【空庭】偵察野郎〜黒い天使
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/10/20 13:27



■オープニング本文

 夕日が揺らぐ魔の森上空にて。
「出おった! がーっはははは。我らを『偵察野郎A小隊』と知って姿を現しおるとは敵ながらあっぱれ!」
 飛空船の甲板で、ゴーゼット・マイヤーが高笑いしていた。
「しかし、『黒い天使』とはよく言ったな。……まるで翼の生えた人のようだ」
 隣ではブランネル・ドルフが幻想的な敵の姿に目を見張っていた。
「あれって……本当に蟻のアヤカシなの?」
 一緒にいる紫星(iz0314)も思わず見惚れながら確認する。
 彼らの目の前を悠然と飛んでいるは、人のシルエットのような形をしている。そして背中に黒い翼。まるでそれで羽ばたいているようなシルエット。
 ただし、姿は黒い。
 それもそのはず。彼らが討伐に借り出されたのは、この天からの使いのように空を飛ぶ、「人型に群れ固まって飛ぶ蟻アヤカシ退治」を依頼されたから。

 現在、開拓者たちは旧世界に下り立ち護大派との決戦に赴いている。
 いわば、補給線が伸びるだけ伸びきっているのだ。
 しかも、これまで踏破してきた冥越のアヤカシ残党は残り、魔の森も健在。大アヤカシは討伐し、アヤカシ残党は組織的な反撃をしてこないものの、いまだこの広大な魔の森に潜伏しているのだ。
 もちろん、アヤカシどもは大人しくしているはずがない。奴らも食事は必要なのだ。
 さりとて、ばらばらに動けば各個撃破の格好の標的にされ、固まって蟻塚にこもっていればまとめて始末される。
 極限の状態から、新たに群れなすアヤカシが出てくるのも不思議ではない。
 今回、羽蟻アヤカシが人型に群れを成すことで単体では不可能な飛行能力を得ることで、今まで襲うこともできなかった上空の飛空船を標的とすることを可能とした事例が目撃された。
 名付けて、「黒い天使」。
 一度に数体が現れ飛空船に取り付くと分離して船の隅々まで行き渡り、やがて墜落させてしまう。
 補給線の危機に、囮部隊が結成された次第である。
 その栄えあるメンバーこそが、ゴーゼット率いる威力偵察部隊「偵察野郎A小隊」。
 これはそんな偵察野郎たちの、偵察何それとにかく叩くんだよな活躍を描いた物語である。

「とにかく出るぞ、紫星」
「分かった」
 ブランネルと紫星が頷く。
「よし。『何げに神出鬼没の偵察部隊』、偵察野郎A小隊、出るぞ!」
「おおっ!」
 ゴーゼットの掛け声で龍に乗り、出撃した。
 向かうは3体の「黒い天使」だ。

 で、後日。
「くそっ。まさかばらばらになって木々の密集した魔の森に着地して移動し、別の場所から人型になって現れるとは……」
 ゴーゼットが悔しそうに珈琲カップをテーブルに叩きつける。
「あん。壊さないで下さいよ?」
 雪切・真世(iz0135)が給仕しながら釘を刺す。
「そうだ。エンゼル真世は霊騎乗りだったな。……黒い天使が地上に降りたとき、攻撃してくれないか?」
 ブランネル、ひらめいたとばかりに手にしたコーヒーカップで真世を指差す。
「えー、私一人だと無理よぅ。それに、どこに下りる場所によってはすぐに行けないかもだし」
 真世の言い分は妥当である。
「空からなら追えるんだが龍や滑空艇では入り込めないところに奴等は降りやがって……」
 がじがじとカップの飲み口に歯を立てながら悔しがるゴーゼット。そこで真世がふと呟いた。
「ほへぇ。それなら、迅鷹の合体とか空を飛ぶ戦馬で追えばいいんじゃない?」
「それだ!」
 再びカップで指差すブランネル。

 こうして、羽蟻アヤカシの群鯛「黒い天使」を討伐する偵察野郎A小隊メンバーが募られることになった。


■参加者一覧
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟


■リプレイ本文


「無理やり空を飛んでくるとはな。アヤカシも生き残りに必死ってことか」
 魔の森上空を行く飛空船の甲板で、クロウ・カルガギラ(ib6817)が流れる風を受けながらまだ敵の現れていない空を見据えていた。
「俺たちも……まあ無理矢理空を飛んでるといえばそうだけどな」
 隣にケイウス=アルカーム(ib7387)が並んで呟く。肩に大人しくしていた上級迅鷹「ガルダ」を撫でながら人も同じでは、という思いをかみ締める。撫でる手つき、いや、ガルダを見詰める視線は感謝に溢れている。
「いーではないか、無理。……男は無理をしてナンボ。無理が男をつくり、そして男が無理を可能にするのだ!」
 しっとりしていたケイウスの気分をぶち壊すようにゴーゼット・マイヤーが割り込んできた。
 ちなみにこの時。
 後ろの方で雪切・真世(iz0135)とリィムナ・ピサレット(ib5201)が話していた。
「さっさと倒して珈琲飲もうね♪ ミルクは……まだ、かな♪」
「な、何よ、リィムナさん、その間はっ!」
 リィムナのちら、という視線に気付いた真世が自分の胸を抱いてそっぽを向いていたり。それは無茶振りですよ、リィムナさん。
「そーそー、進化をしたのはアヤカシだけじゃないんだから!」
 リィムナと真世の後ろから相棒の輝鷹「忍鳥『蓬莱鷹』」を肩に乗せたルンルン・パムポップン(ib0234)が歩み出てきて前足スラリして胸の前で腕を組む。
「今こそパワーアップした蓬莱鷹ちゃんと私の、真のニンジャ力を見せちゃいます!」
「よぉし、そーだ。よく言った……」
 ルンルンの言葉に勢い付くゴーゼットだが、先が続かない。
「あー……。そういや久し振りにA小隊に参加したが、まだあだ名で呼んでんのか?」
「馬鹿野郎っ。いいか、ラピスアイ。まだ呼んでるかとかではなくカッコいいかどうかだっ!」
 気付いた「ラピスアイ」クロウにゴーゼットが猛然と反論する。
「いいね、カッコいいかどうか」
「こっちも生き残りに必死、か」
 おおっと、ケイウスはこの乗りを否定しないぞ。クロウの方はゴーゼットをからかっているが。
「我々は威力偵察部隊だ。常に生き残りに必死であるっ! そこのところ間違わないようにな、『カワセミ・ケイウス』に『フリーカイト・ルンルン』」
 ええいええい、と地団駄を踏みつつゴーゼットが口走った。
「カワセミ?」
「青い鳥といえばカワセミだ!」
 ケイウスには青い羽飾りを指差し言う。
「ニンジャ……」
「ニンジャの前に糸の切れた凧だろ!」
 指をくわえて物足りなさそうにするルンルンにはこの暴言。
 と、ここでひひんと馬の鳴き声。
「ツインナイト・アーシャ、参上!」
 相棒の戦馬「テパ」に乗って長柄槌を掲げるアーシャ・エルダー(ib0054)、颯爽と登場だ!
 ふふん、と胸をそらした様子は「カッコいいとはこういうこと」と言わんばかり。風が長い彼女の髪をなびかせている。
 ざっ、と今度は反対側に立つ姿。
「トライクロス・エルディン参上!」
 相棒の輝鷹「ケルブ」を肩に乗せたエルディン・バウアー(ib0066)だ!
「天使と聞いてやってきました。まがい物の天使なんてのは私が滅しましょう」
 前髪を弾いてふわっと浮かせ、きらりん☆と輝く聖職者スマイル。ああ、これがカッコいいということかッ!
「いいぞ、これだ。こうでなくてはなっ!」
 ゴーゼットも二人の乗りに喜ぶが……。
「真世さん、お久し振り〜」
「ああん、アーシャさん〜」
 アーシャは真世をはぐだきゅすりすりともみくちゃに。妹がいない分まだ今日はお手柔らか……かも。
「あっ、あれ!」
 そんな騒ぎを背に舳先で索敵を怠らなかったルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)がおっきな瞳をキラキラさせて振り返り指を差していた。
「ねえ、あれがそうじゃないかなっ?!」
 皆が注目すると、遠い山と雲の棚引く空を背景にわさわさと背中の翼をはためかせて飛ぶ人型の異形の姿があった。
「よくやった、『スノーリトル・ルゥミ』。偵察野郎A小隊、出動だ。威力偵察隊の威力を見せ付けてやるぞ! ほら、『カフェミルク・リィムナ』も出るぞ!」
 走るゴーゼット。ルゥミとリィムナはいきなり呼ばれたあだ名に「ま、いいか」な感じで頷き走り出す。
「待て。……森からもう二体も上がってきてる」
 瞳孔を大きくして森を警戒していたクロウが大声を出した。
「何だと!」
「ブランネル、すまないけど」
「ああ、お安い御用だ」
 ゴーゼットが吠えた。ケイウスは出撃前にブランネル・ドルフに声を掛けた。龍に同乗させてもらうつもりだ。
「積極的に前に出る。こちらに近付けさせるな!」
 クロウにためらいはない。翔馬「プラティン」に乗り大空へと駆け出した。



「真世さん、行ってきます!」
「頑張って、アーシャさん」
 アーシャもテパに乗って空に繰り出した。ルゥミは戦馬「ダイコニオン」とともに。
「あれ? ブランネルさんもゴーゼットさんも行ったけど……」
 真世、みんな一斉に出撃しなかったのを不審がる。
「練力は温存したいからね。ケイウスさんみたいに。あたしは下に行くから少し遅めでもいいけど」
 リィムナ、ワンテンポ遅らせた理由を説明すると光に包まれた輝鷹「サジタリオ」を纏った。背中に生えた光の翼をはためかせ飛び立つと一気に低空に急降下した。
「蓬莱鷹ちゃん、今こそニンジャ合体です!」
『ヴォォォォン』
 ルンルンも三角跳びでマストを蹴って宙を舞い、横から入ってくる光と化した蓬莱鷹と空中でクロスし合体! 広げた翼と伸ばした両手でX字を描き錫丈くるくる回す。
「空は友達怖くない…ニンジャ天使マジカルルンルン、ここに誕生なのです!」
「……マジカルニンジャにあだ名変更かな」
 決めポーズをした後先を急ぐルンルン。見送りながら真世がぼそり。後の話になるが、あだ名は無事に変更されたがこれは余談。
 そして、エルディン。
「ふふっ、どちらが天使と呼ばれるに値するでしょうか」
 伸ばした腕からケルブが羽ばたく。うきうきして主人を見る瞳は、『神父様と一緒に戦えるのね!』と言っているように輝いている。
「行きましょう、ケルブ。神の使いの何たるかを示すため」
 輝くケルブ。一瞬の閃光の後に立つ姿は、嗚呼。
 純白の2対の翼を背に神父の礼服を纏い立つ姿は、まさに神の使いというに相応しく神々しかった。
「ふふっ、どちらが天使と呼ばれるに値するでしょうか」
 とん、と甲板を蹴ると広げた翼で悠然と空を行くのだった。

 先行組はすでに接敵している。
「まず囲め、だったな?」
 ブランネルが後ろに乗るケイウスに聞く。
「うん。まずはみんなで取り囲んで、できるだけ空で決着ってことになったんだ」
 実際、ブランネルの龍が左に展開し、ゴーゼットが右を固めている。
 下のほうでは。
「ほらほら、早く上に行って合流してよ」
 リィムナが合流の動きを見せる敵を追うようにしている。
「あたいもこっちからだよ」
 ルゥミがリィムナに続いている。
 そして、敵と味方飛空船を結んだ線上で。
「正々堂々、勝負しなさ〜い!」
 長柄槌「ブロークンバロウ」を掲げたアーシャが最初の一体に突っ込んできている。
――ゴォウ……。
 敵もこの動きに合わせ、人型を取った右腕を上げた!
「食らいなさいっ!」
 ぶうんと豪快に右から振り抜くアーシャ。人馬一体の動きでテパが右に逃げている。敵の右腕の軌道をかいくぐるようにわき腹に見舞った。ぼふり、と敵の体を攻勢する数匹の黒い蟻が散った。
 ぬう、と振り返る敵。が、アーシャは止まらず駆け抜けた。
 理由は明白だ!
「全能なる神の炎よ、天使の名をかたる不届きなアヤカシを滅せよ!」
 敵の背後から神々しい声がする。
 振り向く敵が見たのは、猛然と突っ込んでくるエルディンの――渾身のメテオストライクを放った姿!
――どごぉん……。
 範囲攻撃に敵、木っ端微塵だ!

 この時、下から迫っていた敵の内の一体。
「こっちは行き止まりだ」
 上の一体とタイミングを外して出現し飛空船に迫っていたが、その前にクロウが立ち塞がった。宝珠銃「ネルガル」を構え撃つ。
 が、敵はこのくらいでは怯みもしない。突っ込んでくる。
「言った意味がわからないか?」
 ひらり、とつむじ風のように動くクロウ。左手の名刀「ズルフィカール」の薙ぐ動きとプラティンの動き、そしてクロウの身の捻りがすれ違いざまの攻防で冴える。
「後は任せてくださ〜い!」
 次弾を込めつつ振り返ろうとしたクロウだが、呼び掛ける声に気付いた。そのまま前に離脱する。
「やって来ましたやっと出た! ジュゲームジュゲームパムポップン…ルンルン忍法超ニンジャ竜巻!」
 声の主は、遅れてきたルンルンだ。一直線に飛んできて敵と激突する瞬間、人差指を上げた。
――ごぉう!
 風神が周囲に吹き荒れ戦いの風を呼ぶっ!
 これを食らって黒い天使はばらばらになった。瘴気に戻りながら落ちる羽蟻もいたが、結構な数がそのまま羽ばたきながら下へと落ちていく。
「ん?」
 この時、クロウとルンルンは見た。
 黒い羽蟻の中に、一匹だけ白い羽蟻がいたことを。

 もう一体。
「あまりこっちを気にしてないのかな?」
 リィムナ、敵を合流するよう追いたてようとしたがあくまで飛空船を目指していると見て残念そう。
「合流するつもりがないならあたい、やっちゃうよ!」
 あくまで敵はそれぞれ飛空船を目指していると見るや、ルゥミは魔槍砲「赤刃」を構えた。狙うは魔砲「スパークボム」での群体の一機殲滅!
「どうだ!」
 魔槍砲、どーん!
「荒ぶる神霊を鎮める曲、響け!」
 リィムナは同時に「魂よ原初に還れ」。「ローレライの髪飾り」によるアカペラだ。
 砲撃で散った敵の羽蟻。そこにぎゃーんと滅殺の曲が響く。まずは腕や脚などある程度固まったまま飛び散り固まりきれなかった敵が瘴気に戻り倒れながら散ったが、曲の追撃で完全にばらばらになった。
 だが敵の羽蟻は全て滅したわけではない。
 固まっていた中心部の羽蟻は生き残り、羽を広げて滑空しながら落ちている。
「まずい!」
 リィムナ、曲のアンコールにはやや間が必要。見送るしかない。
「こっちならすぐに撃てるよ! 『ルゥミちゃん最強モード!』」
 ルゥミはすぐに奥義発動。さらに……。
「ブレイカーレイ!」
 直線薙ぎ払いの一撃は、奥義と合わせて絶大な範囲の敵を滅した。
 が、初撃での散らばりぶりもハンパではない。
 黒い羽蟻少しと、白い羽蟻が森へと落ちていった。

「乗せてくれてありがとう、行ってくるね! ……ガルダ!」
 この時、ケイウスが出撃を決意していた。光の当たり具合で金色に光る翼と赤色の瞳をもつ迅鷹の名を呼びいま、「友なる翼」。光の翼をはためかせ、ブランネルの龍から飛び立った。
「少しでも空中で仕留めるんだったね」
 詩聖の竪琴を構え、「魂よ原初に還れ」。
 エルディンのメテオストライクを食らい落ちてくる羽蟻はこの曲を聴いて昇天……黒い瘴気に戻っていった。
 それでも、一匹の白い羽蟻と何体かの黒い羽蟻が森へと落ちていくのだった。



 滑空しながら舞い落ちる羽蟻たちはやや横にズレながら魔の森に落ちていった。
 横に展開していたゴーゼットに近いほうだ。
「むおっ! なるほど、風に逆らってこちらに来ると思えば……」
 迎撃のため高度を下げたゴーゼットが止まって悔しがった。魔の森の密度が高く、龍に騎乗したまま森の中まで追うことができないのだ。
「どいてどいて〜!」
「むおっ! スノーリトルか?」
 背後からの声に道を開けるゴーゼット。突っ込んできたのはルゥミだった。ダイコニオンで木々の手前まで行くと隙間から適当にスパークボムをど〜ん!
「突っ込みますよ〜」
「むおっ! ツインナイト?」
 今度はアーシャ。テパで木々の間を入っていく。
「流れからして、あっちに逃げるのかな?」
「おおぅ、カワセミ!」
 さらにケイウスが回り込んで敵の入った角度から先回りし森の中へ。ガルダの翼を巧みに操り降下していく。
「さて、落ちた偽天使の墓場はできたようですね」
「トライクロス!」
 そしてエルディンが降りてくる。どーん、と再びルゥミの範囲攻撃。さらに加えた範囲攻撃で森の中に広間ができている。それを見下ろし頷くと横に飛びながら森に下りた。
「囲んで中央に集めるんだ。ゴーゼットたちは空を頼む。じゃ、行ってくる」
「ラピスアイ!」
 手筈を話してなかったゴーゼットにそう伝えたのは、クロウ。たーんと短銃で木陰に隠れている羽蟻を撃ちつつ森へと消えて行った。もちろん、今まで仲間の向かっていない方向だ。
「あっ。もう再集結しようとしてるのがいる!」
「フリーカイト?」
 ルンルンもやって来た。
「違いますマジカルニンジャですっ! オープンニンジャ…」
 ルンルン、訂正して森にできた広間に突っ込むと蓬莱鷹との合体を解除した。目の前には白い羽蟻を中心に、先ほどより小さくなった人型が形成されようとしている。
 この横の木に三角跳をするルンルン。
 蓬莱鷹が跳んだ先に別方向から突っ込み……。
「バードチェーンジ、ルンルン忍法火の鳥!」
 今度は燃える炎の翼を纏った!
 そのまま敵に一直線。自ら纏った炎で集まりかけていた敵を薙ぎ払う。
 この時、上空。
「よし。この隙に……」
「カフェミルク!」
 最後にリィムナが下りてきた。
 ルゥミの攻撃でできた広間に下り立つと、合体を解除した。
 するとっ!
「な、なんだ?」
 見下ろすゴーゼットにはリィムナの変化はわからない。
 が、先のルンルンの攻撃でかろうじて生き残った羽蟻数匹や、周りから仲間達の範囲攻撃やホーリーアロー、スマッシュなどで追い立てられ逃げてきた羽蟻たちの様子がおかしいのだ。
「カフェミルクを攻撃しないばかりか、逃げるか近寄るかも分からない動きだな」
 ブランネルがゴーゼットの隣にやって来て分析する。
 実はリィムナ、自身をラ・オブリ・アビスで討ち果たされた大アヤカシ「山喰」として周囲に認識させていた。一定の効果はあるようだが、完全には羽蟻アヤカシを騙しきっていないようだ。
 そこで、リィムナの「魂よ原初に還れ」が響く。
「やったか?」
 地上の木々の間で様子を見ていたクロウ。その目の前でほとんどの蟻が消滅した。
「ダイちゃん、どうどう」
 ダイコニオンをなだめつつ様子を見ていたルゥミも、これで終ったと思った。
「……親玉が随分前にやられたことを知ってるから逃げようとしたのかな?」
 実は逃げようとした蟻の一部を「夜の子守唄」で眠らせていたケイウスも、無事に自分の任務が終ったと隠れたまま息をついた。
「範囲攻撃はないから苦労はしましたけどね」
 錫杖で広間まで追い立て切れなかった羽蟻をげしりと潰したエルディンもほっとする。
「白い羽蟻もばっちり倒したのです」
 ルンルンは先の攻撃で白い羽蟻を潰したことに大満足していた。
 しかし、まだ終ってなかった!



「蟻塚発見ですっ!」
 森の中からアーシャの叫び声がした。
 全員、そちらを見て急ぐッ!
 駆けつけた時には、木々の茂る空中でぴしぱしと枝に引っかかりながらテパに乗って突っ込むアーシャと、その先の人型の――今までより小さい姿だったが――黒い天使が浮いて迎え撃っていた。
「さっきまでの私は本気じゃなかったんだから、これが本気の一撃ですからね〜!」
 ぐいい、と状態を捻ってためたブロークンバロウが大きく弧を描いて敵に襲いかかる。黒い天使は右腕を上げて襲い掛かってきているぞ。
 今度はテパ、右にずらさない。正面から突撃する。
「食らいなさ〜い!」
――ごぱっ!
 相打ち。
 振り下ろされた腕に打たれるが槌の勢いは止まらない。敵の腹部に命中しばらばらになる。
「今です!」
 エルディン、援護のホーリーアロー。これで白い羽蟻が倒れた。
「蟻塚にまだ羽蟻がいるよっ」
 ルゥミの砲撃が、どーん。
「蓬莱鷹ちゃん!」
 すかさずルンルンが合体し突っ込む。
「もう一体いるっ!」
 ケイウス、何かが飛び立ったのに気付き上を見た。
 黒い天使。
 最後の一体が空に舞い、森から抜けた。
 向かうは飛空船の方角だ。
「ゴーゼットやリィムナ、気付いてくれるか?」
 追いすがるにもかなり放された。上空待機しているゴーゼットやこちらに来ていないリィムナに期待するケイウスだが、この時リィムナはこちらに向かっていて、ゴーゼットたちも広間に降りていた。
 全員、抜かれた。
 もう、船を守るのは真世しかいない。
 やられた、との思いが去来したその時。
「させない!」
 ひひん、とプラティンが両前足を上げていた。
「行くぞプラティン、嵐を纏え!」
「え?」
 叫んだクロウを見た全員が口をあんぐりと開けた。
 プラティンとクロウの姿が一瞬で消えたのだ。

「よし。森は抜けた」
 直後、クロウたちは魔の森上空にいた。
 翔馬の瞬間移動、「パラスプリント」だ。
 そして――
「船はやらせん」
 手綱を放したクロウ。
 瞬間、物凄い勢いでプラティンが黒い天使に迫った!
 蛇行しているのに直線距離を移動する敵の横に追いついた。
 これぞ別名、「牙月戦騎の形」。砂迅騎によるナーブカマル・イゥテダーオンの技術。敵も思わず横を向いた。
「これで……」
 すたぁん、と敵の胸を撃つクロウ。
「終わりだ!」
 もう、敵のからくりは見抜いている。
 射撃で散った黒い羽蟻。その奥から出てきた白い羽蟻をもう一方の手に持つ曲刀で叩き斬った!
 瘴気と化し消滅する白い羽蟻。
 ばらばらと落ちる黒い羽蟻は、仲間の手により征伐されるだろう。



 戦い終わって。
――ことり。
「わーい、真世さんのコーヒー」
「苦いからミルクを入れてね」
 飛空船の甲板でルゥミがもろ手を上げて真世の給仕したコーヒーを喜ぶ。
「ミルク……」
「はいはい。おまたせ」
 リィムナにもミルクを出す真世。真意には気付かないまま。
「いい香りですね。戦いのあとの一服に最適です」
「ああ、先に蓬莱鷹ちゃんが飲んで酔っ払っちゃってるのです」
 偽天使を倒して悠然とコーヒーの香りを楽しむエルディン。その向こうではルンルンが『クケェェ』と頭をふらつかせる相棒に慌てている。
「真世さんの珈琲は格別ですね〜」
「あん、アーシャさんも手伝ってくれたじゃないですか〜」
 実はアーシャもメイド服に着替えて真世を手伝っていたり。
 これを見たエルディンはぽわわん、としているぞ?
「エルディンさん?」
「はっ! ……あ、私、大きな戦いが終わったら結婚するのです。結婚したらこうやってメイド服に身を包んだ婚約者がコーヒーを」
 真世に聞かれて正気に戻ったエルディンだが、自らの言葉でまたも妄想モードに入ってぽわわわん。
「それはいいことだ」
 クロウもコーヒーの香りを楽しみつつ、エルディンの吉報を喜ぶ。
「ブランネル、本当に助かったよ。ありがとう!」
「こちらも助かったさ。いつまでも乗せてるわけにはいかないしな」
 ケイウスの言葉に返すブランネル。ここではっとするケイウス。
「そうだ、ガルダ。今日は良い肉を奮発してあげよう」
 相棒への感謝も忘れない。ガルダがぴくり、と身を正して主人の声に反応すると翼を広げて喜んだ。
「ねーねー、ゴーゼットさん。そろそろ偵察野郎じゃなくて突撃野郎というのはどうでしょう?」
 アーシャは給仕しつつゴーゼットにそんな質問を。
「いいんだ。……するのは偵察まで。それがカッコいいんだ」
 ゴーゼットはそういうが、もちろん今回も明らかに偵察任務ではなかった。
「ま、どっちでもいいんだけどね〜」
 リィムナはコーヒーをがぶ飲みしておかわり。
「偵察して、戦う前にみんなを守れたらいいよね♪」
「そういうことだ」
 真世、戦いに参加せずに申し訳なさそうに言う。もちろん、皆は声をそろえるのみだ。