【泰猫】モテモテ山賊砦
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/17 18:04



■オープニング本文

「ねえ、見た見た?」
「うん。あの人たちが山賊砦の悪い山賊をやっつけたんですってね」
「カッコイイわぁ。やっぱり、戦う男は顔つきも違うわよね〜」
 武天の田舎村で、年頃の娘達が民家の影に隠れてはきゃいきゃいはしゃいでいた。
 その熱い眼差しの先には、この村の村長と泰猫隊の長・瑞鵬(ズイホウ)たちが歩いている。瑞鵬、開拓者たちと一緒に命を懸けて山賊砦攻略戦をやり遂げた自信と誇りからか、明らかに顔つきが変わり精悍なものになっていた。女たちが遠巻きにきゅんきゅん盛り上がるのも無理はない。異国情緒あふれる泰国の衣装なのも、新鮮に映っているようだ。
「祖国を捨てて、困っているこの村のために戦いに来たんですって」
「まあ。故郷の家族や恋人と離れて、こんな田舎村のために!」
「男だわ〜」
 ‥‥若干、美化されているがまあ世の中そんなものだったりする。
「何でも、攻め落とした山賊砦で旅人の疲れを癒す宿を始めるらしいのよ」
「あ。それ聞いた。『山賊砦』って名前でしょ。‥‥名前はちょっと怖いけど、山賊のような気ままで肩肘張らない、身分の分け隔てないざっくばらんとした雰囲気を味わってもらうんだって」
「面白そうだなぁ。そこなら楽しく働けて、繁盛したら家も楽になるだろうなぁ」
「あんなカッコイイ人で、もしも優しかったらお嫁に行ってもいいかもね」
「そうしたら私、毎日張り切っちゃうわ」
 ‥‥どこの国でも、年頃の娘ってえのは想像力のたくましいもので。

 一方、瑞鵬と歩くこの村の村長と顔役たち。
「お主たちが、この村にも襲ってくるのでは思われた山賊たちを倒したのは、認める。‥‥この村におった、山賊どもの内通者と思われる人物もすでに姿を消したあと。その功績には感謝しても言葉は足りんくらいじゃが‥‥」
「君を悪く言うわけではないが、荒くれ者は荒くれ者を呼ぶとも言う。正直、君たちが山賊砦に残ることを良くは思わん」
「だが、彼はあの山賊砦を『通常時は宿にしつつ周囲を警備し、街道の両端にある村に何かあれば即座に駆け付ける』と言ってくれておる。村の用心棒として心強いじゃないか」
「なに、今まで村に泊めておった商人どもに泊まってもらいたいから、自分たちに良い様に言ってるだけじゃないか」
「待て。その件についちゃあ、我が村とあっちの村での懸案でもあったろう。中間をとることで、ほころんだ関係の修復に役立つかも知れん」
「ここの数年、稲の出来も悪く何かしなくちゃならんと思ってたときだし‥‥」
 好き放題議論を交わす顔役たち。瑞鵬はひどく言われても我慢してじっと聞いていた。
 ただしこれは、顔役たちに『無骨だが好青年』との印象を与える事となる。
 と、ここで村長が意を決したように顔を上げた。
「分かった。東の村がお前さんたちを認めれば、こちらも認めて一緒に『新たな名物街道』として盛り上げることに協力する」
「ありがとうございます」
 深々と頭を下げ感謝する瑞鵬だった。
 そして、東の村でも説得に成功。『山賊砦が守る義賊街道』として盛り上げて行く事に決した。

 後日、西の村近くの草原にて。
「じゃあ、改めて戦勝会をして、東と西の両村の友好記念を兼ねた義賊街道誕生の祝賀会をしないとな」
 林青商会代表の林青はそう言って飛空船「万年青(おもと)丸」に乗り込もうとする。
「両村の顔役と、来てもらえる人すべてを招くといい。開拓者たちも呼ぶから、のんびりしてもらったり盛り上げてもらったりするがいい」
「なあ、泰猫飯店のおやっさんにも来てもらえねぇかなぁ」
 瑞鵬は期待を込めて聞いてみた。
「‥‥今回は、鈍猫の旦那はいない方がいい。泰国料理を、と思ったが両村と一緒にやっていくなら、まずは地元の料理でやっていくのがいいだろう。鈍猫に礼を言いたきゃ、嫁でももらって本当に落ち着いてからにするんだな」
 そうして、開拓者ギルドに募集が張り出されるのだった。
 ちなみに祝賀会には、両村から年頃や若い娘がたくさんやってきます。理由は、不作続きで働き口を欲しているためです。が、良い男を見付けにくるとかいう人も多いようで。そりゃもう、泰猫隊の男たち以上の人数なので、ナンパしてもまったく大勢に問題ないくらい。
 いろいろ楽しめるに違いない。


■参加者一覧
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
和奏(ia8807
17歳・男・志
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
来島剛禅(ib0128
32歳・男・魔
ブローディア・F・H(ib0334
26歳・女・魔
十野間 月与(ib0343
22歳・女・サ
燕 一華(ib0718
16歳・男・志
ミヤト(ib1326
29歳・男・騎
アルトローゼ(ib2901
15歳・女・シ


■リプレイ本文


 森の木々や葉を透かし、強い日差しが落ちる。
 樹木の幹には、折れた矢が立っている。
 木々に囲まれた広場には、走って蹴り上げた足跡が残っている。矢の刺さった跡も、消えてない。
 走った足跡の先には、丸太でぐるりと囲ってある砦。
 両開きの門扉は、何かを激しくぶつけた跡が残る。
「懐かしいね」
 呟き目を細めたのは、ラシュディア(ib0112)だ。短い金髪が風に吹かれてなびいている。
「命を懸けて戦った後は、御近所付き合いか。彼等も苦労が絶えぬな」
 隣で苦笑するのは、皇りょう(ia1673)。「だが、それが世間で生きるという事なのだろう」と瞳を伏せ微笑する。
「そうですね。戦いはまだこれからです」
 クリスの呼び名で通る来島剛禅(ib0128)が、面を引き締めた。
 そう。
 ここは、山賊砦。
 悪い山賊を開拓者とともに蹴散らせた泰猫隊の新たなふるさと。つい先日、ここで一緒に戦ったラシュディアとりょう、クリスも感慨にふける。
 が、それはひとときのこと。クリスの言うように、新たな戦いが待っている。
 宿として、生き残っていく戦いが。
 ここは、山賊砦。
 旅人が安心して宿泊できる、義賊の守るにぎやかな砦――。


「クリスさん、ラシュディアさん、皇さん、今日はそんなつもりじゃなかったのに」
 到着した開拓者を迎えた瑞鵬がいきなり慌てている。彼としては客として呼んだつもりでのんびりしてもらうつもりだったのだが、開拓者たちはそんな気はまったくないようで。
「以前も思いましたが、やはり林道整備は必要ですね。‥‥人夫の経験があるとのことでしたね。歩きやすくしましょう」
 早速、クリスの指示が飛んでいた。
「私に具体案があるから」
 ブローディア・F・H(ib0334)が動いた。
「坂道にはロープを。所々に、休憩のできる場所も必要だよね」
「わ、分かった。おい、何人か頼む」
 瑞鵬は数人、彼女の指揮下に入るよう指示した。
「近くに川もありますし、一緒に釣りをしませんかっ?」
 三度笠をくいっと上げてにこやか元気に言うのは、燕一華(ib0718)。
「狩りも良いが、畑はしないのであろうか?」
 横からりょうが提案する。
「なあ、瑞鵬。何組かに分かれたほうがいいんじゃねぇか?」
 泰猫隊からはそんな声が挙がっている。
「ふむ、事情は大体分かった。よくやったようだな。‥‥だが、あくまでそれは通過点に過ぎん。これからの行動次第で、いつでも信用は失う事を肝に銘じておけよ」
 別の場所では、泰猫隊を集めて巴渓(ia1334)が気合を入れていた。孤高を好み自己鍛錬を怠らないような女性だ。自らを変えようと戦い抜き、また新たな困難に立ち向かおうとする青年たちに好感を覚えたらしい。厳しい口調ではあるが、これが彼女の好意だ。
「泰猫隊の皆さんのやりたいことと得意なことをまずは聞きたいですね」
 そして瑞鵬に聞く、和奏(ia8807)。好奇と善意の塊らしい、なんとも世俗離れしたような表情だ。
「ち、ちょっと待ってくれ。俺にこんないっぺんに言われても‥‥」
 悲鳴を上げる瑞鵬。まったくどうしていいか分からなくなってきている。泰猫隊に右腕となる人材がいない証左でもある。
 と、この時。
 さらに状況が悪化する事態が発生したッ!


「こんにちは〜」
「男手ばかりと聞いて、手伝いに来ました〜」
「ここの山賊を退治してくれたんですもの。今度は私たちがお役に立たないとね☆」
 何と、両村の娘たちが大挙して押し寄せてきたのだ。
「い、いや。今日は俺たちが村の顔役を招いて親睦を‥‥」
「戦勝会も兼ねてるって聞きました。村長さんも、手伝って来いって」
 かしましい娘たちに押されつつも何とか口を開いた瑞鵬だが、彼女たちに聞く気はない。
「きゃ〜。女の人なのにすごく強そう〜」
「隣の人は女性なのに背が高いわぁ」
「きっと開拓者さんだね」
「‥‥なんだよ、これは。あっちこっちから妙な熱視線がよぉ」
 渓は困ったような顔をして砦の手伝いに紛れようとする。
「そうですね。宿に改装するのですから、手伝うことは多いはずです」
 彼女の隣にいた背の高い明王院月与(ib0343)も、同じく紛れようとする。「大切な商品と金子を抱えて長旅で疲れた商人達にとって、宿はゆっくりと安らげる数少ない場所だから」などと言いながら、寝具に力を入れる。
「香りの良い植物を入れ枕元に置くと良いでしょう」
 香り袋も作ったり。早速、「きゃああ、私にも教えてください」と村の娘にむぎゅと抱きつかれ相手をする羽目になる。
 ちなみに、のんびりしている開拓者も。
「宴会に招かれた上、多少報酬も出るか。良い仕事だ」
 赤い瞳の少女、アルトローゼ(ib2901)である。
「ふうん。皆が楽しめるようなおやどにしたいなぁ」
 その隣でおっとり言うのは、ミヤト(ib1326)だ。童顔でワンピースだが、男性だ。
「こんにちは。開拓者さんですよね」
 そこへ、きゃいきゃい娘たちが寄ってきた。
「こんにちは〜」
「はんっ。親睦活動の手伝い? 知らないな、私はそんなこと」
 ミヤトはにこやかにあいさつを返し、アルトローゼは尖ってみせた。
「へええ、可愛い〜。こんな服、私も着てみたいなぁ」
「あはは。それより、泰猫隊の皆さんと宿で売る土産物について相談しましょう」
 きゃいきゃいとワンピの裾を引かれたりとモテモテなミヤト。ともかく、「ぷろぽおずにぴったり、『特製湯呑』。これであのお方もあの娘も落城寸前」などといった品物を考えていたようだ。‥‥後に、あのような悲劇に見舞われるとも思いもしないで。
「まあ、宴会まで待っているのも退屈だ。ひとつ、手の空いている者でも鍛えてみるか」
 一方、残されたアルトローゼはきょろきょろと。
「きゃああ、そうですよね。やっぱり開拓者といったら戦闘ですよね」
 などと残っていた娘たちは途端に盛り上がり始める。
「お。おまえたち、稽古組か。よし、実戦訓練をやるぞ」
 木刀を持った泰猫隊数人を見つけて稽古に誘う。‥‥泰猫隊の面々はここを落として以来、実直で真面目になっている。開拓者から稽古をつけてもらえると素直に喜んだ。この後、地獄を見ることになるとも知らずに。
「くくく‥‥。そらどうした青年、一矢くらい報いて見せろ」
 笑いながら挑発し、回避回避で避けながら相手をとにかく打ち込ませる。そのくせ自分からは決定的に打ち込まない。永遠に終わらない稽古地獄である。


「ほお。これが山賊砦か」
 やがて、両村の村長や顔役がやってきた。若い娘もさらに増えたが。
「だって、お手伝いしろっていわれたんだモン☆」
 とかなんとか。
 結局、焚き火で焼いた鶏肉「山賊焼き」やとにかく大きな「山賊むすび」は、お披露目として最初に供するだけとなった。
「それでいいのです」
 厨房を村の娘に占領され、「あなたたちは主役だから」と酒宴の席に追い払われる泰猫隊の面々に、クリスがこっそり言う。
「忘れてはいけませんよ。『選別、仕込み、焼き上げ』と分担することで早い段階に玄人なみの経験が身に付き、さらに1つ1つの作業が簡単にできます」
 クリスが口を酸っぱくして言う。
「ついでに同業者から技を盗まれ難くなるのも大きな点です」
「え?」
 この言葉には、酒宴の席に移動する青年たちは足を止めて驚いた。
「それだけ筋がいいということです。また、こういったことも戦いです」
 続けるクリス。泰猫隊はこの言葉で、「おい。この宿、本当にイケるんじゃねぇか」と志気が上がりまくった。
「ま、大雑把だがな」
「名前はあれだが、これはこれで野趣溢れる感じだ」
 渓が指を舐めているのは、試食したから。その横のりょうは、畑仕事で試食はしていない。今、手を上げて口元を気にしたのはよだれが出てないか確認したため。‥‥どうやら醜態はさらしていないようだ。醜態といえば、今回は酒は飲まないと固く決意しているようで。
「準備が大変でも、風呂は整備した方が良いよ」
 別の方からは、月与が青年たちを引き連れやって来た。
「や。遅いよ」
 宴会場となる、山賊砦前の広場ではブローディアが待ちかねていた。日は沈み、空には一番星が輝いている。
「料理も手伝わずに準備したんだ。派手に行くよ」
 そう言って、長い赤髪を派手に振り乱してから、必殺のエルファイヤー。
 狙いは、あらかじめ井形に組みながら煙突状に重ねていった丸太の塔だ。
 ごうっ、と火柱が上がる。
 魔法の火はそのまま丸太に移り燃え始めた。
「ほおお」
 すでに丸太の塔を囲むように座っていた村の顔役たちは、幻想的な演出に感心していた。
「ではあたらためて、山賊の脅威が取り払われたこと。東の村と西の村、そして山賊砦が手を取り合って発展していくことを誓い――」
 一人立つ瑞鳳の声が響く。
 なみなみと酒が注がれた猪口を持ち、村の顔役たちが、泰猫隊の青年たちが、そして、開拓者が立ち上がった。
「乾杯!」
「乾杯!」
 全員が唱和し、これからの友好と協力を約す杯を干した。
 夜の帳が下りようとする森の中、揺らめく炎が明かりとなっている。
 輪になった人々はみな、一つの大きな火で面を赤くしていた。――そう、皆が一つの明かりを見ているのだ。それは、思いとも、未来とも、願いとも言えるかもしれない。
「ここは義賊の守る山賊砦。自由気ままな山賊の気分で、盛り上がろう」
「おおっ」
 瑞鳳の号令で改めて声がひとつになる。あとは、存分に食って飲んで楽しむだけだ。
「変わった名前ですねぇ」
「あーっ。とぼけても駄目ですよ。しっかり飲んでください〜」
 ぼんやり呟いた和奏に、きゃいきゃい娘たちが酌をしてくる。
「あ、瑞鳳さん。いいところに」
 和奏、格好の身代わりを見つけると泰猫隊の長を持ち上げ始めた。娘たちの意識は見事、そっちに流れた。
「ちょっと」
 ひと段落したと見ると和奏、瑞鳳に耳を貸すよう袖を引っ張った。
「村では男手が不足しているようなので、力仕事を手伝ったらどうでしょう。でも、あれもこれもと場当たり的に手を出すよりは、話し合って少しずつやっていくと良さそうです」
 そっと、耳打ちする。
「あああ〜、怪しい。ひそひそ話しなんて」
 瑞鳳には喜ばれたようだが、娘たちには格好の槍玉となったようで。和奏の着崩した肩から服をつかまれ、上着を脱がされたりぴとっとくっつかれ甘えられたり。
「これがもしかして、モテモテというものでしょうか」
 はい。そうですよ、和奏さん。
「くくく、愛いやつよのぅ」
「ああ、そんな。私、困ってしまいますわ」
 別の場所では、酌の供に初心そうな娘一人に目をつけたアルトローゼが、肩を抱き寄せ娘にも酌をしてとたっぷり楽しんでいる。こういうこともしましょうよう、和奏さん。っていうか、アルトローゼさん、若いのにえらく遊びなれてますが。しかも同性で。
「きゃ〜。男性なのに可愛い〜」
 そんな声のするところにいるのは、ミヤト。
「この服ゆずってください」
「ぜひ私に」
「いいえ、私よ」
 どうやら彼の着ている可愛らしいワンピースが標的であるらしい。もう、裾を引っ張られ袖を手繰られともみくちゃ状態。本人は飲んでいるので、ぐわんぐわんと揺すられすでにいい気分。「僕はね、皆が楽しめるようなおやどにィ‥‥」などと口走っては誰彼かまわず肩を寄せて甘えようとする。
「ええ、そうですね。ミヤトさん」
 って、甘えた先は月与さんですか。彼女は彼女で凛々しい洋装。艶やかで母性にあふれるが、なんとも背徳的な雰囲気が漂う。
「私はこの小さいのが美味しかったです!」
「私は大きいのも良かったです!」
「お、おお? そうか」
 口の端に米粒つけた娘たちにずずいと迫られているのは、渓。工夫を凝らした料理の採点にかこつけ身を摺り寄せられているのだ。
「山賊鍋も作って‥‥」
「あ〜。私たちの仕事です。座ってくださいよう」
 クリスは娘たちに動きを徹底的に止められているようで。仕方なくおさわりされるに任せつつ今後の山賊砦がいかに発展するかを説いていたり。
「もう一回アレ、見せてください〜」
「燃えるからダメダメ」
「じゃあこの衣装触らせてください」
 ブローディアも似たような運命に。っていうか、露出度が高いので素肌を撫でられたり。服同様赤くなっては振りほどく。


「元・雑技衆『燕』が一の華の演技、皆さんの心に新たに生まれた街道と共に華として残ると嬉しいですっ♪」
 ここで、一華が小気味良く躍り出た。すでにノリノリ。緩やかに大きく薙刀を振るい、徐々に速度を上げる。髪紐の鈴音がシャンシャンとリズムを産み、さらに激しく。その姿、例えて宿木から飛び立ち自由に空翔ける燕のごとく。大きな拍手で喜ばれた。
「今しばらく、彼らを信じてやっていただけぬか」
 今回は務めて酒を飲まないりょうは、村長二人にこっそり口ぞえ。「彼等が再び無法を働くような事があれば、肩を並べて戦った戦友のよしみ。私もすぐに駆けつけて斬り伏せますゆえ」と殺気を纏い本気度を見せ付ける。
「わ、分かった」
「まあ、開拓者さんが保障してくださるのだからのう」
 面食らいつつも、むしろ心強いと好意的に取られた。このあたり、手柄である。‥‥この後、恥を忍んで男女の付き合いについて娘に聞くという無謀を冒し、「いやん。私と付き合ってください」、「待ちなさいよ。この私とよ」などとのしかかられ酒を口移しで飲まされそうになったりと災難だったが。
 そしてもう一人。
「瑞鵬たちは勇敢でした」
 ラシュディアが、村の顔役たちにここでの戦闘の様子を聞かせていた。
「敵は三倍。開拓者がいたとしても、命の保障はない。それでも逃げなかった。勇敢だった。勇気と根性のある連中です」
 熱く、熱く語った。ここに再び来たときは「頑張ってる連中ってのは見ていて気持ちいいからな」などと語っていた。
「夢のある青年たちです」
 強調するラシュディア。この熱意は、顔役たちの心にしっかり届いた。泰猫隊と山賊砦の周辺地域での好評価が、ここで確定したと言っても過言ではなかった。
 とはいえやっぱり、最後まで裏方で逃げ通せるはずもなく、娘たちに絡まれ「すごいすごい、金髪だー」とか。彼の場合は、特に髪の毛が犠牲になったようで。
「きゃあああ〜。すごいすごい〜」
 舞傘の曲芸で二の舞に移った一華だけは、ごく通常の芸人のモテっぷりだったようだ。

 さて、肝心の泰猫隊の青年たちは?
「瑞鳳。人生変われば変わるもんだな」
「まあ、そうだな」
 どうやら娘たちも彼らには本腰を入れて真面目に付き合っているようだ。開拓者の方は騒ぐためのダシにされたようで。
「ともかく、縁組がまとまるといい。君も、我が娘が気に入れば‥‥」
「お、おい。彼にはウチの娘が」
 村長二人がやってきてそんなすったもんだも。
 ともかく、どうやら好意的に受け入れられたという。