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■オープニング本文 ここは泰国南西部、南那――。 「急げーっ! 強い故郷を作るにはもたもたしてらんねぇ。農業調整池作るのに農業繁忙期までにできませんでした、じゃ洒落になららんぞ!」 「火竜型駆鎧、こっちに回せーっ。でっかい岩がごろんごろんあって掘削作業になりゃしねぇ」 南那内陸部の都市、眞那から大きな川「眞江」を上流にしばらく行った場所で激しく怒号が飛び交っている。多数の男達が農業貯水池造成のため汗をかいている。 「はいよ、お昼の片付けが終ったら三時の茶の準備だよ。ここの男どもは良く食うからねぇ」 「これで仕事ができないとしばき倒すところだけど、まああれなら茶ぐらい入れてあげなくちゃね」 「ちょっとでもサボるのがいたらもう全員夕ご飯抜きだからねっ!」 女性たちもそんなおっかない言葉を交わしながら、力仕事に精を出す男たちを支えている。 眞那地方では、少し前なら考えられない活気であった。 今年の眞那の農産物は、水不足などで不作だった。 本来、大打撃で住民たちは一年の食にも困るところであり、こんな元気や活気などは出るわけがなかった。 が、現在南那は長く続き内陸部の活用に消極的だった椀氏の統治から中央より派遣された孝機関の指導に代わったばかり。長らく封印されていた宝珠鉱山など地下資源採掘のため多大な予算が投入されていた。 ここ、眞那での農業調整池造成と整備時に必要な簡易家屋を利用した開拓者街「開窓」の供用もその一環だ。 「よし、農業調整池と開拓者街『開窓』建設計画は予定通りだな」 働く男たちやそれを支える女たちを見て、孝機関のキツネ目の男は細い顎を引いた。 「北窓の宝珠鉱山の方はどうですか?」 隣にいた親衛隊長、瞬膳が聞いた。 「あっちは後回しだ」 「どうして?」 キツネ目の男の返答に意外そうな顔をする瞬膳。 「直接利益に……しかも莫大な利益を生む事業だ。いきなり力を入れてしまうと南那自体の経済バランスを崩す可能性がある。それに、産出物の交易を海廻りにしてしまうとこれまでと一緒。沿岸部と内陸部の経済格差が進むだけ。まずは、ここの整備が最優先だ」 まずは器、ということのようで。 「それより、北の砦の駆鎧をこちらに回してるが、あっちは大丈夫か?」 「中央にたてつく周辺でもなし、馬賊も紅風馬軍と話をつけているので大規模な侵略はないでしょう」 仮にあったとしてもここを通るのでここで止めるまで、と瞬膳。「開窓」と名付けられた工事関係者の宿舎町は、親衛隊も駐屯地として使っている。 そもそもここは、農業調整池と飛空船の内陸部発着港として機能させ、北窓で産出される宝珠などの取り引きに活用する予定。水不足で農業生産高が伸びない土地の欠点を補い新たな機能を追加する画期的な政策だった。 「では」 ここで言葉を改めるキツネ目。 「西の『防壁の森』の調査は?」 親衛隊が駐屯しているのは、これが目的だった。 「いったん戻っています」 「ああ。……不審な道が方々に伸びる地域へ進出するか、それを避けるかという議論をしてたんだったな」 うーん、と二人は腕組みする。 「紅風馬軍は防壁の森を突破しましたが、不審な道が交錯する土地には当らなかったと聞いています」 「ではそちらを避ければ『九頭竜』のいる地域に出る可能性があるわけか」 瞬膳の言葉に、ふぅむと唸るキツネ目。 「とはいえ、元馬軍の論利(ロンリ)によると、そろそろ吹矢鬼の出る地域だとか……」 つまり、不自然に一直線の道が何本も重なっているような地域に行けば何が出るか分からないが、それを避ければ吹矢鬼が出る、ということらしい。 「アヤカシどもも住み分けはできている、ということか……。それで、どうする?」 「正規軍はそれまでの猿鬼との戦闘で疲弊しています。折角そこまでのアヤカシを相当したのに間を空けて再びアヤカシに進攻されるのも愚の骨頂。……『英雄部隊』を呼ぼうと思います」 「ああ……南那亭で力量のほどは知っている」 瞬膳の言葉に、キツネ目の男は4カ月前を回想していた。 というわけで、雪切・真世(iz0135)とその仲間たちが呼ばれることとなる。 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
猫宮 京香(ib0927)
25歳・女・弓
龍水仙 凪沙(ib5119)
19歳・女・陰
泡雪(ib6239)
15歳・女・シ
アルバルク(ib6635)
38歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ● 「前は、ちょっと『防壁の森』に入ってしばらくすればアヤカシに襲われたりしたんだけどね〜」 雪切・真世(iz0135)がのほほんと珈琲を飲みながら言う。 開拓者部隊はすでに防壁の森に入っている。親衛隊が討伐に頑張った分、森に入ってもアヤカシの脅威が以前ほど感じられない。森の広間で最後の休憩を取っているところだ。 「私はこの森は初めてですね〜」 真世の隣に座る猫宮 京香(ib0927)も、同じく珈琲をのんびり飲んでいる。彼女は主に南那の北東側での戦いで活躍した。 「でも、行き先は『罠の道』でいいの?」 真世、改めて聞く。彼女の相棒は霊騎の「静日向」で、京香の相棒も同じく霊騎「千歳」。道があった方が二人には有利ではあるのだが、仲間に迷惑を掛けてないか心配している。 「いいんだよ」 答えたのは、かがんでいる竜哉(ia8037)。 「先にある程度の道があるって事は、制圧後の道作りが楽になるだろうからな」 続けて言ったところで、戦狼型駆鎧「RE:MEMBER」の展開が完了した。がこん、と白地に金色ふちの巨体が雄々しくそびえ立つ。 「たとえ罠であってもね」 これで準備良し、と戻ってきた竜哉。座って珈琲を飲む。事後をはっきりと意識した意見だ。 ここで、わふ、と柴の忍犬が寄って来た。 「そうですね。罠の道であろうとなんであろうと……」 泡雪(ib6239)、言葉尻を濁して頷く。相棒の忍犬「もみじ」も一緒だ。 「泡雪さん、どうでした〜?」 「周りにアヤカシの気配はないですね。ゆっくりできそうです」 偵察の様子を聞いた京香に答える泡雪。超越感覚でも忍犬の鼻でも異常は感じられなかったようだ。 「罠の道の形状をあらかじめ聞けたってのは大きいわね」 ここできらーん☆といたずらっぽく瞳を輝かせるウサギ獣人一人。 「以前戦ったようなダンゴムシが転がってくるか、小鬼あたりが岩を転がしてくるか……そして藪に逃げ込んだら、そこに罠」 龍水仙 凪沙(ib5119)である。南那西部戦線で戦った記憶からまず間違いないと踏んでいる。 「それはあるな」 腰を落とした竜哉が頷く。 「そっか。道だけじゃなく薮の方も……」 「あ、真世さん。紹介しとくね。管狐のたまちゃ……」 『たまもじゃ!』 真世に挨拶させようと出した管狐「たまも」に尻尾でもふんとはたかれてしまう凪沙。 「たまちゃんでいいじゃない」 「ええと。よろしくね、たまちゃん」 『たまもじゃ! 罠にはめるように先に間違った紹介をしおったの!』 あっけらかんと繰り返す凪沙ととりあえず彼女の呼び方を使った真世に、がうと突っ込むたまもだったり。 ちなみにこの時。 「いやあ、罠の道なんて来ちまってるんだからしょうがねえわな」 人生、罠にはまりまくりと言ってもあながち大間違いではないのではないかという疑惑があるかもしれないけどそれは自分の胸に手を当てて考えてねなアルバルク(ib6635)が珈琲を飲みつつ、たまもに同情していた。 『つっこまないよー……今日の僕は心が広いんだからねっ』 彼の相棒の翼妖精「リプス」が雨でも降りそうなことを言っている。いつもなら「関係ないでしょ」とか言いそうではあるのだが、今日は一体どうしたのだろう。 「おう、今日は罠に突っ込んでくれねえのかい」 おっとアルバルク、物理的な話にすり替えた。いつも罠に突っ込んでるのかよ、と突っ込まれそうだが……。 『お仕事ならやぶさかではないのだよっ。翼も生えちゃって心が震えるねっ』 「そいつはわなわなって具合だな」 『ちょっとー!! ボクの晴れの舞台が駄じゃれで台無し!?』 「んな芸風じゃねえだろうよ。お高くとまってまあ……」 『ぱたぱたー』 リプスが進化したせいか、妙な呼吸で相棒漫才をしているようで。 ちなみにこの時。 「……罠に突っ込んでくれねーのカ?」 アルバルクの様子を見た梢・飛鈴(ia0034)が、相棒の上級人妖「狐鈴」を振り返っていた。 『んむ。てあてのスシーがひつようだな』 狐鈴、にべもない。 「選択を誤ったか……まあこいつでないと連れていけん訳だガ」 『やっぱりわたいだろ』 達観したように瞳を伏せる飛鈴。狐鈴の方はふんぞり返っているが。あまりのふんぞり返り具合に、勾玉の首輪がきらりと揺れた。 ――カロン。 音がしたのは勾玉ではない。 「結構いい音がしますね」 雪切・透夜(ib0135)が何かしている。 「カラコロ鳴らないように布で包んでおいたのですが……もうちょっとしっかりと」 アーシャ・エルダー(ib0054)も一緒だ。 「何してるの透夜さん、アーシャさん」 「真世さん、英雄部隊としてとことん付き合いますからね。ご安心を!」 近寄ってきた真世に気付くと、だきゅ〜と首根っこに抱き付くアーシャ。その時、カロンとまた鳴った。 「カウベルだよ、真世」 『これを通った後の道に渡して後背の警戒とするようだな』 にこりと顔を上げた透夜の手には、牛の首につける鈴があった。彼の相棒、オートマトンのヴァイスもカウベルに縄を通すのを手伝っていた。 ――カロン。 「って、ちょっとアーシャさん!」 「ちょうど手に持ってたところ真世さんの首があったから……ほら、私もすればお揃いですよ〜」 真世とアーシャがカウベルつけて遊んでいたり。 ちなみにこの時。 「そいじゃま、お仕事しますかね」 『みごとにつっこみやくがおらんなー』 立ち上がる飛鈴に、呆れる狐鈴。 「まあ、危険は近くにありませんし」 『わふ』 泡雪がフォロー。 「俺の駆鎧の暖気を待ってたなら必要なかったけどな」 竜哉が駆鎧に登場したところでアーシャたちも気付く。 「それじゃ、道の罠へゴー!」 アーシャが相棒の戦馬「テパ」に騎乗し、全隊進め。先を急ぐ。もちろんカウベルは音がしないよう仕舞っている。 ● しばらくして、それらしき場所に。 「見事に道の中央が窪んでるわね〜」 膝を付いて地面に手を当てた凪沙が、しゃがんだまま顔を上げて前を見る。道は真っ直ぐ。先は特に異常なし。 「特に変わった音もしないかな。泡雪さん、どうです?」 耳を澄ましていた透夜が、同じく耳を澄ます泡雪を振り返る。 「こうなると左右の薮が怪しいですが……特に変わったところはないんですよね」 泡雪の表情は晴れない。 「植物自体が、とかだったらだと面倒だねえ」 「何が待ち構えているのでしょうね〜。何が起こっても対応出来るようにしておかないとでしょうか〜?」 アルバルクがぼやき、京香がのんびりと首を傾げる。 「まあ、殿は任せてくれ。途中で横にぶっ放すが気にする必要ないからな」 「では、真ん中辺りで援護しますよ〜」 駆鎧から顔を出して言う竜哉。京香も位置の希望を言う。 「いちおー、コレが結界使えたカ?」 『おむ。ちゃんとたたえとけー』 飛鈴が狐鈴に顎をしゃくる。どうやら瘴気で索敵は出来るようだ。が、その範囲は意外と狭いようで。 「では、もみじの野生の勘も頼りにしてますよ?」 『わうっ』 泡雪は抱き上げていたもみじを放す。 ここでアルバルクが上を見た。 「おう、先に上に飛ばしといたリプスが帰ってきたな」 『残念無念、何もなかったよ〜』 上空偵察したリプスは、敵影目視せず、道が囲碁の9路盤のようになっているの二点を告げた。 「ということは、やっぱり薮の中か……ヒートバレットで焼き払っていいかい?」 「手の内を見せて入るってのはね。しばらく進んでからでいいんじゃないか?」 魔槍砲「ペネトレイター」をワイルドに構えたアルバルクに言っておいて、駆鎧のハッチを閉める竜哉。 「真世さん、通った後にカウベル付けるの手伝ってください」 「うん。じゃ、私はアーシャさんと後ろだね」 アーシャと真世は後ろに。 これを見て安心した透夜、前に向き直る。 「よし、行こうか。……何が出てくるのか何もでないのか、さてさて」 『潜伏しての飛び道具の雨は勘弁願いたいものだな』 ざ、とヴァイスも歩を進める。手には相棒銃「劈面雷」。 「それならそれで対処するさ。狙撃にはヴァイスもいるし、問題ないね」 『…………褒めてもなにも出ぬぞ』 我が相棒を誇るように微笑する透夜の視線を感じて、慌ててぷいと横を向くヴァイスだったり。 こうして、飛鈴や泡雪、透夜たちを先頭グループに道へと入っていった。中間にはアルバルクと京香と凪沙、そして殿に戦馬「テパ」に乗ったアーシャと霊騎の真世、そして駆鎧の竜哉という配列だ。 いくつか十字路を越えた時だった。 ――かさっ……。 「ん?」 透夜が音に気付いた。 「あ……小動物……」 泡雪が音と同時に、はるか前方で小さな動物が薮から出てきたところを見た。最初の音から時間が立っている。枝からまず降りたか。 それはともかく、すぐに皆の知ることとなる なぜなら、黒い瘴気を吐き出したかと思うと鎧のような巨大な外殻を形成し、そして道の大きさの球体に丸まったのだから! 世界が世界なら、「アルマジロ」と呼ばれる動物の形状に近い。 その丸まったアヤカシが猛烈な勢いで転がってきたのだ! ――カロンコロン! 同時に、背後からカウベルの音。アーシャが皆の通過後に配置していた音の罠に引っ掛かったのだ! 「横からも来てるわね!」 ちょうど隊列の中盤は十字路に差し掛かっていた。凪沙が気付いて猛然と視認した敵に向かって行った。何か考えがあるようだ。 『四方から来てるね〜。んじゃ、ここを精霊郷だかで領土とさせてもらおうやー』 「威勢がいいなおい」 出番とばかりに宝珠「デイジーアイ」を掲げぴかーと輝かすリプス。仕方ねぇ、と援護のためアルバルクが凪沙の走った反対方向の道に体を張る。こちらからも転がってきてるのだ。 「この罠はちょっと私だと対応しずらいですね〜。でも……止まれば壊すくらいならいけるでしょうか〜?」 京香もアルバルクの方に構える。 「ほいほい。止める、ね。その前に焼き払ってみよーかねえ」 ごうっ、と左手の薮に放っておいて前を向くアルバルク。敵は近くの薮にはいなかったようだ。 「魔槍砲で撃った時にはいなかったようなんだがな」 殿の竜哉、駆鎧の中でそうぼやいている。いたのは地面ではなく高木の枝の上だったからだろう。 とにかく、振り向きギガントシールドを構え左前腕部に固定したカラクリ用の魔槍砲の銃口を向ける。さらに同時に、動体感知。 すぐに、感あり! 「周りはこいつらだらけか」 どう、と魔槍砲発射。実は通り掛りに倒した枝をアルマジロが踏み、少し浮き上がっていたのだ。これに命中させて勢いを削ぐ。 「チャンス!」 これを見たアーシャ、テパの馬首を巡らせ物凄い勢いで敵に向かった! 「真世さん、援護お願いします!」 「え、え?」 言われてとにかく撃つ真世。アーシャに当るかも、と心配したがその時には「高飛び」でひらり。 すたん、とテパが敵後背に着地すると同時に真世の射撃が刺さっていた。といっても、装甲で弾かれている。 「前のダンゴムシアヤカシみたいですね。そういう手合いは……」 アーシャ、振り向いて魔槍「ゲイ・ボー」を前に突っ込む。狙いは―― 「継ぎ目に槍をざっくりです!」 ぐさっ、と体当たりのような激しさで突き刺す。 びくん、と痙攣した敵の装甲はばらばらになって消えると、最後に小さなアルマジロアヤカシも瘴気になって消えた。 ● 「問題は一体一体じゃないぞ、これは」 竜哉はこの隙に前に。アーシャの横を駆け抜けて盾をかざした。 そこに、続いてやって来ていたアルマジロをがしりと受け止めた。 ――ばちっ! 瞬間、電気的な音。 「うわ……左右の薮にアークブラストみたいなのが走ってる……」 後ろから見ていた真世がそうこぼす。薮に入っていたらこれの餌食になっていただろう。 他の戦場では。 「とりあえず集中射撃だな」 戦陣を敷いたアルバルクの瞳に、勝負師の光が宿る。緩かったさっきまでとは大違いだ。声はやっぱり緩いままだが。 「一点集中でいくしかありませんね〜」 こちらもやはり緩い声。京香がゲイルクロスボウを掲げ左目を瞑って狙いを定める。 「止めりゃいいんだったか?」 アルバルク、迫る球体に図太い魔槍砲「ペネトレイター」を荒々しく構える。熱気のこもる一撃が敵の装甲に激しくぶち当たった! 「ですね〜」 さらに京香の一撃。衝撃を纏った一撃が……敵の装甲の隙間に入った! 敵は止まって、さらにびくっと痙攣するかのように跳ねた。 「今日も運はいいようです。千歳〜」 京香、「奇跡の矢」を放ってすぐに動き出していた。霊騎「千歳」が敵に近寄り身を捻ってから、後ろ蹴り。 これで敵は弾かれ、遠くに着地したと同時にばらっと崩れる。 『逃がさないよ〜。処分処分っ』 装甲が外れて足を引きずり逃げようとするアルマジロは、リプスが飛んで突っ込みぐっさり。相棒剣「ゴールデンフェザー」の切れ味は上々のようだ。 時は少し遡り、正面。 「ヴァイス!」 透夜、呼んで走った! 『止まればよいが』 呼ばれたヴァイスが発砲した。ちゅいん、と球体に当って弾かれる弾道。もちろん敵の突進を止めるまでにはいかない。 次の瞬間! ――どがん! 転がるアルマジロアヤカシが、止まった。ばりばり、とオーラの障壁が行く手を止めたのだ。 透夜、射撃の隙にアイギスシールドを掲げ、果敢に距離を詰めてスキルの盾で強引に止めたのだ。 「長く持たないかもしれません!」 必死に前傾姿勢で盾を支えたまま叫ぶ! 視線は厳しく盾の感触を確かめたまま。誰に言ったわけでもない。 「十分だ。背中、借りるゾ」 とん、と透夜の背中に軽い衝撃。 すると、アーマードヒットを着けた両手をまるで十字架のように広げ、赤い人影がふわりとアルマジロアヤカシの上に浮き上がった。 飛鈴である。 『わたいもな』 さらに後ろから瘴翼を広げた狐鈴もふわり。 そしてすとん、と敵の上部に飛び乗った。こおお、と呼吸を整える飛鈴。 「はあっ!」 気合いと共に暗勁掌。さらに腕を引いて極神点穴! 内部破壊と外部破壊の技が打ち込まれる。 その上をさらに行く者があった! 「罠の道であろうとなんであろうと……」 いつか言った言葉と共に、メイド服姿で逆さまになって伸身捻りする姿。 すとん、と敵の裏に着地すると抱いていた忍犬、もみじを放した。 泡雪である! 三角跳びで飛鈴の上をさらに跳び越したのだ。 「新しい南那の邪魔はさせませんよ!」 思い込めた言葉と視線。そして鞘走る忍刀「鴉丸」。ざしゅ、ざしゅと斬撃の音が聞こえる。 ――からん……。 「お?」 装甲が瘴気に戻り、上から飛鈴が落ちてくる。最後のアルマジロをついでに叩き潰した。 「飛鈴さん、泡雪さん、通して……テンプルナイツの名の下に……」 透夜、今度は太刀「鬼神大王」の柄を掲げ宣誓しつつ前に走る。次のアルマジロが来ていたのだ。 『わふっ!』 今度は先にもみじの咆哮烈が敵を襲う。 「聖なる精霊力に塩と化せ!」 思いっきり太刀を伸ばす。これが間に合った! さらに後方からの援護射撃と泡雪の手裏剣。塩と、瘴気となって消えた。 「後ろ、大丈夫カ?」 一息ついた飛鈴が振り返る。前衛は三人だが、他はそうでもない。 この時、ただ一人単身敵に突っ込んだ凪沙。 「こうなると思ったんだよね」 慌てないのは想定内の状況だったから。びらっと掲げた五行呪星符に一瞬星の煌めきにも似た輝きが走る。 ――どどん! それを合図に結界呪符「黒」が前方に立ち塞がる。 が、敵の突進を止められるのだろうか? ――がこん! ごごごご…… なんと、召喚した黒い壁は十字路に斜めに発生していた。転がってきた敵はその勢いのまま左手に受け流された。 「一人だから止める必要はないんだよ〜。時間稼ぎできさえすれば」 にぃ、といかにもいたずら好きっぽい笑みを満面に。 「おっと、また来た?」 ごろごろー、と次の敵は右方向に斜めにして右手に受け流し。 「そういえば……」 『なんじゃ?』 唇に人差指をやった主人が気になり、たまもが姿を現した。 「罠に頼っている敵は強くはないと思うの。罠を止めたらこっちのものだと思うわ〜。だからたまちゃん、合体……」 『たまもじゃ。たまもと呼ばぬ限り……』 ここで、左右からごろごろごろという音。 ――ガシッ、バチッ! 目の前の十字路でぶつかりあった敵が雷撃を散らしてきた。これをまともに食う二人。 「だからたまちゃん、合体って……」 『攻撃も防御も合体できるが、知らぬわい!』 この頃には前から飛鈴や透夜、泡雪が戻ってきて事なきを得るが。 しかし、これからが地獄だった。 「くっ。数が減ると敵を追うのに忙しいな」 竜哉、残り数体の敵の気紛れな動きにお手上げ状態でひたすら待ちを続ける。 「あっ、あっちに転がりそうです」 「ヴァイス、茂み越しに……」 『乱射だな』 振り返る泡雪が右手を指差した。透夜の指示が飛び、八重弾幕を放つヴァイス。 「回り込めねえか?」 『しっかりはしるがよい』 飛鈴は狐鈴の探知に頼りながら走力を生かして敵を追い回す。 「あと一体。これは追い込むゲームだわね」 凪沙、人魂で確認しつつ壁を設置し通せんぼ。戦局が代わって狙われる立場から狙う側に回っているのを楽しんでいる。 「とにかく撹乱です」 アーシャは焙烙玉を茂みにどーん。真世も便乗してその先に矢を放っていたり。これが、結構悪くない。 「これがたまに当るんだよなぁ……敵が高速で横切るんで」 納得いかねぇがまあそういうもんかとアルバルクも音を頼りに横からの先撃ちをしている。 「きゃん!」 ここで真世の悲鳴。 「何です、真世さん?」 「何か……これ、吹き矢?」 アーシャ、聞いて視線を巡らせる。 が、どこにも敵はいない。 「あらあら。新手ですか?」 『この先によわっちそうな鬼がいたよ〜』 近寄った京香、空からリプスの声と指差した方向を見て千歳を走らせた。 「アヤカシさんの登場ですね〜。固まってくれているなら打ちやすいのですけども〜」 すとん、すとんと薙ぎ払いの矢を放つ。これで鬼を目視できたが、吹き矢を食らった。 しかしこの時、すでに勝負は付いていた。 「上からですが……」 アーシャがテパで空を駆け、京香に集中して気付くのが遅れた敵を着地と同時にぐっさりと刺した。 そして、最後のアルマジロ。 「ようし、来たな」 竜哉、ここぞとばかりにRE:MEMBERを漲らせる。アダマントプレートでがしりと止めると……。 「意外と居心地良かったナ」 駆鎧の肩に座っていた狐鈴が飛び降り際に雷斬脚。 これで殲滅は完了した。 ● 『此処に至り、漸くにも力になれたな』 引き上げた森を振り返るヴァイス。 「……だってさ?」 『知らんわ』 凪沙とたまもがその後ろでごちゃごちゃやってたり。 「その……透夜さん?」 「馬に乗ってばかりでしょ? 足首には吹き矢を食らったし」 真世は透夜におんぶされてまっかっか。 「さて、地図はできたが……」 「面白い形状をしてますね。何か意味あってのことでしょうか」 竜哉とアーシャは記した地図を覗き込んでいる。 「まあ、直進のみだったしな」 『どのくちがいうかー』 飛鈴の見解に突っ込んだ狐鈴。すぐに飛鈴に口の端をつままれ捩じられた。 「俺のように曲がったことが嫌いなんじゃね?」 『どの口がいうかなぁ』 アルバルクはリプスに呆れられ。 「まあ、長引かずに節分豆一つ分で助かりました〜」 「そうですね。これなら開窓に戻ってゆっくりできそうです」 京香に言った泡雪は、自分たちの提案した街に留まれそうなのを喜んでいた。 |