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■オープニング本文 「さてさて、拙僧もいよいよ神楽の都に行って日来密宗の名を広めたいと思う次第」 ガタイのいい武僧がニコニコしてボタン鍋に箸をのばしながら話した。 名は参帽(さんぼう)。日来密宗(ひらみしゅう)という、名も広く知られていないような宗教の僧である。 「神楽の都ですか……」 対面に座り一緒にボタン鍋をつついているクジュト・ラブア(iz0230)はやや渋い声を出した。 それもそのはず。浪志組観察方のクジュトは、その立場を改めて隠すために神楽の都から姿を消していたのだ。 「クジュト殿のミラーシ座は神楽に腰を据えて活動しておりましたな。何かこう、妖怪退治の話などありませんかな?」 面妖な話であればあるほど、退治した時の拙僧の名が高まりますな、とつまんだ猪の肉をパクリ。 「都会ですからね。なかなか」 クジュト、いなしておいてネギをパクリ。 「あいや、噂程度で結構」 「とはいえ、厄介な妖怪でも大丈夫なんですか?」 身を乗り出す参帽に眉を潜めつつ聞いてみるクジュト。 すると参帽、ニヤリ。 「もちろん。……ただし、本当に厄介なのはむしろ噂だけの方がいいですなぁ。拙僧が念入りに読経して、お終い。妖怪がもう出ないような噂話はこれに限りますな」 クジュト、とがめるような視線に変った。 「あいや、待った! 実害が長いこと息を潜め不安だけ残っているような妖怪話の場合、民の求めているのは安心です。病は気から。妖怪も気から。住まう民の心が健やかになれば、噂も晴れるのです」 ま、一理あるかと納得するクジュト。そしてすぐにピンと来る。 「そういうのでいいなら……『おいてけぼり』の噂話は神楽の都で聞いたことがありますねぇ」 「ほうほう、詳しく詳しく」 クジュトの曖昧な話に激しく興味をそそられる参帽だった。 おいてけぼりとは、ある貴族屋敷周りの堀で夜中にこっそり魚を釣ると帰りに「置いて行け〜」という声と共に亡霊が出て魚ではなく魂を持っていかれるという怪談だ。 「……という怪談ですがね、これは実話ですよ」 神楽の都にこっそりと戻ったクジュトと参帽、早速希儀風酒場「アウラ・パトリダ」でもふら面の男と落ち合い「おいてけぼり」の話をするとそんな言葉が帰ってきた。 「ほうほう、実話」 「本当ですか、もの字さん?」 もふら面の男に身を乗り出す参帽とクジュト。 「本当ですよ。……それよりクジュトの旦那。変装はいいですがシャオナハットさんに変装すると恋人さんが腹を立てるかもですよ?」 「う……折角身を潜めて私の気配を消してたから」 女装していたクジュトに突っ込むもふら面の男だが、これは余談。 「それより『おいてけぼり』。これ、本当は『おいていけ』という怪談でした」 おいていけとは、ある賭場近くの細い裏路地のことだという。賭場で大勝した者は追いはぎに狙われることもあり、そういった者の通り道のこと。その追いはぎが、一人しか通れないような裏路地やその出口付近でなくなっていることが多くその名が付いた。他にも、ならず者の組織が内部粛清をするための処刑場にしているという噂もある。 「つまり、街中にそういった裏路地があることをごまかすために『おいてけぼり』の話と混同させたという説が裏の社会じゃ有力です」 説明したもふら面の男が肩を揺らす。笑っているのだ。 「ほうほう。で、『おいてけぼり』の場所か『おいていけ』の場所が分かれば喜ばしいですな」 参帽、先をせっついた。 「『おいてけぼり』はよく知らんです。……が、『おいていけ』は」 「『おいていけ』は?」 ぐぐっ、と身を寄せる参帽。 「最近死んでます。……古くからいる者であそこで闇討ちするならず者はいないので、流れ者の集団でしょう。細い路地の出口になる広間で、無数の手のあざを体中につけて息絶えてました」 「手のあざ?」 クジュト、念を押す。 「ええ。現場の足跡から判断して、浮遊型のアヤカシが絡んでいるのではないかと噂されています。……それもおそらく、手だけの幽霊ではないかと」 「開拓者ギルドは何て言ってます?」 クジュトの言葉に、面をずらして酒を飲んだもふら面の男の口が笑った。 「何も。この事件は裏の社会の者で始末されています。死体の検分もしかるべき筋ではされていません。事件自体が闇に葬られますね」 「どうして」 ここでもふら面の男、寂しそうに肩を落とした。 「その方が都合がいいんですよ。闇の世界ではね」 「ということは、問題解決しておいた方がいいでしょうね」 クジュト、冷たく言うと席を立った。 「お? 仕事かい?」 ここで、離れた席で聞いていた眼帯の男が黒い羽織をクジュトに投げた。 「はい。浪志組、出ます」 「ほう? 旅芸人ミラーシ座の座長と聞いてましたが」 ばさっ、と黒地に赤のだんだら羽織を着たクジュトを見て参帽が驚く。 「ま、いろいろあるのさ」 クジュトに羽織を投げた男、回雷(カイライ)が楽しそうに言う。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
ニーナ・サヴィン(ib0168)
19歳・女・吟
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟
綺堂 琥鳥(ic1214)
16歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ● 希儀風酒場「アウラ・パトリダ」に響いていたハープの音色が、止んだ。 「人がロマンチックな曲を演奏してるっていうのに情緒もヘったくれもないわね」 演奏を中止した酒場の吟遊詩人、ニーナ・サヴィン(ib0168)も眉間を寄せて立ち上がった。 「おいていけ……悩むと老いが進む。悩みも老いも置いていけ」 酒場の占い師、綺堂 琥鳥(ic1214)も占いを切り上げて腰を浮かせた。 「ビオス、休憩貰うわよ」 ニーナ、店長のビオスに言い残し店を出る。 「手の幽霊……最近、この手の依頼を受けることが多い気が……」 琥鳥も店員のセレーネに「行ってきます」の意を込めた会釈を。 「ああ。頑張っておいで」 「行ってらっしゃい」 ビオスとセレーネが、出動したクジュト・ラブア(iz0230)を追った二人を見送る。 クジュトはすでに店の外に出ていた。 慌てた様子に、のんびり店に入ろうとしていた男が「おや」という感じで止まった。 羅喉丸(ia0347)だ。 「クジュトさん、参帽さん、お元気そうで何よりだ」 「おお、羅喉丸さん。ちょうどいい。ちょっと来てください」 「え?」 羅喉丸、クジュトに拉致られた。 その隙にニーナと琥鳥が追いついた。 「ちょっとそこの美人さん」 「おわっ」 げしり、とニーナがまだシャオナハットの変装が残るクジュトの背中を蹴った。 「私の演奏、タダ聴きなんて許さないわよ?」 「いやニーナ、仕事が……」 「分かってるわよ。はいはい、またユーレイね、もー飽きたわ慣れたわ……あっ!」 畳みかけていたニーナ、ある人物が店に入ろうとしているのに気付く。 どうやら吟遊詩人だ。 「クジュトが羅喉丸さん拉致るなら、私はケイウスさん拉致ろうっと」 「えええっ! いったい何?」 近寄っていたのは、ケイウス=アルカーム(ib7387)だった。 「幽霊より誘拐の方が怖い……かも。誘拐が愉快なんてゆうかい」 ぼそっ、と琥鳥がつぶやく。ちなみに琥鳥は噺家ではなく占い師である。念のため。 「ちょっと! 幽霊がなんだって?」 琥鳥の言葉にケイウスの様子が明らかにおかしくなった。慌てている。 「へええっ。幽霊なの? おもしろそうじゃない」 逆に楽しそうに寄ってきたのは、偶然通りかかったリィムナ・ピサレット(ib5201)。 「困りごとがあるなら手を差し伸べないとね」 ふっ、と微笑しフランヴェル・ギーベリ(ib5897)も姿を現した。ちなみにこちらは偶然通り掛かった訳ではない。リィムナを……おや、フランがこちらに冷たい視線を送っているようだ。 「とにかく急がねぇか。いつまでも月が出てるとは限らねぇぜ」 「あら回雷さんお久しぶり。夏以来ね?」 クジュトについている回雷が急かすと、ニーナがにっこりと何か言いたげに。というか、言うんじゃないわよ、というところか。 「どこかに行くなら急ぎながら話してくれないか」 羅喉丸の言葉に頷いたもふら面の男。 現場に急ぐ。 「そうか……。不の感情が貯まれば、いずれ怪談などと言ってはいられなくなるか」 走りながら説明を聞き、羅喉丸がわずかに気を落とした。 「それにしても……フフッ」 隣で聴いていたフランが妖しく微笑している。 「人の体を触ることに執着するとこういうアヤカシになるのかな?」 「フランさん……」 日頃のフランの所業を知ってるリィムナ、つっこまざるを得ない。 「大丈夫♪ ボクは触るだけじゃないから」 にこりと返すフラン。 「そ、それより抜け道は狭いから誘い出す必要があるんだろう? それは誰が……」 おや、ケイウスはえらくそこにこだわっているよう……おっと、ケイウスがこちらに向いて「しーっ」と言わんばかりの視線を以下略。 「あら、ケイウスさんがやればいいじゃない」 ニーナ、あっさり言い放つ。 「ちょっと、何で俺が」 「あら」 慌てるケイウスを、ぱちくりと見返すニーナ。 「言ったでしょ? あなたは私に誘拐されたんだから言うこときかないと」 「クジュト、ちょっと……」 「クジュトさんは羅喉丸さんを拉致ったでしょ? 筋が違うわ」 「琥鳥、何か言ってくれ」 ケイウス、ニーナ相手では押し切られてしまうと慌てて琥鳥に助けを求める。 しかし。 「愉快」 琥鳥、一言。 「はい、決定」 「どこが決定だーっ!」 「いいよ、俺一人でやろう」 盛り上がるニーナとケイウスに、見かねた羅喉丸が落ち着いた声を挟み込んだ。 「じゃあボクが引きつけ役をやろう。誘い出した先は広場だというし」 「そうですね。お願いましす、フランさん。表は回雷がにらみを利かせて立っていれば一人で済みます」 フランの申し出に頷くクジュト。 「きっちり治すから頑張って耐えてね」 「何と何と、耐えるのが前提ですか」 気軽に言うリィムナに参帽がほろり。 「羅喉丸、ありがとう……礼は言わないよ」 ケイウスの方は心底ありがたそうだ。 「……言ってるじゃないのよ。腹の底から安心したような声で」 「言わぬが腹……違ったかも」 楽しそうニーナと、言葉遊びを楽しんでいる琥鳥。 やがて現場に到着し、抜け道の表側と裏側に分かれた。 ● 「いいか?」 抜け道の入り口で回雷が振り返った。 「ちょっと待ってくれ」 羅喉丸、服を脱いでいた。 「おい」 「いや、完全武装では怪しまれるだろう」 何やってんだという視線にそう答える。脱いだ残無の忍装束を裏返している。 「アヤカシが怪しむなんてするかどうかは知らないが、ごれなら普通の人に見えるだろう」 裏返しに着ると、質素な作業気風の出で立ちになる。さすがは忍び装束。拳に巻いた神布「武林」もほどいて懐に隠しておく。 「普通の人にしちゃ体つきが良すぎるが」 「行ってくる。……闇は払わねばな」 茶化す回雷を背に、使命を感じた瞳を上げ板塀に挟まれ暗く狭い「おいていけ」の抜け道へと入った。 「これは」 ぞくっ、とする気配を背後から感じた。 ただし、羅喉丸は歴戦の開拓者。様子をうかがっている気配だとすぐに理解する。こういう場合、止まるか振り返るかが戦闘の合図となることも。 少し、足を速める。 気配もついてきた。 「しかも増えている……」 増えた気配。さらに速まる足。ついてくる気配。しかも進むにつれ増える。速まる足。ついてくる気配……。 「勘弁してほしいな」 さすがの羅喉丸もついにそうこぼした。例えて、背負っていた荷物が背丈の倍以上に増えてしまった感覚におそわれているのだ。どっしりと! そして通路はあと少し。 だれしも油断する地点で、羅喉丸もついやってしまった! 「しまった」 足が、気配を振り切るくらいに早くなってしまったのだ。 背後から無数の殺気が感じられた。 しかし羅喉丸、慌てない。 騒ぎもしない。 視線の左右で、自分の肩を掴もうとする白い半透明の手がいくつか見えたような気がした。 その瞬間。 ふっ、と羅喉丸の体が少しだけ前に瞬間移動した。 瞬脚だ。 手のアヤカシたちはさらに追う。少しの間合いはすぐに詰まる。 が、今度は羅喉丸、大きく踏み出した。今度の瞬脚は長い。誘われるように敵は激しく追う。 そのとき、手のアヤカシたちは気付いた。 ぎょ〜ん、と「怪の遠吠え」が聞こえていたことを。そして耳慣れた音とは裏腹に、ここが自分たちの領域から大きく離れていたことも。 そして左右から聞くことになるっ。 「そこまでです」 「そこ待て……です」 「たくさん連れてきたね、羅喉丸さん」 横から姿を現したクジュトや琥鳥、フランヴェルの声を。 「うわぁ、数が多いよ。気をつけて!」 もちろんケイウスもいる。 「かっくにーん。まだ裏路地から障気の流れを感じるよ」 「あら。それじゃもうちょっと『こっちに怯えた人間がいるよ〜エサがたくさんだよ〜』な曲をやっときましょ」 片眼鏡「斥候改」で羅喉丸の出てきた路地奥を確認するリィムナ、クーナハープで「怪の遠吠え」を奏でているニーナもいる。もちろん参帽も。 ――ざっ。 そして瞬脚で突っ切っていた羅喉丸が振り返る。 すでに「おいていけ」の路地を抜けて行き着く先の広間に出ている。しかもその奥まで。 ついてきた手のアヤカシは列を成し、その左右を仲間たちが固めている。 縦深陣からの、見事な包囲が完成していた。広間に出てすぐに止まらなかった判断が光る。 「おいていけ、か……」 羅喉丸、懐から神布「武林」を取り出し拳に巻く。 「勘弁してほしいな」 一歩踏み出し、崩震脚。 戦闘開始だ。 「ひいい! アヤカシだああっ!」 突然、そんな悲鳴が響く。 「フランさん?」 振り返るクジュト。視線の先ではフランヴェルが恐怖の表情を浮かべ大げさに怖がりながらやや引いていた。 「きゃー、クゥ〜。きゃー!」 ニーナも怖がりながらクジュトの後ろに逃げてきた。 「ちょっと、ニーナも……」 仲間の様子にうろたえるクジュト。この間にアヤカシはぐおお、と一斉にフランに迫り肩や腕にがっしりと手を掛けた! 「あぐぁっ…ひぎぃっ…」 天に喉を差し出すように仰け反り敵の握力を食らうフラン。苦しそうな喘ぎとともに耐え……いや、恍惚の色があるぞッ。 「……大丈夫、こいつらが全て実は幼女なんだ、と思えば」 悲劇の主人公のように自らの身を抱くようにしたその時! 「クジュトさんも下がってね〜。……きっちり治すから頑張って耐えてね、フランさん♪」 広場奥からリィムナが手を振る。 「そう。ボクの前には味方がいないようにね……」 ふっ、と顔を上げるフラン。最初の悲鳴は敵を引き付ける咆哮だったのだ。 「そろそろかな。フランさん、ピンクの薔薇の花束ね♪」 リィムナ、続いて愛束花をフランに投げた。回復と、何より自分が瘴索結界「念」で調べた結果を伝えるために。 「もう敵は全部出てきた。……は、早く倒そう、すぐ倒そう!」 抜け道に近い方からケイウスのもう我慢の限界的な、切羽詰まった声が聞こえる。 「もう、寄せは止せ」 攻勢に転じるべく引き気味に位置していた琥鳥も前掛かりになった。 そしてフランは、感極まっていた。 「触られまくっても……むしろ快感だ♪」 何を想像していたか、というか明らかに幼女におねだりされてたと想像してたに違いないが、勢いで上着の陣羽織「鷹虎」を脱ぎ捨てた。 「フッ、お嬢さん達。いつまでも戯れていたいが仕事なのでね」 フラン、ついに殲刀「秋水清光」を抜き放った。 「……受けよ! 奥義・轟嵐牙ぁっ!」 裂帛の気合いと共にを華麗に振るう! その縦横無尽の軌道で刀に纏った練力の刃を無数に飛ばし、金色の軌跡を残しつつ前方広範囲に集まった敵すべてに食らわせた。 ぶしゅう、と手首から血が噴き出すように黒い瘴気となって敵が散る。 ● 「ん、海でも似たようなアヤカシ居たような……。ともあれ、おいていくのはアヤカシの存在……。存在を老いて……もとい、置いていけ……」 羅喉丸の突っ切った線の反対側でフランが暴れれば、こちら側からは琥鳥が鞭「インヴィディア」を振るって暴れていた。ラティゴパルマの技で大きく鞭を振るっている。 「数が多くて厄介……。厄介だけどやるしかない……。出来れば並んで倒されに来て欲しい……。楽だから……」 「琥鳥! 怪談なんて噂話で十分、アヤカシは退場してもらうよ!」 いきなり脱力したような感じの琥鳥に不安を抱き、後ろに下がっていたケイウスも前掛かりとなる。仲間を見捨てるようなことはしないのだ。詩聖の竪琴を構え、奏でるは「魂よ原初に還れ」。ぽんっ、と内部破裂するように敵アヤカシは消し飛んだ。 が、これが仇となる。 「ふぅ。心底ほっとするね……」 「その範囲は私の領域……。霊域、領域、料理一気……。……範囲内ならやらせはしない……」 消えたときに発した黒い瘴気で見えにくくなっていたが、まだ寄せきってなかった残敵が一直線に迫っていたのだ。もちろん迎撃に琥鳥が踊るように詰めるがすべては仕留めきれない。 一体、琥鳥の領域を抜けてケイウスの腕を掴んだ! 「おいおいおいっ! 勘弁してくれ〜!」 ケイウスは本気の慌てっぷりを晒したが、運良く見ている者はいない。慌てているのはどうしても演奏に時間がかかってしまうこと。顔色を変えて必死に演奏する。 「これで叩き落とせれば!」 弾き切って、「重力の爆音」。敵の動きを止めるどころか、十分これで倒してしまったが。ほっと一息つくケイウス。 一方、こちらでも。 「ぎゃー! こっちに来たじゃない。いぃぃやぁぁぁ!! 手!! 手がたくさん!! 呪われるー! 殺されるー!」 「黒猫白猫」を演奏していたニーナは、横から接近してきた手に掴まれて悲鳴を上げていた。そりゃもう、いままでの悲鳴よりもえらく迫真の。 「ニーナ、落ち着いて。あと一体だから」 クジュトが振り返りニーナを掴んでいた手を切り捨てる。 「怪談は夏だけにして欲しいな」 さらにその背後を羅喉丸が瞬脚で守り、空波掌。範囲攻撃の崩震脚で自分についてきた敵を一掃し、今度は前に出てきたのだ。 「空に逃げようとしても無駄だ!」 やや斜め上からの声は、フラン。天歌流星斬で高度を上げた敵に突っ込んで切り結んだのだ。 「このくらいのお触りじゃ感じないよ」 フランの元いた場所には、リィムナ。「魂よ原初に還れ」を歌うと同時に敵に掴み掛られていたが涼しい表情を見せる。 「逃したりはしない……。敵前逃亡は死罪……。私財で資材を買って死罪に……。……というわけで倒されて……」 琥鳥も残敵掃討に。というか掴まれたのでダガー「ブラッドキラー」に持ち替えぐさり。 「お、終わった……疲れた……。こんなアヤカシに襲われるなんて、追いはぎとはいえ少し同情」 座り込むケイウスの瞳が少し感傷的になった。仮に口にしたとすれば「仇は、取ったからね」か。とにかくほっとしている。 「リィムナ、花束をありがとう」 フランは援護に感謝し、リィムナをもらった花束にふさわしくお姫様抱っこ♪ 「ひゃ……フランさん」 「それより、どれくらいのお触りが感じるのかな?」 「ひゃっ、そんな……」 赤くなったリィムナが、先のセリフをしっかり聞いていたフランの冗談にさらに赤くなる。 「……はぁ。それにしても本当に夢に出そう」 ニーナもため息。 「それにしても、クジュトは幽霊退治に縁があるよね。幽霊退治に定評があるクジュト、なんて噂でも広まってるんじゃ……」 「一応、全部参帽さんの手柄にしてますし」 「いやいや、仕方なく。感謝してますよ」 ちら、と恋人を見ると自分そっちのけでケイウスや参帽と話している。 む、と柳眉を寄せたニーナが駆け出した。 そしてえいっとダイブ。 「ちょっとクゥ!」 「わ、ニーナ」 背中に飛び乗り耳にこっそり囁く。 「貴方今日から都に戻るんだったら責任取ってしっかり忘れさせてよね? 」 「それじゃ回雷さんの方にも敵はいないか確認しに行こう」 羅喉丸は素知らぬ風にケイウスと琥鳥、参帽を促すのだった。 |