|
■オープニング本文 冥越での残敵掃討戦はいまだ続いている。 「なあ、何で低空飛行からの対地攻撃を中止したんだよ!」 開拓者達の前線拠点で、戦闘出撃から帰ってきたばかりの開拓者が歩きながらもめている。 「……」 言われた開拓者は何も言わずに真っ直ぐ歩いている。 「おい、無視かよ。……そりゃ、あれだけ数がいちゃ全滅は無理でも、範囲攻撃もできるしかなりの数を減らすことができたぜ? もしかして、あそこを燃やそうと思ってるんじゃないか?」 先に声を掛けた男が無言で歩く男に追いついて熱心に説明している。 「おいおい。魔の森の木はアヤカシと一緒でいくら燃やそうが簡単に燃えやしない。それより、あそこはもともと村だ。そんなことするわけないだろう」 言葉に反応したのは、無言で歩く男の反対側から追いついた別の開拓者だった。 「でもよぅ。あの蟻塚に敵が籠もってるんなら……」 最初の男がそこまで言った時だった。 「そして、わざわざ集まっている敵を四散させるのか?」 無言で歩く男が不意に足を止めて振り返り、鋭く言った。 「こっちは龍じゃないか。空から追って攻撃すればいいだろう? 逃げるってんならいま逃げてるかもしれねーじゃねーか」 「現場は平地じゃない。無理だな」 冷たく言い、さらに重ねる。 「残敵は指揮系統を失い、帰巣本能であそこの蟻塚に帰っていると見たほうがいいだろう。つまり、あそこから逃げやせん。逃げるとしたら、敵の羽蟻を多数倒した我々が一方的に空から圧倒的な攻撃を仕掛けたときだろう」 つまり、先の男が言っていた戦法である。 「敵を殲滅させるなら、大人数が必要だ。そうでないと、また敵は四散して姿をくらます」 残敵の集まる蟻塚を攻撃する人手が集められることになる。 「……また地味な仕事だわね」 ちょうどこの時、ここにいた弓使いの紫星(iz0314)は苦虫を噛み潰したような表情で作戦内容を聞いていた。 「悲しいよなぁ、誰かの故郷がその面影もなくアヤカシの巣になってるってのは」 ざ、と誰かが紫星の背後に立ち、そんな言葉を呟いた。 「……またアンタなのね」 「奇遇だなぁ。ま、そういうこともある」 振り向いた紫星が溜息をつく。そこにいたのは立派な鼻髭を蓄えたおっさん開拓者だった。名を、ダグラス・マイル。人呼んで「戦場詩人」。 「もちろん紫星もこの作戦に参加するだろう?」 「さあ? 数が多いだけのアヤカシでしょ? 私が出向くまでもないわね」 ふん、と素知らぬ顔をする紫星。敵は雑魚の蟻アヤカシ多数と、ちょっとだけいる鬼カブトや鬼クワガタなどの少しだけ強い敵、そしてまれにいるやや強い化甲虫と見られている。大局の決した戦場での、地味な残敵掃討戦である。 「そうかぁ? 『逃げる敵を斬るのが一番難しい』って話もあるくらいだ。結構腕が問われるぜ? それに……魔の森の木が村に覆い被さるようにして伸びて丘状の蟻塚にしちまってるらしいじゃねぇか。内部に突撃するか、敵をいぶりだすか……」 「そんなの、集まった人の得手不得手で決めればいいじゃない」 紫星の言葉に、にっと笑むダグラス。 「合格だ。……さ、行くぞ。滅び行くものにはせめて、派手な戦いで手向けてやらんとな。でないとあまりに寂しぃもんさ」 「ちょ……まだ私行くとは一言も……ちょっと、放しなさいよぉ」 というわけで、紫星たちの担当する西方面殲滅部隊のメンバー、求ム。 |
■参加者一覧
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
一心(ia8409)
20歳・男・弓
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
猫宮 京香(ib0927)
25歳・女・弓
龍水仙 凪沙(ib5119)
19歳・女・陰
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ● 「悲しいよなぁ……。住民が見たら、まさか村が蟻塚にされるとはなぁ」 魔の森の奥で木々に隠れつつ、ダグラス・マイルが鼻髭を歪ませて呟いていた。 目の前にはいびつな魔の森の木々が横にうねり重なり、小高い丘を形作っていた。基本的に隙間はないのだが、大きな穴がいくつも開いている。そこから、アヤカシの蟻が出たり入ったり。 「蟻塚…また蟻塚かぁ…。こうして見ると砦に篭る兵みたいだね」 同じく潜伏している九法 慧介(ia2194)が溜息をついた。 ちら、と横を見る。 そこにはぼぼぼ、と燃えている相棒の天火燐「燎幻」がいた。燃え方がいつもと違うのは、『大きいなぁ、ほっとけばいいのに』とかいう主張。もちろん慧介はその思いが伝わっている。 そして、その向こうにいる紫星(iz0314)と視線が合った。 「……戦争してる感じがするよ」 雑技の旅をさせてやりたい、とも思うが紫星は口を尖らせるに決まっているので黙っておく。 「アヤカシは、こっちに気付かないのかしら?」 紫星、慧介の微妙な表情に気付いてしっかりしなくちゃとばかりに表情を固くして言った。 「本能に任せて巣を守る。……その蟻達に魂の安らぎを与えるのも、正義のニンジャの勤めだもの」 ルンルン・パムポップン(ib0234)が紫星の隠れている横にやって来てきり、とハンサム顔になった。 「城攻めに近いかなぁ……ただ、敵さん飛び道具もないみたいだが」 悲しいねぇ、とダクラス。 もちろんルンルンも独白を止めない。 「そう、この泥と蟻酸の香る戦場で……戦場を洗浄しちゃったり」 拳を小さく固めてぼそっ、と最後になんか言った! 「掃討戦かぁ……アヤカシとの戦いも終盤。なんともいえないものがあるわね」 「紫星さん、お久しぶりですよ〜。一人で行くことにならないでよかったですね〜」 新たに龍水仙 凪沙(ib5119)が敵のざわめきを哀れみながらやってきて、ぼそり。隣では猫宮 京香(ib0927)が紫星の肩をぽむと叩いてにっこり挨拶。 「現場の簡単な見取り図を借りてきたぞ」 さらにリンスガルト・ギーベリ(ib5184)もやってきた。丸めて持っていた大きな紙をばさりと広げる。 「妾らの担当は西方面じゃ。他方からも他の開拓者たちが攻撃するが、いずれも引いて戦うそうじゃ。猪突して孤立する愚を犯さぬ様にな」 リンス、くるっくるっと蟻塚の四方に丸をつけて友軍配置を記す。 「その前に…」 いつの間にか地図を取り囲んだ面々の中から一心(ia8409)が立ち上がった。 すぐさま自らの身長よりも長い弓「雷上動」を構え何も番えず弦を爪弾いた。 ――……! 「……特に敵は蟻塚から出てきていません。内部はまあ、多いようですね」 鏡弦探索の結果を静かに伝えると、静かに屈んだ。 いや、中腰になって止まり、また立ち上がった。 「黒曜といいます。……さ、黒曜?」 隣に浮いている相棒の人妖「黒曜」を皆に紹介しようとしたらしい。が、黒曜。閉じた瞳のまま一心を見上げるのみ。 「……一緒に戦う仲間……」 『……』 しばらくの静寂に困って一心が口を開いたところで、周りの紫星などを見回すように――といっても瞳は閉じたままなのだが――していた黒曜がぺこりとお辞儀した。 「よし。俺は内部に向かうとしよう。範囲攻撃の瞬風波を使う上でも方向が限られる場所なら使い易い」 律儀に一心と黒曜のやり取りをじっと待っていた琥龍 蒼羅(ib0214)が自らの思いを話す。どのみち、周りの友軍が情けなくも日和見をしているのでこちらが突貫しないと埒があかないのだ。 その周りでは。 「あらあら。凪沙さん、松明なんて取り出して……」 「念のためにね。帰り道がわかるように分岐で印をつけていくわよ」 たおやかに微笑する京香は、松明を取り出した凪沙とそんな話をしていたり。 そこに御陰 桜(ib0271)が加わった。 「それじゃあたしは京香ちゃんと凪沙ちゃんの二人と組むわね♪ 桃は……戦闘のイイ訓練にもなるわね♪」 『久しぶりの実戦ですが、精一杯頑張ります』 桜、横に控える相棒の闘鬼犬「桃(もも)」に話し掛けて背中をなでる。桃は四足でぐっと大地を踏みしめて意気込みを喋った。 「単独の人がいたら組むけど……」 ここで慧介、気を回す。 一心が気付いたが、無言で先ほど鏡弦で驚異的な広域索敵した弓を見上げた。 (蟻塚の中は……「雷上動」では取り回しに困りそうですね。短弓を持って来るべきでしたか…) 「…自分は討ちもらしのないよう他の入り口を見ておきましょうか」 静かにそれだけ慧介に伝える。 「では、正面の大穴を三人にお願いし、残ったものが他の小さめの穴から入るのはどうじゃ?」 一心が残ることで探索する穴の数がぴったりだと気付いたリンスがそうまとめた。 よし、と蒼羅が立ち上がる。 「いいだろう。……俺は暗器を使用する。内部はおそらく入り組んでいるだろう。紫星、後ろは任せたぞ」 「あっ……うん。蒼兄ィ、分かった」 突然蒼羅から頼りにされて、紫星は嬉しそうに立つのだった。 「……戦場を洗浄……」 「いいねぇ。キレイさっぱり、後腐れ無しだな」 物足りなさそうに指をくわえてもう一度駄洒落を言ったルンルン。ダグラスが水に流すようなことを言って、とりあえず出撃する。 ● 手筈どおりに分担した穴へと向かう開拓者たち。 「飄霖、紫星のそばに。必要なら同化しろ」 蒼羅、相棒の上級迅鷹「飄霖」にそれだけ言って突っ込む。氷を思わせるような、凛とした水色をした飄霖は一つ頷くと翼を大きく広げて風を受け後退。紫星の近くまでくるとばさばさと羽ばたき速度調整した。 「え? 同化……」 「いいな、紫星」 「あ、ええ」 初めての言葉にうろたえる紫星。蒼羅は気にしていたようで、これを聞いて振り返ると短く言い切る。紫星、いつものように頷くしかない。 この様子に満足して蟻塚に突入する蒼羅。 「……やはり。内部の壁は隙間だらけだな。そして入り組んでいる」 木々の壁は、ぴっちりと閉じているわけではない。とはいえ、アヤカシの蟻も大きい。抜けて出てくることはなさそうだ。蒼羅、ちょうど十字の分かれ道に立っている。 「ん?」 この時、蒼羅の瞳が慎重に細められた。 ――ひゅん……。 『ギッ……』 ぼとり、とアヤカシ蟻の胴と首が天井から落ちて瘴気に戻る。蒼羅はいつの間にか腰を落として何かを構えていた。 「虫類アヤカシだな。予想通り、天井を移動してくるものもいる」 ひゅん、と何かが闇を切って蒼羅の元に収束した。 次の瞬間、今度は横を向いている。宝珠の指輪をした右手を伸ばすと同時に、やはり何かがひゅんとひらめいた。 今度は地上をぱしりと何かが叩いた。接近していた蟻が弾け飛ぶ。ひゅん、と続けて何かが舞い、後続の蟻をやはり弾いた。 ぱし、と蒼羅の手元に戻ってきたのは、鋼線「黒閃」だった。 「む、前からも……」 超越感覚で新手に気付いた時だった。 ――ひゅん……。 蒼羅の横を矢が行き、迫る敵に刺さった。 振り返ると、紫星がロングボウ「流星墜」を構えていた。弓が光っているのは、飄霖が他者同化しているから。氷のような光なのでひと目でわかる。 「横から来る敵は任せるとしよう」 静かに呟き、いつものように前方に突っ込んだ。 リンスは一番左手の穴を受け持っていた。 蟻塚の穴から入ると中は木々の重なる壁で作られた通路が伸びていた。 「中は思ったよる明るいの。……木々が重なるとはいえ、隙間から陽光が入るのが原因か」 『姉上! 戦場を洗浄だそうです』 松明を掲げて呟くリンス。金髪縦ロールに白皙の肌の人妖「カチューシャ」が凛々しく言いその横に浮いてきた。相棒銃「テンペスト」を抱くほかは、ブラドゥドの翼を背中につけてまるでリンスのような姿をしている。 「カチュ、妾の前に出るでない。そして決して離れぬ様……」 リンス、それだけ言うとおもむろに右ひざを高々と上げた。赤い衣装の短い裾から白い太股が覗く。左足の爪先立ちをしたのだ。 その姿勢から滑るように前に移動し……右足で踏みつけるように壁面にキック! 蟻のアヤカシがいたのだ。 いや、曲がった通路の先にわんさかといた。丁度分かれ道となっている。 「よいか、妾に敵の注意を向ける、決して単独で敵と相対するでないぞ」 一瞬振り向いてそれだけ叫ぶと蹴り・蹴り・蹴り。後ろにいるのは背拳で気配を察知し振り向きざま殲刀「秋水清光」を抜き放ちダウンスイング。はらりと浮く金髪。見据える赤い瞳。 「数ばかりが多いか。忙しいのう!」 寄せる敵を見て呟く小さな唇。 が、怯みはしない。 ――ちゅいん! 『姉様に近付けさせません! 戦場を洗浄です』 凛々しく銃を放つカチュの声。 「うむ。小虫共の駆除とはいえ、大事な役目じゃ。ゆくぞカチューシャ!」 『はい、姉様』 カツ、と白墨で分かれ道に印を付けると、再び刀を片手に敵の群れに走るリンスとカチュだった。 ● こちらは、桜。 『たくさん来ますね』 「ここらで迎撃するわよ、桃♪」 桃の言葉にそれだけ返して自分好みにたっぷり装飾したデコ刀、魔刀「E・桜ver.」を構える。 ――だっ。 先手は、桃。 跳躍して天井から来るアヤカシに蹴りを見舞って、今度は地面の敵に咥えた相棒刀「大口真神」で斬りつける。 一方の桜は逆手持ちのデコ刀で右の壁から飛んできた敵の攻撃を残像で避けて一発。返す動きで左の壁の敵にざっくり。 桃の立体攻撃と桜の理からの左右斬り。見事な連携を見せる。 が、敵は大量に押し寄せている。 囲まれる、と思った瞬間! ――ドカカッ! 『ヒヒィン!』 「千歳、行きますよ〜。今回は連携ですし気をつけて行かないとですね〜」 何と、京香が相棒の霊騎「千歳」に乗ったまま突入していた。味方のピンチに駆けつけるのも早い。 と、同時に。 「どうどう、ですよ〜」 ロデオステップで敵の攻撃を避け、合間に蹴りで攻撃。千歳の足元は完璧に近い。 「はいっ!」 しかも鞍上の京香が壁面などの敵を撃つ。 ――バチチッ! 今度は入り口方向から雷が走った! 「まったく数だけは多いわねぇ」 後方からさらに凪沙が着た。左手に松明を持ち、右手に構えるは五行呪星符。 「たまちゃん、壁の小さな穴の偵察よろしくね〜」 言いつつまた雷閃! ちなみにたまちゃんとは。 『たまもじゃ! 略すなと何度……』 ええい、口惜しや、な雰囲気で管狐「たまも」が姿を現した。 「へえっ。たまちゃんっていうのね」 『たまもじゃ!』 桜に呼ばれてがう、と吠えるように言うたまも。 「たまちゃんですか〜」 『じゃからたまもじゃ!』 にこにこ京香にも呼ばれて、こちらにもがう! 『……たまもらしいです、桜様』 「桃、ここはいいから先に行くわよ」 同情して訂正してやる桃だが、主人の桜は先に行く。もちろん、桃は呼び名よりも主人についていくほうが大事。 結局、呼び名の件はうやむや。 『仕方ない。穴の偵察に……』 たまもの方は仕方なく壁にある穴から偵察に。とはいえそういうのが得意だし好きなのでもう呼び名のことは忘れているが。 「じゃ、私はこっちの穴に……後から挟み撃ちは嫌だからね〜」 凪沙、人魂で反対の壁の穴を確認。 「そういえば、人と組んでの戦闘は久しぶりな気がしますね〜。基本、大規模でも小隊入らず動いてましたし〜」 その間に千歳が最後の蟻を踏み潰していた。乗っている京香は楽しそうで。 さて、最前線の桜。 「敵はたっぷり。これは任せたほうが……」 「桜さん、範囲射撃行きますよ〜」 後ろ、分かってる。京香の声がする。実は凪沙の人魂も前にいるから。 桜と桃は身軽に枝道に引っ込む。 「よし、人魂引っ込めた。いつでもいいわよ」 「タイミング合わせて…天狼星いくのです〜!!」 凪沙が火炎獣を召喚し、火炎放射一直線! 京香の一矢は衝撃波を唸らせる! ――ゴゴゥ……。 「やった!」 二人の声が重なった。通路に敵の姿はない。気持ちよく一掃だ。 一方、桜たちの避難した枝道にも敵はいた。 「桃、黒わんこ!」 『黒影闘です、桜様…』 とにかく、桜との絆の強さを力に代え、黒いオーラを纏った桃が本気モードに! 敵を攻撃して飛び跳ね、次の攻撃への威力にする。そしてまた敵を切って跳躍。 と、その動きに一直線に飛ぶ何かが加わった。 その何かは、ぱし、と桜の手に戻る。 「やっぱり戻ってくる子はイイわね♪」 エペタムで桃を援護していた。 ● 内部の暴れっぷりに、外に出てくる敵もいる。 「こっちに気付いたのか……それともたまらず出てきたのかねぇ」 ダグラス、外に残っていた。共にいる一心に言うでもなく呟いている。 「どちらでも……」 一心、最後までは言わなかった。 『……』 つん、と隣に浮く黒曜が一心の袖を引いて見上げる。 「……そうか」 敵はこちらに攻めてくるわけではない。たまらず出た、という雰囲気でもない。 「明らかに逃げてるねぇ……詰めたがいいか」 ダグラス、腰を浮かして逃げる蟻に殺到した。 「……黒曜、行きますよ」 ひゅん、と一矢を放ち長距離迎撃を止めた一心。黒曜とともに穴へと急ぐ。穴から四散されては打ち漏らす可能性が高いのだ。 「よし、こっちゃ片付いた。前は任せときな」 刀を振るってダグラスが取って返してきた。一心は止まって弓「雷上動」を構える。 「心眼では……この穴からのみ出てきます」 一番大きな穴の前に立ち、とにかく撃つ。 「範囲攻撃なんてないのかい?」 こっちはないがね、とダグラス。一心、無言で一撃一殺を続ける。 「なるほどねぇ。『前で巻き添えを気にせず戦え』ってことだ」 安心して突っ込むダグラス。手近な蟻を叩き伏せ、その横の一匹は一心が狙い撃った。 そのうち一匹が二人の目をかいくぐったぞ。 「すまねぇ、逃した!」 振り返るダグラス。しかしその蟻はつぶれた。 「……って、黒曜っていったか、やるねぇ」 『……』 魔宝石「バジリスクアイ」を持った黒曜、ぺこりと一礼するのみ。力の歪みをぶちかましたのだ。 再び、内部。 「蓬莱鷹ちゃん、天井が低くて飛びにくいかもしれないから気をつけて」 ルンルンが走っていた。横には相棒の上級迅鷹「忍鳥『蓬莱鷹』」。 「潜んでいたって、手に取るようにわかるんだからっ!」 錫杖「ゴールデングローリー」を壁面の穴にぶち込むルンルン。超越感覚で内部の音を察知したらしい。穴から瘴気が漏れる。隠れた蟻を潰したらしい。 おっと、この隙に蟻が四方から一斉に集まって来た。 「はっ、罠?! ……ルンルン忍法超ニンジャ竜巻!」 穴から引っこ抜いた錫杖を頭上で回してから、げしりと大地に突き立てたッ! ――ぐおぅ……。 全周に巻き起こる竜巻が蟻どもをふっ飛ばす! さらに前進するルンルン。 すると天井が高くなった。旧家屋の二階部分から蟻が蓬莱鷹を目掛け飛んでくる! 「ニンジャ合体です蓬莱鷹ちゃん…ハリケーンルンルンここに参上! 変わるわよ、なのです」 カカッ、と蓬莱鷹が光るとルンルンの抜き放った魔刀「エペタム」と合体。きっ、と顔を上げるルンルン。敵はまだ空中だ。 「これが……」 ルンルン、大地を蹴って……そして旧家屋一階の屋根も蹴って三角跳びで一気に空中。落ちながらルンルンに狙いを変えていた蟻と同じ高さになる。もちろん、蟻は虚を突かれているッ! 「これが蓬莱鷹ちゃんの嵐の力を取り込んだ、ニンジャの力なんだからっ!」 『ヴォォォン』 振るう刃、唸る蓬莱鷹。 ――すたっ。 着地するルンルン。背後にぼとぼとと頭と胴が泣き別れた蟻がぼとぼとと落ちて瘴気に戻る。 「見たか、ニンジャの必殺の技、怒りを込めて嵐を呼ぶぜなのですっ」 立ち上がる足元に、すでに瘴気はない。 そして、慧介。 ばばばっ、と一直線に風の刃が走り多くの蟻が宙に舞った。 「ふぅ…」 殲刀「秋水清光」の切っ先を伸ばし、瞬風波を放った後の構えを解いて後ろを見た。 背後では激しく燃えつつ回転し周囲の蟻を燃やす燎幻がいた。 「ありがとう、燎幻」 出会った敵を一掃して相棒の労をねぎらう。燎幻は得意げにぼぼぼ、と胸を張っていたり。 「しかし、紫星は相棒を連れてきてなかったんだよなぁ。蒼羅がついてるとは思うけど……」 心配そうに呟きながら前に進む。 その後、広間に出た。 ――ぼぼぼ……。 燎幻が炎突進で蟻に突っ込んでいた。なんか『まったく、こんなことになるまで気付かないなんて』とでも言いたげな荒々しい突撃である。 「仕方ないだろう。超越感覚で気付いた時にはすでに囲まれてたんだから」 そう。 慧介、激しく敵に囲まれていた。 「わざと囲まれたのは、これをするためだしね!」 そして殲刀「秋水清光」を掲げる。 ぶわっ、と全周に竜巻が乱舞。蟻どもは一斉に吹っ飛ばされた。 主人の勇姿に、ようやく燎幻も機嫌を直していた。 その時だった! ● ぶうんっ、と強い羽音が響いた。 「わっ!」 異変に気付いた慧介だが、敵は早い。一気に飛んできて燎幻とともに何かを食らった。 振り返ると、巨大なクワガタムシが飛んでいる。 「あっ、手品兄ィ。それ、奥に隠れてたみたいで一斉に……」 ここで、別れ道から紫星がやって来た。鬼クワガタ、取って返す。 「紫星!」 蒼羅も取って返してきた! 紫星の前に出て庇いつつ……。 身を捻った。 そこから飛んできた鬼クワガタは、身を守る紫星に達する前に瘴気に戻った。 「蒼兄ィ?」 「須臾…、俺の思い描く奥義の……」 今の、何? と聞いてくる視線の紫星にそれだけこたえる蒼羅。手応えはいいようだ。 「あっ。手品兄ィ」 「常に周囲に気を配るのは忘れないでな?」 ごうっ、という音に気付いた紫星にそれだけこたえる慧介。通路から新たにやって来た蟻に瞬風波を見舞っていたのだ。 「う……」 「あっ。やっほー、なのですっ」 これを聞いた紫星がもう一本の道を振り返ると、敵を殲滅しながらここまできたルンルンがやって来ていた。 他の場所も新手に襲われていた。 蟻塚の……いや、村の中心広場で。 『こっちじゃ』 「たまちゃんもういいわよ……これでどう?!」 ごうっ、と炎が上がり鬼クワガタが火まみれになった。凪沙とたまもである。 「桜さん、頼みましたよ〜」 『追い込みました』 千歳に乗る京香と桃が振り返った。その間を手負いの化甲虫が飛ぶ。捨て身の体当たりだ! 「よいしょ、と」 呼ばれた桜は身を捻って倒れた。 そこを化甲虫が飛びすぎるが……ばらっ、と羽などが散り瘴気と化した。須臾である。 そしてもう一人。 「……この、化甲虫め!」 もう一匹いた化甲虫に組み付いていた者がいる。 練力は黄金の光を放ち、長い金髪を振り乱しいま、殲刀「秋水清光」を固い外殻の隙間に突き刺した! リンスである。 どしん、と化甲虫とリンスが地に落ちる。 『姉上の「五神天驚絶破繚嵐拳」』 遠巻きに浮いていたカチューシャは、構えていた相棒銃を下ろした。 もう、構える必要がないということなのだろう。 実際、散り消える瘴気の中立ち上がったのはリンスのみだった。 ● そして、外で。 「紫星さん、大丈夫でしたか〜」 「……馬も便利そうね」 千歳をねぎらう京香に紫星がそんなことを言っていたり。 「どうしました?」 一心は、こん、と石を蹴っていた凪沙に気付いた。 「ん?」 振り返った凪沙。周りでは敵を一掃し、東西南北の担当が集まり炊事の煙が立ち上っていた。 「自分の名前は、いくつかの合戦を通じて世間に広まったかな、って」 とは、答えなかった。どこかにいる生き別れた両親の耳に入ったかな、という思いと一緒で、口には出さない。 代わりに、兎尻尾が揺れた。 「アヤカシの掃討戦か……戦の終わりが近いんだね」 背を向け、顔だけ振り返ってそれだけ言った。 「見届ける者がこんなにいて、ここは幸せさ」 気付いたダグラスが寄ってきて言う。手には炊き立ての飯盒があった。 |