深夜の結婚式
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/07/05 19:44



■開拓者活動絵巻

■オープニング本文

「ねえ、聞きました? 並びの珈琲茶屋の娘さんのこと」
 神楽の都の往来で、ちょっとちょっととご婦人方が井戸端会議。
「聞きましたよ、聞きました。真面目に働いて可愛らしいのですけど、少し気配りの足りない娘さんだと思ってましたけど……」
「ですわよねぇ。手のかかる大きな子どもさんって感じだったのに、いつの間にやら結婚だなんて」
 どうやら、珈琲茶屋・南那亭で働く開拓者、深夜真世(iz0135)が話題になっているようで。
「で、お相手さんは?」
「若い騎士さんだそうですよ」
 ここで一斉に、まあ! と声が揃う。
「騎士さんだなんて……まるでお姫様。羨ましい」
「結婚式もさぞや立派なことでしょうねぇ」
「それがちがうらしいですわよ? その……珈琲茶屋の真世さん、お家を無断で抜け出して開拓者に……でしょ? お相手さんも似たような立場らしくて……」
「それって、結納もしてなければ……まさか、披露宴もしないおつもり?」
「そうらしいですわよ。ジルベリア風に教会で祝福してもらって、それきりですって」
 さすがに押し黙る一同。
 いや、むしろ安心したような笑顔が戻ったぞ?
「はぁ……。まったく手のかかる大きな娘さんだこと」
「まったくですわね〜。私たちがついてなくちゃ何もできないんですから」
 なんだか生き生きしてきたようで。
「というわけで、教会を出たところに机と椅子を並べてお料理を振舞ってさしあげるのなんかどうでしょう?」
「それがいいですわね」
「せっかくですから、真世さんのお知り合いさんに来てもらえば披露宴代わりになりますわね」
 それはいいわ、そうしましょう、などと盛り上がる。

 こちらは、珈琲茶屋・南那亭。
「♪今度の休みの、昼過ぎは〜 町に出ましょう、そうしましょ〜」
 真世が気分良く「召しませ珈琲〜南那亭にようこそ」という曲を歌いながら働いている。
「真世ちゃん、頼むから嘘と言ってくれ〜っ!」
「ひぃっ! い、いきなりなんですかも〜」
 そこに常連客に助平親父たちが群がってきた。
「聞いたぞ聞いたぞ。結婚するそうじゃな」
「う、うん。そうよ」
 真世、びくっと身構えながら返事する。
 また何かいやらしいことされるかな〜、とか警戒しているのだ。
「却下じゃ、却下! わしらの真世ちゃんが結婚するなぞ……」
「あん。でもこの店で働くのはきっと変わらないから……」
 この言葉を聞いて、常連親父たちの様子が変わった。
 真世にすがるように顔を近付け迫っていたのだが、あっさりと引いて円陣を組んでひそひそやっている。真世、不安そうに遠巻きに眺めるだけ。
「結婚は残念じゃがここで働くなら……」
「考えようによっては、メイドさんから人妻メイドさんに進化するわけじゃよな?」
「旦那ができようが、ここで真世ちゃんを悪漢どもから守るのは常連客のワシらじゃ」
「これまでワシらが手塩に掛けて見守ってきた真世ちゃんが夜、旦那にがっかりされるようなことがあってはならん。結婚してからも……」
「ちょっとちょっと、ちょっとーっ!」
 さすがの真世も聞き捨てならないと銀盆で叩きつつ乱入したり。
「しかし。あれじゃろ、真世ちゃん」
「あれってなによぅ」
 ぺしぺし叩かれ、ちょっと真面目な顔になる親父達。
「その……家の者は呼ばんのじゃろ、結婚式に。じゃったら、ワシらが日ごろの感謝を込めて……」
「あ、ううん。いいの。……あの人とは、二人でひっそりと式を挙げられればそれで幸せだから」
 真世のささやかな笑顔に助平親父達は心を打たれた。
「……教会を出たところで、披露宴をしてやろうや」
「そうじゃの。ワシらは今回は費用を出すだけで、みんなに楽しんでもらおう」
 殊勝にもそんなことを話し合う。

 真世は周りでそんな話が進んでいるとも知らず、婚約者と二人きりの結婚式を心待ちにしつつ、今日も明るく給仕をするのだった。


■参加者一覧
/ 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 鷲尾天斗(ia0371) / 真亡・雫(ia0432) / 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454) / 柚乃(ia0638) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 秋桜(ia2482) / 慄罹(ia3634) / 天ヶ瀬 焔騎(ia8250) / 猫宮・千佳(ib0045) / アーシャ・エルダー(ib0054) / 雪切・透夜(ib0135) / アイシャ・プレーヴェ(ib0251) / 御陰 桜(ib0271) / 猫宮 京香(ib0927) / 真名(ib1222) / ミリート・ティナーファ(ib3308) / ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905) / 泡雪(ib6239) / アムルタート(ib6632) / アルバルク(ib6635) / 玖雀(ib6816) / クロウ・カルガギラ(ib6817) / 八条 高菜(ib7059) / ジャミール・ライル(ic0451


■リプレイ本文


 今日は誰かさんと誰かさんの結婚式。
 神楽の都の一角の、とある教会の外は賑やかだった。
「よぅし。テーブルの設置はええの?」
 南那亭の常連客たちが席を整えていた。
「食器の数は足りるかしら? 結構な人が集まったわ」
 南那亭の並びの商店の女性たちが給仕の支度をしていた。
 もちろん、開拓者たちもいる。
「真世さんの結婚式ですか〜、めでたいですね〜」
『めでたいもふ〜』
 並ぶ屋台の一角では、紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)と相棒のものすごいもふらさま「もふ龍」が点心料理作りに勤しんでいる。
「お、相変わらずだな。俺も手伝うことにするぜ」
 すっと慄罹(ia3634)も加わる。
「なあ、桃饅頭なんてどうだ?」
『もちろん作ってるもふよ☆』
 慄罹の言葉に、えへんともふ龍。
「そうか。それじゃ、こうしてこうして、こう……」
「いいですね〜。それでいきましょう」
 ちょっと小さめに作るようにする慄罹。沙耶香はすぐにそれと分かって大きな桃饅頭を作ったり。

 教会前に、新たな姿が。
「まさか、またすぐにこういう場所に来るとはね」
 細身の姿は、真亡・雫(ia0432)。凛とした赤い瞳で懐かしそうに周りを見回す。
「お祝いごとは何度あってもよいものですよ〜。特に知り合いのお祝いは〜」
 微笑みつつ雫が見た先を眺めるのは、猫宮 京香(ib0927)。いつものように、柔らかい仕草で雫の腕に自分の腕を絡ませ佇む。
「その……ドレス、似合ってるよ」
 照れた雫、指先で頬をぽりとかきながら年長の妻の姿に笑みを見せた。昨年のクリスマスにプロポーズして、もう結婚式も挙げた。その時のドレス姿も忘れてはいないが、もちろん今のドレスアップした姿も、いい。
「あら。……あらあら、困ってしまいますよ〜」
 京香も、照れた。
 抱き付く雫の腕にさらにきゅっと身を寄せ、染まった自らの頬に反対の手を添える。春のやわらかな雰囲気をイメージしたドレスは、そのまま京香のイメージを際だ立てせている。
 そこへ、一陣の風。
「コクリちゃん、急ぐにゃ〜っ!」
「千佳さん、そんなに走らなくても大丈夫だよぅ」
 猫宮・千佳(ib0045)とコクリ・コクル(iz0150) が手を繋ぎ、雫と京香の前を掛けていく。
「おお。千佳ちゃんにコクリちゃん、こっちじゃ。ちゃんとチョコレート屋台も準備しとるし、着替えのできる天幕も張っとるで〜」
 ろりぃ隊☆出資財団の助平商人たちが手招きしている。どうやらチョコレートを販売するようで。
 後の話になるが、「コクリちゃん、お祝いと言えば紅白見たいだし服も紅白にするにゃ♪」とかいいつつ天幕で二人仲良く着替えっこすることになる。
 そんな仲良し二人の走る様子を見て、雫と京香が微笑み合う。
「さあ、張り切っていきましょ〜」
 その背後から、今度は威勢のいい女性の声が。
「お姉、気合いが入ってますね〜」
 続いて落ち着いた声も。
 アーシャ・エルダー(ib0054)とアイシャ・プレーヴェ(ib0251)の姉妹だ。
「そりゃもう、真世さんとは尖月島や珈琲開拓からの付き合いですからねっ」
「アーシャ様ったら……でも、珈琲お届け隊でいろいろ回りましたが、真世様の結婚式でお届けすることになるとは……」
 振り返って指を立てウインクするアーシャ。その機嫌の良さに、一緒にいた泡雪(ib6239)がくすくすにっこり。
「そういやボクも南那亭めいど☆だったな……あまり珈琲淹れた記憶はないけど」
 泡雪の側には、水鏡 絵梨乃(ia0191)。ぽりと頭を掻いている。今日の彼女は、髪を下ろして赤いドレスと大人な淑女の雰囲気だ。化粧も軽く自然に。
「それを言ったら、俺は真世さんの店は手伝ったことないけどな」
 クロウ・カルガギラ(ib6817)も一緒にいる。
「クロウさんは南那で真世さんや私たちと戦った仲じゃないですか」
「ああ。でもたまには珈琲を淹れてもいいかな?」
 アイシャが話に割って入ると、クロウは楽しそうにウインクした。



 一方、すでに席に着いている人たちも。
「あのまよまよと透夜が結婚ねェ…」
 鷲尾天斗(ia0371)がずずずと茶をすすっている。
「天然ジゴロだからまよまよ苦労すンだろうなァ」
 新郎新婦のどちらとも、付き合いが長く良く知っている天斗。いろいろ思うところもあるのだろう。しみじみと本音を漏らす。
『まよまよも天然もふ☆』
「お料理は真世さんたちが出てくるまで待ってくださいね〜」
 天斗の横からそんな声が。もふ龍と沙耶香が茶を入れて回っているようだ。
「真世の場合は、ただの天然なんだね」
 同席している天河 ふしぎ(ia1037)が、復唱確認。
「おめェが人のこと言えるのかよ」
「べ、別に言えるんだからなっ」
 天斗の突っ込みに、いつもどおりなふしぎ。というか、だれか天斗に突っ込む者はいないのか?
「よぉ」
 そこに、玖雀(ib6816)がやって来た。
「今日はめでたいみたいだな」
「玖雀も何かめでたいんだね? そんなおめかしして」
 玖雀が席について言った言葉にふしぎが身を乗り出した。
「真世と透夜の結婚式を祝いに来たんだ」
 ふしぎの言葉に額の横を青くしながら誤解を解く玖雀。
『ふしぎも天然もふ〜』
「あら皆さん、今日はお日柄も良く」
 もふ龍が楽しそうな声を上げたところに、翠色の日傘をおしゃれに差して白い千狐白裘に旗袍「白鳳」という清らかな姿の女性が現れた。
「みなさん、正装で素敵ですね〜。いい保養になります」
 腰をくねらせほっこりと頬を片手で包むようにしているのは、八条 高菜(ib7059)。
「う…変では……ねぇだろ?」
 玖雀、過剰に反応した。慌てて鷹柄の旗袍「飛鷹」を着込んだ我が身を確認してみる。
「何だ。これからどこかにシノビ仕事にでも行くのか?」
「僕も正装してきたんだからなっ」
 スーツ「黒王子」でびしっと固めた天斗は余裕の様子だ。同時に自分の服装を見たふしぎの方は、忍装束に天下無双羽織を身に着けていた。
「いや、シノビ仕事はふしぎの方だろ。これでも俺は恋人に見立ててもらって……」
 玖雀が言ったところで空気が変わった。
「ほう、恋人」
「わあ、いいなぁ。恋人かぁ」
 天斗とふしぎ、激しく食いついた。「おまえらなぁ…」といつもな感じの玖雀。高菜はこの流れに「あら〜」と困ってしまっていたり。
 と、この時。
「……おい。ちょっと待て、アム。俺の髪型が乱れるだろぉが!」
 突然、天斗が立ち上がった。
「ヒャッホウ♪ 兄ロリを発見したからこっそり撫でてみたよ! ビーマイシャでこっそり超☆なでなでしたよ!」
 振り返るとアムルタート(ib6632)がいた。バラージドレス姿でもう踊っているようなテンション。
「はや〜。賑やかだね」
 さらにミリート・ティナーファ(ib3308)も満面の笑顔でやって来た。いつものように桜をイメージするような着物姿で華やかだ。
「透夜さんは……ミリートの幼馴染だったかしら?」
 一緒にいる真名(ib1222)がミリートに聞いた。
「そうなるね☆ 真世お姉さんとも楽しくお話してるよ」
「私は……真世の南那亭に、人妖の菖蒲がお世話になったわね」
 義妹として可愛がっているミリートに見上げられ、頬を緩めつつ撫でてやる。
「よっ!」
 桜色のミリートの向こうから、今度は赤と黒で固めた男がやって来た。
 何やらテンション高く手を上げるこの男は…。
「最高におめでたい事が在ると聞いて韋駄天の如く帰郷した志士、天ヶ瀬だ」
 ネクタイを締めつつ、ぴしりと決める。
 流離いの開拓者・天ヶ瀬 焔騎(ia8250)、ただいま天儀に登場なう。
「そりゃいいがよぅ。おまえら何か場を盛り上げるモン、考えてきたか?」
「場を盛り上げるなら任せてよ〜」
 天斗、焔騎を無視してわざと真面目な話を皆に振る。アムルタートは出番とばかりにくるくる〜。
「マテ。さっきまで盛り上がっちゃってたのに何、急に真面目ぶっちゃって!」
 焔騎、ががん!
「いろいろ考えてきましたから、楽しみにしててくださいね」
「コップも珈琲もたっぷり準備してますよ〜」
 そう言って、焔騎を押し退け泡雪やアーシャが到着。
「はいは〜い。あたいも真世ちゃんと一緒の英雄部隊だよ」
 横からルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)がやって来た。ドレス「ロイヤルホワイト」姿で天使のようだ。
「あたいはちびっこだからベールガールかリングガールをやるよ!」
 この時、柚乃(ia0638)が到着した。肩に玉狐天「伊邪那」が纏いつき、胸の前には小さくて藤色のすごいふもらさま「八曜丸」を抱いている。
『柚乃は何かしないのかしら?』
 ルゥミの可愛らしい姿を見ていた伊邪那が柚乃を振り返る。
「どうしようかな……」
 はふ、と溜息交じりの柚乃。実は人ごみは苦手だったりする。
 おっと。抱いていた八曜丸が何かに反応したぞ?
「慄罹。料理、手足りる? 私も手伝うわよ?」
 真名がこちらにやって来た慄罹にそう声を掛けていた。
「ああ。あらかた終ったかな。桃饅頭も用意したし……おわっ!」
『饅頭もふ〜っ!』
 慄罹が余った小型の桃饅頭を見せたところで、八曜丸がぴょ〜んと飛び掛った。
「は、八曜丸……」
『まったく、見てらんないわね〜』
 慌てて近寄る柚乃に、溜息交じりの伊邪那。
 ここで、りんご〜ん、と教会の鐘の音が響き渡った。
 


 時は若干遡り、教会の中。
 いつものように静かな礼拝堂。
 そして、左右にある部屋の一室で。
「痛っ」
 衣擦れの音と共に声を漏らしたのは、雪切・透夜(ib0135)。
『主よ、あまり無理せぬほうが……』
「大丈夫だよ、ヴァイス。こういう衣装は着てしまうまでが大変なだけ」
 透夜、白いシャツに改めて腕を通して相棒の上級からくり「ヴァイス」に今まで着ていた上着を渡す。
 ここは新郎の控え室。
 本日結婚式を挙げる透夜が支度をしている。
 周りは、静か。
 ささやかな結婚式を望んだため、他に誰もいない。
 しかし。
 シャツに腕を通した透夜の腰に、背後から腕が回されさらしが巻かれた。
「わっ! ビックリした」
「いよいよ結婚でございますか。感慨深いですなぁ…」
 振り返ると秋桜(ia2482)がいた。透夜に万歳をさせたままぎっちりとさらしで腰を固める。
「怪我を負ってしまったものは、もう仕方ありません。せめて、今日一日楽なように」
「すいません」
 実は透夜、先の依頼で重症を負っていた。
「私に謝られても……せめて、深夜様に悟られませんよう」
「すいません…」
 透夜、真っ赤になりながらも白いタキシード姿に着替えていく。

 天儀のある教会は、いつものように静か…。
「ああん〜、桜さん〜!」
 でもないようで。
「はいはい、真夜ちゃん。泣いたらもっと大変になるからね」
 新婦の控え室で、深夜真世(iz0135)が御陰 桜(ib0271)に泣きついていた。
「寝不足にならないように早くに床に就いたの。それなのに眠れなくて〜っ!」
 どうやら目の下に隈ができてしまうというドジを踏んでしまっているようで。えぐえぐ泣くので状態はさらに悪化する勢いだ。
「はい落ち着いテね。緊張してよく眠れなかったなんてコトはよくあるから♪」
 桜、お湯で隈の辺りを塗らすと指先を使ってまっさーじをしている。
「なちゅらるめいくにしたげるからね♪」
 どうやら桜のおかげで真世も落ち着いたようだ。

 そして、礼拝堂に出る二人。
 透夜顔を上げると、純白のミニウエディングドレスに身を包んだ真世が立っている。
 思わずホッとしたのは、白タイツですらりと伸びた足取りがしっかりしていること。足取りはしっかりしている。
(僕もしっかりしなくちゃ)
 怪我を悟られないよう、しっかりした足取りで前に進み、肘を出した。真世の腕が絡まる。
 真世を見る。
 見返す瞳が、うんと頷いた。
 今まで何度も見交わした視線。
 今日は少し潤んでいると思った。
「綺麗だよ」
 こっそり囁くと、「透夜さんも」と返って来た。
 視線は前を向いたまま。
 二人を待つ神父の下へと歩を進める。
 そして――。
「……誓いますか?」
 あっという間に式は進み、神父が問う。
 透夜、息を吸い込んだ。
「誓います。雪切透夜は、深夜真世を生涯愛することを誓います」
 目の前の真世。うるっときて薄くルージュを引いた唇を震わせていた。
「はい……生涯愛することを誓います」
 真世が、透夜の名前を挙げて同じく誓った。
 よく聞き取れなかったのは、真世が明らかに待っていたから。
 小さな顎を少し上げて。
 薄いルージュの唇を震わせて。
 神父の言葉も聞き取れず、でも言葉と同じタイミングでどちらからともなく手を取り合い……。
 口づけを交わした。
「真世、ありがとう…。今も、そしてこれからも…ずっと一緒だ」
「うん……ありがとう。本当にありがとう」
 透夜の言葉で身も心も預けるようにしなだれる真世。
 幸せの重さを受け止め、温もりを感じるのだった。



――りん、ご〜ん。
 響き渡った教会の鐘に、柚乃も慄罹も動きを止めた。
「ようし、来るぞ。みんな、出迎えじゃ〜っ!」
 南那亭常連の助平親父たちの声で皆が教会の扉前に。
「はっ! あたい、ベールガールできなかった……」
「ルゥミちゃん、紙吹雪の入った籠じゃ。代わりの大役じゃが、できるか?」
 立ち尽くすルゥミに、ろりぃ隊☆出資同盟の助平親父から白い布を被せた編み籠を渡された。
「うん。あたい、頑張ってくるよ」
 てててっ、と掛けていくルゥミ。
 そして少しだけ開かれる教会の扉。
 新郎についていた秋桜と新婦についていた桜が前に出て回り込み、大きく両開きの扉をあける。
「今日がお二方にとっての恋人としての終着点。そして、これからは家族として出発点です」
 二人が前を通るとき、秋桜がそう声を掛けた。
「家族は現実的なもの。現実は、正直辛い事の方が多い位ですが、辛い時に笑って支え合える仲で居続けて下さいませ。……ほんに、おめでとうございます」
 ほろり、と涙ぐんで祝う秋桜に、透夜と真世は改めて向き直り深々と礼をした。
 はっと気付いて振り向く。
 うん、と桜が頷いていた。
「二人共結婚おめでとう、いつまでも仲良くね♪」
 りんご〜ん、と鐘が鳴り、紙吹雪が舞った。
 改めて正面を向く二人。
 皆がいる。
 皆が待っている。万感の思いで面を伏せる二人。
 りんご〜んと、鐘の余韻。
 いつも白だか、いつもより神秘的な白さのタキシードを着た透夜が顔を上げる。透夜の腕に手を回して寄り添う真世も、顔を上げた。
 周りでは花道を作った開拓者達が拍手で出迎えている。
 紙吹雪を撒くルゥミが可愛らしく二人の前に収まった。二人が並んで階段を下りる。
「おめでとう。透夜くんはかけがえのない友人だから…なんだか、僕も凄く嬉しいよ」
「刀也くん、結婚おめでとうですよ〜♪ 二人で末永くお幸せになってくださいね〜♪」
 雫が潤んだ瞳はそのままに拍手をしている。彼の横に寄り添い見守る京花も笑顔で。
「マヨマヨ透夜おめでとー♪ ずっとずっとお幸せにだよ!」
 階段を下りたところで、アムルタートが前に躍り出て緑と水色のサッシュをひらひらさらてひと踊り。
「…まあとにかく、二人とも幸せにな」
 天斗もそんなこといいつつ二人に歩み寄って小粋にあいさつ。
 これで、遠慮していた皆が待ちきれずに透夜と真世をわあっ、と取り囲んだ。
「真世さん透夜さん、おめでとうございました! って透夜さん! すっごい怪我してる〜〜。無理せず座っていて下さい」
 アーシャが二人の肩をぽんぽんやりつつ祝福。
「どうして分かるんですか、アーシャさん」
「真世さん、結婚おめでとう! 今日の真世さん、とっても綺麗ですよ」
 知っててやってるでしょ、などとアーシャをいぶかしむ透夜をよそに、アイシャは真世にぎゅう☆と抱き付き強奪。
「アーシャさん、アイシャさん、ありがとっ。『どっちがどっち?』をやられるかと思って準備してきたけど、ないのね?」
「もう長い付き合いですからね。……透夜さん、真世さんを幸せにしてあげてくださいね。泣かしたりなんかしたら承知しませんよ?」
 真世、二人との思い出を懐かしむ。アイシャは「それがあったか」とは思いつつも真世を抱いたまま透夜を振り返る。
「それはもう。誓いますよ」
「透夜さんも、真世も結婚、おめでとう!」
 透夜の返答に満足したアイシャが抱き締めていた真世を引き渡す。そして新たに真名が寄ってきて心からの祝福を。
「ふたりとも、おめでとうだね♪」
 真名と一緒のミリートも、にっこりと祝福。
「ありがとう、ミリート」
「…あは、なんだか不思議な感じ。それと、ちょっと羨ましいや」
 透夜は柔らかい微笑をたたえてミリートに返す。およ、と目を丸めたのは、ミリートの言った言葉を自分も感じていたから。瞳を見合わせくすり。ミリートは、「羨ましい」に反応した真名が優しく撫でていたり。
「ねえ、真世ちゃん見て! ノースリーブの白ドレスに頭には白い花冠、背中には白い翼! 今日はあたい妖精じゃなくて愛天使ウェディングルゥミだよ♪」
「うんっ。ルゥミちゃんもありがとね。可愛いよ」
 紙吹雪をまきながらぴょんぴょん跳ねるルゥミに感謝する真世。
 するとルゥミ、でっかい得物を取り出した。
「それじゃあたいからのお祝いだよっ」
 クラッカー大筒を取り出し腰を落とすと、空に向かってクラッカーどぉん! 単動作で詰めなおして、もっかいどぉん!

「お〜。見事だなぁ」
 ちょっと離れて祝っていた慄罹が、一番いい位置でクラッカーを見ていた。ルゥミの演出に改めて拍手する。
 その時、気付く。
「っと。おまえさんは行かなくていいのか?」
「落ち着いてから…かな。それに、自分は縁遠いのかな、と……」
 慄罹の近くにいた柚乃、聞かれてそう独り言。最後の方はほぼ聞こえなかったが。
『まったくもう、柚乃は鈍ちんなのよー』
 肩の伊邪那には聞こえたようで。

 この時、透夜と真世の側で。
「透夜、真世。結婚おめでとうな」
 玖雀が挨拶していた。
「ほへ? 玖雀さん今日は一人? たいてい、一緒にいる人といつも賑やかなのに」
 真世、余計な一言をゆった!
「そんなわけあるか。おまえは俺のことを何だと…」
「なんか、やっとこの日が来たかってくらい待ち遠しい日だったな。おめでとうだ!」
「真世、透夜、本当におめでとう! お幸せにね…次は僕達の番だと、いいんだけどなぁ……」
 玖雀が言い終らないうちに焔騎とふしぎが首を突っ込んできた。とたんに賑やかに。というか、ふしぎは最後にぶつくさ何か口走ったぞ?
「うん。玖雀さん、いつもこんな感じよねっ!」
「納得するのか? って、ふしぎは何を口走ってんだ?」
 満足そうな真世に、ふしぎに突っ込む玖雀。そこで焔騎が玖雀の肩に手をやる。
「細かいことはとにかく、思いっ切り祝おうぜー!」
「あっ、こっちはまだ、ご両親に挨拶が…」
 盛り上がる焔騎の横で、真顔になるふしぎ。
「真世さん。ふしぎさんはきっと、ブーケトスを待ってるんですよ?」
「そ、そんなことないんだからな、アイシャ!」
「んもう、仕方ないなぁ」
「おおい、ブーケトスだ。希望者は前に前にだぜ?」
 真世の反応を見ていち早く焔騎が大きく声を上げた。

 場面は再び、賑わいから距離を置いた場所。
 赤いエプロンドレスの千佳が耳をピクリ。
 焔騎の呼び声に気付いてチョコレート屋台で首を巡らせた。
「うに! コクリちゃんいくにゃよーー!」
「わわわっ。千佳さん〜」
 ブーケトスと知ってコクリの腕を掴んで突撃ー!
 その駆け抜ける様子に、柚乃の側にいる伊邪那がそわそわした。
『ほら、ブーケを取りに行くわよっ』
「伊邪那……」
 急かす伊邪那に、柚乃ははふりと溜息一つ。自分のためを装いつつ、伊邪那が興味あるだけだろうなぁとか思いつつも、コクリたちを追う柚乃だったり。

 そして、ブーケトス。
「さあ、準備は整ったぜ?」
「うんっ。焔さんありがとね。じゃ、行くよっ!」
 焔騎のウインクに頷く真世。
 せ〜の、で手にしたブーケを高々と放り投げた。
 のだがっ!
「んあっ!」
 なんと真世、放り際にブーケを束ねるリボンに指をかけていたではないか!
「ああっ!」
 トスを待ち見上げた者は皆、悲鳴を上げた。
 花がばらばらになって宙に舞ってしまったのだ!
「まったく真世さんは……」
 アイシャ、一輪キャッチ。
「真世様、相変わらずどぢっ娘ですね〜」
「あらあら、いつの間にこっちに…」
 秋桜も一輪手にしてやれやれ。彼女のあまりの場所移動の早さに気付いた高菜が驚いてたりも。
「真名お姉ちゃん?」
「ええっと、花嫁が投げる花束を取った人に、次の幸せが訪れるっていわれがあるんだけど…」
 ブーケトスは初めてのミリートが、手にした一輪をまじまじと見て真名に聞いてみた。真名の方はもちろん、一輪を手にしつつこのトラブルに困っていたり。
「結婚かあ。地元の家族からはそろそろ嫁連れて来いとは言われてるんだが。俺にはまだピンと来ねえなあ」
 クロウも一輪手にして、ぼそりと。「ま、その内に考えるか」とか言いつつ花を胸に飾る。その気はまだないようだが。
「結婚式、いつかあたしもしたいにゃねー♪ コクリちゃんと♪ …なんちゃってにゃ♪」
 千佳とコクリも一輪ずつ手にして、にっこり微笑み合っている。
「あ……」
 柚乃の手にも一輪収まった。
『花束じゃなくって一輪だけ……でもまあ、小さな幸せからよね』
 伊邪那はひげをへにょ、としながらも前向き思考だが……。
『これ、うまいもふか?』
 ばくっ、と八曜丸が花に食いついた。
『ちょっとアンタ、何してんのよっ!』
「あら……まあまあ」
 柚乃、ひとまず二匹を幸せそうになだめる。
「次は、本当にボクたちの番だといいなぁ…」
 ふしぎもゲットした一輪をしげしげと見遣りつつ、願う。
「透夜さん…私、大切な結婚式でバラバ……」
「ストップ。それ以上言っちゃだめだよ、真世。みんなに幸せを分けてあげることができて良かったよね」
 ショックを受けていた真世を優しくなだめて抱き締める透夜。真世は涙を流してメイクを崩すなどということはこれでなくなった。



 そして楽しい食事に。
 少し場が落ち着いたのを見て、慄罹が給仕台を押して前に出た。
「ようし、ようやく出番だな。……真世。透夜と二人でこれに軽くナイフを入れてみな?」
「わ、おっきな桃饅頭」
「それじゃ真世、こっちに手を添えて」
 二人が割ると、中からは小さな桃饅頭がたくさん出てきた。
「あはっ。この幸せもみんなに分けてあげられるね☆」
「真世さ〜ん、こっちこっち〜」
 今度はアーシャの呼ぶ声。
 彼女の目の前には木製カップがピラミッド状に積み上げられていた。
「わー。珈琲タワーね」
「あ。真世様、その前にこちらへ。透夜様も」
 泡雪に手招きされてそちらへ。
「真世様と私、そして他の皆様にも珈琲を淹れてもらって、透夜様に飲んでもらい真世様の淹れた珈琲を当てていただきます♪」
 にこっ、と小首を傾げて透夜に説明。
「僕……が当てるんですか?」
 きょとんとする透夜。
「仕方ありませぬなぁ。わたくしめも…」
「深夜さん、じゃあもうなくなるのか……友人の一人として、ここはお祝いも兼ねて」
 秋桜とクロウも加わって、透夜に背を向けて珈琲を淹れる。
「よし、それじゃいってみようか!」
 仕切った焔騎の掛け声で、四つのカップが並んだ。
「これ……はアルカマル風。こっちは……ふふっ。小隊の時に飲む味かな?」
 透夜、クロウと秋桜の珈琲を看破した。
 残るは二つ。どちらも南那亭メイドの淹れた珈琲で難易度が高い!
「…こっち」
 透夜、指差す。真世は両手を組み合わせて祈った。
 結果!
「透夜様、こちらの珈琲を飲み干してください」
 泡雪に言われたとおり、指差した方ではない珈琲を飲み干した透夜。味に違いはないようだったが、結婚式の時、真世を抱き締めてキスした時の香りを僅かに感じた。
「これが真世様の味ですよ。覚えてくださいね」
 優しく言う泡雪。ハズレだったらしい。
 残念な結果にしーんとなる会場だったが。
「そうだね。珈琲だけを感じようとしちゃった。……これからは真世の雰囲気も感じるよ」
「そういう雰囲気もしっかり味わって覚えるといいんじゃないか? なあ、泡雪」
 とん、と真世の背中を押して絵梨乃が登場。泡雪をそっと抱き締めた。
「そうですね。私と絵梨乃様は7月13日に結婚2周年。お二人とも、2年後も私達のように仲睦まじくあってくださ……あ!」
 祝うように言う泡雪が言葉尻を上げたのは、絵梨乃に唇を奪われたから。
「そうそう。夫婦仲を長続きさせる秘訣はお互いに尊敬しあうこと、何かと惚れ直すことです。……二人も見習って」
 アーシャからはそんな声が。
 これに遠巻きにしていた親父たちが反応したぞ。
「そうじゃ、真世ちゃん。接吻じゃ」
 たちまち「キス、キス」の大合唱が巻き起こる。
「ええっと…」
 が、もちろん躊躇う二人。
「仕方ないですね〜。もふ龍ちゃん、この前作った神主さんの格好をして祝詞をあげてください」
『分かったもふ☆』
 沙耶香の声でもふ龍が神主姿で二人の前に出てきた。幣のついた払い棒を左右に振り、『かしこみかしこみ申し上げもふ〜』とかそれっぽいことをはじめた。
「中でやったみたいに誓ってみたらどうだ?」
 天斗の言葉に、仕方ないですね、な感じの透夜。
「くすっ。……じゃあ、深夜真世を生涯愛することを誓います」
「誓います……」
 透夜、ずっと静かに後ろに控えていたヴァイスから渡されたハンカチで口元をちゃんときれいにしてから真世の手を取り、改めて。真世も頷いて瞳を閉じ、小さな顎を上げて……。
 キスした。
 大きな拍手と歓声がわく。照れくさそうに頬をかく透夜だったが、すぐにアイシャに手を引かれた。アーシャの珈琲タワーが準備完了していた。
「さあ、真世さん透夜さん、お願いしま〜す」
 アーシャの掛け声で、二人が一番高いところに立ち珈琲を注ぐ。
 脈々と、二人の幸せが続きますようにと。



 その後、皆に珈琲タワーで使った珈琲が配られた。
「ん? 甘いような気がするな」
 玖雀、味わっていち早く味の違いに気付く。
「玖雀さん、お目が高い。蜂蜜ですよ〜。これから甘い生活が待ってるってことで!」
 アーシャの満足そうな説明。
 その後ろでは真世と絵梨乃が。
「絵梨乃さん、これは?」
「金箔入り芋羊羹なんだがな……」
「見た目、あまり変わりませんね」
 透夜のツッコミ。
 そこへ慄罹がこっそりと。
「よ、お二人さん。……喜糖だ。新郎新婦から皆への贈り物として使ってくれ」
「ほへ?」
「泰の習慣なんだよ」
 首を傾げる真世にそう説明したり。
「オリーブオイルチョコもいかがかにゃ〜♪」
 さらに会場をめぐりつつ祝いのチョコを配る千佳とコクリたち。
「甘いもんばっかじゃねぇか…」
 玖雀はさすがにげっそりと。
「はや〜。結婚式って、甘いんだね〜」
「そういうわけでもないわよ」
 珍しそうに周りを見て回っていたミリートが感心したところで、真名の出番。
 自ら料理した大皿を置いた。
「赤くてめでたいが……辛いんじゃないか、コレ?」
 覗きこんで確認する玖雀。目の前の料理は紛れもなく麻婆豆腐だ。早速周りから「辛い〜」などという悲鳴。もちろん、真名基準で作った辛さ。その辛さは折り紙つきだったり。
「酒がすすんでいいじゃねーか」
 天斗、男は黙って食べるもんだと酒をちびり。雫と京香も酒のお代わり。隣にはもふ龍がいるぞ?
『もふ〜』
「もちろん沙耶香の飯もうまい」
『もふっ☆』
 もふ龍、嬉しそうにころころ。点心を中心とした泰国料理に、玖雀も安心して食事を楽しむ。
「めでたい宴だよフーゥ! ご馳走サイコー!」
 アムルタートもフォークに肉を突き刺してご満悦♪
 一方、遠くから。 
「やー、めでたいのぅ、めでたいのぅ」
 助平親父達ももちろん酒量が増えてしまっている。ちゃかぽことやり始めた。

「真世さん?」
 ここでふわりと膝たけの淡い桃色ワンピースが揺れた。レースもしゃらり。
「あ。柚乃さん! 今日は呉服屋さん、良かったの? って、着物じゃないんだね〜」
「…女将さんの手作りなんです。最初は…その…ドレスだったんですけど」
 柚乃、髪をまとめた淡い桃色のリボンをいじいじしながら反応を待った。
「でもでも可愛いよっ!」
「これからも……また、一緒にお買い物とか……」
 真世の反応にぱっと明るくなった柚乃。言いたいことは言いきれなかったが、「うんっ。また行こうね。これからもお友達だモンっ」と真世。柚乃、改めて安堵の笑顔を見せ「おめでとう」がいえた。
 この時。
「真世ちゃん、ちょっと行って来るわね」
 桜がそう言って真世と柚乃の隣を抜けた。
「ほへ?」
「礼服として使えそうなジルベリアのドレスを探してたら楽譜と楽器も出てきたのよね。あのちゃかぽこ、止めささないと」
 ドレス「白百合」を着こなした背中越しに、色っぽくにんまり。トランペット「キャヴァリエ」と楽譜「結婚式のためのスコア」をひらひらと見せている。
「それじゃあ柚乃も…」
 柚乃がローレライの髪飾りに手を掛け、桜を追う。
「ふふふ〜。こういうお祝いの席だし、明るい竪琴と歌の両方でお祝いさせてもらうよ」
 この流れに、ミリートも竪琴「神音奏歌」を手に続く。
「じゃ、私も」
 もちろん、真名も一緒だ。
 そして桜、ミリートで奏でられる祝いの曲。
 歌う柚乃は「小鳥の囀り」で鳥たちを呼んだ。
 さすがに助平親父たちのちゃかぽこは止まり、注目が集まる。
「うふふ……」
 柚乃、そのまま小鳥達を巻き込むようにくるり、くるりと歌っていたが、やがて彼女自身も小鳥に姿を変えたッ!
「ラ・オブリ・アビスか…」
 見ていたクロウが、がた、と椅子から立ち上がった。思わず。
 もちろん、柚乃は小鳥に変身したわけではない。
 歌声が、佇まいが、見る者に小鳥を思わせてやまないのだ。
「へえ……」
 透矢と真世に酌をしてほどほどに飲ませていた焔騎も思わず動きを止めて見惚れた。登場時に締めたネクタイをゆるめてしまうほどにジプシーの高度な技に感心する。
 舞台では柚乃に代わり、真名が躍り出てきた。
 透けるような薄い布をひらめかせ腕を、指先を伸ばす。爪先を見詰めた笑顔は輝き、汗の珠が舞う。止まったような時は次の動きで怒涛のように。激しく、激しく。愛を喜ぶように、鯉に焦がれるように――。
「ヒャッホウ♪」
 ここでアムルタートがステップイン。
「二人の門出のために全力だよー!」
 はためく戦舞布「ナハル・アル・ハリーブ」に、腰に巻いたサッシュ「リーフ」。二つが折り重なって複雑な円軌道を生む。真名の踊りが纏まりであれば、アムルの踊りは自由奔放。二つの個性とそれをリードするハーモニーが、未来への可能性を見るものに印象付けた。

 やがて、楽しい時間も終わりに近付く。



「深夜ちゃんおめでとうございまーす♪ ふふ、すっごく似合ってますよ」
 高菜が真世に改めてお祝いを述べていた。
「旦那様と末永く幸せに、ですね。幸せにならないとお仕置きしちゃいますよ?」
 うふふ〜、といたずらっぽい視線で真世を覗き込む。
「た、高菜さんもう酔ってます?」
「そんなわけありませんよ♪」
 ぎくりと身を引く真世にさらに身を寄せつつ酌をする高菜。真世が隣に座る透夜にぴとっとくっついたところでにっこりと。
「ふふ。夫婦の形というのは二人で作っていくものですから、頑張ってくださいね?」
 ちなみにこの時、透夜。
「秋桜さん。ほどほどに、ですよ?」
 秋桜の酒量を気にしていた。
「舐めている程度、ですよ〜」
 一応大丈夫のようではある。ちび、とさらに飲んでいるが。
 おっと、ここで異変が。
「あらあら、お祝いの席とはいえ飲み過ぎですよ〜?」
「…うん、珍しく酔ってしまった。どうも少し飲み過ぎたみたいだよ…」
 京香が、すっかり酔いが回って寄りかかってきた雫の頬に自らの頬を寄せていた。紅い顔でぼ〜っとしている様子から分かるとおり、触れた肌から火照りが伝わった。
「一足先に戻りますかね〜」
「うん…。それじゃあね…お二人とも末永く、お幸せに。京香と一緒に帰ります」
 立ち上がったところで、ふらり。
「仕方ないですね〜♪」
「ぁ、ありがとう…」
 そんなこんなで、京香が雫をお姫様抱っこ。
「あっ! そうだ」
 ここでふしぎが透夜に贈り物を手渡した。
「ありがとうございます。中身はなんだろう」
「何がいいか迷っちゃったから、子育てグッズを」
 隣で聞いてた真世が、ぽんっと赤くなった。
「ふふ、夫婦の形というのは二人で作っていくものですから、頑張ってくださいね?」
 そんな真世を高菜がぎゅうして撫で撫で。何を頑張らせるつもりか。
「透夜もあれやったらどうかな?」
 横からアムルタートが京香と雫を指差す。
「あれ……って、私が透夜さんを?」
「それは違うだろ、まよまよ」
『違うもふ〜☆』
 天斗ともふ龍がツッコミ。
「もう……真世にそんなことはさせませんよ」
 透夜、真世をふわっとお姫様抱っこする。
「んもう、いきなり」
 そんな透夜が愛しくて、感極まった真世が透夜の首に絡ませた腕を絞って上体を寄せて、ちゅ☆。
「おおっ。真世ちゃんからもちゅーしたぞ!」
 やんやとはやす助平親父たち。
 新郎からのキスと、たったいま贈られた新婦からのキス。
 この様子を見て参加者達は改めて、心から安心して拍手を送るのだった。