コクリは反対に逃げている。 「棍棒ね……」 江流、敵が改めて振りかぶる動きをちゃんと見ていた。かわした右下から刃を跳ねあげる。ぴしり、と敵の身を切り瘴気が舞った。もう、敵を守る氷塊はない。 『ガアッ!』 敵もさるもの。怒りに任せ武器の振り上げが早くなった。どすんどすんと間髪入れないラッシュで攻防一体の攻撃を続ける。 が、江流。これにまともに相手する正確ではない。 すでに大きくバックステップしている。距離を取っての雷鳴剣だ。これで敵は最後の力を振り絞った。武器を振り上げ、まったく隙のない動きで……。 ――ゴッ! 『……!』 敵は言葉なくよろめいた。信じられない、と瞳が大きく見開かれている。振り向く先に、波美が相棒銃の構えを解いて立ち上がっていた。 「一瞬ピカっと光って重なる直撃音。まさに……」 『テンペスタ−嵐−って事ね』 江流と波美の言葉をききつつ、どうと倒れる敵。 『はぁ……また髪が火薬臭くなるわ』 霊照眼、敵鋭解析と目を酷使した後なのだろう、目をこすった後、銃の硝煙を払う波美。 「はいはい。帰ったら風呂な」 江流はコクリの方の心配をしてやるのだった。 ● 『海に落ちるのだけは勘弁にゃ〜っ!』 百乃は、ついに退治した敵からひらりと逃げた。悲鳴を上げたのは、船縁にしたっと飛び乗ったから。千佳を守る小さな前衛役としては根を上げた格好だが、どのみち着地間際に食らった一直線の冷気を食らえばともに食らうのだ。挟み撃ちの形になったのは良かったのかもしれない。 特に、悲鳴とともに閃光をしたのは効果的だった。振り返った敵はもろに食らってたたらを踏んでいる。 「百乃、よく頑張ったにゃ。そろそろ止めにゃ!」 千佳、安心して詠唱に入る。 そして北斗七星の杖を振るった! 「必殺の…まじかる♪ アッシュにゃー!」 猫しっぽ、ぴーんとさせてララド=メ・デリタ発動。 『必殺の…まじかる♪ ブラックファイアにゃー』 こちらは猫しっぽ、へにょり。しかもなぜか棒読みで百乃が逆側から黒炎破。 『グ、グォォ……』 灰色魔法で腕を削られ黒炎に包まれ、敵は瘴気へと戻っていく。 「あっ!」 敵と退治していたコクリ、短い悲鳴を上げた。 着地間際は圧倒的に攻め込み開拓者を痛めつけていた敵が、一瞬で逆転され消えていくのを見て残りの二体が氷の翼を広げて再び飛んだのだ。 しかし、最初に飛んだ敵は上空で前につんのめった。 『グオッ!?』 「このタイミング、待ちくたびれたぜ?」 後ろにはなんと、光翼を広げてぶるるんといななくプラティンに騎乗したクロウの姿があった。振るった名刀「ズルフィカール」をさらに軽やかにひらめかせ敵の翼に斬りつける。 「そら、そっちもだ!」 クロウ、手綱を放し鐙と太腿で踏ん張ると状態を伸ばす。プラティンがもう一体の方に流れ、ばさりと斬った。やはり翼を狙う。 『ギギ……』 飛空氷鬼二体はバランスを崩したが墜落するということはない。 しかし、先の一体が廃船の方に着地し素早く冷気を放っていた。 「くそ……やっぱりそれは厄介だな」 これを食らったクロウ。二対一の辛さが出た。 「クロウさん!」 『リィムにゃんにみんなの援護するよう言われたにゃ』 コクリが廃船に飛び移り雷鳴剣で援護。ヴェロは相棒銃で射撃する。 そこに新たな冷気が一直線。先ほどクロウの斬りつけた方も廃船に素早く着地して応戦している。 「下でくたばりたいのか? だったらそうしてやるぜ」 クロウが宝珠銃「ネルガル」でコクリたちを狙った鬼を撃つ。腕を狙った一撃は敵の攻撃を遅らせる。 それだけではない。 「もう食らわねぇ」 一気に詰めて敵が攻撃に移る前に斬りつける。 斬った後に怒りの棍棒のダウンスイング、来る。 が、クロウはプラティンとともに右に回り込み。慌てて振る鬼。斬りつけまた回り込む。 これに業を煮やした敵が飛んだ。 「俺とプラティンから逃げられると思うなよ」 光の翼を広げて飛び立つプラティン。とにかく前に。 その向こうの空では。 「人ってのは単純なぶつかり合い、ぶつけ合いだけじゃないさ」 リューリャの槍が敵を貫いていた。こちらは引いて敵の攻撃を柔らげつつ戦っていたようで。 「瘴気にかえれぇぇ」 その上空では、ふしぎが何度目かの巴戦で、ついに敵を屠っていた。 「速さなら負けない、って言ったよね……」 下の方では、遠くに逃げていたはずのケイウスが。急襲などで動き回り敵を上回ったヴァーユの首筋を撫でてやり、ねぎらう。敵は最後にケイウスの演奏で、スキルの名の通り原初たる瘴気に還っていた。 コクリも、味方の援護で敵を仕留めていた。 ● そして、夜。 「あ〜、寒い」 甲板でだらりと仰向けに寝そべった江流があんぐりと夜空を見上げていた。 「えー。全然寒くないよ」 隣のケイウスが言う。がっちり外套などで防寒しているのは内緒だ。 「一曲やりたいが、俺の呼子笛は合図用だからな〜」 「ねだってるように聞こえるよ。仕方ない」 ケイウス、くすっと微笑して一曲奏でる。 その旋律の聞こえる船内食堂で。 「鎮魂歌にはちょうどいい。……隣の廃船の遺品だ」 クロウ、テーブルに銀食器を出す。 「いい道具は輝きを失わねぇな。船仲間を辿って遺族に預けとくよ」 八幡島副艦長、クロウの並べたスプーンなどをしげしげと見る。 その横に立つ人物が。 「ブラックでいいかい?」 リューリャだった。自ら入れた珈琲、テュルク・カフヴェスィを出す。 「こりゃ、悪いな?」 「いいさ。この船はハウスなんだろ?」 見上げてくる八幡島にそれだけ言う。それ以上は野暮とばかりに座り、まずは飲む。 「一員として、ありがたくいただこう」 八幡島も、飲む。 その頃、寝室にした大部屋にも曲は届いていた。 「これでこの空も平和になるね……」 布団から上体を起こしていたふしぎが窓の外を見やりながらつぶやいていた。ケイウスの曲は緩やかだった。 そして膝元を見て、にこっ。 「コクリ、お疲れ様」 ふしぎは隣に寝るコクリの髪をなでてやる。ううん、とコクリがもぞもぞしたのはそのせいではない。 「うにゃー、コクリちゃん大好きにゃー♪ うにぃ…」 千佳がそんな寝言を言いつつコクリにだきゅだきゅしていたから。 「んん……すやすや……」 必然的に、反対側に寝ているリィムナにもぴたっとくっついたり。 『にゃん♪』 おっと。 ヴェロがリィムナの手を密かに洗面器のぬるま湯につけているが……。 「お休みなさい」 ふしぎも横になる。見張りの当番は終わったばかり。寝ておかないと次の朝に響く。 寝室のかすかな明かりが、落ちた。 翌朝、甲板に白い旗が立つ。 敵は襲ってこなかった。全滅とみていいだろう。 ではなぜ? 「コクリちゃあん…ごめんなさい〜!」 リィムナがおねしょ……ごほごほ。とにかく、やっちゃったようである。 そのくらい平和だった。 |