彼岸花とミラーシ座
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/10/01 13:00



■オープニング本文

 ここは天儀の……。
 いや、場所は伏せる。
 ある山村のある川土手に、長い金髪をなびかせる姿があった。耳が長く尖っている。
「これは凄いですね」
 立つ姿は、クジュト・ラブア(iz0230) 。
 眼下に広がる光景に感嘆の声を上げている。
「いやあ、この時期の風物詩。異国の御仁にも感心してもらって至極」
 隣に立つガタイのいい武僧がニコニコしている。名を参帽(さんぼう)という。日来密宗(ひらみしゅう)という、名も知られていない宗教の僧らしい。
「風になびく金の穂波に赤と緑のじゅうたん。そして眼下には静かなせせらぎ。色彩の妙はもちろん、風の流れと小川の流れと、そして遠景の山々、青い空に低く群れなす小さな雲。……素晴らしい」
 クジュト、赤い彼岸花の群生とその周りの重く穂先を垂れる田んぼなどの光景にすっかり感心している。
 その時だった。
「おおい、大変だぁ」
 若者が広くに声を張りながら走っている。
「大変だ、山で一反木綿が出たぞっ!」
 若者、村の中心部に走っていく。
「いったん……もめん?」
「妖怪ですな。行きましょう」
 耳慣れない言葉を復唱するクジュト。参帽は顔つきが変わって若者の姿を追った。
「ま、ここまで一緒に旅をした縁ですし……」
 厄介ごとだな、と分かっていても参帽の後を追うクジュトだった。

「一反木綿というのは、長い白帯のようなアヤカシ妖怪でして」
 村の寄り合いに同席したクジュトはそんな説明を受ける。
「ちょうど良かったですの。この参帽、日来密宗の布教を目的に幽霊・妖怪退治の旅をしておりました。これも何かのご縁でしょう。そのアヤカシ妖怪に日来密宗の何たるかをぶち込んで見事、退治してみせましょう」
 参帽、早速身を乗り出して自らの使命を果たさんとする。
 が。
「いや、しかし……お坊さんがいかに強くても群れをなす一反木綿には一人では……」
「何と、一体ではない!」
 村人の説明を聞いて参帽、声を荒げた。
「何か問題があるんです?」
「一反木綿は長く細い体を生かして人に巻きつくことを得意としておりますな。首を絞めたり手足を拘束したり。ゆえに、一人で多数というのは非常に……というより、拙僧、一反木綿は退治したことがあれど、その時は一対一でとにかく叩き伏せたのみ。一対二で足元でもすくわれたらと思うと……」
 聞いたクジュトに一反木綿の厄介さを話す参帽。攻撃手段が単純で対応しやすい半面、数が多いと敵の攻撃にはまりやすく、はまってしまうと一気に手遅れ状態になる危険性を指摘する。
「どのくらいの数がいます?」
「一度に10体というのは目撃例が……いや、この時は村でかなりの被害が出ました」
 痛ましい表情で村人がクジュトに話す。
「一体を山で目撃するとしばらく後に多数が村に来る。そうなると村では外出禁止にするしかねぇ。が、稲刈りの時期が控えるとそうもいかん。急いで開拓者に知らせて……」
「あいや、お待ちを」
 ここでどん、と参帽が胸を叩いた。
「我が日来密宗とここにおわす旅芸人一座、ミラーシ座にお任せを。見事退治してご覧入れましょう」
「……そういう予感はしたんです」
 布教に熱心な参帽の横で、また巻き込まれたなぁと遠い目をするクジュト。
「でもまあ、みんなにも会えるし」
 一人で寂しい時もあるようで。
「拙僧は一人ですが、この座長は座員を呼ばねばならんのでしばしお待ちを。……で、一反木綿は基本的に群れをなしているのですな? 単独偵察は此度のようにあるようですが」
「はい。……実は、村の近くの山に隠れ里のあった場所がありまして……どこぞで暮らせなくなった者たちがその場所に隠れるように住みはじめたのです。そこに封じられる者は、決まって反物を大事そうに胸に抱えて隠れ里に向かっていました」
 封じる代わりの品なのかもしれません、と。
「それ、話の流れからすると……」
「はい。数年後にここを経由して少ない軍勢が隠れ里に向かっていきました。……それ以来、干し肉と塩や味噌を交換に訪れる隠れ里の者も来なくなりまして」
「どこに隠れ里はあるんです?」
「詳しくは……ただ、山奥に彼岸花を見たならそこから先は行くな、と言い伝えられてますから……」
「山の森の中で彼岸花を探せばいい、ということですか」
 クジュト、この手掛かりがあれば何とかなるだろうと判断した。


■参加者一覧
ニーナ・サヴィン(ib0168
19歳・女・吟
リスティア・サヴィン(ib0242
22歳・女・吟
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
綺堂 琥鳥(ic1214
16歳・女・ジ
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ


■リプレイ本文


「なんで山奥に彼岸花の群生があるのよ」
 山中でリスティア・サヴィン(ib0242)が振り向いた。
「彼岸花には毒がありますからな。農作物を他の生物から守るにはちょうどいいわけで」
 続いていた参帽が細かく説明する。
「つまり人里だった、ですか」
 クジュトが感心する。
「クジュトさん、行方しれずって聞いてたけど無事だったんだな。良かったよ」
 そんなクジュトに声を掛けたクロウ・カルガギラ(ib6817)。その横から笹倉 靖(ib6125)がぬっと顔を出してきた。
「クジュト……せっかく身を隠したのに名を売って良いのか?」
「売る気はないですけどね、靖さん」
 慌てて否定するクジュト。
「いやいや。芸人は名を売ってこそ。宗教も似たようなもので……」
「参帽って言ったっけ、奇縁が腐れ縁になってきてる気がすんなぁ」
 クジュトが神楽の都で浪志組に所属していると知らない参帽。靖は笑いをかみ殺しながらばしばしと参帽の背中を叩く。
「村人はこっちのほうとは言ってましたが、どうしてこう荒れてるんでしょうか?」
 新たに先行するサライ(ic1447)が疑問を口にする。
「隠れってだけあって草木が邪魔だな。この音でばれたりしないかね」
 靖も真顔になった。道なき道を踏破しているので、どうしても低木を掻き分けるなど音が出る。
「一応、一反木綿がいないかバダドサイトで注意深く広範囲を見てるけどな」
 クロウは逆に奇襲されないよう、こまめに警戒していたようで。
「一反木綿が一旦集まる……。…ん、一旦じゃなくもう集まれないようにしないとね……」
 駄洒落を言うのは、占いジプシーのからくり、綺堂 琥鳥(ic1214)。
「ふ」
 ここで、何やら不気味な声が聞こえたぞ?
「ふふふふふふふ」
 一同が振り向くと、ニーナ・サヴィン(ib0168)が面を伏して拳を固めていた。
「あの、ニーナ?」
 恋人のクジュトがおーいしてみるのだがっ。
「妖怪! オバケじゃない!! 勝つる!!」
 顔を上げて、どーんと言い放つ。実はニーナ、幽霊嫌い。別に琥鳥の駄洒落に笑ったわけではなかった。
「その……」
「って事で今回も私をしっかり守ってね♪ クジュトさん♪ 私の為の盾になりなさい!」
 どう声を掛けようか迷うクジュトに、矢継ぎ早に畳み掛ける。
「あら、ニーナ。今日はいい感じじゃない?」
 この様子に義姉のリスティアが振り返りにこり。
「というか、まるでティアのよう……」
「なんですって、クジュト〜」
「あー。アウラ・パトリダの誰もが心配してないはずだな」
 クロウは二人の大声でのやり取りを見て、元気そうで何よりと呟く。
「……音でばれたりしないかって聞いてんだがね」
 靖の方はぽりぽり頭をかいていたり。
「明るいうちにつけるよう早めに行こう…。相手は灯りを嫌い吸血一反木綿…」
「それ違うんじゃね?」
 ぼそりと呟いた琥鳥にも突っ込む靖。
「あ、ありました」
 その時、サライが前方を指差していた。
「遠くに見える赤いの、彼岸花じゃないでしょうか?」
「へぇ〜綺麗ね〜♪ 彼岸花」
 サライは性格からか控えめに言うが、身を乗り出したニーナはもう決め付けている。
 近寄ってみると、間違いなく彼岸花。
「ふうん。農地があったって言われても納得するような平地ね」
 ティア、彼岸花が咲いた先が畑のように開けて灌木などがないことに気付いた。
「先にあるのは朽ち果てた集落の建物でしょうね」
 サライの言うように、蔦が生い茂って何かに覆い被さっていたが、それが木々ではなく家だと容易に想像できた。
「聞いた話だけど彼岸花って空から舞い降りた贈り物なんだって♪ 村の守り神、だったのかもしれないわね」
 ニーナ、彼岸花を見ていつもの様子に戻った。
「隠れてこんな奥地に住む、なんてのはさぞや不安があったでしょうなぁ。まして、山は最後に帰る場所」
 参帽が呟いたところでクロウの目が見開かれた。
「いるぜ。結構な数が集まってる」
「まずは身を隠しましょう」
 クロウの言葉に応じるかのようにサライが皆に移動を求めた。



「ああん、もう。足元が悪いって情報があったから足場作りをしようと思ったのに〜」
 身を隠したニーナが可愛らしく悔しがっている。
「瘴索結界『念』にはちょっと遠すぎる距離か……」
「ふうん、音もなく飛ぶのね。風に乗ってるなら風のかすかな音で分かるけど」
 靖が見えない敵を確認しようとしたがうまく行かず、超越感覚に頼ったティアも不調のようで。
「敵は近接攻撃主体だろ? 遠距離から攻撃すれば出てくるだろ」
「そうですね。奇襲して遠距離攻撃斉射で手早く始末です」
 クロウが人差指を立ててウインクすると、サライも頷き前に出た。
 そして腰を屈めて走り出す!
「奇襲と言うより強襲ね♪」
 ニーナ、堂々行くなら「剣の舞」ねとクーナハーブをぽろんぽろん♪
「いーんじゃない? 圧倒的な射程はないんだからっ♪」
 ティアはハープ「グレイス」を構えて「幻想交響楽団」でニーナの曲に合わせる。この音で隠れ里中心部に集まっていた一反木綿どもが気付いた。
「あれが一反木綿か……本当に布が飛んでんのな」
「個人的には木綿より絹ごしが好き…。…一旦絹ごしは語呂が悪いです…。なので木綿で我慢…」
 思わず凝視する靖に、うんうんと何か呟いてる琥鳥が鞭「インヴィディア」をぴしりとしならせる。
「前に出ましょう。クロウさんたちとの距離感を大切に」
 クジュト、仕込み杖を抜き放って前進。二列目の押し上げを仲間に指示する。
 前衛はすでに戦闘体勢だ。
「向こうの方が数が多い。まずは遠距離から」
 クロウの構えた宝珠銃「ネルガル」が火を噴く。びしり、と一匹の一反木綿に当って仰け反る。敵の隊列が僅かに乱れた。他の一反木綿は一気に間合いを詰めてくる。
「うお」
 そんな声を上げたのは二列目の靖。
「あいつら、大きく波打って跳んですぐ後ろにいる味方を隠してやがる」
 扇「精霊」を手に、どう、と白霊弾を撃ちながらそんなことを。
「まずいですよ。敵が多すぎるっ!」
 クジュトの声も被る。
 そう。
 それはまるで空を浮く白い波濤。
 白霊弾が命中して敵の突撃を留まらせても、背後から次の白い布が来る。
「先手必勝です!」
 ここで、右手上空から棒手裏剣「蝶翅蜉蝣」が多数飛んできた。
――すたっ。
「横からだと細くて命中しにくいのが難ですが、跳躍すれば何とかなりますね」
 命中してふらふらと地面すれすれを飛ぶ一反木綿の向こうで、サライが着地していた。
「……こっちです」
 間髪いれず敵が突撃してくるが、サライは逃げる。もちろん一反木綿は付いてくる。
「お願いします!」
 サライ、敵を引きつけて下がって会釈する。
「ん……私の舞いとアヤカシの動き、どちらが上か勝負…」
 ひゅん、と鞭が風を切った。琥鳥だ。
 一反木綿をマノラティの技術で鞭に絡めて引き寄せると、ぎらんと反対の手に光るものが。
「…菖蒲で勝負する性分…ではないです…」
 とか言いつつ、ダガー「ブラッドキラー」でざっくりと切り裂く。それでも敵は切られて分かれた体で琥鳥の体を挟み絡まる。
「ん、布なら鞭より刃物で切り裂いたほうが効果的…。細かく切り裂くの…」
 琥鳥、締め付けられたが無表情のままさらに短冊切りに。
 さすがにさらに細くなると力がなくなってきた。
 一方、クロウ。
「はっ!」
 敵に迫られ横に飛んでいた。前転してから銃を……。
「いや、こっちの方が効果的か?」
 ネルガルで近距離射撃しかけたが、反対の手に持つ名刀「ズルフィカール」に構えなおした。突っ込んでくる一反木綿にすれ違いざまざっくりと長く斬りつける。
「絡まれると分かってれば反撃もしやすい」
 敵を仕留め満足そうだが、次の敵に巻き付かれ慌てて刀で振り払う。敵の数に対して味方が少ないのでとにかく忙しい。

 後ろのクジュトたちにも敵は殺到していた。
「この数やばくね? 囲まれたぜ?」
 靖、撃ち負けた。
 ぐん、と左腕に絡まれたがこれは計算内。
「巻き込まれても……布っぽいアヤカシならな」
 絡まれた腕をうまく操ってこれあるを期して持っていたナイフ「リッパー」でざっくり。脱出してさらに斬り付ける。
「んもう、面倒だわね。乱戦なら負けないわよっ」
 ニーナはクジュトの背中に隠れながら「黒猫白猫」。
 が、クジュト、庇いきれずについにニーナが狙われた。
「あら、お客さんね♪」
 敵が幽霊でないとここまでしっかり周りが見えているか。ニーナ、重い演奏で対峙する。「重力の爆音」だ。
「クゥ! やっておしまい!」
「ニーナに指一本触れさせん!」
 どーん、と重低音を響かせ敵を抑えたところにクジュトが殺到してバッサリ。
 ところが。
「ちょっとクゥ! 私に指一本触れさせないんじゃないの?」
 ニーナ、別の一反木綿に絡まれていた。
「まだですかな、姐御さん?」
 この時、参帽がティアを振り返っていた。
「よし、もういいわよ。私の歌…冥土の土産に聞かせてあげるわ!」
 ティア、準備万端で荒ぶる曲を、「魂よ原初に還れ」を演奏したっ!
――ぼふっ。
 弾き切り腕を上げるティア。周囲の一反木綿どもも上空を仰ぐようにのけぞった。
 そして力なくへろへろ漂う。
「まだやる気〜?」
「合わせるわっ。アヤカシなんかにはもったいないんだけどね。私達のオーケストラ」
 再び黒猫白猫のニーナに、幻想交響楽団のティア。二人の演奏が響き渡る。
「そっち。参帽さん、来てるぜ?」
「おおっと、これはありがたい」
 演奏に耳を傾けて一瞬ぼやっとしていた参帽に声を掛ける靖。自らは敵の再包囲の動きを白霊弾で遮る。
「サンキュな、靖さん」
 靖が敵を止めた空間からクロウが戻ってくる。
「おっと」
 振るった刀を持つ手に敵が絡んできたが、同時に片手でリロード完了。締め上げ吊るす動きの一瞬をついて短銃ずどん。肩関節を傷めたが剥ぎ取る動きで敵を斬る。
「ん?」
 ほぼ同時にクロウ、気付いた。
「数が少ない!」
 最初に視認した時より、いまいる敵の数が少ないのだ。
「ん? 逃げてるのがいるぜ?」
 靖が指差す。心眼、冴えた。
「逃がしません」
 サライ、影のように一気に追った。そして棒手裏剣を振り構える。
「敵が褌…じゃない、反物だからこそ……」
 投げた!
――ストン。
 元家屋の壁に手裏剣は刺さり、アヤカシもそこに縫い付けられるようになった。
「……出来る戦術です」
 投げた後に夜で時間を止め、一気に追いついた。抜け出そうとする敵をばっさり斬る。
「褌って……いやな表現だな」
「サライさん、まだいる!」
 靖のぼやきにクロウの叫び。
「はっ!」
 建物の影から新手が。
 サライ、絡まれ腕を絞られるが……。
「纏わりつかれたら、こう」
 またしても夜で一瞬だけ時を止めて先手を取り返す。しかも纏いついているので後は斬るだけ。握ったバグナグ「災厄」で切り刻み味方のいる場所まで下がる。
 そして最後に琥鳥の戦っていた敵。
「剣で斬るより鞭で叩くほうが好みであれば言って…。全力で善処するの…。大丈夫、引いたりはしない…」
 鞭でぺしぺし、ではなく絡ませて引き寄せ剣で止め。
「ここの一反木綿は偏執者かよ」
 靖、一応突っ込んでおく。



「あ〜あ」
 ティアが呟きながら朽ち果てて蔦まみれになっている民家の土間を覗いてぼやいた。
「生活臭はまるでなし。長いこと放置されてるみたいねー」
「これ、壊されたわけじゃなくて朽ちて崩れたって感じだね」
 ティアの声を聞きつつ、外でクジュトが言う。
「瓦礫とは言え以前は人が暮らして使っていたもの。あまりぞんざいには扱えないわ……」
 クジュトと一緒にいるニーナは大きく崩れた壁の残骸を細い指をかけて掴み……。
「そうだね」
 いや、クジュトが代わりに掴んで邪魔にならないよう、横に避けた。
「私の村も今頃こんな状態かもね」
「それは……」
 肩を竦めるニーナを振り返る。クジュト、彼女から故郷のことは聞いている。
「いいのよ。前も言ったでしょ? アヤカシに襲われたけど、家族は無事だったって」
 ニーナ、心配させないよう明るい声を出す。
「でも、この村って何で全滅させられちゃったのかしら?」
「隠れ里って、こういう事が起こるからなぁ……」
 彼女の新たな疑問には、靖が呟いてこたえた。
「というか、反物を抱えてって、一反木綿って布っぽいアヤカシなんだろ? そこは関係ないのかねぇ」
「そういえば」
 靖の新たな疑問に、クロウがピンときた。
「さっき戦ってて、俺は空から回りこんできたり足元から接近してくる敵がいるんじゃないかと思ってたんだが……」
 説明するクロウの声に、サライが振り返った。
「そういえばそんな敵はいませんでしたね」
「そう。どれも人の胸元か、腰の位置くらい」
 サライに頷きクロウが続けた。
「それってどういうこと?」
「こういうこと……」
 ティアが聞き返し、琥鳥がすっと水晶球を胸元に抱える姿を見せた。
「つまり人の目線なんだよな」
「反物は着物に使われることはなく後の希望として大切に扱われた。……宝ですな」
 クロウの言葉に今度は参帽が。
「詫びの品を渡されてここに住まわされたってことか?」
「ふうん……」
 靖が言ったところで、ニーナが瓦礫を覗いていた。何か発見したようだ。
 皆が集まると「復讐を」と彫られた縁石があった。
「辛い目にあって……一反木綿にやられたんじゃなく、復讐のために宝と共に一反木綿になったのかしら?」
 首を傾げるニーナ。
「これでよいでしょう」
 ここで、先ほどまで払い棒を振っていた参帽がふーっと息をついた。目の前には石碑がある。
「弔いは終ったのかぃ?」
「ですな」
 聞いた靖に胸を張る参帽。
「遺体はすでになかったが、とにかく参帽さんがいて良かった」
 クロウ、そう言って労をねぎらう。
「それじゃ、戻りましょう」
「栗ご飯、九里歩いて手繰り寄せ…」
 サライがお尻を払う。琥鳥はすでに今夜のご馳走を楽しみにしているようで。


 そして、村。
「いただきま〜す」
「ん、美味しい…。珀を連れてくれば泣いて喜んだのに、残念……」
 笑顔で手を合わせて栗ご飯をほお張るサライ。琥鳥は相棒の羽妖精を思い浮かべるが……想像の中で手を振り否定している。
「へえ。口止め」
 ティアは村人と話してそんな声を上げていた。
「はい。おそらく、封じた人らがまとめて始末したのでは、と」
「一体何したってのよ、あそこの人たち」
 ニーナ、義憤に燃えつつ栗ご飯に箸をぐさり。
「何もしてない、だろうねぇ」
 靖、煙管をふかしてぼんやりと。自らも、気付けば一族は自分一人だった。
「まあ、一反木綿はもう現れないと思う。数も確認した」
 クロウ、夕餉は楽しいに限る、とばかりに明るい話題に。
「クゥ〜? 一人でもしっかり頑張りなさいよね♪ 寂しいなんて言ってしょげてると時間はあっという間に……」
「ニーナ……本当に幽霊じゃないと人が変わったようだね」
 この様子を見て心配なかったか、と栗ご飯を食べるのだった。