【尖月】秘密の楽園
マスター名：瀬川潮
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■開拓者活動絵巻
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| ■オープニング本文 青い青い空に夏色の太陽がギンギン。 白い白い浜辺に立つ高床式の小屋の濡れ縁に、すらっとした足がぶらりぶらり。 ざざん、と小屋の柱に波が寄せている。潮が満ち始めているのだ。 「‥‥」 小屋の濡れ縁に座る娘は無言。足はぶらり・ぶらり。潮風に、髪に飾った赤い花が揺れた。 「‥‥寂しいな」 赤い縦縞のワンピース水着姿をした娘は、溜息をつきながら言った。両手で抱えていたヤシの実に刺さった藁に口を付け、ちゅうと中身を吸う。藁は十分乾燥させ中は空洞になっているので、ヤシの実内部にある果汁――ココナッツジュースという――を簡単に飲むことができる。 「おおい、真世くん」 そこへ、遠くから名前を呼ばれた。 濡れ縁にちょこんと座って足をぶらぶらさせながらココナッツジュースを飲んでいた深夜真世（iz0135）は顔を上げて振り向く。 「‥‥あ。林青さん、もう事前調査は終わったんですか？」 「ああ。やっぱりまずは水だ。井戸を掘るなり、たまに降るにわか雨を貯めるなり、何らかの処理が必要だな」 やって来たのは、林青商会代表の林青だった。ここ、泰国南西部は南那（ナンナ）沿岸の無人島「尖月島（センゲツトウ）」を常夏のリゾートにしようとしている中心人物だ。 「でも、飲料水ならヤシの実があるじゃない」 「‥‥その堅い実の殻、何個も割りたくないってのが本音だねぇ」 林青の隣を歩いていた志士の海老園次々郎が頭をかきながら反論した。開拓者なら気合を込めた一撃で割ることができるようだが、「堅すぎて、愛刀にあまり良くない」ともぼやく。どうやら真世の持っているヤシの実は次々郎が割ったらしい。 「で、味の方はどうです？」 「うん。レモンの蜂蜜漬けを入れたらとっても美味しくなった。いろいろ味を変えても面白いかも」 真世の反応に、うんうん肯く林青。別の場所で高く売れそうだと打算する。 「それはそうと、真世。あまり浮かない様子だけど？」 疑問を口にする次々郎。事前調査に同行すると聞いたときは、「やったぁ。泳げる泳げる〜」とはしゃいでしたのだが。 今、彼女を見ると水着姿ではあるが泳いだ様子はない。‥‥ちなみに、次々郎も膝上丈の長海パンを着用しているが、泳いでいない。林青の調査に付き合わされていたのだ。 「うん。‥‥やっぱりこういうところは、みんなで来てきゃいきゃい遊ぶのが一番楽しいかなあ、って。みんなでここのアヤカシを退治したのに、1人で抜け駆けして楽しむ気にはなれないよ」 どうやらこれが、1人で寂しそうに足をぶらぶらさせていた理由のようだった。 「分かった。これから井戸掘りとかの職人を連れてきて整備しようと思ってたけど、予定を少し変えよう。『商売の基本は感謝の心』。開拓者も一緒に雇って、各種整備を手伝ってもらいながら一番に泳いで遊んでもらう。遊ぶのに必要なものは案を出してもらって開拓者に開発してもらってもいい。材料は手配する。ただ泳いで遊んでもらっても、それはそれで構わない。‥‥これなら、どうだ」 「うん。それならみんな喜ぶよ！」 林青の提案に、にっこり満面の笑顔の真世。「よ〜し。そんならみんなをたくさん呼んで、水着に着替えてもらうぞっ」と、両手をグーにして胸元でぐっと合わせるのだった。 そして、神楽の都の開拓者ギルド。 「ところで真世、その格好でうろつくのはどうかと思うよ？」 「ええっ、そうかなぁ」 次々郎の突っ込みに、ががんと振りかえる真世。水着姿で「秘密の楽園作りをしましょう」と書かれた看板を持っている。「この方が雰囲気を伝えられると思うのにー」とか残念がる。 「‥‥じゃあ、これで」 仕方なく、ざっくりと羽織る大きな夏威夷衫（アロハシャツ）の前を合わせた。‥‥真世、ほかに何も着けてないため無防備の太股が強調される格好になったり。何というか、それまでと大差ない。 「何だかなぁ」 この娘、この調子で大丈夫だろうかと思いつつ呆れる次々郎だったり。 そんなこんなで、常夏の南の島で泳いだり開拓したりする人、求ム。 |
| ■参加者一覧 / 風雅 哲心（ia0135） / 水鏡 絵梨乃（ia0191） / 井伊 貴政（ia0213） / 天河 ふしぎ（ia1037） / 礼野 真夢紀（ia1144） / 皇 りょう（ia1673） / 劉 厳靖（ia2423） / 真珠朗（ia3553） / からす（ia6525） / 浅井 灰音（ia7439） / 千羽夜（ia7831） / 趙 彩虹（ia8292） / エメラルド・シルフィユ（ia8476） / 和奏（ia8807） / 茜ヶ原 ほとり（ia9204） / 向井・奏（ia9817） / アーシャ・エルダー（ib0054） / ラシュディア（ib0112） / アルーシュ・リトナ（ib0119） / 琥龍 蒼羅（ib0214） / アイシャ・プレーヴェ（ib0251） / 明王院 未楡（ib0349） / 不破 颯（ib0495） / グリムバルド（ib0608） / 白犬（ib2630） |
| ■リプレイ本文 ● 南風が、渡った。 「今日はにぎやかじゃのう」 砂浜近くの密林で井戸を掘っていた職人たちが、手を休め額の汗をぬぐって振り返った。視線の先には、昨日とはまるで違う光景が広がっている。開拓者たちが大挙してやって来たのだ。 無人島だった尖月島。そこに、生活の息吹が感じられるようになった。 「そのうち、こういう風にここが使われることになると思うと、張り合いが出るな」 「おお。職人だけがおっても、面白うも何ともなかったからな」 「ははっ。よく言うよ。お前さんは水着の若い娘さんが多いんで喜んどるだけじゃろう」 わはははは、と笑いあう職人たち。 数日前から彼らは作業していたが、こんな心の底からの笑い声で盛り上がるのは今日が始めてだったりする。 「俺も手伝おう」 そこへ風雅哲心（ia0135）がやって来た。 「そりゃありがたいが。あんたらは遊びに来たと林青の大将はいっとったが」 「報酬をもらってる身だし、やる事はちゃんとやるよ」 ラシュディア（ib0112）も近寄ってきた。「しかし、早速整備を始めるとは、手際がいいな、林青商会は！」とにこやか。ラシュディアは、尖月島のアヤカシを撃退した『パラダイス作戦』参加した。島の発展を我がことのように喜ぶ。 「さて‥‥、いっちょやるとするか」 哲心も同作戦参加組。袖を巻き上げ土を吊り上げるロープを持つ。そして、ラシュディアは井戸の中へ。 「漢だねぇ」 井戸掘り職人たちは彼らを気に入ったようで、さあ、もうひと仕事と作業を再開するのだった。 ● そして、その近く。用水路整備組。 「私の南国パラダイスライフがもうすぐ現実に！」 「真世さん、久し振りですね」 青い髪に緑の瞳。いつもにぎやか、アーシャ・エルダー（ib0054）とアイシャ・プレーヴェ（ib0251）の双子コンビだ。ちなみに、野望に燃えた方がアーシャで、一緒に歩く深夜真世（iz0135）に挨拶した方がアイシャだ。 「うん。ここで一緒に戦って以来だよね〜」 話を振られた真世もにっこり。この３人も、作戦参加組。あの時は水着にすらなれなかったが、今日は違う。 「ん？ アイシャはセクシ〜なのが良かった？ もしかしてナンパとかしちゃう？」 「いえいえ。妹としてお腹のお肉が気になるお姉にお付き合いする位の度量はありますから〜」 「そうそう、ぽっこり。って、アイシャ、それはちょっとひどくない？」 飛空船「万年青（おもと）丸」内でそんなやり取りをしながら選んで着替えたのは、リボンの飾りが可愛い花柄ワンピ。露出度少なめだが、華やかあでやか。アイシャは何気にひどいこと言ったが、アーシャのお腹はぽっこりじゃなかったり。どうもそういうノリな双子らしい。 「アーシャ、アイシャ、私も協力しよう。よろしくな」 と、エメラルド・シルフィユ（ia8476） がやって来た。生業か何かに関係しているのだろう。「地域開発・貢献は望むところ。人々の役に立つというのならばやぶさかでない」という意気込みだ。 「このあたりに伏流水が集まってきてるらしいから、お願いしますね」 林青に聞いた地点を知らせる真世。アイシャは早速ツルハシを手にやる気満々。エメラルドも負けじと道具を手にする。 「あ、エメラルドさん。暑いから上着脱いだ方がいいかもですよ」 真世が気を利かせ脱がしたが、エメラルドは意外な反応を示すのだったッ！ 「あ‥‥。やめて」 普段は堂々としているエメラルドが、真っ赤になって上着を取り返して胸の前を隠している。何とも色っぽい腰のくだけ具合と中途半端な隠しっぷりに、むしろ真世の方が恥ずかしくなる。 「上着が汗だくになっちゃいますよ〜。それに、来る前はその水着と似たような格好だったじゃないですか」 ばっ、と奪い返す真世。エメラルドの桜色のマイクロビキニ姿が改めてあらわになる。‥‥ちなみに彼女のいつもの格好は、簡単に言えばビキニ姿と大差ない。 「あれは家系に伝わる物だ」 つまり、誇りがあり当然恥ずかしくはない、と。 「そういえば」 上目遣いでほわんほわんと数刻前を思い出す真世。 ――ここで特別に、万年青丸内部の女子更衣室を振り返ってみよう。 「水着の着用が礼儀とは……ならば、私はこれを着る！」 どど〜ん、と腰に手を当て堂々とスカイブルーのビキニを掲げているのは、皇りょう（ia1673）。 「あれ。水着は始めてのはずなのだが、今妙な既視感が」 などと首を捻りながら、すらりとした右足を上げてビキニに通したり。既視感により羞恥心が鈍っているようで。 「礼儀なら仕方ないな、水着を借りよう」 その横には、仕方なさの「し」の字も見られない顔つきの水鏡絵梨乃（ia0191）。 「よし、白の三角ビキニでいこう。胸を覆う生地は多少小さいのがいいな」 などとノリノリだ。 ちょうど、その時。 「こ、これに着替えるのか？ その、大胆過ぎないだろうか？」 エメラルドが小さなビキニを手に恥ずかしがっていた。 「少しでも、こう‥‥開放感を味わいたいんだ」 とか言うのは、絵梨乃。胸の布地は小さいほうがいい理論を展開する彼女に気付き振り返るエメラルド。ふんふ〜んと鼻歌交じりで着替える絵梨乃の姿の、何と説得力のあることか。 かくして、エメラルドもこの小さく頼りない布地に豊満な胸のふくらみを任せるに至ることとなった。 ――そして今、我に返るエメラルド。 「帝国騎士パワー全開！ だぁぁぁぁーーー！」 ザクザクザクーッ、と一気に掘りまくるアーシャの雄叫びで我に返った。 「し、市井の人々のために真面目に働かねば」 エメラルド、上手いこと羞恥心にサヨナラできたようだ。 「皇帝陛下ばんざーい！」 「お、お姉‥‥」 ほとばしる身内の恥ずかしい気合の言葉に、がっくりと肩を落とすアーシャだったり。 ●特別付録「南国くっきんぐ〜南国サラダ編」 あたしゃ、真珠朗（ia3553）ってモンですがね。‥‥ええ、泰拳士 ですよ、これでも。 なにやら海小屋設置って話で。この辺でしか取れない果物、魚や貝なんかを探して、取れる場所なんかを記録しておきますかね。 って、和奏（ia8807）君。砂浜で一人何やってんです？ 「ああ、真珠朗さん。波打ち際に流れ着いた物を集めてきれいにしてるんですよ」 それはそうと、さっきむせてませんでしたか。 「海の水は本当に塩辛いのか気になって‥‥」 飲んでみた、と。‥‥塩とかも作れるといいでしょうねぇ（遠くを見ながら）。 「そうそう、こんなものを見つけましたよ。イルカの耳骨です。これはお守りや土産に‥‥」 ほお。つまりイルカもいますか。それはお手柄、大発見。泳いでいるイルカってぇのは、あたしも見てみたいかもしれません。 ――しばらく後。 さて、釣った魚の名前は分かりませんが、とにかくこの白身魚と貝を軽く湯通しして、南国野菜と一緒に盛り付け、ヤシの実で風味をつけたタレで‥‥。 「へええ。真珠朗さんって、料理ができるんですね」 ああ。真夜君は久しぶりですね。もし良かったら一つ味見どうぞ。 「えへへ。頂きます♪」 ‥‥どうです？ 「うん、とっても美味しい」 味覚鋭そうな真世君に言われると、うれしいですね。 「ええ〜。私、味覚鋭くないですよ。でもやっぱり、話し相手がいるととっても美味しいです」 結構いい加減、か。 「そ、そんなつもりじゃ‥‥。料理も美味しいし、真珠朗さんと一緒に食べてるからもっと美味しいなって」 ま、そういうことにしときますか（とかいいつつ、自分も食べ始める。そして味見の時とは違う雰囲気に、納得の表情だったり）。 ――一つの皿を男女二人でつつき合い。そんな南国パラダイス・尖月島。 ● 「べっ、別に恥ずかしくなんかないんだからなっ！」 さて、別の治水工事現場で赤くなっているのは、今日も元気、冒険少年の天河ふしぎ（ia1037）だ。そのままダッシュでどこかを目指す。一体何が「恥ずかしくない」のだろう。 「おい、ふしぎ。どこに行くんだ」 掘った土を運ぶ作業をしていたグリムバルド（ib0608）が驚き声を掛けるが、ふしぎは立ち止まりもしない。 「いやはや、この様な良い場所があるとは、誘ってくださったふしぎには感謝せねばならんでゴザルなぁ」 その横を、向井・奏（ia9817）がのんびりと歩いていた。親友のふしぎは、彼女の水着姿を見て赤くなったような感じではあったが。 「まあ、現場は狭いからこんなに人数はいらねぇからいいがよぉ」 「そうでゴザルな。では後は、ゆったりだらだらとバカンスでゴザル〜」 グリムバルドの言葉を聞いた奏は、軽く走ってふしぎの後を追うのだった。 「‥‥椰子だっけ？ 随分背が高ぇな」 やれやれとサボり組を見なかったことにするグリムバルド。視線を空に逃がしたところ、椰子の木が目に入った。初めて見る、南国の植物。 「と、いけね。さっさと仕事終わらせないとな」 いつもと違う環境で、それでもいつも通り。これぞ開拓者と言うべきかもしれない。 「掘るべしっ、掘るべしっ！」 同じ現場では、千羽夜（ia7831）が井戸を掘っていた。何とも回転数が早そうだが、実は一回の土の量が少なめ。何とも可愛らしい仕草だ。紐ショーツビキニ姿の出るトコは出て引っ込むところは引っ込むスタイルは魅力的で、一緒に頑張るグリムバルドはやりにくいのではないだろうか。 「別に。恋人以外の水着姿には興味ねぇな」 あああ、恋人のアルーシュ・リトナ（ib0119）が聞いたら喜びそう喜びそう。まったく漢である。 「って、厳靖さん、サボっちゃダメよ？」 いきなり千羽夜が毒々しい色のヘビを投げた。その先にいたのは、夏威夷衫（アロハシャツ）を腰に巻いてのんびり腰掛けている劉厳靖（ia2423）。「しゃーねぇ、少しは働くか」とか言ってたのだが、いつの間にやらこっそしサボっていたようで。 「はいはい。‥‥って、おま、何投げてんだ！」 慌てて立ち上がりヘビを捕まえ密林にポイ捨てする厳靖。‥‥あの、千羽夜さん。そのヘビ一体どこから出したんですか？ 「いや、椰子の実以外にも綺麗な花やら面白い木の実やらがありそうだと思って」 へらりと不破颯（ib0495）が立っていた。どうやら島を探索している途中でヘビを見つけ捕獲、先ほど千羽夜に見せたところ取られて投げられたようで。 「やる時はやる人だって信じてるけど、これはない方が‥‥」 千羽夜、厳靖に近寄って明らかに作業に邪魔と思われる、腰に巻いた夏威夷衫を剥ぎ取った。 その瞬間、千羽夜の顔が鍛冶の火に入れた刀身のように真っ赤になったッ！ 「可愛い！ すっごく可愛いっ！！」 何と、厳靖の水着はもふらさま柄だった。なんとももふもふした図柄で、何というか、前の部分もちょうどもふもふした柄になっていたり。 「何はしゃいでんだ、何飛び跳ねてんだ！」 厳靖も真っ赤になってムキになる。「いいからとっとと片付けるぞ」と仕事に打ち込むことになったり。 その向こうでは。 「あ、あの。このようなはしたない格好なので、あまりじろじろと見ないで下され」 鍛錬とばかりに力仕事を手伝っていたりょうが、荷物を支えるため両手を上げたところで乙女の恥じらいを見せていた。肌の露出が多いビキニを選んだまでは良かったが、上着を忘れた。体の美しいラインが太陽の光と男性職人の目にさらされる。隠したくても、手を離すことはできない羞恥地獄。とはいえ、職人も使い手早く作業したとか。 ● 「青い空に白い雲！正にバカンスだねぇ」 さて、緑の長海パンに白い上着の颯はそのままふらりと桟橋工事現場にやってきていた。職人たちは砂浜に杭を打って、板を渡している。 「そうそう。ん〜、良い天気だねぇ」 白犬（ib2630）が顔を上げて同調する。って、白犬さん、すでに仕事の手伝いを終わりたがってる様子がありありですよ。 「ああ、これだね。どこまで運べばいい？」 一方真面目に手伝っているのは、髪とおそろい、青色のビキニでパレオと上着をひらひらさせている浅井灰音（ia7439）。 「こんなものを見つけましたよぉ」 颯は、赤く堂々と咲く花を灰音に贈る。同じくここで手伝っている絵梨乃にも。早速きゃいきゃい髪に飾る二人。 「おお、兄ちゃん。いい上着羽織ってるなぁ」 職人がいうのは、颯の後姿。なんと、「愛ラブ 尖月島」と背中に書かれている。 「あらかじめ林青さんに言って用意してもらったんですよぉ」 ナイス颯さん。職人たちもこの島にはすでに愛着がある様子。大変気に入った様子で、青林に「俺たちにも」とせびった様子。後日、職人たちはこの上着を羽織って仕事したとか。 「月の形をした島‥‥故に尖月島、か」 琥龍蒼羅（ib0214）がしみじみ言う。 「おう。もうこっちはいいからよ。存分に遊んできな」 すっかり和やかになった様子を見て、職人たちは新設の商売用海小屋に顎をしゃくるのだった。 「ふむ。ではあちらを手伝うか」 縛った髪が背中で翻る。蒼羅、水着ではあるがあまり泳ぐ気はないようで。 ――その海小屋では。 「そうれ」 茜ヶ原ほとり（ia9204）がテーブルクロスを広げていた。白いワンピの水着の胸元、可愛いリボンも揺れる。 「この流木、海小屋の内装にどうでしょうか？」 「おお、いいねぇ。そこに置いてくれ」 緑と青の花が白地にまぶしいホルターネックビキニ姿のアルーシュは、職人に喜ばれてにっこり。纏め上げた髪がいつもと違う魅力を醸している。ビキニと同じ柄のパレオとパーカーがお洒落だ。この後、強い日差しを避ける簡易テントなどを提案し喜ばれた。 それはそれとして、何だか開拓者３人がそろいもそろって思案顔ですよ。 「氷削器、ないのか？」 「料理人顔負け」でおなじみ、井伊貴政（ia0213）がぽりぽりと頬を掻いていた。 「困りましたわねぇ」 などと体をくねらせ傾げた頬に人差し指を添えるのは、明王院未楡（ib0349）。水着エプロン姿は、露出の高いビキニであるためか見る角度によると激しくアレな感じ。 「どうか‥‥しましたか？」 「い、いや。なんでもねぇ」 視線を感じ振り返る未楡に、赤くなってうつむく職人。彼女の無自覚な仕草は蠱惑的なものとなり、どうも職人たちの手が止まりがちになるようで。ほとりやアルーシュが活躍することになったわけではあるが。 「林青さんに、事前に頼んだのですが‥‥」 困っちゃいますと身をよじるが、そりゃ周りの職人の方が困るわけで。視線的な意味と、簡単に準備できず思索するにも本作業との優先度から準備が間に合わないという意味で。 「それじゃあ、やっぱり」 紺色ピチピチのすくぅる水着に甚平姿の礼野真夢紀（ia1144）。ぱかぱかと氷霊結で量産した氷を前に、どんと鉋を取り出した。 「常夏の浜辺で、冷たい飲み物が飲めるなんて‥‥とても贅沢ですし、ねぇ」 とかなんとかいいつつ、未楡も鉋をどん。 「‥‥僕か。僕がやらねばならんのか？」 「かき氷にかける、甘くした抹茶に小豆や白玉団子を加えたものはもうありますから」 貴政の呟きに、「頑張ってください」と真夢紀。 「お、ちょうどいい」 通りかかった蒼羅を捕まえる、貴政。熱い熱い中、鉋を手に二人そろって、レッツ氷削り！ ――時に人は、口に入れる物に激しく情熱を傾ける。 「ほとりんほとりん、手伝って」 呼ばれたほとりが振り向くと、そこには趙彩虹（ia8292）の満面の笑みがあった。白い泰国風文様の描かれたツーピースに白地で虎柄の薄手パーカー姿は、「天然白虎」そのまんま。彼女の指差す先には、外で台車いつでも発信準備ＯＫな感じでたたずむからす（ia6525）がいた。 「畳が良いのだけどね」 とかいいつつ先ほどまで海小屋でござを敷いていたのだが、何やら泣いて喜ぶ職人がいたようで、彼の作業の邪魔になると判断。彩虹に同行することとなった。‥‥ちなみに、からすも紺色ピチピチのすくぅる水着。小さな体に大きな麦わら帽子を被っている可愛らしい姿を見れば、感涙した職人の気持ちも少しは分かってやることができるだろう。 そんなこんなで、れっつヤシの実拾い。 っていうか、からすとほとりは弓術師。落ちているものばかりではなく、木になっているのも継ぎ目を狙ってぺしぺし落とす。 彩虹の方は、準備良く鉈と山姥包丁の二刀流。硬いはずのヤシの実を次々捌いていく。 「美味しいね、ほとりん♪」 「そうだね〜、あやさん」 ヤシの木陰で、蜂蜜檸檬のヤシの実ジュースを飲む二人。 「お」 そこへ、哲心とラシュディアがやって来た。 「喉を潤しに１つ如何かな？」 ヤシの実を差し出すからす。 「さすがにアヤカシが残ってました、ってのは洒落にならんからな」 どうやら哲心、職人を手伝った後に島を巡回していたらしい。苦労性である。今まで名を上げてきた性格、とも言うべきか。 「こういうのも見つけたがな」 と、黄色い果実を取り出す。後に分かるが、マンゴーというらしい。ヤシの実ジュースの礼にと渡す。 「正直、水着姿の女性陣は眩し過ぎるなぁ」 見事に魅力の違う女性陣を見て、ラシュディアがこっそり。が、せっかくだから水着も着ようかなとか思ったり。それでいいんですよ、ラシュディアさん。 そう。 もうあらかた、今日の作業は終わったのだから。 「ふぁー。思いっきり泳げて甘い物が飲めるとか、なんて天国ですかココわっ！ って、あれ。何か既視感が」 って、彩虹さんあなたもですか。どうも今回そういう人が多いようで。 ● さくさくさくっと浜辺に足跡を残し水辺に駆ける後姿は、照れたまま走り持ち場から離れた、ふしぎ。 今、上着を脱ぎ捨て水着の長海パンツ姿になって、海にざぶ〜ん。 「あははっ。気持ちいい〜」 ぷあっと顔を上げてさわやか笑顔。 「今日はたっぷりダラダラハシャぐでゴザルよ〜」 遅れてざぶん、の奏を振り返ると、またも赤くなるふしぎ。 「‥‥」 「そんな事言うなら、こうなんだぞっ！」 赤面するふしぎを見てきょとんとする奏を見て、途端に水をばしゃばしゃかけ始める。って、ふしぎさん、奏さんは何も言ってないですよ。 が。 「水かけっことなれば、この向井・奏、容赦せんっ！」 あああ。本気だよ、この二人。 そのうちどういう流れかヤシの実を使ってびぃちばれぇなぞを始めたり。 「常夏の浜辺で、桜色の季節を君にッ。‥‥桜舞超烈球っ！」 跳躍一番、えびぞりのふしぎ。いくぞ必殺・紅焔桜！ 見事炸裂。受けきれず尻餅をつく奏。 「‥‥ぽろりは？」 ないよ。 「やったでゴザルな〜。‥‥そぉい！」 お返しとばかりに、奏。が、ヤシの実は無残にもグシャァ！ 仕方なく持参した「球『友だち』」を使ったり。 と、その横を駆け抜ける男女一組も。 「灰音も早くこっち来なよ〜」 雪の意匠を施した海パン姿の白犬が駆ける。 「やれやれ‥‥元気だなぁ」 のんびり言う灰音だが、この後、戦闘意欲に火がつくことになる。ばさ〜っ、と上着とパレオを外した。 「ん、望む所だよ。ふふ、血が騒ぐなぁ」 白犬さん、あなた灰音さんに何言ったッ！ どうやら水泳勝負を挑んだらしい。負けた人は勝った人の言うことを一つやるとか何とか。 そして今、両雄飛び込み激しい勝負の火蓋が切って落とされたッ！ ――それはそれとして、真世はどこいった？ 「え、どっちがどっちかって？」 「そう♪」 ざばっ、と真世の前でアーシャとアイシャが悪戯っぽくほほ笑んで位置を入れ替わった。 「えっと、こっちがアーシャさん」 「きゃ〜」 どうやら正解だったようで、真世にぎゅうと抱きつきほっぺにチューするアーシャ。天真爛漫であるが真世の方はわたわたと。 「やっぱり筋肉で分かりますよね〜」 「え？」 「言ってないですよ〜、アイシャさん」 抱擁を何とか抜け出し逃げる真世に、追うアーシャ。もう一度チューだといわんばかりだ。 アイシャも追うが、絵梨乃とエメラルドに気付き止まる。 「いや、『背拳』を使えば、一度にたくさん女の子の水着姿を拝めるんじゃないかと」 そんなことをエメラルドに言って背を向ける絵梨乃。どうだろう、とアイシャ。実験とばかりにエメラルドの水着の肩紐を背後から狙ってみた。 「きゃっ？」 「！」 これが開拓者の反応かッ！ かろうじて豊かな膨らみが丸々さらされるのを両手で防ぐエメラルドに、きっちり振り返っている絵梨乃。ともに天晴れだが、これは背拳がどうこうより絵梨乃のカンありきか。ともかく、浜辺へ逃げるアイシャに追うエメラルド。 一方、真世。 「捕まえたっ」 「きゃあっ！」 「ぶはっ！」 アイシャの抱きつきに倒れ込む真世。溺れるものは藁をも掴むの思いでしがみついたのは、プカ〜と浮いて漂って、のんびり過ごしていた颯だった。 「まあ、いいよぉ」 気にしない気にしないとおおらかな颯だが、ちょっと、アナタが振ってる手に何か絡まってますよ。 「‥‥青い、トップ」 振り向けば、水泳勝負をしていた灰音が胸を両手で隠していた。ちょっと涙目。その横で、白犬も泳ぎを止めていた。 一体この場合、誰が悪い。 「ゴメンね、ゴメンね」 わたわたと水着を返したりと動く真世。結果、この娘が悪いこととなる。大人しくチューされてれば良かったのだ。 さて、白犬対灰音の仕切りなおしの一戦。結果は？ 「そうだなぁ、ご飯・・・は今回はいいや、それよりまた一緒にどっか行こう」 満面の笑みの白犬。 「はぁ‥‥仕方ないか」 伸び伸び泳げなかったのが原因か、それでも納得しようとする灰音だったり。 ところで、浜辺。 「ん‥‥。いけね。いつの間にか寝ちまったか」 横になって昼寝をしていた厳靖が目を覚ました。 「おはよ！ 砂浜１番の美女ね？」 その隣で、千羽夜が立ち上がった。悪戯そうな笑顔のまま。 「あん？ ‥‥おわっ！」 厳靖、ここでわが身に何があったか思い知る。何と、砂に埋もれて身動きが取れない。ばかりか、その砂がせくしぃなお姉さん姿にこんもり盛られていたのだッ！ 「私は泳いでくるから、皆の注目を集めててねー♪」 黄色いビキニで眩しい後ろ姿越しに言うと、本当に見捨てて駆け出す千羽夜。 と、その近くに砂の城を作っている和奏がいた。立派な天守閣が完成し、外堀を掘っていた。 「おい、ちょっと」 助けを呼ぶ厳靖だが、和奏、ちらと見ただけで我関せず。 この後、厳靖がどうなったかの運命は、彼のみぞ知る。 ところで、逃げていたアイシャはどうなった？ 「ラシュディアさん、何やってるんです？」 人気がないところに逃げたら、先客が居たようで。 「海水浴なんて凄い昔に行ったきりだからまともに泳げるかな、とか」 「だったら、お話しましょう。‥‥あたしたちが、ここのアヤカシを退治したんですよね」 何だか雰囲気が盛り上がったりも。 やがて、夕暮れ。 ●特別付録「南国のうた」 寄せる波の音 心地良く 海は何処まで 深い色 遠くで星空と繋がりそう 浜辺で二人 あなたと私 さく、と振り向いたのは、アルーシュだ。 歌いながら歩いていた通り、星が空に瞬いている。 「今日は…ありがとうな、アルーシュ」 向かい合っているのは、グリムバルド。「水着。似合ってる。凄く」と、優しい瞳で。アルーシュは島に来て初めて、上着を脱いでいる。 「見える星や‥‥輝きも違う気がしません？」 アルーシュは、照れ交じりに話題をそらした。 「そうだな」 不思議な感覚。グリムバルドにそれを言い表すことはできなかったが、感じた心に身を任せた。 「お誘いありがとうございますね」 にこっと、アルーシュ。見詰める、瞳と瞳。 日常は遠く、それでも二人は確かにここに居る。 近く、近く――。 ● 高床式別荘の床下から聞こえる潮騒は、些細な音を飲み込み秘密のまま寄せては返す。 夜。 かすかな明かりの下、真夢紀が過ぎ行く今日の出来事を振り返っていた。 そっと、筆を取る。 『姉様、ちぃ姉様 明王院の小母様と、南国の楽園作りのお手伝いに行ってまいりました。』 そんな、書き出し。 貴政と一緒にカキ氷を作ったこと、シロップをかけたらおいしかったこと、海水浴も楽しんだこと。 そうそう、井戸から水も出た、と思い出す。 持参した水は、海水浴後に体を洗って使ってしまったが、これで明日もべとべとになっても大丈夫。 「厳靖さんがまた明日砂に埋められても、水で洗うことができますね」 とか呟いたりも。 果たして、厳靖の運命やいかに。 それはともかく、思いは尽きず。 筆は、滑る――。 |
