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■オープニング本文 「南那亭めいど☆」の雪切・真世(iz0135)が泰国南西部での依頼を終え、神楽の都の珈琲茶屋・南那亭に戻ったときのことだった。 「真世さん、留守の間に手紙を預かってるわよ?」 この近辺の商店のご婦人が一通の手紙を差し出してきた。後ろでは常連客たる助平親父どもが 「ええい、わしらが受け取った手紙じゃのに」と歯噛みしている。そんな親父達を、めっ、とねめつける商店婦人会の人々。 「手紙……旦那さまは一緒のお仕事だったし……」 受け取りぽわわん、と心当たりを探す。 「確か開拓者じゃったの」 「特に名乗る名はないが、どんな不可能偵察も威力で解決らしい」 「ついでに、しかも何気に神出鬼没の偵察集団! とか」 くらっ。 「まあ、真世さんどうしました?」 「ああ、真世さんが……まったくいつまでたっても手のかかる大きな娘さんだこと」 助平親父どもの言葉に衝撃を受けた真世。突然ふらつくところをご婦人方が支えお湯だぬらした手拭いだ産婆さんを呼んできましょうなどとえらい騒ぎに。 「ち、違うの違うの……その、お仕事だなって」 さすがに気を取り直した真世、必死に説明する。まさか産婆さんを呼ばれるわけにはいかない。ああん、ざんねん、などと悔しがる婦人もいたが明らかに違うだろ、というのは置いておいて。 「か、確認すればいいのよね。すぐに」 ぴら、と手紙を開く。 内容は……。 「冥越の先に儀に封じられた島が見付かった。偵察野郎Aチームの威力偵察の出番だ。エンゼル真世も来るように。がはははは」 最後に、ゴーゼット・マイヤーの署名。 「やっぱり」 がくー、と肩を落とす真世。 「行くのか、真世ちゃん?」 「えーっと……ん?」 周りに聞かれて考えていたが、手紙の追伸に目が行った。 「もしもエンゼルが遅れてくるなら、全体のキャンプの設営を手伝ってくれ。俺たちが偵察から帰ってきたときに隊員がいるとホッとするからな。駐屯地は浜辺なので泳いだりのんびりしてもいいだろう。新婚さんを危ない目に遭わせるわけにはいかない」 署名は、ブランネル・ドルフ。 「追伸の方が長い手紙ってのもねぇ……でもまあ、これなら行ってもいいかな。しばらく依頼で泳いでないしぃ」 んふふ、と口元に指を添えてうふふるんるんな浜辺のバカンスを思い浮かべる。 で、思い知ることになる。 現地についた真世に早速お声が掛かった。 「なあ、すまない。女性は力仕事はいいけど、代わりに炊き出しをしてくれないか?」 そんな指示を受けた。 何でも、アル=カマルから伝わってこれまでに人気が徐々に上がってきた「カレー」なる料理を作ってほしいとのこと。材料はいろいろあるらしい。 「ほへえ、新しい料理を覚えちゃういい機会かも♪」 真世、数年前まで料理ダメダメっ娘だったが、包丁も使えるようになった。ちょっとドジもするけれども、まあ、最低限のことはできるようになった。 さりとて、新婚の人妻として新たな料理を身につける大切さは身に染みている。 「香辛料各種もすでにそろってるから楽勝ね〜」 わしっ、とまずは砂糖を手にする。 「あ、そういえば水着に着替えようと思ったんだ。水着とエプロン、水着とエプロン〜♪」 鷲掴みにした砂糖の容器を戻し、更衣室に取って返すのだった。 アナタはこの場所で、本当に分かってるのかどうか不明な危うい場面を目にした一人だ。 やれやれと動き出す。 |
■参加者一覧
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
ニーナ・サヴィン(ib0168)
19歳・女・吟
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
八甲田・獅緒(ib9764)
10歳・女・武 |
■リプレイ本文 ● ざざん……と波の寄せる砂浜に、一匹のしばわんこがしゃんと四足で大地を踏みしめ佇んでいた。 「桃〜」 背後から声。反応して振り向くと猛ダッシュする。 「はいはい。お待たせ♪」 そこには更衣用天幕から出てきたばかりの御陰 桜(ib0271)がいた。大人びた黒レースが特徴の水着「モノトーン・プリンセス」の長いパレオの結び目からすらっと覗く脚線美が眩しい。 『わんわんっ(水練ですか、喜んで御供します)』 すかさず桜の足元に寄り主人を見上げるしばわんこは、桜の相棒、闘鬼犬の「桃(もも)」だった。 『久しぶりのバカンス、楽しみですぅ♪』 桜に続いて、胸元のざっくり開くサマーメイドドレス姿の上級からくり「プラム」が出てきた。 「あら、前も来たのにまだ遊び足りないの? 今日は……」 桜、日焼け止めを腕に伸ばしつつ桃に言ったところで視線を上げた。 ピンクのビキニ姿の雪切・真世(iz0135)がこちらにやって来たのだ。 「真世ちゃんにも塗って……旦那様に塗ってもらう?」 「う……」 真世が赤面したところで、赤い前掛け型のトップと白地に黒猫柄褌のビキニ少女がやって来た。 リィムナ・ピサレット(ib5201)だ。 「真世さん、結婚おめでとう♪ ね、旦那さんに揉んでもらってるの? おっきくなったかなぁ?」 じー、と見上げていたかと思うと、真世の胸に正面から両腕を伸ばし、わし掴み。 「ひぃぃ!」 この時、背後の天幕から。 「はぅ、水着姿はちょっと恥ずかしいですよぉ……」 羽織った上着の前を両手でしっかりと合わせて、ひらひらと赤い花柄パレオを揺らしながら獅子耳と獅子尻尾を揺らめかせる小さな少女が出てきた。 八甲田・獅緒(ib9764)だ。気弱そうに肩を縮めている横に、相棒の土偶ゴーレム「獅土」が寄って来た。 『せっかく水着になったのに隠しているのは勿体ないんだぞ、と』 獅土、主人の羽織っていた上着を奪った。 たちまち赤い花柄ワンピース水着が白日の下に。 「わきゅ!?」 細身の体を仰け反らせた獅緒の悲鳴。先の真世の悲鳴と被る。 「じゃ、獅緒さんのは……」 「何やってるんですか」 ちょうどやって来た雪切・透夜(ib0135)が呆れている。 「あ、丁度ヨかったわ。真世ちゃんに日焼け止め……」 「ああんああん、桜さん今はダメ〜。カレー作らなくちゃ」 桜を止める真世の言葉に、皆が「あ」とか。 任務を思い出したらしい。 ● ちょうどそのころ、砂浜の別の場所。 黒い横縞タンキニ姿の、両サイドアップに髪をまとめた小さな少女がさほど興味もないような視線でカレー調理用の鍋を指さしていた。 からす(ia6525)である。 「ああ。場所が場所だし……開拓者だろ。あんま大きい鍋は使わないんだよ」 近くにいた担当者が答えた。 『開拓者……アルガ』 からすの側に浮いていた相棒の提灯南瓜「キャラメリゼ」が首をひねる。 ちょうどその時。 わいわいと真世たちが水着エプロン姿でやって来た。 真世、さっそく調理に取りかかろうとするが「えーと」と包丁を持って固まっている。 「大丈夫よ、真世さん。多少アレな味でも夏の太陽と海がすべてを素敵な思い出に変えてくれるわ」 ここでニーナ・サヴィン(ib0168)がにぎやかに登場。赤い三角ビキニがまぶしい、前掛けエプロン姿でぽむと真世のに肩を叩く。 「大丈夫かなぁ……」 『主よ。我も手伝おう』 二人に不安を抱く透夜。横に控える彼の相棒の上級からくり「ヴァイス」が穏やかにいう。ヴァイスは料理が得意だ。 が、しかし。 「ヴァイスちゃん、白いワンピースが似合ってるよっ」 真世のきゃいきゃいする声を聞き、途端にヴァイスは頬を染めて水着の前掛けの裾を押さえたり。手つきが怪しくなってしまう。 もう一体からくりがいる。 『プラム、お嬢様の為に頑張りますぅ』 ぐ、と両手で可愛くガッツポーズをして調理に取りかかったプラム。 その横では。 「あたしは黒くて激辛作るよ♪ コクがあって美味しいスープ状のカレー♪」 リィムナがたくさんのタマネギを手にしてざっくざっく切り始めていたり。 さらにその横。 赤いビキニ姿のまぶしい姿が通りがかりにこちらを見ている。 「カレーですか……」 『かりーもふ☆』 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)と相棒のものすごいもふらさま「もふ龍」だ。 「水着を着ての料理は正直危険なんですがね……」 『もふね〜』 「まぁ、その辺は譲れないみたいなので……水着姿で調理をしましょう」 『がんばもふ〜』 腰掛けエプロンを着けて慣れた風に持参した包丁を手にする。 場面はからすと担当者に戻る。 「な。好みがバラバラ。大きすぎる鍋はちょっとな」 「仕方ないね」 彼らの動向を見やりつつ説明する担当者。からす、微動だにせず同意するのだった。 『新しい水着に加えて、ふしぎ兄とおそろいのエプロンを用意してきたのじゃ!』 そんなからすの目の前を、裸エプロン姿らしき格好の人妖がすいーっと飛んでいく。 「ひみつそんなに慌てたら危ないんだぞっ…って、ちゃんとエプロンの下は水着着てるんだからなっ!」 人妖を追い掛けて、エプロン姿の天河 ふしぎ(ia1037)もやって来た。前を飛んでいるのは彼の相棒、上級人妖の「天河 ひみつ」だったようで。 『もちろん、水着もふしぎ兄とおそろいなのじゃ!』 くる、と振り向いてひみつがエプロンの裾をちらりん☆。 下から紺色のスク水姿が現れたり。 「……」 ここでふしぎ、からすからの無言の視線に気付いた! 「はっ! ち、違うんだぞっ。色がお揃いなだけなんだからなっ!」 エプロンの裾をちらりん☆して自らの言葉が間違い出ないことを証明するふしぎ。 「とにかく調理しよう」 真っ赤になって通り過ぎるふしぎにそれ以上の関心は示さず木の実的な香辛料を砕き始めるからすだった。 「おっと、エプロン」 そうそう。 忘れちゃいけませんよ、からすさん。 ● 砂浜の調理場は賑やかである。 「私のカレシがアル=カマル出身なのよ。カレーについて聞いてきたし大丈夫♪」 ニーナ、まずはレシピを取り出す。 「カレーって家庭によって中身も味も違うんだって。だからあんまり難しく考えなくても大丈夫じゃない?」 天儀の肉じゃがやジルベリアの野菜スープね♪とかお気楽極楽。 『基本料理だからこそ深いものだと思うが』 「アリスは真面目ね〜。基本だからこそ初心者向き……だぁ〜いじょうぶ♪まぁ〜かせて♪」 横で野菜の皮をむく相棒のアリスに睨まれても気分は南国♪ 「野菜はゴロっとしてる方がお腹に溜まるわよね♪」と大きさも整わずごろごろすぎ……というか、でかすぎる野菜を鍋にぽいっ。そうかと思うと「辛さが美味しさの鍵って言ってたから〜♪ 唐辛子ぽいぽいぽいっ。ついでにスパイスぽいぽいぽいっ。いい香りにな〜れ♪」とか。 『……』 アリス、何も言わない。我慢している。 そして自分の切っていた野菜は別の鍋に分けるのだった。 『シチューと同じ感じだと聞いたのでぇ、具はお肉・玉葱・人参・じゃが芋でしょうかぁ?』 こちら、プラム。レシピを担当者から手に入れ張り切っている。この時、「プラムちゃん? コーヒーとかチョコを入れたら隠し味になるのよ?」という桜の言葉を思い出した。 『そうそう、隠し味ですぅ』 ぴぴん、と来て嬉しそうなプラム。 「そうだよねー。隠し味は大切♪」 あれ?と振り向くプラム。そこにはリィムナが。 「醤油に塩とかいいんだよ〜」 タマネギや生姜をじっくり煮込んでいたリィムナ。もらったレシピにないものを入れた! これを見てプラムも珈琲やチョコを適量投入。 『美味しくなぁれぇ♪』 にっこりプラムに、「今度はナンを焼くよ〜」とリィムナ。 実に楽しそうである。 その近くに、からす。 「牛乳も隠し味にいいよ。馬鈴薯は味が整ってからだね」 煮崩れしないよう、丁寧に作っていく。 おっと、鍋を離れたぞ。 今度は飯盒で米をといでいる。 そのころ透夜は真世と一緒に料理中。 「カレーは初めてだね」 透夜、料理ができなくはないがややたどたどしい。 「あん。それじゃ私が切ったげるね♪」 真世が肌をぴとってくっつけていちゃいちゃしてくる。普段の力量が出なくても仕方ないかもしれない。 『主よ、みじん切りなら我に任せよ』 反対側からはヴァイスが身を寄せる。 「これはちょっと……あ!」 透夜、助けを求め周りを見てからすに気付いた。 「からすさん、石を組んでみますから待ってください」 場を離れて二人で石を組んで飯盒をかける。 一方の真世。 『真世、ナンカ怪しいネ』 「え?!」 突然掛けられた声にぎくっとする真世。見ると、キャラメリゼがふよふよ寄って来ていた。 『真世、それ砂糖ネ。ちゃんと味を見て入れるアル』 早速、真世の持っていた容器を指摘する。 「えー。でもでも、お料理の基本は『さしすせそ』って」 『真世殿、それは間違いではないが……』 『真世、包丁持ったまま振り向かないヨ』 砂糖の容器と包丁を持った真世に、ヴァイスとキャラメリゼが左右から突っ込む。 『不味いカレーを作るのは至難アルが不味い料理は不幸せにするネ』 滔々と説得するキャラメリゼ。料理精霊らしく、自負がある。 「ああんー、沙耶香さん〜」 真世、ついに近くにいた沙耶香に泣きついた。 「まあ、砂糖も隠し味になりえますが……味見はしてくださいね〜」 『味見するもふ☆』 沙耶香、やわらかくダメ出しした。背後でキャラメリゼが『味見大事アル』とうんうん頷いている。 「ほへぇ。沙耶香さんの、何か違うね?」 ところが真世の方は興味が他に移った様子。 というのも、沙耶香は長茄や南瓜を切っていた。 「野菜は素揚げにして、ご飯と一緒に食べるという感じでしょうか〜? 」 『すーぷかりーもふ☆』 「ご飯にも色と香りをつけましょう〜」 『黄色いごはんもふ〜』 とかなんとか、てきぱきと料理をこなしている。 その時、皆の近くでッ! ● 「どんな材料もお任せなんだからなっ!」 天河ふしぎが包丁を掲げている。 「はっ!」 野菜を投げて自らも跳躍すると、空中ですぱすぱと斬った。 下には鍋があり、ぼとぼと落ちる。すたん、と着地するふしぎ。 『妾にもお任せなのじゃ!』 続いてひみつ。 が、そのぶーんとかいう機械音は何だ! 「……包丁、包丁使うんだぞっ」 ふしぎ、慌ててチェーンソーを持ち出しているひみつを止めたり。 「あ」 ここで真世たちに気付く。 「真世、カレーって、お砂糖入れて、どうしてあんなに辛いんだろうね?」 「ま、まだ私お砂糖入れてないもん!」 ふしぎに言われて慌てて否定する真世。 「そうですぅ!」 突然ぽむりと手を叩く音。 真世たちが振り返ると、虎尻尾をぴぴんと立てた獅緒が振り返っていた。 「焼いた魚介類を入れると美味しくなりそうな気がなんとなくするですぅ!」 カレー調理は初めてながら、料理は得意でそのカンが冴える! 「もちろん海鮮カレーは美味しいはずですよ〜」 沙耶香の声に目を輝かす獅緒。沙耶香の声を聞いて思わず相棒の獅土になんかしでかし喜ぶ。 「カレー自体はわからないですけど、せっかくですし海鮮風も作ってみるのですぅ」 だっと駆け出す獅子娘。揺れはしないが弾む水着姿。これぞ夏全開。 「それはいいね。行こう、真世」 透夜も取って返して真世の手を握る。 ちょうどその時、ニーナは言葉もなく立ち尽くしていた。 「…うわぁ…」 鍋から立ち上る香りは間違いなく深みがあるのだが、明らかに食用から程遠い……劇薬に近い刺激臭のする魔料理が煮えつつあった。 「…おかしいわね。美味しいものに美味しいものを足したら美味しくなるんじゃないの?」 『ニーナ。俺が何とかしてやるから』 ハーモニーってそういうものよね、と首を傾げるニーナ。見かねたアリスが言葉少なに調理補正に入る。 「あ。真世さんたちも行くみたいだし、お願いね♪」 ニーナもこうして後を追う。 「こっちも後は待つだけだよ。行こう、サジ太!」 リィムナも相棒の輝鷹「サジタリオ」を呼んで駆け出した。 「よーし。完成までもう少しかかるし、折角だからみんなも来るんだぞ!」 ふしぎが背中越しに振り返り皆を呼ぶ。 「あら。もうイイの? それじゃイクイク〜♪」 水を汲んできた桜も、桃を連れて夏の日差しの中思いっきり胸を弾ませ走り始める。 「からすちゃんも来なさいよ」 「……あとよろしく」 そんな桜に手を握られたからすも水際に連行されたり。からす、キャラメリゼに噴きこぼししないよう去り際に頼んでおく。 『腹が減っては戦ができぬ』 キャラメリゼ、言われずとも黙々と作業している。兵站は大切アルなどと、あくまで職人。 というわけで、鍋の番人もアリスやプラム、ヴァイスなど充実している。 「皆さん、喉からからで帰ってきそうですね〜。フルーツでも探しておきますか」 『フルーツジュースもふ〜☆』 沙耶香はこの様子に安心。もふ龍を伴って浜辺の森の方に行く。楽しそうにぴょんぴょんはねるもふ龍と、腰を振って歩く沙耶香の姿が遠くなる。 『とりあえず俺を鍋蓋の重石代わりに置くのは止めてくれないかな。暑い夏に更に熱い事されて一人我慢大会状態なんだぞ、と』 ちなみに、獅土は獅緒にぐつぐつ煮えるカレー鍋の上に載せられていたようで。 波打つ海の上に桜がシノビの技で普通に立っていた。 「それじゃ、あの岩まで競争ね♪」 指差し早駆で波間を分ける。 『わん!(はい!)』 もちろん桃も水蜘蛛で普通に海面に立っている。嬉しそうに一つ吠えると猛然と桜を追う。 「サジ太!」 リィムナも水蜘蛛で海上を走っていたが、上空の輝鷹を呼んだ。 すると高度を下げるサジタリオ。 そして、光る。 「桜さんたちに負けないよ!」 韋駄天脚で同化し速度アップ。 「あら、やるじゃない♪」 「もっと気持ちよく!」 桜に気付いてもらえると、今度はジャンプと同時に大空の翼で同化。空に羽ばたく。 「いい眺めだね♪」 すいーと空を飛ぶリィムナ。本当に気持ちよさそうだ。 一方、海上。 岩場近くにかすかなふくらみを包むタンクトップとビキニパンツ姿の少女が。 「魚籠はここに縛っておくのでいいね?」 「ありがとう、からすさん。それじゃ、海に潜ってエビやタコを探してみますか」 岩場のからすに手を振り、透夜が潜った。 「獅緒さん。相棒、あれでよかったの?」 「泳げないですから仕方ないのですぅ」 聞いた真世ににっこり答えて潜る獅緒。どぶんと潜る。 「次は海中に冒険なんだぞっ!」 『うむ、行ってくるのじゃ!』 ひみつに見送られ、ふしぎもどぶん。 「あ、待って。行こう、ニーナさん」 「捕獲は男に任せればいいのよ、真世さん」 真世、ニーナの手を握って、どぶん。ニーナも潜るが、こちらは景色を楽しみたい派。 そして見た。 岩場で蛸に銛を刺す透夜に、貝を集めるふしぎ。 (真世?) (何? ……あ、貝ね。持つ持つ〜) 手招きする透夜。真世は早速透夜とふしぎの手伝いを。 でもって、獅緒。 大きなイカと格闘しているッ! (あー……) これを見たニーナ、獅緒の様子に絶句するのだった。 ざぶん、と上がる透夜、ふしぎ、真世。 それぞれ、銛に刺したタコ、両手一杯のサザエ、そして同じくムール貝と獲物をからすに見せる。 「こちらも取って置いたよ」 からすも手近なところで貝を集めていたようで。 ――ざぶん。 「生きのいいイカさんが取れました……」 今度は獅緒が上がる。 銛には大きなイカが刺さっているが……。 「はぅ!?は、離れてくださいー!?」 「獅緒さん、これ……」 続いて上がったニーナが花柄のビキニトップを手にしていた。 なんと、獅緒は上半身素っ裸。 胸に何もない! ……一応、イカの触手が胸のトップに微妙に絡んでいるというか吸盤が以下略しているというか、とにかく大切なところは隠れていたが。 『イカは取れたが水着も取れた、ということなんだな…』 陸地を伝って主人が何かやらかしてないか見に来た獅土が、ぼそり。 「気持ちいいー!」 皆の背後の海では、飛んでいたリィムナが同化解除して海にダイブ。どぷーんと水しぶきを上げていた。 ● 「というわけで、海鮮カレーもできましたよ〜」 鍋からお玉で取り分け、沙耶香が皆を呼ぶ。 すっかり日は傾き、お腹も減ってきた頃だ。 「おおっ。エンゼル真世、ちゃんと任務遂行しているようでなによりであるっ」 ゴーゼットたちの偵察野郎A小隊も帰投していた。 「ゴーゼット、何かあった?」 早速ふしぎがカレーを持って横に。 「ヘッドゴーグルふしぎにレディ透夜も来てくれたか、ありがたい。しかしイカンな。ここに敵はいない。これではただの偵察ではないか。我々は威力偵察の……」 「巻き込みますか……」 派手にしゃべくりまくるゴーゼットは、透夜も見つけてこっち来いと強引に腕を引っ張る。まあ、真世もいるしとなすがままの透夜。 『主も苦労しているのだな……』 これを見たヴァイスは、人間社会の付き合いの多様さに感心していたり。 『犬さんにカレーは危険ですから、お肉を分けて貰いましたですぅ』 「あら、プラムちゃん偉いわね♪」 桜はプラムの優等生的な行動に感心し、桃にその肉を。 『わんっ!(ありがとうございます)』 と吠える桃だが、桜のサインはまだ「待て」。いいわよ、と声を掛けられて初めてがっつく。桜、満足そうにカレーをぱくり。 「カレーは飲み物! スープとしてどんどん飲んでね〜♪」 『フルーツジュースできたもふ〜』 リィムナは、自ら作った氷をもふ龍からもらったジュースに入れつつ、積極的に給仕。 この時、ニーナ。 「うん、美味しい♪ 今度、カレシに作ってあげようかなぁ、故郷の味……」 自分が作ったカレーの味に満足してぽわわん、と考え事中。 『……さぁな。でもニーナが作ったのなら喜んで食べるんじゃないか?』 おや。えらくアリスは含みのある言い方のようで。 ここでリィムナが、固く封印をするように隠してあるカレー鍋に気付いた。 「あっ。このカレーも食べちゃうよ。……あたしが食べる! 辛ーい♪ でもここまで辛いとたくさん水がいるねー」 『え?!』 アリス、振り返った。 実は、ニーナの作ってアリスが調整したものの、もう手の付けようのない廃品カレーである。食べたリィムナ、辛さに顔を赤めることも慌てることもない。もちろん、辛いのが好きなリィムナ以外が食べると大変なことになるので要注意。 ところで、リィムナに注がれる視線は他にもあった。 サジタリオである。 「な、何、サジ太? 大丈夫だよ。オネショなんてしないから」 言って初めて気付いて赤面し慌てるリィムナだったり。 その頃、真世。 「真世、お水だよ。……それと、真世と久々の海。その分だけ、一緒に楽しもう……後から、ね」 透夜から水を渡す時に口を寄せて、こっそり耳打ちされた。 「うん……」 夜の浜辺を二人きりでしっとり歩いてそのあとうふふ、などと想像して頷き赤面する真世。 そして、獅緒。 「初めて食べるカレー、美味しいですぅ。……辛いですけど、私の顔も赤くなってますでしょうかぁ?」 カレーの具のイカの足をもぎゅもぎゅしながら真世とリィムナを見てそんなことを思う。 「いや、あれは別だから」 からす、黙々と食べていたが獅緒の勘違いだけは突っ込んでおく。 『辛さが足りなかったアルカ?』 キャラメリゼが不安そうに主人を見上げた。 「いや。周りが甘いのだからこれくらいでいい」 からす、真世と透夜のほか、相棒と仲良くしている桜、ふしぎ、ニーナや獅緒、リィムナを見ながらしみじみ言う。 「キャラメリゼさん、ちょっと手伝ってください〜」 背後では、次々と帰投してくる探索隊のために調理を続けていた沙耶香が助っ人を求めていた。 |