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■オープニング本文 「おおい、だれか……」 石伏山上空を行く八咫烏の広い甲板でそんな声が響く。 そんな声に反応し、弓術師の紫星(iz0314)が振り向いた。声の主はこれに気付いて寄って来た。 「補給部隊の者だが、ここに来る前に敵の拠点を見つけた。そこを何とかしてくれないか?」 八咫烏はこの辺りの制空権を得たといっても、それは広い範囲での勝利。しらみつぶしの殲滅戦を展開したわけではないのでそれは間違いではない。 「でも、地上部隊はかなり兵の速度で進攻してるっていうじゃない」 「とはいえ、補給路は必要だろ? 俺らも往復するのに明らかな危険が残ってるってのは勘弁してほしいところなんだよ」 紫星も自分の任務のことは良く分かる。とにかく前に、だ。しかし、補給線が脅かされる危険も分かる。 「敵の拠点……だったら動かないのでしょ? ここまでの一直線上にそれがなければ無視していいんじゃない?」 「バカいえ。ここが動かない固定の拠点ならそれでもいいが、そうじゃないだろ? いつ一直線上になるか分かったもんじゃない」 「まあまあ。話を聞こうじゃないか、嬢ちゃん」 ここで立派な鼻髭を蓄えたおっさんがやって来た。 「どんな拠点なんだ?」 「はい、ええとですね…」 どうやらその拠点。 岩肌の露出した架雀山の絶壁に空いた洞穴群だという。 何も気付かずに開拓者の偵察が龍で通り掛かったところ、洞穴から一直線の蟻酸噴出を食らったらしい。 「でん部から蟻酸を噴出するアヤカシ蟻もいるって聞いたからそれだと思う。が、普通の噴出なら射程距離は短いが、どうやら洞穴を使って螺旋状にして射程距離を上げているみたいなんだ。噴出される量から考えても一匹じゃなく、数匹単位で一斉放出してるんじゃないかって」 補給部隊の男は一気にまくしたてた。 「飛空船の宝珠砲をぶち込めばお終いじゃない」 紫星、食い下がる。 「狙おうと思えば敵の銃口のまん前に出るんだ。しかも射程はかなりのもの。……なにより放っとけばいいという論調が大勢なんだよ」 ほら、と言おうとした紫星だが掌を上げて遮られた。 「補給部隊の身にもなってくれよ。今回の敵は数が多いんだ。もしかしたら討ち漏らした敵はいるかもしれない。襲われて逃げたつもりが砲撃の真ん中、ってのは願い下げだよ」 「仕方ねぇな」 ここまで聞いて、口髭のおっさん開拓者が乗り気な声を出した。 「やってくれるのか?」 「……戦場から取り残された砲台ってのは、悲しいよなぁ」 おっさん、無視して遠い目をする。 「戦うつもりで戦場に出て、戦えず味方がやられていくだけ……辛いよなぁ」 寂しそうな声だ。 「ま、この戦場は確かに流動的だ。俺たちも敵正面の友軍と連動して包囲行動に入ってる。残敵からの再包囲なんざ願い下げだし、いっちょやってやるか」 「再包囲……」 紫星、そういうこともあるかと感心してしまったのが運のつき。 「せっかく整えた戦力を悲しませちゃいけねぇ。しっかりと止めを差して、二度と目覚めねぇようにしてやらないとな」 「いや……別に敵アヤカシなんだからそんなことしなくていいでしょ?」 いい顔をするおっさんに突っ込む紫星。 「やり残したことのあるモンってのは、それだけで寂しぃもんさ。敵味方関係なくな。こういうのは、敵がしっかり幕を引いてやらないとな……いくぞ。俺はダグラス・マイル。『戦場詩人』って人は呼ぶなぁ」 「ちょっと、何を勝手に……ちょっとぉ!」 い〜い顔をしながら歩くダグラスのあとを、ついうっかり追ってしまう紫星だった。 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
一心(ia8409)
20歳・男・弓
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
猫宮 京香(ib0927)
25歳・女・弓
海神 雪音(ib1498)
23歳・女・弓
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
アナ・ダールストレーム(ib8823)
35歳・女・志
宮坂義乃(ib9942)
23歳・女・志 |
■リプレイ本文 ● 架雀山の絶壁は岩肌も荒々しく、幅広く垂直にそそり立っていた。 「穴の数、多いね……」 黒色赤眼の空龍「鬼鴉」を駆るからす(ia6525)が呟いた。やや呆れている。 「わぁ、確かに。…収束した蟻酸をあの穴から飛ばしてくるのか。恐るべしだね」 隣の滑空艇・改弐式「星海竜騎兵」の天河 ふしぎ(ia1037)も呆れ……ではなくわくわくした感じだ。 「そうだね。隠れて撃つというより、『どうぞ調べて』といったところ」 からす、うかつには近寄らないよ、と鬼鴉を滞空させる。 「問題は射程だな」 琥龍 蒼羅(ib0214)の声がすると、透き通るような藍色の龍がからすの隣へ。長大な翼に小柄な体は、空龍「陽淵」。大人しい鬼鴉と同様、こちらも落ち着いた佇まい。 「弓ならかなり届くわよ?」 駿龍「黒曜」に乗った紫星(iz0314)がロングボウ「流星墜」を見せるように言う。 「紫星。開拓者としてしっかりやっているようですね」 横から空龍「珂珀」に乗った一心(ia8409)が寄せて来た。 が、紫星は一心の声に不用意に振り向いてしまった。黒曜がバランスを取り直したおかげで紫星の姿勢が崩れた。 「鞍はしっかり固定して」 「もちろん、落ち着かせることも大切ですよ〜」 一心のアドバイスの横から、猫宮 京香(ib0927)の声。実は鷲獅鳥「千寿」とは場数をあまり踏んでいない。負担を掛けないよう、かなり相棒を思い遣っている。紫星もそれに気付いたようで、顔つきを改めた。 「そう。何事も事前の準備が大切だからね」 一心も、曲芸のような動きをするならなおさら、と説明する。それとは別に、からすが熱心に敵の穴の数と位置を書き記していた。 「本当は爆弾でも放り込めば効果的なんだろうけどねぇ……うまくできてるよ」 新たに鷲獅鳥「藍銅」を巡らせ九法 慧介(ia2194)が寄って来た。 「ああ。アヤカシも考えた物だが……単純ゆえに、対処方法も分かりやすい」 「囮はまかせとけ」 うむ、と蒼羅が慧介に頷いたところで、ばさりと光の翼が。 「俺の短銃は射程が長くないからな」 クロウ・カルガギラ(ib6817)だ。それだけ言って翔馬「プラティン」で巧みに空を翔け先に行く。 「そう。遠距離には遠距離の。私には私なりの戦い方ってのがあるのよ」 アナ・ダールストレーム(ib8823)もだ。ウインクすると駿龍「アダーラ」で一気に前に。 その一方で、上昇する者も。 「悪いな、皆まかせたぜ」 ルオウ(ia2445)だ。滑空艇・改弐式「シュバルツドンナー」に乗っている。 普段どおりであるなら真っ先に敵に向かっていくはずだが、残念ながら重傷を食らっている最中。一緒に飛ぶ輝鷹「ヴァイス・シュベールト」に心配されている始末だったり。 いや。ふと何か気付いて高度を下げたぞ。 「紫星、しっかり気を付けねーと俺みてーになんぜー。敵の射程、長いらしいかんな〜」 それだけ紫星に言ってから、フライハイ。 「そのくらい……」 む、と唇を尖らせた背後に、空龍「疾風」の影。 「まずは偵察。敵にわざと撃たせることもしますので、それに気を付けるよう言っているのですよ」 海神 雪音(ib1498)がそれだけ言い残して前傾姿勢。後ろで束ねた茶色い長髪をなびかせ風となる。 「それにしても、見事に素早いのが揃ったな」 宮坂 玄人(ib9942)は仲間の行く姿を見送りながらそう感心する。そんな彼も騎乗は空龍「義助」。 「あたいは? あたいのも素早いんだよ!」 これを聞いたルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が自ら操る滑空艇改「白き死神」ごと玄人の前に出て可愛くお尻を振りながらきゅんきゅんと機体を揺らして猛アピール。「あー、そうだな」と玄人呟いてようやくルゥミから解放されたとき、前線で動きがあった。 「始まったな、進退窮まった者の嘆きが……俺も行こう」 敵の砲撃を見て、戦場詩人のダグラスも行く。 その時だった。 ● ――ごぉうっ……。 突然、一本の黄色い柱が岩肌から生えたようだった。 それも、何本も何本も。 「うわっ……」 「これは……」 もろに義酸砲撃を食らったふしぎとクロウ。ふしぎが星海竜騎兵の可変翼を広げてバランスを取り直し、クロウはプラティンに待てを指示して落ち着かせた。結構な威力と射程距離だ。 「それでも行くしかないのよ」 二人の背後から縫うようにアダーラを操り、アナが果敢に前に出る。 「クロウ、どう見た?」 今度は後ろから蒼羅が上がってきた。 「すまん。今回はバダドサイトは必要ないと思ってた」 「穴に見えるのが全部穴じゃないみたいだ。いくつかは黒く塗ってるだけだぞっ」 クロウの代わりに、遠くを凝視するふしぎが答えた。 「分かった。音でも探ってみよう」 蒼羅、陽淵とともに行く。 ――ごうっ。 続いて第二射がアナと蒼羅を襲う。 「……撃ち分けてる?」 「ああ。そうみたいだな」 一射目と同じと見たアナ。ギリギリでかわしたはずだったが今度は射程がやや短い半面、微妙に拡散していた。これに蒼羅ともども引っ掛かるように当り、食らってしまう。 「もう一度撃たせてみましょうか?」 「射撃が飛んでくる穴、連続性を確認したいですね」 今度は疾風の雪音と珂珀の一心が行った。加速してゆらゆら飛んだかと思うと、穴の前を横切るように加速する。 ――どうっ、どうっ! 雪音も一心も敵の対空砲火を受け、バランスを崩す。うまく直撃を免れているのは、回避に集中しているから。分析は仲間任せでとにかく敵に撃たせる。 「……音で連携を取ったり、発射タイミングを伝えてたりするようだな」 いったん引いて蒼羅が皆に伝えた。 「雪音や一心たちので分かったけど、やっぱりいない穴はいないみたいだよ」 ふしぎも所感を告げた。 「じゃ、情報も揃ったね。……音には音で。まずは中心の砲台を潰して安全地帯としよう」 からす、ついにその気になった。 「俺があいつらを一瞬黙らせてくるぜ。……紫星、ちょっと手伝ってくんねぇか?」 親指を立ててルオウが高度を下げてきた。 「援護射撃ね。分かったわ」 紫星、からすにターゲットを聞いて、長距離から射撃。これは当てるのではなく、射撃を誘うもの。すぐに軸線を外し、そこに蟻酸砲の射線が延びる。 「じゃ、行くぜぃ!」 ルオウがこの射線に被せるようにシュバルツドンナーで突っ込んだ。そして、練煙幕を分厚く張って離脱する。 敵からの死角を作り、からすが突っ込んだ。 「アヤカシもいろいろ工夫してるね」 呟きつつ、呪弓「流逆」をゆっくりと構える。まだ煙幕の中なので撃たない。 「人が見習う部分もある。もちろんアヤカシにしかできない芸当はあるだろう」 ちゃき、と矢を番えた。 「逆もしかり。人にしかできない芸当も、ある」 煙幕、途切れた。敵の砲口たる洞穴は目の前だ。長距離射撃が得意ではあるが、洞窟の奥の距離が分からないのでできるだけ近付いたのだ。 「戦場に響き渡る戦慄の大合葬……『魔風』」 歌うように言って、射る。 その矢は一見、何の仕掛けもない一撃だった。 しかし! ――ぎにゃーんっ! 洞穴から不気味な音がして蟻の死骸や散った瘴気が砲口から噴出した。かなりの数で、穴一つがまるごと吹っ飛んだようだ。音はつまり、断末魔。 「奥義『魔風』。精霊力を音にして矢に封じ込め、命中と同時に……」 にやり、と口にするからすだが、やめた。 「いや、語るのはほどほどに……。まだ終っていない」 遠い目をする。 他に音を武器とする弓術師はいるだろうかと思いを巡らせる。いまい、との思いを胸にしまい瞳を伏せる。 とにかく爆撃コースから飛び去るからすだった。 これを一の太刀に、次々と開拓者たちが突っ込んで行った! ● 「範囲攻撃ね」 アナ、からすを見送りつつその技を褒める。 が、瞳の輝きはからすに負けていない。 「私は……私たちにはこれが似合いかしらね」 ぐうん、と大迂回して岩肌沿いにアダーラを飛ばす。狙いを定めた穴の前で滞空すると、同時に射撃がきた。 「アダーラ!」 相棒の名を呼ぶと、綺麗に回避する上昇。 「連射はできないでしょう?」 アナ、呼吸を置くことなく突っ込んだ。 魔剣「ラ・フレーメ」を抜刀。精霊力の雷がソードを走る! 「心眼『集』でお見通し!」 振り切った魔剣から雷鳴剣。そしてアダーラが滞空しつつのソニックブーム。 ごぽっ、と中から蟻のつぶれる音が漏れた。 すでにアナは離脱し、仲間の元。 「手前に小さいの。そして上下左右の穴の壁に蟻が張り付いてるわ」 それだけ伝えて、また前に出る。 「……久し振りに熱くなっちゃったかしらね?」 胸に火照る、若き日の記憶を一瞬懐かしむと再び攻撃を仕掛けるべく、きっと前を向く。 「連射性能の確認はあたいに任せてっ!」 今度はルゥミが行った。 白き死神で……穴の正面に出たぞ? ――どうっ! これは避けきれず滑空艇の腹に食らった。 が、少し上昇しただけで怯まない。 いや、何か下ろしたぞ? 「これでどうかな?」 案山子だ! ――どうっ! もう一撃が来る。哀れ、案山子は吊るされた縄がぶった切れて吹っ飛ぶ。 「もういっちょ♪」 次の案山子が、ぶらん。 ――……どうっ! 「これで連射のリズムは分かったよ」 ルゥミ、吹っ飛ぶ案山子を背後ににやり。次の案山子を下ろし、吹っ飛ばされたところを堂々と正面のギリギリまでつける。もちろん砲撃は来ない。 「……じいちゃん」 今は亡き、恩人であり育ての親の面影を思い浮かべつつ、魔槍砲「赤刃」を構え放った。魔砲「スパークボム」が洞窟の最深部で炸裂し、蟻の死骸などが噴出してきた。 「おお、一発でたくさんやっつけたのぅ」 健在なら笑顔でそう褒めたかもしれない。 「じいちゃんの遺言通りあたいはずっと練習をしてきたよ。これからも練習をしてもっと強くなる! ……じいちゃんみたいにさいきょーになるよ!」 くん、と爆撃ルートから機首を上げ上昇離脱。 「見ていてね、じいちゃん! 」 の声が、ルゥミの姿と共に青空高くに吸い込まれていく。 時は少し遡る。 「範囲を捨ててる分、射程は桁違いか…。気を付けて行くぞ、義助!」 ルゥミの案山子の吹っ飛び具合を確認した玄人が義助とともに風になった。 「極端に近付くわけにはいかないだろう…」 射線から少しずらした死角を行き……いま、射線に乗った。 ――どうっ! 「駿龍の翼!」 主人の声に反応した義助、かわす。そしてすぐに射線に戻る。 「炎の枝垂桜!」 玄人の構えたロングボウ「流星墜」が桜色の燐光を纏う。 そして、枝垂桜の散る花びらのような燐光を振り撒く矢を放つ! 同時に義助が火炎を纏う風の刃を巻き起こして同時攻撃。 がぼっ、と洞窟の奥で蟻のつぶれる音が。 「いや……食らってもいい、寄せろ、義助!」 なりふり構わず玄人が叫んだ。急襲で接近する義助。次の砲撃を食らったがくじけず詰めた! 「お前か、連絡役はっ!」 洞窟の手前に、羽をすりあわす虫を見た。 瞬間、片眼鏡「五芒」が光る。 召喚されるは、火炎獣。一気に伸びる火炎で羽虫を焼き尽くした。 「炎、か」 逆に、クロウは接近射撃をしてからいったん引いている最中だった。 「セベクネフェル様の予言が実現すれば、アル・カマルは砂漠の国では無くなる……」 ぼそっ、と呟く。 そうであれば、民の生き方も変わってくる。 それだけではない。 じっと、次弾を込める宝珠銃「ネルガル」を見る。 「天儀と繋がって以来の銃器の進化も見過ごせない」 砂迅騎のこれまでの戦いが無になるほどの性能の向上。もしや、自分たちの戦法が時代遅れとなり、自分たちがが砂迅騎として生きていける最後の世代なのではないか、との思いが過る。 「……いや」 きっ、と顔を上げる。ひひん、とプラティンがいなないた。 そして、いつの間にかルオウが敵の砲撃を誘って煙幕を張っていた。 「よし、いいぜ」 親指を立てて離脱するルオウ。 「よし」 クロウ、一気に急降下。一族の勇士の証、「牙月戦騎の形」で突っ込む! ――タタタ・タン! 次の敵の射撃の前に、穴の前に陣取りウィマラサースの技術で連射、連射。ありったけの弾丸をぶち込み、そして離脱。 「……俺の生き方は変わらんし変える気も無い!」 顎を上げて上を目指すクロウ。時代に取り残されようと、との思いで面が輝いていた。 ● こちらは、蒼羅。 「紫星、頼む」 それだけいい残し陽淵で改めて突っ込む。背後、というより突っ込んだ後の本格的な射撃を任せたのだ。 「う、うんっ」 頼られやる気を見せる紫星。 どうっ、と砲撃が来るが、さすがにもうタイミングを読んだ蒼羅、かわす。これを合図に紫星も避けた。 「流石の長射程ですね〜。ですが一直線になった分、回避はしやすいですよね〜。特に固定砲台であれば尚更なのです〜」 射線に戻った紫星の横に、ぴたりと千寿に乗った京香がつけた。紫星と共に蒼羅の後の射撃に加わる。にこ、と紫星に微笑むと、「そ、それはそうよね」とか紫星も頷いたところで京香、上空に外した。 「一体何なのよ」 と紫星。 一方、前衛の蒼羅。 「……新しい技の使い勝手、試させてもらう」 普段であれば大きな剣の柄に手を掛けるが、今回はちゃきりと手裏剣「鶴」を目の前に構える。陽淵は主人を信じて一直線。 その、蒼羅の視界に一匹の羽虫。 「もうお前たちの連携する音の源は見切っている。次は撃たさん!」 手裏剣を放つ。まるで鶴の鳴き声のような風切り音を残し、洞窟入り口付近にいる羽虫を貫いた。 「……こういう技のためにシノビになったわけではないが」 離脱しつつ呟く。見据えた瞳は、どの境地を見るか。 こちら、後続。 「よし」 蒼羅が離脱したところで紫星が構えた。 「射程に捉えればこっちのものですよ〜♪まずは一発、派手に撃ち込むのです〜♪」 瞬間、上空で円を描くように飛んでいた京香が高度を下げつつ、一射。 ここで敵の適当な射撃が来る。 「わ……っと」 紫星がふらついた時、京香がしたから戻ってきた。 紫星と目が合う。 「結婚したばっかりですし、こんなところで怪我は出来ないのですよ〜。当たらないようにだけは注意しないとですね〜。怪我して帰ったら心配されてしまいますしね〜」 「つまり動き回って、射線に乗った時に射抜いたほうがいいってことね」 紫星、確実を期すため射線に乗ったままだった。 「と、いうわけで千寿、しっかり避けていってくださいね〜?」 くす、と微笑を残し一撃離脱する京香。紫星もこれに習う。 その紫星、別の洞窟前で戦う一心の姿が目に入った。 「発射口さえ分かれば……」 「何…をしてるの…」 紫星、目を疑った。 なんと、一心が穴から真っすぐ逃げていたのだ。 発射された直後の射線上に珂珀を飛ばし、穴が来るように飛ばし、身を捻っている。 「素早い連続発射はできないと看破しています」 一心、瞳が怪しく輝き弓「雷上動」を引き絞り、放つ。 一直線に伸びる一矢は五文銭の穴をも射抜く精度で奥の蟻に刺さった。もう一撃別の蟻に。そしてもう一撃。 「自分の弓は誰かを護る為に。子供達の笑顔の為に。やはり、それこそ自分の道…」 一心の方はそんな呟きと共に三連射をしていた。 そして、気付く。 紫星がこちらを見ていることを。 「…師が目指したのと同じ道」 ふ、と微笑した。 ここで洞窟から砲撃。これは珂珀の風と一体となった動きでかわす。 「ならばその道をただ進むのみ」 紫星に軽く頷いた後、思いっきり上空を目指した。 一心を見ていたのは他にもいた。 「なるほど。逃げつつ撃つことで手数を……」 雪音だ。 特に感心したような顔つきでもなく言う。 「……懐かしい」 ふと遠い目をした。 サムライの父と陰陽師の母。そして弓術師の自分。 両親を嫌ったか? いや、違う。 「これが私のやり方」 独自に戦う一心に心を振るわされた。 これまでやや手堅く戦っていたが、初めて射線に身をさらした。 「疾風」 相棒の反応もいい。敵の砲撃を交わした。 その瞬間、雪音は先即封。乾坤弓で穴に打ち込む。 その後、射線に戻って次の矢。 さらに近寄ると……。 ――ぶわっ、ぶわっ! 疾風の龍旋嵐刃。二回攻撃の炎と風の刃が穴に殺到する。 うろたえ乱れ始める蟻たち。 「…どこにいようと月涙なら…射ち抜く…!」 すとん、すとんと隠れる前に瘴気に返した。 そして、離脱。 雪音、近付きながら多数の手数を見せた。 こちらは、ふしぎ。 「直線にしか飛ばない攻撃に、そう簡単に当たりはしないんだからなっ…」 ぎゅん、ぎゅんとひらめくように飛び義酸砲をかわす。 そして穴の付近、右上斜め45度の角度で星海竜騎兵の可変翼を広げ滞空した! 「その螺旋の力、奪わせて貰うんだからなっ!」 ちゃきりと魔槍砲「赤刃」を構えると同時に呼吸を止めるように一秒。時を止めた。 ――どぉん… もちろんこの角度で穴の奥には砲撃できない。 代わりに、岩肌がぼごりと抉れた。 そして距離を取って後退。わざと射線に入ってみる。 ――どっ… 瞳を伏せるふしぎの背後で、義酸砲がただの噴霧になって散っていた。まったく届かない。 そして振り向いて言うのだッ! 「取り残されても尚ここを護る…兵隊としては正しいのかも知れないけど、僕には真似出来ないな」 ぎゅん、と滑空艇が翻った。 逆さから捻って再び穴に迫るふしぎ。再び魔槍砲を構える。片目を瞑って狙いもバッチリ。 「空は、もっと自由だ!」 ぱうっ、と奥に打ち込んだ。 連射して離脱するふしぎ。 瞳は、まだ見ぬ空へ向けられているようだった。 「固定砲台か…」 藍銅を駆る慧介は、いつの間にか無口になっていた。 (…撃ち合いなら自信があるのに無視されるのは嫌だよね) これまでは、偵察も兼ねて避けていた。 過去の記憶が蘇っていたのだ。 ――どうっ… 砲撃がきた。無論、かわしている。 あるいは、過去に似たようなことがあったか。 「よし、戦おう」 追憶を振り払うように顔を上げた。 「思い切り撃ち合おうじゃないか。悔いの無いよう掛かってくると良いよ」 くん、と逃げの飛行を止めて正面からの一騎打ちルートに乗った。これまでの地道な射撃で敵の連射タイミングは掴んでいる。 それでも一度は食らう距離だ。 ――どうっ! ぐあっ、と藍銅がかわした。 これで慧介、晴れやかな表情に。 「こっちも、全力で相手してあげるからさ」 最後は、遠き日の誰かに手を差し伸べたような優しい声だった。 レンチボーンでバーストアロー。 蟻の断末魔が聞こえる。 「じゃあね」 飛び去る慧介に、もう感傷の様子はなかった。 ● 「こ〜ぅして、蟻の武者らは死んだのさ♪」 ダグラスが夕日をバックに引き上げながら、そう歌う。 「ええと、逃げながら背面で撃つ、龍の攻撃と一緒に撃つ、矢に音をこめた必殺技を使う……」 紫星は今日見た開拓者達の戦いぶりを、指折り数えて思い出していた。 「それを全部覚えようとするのかい、紫星?」 慧介が寄ってきて優しく言う。 「全部は無理に決まってるじゃない!」 「いいことだ。自分にあったのを探すといいよ」 顔を上げる紫星。横にからすが着いてにこり。 「あとは、切り立った崖を攻撃して崩して穴を塞いだのも忘れんなよ!」 ルオウ、重症の身だったのでそんな援護もしていた。 「……個性的なのが集まりすぎ」 紫星、お手上げねとばかりに溜息をつく。 アナが、玄人が。 ルゥミが、ふしぎが。 そして雪音、京香、クロウが振り返る。 それぞれにやりとかにこりとか一見無表情とかで。 「これまでもそうだったですよね?」 「そのはずだ」 後ろでは、一心が優しく見つめ、蒼羅が瞳を閉じて満足そうにしていた。 「いいねぇ〜。育っていくってのは」 歌うダグラス。 皆も通ってきた道だ。 これから、どこに向かう――。 ひとまず、アヤカシ蟻の砲台はすべて沈黙した。 |