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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ※このシナリオは、シナリオリクエストにより承っております。 ●太平洋戦争 西暦1942年4月18日、大日本帝国は未曽有の恐怖に包まれた。 東京が米軍による初空襲に見舞われたのだ。これは以前より懸念されたことで、大本営は消極的に進めていたミッドウェイ作戦の実行に積極的になっていった。 「どうせなら霊的国防戦術の実験台になってもらうというのもいい」 上層部にはそんな声も出てきていた。 この霊的国防戦術。敵国上層部へ呪いを掛けて要人を殺害し軍事行動の作戦運営を滞らせるなど複数項目が内容として挙がっている。 そしてその中に、「異世界からの戦力召喚」も名を連ねていた。 「海軍に伝えておけ。国籍不明の、明らかにこの世のものではない戦力が現れたら決して敵対するなと」 上層部数人の密談内容は、秘密裏に連合艦隊司令長官、山本五十六大将に伝えられた。 ●舵天照世界の空 チョコレート・ハウスは空の上――。 天儀上空で、中型飛空船「チョコレート・ハウス」が輸送任務に就いていた。 「あ、あれ?」 甲板でのんびりと行く手の空を眺めていた艦長、コクリ・コクル(iz0150)は不思議なものに気付いた。 「な、何。あの闇目玉みたいなのは……」 それは丸い闇だった。闇目玉と違ってその中央に瞳はないが。 いや、大きさも全く違う。 どんどん大きくなっているぞ。 「どんどん近付いてくる……八幡島さん、避けてっ!」 「分かってるよ、コクリの嬢ちゃん」 振り向き叫ぶコクリの声は強くなった風に消えたが、艦橋にいる副艦長の八幡島も当然この異変に気付いている。言われるまでもなく舵を切る。 が、かわせない。 闇の球体自体が意思をもってチョコレート・ハウスに向かってきているのである。 しかも大きい。 その闇は、チョコレート・ハウスを丸呑みできるくらいの大きさになって、いま、コクリや護衛任務に参加していた仲間の開拓者もろとも包み込んだ。 「くそっ。高度が下がってるじゃねぇか!」 八幡島の悲痛な叫びとともに……いや、チョコレート・ハウスを完全に飲み込んだ後、闇はこの空から消えたではないか! ●ミッドウェイ海戦 西暦1942年6月4日、南雲忠一中将を司令長官とする第一機動部隊は米軍ミッドウェイ基地に航空機攻撃を加えていた。追加攻撃の要請を受け陸爆兵装に換装していたところ、敵空母発見の報を受ける。やってきた敵爆撃機は護衛戦闘機の不在もあり蹴散らし北東へと転進したが、敵の増援空母はこれを捕捉。まさかの新手に第一機動部隊主力たる第一航空艦隊の空母「赤城」、「加賀」、「蒼龍」は完全に奇襲を受けることとなる。 護衛の零戦が直前の防空戦闘で高度が下がっている中、太陽を背にした敵急降下爆撃機五機が赤城に、二十五機が加賀に、十七機が蒼龍に襲い掛かろうとしている。 それと同時に、信じられないことが起こった。 空に突然闇の球体が発生したかと思うと、飛空船「チョコレート・ハウス」が急降下してきたのだ! 「八幡島さん、海面!」 「ええい、緊急着水だ!」 どっぱーん、と軟着水に成功するチョコレート・ハウス。 しかし、場所は三つの空母の真ん中だ。中にはチョコレート・ハウスに照準を絞った爆撃機もいる。 「コクリの嬢ちゃん、敵機だ!」 「うんっ。ショコラ隊、出撃!」 コクリたちの防空部隊「ショコラ隊」は、自らを守るため、共に標的となった空母をとりあえず守るためスクランブルする。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ● 西暦1942年6月4日のヒトマルニイサン時、米軍エンタープライズ隊のSBD急降下爆撃機のパイロットたちは信じられない光景を見た。 「空中から船が落下してきた!」 「しかも木造船だとぉ?」 ざぱーん、と着水した中型飛空船、チョコレート・ハウスを見てアンビリーバブルでクレイジーだと驚愕していた。 そのチョコレート・ハウスでは。 「おやっさん! 浮遊宝珠の制御機関の調子が悪い。しばらく空に浮くことができねぇ!」 乗組員からの悲鳴に似た報告が寄せられる。 「仕方ねぇ、しばらく海の上だ。……そのほかの確認と修理急げ! 水漏れだけは勘弁だ」 怒号に似た声で返す副艦長の八幡島。 「おやっさん。変な滑空艇の奴ら、こっちにも来てる!」 「戦闘はコクリの嬢ちゃんたちに任せろ! 俺たちは嬢ちゃんたちの帰る場所を死守するだけだ!」 艦橋でやり取りする下で、もちろんコクリ・コクル(iz0150)たちの出撃準備は整っていた。 「あの大きな滑空艇のような機体、こっちにも数機来たようだ」 羅喉丸(ia0347)が甲板で眩しそうに見上げつつ、皇龍「頑鉄」に飛び乗っていた。 「うーん、この現象記憶にあるぞ……。迎撃しないとまずいと心のなかの何かが告げている」 新咲 香澄(ia6036)も滑空艇「シャウラ」を展開しつつ空を見上げる。赤い機体は簡単に翼を広げた。ひらりと飛び乗る香澄は太陽の位置を確認する。 そして、天河 ふしぎ(ia1037)。 「瞳の無い闇目玉を抜けた先は戦場だった……」 潮風に吹かれながらこれまでの出来事を振り返っていた。 こんなことって、あるのかな? 心の中で自問する。 「ふしぎさん、どうしたのっ! 羅喉丸さんや香澄さんはもう出撃準備ができてるよっ!」 茫然と立ちながら赤いマフラーをなびかせる姿に、コクリが地団駄を踏んだ。 「ん?」 ここで羅喉丸、相棒の頑鉄がいつもよりたぎっていること、急降下してくる敵機が明らかに設計思想が異なること、書いてある文字が違うこと、そして自らの力が――気力が力に変わるような感覚を総合的に判断し、こぶしをぎゅっと固めた。 「ここはおそらく異世界……どうやら、異郷の地に飛ばされ、合戦に巻き込まれたか?」 言い切ったところで翼を広げた頑鉄が大きく羽ばたいた。 「そうだね。……コクリちゃん、取り敢えずボクはグライダーで出るよ!」 香澄も分かっていた。星や太陽の運行には詳しい。いきなり空の太陽の高さが変わったのは、世界が変わったとしか思えない。その決断を示すように、シャウラの宝珠を吹かせて大空に飛び立った。 ふしぎ、仲間の二人の舞い上がる風を左右から受けた。 それを肌で感じ、かっと目を見開いた! 「ここが何処の世界だろうと、共にピンチに陥った者を放っては置けないんだぞ!」 同時に、先に突っ込んできた敵の戦闘機が遠目から威嚇射撃をしてきた。弾は羅喉丸や香澄に当たることなくチョコレート・ハウスの甲板に着弾した。 「……聞く耳持たずか。仕方ない、行ってくるよコクリ。天河ふしぎ、星海竜騎兵出る!」 ふしぎも滑空艇・改弐式「星海竜騎兵」にひらりと乗って急上昇した。 「よし、ボクも続くよ」 コクリの滑空艇「カンナ・ニソル」も続き飛び上がる。 戦いの空へ。 ● 敵が遠距離から威嚇射撃してきた時、羅喉丸の瞳に覚悟が宿った。 「急を有する……頑鉄!」 羅喉丸、ぐいと敵機とチョコレート・ハウスを結ぶ一直線上に頑鉄の巨体をねじ入れた。これでチョコレート・ハウスはおろか飛び立った仲間たちに銃弾が当たることはない。 同時に二射目の銃声。 バシバシと羅喉丸、頑鉄に命中する音が響く。 「羅喉丸さん!」 影になった香澄、驚きの声を上げた。 「大丈夫」 いや。実際に羅喉丸は言葉にしていない。ちょっと背中越しに振り向いて微笑しただけだ。 そしてすぐに前を向く。 「残念だったな、その程度の豆鉄砲では龍の鱗は貫けぬよ。……特に皇龍の鱗はな」 気力をオーラのように纏い敵の攻撃を弾いた。わずかに気力は散ったようだが、羅喉丸の気力は底知れない。十分耐えられる、との手ごたえに本格的な戦闘飛行に移った。 「オゥ!」 「アイアンマッソー……」 敵戦闘機のパイロットは操縦席でこの世のものではないものを見たように茫然としていた。……実際にこの世のものではないのだが。 そして翼を広げ鋭く硬質化させた鱗をばら撒く頑鉄。翼を広げて何かを散らす行動に、敵は慌てて爆撃ルートから外れて左右に散った。 「逃がさん!」 羅喉丸、騎乗状態から身をひねった。 右にすり抜けようとした敵機に振り向きざま力強い型から掌底を繰り出す。力のこもった動きから衝撃波が走る。「空波掌」だ! びしり、と尾翼に食らった敵の動きが鈍くなる。 「ここは羅喉丸さんに任せておけば大丈夫だね」 香澄、羅喉丸の鉄壁ぶりを見て安心すると振り返って大声を上げた。 「みんなも出てきた? 取り敢えずは手近なところの飛行機を狙って行こう!」 背中越しに、ふしぎとコクリが了解の親指を立てるのを見て戦闘空域を外れた。 「あの船……一緒に狙われてるんだ。守ってあげた方が後できっと有利になるはずだしね」 腰を落として足を踏ん張り、左へ急旋回。敵が一番多い加賀への敵爆撃ルートへ横合いからお邪魔する。 もちろん、敵たる加賀爆撃隊二十五機はこの動きに気付いている。 いま、香澄の駆るシャウラの赤い機体が真横から出てきて背後についた。 ぼんっ、と一機が火だるまになって墜ちた。 「後ろにつけばこっちのものだね……さあ、慌ててよ。こっちは範囲攻撃がないんだ」 香澄は余裕の位置につけているが、むしろ焦燥している。忍刀「風也」と陰陽刀「九字切」を抜き放ち操舵もしながら、「霊魂砲」を放っていた。符ではないのでリロードは不要だが連発はできないし、一撃一体の計算となる。加賀へ爆撃するまでに全滅は不可能だった。 敵機はいずれも翼を揺らせた。 明らかに動揺はあるがまだ統率は取れている。 もう一息の反応に、香澄の目が挑戦的に細められた。 「だったら、これでどう?」 翻る九字切。 振りかぶる香澄。 そして……。 「ファッ?」 「フライング……ワイトフォックス……」 ほとばしる「白狐」。 白く流麗な体でてんてんと空を駆け敵機を次々追い抜く。その姿を見た敵パイロットは一様に目をひん剥いていたという。 ――ゴシャッ! 白狐は先頭に追い付くと後ろから獰猛にかみつき姿を消した。食らった隊長機は翼をへし折られて墜落する。 「ナインテール……」 「ワイルドフォックス!」 パイロットはこれで錯乱した。 無理もない。 常識では考えられない攻撃が来たのだ。 化け物か? との思いがよぎる。 それが、背後につけているのだ。いつでも今のキツネに襲ってくださいと言わんばかりの直線飛行をしている自分たちのッ! 「よし、やった!」 香澄、多くの敵機が爆弾を投棄しつつブレイクする様子を見てようやく笑顔を見せた。顎を上げ、ぐんとシャウラの機体を上げる。 これからはドッグファイトだ。 ● こちら、香澄が外れた直後のチョコレート・ハウス空域。 「行くよ、コクリ、羅喉丸。船を守るんだ!」 星海竜騎兵に乗るふしぎの声とともに、彼の掲げた腕にばさあと光の団旗が現れる。掲げられた蒼き旗が、はためくマークが仲間に勇気と心の疎通をもたらす。 狙うは、羅喉丸が左右に散らした敵機二機。 「逃がさないよ」 コクリ、カンナ・ニソルを軽快に操り羅喉丸の一撃でふらふらになった敵に向かう。 「どうだっ!」 ――ぼんっ! 雷鳴剣でとどめを刺した。 「もう一機!」 ふしぎの奥義「空賊戦陣「夢の翼」」で動きが見違えるようになったコクリ、さらに左に逃げた敵も狙う。 その敵。 奥義発動で動き出しが一歩遅れたふしぎが狙っていた。 「可変翼の性能を見ろっ!」 星海竜騎兵の翼がたたまれ一気に加速すると、信じられないことに左に逃げた敵の前に通せんぼするように現れた。しかも、可変翼を広げて風をつかむことでドンピシャの位置で止まり敵に迫る! 「サーカスフライト?!」 敵パイロットの目は見開かれ、口をだらしなく開けて愕然としていた。 しかし、生死をかけて戦ってきた精鋭らしく反応はいい。 反射的に爆弾を捨てて、高度を落としてふしぎの突っ込みを交わしていた。 「くそっ!」 肩越しに見送るふしぎ。 ここで、別方向に気付いてわざと敵に見える位置に進路を変えた。 「大丈夫。ボクが……」 コクリがケアに突っ込んできていた。が、これもかわす。さすが歴戦。ふしぎの位置も見て安全な空域に移動した。 「フゥ……」 敵パイロット、ここで一息つくのだが……。 「残念だったな」 「オゥ!」 目の前に、頑鉄がドアップで迫ってきていた。同じくふしぎの奥義で動きがいつも以上にキレている羅喉丸だ! 羅喉丸、そのまま頑鉄に頭突きをさせた。 強烈な一撃で、敵機はバラバラになる。 「次はあっちだ!」 とどめを仲間に任せたふしぎ、そのままのんびりしていたわけではない。 戦況を見て、香澄が加賀を助けているのを確認。次に敵の多い蒼龍の方を指さす。 羅喉丸とコクリ、頷いて続く。 「間に合えっ!」 再び翻るふしぎの旗。三機が一直線に蒼龍に急ぐ。 「やらせないんだからなっ!」 「ダメ、間に合わない!」 ふしぎの魔槍砲「赤刃」が火を噴く。 が、敵は十七機。しかも爆撃手前まで来ていた。雷鳴剣を振るい戦うも限界を感じたコクリの声が響く。 「当てさせなければいいんだろう?」 ここで羅喉丸、発想の転換をした。 攻撃を捨てて、敵の爆撃ルートに立ち塞がったのだ。チョコレート・ハウス空域でとった戦法である。 これが図に当たる。 「シット!」 敵パイロットは当然、爆弾を抱えたまま頑鉄に体当たりするなどはできない。 わずかに突入進路をずらしてかわす。 間の悪いことに、ちょうど羅喉丸の塞いでいる空域が射爆地点だった。 敵の急降下爆撃はことごとく蒼龍を外した。どぉんどぉん、といたずらに海面で爆発し水しぶきを上げるのみだ。わずかにあおりを食らったり、突入のタイミングが遅く頑鉄を避けつつ的確に狙った爆撃を食っただけだった。 「羅喉丸さん、すごいよ」 コクリが嬉しそうに言って自由に空を飛ぶ。敵を次々に砕いていく。 一方、ふしぎ。 「遅い……駆け抜けろ星海竜騎兵、全てを切り裂く風になれ!」 風のようにもう一隻の空母、赤城に迫り急降下爆撃する瞬間の敵に魔槍砲をブチ込んでいく。 ぎゅん、と駆け抜けた後に爆発する敵機。 いや、赤城も数発食らっていた。 そしてこちらは、加賀。 「ん? 味方?」 空戦を続けていた香澄、敵急降下爆撃隊に気付くのが遅れた空母護衛の戦闘機の到着を確認していた。もちろん、香澄たちの活躍は見ている。敵としてではなく、友軍として認めているようだ。香澄の動きと対応するように飛び、敵を挟み込むなどしていく。 「んー、こっちの味方になってる飛行機たちの技量は素晴らしいね」 背後を取ればこっちのもの、とばかりに一機を撃墜しつつ、横についた味方のパイロットに親指を立てた。 ほかの空域も護衛戦闘機が戻り、協力して多くの敵機を撃墜した。 被害は赤城の中破、加賀と蒼龍の小破で済んだ。 ● 「協力に感謝する」 三隻の空母より北に離れて航行していたことで難を逃れていた空母「飛龍」を指揮する山口多聞少将は、大本営からの事前の指示に従い開拓者を歓迎した。 「これより敵空母艦隊に攻撃を加える」 南雲中将から指揮権を託されている山口少将、声を張り上げた。 「すまないが」 ここで羅喉丸、山口少将に聞いた。 「俺達について何か知っているのか? 俺たちは天儀の空を飛んでいたが、気付けば天儀の世界にはない鉄の船や飛行機が飛んでいるが……」 「安心するといい」 山口少将、力強く頷いた。 「諸君らはわが軍の『霊的国防戦術』の一環で陰陽術により召喚されたと聞く。長く召喚できて三時間程度と聞く。次の攻撃でともに出撃すれば帰還する必要なく元の世界に帰ることができると聞く」 加えて、あまりわが軍と長くいることは情報戦略上よろしくないとも。敵にはっきりと知られ研究され、同じことをされてはたまらないとの考えらしい。 「へえっ。こっちの世界にも陰陽術があるんだ」 香澄、そこに食いつく。 「とにかく、諸君らはともに敵空母攻撃部隊に同行し、大いに敵を混乱させてくれ。大きな混乱が術の成功につながると聞く」 「分かった。帰りたければ思いっきり暴れて乱戦にすればいいんだね」 ふしぎ、力強く頷いた。 「敵の空母の司令室もこの空母と似たような位置にあるのか?」 羅喉丸が聞く。 「諸君らの船も似たようなものみたいだな。世界が違えど、船の使いやすさを追求すれば変わることはないということか」 楽しそうに山口少将は答えるのだった。 そして、攻撃隊が飛び立った。 敵空母に到着する途中、敵機のインターセプトに遭った。 「ここは任せて。行くよ、君たち!」 香澄、出撃前に積極的に話をした味方戦闘機部隊に腕を振り上げ合図して突っ込む。 正面からの撃ち合いではほぼ決定的な打撃は与えられずブレイクする。 香澄、わざと敵の的になるよう動いた。赤い機体は目立つこともあり数機に背後を取られた。 が、すぐに味方が俊敏な運動性を見せ援護してくれた。 いや。もう一機背後に付かれたままだ。射線が来る。 「へえっ。味方は零戦っていったっけ……運動性、いいね。でも!」 ひとしきり感心した後、瞳に力を込め足を踏ん張る。 ぎゅん、と緊急回避。 ふわっと一瞬機体が失速したが、これを利用して宝珠噴射。一気に急旋回をして見せた。 「サーカスフライト?!」 敵パイロットは驚愕しながらなんとか離脱し距離を取る。 「まだまだ魅せるよ!」 香澄、弐式加速で逃げる敵の背後を取った。図太い精霊砲が一直線に伸び、敵機は分解しながら落ちていく。 こちら、爆撃隊の九九艦爆隊。 「またやられているが……」 背後の爆音は聞こえている。それでも羅喉丸は振り向かない。 「前を向くだけだ。香澄たちを信じる」 敵空母「ヨークタウン」は目の前だ。 背後では香澄と零戦六機が戦っているが、敵はF4F戦闘機十二機。さすがに数の差があり九九艦爆は十機を撃墜されていた。残る艦爆八機とふしぎ、羅喉丸が襲い掛かる! ――ドゥン、ドゥン。 空母に命中する爆弾。しかし、米空母はダメージコントロールに優れている。すぐに消火作業が進められる。 その時。 「場所を開けろ!」 羅喉丸の頑鉄が甲板に強引に着陸。敵甲板員はこの旧時代的な乗り込みに目玉が落ちるかというほど目をひん剥いて愕然とした。 その目の前で、ぼんっと鱗撒菱が散らさせた。今度は空中と違って正規の利用法。逃げる敵や寄ってくる敵の動きを阻害する。 「すり足で動け! 踏まなければどうということはない」 敵からそんな声を飛ぶのに瞳を光らせる羅喉丸。 次の瞬間、ドン、という大きな音と振動が甲板を襲った。地龍鳴動だ。 「ひぃぃ……」 これにすっかり戦意をなくし尻餅をつく敵たち。 ここで、冷静な指示が艦橋から飛んだ。 「何をやっている。敵は生身だ。遠くから一斉射撃を食らわせろ」 おお、と頑鉄を取り囲み一斉に射撃する甲板員たち。 一瞬で蜂の巣になる羅喉……いや! 「……その程度か?」 羅喉丸、両腕を顔の前で交差させ一斉射撃を耐えきった。 腕の影からぎらりと眼光が光る。 「では、次はこちらの番だ!」 「ひ、ひぃぃぃ!」 だっ、と頑鉄から飛び降りて間合いを詰める。今度こそ甲板員たちはパニックに陥った。 「何をやって……おわっ!」 上から必死に味方を落ち着けようとする艦橋からの声は、凍り付いていた。 艦橋横に、滑空艇が浮いているではないかッ! 「思いっきり乱戦、だったね」 ふしぎだ! まったく予期しない場所から機影が艦橋すれすれに飛んできたのだ。 「これでも取っておくんだぞ」 ふしぎが可変翼をたたんで海面すれすれを飛んで接近し、死角から一気に出てきていたのだ。艦橋横に滞空して片目を閉じ、魔槍砲を構えている。 「……空賊戦法一撃離脱!」 どうん、と一発。 そして霊剣「御雷」を引き抜きボーク・フォルサー。真空の刃を飛ばした後、一気に離脱する。 ごうん、と艦橋から煙が上がる。 「くそっ」 ヨークタウン艦長、エリオット・バックマスター大佐たちは艦橋から司令室を変えるべく移動した。 そして、立ち尽くし唖然とした。 目の前に、世界観の違う服に身を包んだ筋肉質の男が立ちはだかっているのだ。どさり、と気絶させた敵を横に放っている。 ばっ、と護衛が銃を構える。 「腕の立つ護衛が1人もいないとは不用心な。だからこういう目に会う」 羅喉丸、撃たせない。 一気に詰めて銃を弾き飛ばし、一人二人と気絶させる。そして敵艦長も。 この時、コクリ。 「急いで、八幡島さん。敵空母は大混乱してる。元の世界に帰れるかもしれないよ」 チョコレート・ハウス艦橋で八幡島副艦長をせかしていた。行く手には、煙を上げる敵空母ヨークタウンの姿がある。 「分かってるって、コクリの嬢ちゃん」 八幡島、敵戦闘機の攻撃を食らいつつもとにかく前進していた。 「コクリちゃん、大丈夫?」 「あっ。香澄さん。……攻撃されてもしばらくは大丈夫だからこのまま突っ込むよ。それより香澄さんはあの空母でもうひと混乱を起こせないかな?」 敵機を散らした香澄が心配そうに艦橋に近付いて声を掛けると、コクリからそんな声が。 「分かった。混乱なら任せておいて」 ぐっと親指を立ててヨークタウンへ。 到達すると、どぉん、と爆発するヨークタウン。煙突に誘爆したようだ。 「ついでにこれも」 香澄、消火活動の展開する甲板に白狐をくらわす。 艦橋はさらにどぉん、と揺れた。 「頑鉄、来たか」 『グォォ……』 何と、頑鉄が羅喉丸を探して艦橋の壁を破っていた。そして主人にチョコレート・ハウスの到着を知らせる。 「よし、戻るか」 「いま一番混乱してると思うよ」 頷く羅喉丸に、甲板すれすれを飛んで作業員を散らしたふしぎが声を張る。 「みんな、来たよ〜」 最接近したチョコレート・ハウスの甲板ではコクリが身をいっぱいに乗り出して手を振っている。どぉん、とヨークタウンからまた爆音。 この時、空から目玉のない闇目玉のようなものが現れた。 「コクリちゃん、上!」 香澄が指差す。 「来たな」 頑鉄に乗った羅喉丸も見上げている。 「よーし。みんな、天儀に帰ろう!」 ふしぎ、星海竜騎兵の宝珠をふかして急上昇。 香澄のシャウラもそれに寄り添うように上昇した。 ばさぁ、と羅喉丸の頑鉄も。 その背後で、敵戦闘機にやられて少し硝煙を上げているチョコレート・ハウスがずずず、と高度を上げる。 「うん、帰ろう!」 コクリの叫びとともに、闇の中へ――。 「はっ!」 コクリが気付くと、そこはチョコレート・ハウスの甲板だった。目の前には、香澄とふしぎと羅喉丸が立っている。 「ねえ……」 声を掛けると三人は振り向く。 「夢を見たような気がするが……味方だった空母はいずれも大破は免れたみたいだな」 羅喉丸がすがすがしく。 「僕たちの攻撃した敵空母は沈没したみたい」 ふしぎは誇らしそうに。 「ボクの話したパイロットたちは喜んでいたような夢を見たよ」 香澄もにっこり。 そしてコクリの表情を見て付け加えた。 「太陽はいつもの高さだよ。ここは、天喜の空」 「そうだな」 香澄の言葉にうなずく羅喉丸。 「なんか空を飛びたくなったな……ちょっと出てくるんだぞ!」 ふしぎはそんなことを言って滑空艇で飛び立った。 なんとなくその気分が分かったコクリ、香澄、羅喉丸もそれぞれの滑空艇と龍で続くのだった。 帰ってきた。 ここは、天儀の空――。 |