木製巨人ド・キーング
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/12/29 21:09



■開拓者活動絵巻

■オープニング本文

●木の七日間
 ここは天儀のとある森。
「なあ、変な音がしねぇか?」
 狩りに来ていた付近の村人が不安そうに仲間を振り返った。
「変って……イノシシか? イノシシなら狩れば……」
「いや、何かがこう……例えば大きな蛇が灌木をすり抜けながらやって来るような……」
 他の狩り仲間含め4人が、全員森の奥から聞こえる擦過音に気付いた!
 そして異音の正体を目の当たりにする。
「な、なんじゃこりゃーーーーっ!」
 がさがさ、どっぱーんと大きな音だけが響いた。

「俺か? 俺は、運良く斜面の近くにいてその瞬間に滑落したから命だけは助かった」
 神楽の都の開拓者ギルドで、奇跡的に生き残った一人が目の周りをくぼませうつろな表情で話している。
「異音の正体は、葛(クズ)のような大量なつるだ。まるで津波のようだった」
 視点は合っていない。ただ、当時の恐怖に打ち震えつつ抑揚のない声で伝えるだけだ。
「村は無事ですか?」
 ギルドの係員が聞くと、はっと気付いたように向き直った。
「森から離れているからまだ……それより助けてくれ。つるは倒木を使って巨人となって森で暴れているんだ。木を倒して……新たな体を手に入れてるんだ!」
「ちょっと待ってください」
 係員、ピンと来て資料から駆鎧の絵をいくつか見せた。
「そう、こんな感じの大きさです!」
 男はその絵に何度も頷く。
「……つまり、丸太を葛がアイビーバインドみたいに絡みついて引き寄せて木製の人型巨人を形作っている、ということですね」
 これで敵の正体も分かった。
 葛がアヤカシで、丸太を同体や腕にして合体し、葛自身が周りを被って必要な箇所では関節となり動かしているのだ。
「よし。駆鎧部隊を差し向ければいいだろう。問題は……」
 どうやって森に投入するか。
 村側から侵入して村方面に向かわせるのは危険だ。展開した状態で空輸し、頑丈な縄で縛ったまま下ろすのがいいのだろうが……。
 そこへ、中型飛空船「チョコレート・ハウス」艦長のコクリ・コクル(iz0150)が通り掛かった。はっと気付いて呼び止める係員。交渉開始。
 状況や作戦を聞いたコクリは素直に頷いた。
「うん。チョコレート・ハウスで駆鎧を運んで資材降ろし用の機材で村とは違う場所に降下させればいいんだね」
 快諾である。
 あとは駆鎧乗りなどを募るだけだ。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
猫宮・千佳(ib0045
15歳・女・魔
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
ウルイバッツァ(ic0233
25歳・男・騎
九条・奔(ic0264
10歳・女・シ
源五郎丸 鉋(ic0743
20歳・女・騎


■リプレイ本文


 飛空船「チョコレート・ハウス」は件の森上空を飛んでいた。
「降下作戦ですか〜〜。心躍りますね〜〜〜」
 甲板で森を見下ろしつつ、サーシャ(ia9980)が糸目でうふふな表情を浮かべている。
「うん。きっとカッコいいよね。ボクは滑空艇で周りの敵を偵察だけど」
 コクリ・コクル(iz0150)が背の高いサーシャを見上げて言う。これを見てサーシャ、さらににこにこ。
「うにゅ、コクリちゃん一人だと心配だからあたしもついていくにゃ♪」
 コクリの背後から猫宮・千佳(ib0045)が猫のように現れると、そのままコクリの背中に飛び乗ってだきゅりうにゅうにゅ。そんな千佳の頭に乗る相棒の仙猫「百乃」はひげをへにょんと垂らして『また空にゃか……』としょんぼり。
「おっと、敵が動いたぜ。……まだ木々の間に隠れてるが」
 横からクロウ・カルガギラ(ib6817)が船縁に身を乗り出すように前に出た。バダドサイトでしっかり索敵している。
「あれかい。木製巨人かな?」
 ライダーズスケイルに身を包んだウルイバッツァ(ic0233)が船縁に身を預け森を見下ろす。
「見えた」
 同じく船縁に張り付いていた源五郎丸 鉋(ic0743)が獣耳をぴくりと前にそろえた。
「やっぱり木製の巨人だね」
「葛は絡んでるかい?」
 答えた鉋に聞いたのは、軽やかに横に立ったフランヴェル・ギーベリ(ib5897)。
「これでもかというくらい絡んでる」
「ウッドゴーレム退治かと思ったら触手退治だったでござる」
 うなずく鉋。新たに九条・奔(ic0264)が前に出て森を見る。実に楽しそうだ。
「ふむふむ、蔓型アヤカシだと思えばいいですね」
 後ろの方ではアーシャ・エルダー(ib0054)が腕を組んで頷いている。
「そうだね。『人型』に惑わされると拙い事になりそうだ」
「蔓相手なら斬り落とすのが一番。集団で来られると厄介なので散らしましょう」
 風に短い髪を乱しながら振り向くフランに、腕組みを解いて前に出たアーシャが力強く言い放つ。
「根源が解らないというのもなかなか面倒な状況ですがそれ以上に面白い状況ですよね〜〜」
 振り向くサーシャは相変わらずの糸目で楽しそう。
「奴らも根くらいあるだろう?」
「葛には根があるしそれは大きな塊根になると聞く。敵は一体一体が別個の存在ではなく根や蔦で繋がった一つの個体かもしれないね」
 ウルイバッツァとフランがサーシャに向き直った。
「じゃ、仕留めたらそれの来た方向に進撃ね」
 うふふ、とサーシャ。
「おっと。敵は植物系アヤカシだ。再生能力やら絡めとりやらには要注意か? ボディの多くを態々丸太にした辺りも気に掛かる」
 それまで黙っていたリューリャ・ドラッケン(ia8037)が立て続けに注意すべき点を口にした。
「コクリ、見てよ! 蔦のアヤカシだって聞いたからチェーンソーを用意してきたんだからなっ!」
 後ろの方で天河 ふしぎ(ia1037)の声。相棒の人狼型駆鎧「X−FX『舞雷牙』」をすでに展開しほらほらと主兵装の武器を指さしている。
「降下作戦だろ? アーマー組は準備しててくれ。様子は俺たちで見ておく」
 時近しと感じたクロウが皆に言う。千佳とフラン、そしてコクリが頷く。
「コクリ、一定の低さに高度を頼むな?」
「うん。わかったよ、リューリャさん」
 念押しして駆鎧の展開を始めるリューリャ。
「僕は強行着陸できないから普通に荷物の様に下してもらうパターンだね」
 奔は反対側の舷に移動。こちらに荷卸し用の機材を設置しているのだ。敵の手前となる舷からは自力降下できる駆鎧部隊が飛び降りる手筈になっている。
「いいな〜、アーマーで飛び降りるの楽しそう」
 アーシャも機材から下ろしてもらう組で、後ろ髪をひかれながらの移動だったり。



 低空飛行を続けるチョコレート・ハウスが森の上空を外れた時、森の中ではその航跡を追うかのように木々が揺れさざめいていた。
 時折、低木域で木々を揺らす正体が姿を見せる。
 木製巨人は基本的に丸太を縦に束ねて胴体を形成しているが、たまに胴体を水平方向に束ねて胸部が前後に長い個体もいる。
「結構な数が寄ってきてるな。コクリ、行ってくる」
 クロウ、相棒の翔馬「プラティン」にひらりと騎乗し飛び立った。
「味方の降下中に敵の引き付け役が必要な状況だね。ボクも出よう」
 フランも皇龍「LO」に乗って飛び出した。
「うん。じゃあ降下作戦、開始!」
 護衛が飛び立ったのを確認してコクリが甲板員に指示した。横にいる千佳が振り向くと、反対側の舷にスタンバイしている奔とアーシャが頷いた。
「下されてる最中に襲撃くらって縄が切れて地面に落下! ってお約束は勘弁だね」
 奔、そんなリスクを想定しながら火竜改型駆鎧「KV・R−01 SH(ストロングホーク)」の操縦席に小さな体を滑り込ませた。
「本当は変形して空を飛ぶ事が出来るとか特殊な機構の兵装を装備できるとか……」
 ぶつぶつと妄想を巡らせてはいるが、操縦桿に手を添えるときりりと瞳を輝かせて面を上げた。まるで出撃の緊張感を楽しむように。
「鉋さんとふしぎさん、後でお願いしますね」
 アーシャは豪雷型駆鎧「ゴリアテ」のハッチに立ち前の二人に手を振る。鉋とふしぎが振り返り親指を立てると、長い髪を風で洗うように右手の甲で払いごつごつした駆鎧に乗り込んだ。
「よし、下ろせ〜!」
 甲板員の合図とともに荷捌き用の支柱が船体から翼を広げるように外に開いた。そこに縄で吊るされたストロングホークとゴリアテが船体側の滑車の動きに合わせゆるゆると下ろされていった。
「にゅ! コクリちゃん、敵が出てきたにゃ! すごい数にゃ」
 視線を森に戻した千佳がコクリを呼んだ。
「ほんとだ。あちこちから。どれも完全二足歩行だね」
 船縁に取り付くコクリ。森の外れ上空に達したチョコレート・ハウスに群がるように方々から木製巨人が集まっている。
『完全に着地を狙われてるにゃ』
 千佳の頭の上では猫又の百乃も叫ぶ。。
「大丈夫。こんなこともあろうかと用意した2号アーマーの出番なんだぞ! 空から空に泣く人の涙背負って、草木の始末なんだからなっ!」
 ふしぎ、舞雷牙のハッチにひらりと飛び乗った。機体に施した夢の翼のマークが陽光を跳ねてキランと光る。
「迅速起動。フリーゲシュテルメンでダイブ。そして効率稼動で戦闘開始」
 同じく陽光を跳ねたのは、小脇に抱えた美麗な兜「ヒルデグリム」。
「楽しくなりそうだ♪」
 すっとそのヒルデグリムを抱えて被ったウルイバッツァがいい顔でにやり。戦狼型駆鎧「スメヤッツァ」の背部ハッチから搭乗する。
「みんな、40秒で仕度するんだぞ……天河ふしぎ、X−FX『舞雷牙』出る!」
 ふしぎ、この間に船縁を踏み越えダイブ。ショックバリュートで落下・強行着陸のできる高度だ。
「駆鎧乗りの源五郎、参る!」
 ひらりとオーバーコートが翻り、長い髪の毛が白……いや、光を浴びて銀色に輝き踊る。鉋、人狼改型駆鎧「黒曜」に搭乗完了。青い機体が頭をもたげ、左目のみが光る。ぐらりと一瞬バランスを崩したのは左右非対称が故。しかしその反動を利用した動き出しから一気に船縁を超えてジャンプ。こちらもショックバリュートでの着陸を試みる。
「サーシャさん、リューリャさん!」
 巨体が通り過ぎた後に風にさらされながら叫ぶコクリ。まだ三機が甲板に残っていたのだ。
「敵がかなり接近してきたにゃ!」
 千佳も振り返って緊急事態を伝える。
「それじゃ、そろそろかしらね〜〜」
 サーシャ、戦狼型駆鎧「アリストクラート」の背部搭乗口にたたずみのんびりしていたが、この報を待ってましたとばかりに真珠色に金色縁のカラーリングを施した機体に乗り込む。
「そんじゃ、とりあえず皆が降りれる用に露払いしてくるわ」
 同じくリューリャも白地に金色縁の戦狼型駆鎧「RE:MEMBER」に乗り組んだ。起動の瞬間、肩や膝など要所に多数配した翠玉のような装飾が輝き、同色の髪の毛のような後部パーツが風になびいた。
 その二体の真ん中から、ウルイバッツァ機が走る。サーシャ機、リューリャ機もこれに続いた。
 ――ダンッ。
 船縁で踏み切る三機。
 その下で、ちょうど旋回して戻ってきたフランのLOとクロウのプラティンが弧を描き交差するように方向転換していた。もちろん踏み切った三機を見上げている。船の影から陽光の中、三角編隊に後光が差す。
「これは……」
「壮観だな。良いものを拝ませてもらったぜ」
 息を飲むフランに、意気に感じるクロウ。改めて下を見ると先行したふしぎ機、鉋機がちょうど大地に着地しようとしていた。
「ショックバリュート!」
 操縦席で叫ぶ鉋。
 瞬間、大量のオーラが機体下部に噴射された。
 ――ドシ……ン。
 めいっぱい身をかがめて平原に着地。外見的機体損傷はない。ぐぐっ、と衝撃に耐えるように姿勢はそのまま。
「よし、動く」
 顔を上げる鉋。それに応えるかのように顔を上げる黒曜。いける、という手ごたえ。
 しかし、この時すでに敵の巨人は目の前に迫っていた!
 その数、多数。
 一体のみの鉋機、絶体絶命!
 この時ッ!
 上空から一陣の風。
 翔馬が空を疾駆して先頭の突撃を止めるべくその前方を横切った。
「させねぇぜ!」
 鞍上はもちろん、クロウ。宝珠銃「ネルガル」を構え一撃離脱。これで敵はたたらを踏んだ。
「さて!」
 ほぼ同時に上空から咆哮一喝。
 これで後続の敵も突撃の足をいったん止めて上空を見た。
 LOのフランだ。
「……遠距離攻撃手段は持っているかな?」
 鑽針釘を放って上空に逃げる。
 キランと輝いたのは、一瞬。
 入れ替わりに三角編隊を組んだアーマーが落下してきたッ!
「降下強襲」
 にやり、と操縦席で口元が緩む。
 ウルイバッツァ機が大量のオーラ噴出で落下のエネルギーを……。
「前に叩く」
 着地せずに前方に滑り抜ける。振るったアーマーアックス「エグゼキューショナー」の斬撃に降下エネルギーが乗った形だ。
「落下の勢いを載せて……」
 こちらはリューリャ機。三角編隊右翼から接地前にオーラ噴出して右に体を捻った。そちらから近寄っていた敵にこれで正対した。
「一太刀」
 どしっ、と相棒剣「ゴールデンフェザー」が敵の掲げた腕に深々と刺さった後、関節をつなぐ葛をぶっちぎって吹っ飛ばした。着地直後の体勢確認もなく、いきなりの斬撃。
「……ぴったり真下に敵がいたら攻撃力も増大したのかな?」
 着地点から少しずれていたことに残念がりつつも楽しそうに一連の動きの手ごたえを楽しむリューリャだった。
「ダイレクトアタックだったらもしかして、敵への着地相当のダメージだけはこちらにも来るんですかね〜〜」
 左翼のサーシャ機もほかの二機と同じくフリーゲシュテルメンで着地。さすがに敵の頭上に落ちるなどということはなかったが、接地と同時にチェーンソーが唸りを上げた。さらに青白いオーラが立ち上り、練導機関が唸る!
 これを見て敵は両腕を掲げ防御姿勢。
「無駄ですよ〜〜」
 サーシャ、敵の組んだ腕ではなく曲げた肘の関節を狙った。ギャギャ……と音がしたかと思うと左腕が飛び散るのだった。
 さらにこの直前、ふしぎ機も着陸の体勢立て直しを完了していた。
 いや、正確には崩れ掛けた姿勢をポジションリセットを活用しつつオーラ噴射で前転しつつ敵の前へと移動していた。
 立てた膝と同時にチェーンソーの起動音が響く。
 ――ギャーン!
 敵、起き上がり際の一撃を胴体に受け木片と切れた葛をまき散らしながら後に体勢を崩す。
 きっ、と顔を上げた舞雷牙。
「空らの奇襲なら、誰にも負けないんだからなっ……舞雷の牙、お呼びとあらば即参上!」
 立ち上がりそそり立ったところでふしぎが叫ぶ。
 その横でどすん、と獣大剣「岩砕」が敵の腕を吹っ飛ばしていた。青い機体は鉋の黒曜。ふらっとバランスを崩したかと思うと岩砕を肩に担ぎぴたりと見栄を切った。「伊達や酔狂でこんな姿に改造した訳じゃないのさ」
 ふしぎ機の隣にそそり立つ。
 その前と左右にはさらに、敵を蹴散らしたウルイバッツァ機、リューリャ機、サーシャ機が足を踏みかえ前を向き、ぴたり。
 降下部隊、揃い踏みだ。
 いや、大回りしている敵もいるぞッ!
「吊り下げ部隊、気を付けろ!」
 上空のクロウが叫んだ。
 両翼から大きく迂回接近していた部隊が奔機、アーシャ機を狙っていたのだ。
「突っ込んでくれないか、LO」
 片方はフランが察知していた。皇龍で敵上空を横切ると半身で振り向いた。
「一体だが仕方ない。食らえ、轟嵐牙!」
 フラン、渾身の自己奥義!
 回転切りなどを応用した練力の刃を縦横無尽にまき散らす。
 これで片側はひとまず止めたが……。



 時は少しだけ遡る。
「来てるね来てるね〜」
 宙ぶらりんのストロングホーク内部で奔がいらだっていた。まだ着地しないのに味方の防衛網の左右から敵が接近しているのをしっかり視認している。
 が、ここできら〜んとメガネが輝いた。
「ひゃっはー!」
 操縦桿を突然わしわしと動かした。ぐらんぐらんと機体が揺れて……。
 ぷちん、と吊り下げフックが外れて落下した!
「敵がどうのの前に、まずは着地! 丸くなれば耐えてくれる」
 ――どしん!
 脚部に負担がかかり赤い機体がごろんと転がったが、むしろそれが良かった。奔、幸運には比較的恵まれやすいか。
 しかし、衝撃は逃げたが敵からは近くなった。
 がしん、と敵から殴られた。
「もともと普通に突撃突貫あるのみ。本体どうのう前にまずは巨体を砕く事から始めよう!」
 奔、正面からの削りあいに応じた!
 燃え上がる炎の形を角を装着した機体前部を正対させてゴリゴリと前進。
 ぶうん、と敵の前腕部が大きく弧を描いて横合いからヒットしぐらつくが、再び正対して突貫。
 いや、がしりと掴まれて止まったぞ?
「わが生きざまを見よ! FIRE!!!」
 宝珠が吹いて脚部がうなる。見よ、これが火竜型の、魂の直線一気。ラインダートだッ!
 ざざざ、と敵も抱えたまま踏ん張るがもともと葛型が組み合わせたかりそめの巨体。大地を削る足から、抱える腕から五体が分解した。
「あとは触手。……ひゃっは〜、汚物は消毒だ〜〜〜〜!」
 奔、目つきがすでにヤバい感じだがやってることは……これまた火竜型の魂、「火炎放射」。前部砲口から炎を吐いて葛を焼くッ!

 この少し前、同じく吊り下げ組のアーシャは、しっかり着地してから身をゆすって吊り下げフックを外していた。ちょうど味方駆鎧が前方で揃い踏みしている。
「お待たせしました、集団で来られると厄介なので散らしますよっ」
 ゴリアテ、アーシャの気概そのままに二列目から一気に前に出た。
 シャキーンと掲げるは、巨大な刀身にドヤ顔で剣を抜き放つもふらが描かれた剣。
「見た目はアレですけど、性能はそこそこいいですよ!」
 吠えながら、予期しないアーシャの登場にうろたえる敵に殺到する。
 ――ザックリ!
 前腕部を失っていた敵の胴体を袈裟に切り結ぶ。ばらっと組み上げていた巨体が崩れた。
「どうです、可愛いでしょう?」
 お金がなくてこれしか買えなかったとは言わない。これぞ、これぞ「聖剣」の威力。その名も、誰が呼んだか聖剣もふらカイザー。
 この時、敵は最前列に出てきていたアーシャ機に狙いを定め殺到していた。
 孤立するピンチ。
 しかし、先に掲げていたもふらカイザーは伊達ではない。
 ある作戦の合図になっていたのだ!
「了解、トライスターアタックを仕掛けよう!」
「トライスターアタック、抜けられると思うなよ!」
 ふしぎ機と鉋機がアーシャ機に続いているっ。コードネームは、三連星。
 いま、敵を粉砕したアーシャ機を両翼から追い抜き、左右からアーシャを狙っていた敵に突っ込んだ。
「唸れチェーンソード!」
 敵の背後から見ていたら、大きな激突音の次に目を疑ったろう。
 ごぱーん、と木製巨人をバラバラにして、ぐんと舞雷牙がドアップで抜けてきたのだから!
「新たな腕を取り込んで飛ばしてくるのは想定済みだ!」
 反対の鉋は、前腕部を失った敵が手近にあった岩に葛を絡めて新たな腕とし、ハンマーとして飛ばしてきたのを食らっていた。が、慌てない。半身で食らって、その勢いを利用して回転し……。
「岩砕!」
 獣大剣で体重を乗せたサイドスイング。この衝撃に耐えきれず敵は分解した。
「回転を利用するのはいいな」
 リューリャは自機に絡んだ葛に、これ幸いと敵の腕を掴んだ。ぐん、と腰を落とすと敵は前に体勢を崩した。
「大きさは一緒でも鉄の塊と木の塊じゃ……」
 そのまま体重差を生かして敵を振り回す。
「重さが違うよ!」
 そして、ぶうんと投げた。新たに向かってきた敵に向かって。
 次の瞬間、リューリャ機の武器がオーラを纏い振り抜きショット。さらに機体後部の練導機関が轟くっ。設計以上の出力で練力を大量消費しつつ、我が身を弾丸とするかのように武器とともに折り重なった二体に突っ込んだッ!
 ぶしゅう、と大地にめり込むように大の字になる二体。RE:MEMBERも覆いかぶさったまま動かない。
「……あいつが創ったこの駆鎧…そう簡単にやられるような柔じゃないぜ?」
 いや、動いている。小さくこぶしを振るって、ぴくぴくと断末魔のうごめきを見せる葛アヤカシに倒れかかったままとどめを刺していた。
「接近戦だけじゃないぞ!」
 こちら、ウルイバッツァ。分解した敵の丸太を超えるようにオーラショックホバーで浮きあがり駆け抜けていた。敵にからめとられそうになっていたのだ。
「嵐を纏え、プラティン!」
 代わりに敵に取り付いたのが、クロウ。翔馬の瞬間移動であっという間に敵の前に出て不意をつく。
 いや、それだけではない。手綱を放して名刀「ズルフィカール」をしっかり持ち、敵の周囲を駆け巡る。
 ――ばらっ……。
 あっという間に敵の四肢を切り落とし、敵を崩す。
「やるねぇ……おっ?」
 駆鎧斧でオーラショットしていたウルイバッツァ、前に向き直ったところを敵にがっしりと抱えられた。
 そして激しい衝撃に見舞われたッ!
 なんと、丸太を水平にした敵巨人は、その丸太を破城槌のように打ち出したのだ。
「そうきたかぁ♪」
 なんとウルイバッツァ、口元を手の甲で拭って楽しそうだ。
 この後、回避を重ねて優位に立ちこれを討つ。
「花粉攻撃なんかはないんですね〜〜。掲げた盾に絡めてくるのは予想通りですが〜〜」
 サーシャは盾に絡んだ敵の葛を右手のチェーンソーで断ち切っていた。落ち着いている。
 その向こうでは、アーシャが鉄鎖腕砲で敵に反撃。これを葛でからめとられているが……。
「ふふふ、お互いに硬直状態でしょうけどもそれが狙いなのです」
「なんだか呼ばれているような気がするね……天歌流星斬!」
 アーシャ機が見上げる方に、LO。フランがそこから流星となり一直線に飛んできて殲刀「秋水清光」で敵の関節をずたずたに切り伏せた。

 一方、コクリと千佳は滑空艇で森の奥にいた。
「百乃、何か怪しいのがないか調べるのにゃ♪」
『猫使いが荒いにゃ〜』
 そんなこんなで百乃、猫心眼。
「うに?」
 おっと、百乃をよそに千佳が何かに気付いた。
「どうしたの、千佳さん?」
「あそこ、木が変な風に動いてるにゃ。絶対に動物とかじゃないにゃ!」
「よし、行ってみよう!」
 千佳とコクリが急行してみると、葛アヤカシの大群がいた。
「あれを倒せばいいのかにゃ? 植物なら燃やしてしまうのにゃ♪ マジカル♪ファイヤーにゃ!」
「ボクはみんなを読んでくるね!」
 やがて、敵の木製巨人を倒した味方駆鎧が大挙してやってきて……。
「ひゃっはー消毒だ〜」
 と言ったのは奔だけだったが、根を探していた当初計画通り、根源からの討伐に成功した。