【天照】迫る高射砲
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/11/06 18:57



■オープニング本文

●うごめく者ども
 墓所を巡る戦いの火蓋が、斬って落とされた。
 護大派は墓所を守護する都市に立て篭もって激しい抵抗を示したが、連合軍はこれを退けて前進しつつあった。初戦は開拓者たちの勢いが敵のそれを上回った、と言えるが、こちらの弱点はもっと別のところにあるのだ。
「食料や水の手配はどうか」
「できる限り絞ってもこれ以上は……やはり、多少無理をしても墓所まで届けねばなりません」
 瘴気渦巻く地平線を見渡し、ギルド職員が答える。
 旧世界における最大の懸念は墓所における物資の欠乏にあった。瘴気に沈んだこの世界で、清浄な水や食料を入手することは難しい。その全ては精霊門を通じての転送に頼っており、転送してきた物資は墓所で戦う味方の元まで届けなければ意味が無い。
「腰兵糧だけでは、いつまでも持たんぞ……」
 背後に積み上げられた物資を見やって、将が頷いた。
「護衛に志願する者はいるか。何としてもアヤカシの妨害を退けてくれ」


●その後のコクリ・コクル
「ようし、着陸完了。荷捌き、急げっ!」
 墓所の側に佇む天の塔の近くでそんな声が響く。
 天儀から精霊門経由で旧世界に運ばれた食料などがたったいま、飛空船で運び込まれたのだ。
「なあ、気になる情報があるんだが」
 積荷を下ろす作業が続く中、たった今到着した飛空船の乗組員が管制担当者に話し掛けた。
「ドラゴンゾンビの小規模部隊がこちらに近寄っているんだが、妙に進行が遅いらしいんだ。俺たちは偵察から報告を受けて大回りしてこちらに到着したんだが……」
「確かにおかしいな。それだとあんたたちの船を狙うべく飛んでたのか、ここに来るのが目的なのかよく分からない。ドラゴンゾンビは地上を歩いてたんじゃなくて飛んでたんだろう?」
「ああ、ゆっくり飛んでたらしい。急げば大回りする前の俺たちを狙えただろうし、大回りした後ならここを急襲できたはずだ」
 ううむ、と首を捻る両者。
「た、大変だ〜っ!」
 ここで、どこかから大声が響いた。
「ドラゴンゾンビ5体がこっちに近付いてる。誰か迎撃をっ!」
 どうやら偵察部隊が二人の話していた敵部隊を発見したらしい。
「えらく少数だな……」
「今じゃなきゃその一言で済むだろう。……しかし、開拓者の多くは塔や墓所内部の探索に向かってる。それだけでも大被害が出るぞ」
 運悪く、防空に人員を内部に割いている時に襲われたのだ。
「ボク、行けるよっ☆」
 この時、ちょうどこの付近にいた少女、コクリ・コクル(iz0150)が二人の横をそう言って駆け抜けた。
「すぐに飛び立って時間を稼ぐから後続部隊を集めてっ!」
 ぐ、と親指を立てて背中越しに叫んで走り去る。人員を集めていた男のところまで行くと簡単に言葉をやり取りして、滑空艇「カンナ・ニソル」を展開して飛び立った。他にも滑空艇に乗った開拓者数人が出撃する。偵察と伝令の担当者もこれに付いて行った。
「よーし、これで時間が稼げる。先行部隊の援護と敵部隊を殲滅する部隊を編成しなくちゃ」
 送り出した男は次の手配を急ぐ。

 しかし、殲滅部隊が編成されたころ戻ってきた偵察・伝令担当員の声はその時に予想されない内容だった。
「大変だ。先行部隊はあっという間に全機撃墜された! 敵は対空射程の長い地上部隊を伴っていた模様! 繰り返す。ドラゴンゾンビは予想外の強力な地上部隊の援護を伴っている模様。注意されたし!」
 張り上げる声はそう伝えている。
 後に判明するが、地上には朧車に乗った高射砲特化型砲角大鬼三組がドラゴンゾンビ部隊の後方を進んでいたのだ。もちろん、この朧車と砲角大鬼三組を護衛する悪鬼兵部隊約十五匹が随行している。ちょっとした港湾施設を急襲・占領するには十分な戦力だ。
「……墓所を矢面に構えた陣形の裏側を突かれた形だな」
「人員の限られる遠征の辛いところだな」
「それにしちゃ先行部隊、えらくあっさりとやられたな」
「予期しない攻撃を受けたからバランスを崩すのも早かったんじゃないか?」
「無事だといいがな」
 口々に不安などが語られる中、殲滅部隊の出撃準備が進められるのであった。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
猫宮・千佳(ib0045
15歳・女・魔
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
ウルイバッツァ(ic0233
25歳・男・騎
小苺(ic1287
14歳・女・泰


■リプレイ本文


 二人乗りの龍が戦場手前に降りた。
「ありがとにゃ♪ ここまで来たら問題ないにゃ」
 ぴょん、と龍から飛び降りた猫宮・千佳(ib0045)が礼を言った。千佳の相棒、仙猫の百乃も一緒だ。
「うにに、直ぐにコクリちゃんを捜索にいくにゃー!」
『その前にアヤカシの殲滅をしないとにゃよ…』
 おー、と一人で腕を上げる千佳。百乃が突っ込むのは、敵は進撃してきているので墜落地点がその後方となるため。
「敵を殲滅し、彼女も助け出すのにゃっ。頑張るにゃ!」
 すたん、と小苺(ic1287)も降りてきて「おー」する。
『……』
 小苺の頭に乗っていた相棒の仙猫「焔雲(フェイユン)」は主人の気合いに薄目を開けたが、すぐに目を閉じてこれまでと同じくすやぁ。
「焔雲、また寝てるのかにゃ? 思えば、殆ど依頼に連れて行けなかった……」
 のに、仙猫になっている。
「これいかに! ずるいにゃ、寝ながらいいトコ取りにゃ!」
 頭の焔雲の首根っこを引っ掴むと地面に放りしたっと着地したところで足を振りどげし! もっとも、焔雲は鞠のように弾んでダメージなし。
「とにかく、コクリさんをすぐに助けに行きましょう!」
 アーシャ・エルダー(ib0054)も地上に降りた。この位置からアーマー「遠雷」改「ゴリアテ」を展開する。
「あれ? 空じゃなかったです?」
 アーシャに並んで下り立ちアーマー「人狼」改「スメヤッツァ」を用意していたウルイバッツァ(ic0233)がアルバルク(ib6635)に気付いた。
「お〜う。酒飲んで気付いたらコレがついて来てだなぁ……」
 アルバルク、頭をばりぼりかいている。
『コレって何かな? それよりコレは適当かつ気まぐれな不良中年だから気にしちゃダメだよ〜』
 この主人にしてこの相棒あり。アルバルクの相棒、上級羽妖精「リプス」がしれっと言ってのける。
「ま、いいですけどね。じゃあ地上班はこの5人で」
「ウルイバッツァさん、行きましょう! 上の4人がもう上空に来てますよ」
 スメヤッツァのハッチに収まろうとするウルイバッツァに、同じくハッチに収まりかけていたアーシャが上を指差す。
 空には龍二体と滑空艇二機が通り過ぎようとしている。



 その頃、上空。
「先行部隊、ここで地上展開するみたいなのだぜ?」
 灼龍「姫鶴」を駆る叢雲 怜(ib5488)が下の様子を確認してから皆に目をやった。
「前から……ドラゴンゾンビでしょうか…」
 並走する轟龍「紅焔」に乗っているのは柊沢 霞澄(ia0067)。胸に手を当て大きくなってくる敵を見据えている。
「あたい、考えがあるんだ!」
 まだまだ遠い、と見たルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が一瞬身を屈めると、思いっきり滑空艇・改弐式「白き死神」の宝珠を噴かせた。一気に白い機体が上空に舞い上がった。
「来てます……加速したんでしょうか」
 霞澄、振り返って声を張った。
「この空を汚す者、僕は許さない……」
 ぐん、と加速したのは滑空艇・改弐式「星海竜騎兵」。天河 ふしぎ(ia1037)だ。
「さぁ行くよ、この旗の元に!」
 続けて鬨の声を上げるふしぎ。
 同時に!
 中空に光の団旗が……蒼き旗の幻影が現れ掲げられた。白い翼とゴーグルを模した意匠とともに、仲間に勇気を、困難に立ち向かう強い心を植えつけた。
「加護は一度きりですが、突破して近付く為の一助になればと……」
 霞澄、急いで加護結界。
「なかなかカッコ良いのだぜ」
 意気に感じた怜が鍛えに鍛えた長距離銃、マスケット「魔弾」を構えてじっくりと……いや、加速した。姫鶴に騎乗したまま高速で動きながら初弾を放つ。びしり、と向かってくる五体のドラゴンゾンビのうち一体にぶち込んだ。
 この時、さらに上空。
「最強モード発動!」
 マスケット「魔弾」を構えたルゥミが叫ぶと、彼女の背中に白い翼の幻影が浮かんだ。凄まじく消費される連力。一気に集中力を高めるルゥミ。瞬間に消費される連力の余剰が白い翼となって現れていたのだ。
「羽の付け根、もいじゃえ〜」
 たぁん、と弾道が延びる。
 さすがの移動ターゲットに対する超長距離射撃はピンポイントにヒットしないが、それでも敵の胴体に当った。敵は耐久力が強い。
「今度はこっちだ!」
 遠目からの攻撃に加え、今度はふしぎ!
「正義の空賊団長として、この空の平和を乱す者を、決して許しはしないんだからなっ!」
 魔槍砲「赤刃」をどぉん!
 そのまま駆け抜けるふしぎに首を巡らせるドラゴンゾンビ。
 しかし、それは大きな隙となった。
「……もう、迷いたくない……」
 飛び抜けたふしぎの後方から、空賊戦陣に乗った霞澄が来ている!
「紅焔……ここまでで十分です」
 透き通った声で相棒にひと声掛けると両手を千早「如月」の裾に掛けてふわり。同時に雪のような白燐に包まれた。そのまま両手を自らの胸の前に伸ばした。
――どぉん……
 精霊砲が一直線に迸った!
 敵に見事命中。その横を飛ぶふしぎ、別のドラゴンゾンビ二体に後背を狙われていた。
「こっからが本番だ!」
 首を伸ばし背筋を伸ばし、強引に星海竜騎兵を反転させながら吠える。
 ぐいん、と身を翻し突っ込んだ。
 巴戦だ。
「駆け抜けろ星海竜騎兵!」
 可変翼、動く。信じられない加速で詰める。
 いや、やや右に軸を移した!
「これでどうだっ!」
 緩やかに蛇行しつつ空戦・烈風!
 浴びせられる瘴気ブレスは我慢。敵がやや一列になるような位置取りに回りこんで突っ込み、右に左に霊剣「御雷」を振るって駆け抜けた。
「これで一体くらい倒したいんだぜ?」
 どう、と横から銃声。怜がちゃんと味方の動きを見て、止めを刺した。
 もちろん、上からも射線来ている。
「あっ!」
 その、上から狙っていたルゥミが声を上げた。
「下に逃げた! こっちに気付いたら動きが分かってさらに当てやすくなるのに、なんで?!」
 次弾を込めつつぷんすかしている。
 そう。
 ドラゴンゾンビどもは上空からの射撃を嫌って高度を下げたのだ。
「そのうちそうくるんじゃないかと思ったんだぜ?」
 ぐん、と怜が高度を下げてあおるように射撃する。
 が、もう止まらない。
 下では味方の駆動部隊が敵陸上部隊の先兵と接近していた。



 こちら、地上。
 がっしゃん、がっしゃんと二体のアーマーが急いでいる。
「ん?」
 その一体、スメヤッツァ内でウルイバッツァが眉を寄せた。
 悪鬼兵十五匹前後が先行していた。砲角大鬼を乗せた朧車はその後方にいる。
「高射砲車両より鬼どもが出てきてるのか?」
 まあ、上空援護専念なんだろうけど、と納得する。
 ここで横に気付く。
 並走していたアーシャのゴリアテが加速していた。
 ゴリアテの内部では。
「突撃〜〜!」
 アーシャ、一気に押せ押せモード。
「……勝負ですかね」
 ウルイバッツァも速度を上げた。
 ギガントシールドを掲げた二体のアーマーの圧倒的な突撃が敵に迫る。
 が!
「はっ、危ないにゃ!」
「アーマーを壁にさせてもらいつつ接近……にゃ?!」
――ぶぉぅぅぅぅ……
 上空から瘴気ブレスが来た。
 アーマーと、それに続いていた千佳と小苺がもろに食らう。
「いきなり上空からかよー」
 さらに後ろに控えていたアルバルクはこれに気付いて宝珠銃「軍人」を準備する。
『敵の射程は短めだねぇ』
「おぅよ。次、敵が下りてきたときにぶっぱなすぜー」
 対地攻撃をして飛び去ったドラゴンゾンビを見送るリプス。後ろを向いて四つんばいでお尻突き出し。
 そこへまた前から来る。アルバルク、構えた。
「そらよ」
 すたーん、と今度は命中させた。飛び去る敵に、後ろを向いていたリプスの服はひらひらめくれたが。
 一方、前衛。
「うにゃー! 怒ったにゃ。……ちょーやる気にゃ〜」
 瘴気ブレスをもろに食らった小苺がぷんすかと飛び跳ねていた。
「やるのにゃ!」
『……』
 小苺に言われた相棒の焔雲が面倒くさそうに閃光を放つ。
 そのタイミングで、今度は千佳と百乃が出る。
「あたしの邪魔をするんじゃないにゃ! コクリちゃん捜索の邪魔する人はお仕置きするにゃー!」
『やはり地に足を付けられるのはいいにゃ。機嫌がいいから…全力で戦ってやるにゃよ』
 にゃふふんとかざした北斗七星の杖からアークブラストが一直線。
 百乃の方はさらにぴょんぴょんと近寄って黒炎破!
「シャオもやるにゃ〜っ!」
 その後ろから小苺がぴょんぴょん出てきてさらに瞬脚。炎甲「軍荼利明王」で固めた拳を振り上げて……。
「だるまさんは転ぶにゃ〜」
 空気撃どーん。敵は見事に転んで機先を制す。
 この様子を最後列からアルバルクが見ていた!
「猫ちゃんたち、空からのブレス食らわないよう乱戦に持ち込むのはいーがよぅ」
『今まで盾代わりにしていたアーマーが全部前に行っちゃったね』
 そう。リプスの指摘通り。
 この時、ゴリアテ。
「邪魔、邪魔〜〜!! そこをどきなさ〜〜い!」
 操縦席に収まったアーシャが自ら望んだ激しい動きに眉を少しゆがめて耐えつつ、迫力ある突破と半月斬りをばすんざすんと繰り返していた。悪鬼兵など蹴散らし前を開ける。
「鬼の中に少しは頭のあるのが居るのかな?」
 ウルイバッツァも負けてはいない。オーラダッシュで突破を試みる。呟きは、ある懸念から。
「千佳ちゃんと小苺ちゃんにも攻撃がいっちゃうからね。できるだけ離れないと」
 アーシャとは違いシールドを掲げ専守の構え。懸念は、砲角大鬼が対空射撃ではなく水平射撃してくるかもしれない、という一点。
 しかし、飛んでこない。
 これはいける、とウルイバッツァも積極的に攻撃しつつ前に出た!



 その砲角大鬼。
――ドシュッ、ドシュッ!
 中空に瘴気を集中させて角を出現させると、それを空に打ち出していた。
 狙いは、高度を下げた友軍のドラゴンゾンビを追うべく下がってきた開拓者空戦部隊。
「やってくれるのだぜ」
 食らって上空に離脱する怜。そこに投げられた花束のような精霊力が飛んできた。ふわっ、と体が少し楽になる。
「大丈夫……ですか?」
 霞澄だ。
「敵も……回復……」
「きっとしてるのだろうぜ」
 続けて呟くと、怜が先に狙った一体の翼の付け根がピンピンしていることに気付いた。
 この時、上から射撃。
 ルゥミの超長距離射撃だ。どうやら翼を狙っているらしい。
「あたいの高度に届かないなら、最強モードで額をぶち抜き殲滅だよ!」
 おっと、上空のルゥミが狙いを変えた。砲角大鬼へと超長距離射撃。
 これが見事ヒットする!
 が、敵は異常に硬い。一発では倒れない。
 一方、彼女が狙っていたドラゴンゾンビには。
「ルゥミの続きは俺なのだぜ。徹底的に狙って行くのです」
 怜、敵の痛めた片翼をさらに狙った!
 限界以上の……いや、限界異常の練力が怜の小さな体を駆け巡るッ。
 放った弾丸は「嵬」祇々季鬼穿弾の技術で限界突破の破壊力を秘め敵に迫る。撃った直後に怜がくらっとしたのは、技の奪っていく体力のため。気合いの一撃だ。
――ビスッ!
『ガッ!』
 ドラゴンゾンビ、いくら体力の化物といえども強烈な二発にもう翼が上がらない。失速して落ちていく。
 ここで、砲角大鬼の高射砲が着弾。高度が下がっていたのだ。怜や霞澄たちはこれを数発食らう。
「大丈夫」
 突然の声は、ふしぎ。
 瞳は、地上への奇襲を終えて今度は上昇してくるドラゴンゾンビに向けられていた。砲角大鬼の先ほどの一斉射撃はこの布石だったのだ。
「ドラゴンゾンビの巨体に隠れるようにして、地上からの攻撃の盾に出来る位置取りに動き回って翻弄するよ!」
 ふしぎ、自ら手本を示すべく急降下した。
 そして素晴らしい運動性能を見せる。
「はっ、はっ……」
 空戦・烈風ですれ違い様に剣で死龍に切りつける。
 斬られた敵は、ふしぎを追わない。見るからに滑空している。回復しようとしているのだ。
 そこへ一匹の龍が急降下!
 こと、回復に関して霞澄が見逃すはずはないっ!
「……ふしぎさんの攻撃を……」
 再びすぅぅ、と千早の裾を構えた霞澄。
「……無駄にはしません!」
 言葉はいつもながら小さいが、見据えた瞳が力強い。
 同時に、精霊砲どーん。
 回復しようとしていたドラゴンゾンビにそれをさせない。もちろん、霞澄の狙いに気付いた怜が続き、射撃。
「よーし。でっかい鬼は逃げ回るんなら地上に任せるよー。今度はこっちー」
 上空のルゥミ、今が空戦の攻め時と見るや射撃先を変えた。ドラゴンゾンビにビシッと当てていく。
 そして、乱れたドラゴンゾンビの群れで。
「これで止めなんだからなっ!」
 ひらっ、と巴戦で翻ったふしぎが霊剣「御雷」を恐ろしい速度で走らせた。
――ドシュッ!
 飛びぬけたふしぎの背後で、ドラゴンゾンビの首が落ちる。
――ビスッ!
 ルゥミの超長距離射撃で脳天を撃ちぬかれた龍が力なく減速する。
「高射砲から隠れながらでも当られるのだぜ?」
 怜はクイックカーブを利用して隠れながら……おっと。
「怜……さん、いきました」
 霞澄が精霊砲でいま怜の撃った敵に止めをしながら振り返る。
 最後の一匹が真っ直ぐ怜を狙っていたのだ。
 怜、次弾を込める前で何もできない。
 いや、にやっと笑みを浮かべたぞ!
「姫鶴、存分に暴れるのだぜ?」
『ケーン!』
 主人の一言に灼龍が鳴き自由に羽ばたいた!
 敵との交錯。
――ドゴッ……ドォン……。
 姫鶴、敵の体当たりに吹っ飛んだ。
 いや、同時に右爪にくくられた獣剣「スルト」で切っている。そこが同時に爆発!
 これぞ鬼龍炎斬。
 が、相打ちの痛手は大きく、最後の空の敵とともに共に落ちていく。



 時は遡り、地上。
 ゴリアテとウルイバッツァが悪鬼兵との乱戦を一気に抜け出し敵高射砲部隊に迫っていた。
 いま、目の前で上空からの攻撃を食らう砲角大鬼。
 ガラガラ、と朧車が自慢の機動力を発揮し、上空からの的にならないよう急加速した。
 が、これはあくまでも上からの射撃を撹乱するための加速と減速の繰り返し。
 地上の状況は二の次だ。
「そこの丸っこいの、よくもコクリさんを落としましたね!」
 おかげで猛烈な勢いで肉薄するアーシャたちとの間合いが急激に詰まっていた。
 助走十分。ゴリアテのアーマーアックスが全てを砕かんと振り上げられる。
「私が成敗しますよ!」
 ぶうん、と大きく振る。すれ違いざまの激しい激突に、朧車の片輪がド派手に吹っ飛んだ。ゴリアテすらもこの激突に耐えられずに弾かれるが、ポジションリセットで踏みとどまる。
「こっちは僕がいただこうかなぁ」
 この様子を目の当たりに飄々と言うのは、ウルイバッツァ。スメヤッツァを操り振り上げるは、豪剣「リベンジゴッド」。
「これでどうかな?」
 腰を落としてひゅんと振り抜く。踏み出した右足が大地を削った。
――ドン、ガッシャァ
 朧車のもう片輪が吹っ飛び、砲角大鬼の乗った朧車は前部両輪を失いつんのめりつつ大地を耕し……止まった。ふしゅううう、と朧車が瘴気に戻り、ぶよぶよしたアーマーほどもある鬼がゆらりと立ち上がった。
「上にしか撃てないのならあとは……」
 ウルイバッツァ、詰めて斬る。が、巨体なだけに無駄に体力があるようだ。殴りかかってもくる。これは盾で防ぐ。そしてまたも振り上げられるリベンジゴッド。
「格闘戦でアーマー『人狼』に勝てると思わぬように」
 どしゃっ、と切り下ろす。これは効いた。
 もう、時間の問題だ。
 一方、アーシャ。
「ウルイバッツァさんの方には行かせません!」
 別の砲台の、やはり車輪をふっ飛ばしていた。こちらはルゥミの砲撃を受けていた敵らしく、すぐにぐしゃっとバランスを崩し瓦解。ゆらりと砲角大鬼が立ち上がっていた。
「巨体対巨体……浪漫じゃないですか!」
 もちろん、むしろ喜んで突っ込んでいくアーシャ。ゴリアテの勇姿も生き生きと、先手を取って長柄斧を振り回す。敵の格闘能力は低く、こちらも時間の問題。

 そして、盾役のいなくなった後方。
「うにゃーっ!」
 どーんと空気撃をかました小苺が瞬脚の勢いそのままに転がった悪鬼兵からさらに通り過ぎて止まる。そして節分豆ぽりぽりぽり……。
 転んだ悪鬼兵はこの隙を狙わんと起き上がったが、顔面に鋭い風が切りつける。
『……』
 あくびをしつつ主人に続いていた焔雲が、やれやれという感じで鎌鼬。
 どうやら焔雲、「働いたら負け」と思っているようではない。
「ふしゃーっ!」
 小苺の方は別の悪鬼兵にどつかれて怒りの反撃。
 でもやっぱり空気撃。
『……』
 焔雲、はいはい止めねという感じで鎌鼬を放つ。

 千佳の方は。
「どくのにゃーっ!」
 アークブラストを食らった敵が転んだ。
『地面の怖さを思い知るにゃ!』
 主人に続き、百乃がぺしと目の前の大地を前肢で叩く。
 するとっ。
――ごばっ!
 大地が大きく隆起し悪鬼兵をふっ飛ばす。
 百乃の方は焔雲と違いご機嫌な感じで絶好調戦闘中。どしゃ、と大地に叩き付けられた悪鬼兵はもう動かない。
 そして。
『いきますやります妖精三等兵のリプスちゃーん』
 きらきら〜ん、とリプスが飛び回り相棒剣「ゴールデンフェザー」を振るう振るう。主に小苺と千佳に機を取られている悪鬼兵の後背に回りこんでばっさばっさやっている。
「しかし、アヤカシも対空たあ、時代も変わったねえ…」
 主人のアルバルクは手近な悪鬼兵にぶっ放した後、駆動鎧の戦場を見ている。
『おじさんが寝ている間にも世界は廻っているのだよー』
 リプス、ひらりと戻ってきた。
「いーや本気で記憶ねえわ。飲みすぎたかねえ…」
『迎え酒は許可しないのである!』
「手厳しいな!」
 胸を張って言い放ったリプス。その時、前に逃げてきた砲角大鬼の乗った朧車が突撃して来て呟いた直後のアルバルクを吹っ飛ばした。
『敵きびしいね!』
 この様子に、小苺も千佳も気付く。
「後はあの大きいのだけにゃね! 必殺・マジカル♪アッシュで消えてしまうのにゃよ!」
 千佳、くるくる〜んとマジカルワンドを頭上で回して手前にびしり。灰色魔法が敵の前輪を削り取った。
「おっさんはこっち、かな?」
 アルバルクは逆から宝珠銃で車輪をずびし!
 これでつんのめって止まる朧車。
「三等兵は突撃あるのみだろ?」
『いきますやりま……これで取り分同じかー』
 主人に言われて少し引っかかったが、これまでのノリで砲角大鬼に突撃。
「うにゃにゃ〜」
 もちろん、小苺も来ている。
 もう一体も、ウルイバッツァとアーシャの囲みでげしげしと削っていた。
 勝負はこれで決した。
 この時。

「みんな、お待たせ!」
 コクリ・コクル(iz0150)が滑空艇に乗り、先行部隊を率いてやって来た。
「コクリちゃんにゃー!」
『主はまずは落ち着くにゃ』
 地上では気付いた千佳が戦闘そっちのけで手を振る。
「修理に手間取ったけど復活だよ!」
 そう言うがかすり傷などが酷い。
「無事で良かったです…」
 背後から霞澄が近寄り、愛束花を投げながら、にこ。
「よーし、コクリも無事だったし、空も片付いたし……」
「止めをお見舞いするのだぜ」
 ふしぎも怜もやって来た。もちろん、高空からルゥミの射線も来ている。
 コクリに関係なく、勢いに乗ってそのまま敵を殲滅した。