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■オープニング本文 ここは泰国南西部、南那――。 「何? 西の『防壁の森』が活性化しつつある?」 農業調整値を造成している新たな開拓者街『開窓』にいる孝機関の宿舎で、現地司令のキツネ目の男が眉の根を寄せた。 「英雄部隊が『道の罠』とそのアヤカシを破ったのはいいのですが、それから森のアヤカシが我々を狙うようになったようで」 言ったのは、親衛隊の瞬膳隊長だった。 「防壁の森は魔の森ではないのだろう? それなのにアヤカシどもが組織的な動きを始めたということか?」 「組織的な動きかどうかは分かりませんが、まあかなり広い範囲を征圧しながら進軍してますからね」 仮にケモノでも集団で向かってくる頃合いかも、と瞬膳。 「あの……キツネさま?」 ここで来客。取り次ぎの者に連れられ、一般人のおばあさんが声を掛けたのだ。 「何か?」 鋭い目つきで返答するキツネ目の男。 瞬膳、相変わらず冷徹な男だなと眉をひそめるが、おばあさんもおばあさんだと内心思う。 「前に相談したとおり、ウチのぐうたら息子を連れてきました。どうぞ叱ってやってくださいまし」 おばあさん、そう言って連れていた若者を前に出す。 「ああ。……君は働きもせずに親に苦労ばかり掛けているそうだな」 「し、知らねぇよ!」 「聞くが君はこれまでの人生、何をやって来た? 誰にも負けないことはあるのか?」 「ふん。ごろごろしてただけだよ!」 若者、腰を引きながら吐き捨てた。 「よし、いい度胸だ。それなら南那を支える立派な人材になれる」 「は?」 「ほ、本当ですか?」 キツネ目の男の言葉に眉をひそめる若者。そして喜ぶおばあさん。 「明日からここでごろごろしろ。君のようにごろごろしてる者ばかりいる場所だ。……言っておくが、死ぬ気でごろごろしてこい。認められるまで帰ってくることはゆるさん!」 「ひっ」 一喝して紙にサインして渡す。びびって従うしかない若者。おばあさんは紙を受け取り、何度も礼をしながら息子を連れて出て行った。 「ほら、良いお方だったろう? お国のため、しっかり働いてくるんだよ」 などとおばあさんの声が聞こえる。渡したのは勤務許可書だったか。 「……東の野犬番の小屋、ですかね?」 「ああ。野犬ごときは一般人で十分。ただでさえ兵力は東の鉱山を守るからくりとの戦闘で人手不足。防壁の森征伐には親衛隊が必要。ああいう若者がしっかりしないと南那はダメになる」 「なるほど。住民に慕われるわけですね」 瞬膳、意外といいところのある男なのだな、と見直した。 「そういうわけだから、兵力は西に回せんぞ? 先の英雄部隊……いや、深夜真世部隊だったか? とにかく、珍しい蜂蜜をごちそうするから来てくれと打診してみろ」 「ああ、コーヒーの花から採った蜂蜜ですね。それなら真世君も飛んでくると思います」 こうして、雪切・真世(iz0135)とその仲間たちが呼ばれることとなる。 敵は、前回は後回しにしたアヤカシ「吹矢鬼」! |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
猫宮 京香(ib0927)
25歳・女・弓
龍水仙 凪沙(ib5119)
19歳・女・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
泡雪(ib6239)
15歳・女・シ
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ● 「残存部隊が現地手前を死守しています。すぐに向かってください」 現地に到着した雪切・真世(iz0135)たちに、親衛隊長の瞬然が即出撃を頼んだ。真世は「珈琲の花のはちみつ……」とかいうおねだり目線で指を唇に添えていたが。 それを見た、椿鬼 蜜鈴(ib6311)。 「おぬしらはしないのかや?」 背中越しに振り返って泡雪(ib6239)に聞いてみた。 「しません。真世様くらいです」 泡雪、苦笑しながらきっぱりと。 「ですね〜」 横にいた猫宮 京香(ib0927)ものんびりにこにこしつつもきっぱり否定している。 「えー、でも珈琲の花のはちみつ、興味あるじゃないですか。ねー、真世さん」 アーシャ・エルダー(ib0054)だけは賛同し、一緒に指を唇に添えておねだり目線。 「そーいう蜜鈴はどうさね?」 しないのか、と北條 黯羽(ia0072)が蜜鈴に聞いている。 「黯羽にしてほしいかのう?」 蜜鈴も慣れたもの。煙管片手ににまにまと黯羽に返す。もちろん黯羽はしない。 「まあ、確かにそれで釣りましたけどね」 瞬然、困り顔。 「ほら。透夜さんが真世さんを放ってるから困ってるじゃない」 「え、そう?」 この様子に、龍水仙 凪沙(ib5119)が雪切・透夜(ib0135)の脇腹を肘でぐりぐり。 「真世さん、急いで片付ければ珈琲の花のはちみつにありつけますよ〜」 先に京香が真世をそうたしなめていたが。 「ちぇー」 と、アーシャが真世の声をまねていたり。 「退治が終わったら、真世様と一緒に皆さんにコーヒーを淹れましょう。その時に」 「うんっ、そうだね」 泡雪の言葉に真世も納得。 「しかし……ああ、うん」 ここで透夜、一抹の不安に駆られる。 「偶然……そう。偶然ではあるのですが……女性しかいませんね」 このつぶやきに黯羽が気付く。 「逆紅一点か? いいことさね」 からかう黯羽の声に透夜は汗たら〜な感じ。 その時だった。 「真世さん発見! よろしくね〜♪」 「きゃああ!」 遅れていたリィムナ・ピサレット(ib5201)が合流。真世の背後から抱き着いて羽交い絞め風に胸のサイズを確認確認……。 「うん? おっきくなってる?」 リィムナ、真世……ではなく新妻をめとって半年足らずの透夜を見た。これに気付いて皆も一斉に透夜に注目。 「微妙にやりづらいのは……気のせいだと思いたい……」 そ、そんなんじゃないんだからねっ、とか真っ赤になりつつリィムナを振りほどく真世や同情の視線を送る泡雪の視線を感じながら、透夜は遠く空を見上げるのだった。 ● 一行は道なき道をかき分け、かなり進んでいた。 編成は、囮の泡雪を先頭にリィムナと真世が続く部隊を中央に、透夜が先頭で防御し凪沙と京香が控える部隊を左翼、そして囮のアーシャと索敵の黯羽が前気味で後方に蜜鈴を配する右翼で固めて慎重に進んでいた。 いずれも見えない敵に対し索敵しつつ反撃を狙う戦術だ。 「音とは違う位置から、ですか」 泡雪、試案を巡らせつつ先頭を行く。 「瘴気が少し固まってるような気がする……前に敵、いるよ」 背後からリィムナの声。泡雪の超越感覚には引っかからないのでじっとしているらしい。 ――ふっ……かささっ。 その時、前方から音がした。 最初はかすかな音で、後は枝葉の揺れる音。 一瞬、泡雪は枝葉の音の方に注意を取られた。 「くっ」 ほぼ同時に、向いた方とは別方向から来た吹き矢が腕に刺さっていた。 そして最初に向いていた方角とは反対からも来る。 が、これは泡雪には刺さらない。 なぜなら空蝉による残像だから。さらに残像とともに樹木の裏に隠れる。 「最初の音は吹き矢を吹く音でしたか」 反射的に空蝉で逃げて考えをまとめる泡雪。 「あれ。いない?」 この時真世、泡雪の防御姿勢に反応し、適当に矢を乱射していた。敵の動きはない。いないか、我慢して身動きしていないか。 「……いない、かもね」 別の場所に潜伏するリィムナは瘴気の流れを感じることのできる片眼鏡で戦況を見ていた。感覚ではあるが、真世の狙った方に敵はいないと判断している。 つまり、吹き矢で遠い場所にある葉を狙い揺らして音を立て、そちらに注意を向けてから本命の矢を吹いたのだ。 「そしてその隙に別方向からも……」 これは、超越感覚で音に集中している泡雪も同様の見立てだ。 きょろ、と周りを見る。しかし敵は見えない。 「三体くらいはいるかな?」 リィムナ、そう判断するが攻撃はしない。 いや、できないのだ。 目視してない敵に術は使えない。 もちろん、距離を置いた左翼部隊にも中央部隊の応戦が感じられ緊張が走っていた。 「まさか、歩きやすい場所は敵に狙われてる?」 こちらの先頭、透夜は歩を止めて息を飲んでいた。 これまで足元や頭上など、トラップの可能性を考慮に入れて進軍していた。 特に何もなかったのだが、交戦する味方の気配にもしやの……。 「はっ!」 透夜、かさっ、という音に気付いた。超越感覚だ。 反射的にそちらにアイギスシールド掲げ……思い出した。音とは別の方向から攻撃が来ることを。 「遅かったか」 無理せずすぐにしゃがんで「死毒」を自らにかける。これで解毒できた。 この少し前、京香。 「鬼さんこちら、手の鳴るほうへ、という感じで来てくれるといいですね〜? 場所さえわかれば狙撃出来るのですけど〜」 透夜の後ろでは京香が進んでいた。 京香の武器は、ゲイルクロスボウ。普通の弓と違い低木密林戦でも枝の高さに気を付けなくて済む。 と、呟いているそばから透夜が狙われた。 一瞬、敵の矢筒が見えた。 「ちょっと遠いでしょうか〜? でもそれくらいの距離ならなんとかなるのですよ〜!」 ぱさぱさっ、と枝葉を揺らすが手ごたえがない。 「まあ、そういう戦場ですか〜」 京香、あくまで余裕。 一方、京香と逆に位置していた凪沙。 「これはダメだわ」 目視索敵の限界を感じていた。 「動けなくなるし攻撃もできなくなるからあまりやりたくはないのよね〜」 び、と五行呪星符を一枚つまむと小鳥に変化させた。人魂だ。そのまま上空に放つ。 「……吹き矢は二・三本を常備。撃っては引く、かな?」 上から見た敵の動きを確認してから、京香に目くばせした。 「いったん集まって話し合いが必要だわ」 無理な追撃より情報共有を採った。 この時、右翼。 「こっちは外れだったかもだぜ?」 黯羽が堂々と立ち上がって味方に言った。 目立つ行動ではあるが、複目符で小鳥四体を生み出し四方に散らして同時広域索敵をした後だ。自信がある。 「ほかの交戦した班は集まって話し合ってるみたいですし……」 アーシャも立ち上がり味方を気にした。 「小賢しい小物等よな。低木共々焼き払ってやりたいが……詮ない、地道に殺るとしおるか」 蜜鈴も立ち上がる。詮ないのはそれだけではなく、念のために愛用の煙管を締まっているから。仕方なくぱちりと閉じた扇の先を口元にやり、吐息。 「話が早くていいさね」 「早速、矢面に立ちましょう!」 嬉々として打ち合わせで足を止めている二班の前に移動する。 「黯羽もあーしぇも好いの」 くすくす機嫌よく蜜鈴が続く。 が、ここで前を行くアーシャの足が止まった。 「くっ。こちらからですか」 左側からの吹き矢が刺さったらしい。左を向いて騎士盾「ホネスティ」を構える。次の攻撃は別方面からで防ぐことができない。新たに黯羽も食らっている。 これを見た蜜鈴。自分も食らうが構わない。 「堅固なる護石よ、我が身を隠す壁となれ」 呪文とともに蜜鈴の背後にアイアンストールが出現した。黒い壁面を背後に白い肌、桃色の長髪が浮かぶように目立ち、にやり。まずは進行方向背面からの攻撃を切った。 同時にやや前方で黯羽が呪本「外道祈祷書」を閉じて宝珠銃「軍人」に持ち替えていた。右側には結界呪符「黒」がそびえている。 「壁を出したんだ。目立ってもいいかね?」 後手を踏む展開を嫌ったか、防御を固めた黯羽が誰に聞くでもなく呟く。許可を求めているのではないのだ。宝珠銃が戦闘開始とばかりに火を噴いた。もちろん敵を正確に狙ったわけではない。 「いいですね。帝国騎士の根性、見せますよ〜」 アーシャ、射撃と同時に先の攻撃が来た方にダッシュした。 もちろん、敵の攻撃が来る。 目立つ行動だけに、そりゃもう一斉に。 「……左と前から半包囲されておったか」 蜜鈴、アーシャを狙った射撃から敵のおおよその位置を把握した。約五体が左から前に扇状に展開していると見た。 そして一斉射撃を食らったアーシャは……。 なんと、見えない盾に四半周囲からの吹き矢が止められ地に落ちていた。スィエーヴィル・シルトだ。 「帝国騎士、アーシャ・エルダー。これが騎士の誇りです!」 続けて咆哮。徴発された敵がまた一斉に吹き矢攻撃を集中した。 瞬間、目を細めアゾットを構える蜜鈴。 「ありがたいことじゃの……捕らえよ雷槍。彼の災いを撃ち貫け」 サンダーヘヴンレイが枝葉を払いつつ一直線に伸びた! すたぁん、とアーシャの前方に援護射撃をしていた黯羽。前方を横切った雷撃にはっとした! 「払ったか? 見えれば一撃で決めたいトコさね」 黯羽、雷撃の薙ぎ払った一瞬に敵を見た。銃を放り呪本を開き白狐を生み出すと、一気に敵を襲わせた。 とーん、と飛び跳ね白い尻尾のみ覗かせた先で、ぶしゅうと黒い瘴気が立ち上り消える。 「どんどん行きますよっ。こんなの痛くもかゆくもな〜〜い!」 アーシャの方は前方に魔槍「ゲイ・ボー」を投げつけ突貫。 敵は外れる槍を見て安心した一瞬の隙をついて距離を詰め、目視できる位置に来たアーシャに驚いた。しかも、投げた槍が手元に帰って来て、ぎらりと睨んでいる。 「場所を変えればこんなもんです!」 狙い通り、と突っ込み一撃で倒す。 「敵はもろいですよ」 叫ぶ背後ではまた雷撃が行き、白狐が突っ込んでいた。 ここで戦いの潮目は変わる。 「ん? また敵は引いたようだぜ?」 感づいた黯羽。乱戦となって結構矢を受けていた。 「獲物をいたぶり殺すは小物の好む所業よな。わらわとは気が合いそうにない」 蜜鈴も一呼吸。その脇を仲間が抜ける。 「対策はできました。追撃は任せてください」 透夜が凪沙、京香と行く。 「いままでいなかった左からも音がします。包囲に気を付けてください」 泡雪はリィムナと真世を連れて左へ展開した。 ● まずは、包囲戦に備えた左。 「リィムナ様、敵は時計回りに動いています」 「やっぱりこれが便利だよね〜」 泡雪の言葉にリィムナがまず右側に結界呪符「白」を立てていく。これでもしも左に敵が潜伏していたとしても盾となる。後背からの奇襲を防ぐことができる。 「真世様、左前方の三つ又の木のあたりに乱射お願いします。敵の足を止めます」 「うん、わかった!」 真世、泡雪の指示で止まりとにかく矢を放つ。泡雪、これを見て方向転換。矢を追うように走る。 「泡雪さん、さっき言った通り敵は上にはいないから思いっきり跳べるよ!」 「分かりました。では」 敵の集中射撃を食らい敵のおおよその位置が分かった泡雪、リィムナの声を背にきっと瞳に力を込めた。 そして跳躍。太い木の幹に跳んでそこを足場にさらに――さらに高く、遠く飛んだ! (そういえば、前の戦場でも跳びましたね) 泡雪の心に去来する既視感。ただし、以前は敵の裏を取るため。今回は敵を把握し次の動きにつなげるためだ。 「見えました!」 遮蔽物のない上から目視する泡雪。一方で、ひらりと空中で身をひねる泡雪を狙い、敵が上を向いた。 「こっちも見えた!」 「わ、私もっ!」 敵としては想定外の仰角射撃。長い筒が隠れ家から出たのをリィムナも真世も見逃さない。 すとん、と着地し敵に忍刀「鴉丸」を構え敵に迫る泡雪。 リィムナは渾身の、「黄泉より這い出る者」。真世も必死に撃つ。 こちら、透夜たち。 「もう手の内は分かってる」 進軍していた透夜、一発矢を食らうとすぐにスィエーヴィル・シルトを展開。別方向からの攻撃を防ぎ、さらに飛んでくる矢にも冷静に反応し盾で防ぐ。複数本の吹き矢で時間差攻撃をしてくる敵の手は、凪沙の索敵で看破している。 「こうなると楽よね〜」 後方の凪沙、敵の一度目の攻撃で場所のあたりをつけ、二発目に注視していたためしっかりと視認。 「そして上からの攻撃に弱いんでしょ?」 五行呪星符から眼突鴉を生み出し、空から山なりに突撃させて攻撃。ぶしゅう、と上がる瘴気ににんまり。 が、こちらも視認されていた。敵の矢が刺さった。 「でも、上や横に長物を動かしてたらどうなるかな〜?」 食らった凪沙はむしろ楽しそう。 その証拠に。 「あは〜、ちょっと大きなの撃ち込むので巻き込まれないようにしてくださいね〜?」 最後方に控えていた京香が、敵の大きな動きを見逃すはずがないッ! ばすん、と一発、烈射「天狼星」が衝撃波をまき散らしながら飛んでいった。かなりの威力で、周囲にいた敵2体の瘴気が立ち上った。 「京香さん、助かります」 同時に透夜の声。派手な攻撃は静かな戦場では影響が大きい。思わず京香方面を狙うため方向を変えた敵の動きが透夜の視線に入ったのだ。透夜、番天印を投擲。そのまま敵には行かず戻ってきた武器をキャッチしさらに前進したぞ? 「機械弓ならではですね〜」 京香、透夜が番天印で揺らした辺りに向けてもう一度反撃の烈射「天狼星」。 「透夜さん、急いでるねぇ」 凪沙、結界呪符「黒」で背後に回られないよう戦場整備をしながら続く。 そしてかなり深くまで攻め込み、敵の反撃もなくなったころだった。 「え?」 「何でしょう、この音」 まずは透夜と泡雪が気付いた。すかさず黯羽が複目符を、凪沙が人魂を展開した。 そして遠くに聞こえる音の正体を遠くに、見た。 「やっぱり最後はこれで締めたいですよね 」 真世の淹れた珈琲を飲み、アーシャがほっとしている。 あれから一行は退却し、帰隊していた。 「うん。珈琲の味を損なわずにまろやかになってる。思った通りだ」 珈琲の花のはちみつを入れた珈琲で、はちみつ生産を提案した透夜も一口飲んで満足そうだ。 「役に立たなかったなぁ」 リィムナは、用意した藁玉で作った人の頭部の模型を寂しそうに見ていた。敵はそういう戦闘に手馴れていたようで。 「でも、枝の上にも注意していたのはさすがでしたよ。それより最後のはなんだったのでしょうか?」 珈琲を手渡しながら泡雪がそんなことを言う。 「確か『九頭龍』がいるって噂だったが……」 カップを手に情報を思い出す黯羽。 「頭は一つだったわねぇ。まるで獅子舞みたいで妙に長い胴体だったけど」 ともに遠くから目撃した凪沙がうなずく。 「一発撃ってみたかったですね〜」 「ま、今回は矢吹鬼の退治じゃしのう」 京香と蜜鈴も珈琲を飲みつつ、いまはまったりする。 一帯の矢吹鬼は一掃できたようだった。 |