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■オープニング本文 「あ〜……いかん」 浪志組屯所に珍しく戻っている監察方のクジュト・ラブア(iz0230)は、思わずそう漏らした。 「おら、何やっとんじゃい!」 「んだとぉ、もういっぺん言ってみぃ!」 カンカンカン……。 血気盛んな隊士たちが中庭で稽古に励んでいるのだ。 「あ? 何だ、クジュトの旦那。隊務に忠実でいいじゃねぇか」 濡れ縁に座って若手隊士たちの打ち込みを見ていた回雷(カイライ)がクジュトを見上げて不思議そうにしていた。 「いや、柄がね……」 クジュト曰く、稽古はいいのだが掛け声が一般人からみたら困りごとばかりを働くチンピラどもと一緒に感じられ、眉ひそめる人もいることを伝えた。 「とはいえ、こっちゃ命張ってるしなぁ」 ぽり、と頭をかく回雷。彼自身、元チンピラで片目眼帯だったりする。上品とは無縁で、むしろ若手に同情的だ。とはいえ、クジュトの言うことも分かる。なにより、彼自身が町で女子供に怖がられ敬遠されている節がある。別に彼自身はどうでもいいのではあるが。 で、出した結論。 「そういう、市井の民への印象を良くする工作はクジュトの旦那の仕事だろう? 俺らに言われてもなぁ」 「……回雷さん、私を手伝ってくれること、多いですよね?」 クジュト、改まって聞いてみた。 「まあ、な。旦那たちに負けてついてくことに決めたんだし、アンタみたいなのの下についてると楽しいしな」 「どこが楽しいんですか?」 「まず、危なっかしい。誰かがきちんと旦那の背後で睨みを利かせなきゃならねぇ。……楽しいねぇ。二番手の位置は」 「じゃあ、私が往来でジルベリア風のお茶を優雅に楽しんで浪志組のイメージアップ作戦をすると言ったら手伝ってくれますね?」 有無を言わせない雰囲気でクジュトが問う。 「断る」 「ちょ……」 「別に旦那の指示に全部従うってわけじゃないしな。気まぐれだよ、俺は。それはともかく、じゃ、そういうことで同行してくれる奴だけは声掛けといてやる」 「え? 誰も本当にやるとは……」 「ま、頑張ってくれ」 ぽむ、とクジュトの肩をたたく回雷。 ここで、浪志組副長の柳生有希(iz0259)が通り掛かった。 「警邏か? だったらちょうどいい。今から言うところを重点的に回って……いや、張り付いていてほしい」 「そりゃ……いいですが」 そんなこんなで、なぜか本当に往来に張り付いて優雅にティーパーティーをすることになった。 というわけで、一緒に午後のひと時を過ごしたりジルベリア風の紅茶を入れてくれる人求ム。 余談だがこの時クジュト、浪志組に突っかかってくるならず者や、一般人の役者好き、八球拳を仕掛けて来る者、そして浪志組と遊んでみたい住民が多くいるとは夢にも思わなかった。 さらに余談。 「ところでクジュトの旦那? 『八球拳』(やきゅう・けん)ってなんだ?」 「ええと、『八球』っていうのは一人が球を投げて一人が棒切れで打ち返して、守る八人が打った球を捕球すると『あうと』、捕球されずに抜けていくと『せえふ』っていう遊びらしいです。で、『八球拳』ってのは座敷遊びでじゃんけんして……」 つまり、世界が世界であれば『野球拳』と呼ばれるものらしい。 脱衣勝負だが、脱衣は危なくないところまで。 |
■参加者一覧 / 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 羅喉丸(ia0347) / 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454) / 柚乃(ia0638) / 猫宮・千佳(ib0045) / イリア・サヴィン(ib0130) / ニーナ・サヴィン(ib0168) / リスティア・サヴィン(ib0242) / アルマ・ムリフェイン(ib3629) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 泡雪(ib6239) / サフィリーン(ib6756) |
■リプレイ本文 ● 神楽の都の往来の片隅に、テーブルと椅子が置いてある。 「平和ですね。天儀の薔薇も綺麗だ」 座っているのは、興行一座のミラーシ座長で浪志組監察方のクジュト・ラブア(iz0230)。浪志組の羽織に颯爽と袖を通し鉢金を額に巻いて、涼しい顔をして座っている。時節柄、背後の生垣の薔薇は見事な花を咲かせている。 「でも……いいのかな。邪魔になるんじゃないかな?」 対面に座る狐の獣人、アルマ・ムリフェイン(ib3629)が狐耳をへにょ、と伏せ気味にしつつ小さくなっている。こちらも浪志組の羽織を着用している。クジュトと同じく、監察方でもある。 この時、二人の横で優雅にメイド服が翻った。 「そう仰るわりに、クッキーやタルトなんかをたくさん持参してらっしゃいますね。……お代わり、いかがですか?」 泡雪(ib6239)がにこりとポットを掲げてみせる。 「だって……お茶会だし、こういうのがあった方がたくさんの人が来てくれるんじゃないかって」 アルマが言った時だった。 「おうおう。浪志組が何でここにおるんじゃい」 柄の悪い男が睨みを利かせている。明らかに堅気の者ではない。 「つーか、目障りなんじゃ、ボケ!」 いきなり木刀で殴りかかってきた。 「うん、…やっぱり来るよね」 オルガネット「フェインゲーフル」を掲げ防ぐアルマ。そのままカチ上げると下から右拳を抉り入れる。アッパーカット……ではなく、その手にはクッキーが。 「むぐ…」 クッキーを口にした男がたたらを踏んで下がったところで、優雅にオルガネットを演奏する。 「クジュトさん、この人、お腹一杯になって眠いそうだから、ちょっと裏で休んでもらうね」 「さすがですね」 アルマ、「夜の子守唄」で眠らせた敵をずるずると引きずって行く。 「クジュトさん、何をしてるんだい?」 入れ替わるように羅喉丸(ia0347)が通り掛かった。 「我慢比べですよ」 「へえ、我慢比べ? ……特に急いでいるわけでもなし」 羅喉丸、興味を引かれて座った。すかさず泡雪が紅茶を注ぐ。 「でも何を我慢してるんだ?」 「ここで優雅に紅茶を飲んでると、何となくちょっかい出したくなるでしょう?」 「そういうものか?」 首を捻る羅喉丸。が、特にそれ以上詮索するでもなく、お茶を美味しく飲めばいいのだと理解して、味わう。優雅ではないが、武骨一辺倒な男なだけに姿勢がいい。 「あとは、ご近所の皆様とも交流したいものですねえ」 美味しい紅茶の香りをさせて淹れつつ、泡雪が二人の様子を眺める。 「うに、コクリちゃんあっちで何かやってるにゃ♪ 見に行くにゃー♪」 「あ。千佳さん、待ってよぅ」 そんな泡雪の向こうから、猫宮・千佳(ib0045)とコクリ・コクル(iz0150)が手を繋いでやって来た。 そして反対の方向。 「あ。柚乃さん、あそこで何かやってるよ?」 「本当……です。今日のお買い物は呉服屋の使いじゃないから……少しなら」 深夜真世(iz0135)と風呂敷包みを抱えた柚乃(ia0638)が近寄っていた。 「椅子、足りるでしょうか……」 きょろきょろ、と左右を見た泡雪が心配する。 「お待たせ、泡雪。……ボクは立ったままでもいいぞ」 そんな彼女の背後から寄り添うように水鏡 絵梨乃(ia0191)が立った。 「あら、絵梨乃様……」 泡雪、意外そうだ。 絵梨乃が髪を下ろし、黒のドレスを纏っていたから。さらした肩と胸元が、眩しいほど白い。 「たまにはオシャレしてみるのも悪くないだろう?」 「俺たちが立とう。女性は座って」 さら、と長い髪を揺らしスカートの裾を摘まんでみせた絵梨乃に、羅喉丸が席を譲りクジュトを促す。 「千佳さん、ここでいいよねっ」 「うに。隣に座れるならどこでもいいにゃよ」 コクリが空いた席に元気良くぽーんと座ると、千佳もずりずりと椅子をコクリと横並びして、ぴょんと座る。 「でも残念。真世さんの花嫁衣裳、ぜひ柚乃がお世話になってる呉服屋で仕立てたかった……」 「ああん、ごめん〜」 柚乃と真世はそんな話をしながら着席。 クジュトと羅喉丸は受け皿を手に、片やすらりと、片やどっしりと立って紅茶を飲みながら話を楽しんでいる。やがてアルマも戻ってきた。余談だが、「お茶会じゃ、怒鳴っちゃだめ」とならず者の口にさらに龍の鱗クッキーを詰め込んで寝たまま転がしていたり。 この賑やかさに思案顔をするのは、泡雪。 「さすがにこれでは絵梨乃様とゆっくりはしばらくお預け……」 と、ここに。 「ちょっと遅れちゃったかしら? 二人一緒で…」 「…メイドさん! ひらひらした白いエプロンで…こう言うんでしょ?」 ひょい、と軽やかなステップでスカートの丈の長いメイド服をひらめかせた二人組が登場。一人は金髪で、一人は銀の髪。 「お帰りなさいませ、ご主人様」 声を合わせてエプロンの裾を持ってくるっと回り膝を曲げてお辞儀したのは、ニーナ・サヴィン(ib0168)とサフィリーン(ib6756)。まるで踊るようによく動く。 「泡雪お姉さん、手伝いに来たよっ」 「でも二人とも美味しい紅茶を淹れるのは得意じゃないのよねぇ……真世さんは……」 元気良く泡雪に微笑むサフィリーンに、ほふりと頬に手を添えるニーナ。真世に気付いて視線をやる。 「わ、私が淹れるのは珈琲だけだモン」 真世はニーナの視線にわたわた。 「ではサフィリーン様、ニーナ様。私の淹れた紅茶をまずは皆様に給仕してくださいませ」 泡雪、にこやかに手筈を決めた。 一瞬の慌しさがこれで落ち着くこととなる。 ● この時、紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)は。 「さて、今回は紅茶と言うことですので甘めのお菓子を作って持っていくことにしましょうかね〜」 『甘いの大好きもふ☆』 月餅やら桃饅頭やら餡饅頭を載せた給仕台を押してクジュトたちのいる場所を目指していた。相棒のものすごいもふらさま「もふ龍」も一緒だ。 『あ、まよまよもふ〜☆』 そのもふ龍、柚乃と一緒の真世を発見して、ぴょんぴょん跳ねてぽふっと真世の膝の上に収まる。 「あ、もふ龍ちゃん。……あはは、これで柚乃さんと一緒だね」 「はい。柚乃は八曜丸が一緒だから…」 真世に話を振られた柚乃、膝の上のすごいもふらさま「八曜丸」を撫でている。 「真世さん、後で私も一緒にのんびりしますね〜」 『もふ龍も頑張るもふ☆』 追ってきた沙耶香が真世と柚乃に月餅を置いたところで大人しくしていた八曜丸の金色の瞳が光った。 『おいらのお饅頭はどこもふ?』 「まあ、八曜丸。紅茶には見向きもしなかったのに」 豹変っぷりに目を丸くする柚乃。 「はい、どうぞ〜」 沙耶香から饅頭を受け取ると嬉しそうにがつがつもふもふ。 「八曜丸ちゃん、もしかして…」 「お茶菓子目当てのようで…」 苦笑する真世に、はふりと掌を頬を包む柚乃だったり。 「クジュトさん、来たよー」 新たにリィムナ・ピサレット(ib5201)もやって来た。 黒タンクトップに草履履き、竹竿を手に無邪気な様子だ。 「あの、リィムナさん、無防備すぎますよ?」 クジュトが言うのは、タンクトップの裾が短くて女児ぱんつがちらちら見えているから。見えていいぱんつだし、いかにもお子様っぽいのではあるが……。 「よう、おめぇら。ここで何しよんなら?」 また、浪志組を目の敵にしているならず者がやって来た。今度は集団だ。 というか、いきなり拳が飛んでくる。 「おっと」 ぱしん、と掌でこぶしを受けた。 羅喉丸だ。 「おどりゃ……」 「なかなかいい突きを繰り出すな」 止められたならず者はカチンと来て羅喉丸を狙った。続けて殴りかかるが、これを羅喉丸がことごとく回避する。いや、わざとギリギリでかわし次の攻撃を誘うことで巧みにならず者の集団から引き離している。 「茶の一杯でも飲むと落ち着きもするぞ?」 羅喉丸はもう、手をまったく出さない。左手で受け皿を持ち、右手で持ったカップで紅茶を飲みつつ見事な足捌きを見せる。 「野郎!」 ――ぱしっ! 最後は正拳突きを右掌で受けて敵の勢いを利用し、捩じった。 「いたッ! 痛たたた……」 「構えがなっていないな」 敵は羅喉丸に背を向け、極められた間接を痛がっている。 羅喉丸はティーセットを左手に持ったまま。格の違いを見せ付け取り押さえた。 一方、リィムナ。 ――ぱしっ、ぱしぱしっ! 「痛っ。痛たた…」 元気な笑顔で竹竿でぶん回して敵をとにかくぶったたき。子どもの無邪気さ全開だ。 「こいつ、親にどういうしつけ受けたんだ?」 「ん? かわした?」 ならず者の中にはできる者もいた。リィムナの攻撃を避けた。 が、次の瞬間。 「い…っつつつ」 その男は股間を押さえてうずくまっていた。にぃ、と笑うリィムナ。どうやら夜を仕掛けて急所を狙ったらしい。 と、その顔がむっとした。振り向くと丸見えのぱんつを食い入るように見られていた。 「えへへ。お嬢ちゃん、いいねぇ〜」 ならず者の中にはそういう性癖の者もいたようで。 「へぇぇ……」 リィムナの横に一瞬、夢魔が立った。これぞ陰陽師の「鬼魅降伏」。 「良い子はお家に帰っておねんねだよ?」 頬にちゅっ☆としてやると、相手はぽわわんとしたまま回れ右。 「おねしょも忘れずに〜」 お家に帰る敵がおねしょをしたかどうかは、秘密。 ふりん☆とメイド服のおっきなリボンが揺れた。 「お茶のおかわりはいかが?」 ポットを手に給仕しているニーナだ。 「柚乃はもう…」 「ニーナさん、似合ってるよ♪」 柚乃はお茶より八曜丸の茶菓子がほしいようで。真世の方はニーナときゃいきゃい☆。 「たまにはこういうのもいいわね」 「おう姉ちゃん、グッとくる腰つきじゃねぇか」 もう一度ふりんと腰を振ったところで、ウエストを撫でられた。ならず者だ。 「ちょっと何するのよっ」 「俺とイイコトしようぜぇ」 「離してってばっ」 ――ぱしん! ニーナが払おうとしたならず者の手を、横から伸びた手が払った。 それを見たニーナ。ぐいと抱き寄せられる。 上を見ると……。 「クゥ……クジュトさん」 「この美人に手をだしてはいけませんよ?」 クジュトがニーナを守りに来ていた! 「この野郎!」 ならず者が凄んだ時だった。 「千佳さん、ちょっとゴメン」 背後からそんな声が響く。 次の瞬間、コクリがぐんと迫っていた。 小さな体で大きく跳躍。 ミニスカートなのに敵の首を両太股で挟みこむとそのまま地面にたたきつけた。 ――どしん! 「うに! いまコクリちゃんの秘密の場所を見たにゃ? まじかる☆猫落としでおしおきにゃ。ついでに仲間は眠っちゃうにゃ☆」 倒れた敵に千佳がジャンプしてからどすんと飛び乗って、助けにきた仲間をアムルリープ。コクリと一緒にずりずりと路地裏へと連れて行く。 「大丈夫だった、ニーナ?」 「……いまが大丈夫じゃないかもよ?」 結局手を出さずに仲間にやってもらったクジュトはちゃっかりニーナと視線を交し合っていたが……。 「失礼します。本日はローズティーがお勧めです」 礼儀正しい執事が給仕にやって来た。 「あ……イリアさん」 クジュトの驚いた声。 何と、来たのはニーナの兄、イリア・サヴィン(ib0130)だった。 「何をやってるのかな? ん?」 不気味なオーラを立ち上らせ凄むイリア。 ここで、時は若干遡る。 テーブルの上で、ことんと砂時計がひっくり返った。 『もふ?』 そこにいたもふ龍が首を捻る。 「その、お茶は…修行中なの」 いま、砂時計をひっくり返したメイド服のサフィリーンが照れながら言う。 「でもね、ティースプーンに砂時計でしょ? ポットを温めて茶葉の量を測ってしっかり砂時計の間を待てば…」 忠実に手順を守って、じぃぃ、と身を屈めて茶の蒸らし具合を確認する。 その時。 「ようよう、こんなところでお尻突き出して何やってんだ? 邪魔だ。ちょぃと面貸しな?」 突然、ならず者がわいて出た。 「きゃっ…。だめ! ガラの悪い人は、帰って下さい」 「イヤよイヤよも良いの内ってな」 「いま目を離したらお茶が濃くなっちゃう…もう 誰か!」 おらこっち来いよと腕を掴まれたサフィリーン、銀盆をぶんぶんぺしぺしして抗っている。……いやもう、誰かとか言う前に結構な攻撃力だ。 『もふ龍アタックもふ!』 止めは、ぴょーんと飛び跳ねたもふ龍。 「がふっ! ち、畜生」 後によろけるならず者。さらに凄み本格的に襲い掛かってくる。 が。 「痛っ、いたたた…」 「…もふ龍ちゃん強いわね〜」 『もふ龍つおいもふ!』 もふ龍の後ろで見守っていた沙耶香がついに前に出て敵の腕を取るとあっさり脇固め。 「ご退散願いますかね〜」 「わ、分かった。もうしねぇよーっ!」 こうして沙耶香に許されるならず者。すごすごと立ち去る。 一方、サフィリーン。 「あっ! クジュトお兄さん」 ニーナとクジュトとイリアの様子に気付いた。 ばびゅん、とポットを手に急ぐ。 「ご主人様は只今大事な御用中です。お茶は如何ですか?」 あっという間にクジュトとイリアの間に割って入ると、にっこり。 「ほう、ご主人様」 「サフィリーンはニーナの友達ですよっ、気を利かせているだけですっ!」 小さなサフィリーンのいじましい姿を見て、さらにぴききと危険度を増すイリア。クジュトは穏便に済まそうと必死だ。 「まあ、ここは可愛い娘さんに免じて……それより、妹を泣かせたりしてないだろうな? ん?」 こほんと態度を改めるものの、やはりクジュトに凄むイリア。何げにクジュトの手にしたティーカップに茶を優雅に注いでいる。 「泣かせて……」 この言葉にニーナ、反応した。そっと手を当てた胸中に去来したのは、お互いに気を利かせすぎてすれ違ったあの頃か、はたまた悲しい言葉を聞いたあの時か。 「んんん、どうなんだ?」 敏感にこの様子を感じ取ったイリア、さらにぴききと迫る。 「ちょっと……それはかわいそうなんじゃない?」 ここで、リスティア・バルテス(ib0242)登場。どうどうとイリアをなだめる。 刹那。 「ち、畜生……」 「きゃっ! どこ触ってんのよ!」 千佳が眠らせていた敵が目覚めてふらりと立ち上がり、体を支えようと伸ばした手がリスティアの腰に当ったのだ。千佳とコクリは最初の往復からまだ戻ってない。 「……こちらでお話し合いを」 すっ、と対応したのはイリアだった。酷く慇懃だが、クジュトに凄んでいた時とは段違いの殺気をはらんでいる。盆を盾のように使いつつ、ずんずんとならず者をティアから引き離し押して行く。 「終ったわねー。あのならず者」 リスティアはイリアを見送りつつ、少しならず者に同情。やがて「ご気分でも?」とか言うイリアの声が聞こえる。 「可哀想に。兄さんは手加減するけど……」 「自分で昏倒させて『ご気分でも?』もないわね」 はふぅ、と溜息をつくニーナとリスティア。 「……明日は我が身ですかね?」 「もう、お兄さん何言ってるのー」 冗談めかして言うクジュトに、サフィリーンが銀盆ばしばし。 「それにしても…なんで浪志組がティーパーティーとかにするかなあ…似合わない」 一方でリスティアはきぱ、と言い放つ。 「そう思う人を釣り出して、少しでも大人しくしててもらうためですよ」 ほら、とクジュトが別の方に視線をやる。 絵梨乃と泡雪が、何やらチンピラに絡まれている。 はっとしたサフィリーンだが、より身近で起こる異変にも気付く。 「…ありがと。怪我してなぁい?」 ニーナが、そっとクジュトに寄り添い手を握っていたのだ。 「大変、行ってみよう」 「そうね。すぐ行ってみよう」 サフィリーン、リスティアの手を取って現場に急ぐ。 「お仕事終わったら…お礼、たっぷりする、ね?」 ニーナの方は、頬染めて上目使いでひそり。 クジュト、これを見て頬を染めた。頬もかすかに緩んだ。へにょ、とエルフ耳がちょっと下がった。 「ち、ちょっと。衣装が乱れてるよ、ニーナ。直してあげよう。こっちへ」 「え?」 乱れはさっき直したのに、な感じのニーナの腰に手を回して薔薇の花咲く路地裏へ――。 時は少し遡る。 「珍しいな。泡雪がこういう時にゆっくりしてくれるなんて」 絵梨乃がカップに口をつけ……いや、香りを楽しみながら言った。 「一通り紅茶は淹れ終えましたし、手伝ってくださる方もいらっしゃいますし」 泡雪、絵梨乃と一緒にテーブルに着いて紅茶を楽しんでいた。 「真世の南那亭でも、泡雪がボクと一緒に客として楽しんでくれたことなかったぞ?」 「南那亭ではないですしね。きょうは絵梨乃様と一緒にゆっくり紅茶を楽しみます」 くす、と微笑する絵梨乃に、幸せそうな笑みをたたえて泡雪が返す。 が、ここでならず者二人が乱入。 「おい、美人同士でいちゃいちゃしてるじゃねーか。俺っちらと遊ばねぇか?」 ぴき。 空気が一瞬で固まった。 「ここはお茶会の場です。お静かに願いますわ」 泡雪、優雅に立ち上がって笑顔で注意する。 「だから場所を変えよーぜと言っている」 ああ。 ならず者、泡雪がなにやら黒いオーラを出しているのに気付かないのか! 絵梨乃も何やら目付きが鋭くなって来てるぞ? 「おら、いいから行くぞ」 ついに強硬手段に出たならず者。泡雪の手を取った。 瞬間! ――どごぉ… 一瞬だけ、黒いドレスの裾が翻った。白い足がならず者の首に入って、そのまま大地にど〜んしたが、ひらっとドレスの裾が落ち着いたときには何もなかったかのように絵梨乃は平然と立っている。 「ち、畜生。ただじゃ……ぐあっ」 さらに地に這いつくばっている顔にハイヒールのかかとがぐりっ。 「ただが何だって?」 絵梨乃、笑顔は絶やさず憎しみを籠めて、めり込ませるようにゆっくりじわじわとぐりぐりしている。 「何で動けね……」 「こっちの奴の影縛りか? ぶあっ!」 もう一人が泡雪の術に気付いて動いたところで、水柱が立った。 「頭を冷やしてくださいね」 にっこり笑顔の……いや、相当不機嫌そうな泡雪が水柱。 「ち、畜生。覚えてやがれ!」 「……どうしました? 絵梨乃様」 ならず者二人が退散した後、じっとこっちを見詰める絵梨乃に気付いて聞いてみる泡雪。 「普段全然見ない表情だけど、そんな顔も可愛いな」 「もうっ、絵梨乃様ったら!」 緩やかに微笑した絵梨乃。不満そうだったが、あっという間に真っ赤になる泡雪。 「ちょっと、泡雪?」 そんな様子に我慢できなくなって、ついつい薔薇の花咲く路地裏に淡雪をエスコートする絵梨乃だったり。 ● 「おうおう、俺と勝負しやがれ!」 やがて、明らかにならず者ではない普通の人が絡んできた。 「……親しまれてるってことでいいのかな」 アルマがくす、と微笑し立ち上がる。 「僕に勝てなきゃ他の人にも勝てないよ」 羅喉丸の方をちらっと見て、おどけながら相手して……。 「まいった」 「やれやれ。出番はなさそうだな」 「勝負したかった?」 「ならず者だったら、な」 じっくりと組んで勝利したアルマ、羅喉丸と楽しく話す。 「ねえ、お茶菓子持ってきたんだけどご一緒していい?」 「紅茶の美味しい淹れ方、教えていただけると嬉しいねぇ」 やがて勝負とは関係なくの、地域の人たちも仲間に入れてほしくてやってきた。 「あ、はい。それなら私が」 路地裏から戻ってきた泡雪が、口元が乱れてないか気にしつつ紅茶の淹れ方をレクチャーしたり。一緒に戻ってきた絵梨乃は何かを満喫した様子で知らん振り。 「きゃ〜っ、ミラーシの女形さんがいるわっ。 八球拳で勝負してくださ〜い」 クジュトは、「まったく強引なんだから、このエロフ」とかぶつぶついいつつも頬を染め、ずり上がったり乱れたりしたメイド服を直しているニーナを隠しつつ戻ってきたが、その分前方不注意でミラーシ座の追っかけ娘に捕まった。 「はい、八球〜す〜るなら、こーゆー具合にしやさんせ♪ あうと!」 「せ、せぇふ」 クジュト、つい乗ってしまう。 「よよいのよい」 パーと……クジュトはグー。 「きゃ〜っ、勝った。脱いで脱いで〜」 「あああ」 上着を強引にはだけられるクジュト。欲望で動く娘の何と強いことか。 「よう、姉ちゃん。こっちもアレしようぜ?」 こちらは真世。げへへ、と下品に笑うならず者に絡まれていたり。給仕を終えて真世と一緒にまったりしていた沙耶香が睨むが、欲望で動く助平親父は動じない。 「えええ、私は……」 「真世さん、ここは柚乃に」 困った真世の代わりに、柚乃が立つ。 一本目、負けた。 「仕方ない……」 柚乃、素直に上着の白鳥羽織脱いだ。 するとっ! 「じゃん、ジプシーに転職しました☆」 絢爛の舞衣を纏った姿で最近転職したことを報告。真世はあまりの素敵演出に「わ、私もあんな華麗に」とか自らの衣装に手を掛け、「止めたほうがいいですよ〜。下に衣装、着てないみたいですし」とか沙耶香がちらっと確認して止めていたり。 一方で相手のならず者は混乱していた。 「おお……なんだ? お前、浪志組局長の真田……ここで会ったが百年目じゃあ!」 柚乃、「ラ・オブリ・アビス」を使ったらしい。敵は憎き敵と勘違いし抜刀し襲い掛かってきた。 これに柚乃、踊るように右にずれた。真世たちからまず引き離す。 「はっ……やっ! せいっ!」 そして敵の踏み込みを利用し、かわしつつ舞う回転運動を生かして投げた。 「後は私の出番ですね〜」 またも出番とばかりに沙耶香が行く。ごきり、と関節技の炸裂音が響いた。 『おとといきやがれもふ!』 もふ龍の声に、ぱんばんと手を払う沙耶香。柚乃はすらりと立ってお茶。余裕を見せつけた。 「じゃ、コクリちゃんの上着はもらったね☆」 「脱ぐだけじゃないの〜っ!」 別の場所では「八球拳」を知ったリィムナがコクリを誘って勝負していた。コクリ、上着を脱いで水着とスカート姿になっている。上着はリィムナに取られたのは特別ルールのようで。 「うに。次はあたしが欲しいにゃ〜っ!」 千佳はこの様子に激しくおねだり。 「それじゃ次。よよいのよい♪」 またコクリの負け。リィムナは快く千佳に戦利品を譲る。 「にゅ☆コクリちゃんのスカートにゃ〜」 「ああん〜」 千佳、コクリのスカートを嬉しそうに掲げる。コクリは完全に水着姿。 が、ここからコクリが連勝。リィムナの赤い髪飾りが付き、次に草履が付き、最後におっきなタンクトップ姿になった。 「……あれ? 気付けばリィムナさんの格好に」 「ちぇ、負けたか〜」 リィムナの方は仕方ないと戦利品のコクリの上着を着る。女児パンツ丸見えだが、まあ見えていいパンツだから問題はないハズ。 「リィムナちゃん、次はあたしとにゃ〜っ!」 千佳、コクリの上着狙いで勝負を挑んだりとまあ賑やかで。 場面はクジュトに戻る。 「きゃ〜ん、座長さん強〜い♪」 黄色い声を残し、危ないところまで服をはだけさせた娘が退散していく。 「へぇ〜。強いのね〜」 「い、痛い痛い、ニーナ!」 ニーナは半裸になったクジュトのウエストをツネツネ。 それだけではない。 「……楽しそうじゃないか」 イリアが戻ってきていた。 ドス黒オーラをたたえ、怒りの笑顔を浮かべているぞッ! 「また……。クジュト大概だけどね」 ここでリスティア再び。ぽむとクジュトの肩に置こうとしたイリアの手を取って言った。クジュトにとっては神の、いや、女神の助け。溜息混じりだが。 そして優しい顔をした。 「クジュト? ことによるとあんたは私の義弟になるのよ?」 クジュト、はっとした。普段彼女が見せないような微笑だった。 「あー……」 ここでイリアも改まって一言。 「クジュト、こんな所で何だが……俺とティアは今度結婚することになった」 イリア、止められたリスティアの手を、優しく、そしてしっかりと繋いで言った。 はっとするクジュトの目。それに改めて気付いたイリア。つんとそっぽを向く。 「式には来てくれ。その…ティアも喜ぶからな!」 言い捨てるイリアの横で、リスティア。ニーナを見てからクジュトに向き直り…… 「幸せにしてあげてね」 とは言わなかった。 (私の自慢の妹は自分で幸せになれる子だから) 心の中で呟いただけ。 「しっかりしてよね? 泣かさない様に」 握ったイリアの手を強く握り返しながら、クジュトに言う。 クジュトは真っ直ぐ見詰め、無言で力強く頷いた。 横ではニーナが目を見開いていた。 「ティア義姉さん…」 リスティアの思いは、ニーナにも伝わった。 「ふぅ」 これの様子を見ていたサフィリーン、満足そうに背を向けた。 周りでは、おじいさんと縁台将棋をしているアルマがイマイチルールが分からず首を捻り、助けを求めた羅喉丸も泰国将棋しか知らないからと一緒に考え込んでいる。泡雪は、教えた住民の淹れた紅茶を飲んで満足そう。周りの住民はその様子を見て喜んでいる。 「今なら新しい踊り、できるかな?」 ふっと視線を流して踊り始める。 やがて、観客が集まってくるだろう。 |