手招き岬とミラーシ座
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/09/06 20:57



■オープニング本文

 ここは天儀の……。
 いや、場所は伏せる。
 ある町のある蕎麦屋に、長い金髪をなびかせる姿があった。耳が長く尖っている。
「わー……お蕎麦にお鼻近づけてる〜」
「不思議〜。このあたりじゃ見ない人でもお蕎麦おいしそうに食べてるー」
 ちょいと周りの客、特に子どもたちから遠慮のない好奇の視線を一身に受けているのは、クジュト・ラブア(iz0230) 。
「エルフっていう、海の向こうの人らしいな。神楽の都じゃ珍しくないらしい」
「あそこはいろんな人が集まるからねぇ」
「それにしても美人さんですこと」
「役者さんみたい。旅の一座でも来てるのかしら」
 とかなんとかいう、周りの言葉。
 それもそのはずこのクジュト、神楽の都で弾かれものながら座敷演芸一座の座長をしている。
 そのクジュトがなんでこんな主要街道からも外れた海沿いの町に来ているかというと……。
「おっと、すいませんなぁ。通していただき……おっと、そこの異国の御仁、相席よろしいですかな」
 ガタイのいい武僧風の男が寄ってきた。というか、対面の席に座る。
「席は空いているようですが」
「いやいや、ご縁ご縁。……実は、どこぞの町で座敷に居ついた幽霊を退治した男たちがいると聞きまして」
 クジュト、意地悪なことを言ったがこの武僧は聞き流してぺしりと額をたたいている。店員が持ってきた蕎麦を早速すすりながら話を進める。
「いやあ、拙僧も屋敷の噂を聞いて駆けつけたものの、すでに退治されたとか。で、もしやと思って急いでみればやっぱりこの町にいた」
 わははと陽気に、一方的に話す。
「この町に何があるんです」
「またまた。今度はここの『手招き岬』の幽霊退治ですな。いやあ、拙僧も旅から旅で幽霊話を解決してきました手前、これ以上先を越されるわけには……」
 くす、と微笑したクジュト。
「いえ、私はそういうつもりでは……」
「いやいやいや。旅は道連れ世は情け。抜け駆けはよろしゅうありませんな。ここはどうです、一緒に幽霊退治して拙僧は我が日来密宗(ひらみしゅう)の名を天下あまねくしろしめし、御身は御身としての名声を」
「いや、私は身を隠すため旅をしてるのであって名を高めるなどは……」
 そう。
 クジュトはしばらく神楽の都から離れて存在を忘れてもらうために身を隠しているのだ。
「よろしい。そういうことでありますなら手柄はすべて、不本意ながら拙僧・参帽(さんぼう)の日来密宗のものといたしましょう。というのがこちらの『手招き岬』、断崖絶壁の自殺の名所でそういった浮かばれない霊が岬の上を通りかかる人を魅了し転落死させるというやっかいな場所で、退治するには満潮時に船を出し、海面でゆらゆらおいでおいでする腕幽霊の集団を叩き伏せるしかなく。拙僧であれば岩礁の操船も多少心得が……」
「というわけで、ぜひよろしくお願いします。すでに近くの町での陰の武勇は聞き及んでおりますゆえ」
「わっ、びっくりした」
 クジュトが参帽の都合良し理論を聞いてる側では、いつの間にか町の顔役とおぼしき人らが群れて頭を下げていた。
 手招き岬、古くは薬屋や行商人などこまごまと地域を回る商人の重要な通り道だったらしい。やや衰退してしまったこの町も、あるいは幽霊退治により活気が戻るかもしれない。

 なお、海面の腕だけの幽霊は誰かが岬の上に立ったり岩礁地帯となる海域に船で進入するものがあったときのみ現れるという。干潮時には現れないが船での進入はほぼ不可能。出っ張っているので両翼後方の岸から狙うこともままならず、満潮時では岬の下や近辺には陸上から進入できない。
 そして、これまで何度も開拓者たちが退治に向かうが退治しきれなかった理由が、「空からの攻撃で見た目で全滅させても、実は幽霊は自分たち側から攻撃できないので身を隠してしまっただけ」ではないかと目されている。
 敵の絶対優位となる海上での戦いが必須となる。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
ニーナ・サヴィン(ib0168
19歳・女・吟
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
リスティア・サヴィン(ib0242
22歳・女・吟
愛染 有人(ib8593
15歳・男・砲
隗厳(ic1208
18歳・女・シ
綺堂 琥鳥(ic1214
16歳・女・ジ


■リプレイ本文


 ぎし……と櫂の音が響く。
 ゆるりと進む二隻の船には、開拓者達が分乗している。
 その内に一隻で、舳先に陣取る隗厳(ic1208)は前をまっすぐ見据えていた。
 赤い瞳が細められ、遠くに見える岩場を見据える。
 特に変化はない。
「ゆ」
 突然、背後からそんな声。
「ゆゆゆゆゆ……」
 隗厳は振り向きもしない。
 その時、後ろでは。
「……幽霊なのまたしてもっ!」
 髪を逆立てるかのような勢いでニーナ・サヴィン(ib0168)が櫂で漕いでいるクジュト・ラブア(iz0230)に詰め寄っていた。
『ニーナ、二番煎じは笑えないぞ?』
「笑わせようとしてないわよっ」
 横から冷ややかに彼女の相棒、からくりの「アリス」が突っ込んだが、勢いよく振り向いたニーナにどアップで詰め寄られて言葉に詰まる。
「……」
 一方のクジュトは無言でリスティア・サヴィン(ib0242)に視線を流す。
「ちょ……話したに決まってるでしょ?」
 ティア、口を尖らせてクジュトにどアップで迫る。
「苦労して幽霊に怯えるニーナを引っ張ってきたのよ! 『いい加減なれなさいよ』って」
 彼女の言ったことは本当で、「ニーナ? また幽霊だからって恐がってちゃダメだからね?」などと諭して連れて来たのだ。
「でも……」
「そもそもこんなことになったあんたが悪い! ……どこまで巻き込まれ体質なのよ」
「ティア義姉さんの言う通りよ。このままじゃミラーシ座は幽霊退治屋になっちゃうんじゃないの?」
 クジュトが口を挟む余地もない。ティアが深い溜息をついてニーナがジト目で返してくる。
「……」
 仕方なくアリスとティアの相棒からくり「クロード」に助けを求め視線を流すが、アリスはふんと横を向き、クロードは執事然としてやれやれと首を振るだけ。
 この時隗厳、振り向いた。
 そこで綺堂 琥鳥(ic1214)の様子に気付いた。
「そろそろ腕幽霊のよく現れる場所ですが……どうしました?」
「ん……占い」
 琥鳥、水晶球でまじないごとをしている様子。横には相棒の羽妖精「珀」がふわふわ浮いて様子を伺っている。
 は、と琥鳥が顔を上げた。
「皆に水難の相が出てる…。きっと水の災いが振りかかる…。振りかけならいいのに…」
 振り向いてとんでもないことを言った。聞いたクジュトたち、固まっている。
『占わないでもわかる事じゃない、それ。そして振りかけ関係ない』
 呆れたように突っ込む珀。琥鳥の方はそれでも小声で「でも振りかけ大事……」とか。
「水難……大丈夫。私は呼吸の必要がありませんので件と一緒に水中に入ります。腕幽霊達を下から水面へ追い立てますので、叩けそうな敵から始末をお願いします」
 隗厳はそう言ってひらりと海に飛び込んだ。顔を海面から出して船に並走していた彼女の相棒のミズチ「件」が嬉しそうにする中、首筋に手を掛けて背中に乗った。

 時は少し遡り、もう一つの船。
 舳先に一角獣人の赤い髪がなびいている。
 愛染 有人(ib8593)である。
『自殺の名所とはまた如何にもな……』
 その横に浮く相棒の翼妖精「颯」が岩礁地帯を見遣ってぼそり。
「中々涼しそうな依頼ですねぇ……幽霊とかが苦手な方には、殊更かな」
 それを聞いた雪切・透夜(ib0135)が後ろから苦笑している。隣の船ではニーナがちょうどどか〜んしていたり。
「クジュトさんは、クジュトさんでたいへんなようだな」
 この船に乗っていた羅喉丸(ia0347)。思わず隣の船を眺めて苦笑していたり。
 それはそれとして。
『颯は別に……』
 颯、ツン。透夜の方は「それは何より」。
「それがアヤカシのせいなら早く何とかしましょう」
 有人が可愛らしく頷く。本人はもちろん可愛くしているつもりなどないが。 
「しかしご縁とはいいものですな。一人ではこうして櫂を操るのみではあるが、皆が集まれば難事も成就しようというもの」
 ここで船尾から参帽が陽気に声を張った。皆の力添えが嬉しいようで。
『豪快な御仁であるな』
 透夜の相棒からくり(上級)「ヴァイス」が思わず漏らす。
「別に目的があれ、善行は、善行、いいことだな」
 羅喉丸が改めて口を開いた。
「いくら名声のためとはいえ、大金を払って開拓者を雇ってまでアヤカシ退治をする者はそうはいないからな。参帽さんのためにも頑張るとするか」
 羅喉丸、座りこんで火炎弓「煉獄」の弦を確認し微笑している。
 横では、相棒の上級羽妖精「ネージュ」が白い翼を緩やかにはためかせながら覗き込んでいる。
『羅喉丸、いつもと武器がちがうようですが、大丈夫ですか』
「剣尖延指、武器は素手の延長であるという教えもある。それに、俺の修めた技は得物を問わず使えるものも多い。得物が弓だからと言って、遅れはとらぬさ」
 そうなのですか、とネージュが羅喉丸を見上げた時だった。
「そうそう、遅れちゃダメなのです」
 陽気な声がどか〜んと響いた。
「もうすぐ夏も終わりだもの、付近の住民さんの為にも今のうちに怪談の後始末きっちりつけて、秋に備えちゃうんだからっ!」
 ルンルン・パムポップン(ib0234)が両手を広げて陽気に言い放っている。相棒の上級迅鷹「忍鳥『蓬莱鷹』」も主人の背後でくわと両翼を広げてポーズを真似していたり。
「おお。秋への備えだ!」
 参帽、これに気をよくしてさらに陽気に。
『……もうすぐ岩礁です』
 ネージュは主人と同じくこれに動じず、先を見据える。羅喉丸、「うむ」と準備。
「釣りをするのによさそうかな。地形的にも、大きなのがいそうだ」
『のんきなことを。するのは終わった後でだな』
 透夜とヴァイスも騒ぎに背を向ける。
「波間は静かな方が好みです。大人しくなってもらいましょう」
 透夜、水蜘蛛で海面に。
 有人は爆連銃に耐水防御をしつつ相棒に声掛け。
「あてにしてるんだから」
『颯にお任せですの!』
 すいっ、と颯が先行した。ネージュも続く。
 
 そして先行する透夜、颯、ネージュ。もう一方の船から出た隗厳と件は見た。
 波間から半透明の腕が現れ、ゆうらり、と不気味に手首をくねらせおいでおいでしはじめたのを!



 ざざざ……と波の上を透夜が走る。左右に颯、ネージュ。
「はっ!」
 不意に止まる透夜。アイギスシールドを掲げ腰を落とす。飛んできた水が、盾に彫られた凶悪な鬼女の顔に掛かる。
『まさか、飛び道具もあるんですの?』
『揺らめく手のいくつかが指を鳴らしたようですね』
 透夜を追い抜きつつ振り替える颯に、冷静に敵の動きを見たネージュ。
「ヴァイス!」
『早い出番だな。射程外のような気もするが』
 透夜は相棒に援護を叫ぶ。船のヴァイス、射程ギリギリを承知の上で相棒銃を撃った。
「はっ。うっかり参帽さんと話し込んじゃいました。……波間から沢山の腕が出ておいでおいでとかとってもきしょいですが、私がバッチリニンジャの力で退魔しちゃうんだからっ!」
 死者の手招きを見てぶるっと震えたのも一瞬、じゃらんと錫杖「ゴールデングローリー」を構えたルンルンが海面に立った。一気に突っ込む。
「あれから敵は撃ってこないが……なるほど」
 船からじっと戦況を見詰めていた羅喉丸、ルンルンの背中を見送りつつ理解した。
「敵は撃ち合いたいわけじゃなく1人を遅らせただけか」
「颯! 一撃離脱、一体でも多く引付けて」
 羅喉丸の言葉を聞いて有人が声を上げ援護射撃。
『そりゃ、あんな腕にあると様を触らせる訳には行きませんから』
 颯、分かっていた。
 水面下から近寄って突然水柱を上げて高く伸びてきた腕をひらりと回避する。
 が、これでネージュが突出する形に。
――ざばばっ!
 孤立した周囲を腕に囲まれた。
 しかしネージュ、うろたえない。
『いきますよ……風霊よ、私に力を』
 ネージュの掲げた相棒剣「ゴールデンフェザー」が光に包まれた。
 刹那、踊るように周囲を駆け抜けるネージュ。
 全周から覆い被さろうとしていた腕の手首をすべて斬った!
 花開くようにすべての腕が仰け反るが、当然切り口からは血はしぶかない。この隙に 風精飛で脱出するネージュ。腕はいったん水中に潜る。
――ざばばばっ!
 ここで先よりさらに大きな水しぶきが上がった!
「水中にいれば安全と思ったら大間違いですよ」
 もう一方の船から先行し潜行していた隗厳とミヅチの件だ!
 わざと下から捲り上げるように浮上した。同時に振るった隗厳の鋼線「黒閃」が巻き上げた水しぶきとともに陽光を受けて中空を舞う。
『くあっ』
 件は浮上と共に練水弾。
 うろたえる敵。
 ここで刃付きのワイヤーチェーンが飛んできた。
「おっと。次は岩礁にかくれんぼですか?」
 透夜、水中ではなく岩影に逃げようとした手首を斬る。
「させませんよ」
 じゃらん、と戻ってきたチェーンをまとめ剣にしながら微笑。敵は瘴気に返っていた。
「腕幽霊さん、こっちなのですっ」
 透夜の攻撃した後にはルンルンが走って敵を誘き寄せていた。
「ヴァイス、頃合だ……。射線上、全て撃て」
 これを振り返って確認した透夜が再び相棒の名を叫ぶ。
『承知した。鉛の飛沫をくれてやろう』
「これはこれは」
 火を噴くヴァイスの相棒銃。櫂を握りつつ戦況を見ていた参帽が思わず感心するような形勢逆転だった。

 一方、クジュトたちの船。
『どうされました?』
 クロードが妙に静かなティアを不審に思った。
「いや……敵の数が減ったでしょ? 水の中の音は聞こえるかな、って」
 超越感覚で探っていたようだが……。
――ざぱーん。
 船の目の前に腕がやって来ていた。海面、目の前から一気にたくさんの腕が出てきたっ!
「ぎゃーでたーっ!」
「ニーナ! ちょっと落ち着いて……」
 思わず引いてクジュトの手を握ったニーナ。
 が、腕は容赦なく伸びてくる。
『おっと』
 アリスが主人を守るべく魔槍砲を構え身を入れた!
「アリス!」
 ニーナの悲鳴。アリスは敵の掴みを防ぎきれなかったがすぐに相棒魔槍砲「アポ・カテキル」の切っ先を敵に向けた。
『俺の相棒に手を出すな。……文字通りな』
 ぎりり、と締められたが敵の手に刃を突き立てる!
 まとった超振動は「破穿撃」。威力を上げた攻撃で敵を瘴気に返した。
「透明な手がいっぱい……。マドハン……もとい、アクアハンド……」
『それどころじゃないし、途中で止めて正解だったよ、その名前は』
 一方、琥鳥は傾く船体とともに傾きながらそんなことをぼそり。空中の珀は汗たらりんしつつ『頼むから戦って』と空中地団駄。
「水みたいな相手でも使えるかな…? 使えればラッキー、クッキー、アンラッキー……あれ?」
 琥鳥の振るったダガー「ブラッドキラー」は敵に刺さったがあまり手応えはない。
『アンラッキーでどうするの!? 利いたけどさっ! っと、船に取り付くんじゃないよー!』
 しっかり働いてはいるもののいまひとつ緊迫感のない主人に困りつつ、珀は相棒双刀ぶるんぶるん。
 とはいえ多勢に無勢。
 船にはしっかりと敵の手が掛かっている。周りからは敵の水の刃が飛び交っている。
「ニーナ、ごめん!」
「え?」
 クジュト、くるんとニーナを片腕で抱き寄せると身を捻って櫂をダウンスイング。敵の手の甲をぺしりする。
「あー、もうっ! 何やってんの!」
 ここでティアがどか〜んともやもやを爆発させるように叫んだ。すぐにハープを奏でる。

♪何があったのどうしたの
♪世界が終るの? 壊れるの?
♪そんな時は深呼吸 心を鎮めて落ち着いて……

 「天鵞絨の逢引」だ。
 敵の急襲に乱れかけた全員の注意を引き寄せ落ち着かせる。
『さすが』
 クロード、聞こえないように呟いて敵を撃つ。
 これで浮き足立っていた船の上も冷静になった……はず!
「ううう、居なくなるまで手繋いでてー」
「分かった。ボクに……」
『わっ!』
「クゥ! アリスが……お願い! 壊れちゃう!」
「ニーナ、ちょっと離れてて」
「ってユーレイいたの忘れてたぁぁぁ。クゥ〜私も助けて〜」
 ニーナとクジュトとアリスが激しくどたばたしているではないか。
 ティア、この状況に眉間がピクリと動く。
「あたしの歌をきけーい! ほらっ、ニーナも演奏なさーいっ!」
 再び、どか〜ん。
 ティアの「魂よ原初に還れ」とニーナの「黒猫白猫」がぎゅんぎゅんぎゃんぎゃん海上で賑やかに。
「ぎゃーっ、あっちいってー」
 時々、ニーナの「重力の爆音」がどーん、もしている。
『……』
 クロード、もう何も言わず銃を撃っている。なかなか渋い働きだ。

 しかし、戦況は次の局面をすでに迎えようとしていた。



 こちらは参帽たちの船。
「こっちにも来たが……ネージュも頑張ってくれたようだな」
「そうですね。颯もよくやってます」
 羅喉丸が颯の連れて来た敵を撃ちながら冷静に言うと、有人がリロードしながら頷いていた。
 そして戻ってくる颯。
「まだ隠れてる敵はいそう?」
『事前情報よりも敵が少ないなら藪を突いてみますが?』
 聞いた有人、装弾完了で構え直す。颯の方はいつもと変わらぬ瞳のまま再出撃可能の意思を示す。
 その時、前線の透夜。
「船に取り付かれることもなかったですね」
 参帽たちの船を振り返りほっとしている。
 瞬間。
「お?」
 足元に激痛。
 見ると、新たな手首に足を掴まれていた。周りを見ると先ほどと同じ手首が揺らめいている。
「くっ!」
 慌てて逆手持ちして剣を足元の手首に突き立てる。ぼろっ、と塩になる敵。
「透夜さん、受けてください」
 突然響いた声。
 顔を上げると隗厳がいた。件と一緒に水面に顔を出して泳ぎつつ、何かを投げた。
 ひゅん、と飛んでくる何か。
 剣を立てて受けた透夜。そこに鋼線が絡みついた。
「下げてください!」
 隗厳の狙いが分かった。急いで海面に剣を立てる。
「件!」
『くぅ』
 準備完了と判断し件に高速泳法させる。隗厳、物凄い勢いで透夜を中心にぐるんと円を描き腕幽霊の手首を一挙切断を狙う!
 しかし。
「これだけだとダメのようですが……」
 ばたばた手首が倒れて水面に逃げたのを見て、再び水面に潜る。
――どっぱーん。
 またも派手に下から突き上げる泳ぎ。
「逃がしません」
 戻った鋼線を再び操り攻撃を繰り返す。

 それでも逃げた敵もいる。
 参帽たちの船に取り付いているぞ。
 有人、横向きになったところを前後から狙われている!
『颯に無断であると様に触れ……絶対に尻尾をもふらせませんですのッ!』
「颯……」
 颯の妖精剣技・連が冴える。ひらめく剣と近寄らせない銃撃で主人のもふもふ獣尻尾を守りきった。有人、身を捻って自分の尻尾を確認し、ほっ。というか、じっと見ているヴァイスに気付き赤くなっている。
「いい相棒を持ったな」
 羅喉丸は颯の攻撃で仰け反った敵を撃ち止めを刺す。
 いや、すぐに船の反対側に瞬間的移動をした!
「……もちろん、ネージュも頑張っている」
 めしり、と船の縁に手を掛けた敵に正拳突きを上から叩き込んでいる。背後では船の窮地に気付き、前線からネージュが戻ってきているところだった。

 新手はクジュトたちの船にも。
「船、揺れると落ちそう……。堕ちそうではないけど……」
『戦闘中は気が抜けるからしゃべらないでいいから! お願いだから!』
 腕に船を掴まれぐらんぐらんする中、鞭を振りつつもぐらんぐらんと頭を揺らす琥鳥。珀は必死に双剣を振るい舞うように戦いながら、いま、剣を光らせながら渾身の一撃を叩き込んだ。珀、集中しているっ!
「気が抜ける……。炭酸みたいな珀だね……。珀・炭酸と名付ける……」
『って、変な名前をつけないでいいー!?』
 描写がないと分かりづらいが、琥鳥も鞭で敵を絡めぐいいと引いてからダガーを突き刺すなどしっかり戦っていたりする。セリフだけだと分かりにくいが!
「アリスが水没しちゃうー、クゥ、助けてーっ!」
『……水没させたいのか?』
 描写がないと分かりづらいが、アリスは危なげなく戦っていてニーナが目を瞑り気味で演奏していたり。
「……隗厳やルンルンが頑張ってるから今度はこっちにあまりきてないみたいね」
『左様で』
 描写がないと以下略だが、ティアは冷静に最前線も見ていた。うやうやしくクロードが礼をしつつリロードしてたり。

 再び最前線。
 海面から顔を出した隗厳、敵の水瘴気を食らっていた。
「そのくらい私もできます」
 負けじと印を結ぶ隗厳。水の刃が飛んで敵を斬った。
「少しでも皆様のお役に立てれば……」
 次の敵にまたも印を結ぶ。
 ここから先には通さない構えだ。
 さらに先。
 海面を軽やかにスキップしつつ錫上を頭上でくるくるさせている姿がっ!
「ジュゲームジュゲームパムポップン……ルンルン忍法超ニンジャタツマキ☆。アンド、超ニンジャスピン!」
 真空の刃を全周に飛ばして追いすがっていた敵を斬る。
「見たかニンジャの必殺の技、なので……蓬莱鷹ちゃん、おいで!」
 いや。勝ち誇っていたところから腕を上げて上空の相棒を呼んだぞ!
 すぐさま召喚にこたえ滑降してくる上級迅鷹。何をする?
「今こそニンジャ合体です…ニンジャの魂充填完了120%!」
『ヴォォン』
 掲げた錫杖、光った。武器同化だ。
 どうやらルンルンが見たのは、水中に隠れて難を逃れていた腕幽霊だった。
「叩くのです、叩くのですっ!」
 そのまま軽やかに走ってモグラ叩……片っ端から錫丈でぶっ叩くのだった。
 一直線に駆け抜け、振り向いた。
「悪霊退散、なんだからっ!」
「これも拙僧の日来密宗のおかげ!」
 びし、と決めた遠くの背後で、参帽が何げに自らの手柄にしていたり。



 そして、蕎麦屋。
「わー。またエルフさん、お蕎麦食べてる〜」
 覗く子供が言うように、依頼を終えたクジュトたちが腹を満たしていた。
「おそらく、もういないわね」
 ティアが寄って来た町の顔役にえへんと胸を張っている。
「ほ、本当か?」
「海に潜ってしばらく調べましたが、間違いありません」
 隗厳が女性らしい優しい瞳で言う。
「前の開拓者と違って海の中まで調べたんなら……」
「水難の相、もう出てない。もうでてない……詣でてない」
『いいけど、そこは詣でたほうがいいんじゃない?』
 琥鳥の占い付きで、前が前だっただけに疑いの気持ちもあった村人も「それなら」と納得した。珀・炭酸……ではなく、珀は突っ込みを忘れない。
「これも日来密宗のお導き。皆の力が揃って無事に退治できましたですな」
 ここぞとばかりに参帽が。
「おお、日来密宗!」
「ルンルン忍法も導いちゃいました!」
 えへんとルンルンが便乗。
「おお、ルンルン忍法!」
『有人様の尻尾も守りましたの』
「いや、対抗しなくていいから」
 手柄話なら負けないとばかりに主張しようとした颯は、有人が止めた。
「いいのかなぁ……」
 感心する町の顔役たちに、さすがにどうだろうと透夜が心配したり。横では料理上手のヴァイスが蕎麦をじっくり観察しつつつゆにつけていたり。何を思う。
「ミラーシ座の手柄にするわけにもいかないだろう」
 羅喉丸、クジュトのほうを見た。余談だが隣ではネージュが上品に蕎麦をちゅるん。
「ところでクジュトさん、あの参帽ってひとだれ? 新しいオトコ?」
「違いますっ!」
 この様子を見て羅喉丸、がくっ。
「ミラーシを幽霊退治一座にするわけには……」
「やーねぇモテるひとって。ねえ、行く先々に港があるんですってリスティア姉さん」
「クジュト……」
「だから違いますって!」
 いかないだろう、と思う羅喉丸をよそにニーナは騒ぎの輪を広げていたり。
「……クジュトさんって泳げるの? 砂だらけの国出身だから泳げなさそう」
 おや、と羅喉丸。ニーナの口調と様子が変わったのだ。クジュトに微妙に肩を寄せている。
『どうしました?』
「いいんだ、ネージュ」
 羅喉丸、ふしぎに思った相棒にそう言って笑顔。机の下で手を握っているらしい。
「ええと、あんたらは旅の芸人?」
「ええそうよ。ミラーシ座っていうの。透夜、有人、行くわよ。隗厳は水芸ができたわね?」
 ティア、そう言って演奏に入るのだった。