泰拳紀行〜飛竜翔連脚
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/11/25 00:11



■オープニング本文

 ここは神楽の都、開拓者ギルド。
「あ? いいネタがある?」
 貸本絵師の下駄路 某吾(iz0163)は不機嫌そうな声を絞り出していた。
「ええ。いま、泰国からこんな依頼が舞い込んでるんですよ」
 開拓者ギルドの係員はそう言って一枚の依頼書を見せる。
 題は、「飛竜翔連脚」。
 どうやら泰国の田舎村はずれの森の中に、珍しい泰国武術流派の技を使う幽霊泰拳士が出現しているのだという。アヤカシだ。
 まだ村には襲い掛かってきてはおらず、そのいにしえの泰憲法流派の隠れ修行場に留まっているので緊急性は低いらしい。正式に依頼として張り出してないのは、緊急性の低い案件であることに加え村人からの報酬がやや不足していたから。
 というかこのギルド職員。
 村人からの依頼金の不足分を何とかしようと、貸本絵師の某吾に声を掛けているのだ。
 つまり、貸本にして一儲けして、話のネタを提供した料金を賄ってくれ、ということだ。
 で、この話を聞いた某吾。
「断る」
 むすっと機嫌を損ねてそれだけ。
「ええっ! 『戦場絵師』ともあろうアンタが……奇天烈なモノはお得意でしょう?」
「お前なぁ……」
 意外そうに言い放つ職員に、某吾はごごご……と凄む。
「でも、その流派の『飛竜翔連脚』なんて技は今に伝わってないんですよ。記録しておく必要があるんです。こういう動きのある絵は、ただ絵のうまい人だけの人じゃ捕らえきれないんですよ。味のある絵を描く人の方が適任で……」
 今度は真顔で職員が言う。某吾、彼の胸ぐらをつかんでいたがその手を放した。
「なるほどな……しかし、その失われた技を記録するにゃ、誰かに技を食ってもらわんことには……」
「そこなんですよね〜」
 微妙に褒められ、仕方ねぇなぁとその気になった某吾が腕を組んで唸る。職員も同調する。
「誰か、技を食った上で倒してくれる人、いないですかね〜」
 無茶を言うものである。
「あ? よく考えたら、そこまで村人から話を聞いてるってことは、その『飛竜翔連脚』って技、ある程度知ってるんじゃねーのか?」
「はい。直線的に突っ込んでくる相手の攻撃をいなしつつ連力で周囲の気温を上げつつ螺旋の運足に敵を巻き込み、円運動の中心に来たときに下から突き上げるような冷気の拳を放ち敵を中空に舞い上げると自らも跳躍して浮いたままの敵に空中で蹴りを何発も入れる技だそうです」
 某吾の疑問に答える職員。
「……今の泰拳士の技なら、それ以上のものなんかゴロゴロあるんじゃねぇか?」
「記録っていうのは、それが強いから強くないからじゃないんです。そんなことも分からないんですか?」
 今度は職員が気色ばんだ。
「分かった分かった。とにかく付き合ってやるから、開拓者が集まったら知らせてくれな〜」

 というわけで、幽霊泰拳士たちの使う「飛竜翔連脚」を一度は食らい反撃してアヤカシ退治してもらえる開拓者、求ム。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
小伝良 虎太郎(ia0375
18歳・男・泰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
九条・颯(ib3144
17歳・女・泰
レジーナ・シュタイネル(ib3707
19歳・女・泰


■リプレイ本文


「じゃ、俺はここで待ってるな」
 下駄路 某吾(iz0163)が谷間への道から外れた。
「某、敵の技を食らってるトコ描くんじゃないのカ?」
 もふら面を頭に被った梢・飛鈴(ia0034)が振り向き聞いた。
「俺が志体持ちならそうすんだがよ」
「直接見て描くんじゃないのか……」
 龍獣人の九条・颯(ib3144)は残念そう。たたんだ背中の翼も少しへにょり。
「でもさ、珍しい技が見れるなんて、不謹慎だけどちょっと楽しみだな!」
「飛竜翔連脚……どんな、技なんでしょう」
 いつもワクワク、小伝良 虎太郎(ia0375)が鼻の頭をこすりながら瞳を輝かせると、その無邪気っぷりを目の当たりにしたレジーナ・シュタイネル(ib3707)がくすくす微笑する。
「村人からその奥義の分かる範囲の内容を聞いておいたガ……」
 飛鈴が事前聞き込みの成果を話した。
「手際がいいな?」
「古の失伝奥義に興味が無いわけでもないシ」
 某吾に感心されて、当然ダと俯く飛鈴。
「それにしても、失われた業をこの目で見て、この身で体感する……とっても、興味深いです」
 私はジルベリアに渡ってきた泰人を師として拳法を習っただけなのでなおさら、とレジーナ。
「そうだな。試行錯誤の過程で面白い技が生まれ消えていく事は多々あるが、こういう形で残るというのもまた一興か」
 颯、空を見上げる。
「取り敢えず、新しく術を会得してみましたので、それの試し打ちも兼ねてみますね」
『凄い技覚えたもふか!』
 颯の横にいた泰拳士、紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)もわくわくしていたが、そういう意図もあるようで。相棒のものすごいもふら「もふ龍」を胸に抱いている。
「もふ龍ちゃんは今回は出番はあまり無いわよ〜?」
『そうもふか?』
「出番と言うより……」
 ここで、静かに佇んでいた琥龍 蒼羅(ib0214)が口を挟んだ。
「敵は幽霊泰拳士……以前、泰国で雑技団の依頼で戦ったことはあるが油断は禁物だろう」
「すまんが、頼むぜ?」
 気を引き締める蒼羅に、某吾はそう声を掛けて見送った。
 開拓者たちは、敵のいるかつての修行場たる谷間へと下って行った。



「そういえば敵には呪声があると聞いたな」
 谷底に降りつつ蒼羅が呟いた。
「……あれ見てみナ、蒼」
 飛鈴、道端に顎をしゃくる。そこには、上半身に打撃の集中して抉れている藁で作った古い案山子が打ち捨てられていた。明らかに打撃中心。
「あくまで格闘中心……か」
「お、早速出たな!」
 蒼羅が納得したところで虎太郎のうきうきした声。
 泰風戦闘服に身を包んだ拳士……いや、服や装甲、手甲や足装備だけが、透明な人が着込んでいる状態で仁王立ちしている。
 その数、6体。
 虎太郎が仲間から距離を取るように横に動くと一体だけがついて来た。
「へえ、本当にタイマン張ってくるな」
 虎太郎とは逆に走った颯が感心し、ニヤリ。飛鈴と蒼羅も小さく左右に散る。
「もふ龍ちゃんはここで留守番しておいて下さいね〜」
 中央の沙耶香は抱いていたもふ龍を下ろす。
 その隙を狙わんと敵が突っ込んでくるが……。
「まずは正面から」
 だん、と踏み出したレジーナがこれを止めた。いや、螺旋の動きでいなされた。その背後から沙耶香が一気にレジーナを追い越す。さらに一体が正面から来ていたのだ。たちまちこちらもやりあう。
 これで全員が一対一の戦いに突入した。

 この時、大きく横に外れていた虎太郎が頃合だと判断していた。
「一対一に拘るその心意気や良し!」
 ざっ、と足を出して踏ん張り方向転換すると神甲「風神雷神」の拳を構え突っ込む!
 直線的な動きはぱしんといなされた。さらした背中を手刀が襲うが、これは虎太郎、背中越しに見ている。かっと瞳が見開かれ、瞬時に見切って身を捻り回避した。
 この流れから攻防が螺旋運動となった。その輪が縮まった時――。
 ざっ!
「お?」
 敵が、深く抉りこむように身を屈めて踏み込んできた。今までにない動きからの、アッパー。
――ドンッ!
「ぐっ!」
 下から上に吹っ飛ばされた!
 気付いた時には空中で、自分より高く跳躍した敵に何度も蹴られていたが……。
 どしん。
「ててて……知ってなきゃ蹴りをいなすの、遅れてたな」
 虎太郎、体勢をわざと崩して難を逃れていた。
 敵も着地し、追撃すべく一直線に踏み込んだ。
 いや、躊躇した!
 虎太郎の様子の変化に思わず目を奪われている。
 その虎太郎は――。
 緩やかに両手を肩の高さまで上げ、鷹が雄々しく翼を広げた姿勢を取っていた。そして上がる左足。風格のある佇まいと静かに見据える瞳が戦いの空気を一発で変えるっ。
「今度はおいらの番!」
 こおお、と呼吸音を響かせると金色の気が全身を覆った。
「これがおいらの最っ高の必殺技だ!!」
 叫びと共にかざした両手。練りに練った気功をぶっ放す!
 これが、真荒鷹陣からの荒鷹天嵐波ッ!
――ガッシャーン!
 ブラストをもろに食らった敵が吹っ飛ぶ。
 もしかしたら、真の恐怖はここからかもしれない。
 立ち上がり顔を上げた敵の見たものは、またも無言で羽ばたく鷹の形を取った虎太郎の姿だった。
「最後の最後まで荒ぶる鷹虎になってやる!」
 叫びと同時に拳をぶち込み、息の根を止める。

 沙耶香は最初の直線的な奇襲で敵を押し込んでいた。
 もふ龍や味方から少しでも引き離そうという狙いがある。
 しかし。
「?」
 それまで拳の連打を受け下がっていた敵が、ふっと横に外した。
「……わざと下がってたみたいですかね?」
 敵の余裕のある動きにそれだけ所感を述べ、敵を追い横へと動く沙耶香。
 これを横にかわす敵。それまで受けていたのが不思議なほどの鮮やかな回避である。いや、最小限でかわし反撃もしてくる。
「?」
 この時、気付いた。
 敵がすり足で大地をすっていることを。
 それが、螺旋の軌道を描いていた。
 やがて一点に収束する時――。
――ドンッ!
 周りの空気そのものが向かってくるようなアッパーカットを食らった!
 空に舞い上げられ、跳躍した敵の連続脚が襲い掛かってきた。

 こちら、レジーナ。
「沙耶香さんに代わって、もふ龍さんを守りませんとね」
 自分を狙うかもしれない敵を押し込んで行った沙耶香に感謝し、改めて近くにいるもふ龍には近付けさせないと心に近い霊拳「月吼」の拳を敵に叩き込む。
 が、ぱしりといなされた。
 横に流れる敵の動きに合わせさらに攻撃。敵の反撃はきっちりと受ける。
「懐かしいですね。故郷での師との稽古を思い出します」
 場所は変っても泰拳士は泰拳士だと感じ嬉しく思う。もちろん、師の言葉を思い出し油断はしない。敵の動きが螺旋と看破し、やがて中央に収束した時――。
――ドンッ!
「これは……」
 気付けば、空中。そして蹴りの連撃!
 レジーナ、咄嗟に防御を固めた。



「む……」
 蒼羅はすでに螺旋の動きに巻き込まれていた。
 他の仲間と違って、彼は主に攻撃を食らっている。
 といっても、斬竜刀「天墜」を収めた鞘を盾がわりにして受けているだけだ。まさか守勢でいても敵の術中に持っていかれるのかと驚いている。
「いいだろう。飛竜翔連脚、と言ったか。失われた過去の技……見せて貰うとしよう」
 ならば、と素直に攻勢に出る。
 といっても、斬竜刀は抜かずに鞘入りのまま格闘攻撃。もちろん敵の反撃に遭う。
 そして……。
――ドンッ!
 下からのアッパーで空中に。
 しかし、蒼羅には巨大な斬竜刀「天墜」がある。これを盾がわりに敵の連続脚を凌ぎきった。
 ざっ、と二人とも着地した。不満そうに揺らめく敵。
「そう不服そうにするなら、抜かせてみるがいい」
 蒼羅が言うと、敵が襲ってきた。斬竜刀に攻撃を集中している。破壊か取りこぼしを狙っているようだ。
「悪いが、既に動きは見切っているのでな」
 自ら螺旋の動きに誘うようにかわし、直前で払い、またかわす。
 そのうち、螺旋の中心に。
 ぐっ、と敵が身を屈め踏み出してきた。またもアッパーを狙う!
 刹那!
「受けて貰おう……俺の築き上げてきた護る為の剣、その到達点を」
 仮に敵が生身で生き残ったとしたなら、「な、何があったか分からないんだ」と言うかもしれない。
 蒼羅が上からかぶさるような動きをしたかと思うと、敵は地に伏せ黒い瘴気に戻っていたのだ。
 敵の纏っていた装備は瘴気に戻らず、古びて使い物にならない防具などに戻っていた。――新しい刀傷が荒々しく付いていたが、蒼羅の刀は鞘に戻っている。
 目にも止まらぬ一撃で切り伏せた蒼羅は、そうだ、とばかりに面を上げると振り向いた。
「『蒼龍閃』と言う……たむけだ」
 到達した自らの今の技、として伝えておいた。

 そして、敵の連続蹴りを食らって立ち上がった沙耶香。
「すごいですねー」
 ぱたぱたと服をはたきながら、またゆったりと構える。
「おかわりするつもりはありませんが……」
 敵はもちろん、終わりにするつもりはない。またも螺旋の動きに巻き込まれる。
「仕方ありませんね〜。どう料理しましょうか?」
 横に流れつつ頭に浮かんだのは、修練場で繰り返した動き。自身の気功を練り、全身に満ち溢れさせ……。
 思い描くうち、螺旋の中央に。
 敵の抉りこむようなアッパーが来た!
「……敵が攻撃に転ずる一瞬の隙を突いて反撃を放つ!」
 沙耶香、思いを巡らせ焦点の定まってなかった瞳をカッと見開いた。上から被せるように闘布「舞龍天翔」を巻いた左拳を振るう。龍が舞うような一撃とともに全身から黒い気が巻き起こり――。
 打ち抜いた打点に暗黒闘気が収束し、一気に拡大したッ!
 からん……。
 敵は瘴気に戻り、古の装備は力なく地に転がった。

「勝負、です」
 敵の攻撃を耐え切って着地したレジーナは、またすぐに突っ込んだ。もちろん螺旋の動きに誘い込まれる。この流れの時、蒼羅と沙耶香の決着を目の端で確認していた。ともに、カウンターだった。
「吹っ飛ばされるのは、空気の塊がやってきたから」
 レジーナ、技を食らった時を思い出している。
 連想するのは、冬の焚き火。
 温められた空気が上昇し、周りの冷たい空気が下から流れ込む、そんな感じだった、と。
「だったら……」
 敵、低い姿勢で踏み込んできた。
「私の……熱い紅の波動を」
 上から紅砲を叩き込む!
 が、下からの圧力が強いッ。それでも空に飛ばされるのは免れた。敵は、跳躍した。そのまま多段蹴りに入る……。
「……だったら!」
 言葉を繰り返したレジーナ。今度は下から無我夢中で蹴りを繰り出すッ!
 瞬間、青い閃光が龍のように走った。
 技の名を、絶破昇竜脚という。
 下から蹴り上げたレジーナが着地した時、どさりと敵が落ち、力なく崩れた。


「ふぅーむ、まあこんなトコか……」
 ばさっ、と乱れた髪を肩の後ろにまとめて払いつつ立ち上がった飛鈴が言った。
 たった今、空中で敵の繰り出した飛竜翔連脚を食らったところだ。
「んじゃ、もっぺんやってもらおかナ」
 軽く構えると、くいと手を自らの方に振り敵を挑発した。
 余裕があるのは、空中多段蹴りを食らったときにしっかり打点をずらす動きをしていたから。これで食らう回数も減っていた。
 ともかく、打ちかかってきた敵がまたも螺旋の動きに。飛鈴も素直に流れに身を任せつつ、両手での攻防を繰り広げる。
 そして、螺旋の中央に!
――ドンッ!
 アッパーカット、来た!
 飛鈴、ここも素直に食らったぞ。
 敵もこれまで同様、飛鈴を追って跳躍する。
 が、敵はここでうろたえた。
 蹴りを繰り出そうとしたが、飛鈴がいないのだッ!
「いい打ち上げナンで、よく跳べるナァ」
 はっ、と上を見る敵。そこにはにやりと不敵に笑う飛鈴のすが……。
「拳法において背後頭上を取られることは即ち死ってナ」
 イナズマだ!
 上空から急降下してくる飛鈴の蹴りを食らった敵は、全身イナズマが走ったような衝撃に見舞われた。
 いや、その蹴りは稲妻をも切り裂くかのような鋭さがあった。
「名付けて雷斬脚……ってナ」
 大地に叩きつけた敵に、背中越しに言う。もちろん敵は微動だにしない。
「おっト。……破軍のおまけ付きダな」
 にぃ、と横目で振り向き付け加えた。

「実際にギャラリーがいないのが……お?」
 颯は一気呵成に出て派手に拳を振り上げ攻撃していたが、隙なく捌かれる様子に身を引き締めていた。
 だが、もう遅い。
――ドンッ!
 螺旋の動きに巻き込まれ、アッパーカットで宙に浮いていた。
 どかかか、と空中多段蹴りを食らうことになる。
「くそっ!」
 手堅くガードし最後は隙を突いて蹴りを返して難を逃れた。立ち上がった時には、序盤のような隙はない。すぐに襲い掛かった。
 ぱしん、と捌く敵。
「こういう過程の多い技は……」
 螺旋の動きに乗りつつ呟く颯。知らない相手への奇襲用だから意味がある、と内心頷く。
 そしてまたも、アッパーカット。
「だから一度見せた技は二度と……」
 打ち上げに合わせ、上に瞬脚を使う感じで跳躍した。
 同じく、空中多段蹴りのために跳んだ敵と目線は同じ!
 が、思わぬ状態に敵は狼狽している。
 対する颯、快心の笑みを浮かべるとくるっと回転して姿勢を整えた。
 ごぅん……という雷雲のような鳴き声が響くッ!
「大人しく餌食に成っておけ!」
 青い閃光とともに鋭い蹴りが敵を襲うッ。
 纏った衣装の九紋竜が、そしてなにより颯の翼や尾が技を体現する!
――すたん。
 着地した颯の口が「絶破昇竜脚」と動いた。
 どう、と背後に敵が落ちる。



「ほぅ……。打ち上げ攻撃前のカウンターか」
 村に帰りつつ話を聞いた某吾が感心する。
「悪いが、俺の方は貸本の題材にするには不向きかもしれん」
「ま、『瞬き斬る者』なんてあだ名の登場人物にすりゃ格好はつくだろ」
 少しだけすまなさそうに言う蒼羅。某吾、二つ名で盛り上げるつもりだ。
「私は……紅砲だけではダメでしたが」
「鍋を返した炒飯のように、手前に戻るように上からですね〜」
 別の技も使いましたと言うレジーナに、満足そうにもふ龍を抱く沙耶香。
「そんで、そっちは上空対決か」
「奥義破り……何か新技のヒントには…ならんカ 」
「難しいもんだな」
 某吾に話を振られた飛鈴と颯はうーん、と腕組み。
「なあっ!」
『もふ! 山菜があるもふ〜』
 虎太郎が某吾に絡むが、もふ龍の言葉に皆が振り向いた。
「なあっ、おいらの……」
『これを美味しくいただきたいもふ〜』
「それじゃ、お昼は山菜を使った炒飯にしますね〜」
 しつこく虎太郎が主張するが、沙耶香の言葉に皆が「おおっ」と視線を送った。
「某吾さん、おいら……」
「はいはい。あんたのは上からも見えてたよ」
 ぐぐぐ、と悔しそうな虎太郎に、これ以上は可哀想かな、と一枚の紙を渡す某吾。
 途端に、ぱああっと明るくなる虎太郎。
 そこには、びしりと真荒鷹陣を決める虎太郎が描かれていた。
「あるいは登り始めたばかりかもしれない。この長く果てない荒鷹陣坂を――」
 という文章と共に。