幽霊屋敷とミラーシ座
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/08/09 17:36



■オープニング本文

 ここは神楽の都。
 希義風酒場「アウラ・パトリダ」の夜。
「『虎狼』ですか…」
 女性店員のセレーネが注文を確認した。
「はい。『虎狼』です」
 客の女性は明朗な発音で繰り返した。分かりました、とセレーネは下がる。
「相席、よろしいです? もしも何か悩みがあるなら聞かせていただけませんか?」
 入れ替わりに、店の吟遊詩人クジュト・ラブア(iz0230)がやって来た。
「市場豊さんからの伝言です」
 女性はこっそりと言って、クジュトに紙を渡してきた。市場豊は浪志組隊士で、縁あってクジュトの部下として動いている若者だ。
「失礼」
 受け取り読むと、「やはり」と声を漏らした。
「お待たせしました」
「あ、もういいんです。この人に悩みを聞いてもらってすっきりしました。お礼にこの人に召し上がっていただいてください」
 セレーネが梅酒と白ワインのカクテル「虎狼」を持ってきたところで、女性は辞した。そのまま店を出る。
「なんだったの?」
「いよいよ旅に出たほうがいい、という話ですよ」
 聞いたセレーネにやれやれと返すクジュト。今もらった紙をセレーネに渡し、酒をあおる。
「……ふぅん。クジュトさん、有名人なんですね」
 文面は、浪志組監察方としてや、荒事前の宴席に駆り出されるミラーシ座の動きをさまざまな情報屋に調べられている節がある、という豊からの報告だった。
「まあ、もともと隠密行動の専門家じゃないですしね。たまたま、座敷演劇の世界にいたから情報も入ってきやすかっただけで」
 さら、と自らの長い金髪に手櫛を通しながら返す。派手な色合いではないが、まあ目立つことは間違いなく。
「前から感じてましたが、しばらく神楽の都を離れるのも手ですね。そして死んだとでもデマを流しておきましょう」
 悪戯っぽくくすくす笑う。

 後日。
 神楽の都にある珈琲茶屋・南那亭の昼下がり。
「クジュトの旦那、おあつらえ向きの仕事がありましたぜ」
 もふら面を被った男が、面をずらして口元だけを出して珈琲を飲んだ後に切り出した。
「いつもすいませんね、もの字さん」
「しかし……これはヤバイ物件ですよ」
 すい、と紙をクジュトに差し出しながら心配そうにする。
「まあ、正直解決しなくてもいいんですよ。戦いの後に行方不明になれば」
 そういいながら受け取った紙に目を通す。

<町外れの幽霊屋敷>
 ある町の山手に、立派な屋敷があった。
 人は長く住んでいない。もともと、身分のある人物が一時の身を隠すために住まう屋敷だったから。
 そんな用途の屋敷も、年が経るにつれて人々からも忘れ去られるようになっていった。もともと、隠れ住むことが目的だったのだから、隠れ住む人がいなくなればなおさら。
 近年、珍しく隠れ住みたいという身分のある人がいたのでふもとの住民が確認に行ったところ、帰ってこない。
 これはおかしいとふもとの住民たちは十数人体制で確認に行ったところ、何者もいない屋内から不気味な「ちゅうにうけ、ちゅうにうけ…」という声が聞こえ、数人が混乱し、或いは気が狂ったように悶えた後即死するなどしたという。
 これはたまらん、と開拓者に頼んだものの、声はすれども幽霊の姿は見えず、弓で探る弓術師の指示を手掛かりにぶん回すサムライや志士の刀は空を斬るばかり。必中を期す陰陽師などの技も使いどころがなくやみくもに当るかもしれない技を散らすばかり。それでも幽霊の呪いの声は容赦なく開拓者を襲うため、仕方なく撤退したという始末。
 屋敷を焼くか、という論もある中、知恵者は「焼くと、いまはそこに留まる霊がどこにいくか知れん」と止める状況だという。

「……触らぬ神に祟りなし、とこちらでは言うんでしたっけ?」
 依頼書のような文面を読んだクジュトが顔を上げた。
「開拓者ギルドに正式に依頼したくても、身分のある人の隠れ家という性質上、表立って依頼もできずということらしいです。これの調査に出向いて、解決するしないはともかく、行方不明になるには丁度いい物件ですよ」
 表沙汰にはしたくない案件ですし、ともふら面の男。
「そうですね。解決して、私だけ行方不明になったという形にしましょうか」
「その『解決にして』ですが……もしかしたら敵は透明であるばかりか武器攻撃無効かもしれませんぜ?」
 もふら面の男、文面を指差して言う。
「撤退を視野に入れて行きますよ。今回はあくまで、現地に行って戦って無事に帰ってくることが目的ですからね」
「……行方不明になるために無事に帰ってくる、ですか」
 さわやかに言うクジュトに呆れるもふら面の男。
「さぁて。それじゃ、ミラーシ座の地方巡業で出会った事件という線を装っていきましょうか」
 うーん、と伸びをするクジュトだった。

 そんなこんなで、幽霊退治をしてくれる人、求ム。


■参加者一覧
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
ニーナ・サヴィン(ib0168
19歳・女・吟
リスティア・サヴィン(ib0242
22歳・女・吟
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
不散紅葉(ic1215
14歳・女・志


■リプレイ本文


 件の町で、クジュト・ラブア(iz0230)が顔役達に到着の挨拶をしていた。
 その後ろの方で。
「ゆ」
 ニーナ・サヴィン(ib0168)が横にいるリスティア・サヴィン(ib0242)(以下、ティア)の後ろに隠れた。
「ゆゆゆゆゆゆゆゆユーレイ屋敷ですって…?」
「……なにを聞いてきたのよ、ニーナは」
 ティア、呆れる。
「だってクゥ…クジュトさんが……」
「クジュトさんの失踪偽装……だね。および、敵の排除」
 真っ赤になっていじいじしているニーナの横で、からくり開拓者の不散紅葉(ic1215)がこく、と頷いていた。
「その敵というのが幽霊なのですが」
 後ろに控えていた宿奈 芳純(ia9695)が前に出てさらりと補足。
「ぐす……」
「ちょっと強調することないでしょーっ!」
 涙目のニーナを気遣い芳純に突っ込むティア。
「しかし情報は正確なほうが……」
 芳純の言う通り。
「まあまあ。壁があると乗り越えたいのが男だよなぁ」
「私男じゃないわよ!」
 場を和ませようとのんびり言った笹倉 靖(ib6125)だが脅威の速度で突っ込むニーナ。
 ここでクジュトの会話が聞こえてきた。
「ええ、私たちは旅の一座です。みな舞妓ですね」
 どうやら全員その立場で通すようだ。
「おいおい、俺らも舞妓扱いかい」
 靖、隣に立つケイウス=アルカーム(ib7387)の肩に肘を乗せて呆れた。
「そういやクジュト、そういう顔もあったねぇ……」
  遠い目をするケイウス。いったん雲隠れするという話も納得している。以前クジュトに変装した時、若い娘達にもみくちゃにされので、なおさら。
「舞妓……」
 靖の言葉を聞いて紅葉が考え込んでいる。
「あぁ、紅葉ならぴったりだな」
「舞う……の?」
 軽く言う靖に、ゆっくりと聞き返す紅葉。
「あー、気にしなくていいわ。クジュトは結構いい加減だから。それより……ほぉら、ニーナ。行くわよ」
 ティア、後ろに隠れるニーナの首根っこを引っ張る。
「行かない」
 ぐずるニーナ。
「貴女開拓者でしょ? なに幽霊なんて怖がってるのよ」
「行かないわよ私は。クジュトさんの事なんか知った事じゃないんだからー!」
 とか言ったところで、「もう、せっかくクジュトと一緒にいられるチャンスじゃないの」とかこそこそ言うティアと騒ぎに気付いて振り向くクジュトの視線に気付いた。
「ところで、敵の正体は結局何なんだ?」
 横では、やれやれと靖が話を変えてやる。
「敵はもちろん、アヤカシですよ」
 それと分かって芳純も正確なところを口にする。
「…ぐ。わ、分かったわよぉ」
 これでニーナの態度が幾分変わった。
「ユーレイのしょーたい見たり枯れ尾花ーっ! クジュトさんなんか嫌いよーっ!」
 どか〜んともやもやするものをふっ飛ばす。前の方ではとクジュトが固まっていたが。
「あ。これが例の場所の間取りですか……助かります」
 芳純はこの隙にちゃっかりと件の幽霊屋敷の簡単な見取り図をもらっていた。
「舞う」
 紅葉はといえば、うん、と小さな顎を引いている。
「まあ、退治した後じゃないかな」
 そんな紅葉に念のためと声を掛けるケイウスだった。



 案内された山間の幽霊屋敷は立派だった。
「うわぁ……」
 思わず息をつくニーナ。
 白壁に囲まれ、屋敷も大きい。が、やはり幽霊屋敷とあって庭の手入れは滞っているようだ。佇まいは静かだが、庭では蝉が鳴いている。
「幽霊屋敷……こういうのをいうの、かな? どろどろって、しそう」
「屋敷も可哀想ですね」
 紅葉が門を抜けつつ呟くと、芳純は周りを見て荒れ具合に寂しそうにする。
「とっとと退治して庭師をたくさん入れて、ぱーっとやっちゃいたいわね」
「ん?」
 わーっとティアが手を広げたところで、クジュトが気付いて振り向いた。
 一同が門をくぐる中、ニーナが足を止めている。
「まったくもー。ほら、クジュトも手伝って」
「だって〜」
 ティアがクジュトを従いニーナを引きずる。
 そんな中、ケイウスも止まっていた。
「幽霊屋敷…い、いや幽霊とは言ってもアヤカシだ、大丈夫…!」
「へぇ…」
 呼吸を整えていたケイウスの顔を意地悪そうに靖が覗き込む。
「べ、別に……」
「お前、怖いからっていざって時に引っ付くなよ。動けなくなっから」
 ふいと顔を背けたケイウス。靖がニヤニヤとケイウスに背を向け前を向いた時だったッ!
「あっ」
 突然、芳純が声を上げた。
「跳ね上げ戸から人魂の小鳥を忍びこませたのですが……」
 芳純、仲間に振り返って間を置いた。眉を潜めている。
「な、なにがあったのよ?」
 びくぅ、と怯えるニーナを庇うようにしてティアが聞く。横では靖にわしっと服を掴まれたケイウスが「絞まってる、しまってるって…! な、何するのさっ!」とか。靖の方は「あ、ワリ……つい」と、あんまり悪びれた様子もないが。
「……何も見えなかったのですが、攻撃を受けて消えました」
 攻撃手段は不明、と芳純。
「お〜…幽霊……」
「紅葉は感心してないの。で、どうする?」
 ティア、仲間を振り返る。
「人魂でそれなら仕方ねーなぁ」
 靖が扇「精霊」をぽんぽん弄びながら前に出ると、瞳を閉じて集中。障索結界で内部を探る。
「……一体、だな。真ん中辺りにいるか?」
「確か声はすれども姿は見えないんだったかな」
 呟く靖。近くに寄るケイウス。
「そんな声なんか聞きたくないわ。『対滅の共鳴』でかき消すわね?」
 むー、とニーナが妙なやる気を見せる。
「待って、ニーナ。あたしやケイウスが奏でてからにして。クジュトは戦った痕跡を残したいんでしょう?」
 てきぱき指示するティア。
「本気で退治する場合、屋敷内部は荒れますのでいくらでも周囲に戦っていると伝わりそうな気がします」
「芳純さんの言う通りですかね。それに本命の攻撃は紅葉さんがいますし」
 芳純の指摘。クジュトは紅葉を見る。
「連携、たいせつ…」
「ティアさんは混乱対策? じゃあ俺は合わせようかな」
 こくこくと頷く紅葉。刀「長曽禰虎徹」の柄に手を掛けている。ケイウスは愛用の詩聖の竪琴を構え直している。
「じゃあ雨戸、開けるぜ?」
 靖が縁側のぐるりを閉じている雨戸に手をかけ開けた瞬間――。



『ちゅうにうけ……』
 呪いの言葉が陽光も差さない和室の奥から響いてきた。襖はすべて開き、奥の間まで続きになっているが薄暗くて何がいるのかも見えない。
 いや、奥の奥で何か白い布のような、人型のものがひらめいたか?
「ぎゃあああああ!! 出たー!!」
「ひくっ……」
 ニーナの叫びが響く。密かに紅葉は真顔のまま突然しゃっくりをした。
「ちょっと、みんな落ち着いて!」
 ティア、ハープ「グレイス」ですかさずスローテンポの曲を奏で自分の落ち着きを全員に分ける。これが吟遊詩人の『天使の影絵踏み』。味方全員の抵抗が跳ね上がる。
「ニーナ!」
「紅葉っ…」
 ほぼ同時にクジュトがニーナを、靖が紅葉に解呪の法で自由にしてやる。
「あれはただ掛けてある着物が揺れただけですね」
 芳純はすかさず人魂で小鳥を出し、近寄って見た情報を伝えた。敵の姿は目視できない。
「次、来るかも……」
 ケイウスは状況を見ていた分遅れたが、静かなメロディから入り途中で転調する曲を奏でた。ケイウス自身は金色に輝いている。
「はっ……。次はないんだからっ! あんたの声なんか聞こえないんだからーっ!」
 ニーナ、急いでクーナハープから奇妙な音を出し、心からの叫び声を上げた。
 瞬間!
 部屋の中の、すべての音が――いや、庭の蝉の鳴き声すら、届かなくなった。
 これが吟遊詩人の『対滅の共鳴』。
 それよりなにより、敵の奇襲で総崩れして後手を踏んでも味方に動きをもたらせることができる『永遠の最終楽章』。ケイウスの奏した吟遊詩人の技術の、何と驚異的なことよ。
(こっち?)
 紅葉も立ち直っている。
 靖が見ている右手側を指差し、かくりと首を傾げた。
(くっ…)
 靖、頭を押さえながら頷いた。呪声を直接脳内に食らっているらしい。
 こくと頷き突っ込む紅葉。クジュトも続いている。
――しゅぱっ……。
 紅葉、おそらく敵のいる場所に抜いた刀を振り切りった。
 片膝をついて伸ばした腕。切っ先は空を切っているようには見えるが、当ったかどうかはまったく分からない。クジュトの方は、紅葉の一撃を敵が避けた場合に動いてくるであろう空間に突きを入れている。
 この時。
「さ、せっかくの舞台ね。よりによってあたし達に音で対抗したこと、間違ってるって思い知らせてあげるわ!」
 音のない空間で、ティアが得意そうに声を上げた。ニーナの空間よりもしっかりした精神力でビロードのような美しい音色を奏でた。
「よし、合わせるよ!」
 ケイウスも同じく、高い精神力で即興の演奏。ティアの『天鵞絨の逢引』に『幻想交響楽団』を合わせた。
 これで、味方全員の知覚力も格段に跳ね上がった。
「あぁ? 今敵突然動かなかったか? どうなってんだ」
 これで靖の声も通るようになった。今度は左を向いている。敵は一瞬で右から左だ。
「こっち通ったの? こっち来ないでーっ!」
「だから一瞬だって」
 うええん、と泣き声を上げるニーナに瞬間移動だったことを伝える靖。振り返ってニーナが実際には泣いてないことを知る。
「いったん敵の攻撃を止めます」
 芳純が先に靖の見据えていた左方向に結界呪符「黒」を立てた。これで一瞬、順次味方を襲っていた呪声が途絶えた。『ちゅうにうけ』の言葉も聞こえない。ニーナの対滅の共鳴がまだ効いている。
「次はこんな曲なんかどおっ!」
 音霊のいるらしい方面に黒い壁ができて、ニーナが立ち直った。怒りも露わにハイテンションの曲を奏でる。乱戦誘発の『黒猫白猫』だ。
「今度はこっち…だね」
「紅葉さんと右から回ります!」
 戻ってきた紅葉とクジュト、壁の右を回って急ぐ。
「まだいるのか?」
「だな。死体もあるから気をつけろ」
 ケイウスがつん、と靖の服をつついて聞く。靖、白霊弾を放ちながら足元の悪さを指摘する。それまでの被害者が打ち捨てられたままなのだ。
「だったら…」
 ケイウス、静かに激しく『魂よ原初に還れ』を奏でた。
「確かに今までの犠牲者がアヤカシ化してるかもね」
 ティアも気付いた。わざとずらして熱く激しく『魂よ原初に還れ』。
 荒らぶる精霊を鎮める激しい曲が二曲続いたが、この場面では効果がないようではある。
「舞い散る氷の破片で敵が見えればいいのですが」
 芳純は壁に対し左へ。紅葉たちの支援も含め、白銀の龍のような式を召還しブレス一直線。
 周りに氷の粉を撒き散らしたが、敵の輪郭は出てこない。当ったかどうかも不明。
「前進してるぜ?」
 靖の指摘。
「このあたり?」
 クジュト、あてずっぽうで刀を大振りした。
「ちがう……こっち」
 今度はクジュトの後ろから紅葉が出てきた。
 振るった虎徹の刃にかすかな梅の香りと白く澄んだ気。
「見えてます?」
「心眼で……一瞬だけ…」
 クジュトの咄嗟の問いに答え、紅葉が無表情のまま振り切った!
 梅の香りが消え、外の蝉時雨が聞こえ始めた。
 ニーナの『対滅の共鳴』の効果が切れたのだ。
 やれやれ、と靖が立ち上がる。
「もう、いないぜ」
 靖の言葉に緊張を解き、ケイウスも立ち上がる。その横ではニーナが部屋に転がっている今までの被害者の死体に気付きびくっとし、ティアがなだめている。周りを調べていた芳純は壁にかけられた人形に気付き手を伸ばしていた。
「賑やかなのは好き……でも、うるさいのは、駄目」
 紅葉、片膝を付いて振り抜いた姿勢から戻り呟いた。
 もう音霊はいない。紅葉の最後の一撃の前にも、結構攻撃が当っていたらしい。
「だから、静かに…」
 ぱちん、と虎徹を鞘に戻す。
 外の蝉の声は、耳に心地良い。



 ふもとの町に帰って。
「退治……したのか?」
 顔役たちは喜びと驚きが入り混じり、目を見開いていた。
「幽霊じゃないぜ?」
 靖がぱんと一つ自分の脚を叩いてみせる。
「前に開拓者に頼んだ時は武器を持った者が多かったが……さすがじゃ」
 今回はミラーシ座で来ただけあって楽器や扇、呪術人形を持っている者ばかり。驚いたのはそのせいもあったようで。
「ん?」
 ここで町の顔役の1人が気付いた。
「あの……残りの者は?」
「そう…いえば」
 紅葉、仲間を見る。
「激しい戦いでしたからね」
 静かに芳純。
「戦闘後、行方が分からないんだ」
「クジュトは錯乱した様子で叫び声を上げてどこかに行ったな、そーいや」
 痛ましそうにいうケイウス。靖は頭の後ろに両手を組んでぼそり。


 時は戦闘直後に遡る。
「じゃあ、私はしばらく神楽の都に戻りませんので」
 クジュトがそう言って背を向け別れを告げた。
 と、同時に。


明けない夜はない、やまない雨はない
朝が来たならまたおはよう
雨が止んだら帰ってきなさい
一人で充分? なら皆でまてばそれ以上よね?


 ティアが即興で歌をうたっていた。
 振り向くクジュト。
 ティアは横にいるニーナの背中をぽんと押した。
「しばらく待ってるから行ってらっしゃい」
「ティア義姉さん……」
 ニーナ、ウインクするティアに振り向きつつ、押されるままクジュトに方に。
 これを見てほかの仲間は町に下りる。
 ティアは、その場でハープを奏でながら待っている。

「クゥ?」
「ニーナ…」
 ニーナ、クジュトの前に立ち名を呼ぶと吹っ切れた。くい、とクジュトの長い耳を引っ張り口を寄せる。
「…何処に行くにしてもちゃんと教えてよね? 勝手に何処かに行っちゃうのは私の専売特許よ?」
 クジュト、微笑している。
「なんか前にもこんな事したわね? ほんっと、つくづく身を隠すのが好きねぇ」
 ニーナもくす、と微笑した。
 その後、重箱弁当とお守り代わりのマント止めを渡してティアのところに戻った。


 時は戻る。
「あ……」
「来ましたね」
 靖がすっとぼけた時、紅葉と芳純が振り返った。ティアとニーナが追ってきたのだ。
「座長さんは?」
「クジュトは……」
 ほっとした町の顔役らにさらに聞かれ、ケイウスは少し困ったような声を出した。
 これで気付いた。
「大変でしたね。ゆっくりしていってください」
 明らかに顔役たちの口調が変わった。もともと、「訳あり」の人が屋敷に隠れていたのだ。そうとわかれば詮索はしない。
 それはそれとして。
「『ちゅうにうけ』って何だったのかしら?」
 ニーナの素朴な疑問。
「屋敷にこんな人形が吊るされてましたね」
 芳純が屋敷で見つけた首根っこを紐でつっている小さな人形を出した。
「ああ……首吊りかな」
 ケイウス、靖に服を引っ張られた時に首が絞り苦しかったことを思い出していた。

 どうやら屋敷に隠れていた一人の貴婦人が手慰みに多くの人形を作って吊るしていたことがあったらしい。
 のちに、戻された。
 殺されるために。
 もしかしたら貴婦人の無念が舞い戻り、人を吊るそうとしていたのかもしれない。もう作ることができない人形の代わりに。