南那〜英雄部隊の到着
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/05/21 21:00



■オープニング本文

●これまでのあらすじ(初めての人用)
 泰国南西部の南那で内戦が勃発した。

 海側の最大の町、椀那(ワンナ)を城下町に南那全体を統括する椀・栄進(ワン・エイシン)に対し、陸側最大の町、眞那(シンナ)を統括する栄進氏の弟、椀・訓陶(ワン・クントウ)が反旗を翻したのだ。

 もともと南那は、漁業と製塩と海上交易の土地。飛空船の普及で海上交易が尻すぼみとなったが、海側の椀那が権力を振るってきた。専守防衛の姿勢から、志体持ちの職業軍人は椀那のみの配備。眞那側は、近年の珈琲交易により潤ったため拳を振り上げる余裕ができた。
 住民の不満を預かった訓陶氏は彼らに戦わせることを避け、外部から私設軍をまるごと召し抱えた。
 両者の関係が一気に崩れた瞬間だった。

 開拓者もかんだ眞那側の反乱最初の軍事行動は、一夜城建設による「往来橋」の占拠。
 椀那側は同時に北東部の元山賊の町、「北窓」の反乱と海賊による「白陽」の占拠にさらされるも、正規軍が往来橋をあっという間に撃破。深夜真世(iz0135)ら開拓者による「英雄部隊」が北窓を制圧することで対応した。
 ここで、北窓には良好な地下資源があることが発覚。
 眞那側は、往来橋の敗戦で戦略的勝利を掴んだものの、内戦勝利後の資源と見なしていた北窓を後回しにしたツケを払わされることになる。
 予備戦力の開拓者部隊が、のちの戦略的勝利となりうる白陽制圧に向かったことも一因で、北窓奪取に失敗したのだ。

 戦況は一気に椀那有利に傾いた。


●本編
「報告! 眞那軍、すでに撤退しています」
「報告! 眞那軍は撤退間際、増援が到着していた模様。攻城戦を睨み駆鎧三体を導入していた模様」
 寒村「羅関」の手前に陣取った南那親衛隊。瞬膳(シュンゼン)隊長の下に次々と報告が寄せられる。
「分かった。とにかく羅関に入る。……開拓者部隊との合流はそれからでいい」
 瞬膳たちは先日、「北窓」での防衛線に勝利した。撤退した眞那軍を追いここまで来ている。
「隊長」
 ここで、瞬膳の騎馬に馬を寄せる者がいた。
「紅風馬軍の到着はもう少し遅れますよ? じっくり待てばおのずと勝敗は決まる戦いです」
 進言したのは、元紅風馬軍の論利(ロンリ)という男だった。どうやら今回の内乱に、紅風馬軍の援助を求めたらしい。
「ただ勝てばいいだけなら、戦う必要もない君の意見がいいでしょう。……ですが、民や上は待ってくれませんよ」
 瞬膳、溜息混じりに言う。
「まあ、そうかもしれません。混乱はさらなる混乱を呼ぶものですし」
「実際、この混乱に乗じてよそ者が暗躍しています。……いや、もう……」
 大人しく引き下がった論利。瞬膳はさらに言うが、言葉を止めた。
「もう?」
「……もう、戻れない位置に来てしまったのですがね。南那は」
 私も外部交流を推し進めてましたが、と口ごもる。
「戻ることができるのは意外と無責任になりがちですよ。進むしかないんです」
 論利、言い切った。
 彼自身、よそ者集団の紅風馬軍に参加したのはなみなみならぬ決意をしたのだろう。また、抜けるのにも。
「報告!」
 ここで新たな伝令が。
「敵はかなり疲弊しているようです。ここを兵站地にしていると思われましたが、特に滞在しての工作などはなかったようです」
「速やかな撤退はそのためか……」
 頷き納得する瞬膳。
「すぐ追いますか?」
「当然」
 論利に向き直り追撃の指示を出す。

 本来、交通のどん詰まりだった羅関に眞那軍が入ったのは、新たに「羅関橋」を造ったから。
 長さは50メートルで、幅は10メートル未満。
 眞江というあまり水量の多くない、南那最大の川に架かっている。
「しかし、この時期ここまで水量が少ないはずはないが……なるほど」
 羅関橋のかかる平原に到達した親衛隊。瞬膳は顎を撫でて状況を把握した。
「今回敵さん、背水の陣じゃないのか。向こう岸にはまた魔法の壁で城壁を築いて隙間から狙ってる。もちろん、こんな川は馬ですぐに渡ることはできるが……」
 論利、瞬膳の顔をうかがった。
「いや。この季節にこの水量なのは上流の森で堰き止めてるからだ。馬で川を渡れば堰を切るだろう。……とはいえ、馬鹿正直に橋を渡ると狙い撃ち。堰を少数で偵察に行けば待ち伏せに遭うな」
 ふうむ、と考える瞬膳。
「報告! 英雄部隊、到着しました」
 ここで深夜真世たち到着の知らせ。
「真世さんたちの意見も聞いてみましょうかね」


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
アイシャ・プレーヴェ(ib0251
20歳・女・弓
猫宮 京香(ib0927
25歳・女・弓
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918
15歳・男・騎
龍水仙 凪沙(ib5119
19歳・女・陰
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂


■リプレイ本文


「ちょっと瞬膳さん!」
 羅関橋に到着するなり、借りた軍馬から下りたアーシャ・エルダー(ib0054)が親衛隊長に詰め寄った。
「この戦いが終われば南那は変わってくれますよね?」
「今の内乱で、むしろ悪い方向に行ってますね」
「なんですって?」
 溜息と共に搾り出される瞬膳の言葉。
「民からは、『よそ者を招いた兄弟げんか』と揶揄する向きもあるようですね。徴兵がないことを忘……」
「そんなことより!」
 難しそうな顔をする瞬膳に、語気を強めるアーシャ。
「……少しずつでいいから、私たちを受け入れてくれたように…ね?」
 最初の勢いはどこへやら、願うようにアーシャは言った。
「北窓の地下資源採掘に着手すれば風は変わります。いまは、この戦いを収めることが一番の近道です」
 アーシャ、無言で頷いた。

 この時、深夜真世(iz0135)たちは戦場を見晴らしていた。
「できれば降伏してくれないかしらね」
 借りた軍馬「シギュン」の鞍上で龍水仙 凪沙(ib5119)が手をひさしにしてぐるーり川向こうを見ていた。
「まったくそうだよねー」
 凪沙の横で真世がうんうん。
 敵の様子はというと……。
「降伏をしてくるような相手ではなさそうですね〜」
 霊騎「千歳」に乗った猫宮 京香(ib0927)が敵の駆鎧配置を見てのんびり口調で言う。敵、すでに駆鎧三体を展開し、その左右にストーンウォールを出している。
「俺とヴァイスがいりゃ、こんな川……」
 ルオウ(ia2445)が肩に止まった輝鷹「ヴァイス・シュベールト」と対岸を睨みうずうずしている。
「はぅ! 全力で突げ……」
 ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)がいそいそとアーマー「遠雷」改「ロギ」を展開している。
「待て待て、ちょいと待ちな」
 アルバルク(ib6635)が今にも出撃しそうな二人を止めた。ネプ、へにょと尻尾を垂れる。
「何だよ?」
「この戦いは詰めの段階ってモンだ。慎重にいきたいねぇ。相棒に透明になってもらって偵察に……」
 ルオウに説明するアルバルク。
『おじさんがボクの相棒でしょー?』
 ここで上級羽妖精「リプス」が不満そうに登場。
「いやお前さんだろ」
『じゃあお互い相棒じゃーん!』
 相変わらずリプス、元気だ。
「へいへいっと…そんじゃ仕事だねえ」
『へいへいへー』
 そんなこんなで早速リプスが偵察に向かう。
「アルバルクさん、何だかんだで息が合ってるのね……」
 それを見て感心する真世。アルバルクは「おぅよ」。
「そうだ、真世さん。……新相棒、管狐のたまちゃんでーす」
 凪沙、ここぞとばかりにじゃ〜ん。羽織を纏った管狐が出てきた。
『たまもじゃ。略すでない!』
「うん、分かった。たまちゃんね」
 ぺし。
 素直に復唱した真世の顔に、たまもの尻尾が飛んできた。
 そんな真世に、今度は横からふわんと尻尾が撫でた。
「あ、伊邪那ちゃんじゃない」
『手伝いに来てあげたわよ』
 振り向いた真世に、玉狐天「伊邪那」が七つ尾をゆらり。
 そして真世の笑顔がひときわ喜色を放つ。
「これまで南那内紛には関わっていませんでしたが、真世さんの助力になれればと」
 借りた軍馬に跨るは、上品な佇まいの柚乃(ia0638)。
「凪沙さんの言う通りですし、京香さんの言う通りでもありますよね」
 柚乃、凪沙と京香を見る。頷く二人。
「だったらいちおー最初は降伏勧告か? んじゃ、ヴァイスは……」
「ヴァイス」
 ルオウと雪切・透夜(ib0135)の声が被った。微妙に相棒の名前が同じのようで。ルオウのヴァイスはひとまず空で羽を伸ばす。
 透夜の上級からくり「ヴァイス」の方は。
「我は狙撃役としてこちらにいればいいのだな。それはいいが主よ、それは?」
 相棒銃「劈面雷」を整備するヴァイス、透夜が服装を土などで汚していることを疑問に思った。
「隠密行動をするからね。光る部分なんかはないほうがいいんだ。……真世、ヴァイスと一緒にこっちを頼むよ」
「うん。透夜さん、無理はしないでね」
 透夜、もじもじする真世に「ああ、もちろん」と声を掛け撫でてやる。一緒にいた柚乃がくすりと微笑し、伊邪那が興味深そうに鼻頭を上げて見入る。伊邪那、恋愛探知機でも備えているかのような察し具合。
「真世さん」
 ここでアイシャ・プレーヴェ(ib0251)が寄って来た。
「真世さん。これを使ってみませんか?」
「ほへ?」
 差し出したのは、ロングボウ「フェイルノート」。
「これで敵の射程外から撃ちます。……大丈夫。あたしも一緒ですよ」
 にこ、と自分のフェイルノートを見せる。うん、と頷く真世。
「はう! それじゃ敵の射程外で目立ってるのです!」
 彼女達の背後でロギを展開していたネプが、がこんと胸部搭乗口に収まった。ゆっくりと前進する。
「アイシャ〜っ!」
 瞬膳と話していたアーシャもやって来た。
「見て。降伏勧告用の『和平交渉』の旗!」
 ばばん、と掲げるアーシャ。
「これを掲げてゴリアテで行ってきます!」
『ただいま〜。敵はあまり数がいないよーっ。そのくせ戦う気満々ー』
 アーシャがアーマー「遠雷」改「ゴリアテ」を展開し旗を背中にくくっていると偵察に出ていたリプスが戻る。
「お疲れさんよ〜。しかし、少数なら自業自得ってもんだな」
「では、行動開始しましょうかね〜?」
 アルバルクが皆を振り返ると、京香がのんびりと頷く。ちなみに今回は髪を束ねて変装はしていない。
「さて。英雄部隊の到着ですよ」
 アイシャが悪戯っぽく言って、戦闘の幕が開く。



 話は前後するが、瞬膳たちは行動の初手を開拓者に任せた。
 これは、以前の「往来橋」戦で戦いに圧倒したものの、眞那軍が橋を燃やして撤退したことが反省材料となっている。
 今回、もしもまた橋を壊して逃げられた場合、正規軍がまた橋を壊したと誤解されないためである。
 実は真世たち開拓者は前から同様に都合よく使われている。「英雄部隊」という響きの良い名前で飾られているのはその代償である。過去に大きな失態がないため名前に相応しい響きで住民に知られることとなっているが。

 閑話休題。
――ばさっ。
 羅関橋に、「和平交渉」の幟旗が翻る。
 旗をくくったゴリアテは、ゆっくりと、相手を刺激しないように橋を前進していた。もちろん、敵の射線が多く集まっている。というか、対岸で橋を塞ぐ敵の火竜型駆鎧が前進してきて腰を落とした。カノンチャージでゴリアテをギリギリ射程範囲に入れたぞ。
 そしてゴリアテ。
 がこん、と胸部ハッチを開いてアーシャが姿を現した。
 ここで敵後方から狼煙が上がる。
「まずいんじゃねえ? 堰を切る合図かもだぜ」
 友軍の岸から見守っていたアルバルクが思わず漏らした。
「橋の下の皆さん、本格的にバレましたかね〜?」
 京香が小さく首を傾げた。
「透夜に超越感覚があるだろ。堰を切られたら水の音でわかんだろ?」
 ルオウが指摘した。
 実はアーシャが降伏勧告をする隙に、橋の下から凪沙、柚乃、透夜が接近を図っている。敵が左右広くに陣取っているので敵の横からはばれていると見たほうがいい。騒がないのは戦略上のやりとり。が、中央にはばれていない。逆に、橋の下から狼煙は見えない。加えて、敵が堰をいつ切ってくるか。微妙な駆け引きの最中にあった。
「真世さん、下がりましょう」
「う? うん」
 アイシャ、戦馬「ジンクロー」に乗って後ろに引いた。霊騎「静日向」に乗った真世も一緒。少しでも敵を油断させたいとの思惑。
 そしてゴリアテ。
 アーシャの声が響く。
「私たちは百戦錬磨。わずか数騎でアヤカシの大群を消し去り、手練の軍勢相手をものともせず、南那の英雄と呼ばれているのは周知の通り! まさに一騎当千!」
 聞いて、敵がざわついた。
 自分たちができなかった北窓攻略を、英雄部隊が成し遂げていたことを知っているからだ。
「志体持ちが束でかかってこようとも退けましょう。これ以上は南那を疲弊させるだけ。貴方達は無駄に血を……」
――ターン。
 続けたアーシャの言葉に、敵陣から狼煙銃が上がった!

 この時、橋の下。
「敵の左右からは看破されてるからこれ以上は……」
 橋の真ん中にある橋脚に身を隠していた柚乃が呟いた時、狼煙銃の音が聞こえた。
「今の……射撃にしては響きが」
 同じく身を隠しつつ竹筒で上流側の動きを監視していた凪沙が振り返る。
「そうだね。ゴリアテは動いてない……あ!」
 下流側を監視していた透夜、橋の上を気にするが目を見開いた。
「上流から何か聞こえる。堰を切ったと思う!」
 透夜、慌てた声を出す。
 同時に、橋脚を捨てて対岸に急いだ。凪沙も、柚乃も!
――シュン・シュン……。
 これを見た敵が一斉射撃に踏み切る!

 同時点、橋の上。
「ちょ……最後まで聞きなさーい!」
 周りで戦端が開かれるのを見て叫ぶアーシャ。
――ごうっ!
「わっ! ちょっと!」
 火竜からの火炎放射、来た!
 威嚇の意味合いが強いため被害は微少だが、慌ててゴリアテに乗り込む。旗は、折れた。

 敵の射撃が始まった時、味方の岸。
「弓兵以外突っ込む! 続けっ!」
 瞬膳の突撃の合図が響いた。
「結局ごリ押すんじゃあねえかい……いやだねぇ。行くなら速やかに、遅れたら洪水ってか」
『わっ! もう水が来てるじゃん』
 借りた軍馬に跨るアルバルクのぼやきに、空飛ぶリプスの驚き。
「行く奴ぁ、下流側から一気に行くぜ」
 盾を構え、アルバルクが一気に河原へと下る。リプスは空から戦場に。
 たちまち敵の射線はストーンウォールの影からまだ干上がったままの川に集中する。
「真世さん、炙り出しにいきますよ!」
 これを遠くから見たアイシャ、愛馬ジンクローの馬首を巡らせ長距離射程に力を発揮するロングボウ「フェイルノート」を構えた。
「うんっ。アイシャさんに続くねっ」
 真世も静日向に跨ったまま、同じ弓を構えた。
 先程引いていたが、実は射撃の低位置に引いただけだ。
――ひゅん、ひゅん……。
 アイシャは一度に三本の矢を、真世は一本ずつを敵の壁に向けて射掛けた。距離が長くても的は大きい。真世ですら、的中する。
「うわっ。あの距離からか?」
 敵の壁は一気に崩れ、むき出しとなった射手たちはアイシャたちを見て驚愕する。
「おわっ!」
 さらに壁が壊れむき出しになった敵から悲鳴。
 股間の下を矢が通過したのだ。もうちょっと上なら的中していたぞ。
 その敵、対岸を見る。
「壁に隠れているなら、壁ごと射抜けば問題ないですね〜。この距離ならなんとかなるのですよ〜」
 千歳に跨った京香、にこりと微笑しゲイルクロスボウをまた発射した。
「ぐあっ!」
 先の敵、詳しくは書かないが地獄のような苦痛に悶絶することとなる。
『……我も、見習ったほうがいいのか?』
 一緒に援護射撃していたヴァイス、どうしようか迷ったが『主に後で聞いてみるのが良いか』。とりあえず、京香のように急所狙いはしないことにした。



 その頃、橋。
「どいてどいてーっ!」
 アーシャ、ゴリアテでオーラダッシュ。軸線をずらした敵の火竜型と橋の上ですれ違いざまに斧と盾の攻防を見せる。
「やるじゃない」
 ちらと振り向いたゴリアテ内でアーシャは敵の反応に感心する。
「……でも!」
 敵もアーシャを意識したが、アーシャはそのまま橋を渡った。自分の役目は忘れない。
 その敵に、新たな駆鎧が襲い掛かる!
「はうーっ!」
 ネプのロギが突っ込んできてるのだッ。
「ゲートクラッシュを……」
 唸りを上げて下から掬い上げる相棒斧「ウコンバサラ」。敵火竜、ここでロギに気付くがもう遅い。
「お見舞いするのですっ!」
 踏み込んだ低い姿勢からぶうん、と振り子軌道でアッパースイング。
――がしゃっ!
 ウコンバサラ、綺麗に敵の下っ腹に入った。
 そのまま振り上げるロギ。
 橋の上で桜色の鉄の巨人が黒いマントをなびかせ巨大な斧を振り切った姿と、機首を天に向けて一瞬浮かぶ火竜型駆鎧がまるで絵画の世界のような美しい構図を見せる。
――どしん! ……ばふっ!
 敵もさるもの。
 中の操縦者はノックダウンしてなかった。橋に倒れたと同時にポジションリセットで体制を立て直した。
「耐えて耐えて、皆を守りつつ、全力で攻めるのです!!」
 ネプも闘志満々。起き上がった敵に組み付いた。
――どっ・ごぉぉぉ……。
 ここで橋の下に大量の水が到達。
「はう! 下の皆さん、無事だったですかね?」
「道が開けば後は突撃あるのみでしょうか〜? 下からも無事に渡れたようですしね〜」
 ネプが敵に組み付いて時間を稼ぐ間に、千歳に乗った京香がその横を一直線に駆け抜けた。いや、最後はロデオステップでフェイントして橋のたもとで狙う敵を千歳の後蹴りを見舞っていたが。
「千歳、それでは行きましょうか〜。思い切り撹乱してあげちゃいましょう〜。大きいのは他の人にまかせてこちらは人間さんの相手するのですよ〜」
 京香、右手に馬首を巡らせた。
 アーシャのゴリアテを追って上流側に行くようだ。
 そのゴリアテ、上流側にいる遠雷型と対峙していた。
「刮目しなさい! 帝国騎士の底力を!」
 ゴリアテ内部でアーシャが叫ぶ。
 瞬間、オーラがゴリアテを包む。ギガントシールドを掲げて敵の巨大な剣を防ぐと、掲げたアーマーアックス「エグゼキューショナー」が唸りを上げる。
――がしゃーっ。
「アーシャさん、調子よさそうですね〜」
 敵駆鎧が激しく大地を転ぶ横を駆け抜けつつ、京香が射撃。巻き込まれないように敵は遠巻きにしているのを間合いに活用していた。

 時は若干遡る。
「たまちゃん、もし水に流されたら浮いて橋の上まで引き上げてねっ」
 凪沙がうさ耳をなびかせ対岸を目指しながら叫ぶ。
『そりゃまた気の沈む話じゃの……』
「そんなことより敵が待ち構えてます……」
 浮かない顔をするたまも。さらに横を走る柚乃が対岸からの射撃精度が上がっていることに不安そうな声を出す。
「じゃ、いっちょ派手に行きますか〜」
 凪沙、ぶうんと焙烙玉。
 どおんという派手な爆発は陽動だ。
 着弾した土煙がまだ舞っている間に、凍てつくブレスと雷が一直線に敵陣を駆け抜けた。
「おわっ!」
 慌てる敵陣。
 凪沙の氷龍と柚乃のサンダーヘブンレイだ。
――どっぱ〜ん。
 ここで大量の水が到着。
「危なかったわね〜」
「たまちゃん……よかったね」
 安堵する凪沙。柚乃は凪沙の朋友を気遣う。
『たまもじゃ!』
『たまちゃんがお似合いじゃない』
 たまもは別の意味で不満。伊邪那はからかうが。
 とにかく無事に上流側対岸に到着。瞬膳をはじめとする南那正規軍も数騎が無事に渡っていた。

 同じく、増水前。
「おいっ。飛んでる奴がいる!」
 橋の下流側で敵の声が。
 ルオウがヴァイス・シュベールトと同化し、背中の光の翼を羽ばたかせ低空から渡河していた。
「気付かれたんなら派手に行くしかねーよな」
 瞬間、ごうっ、と翼が炎に変わる。
 火の鳥となって対岸まで一直線。
――ぼこっ。
 目の前の壁はアイシャ、真世、ヴァイスの集中攻撃で今、崩れた。
「よっし。突っ込むぜーっ!」
 ルオウ、むき出しになり慌てる敵を炎の翼に巻き込む。
「ちょうどいい」
 さらに下。
 水のない川を透夜が走っている。
 一瞬で下流側対岸に上がった。
「このっ……ぎゃっ!」
 ここで敵に気付かれたが、太刀「鬼神大王」を逆手持ちで抜くと一瞬敵に突き刺して抜いて、その場を後にした。ぶしゅう、と敵のわき腹から血がしぶく。
「え?」
 敵の視線が透夜の移動についてこなかった。一瞬遅れて集まる。
 その時には、もう透夜はそこにはいない。
「これが早駆と影か……」
 またも敵を刺して場所移動。敵が血をしぶかせ倒れたのを背中で感じる。
「いい感じだ」
 手応えを感じる透夜だった。
 と、その顔を上げた。
「やーれやれ。あぶねぇとこだねぇ」
 どぱーん、と川に水が戻る前にアルバルクが借りた軍馬に跨って上がってきた。
『何やってんの。もう結構敵を撹乱した後だからねー』
 透明化していたリプスが姿を現し寄ってきてぷんぷん。彼女の働きも透夜の奮闘に寄与していた。
「じゃあ、仕事ですね」
「おぅよ」
『だねっ』
 にこりと言った透夜に、アルバルクが魔槍砲「ヴォータン」を構えてどーん。同時にリプスも相棒魔槍砲「ピナカ」をどーん。背後に迫っていた敵の人狼型駆鎧に十字砲火を食らわせた。もちろん透夜は早駆ですでにいない。
 代わりに、同化を解除したルオウが姿を現した。
「へっへー。一度やってみたかったんだよな…アーマー狩りをよお!」
 いったん上空に離脱していたヴァイス・シュベールトが舞い降りると、今度は武器と同化した。すらりと抜いた殲刀「秋水清光」が光に包まれる。
――がばっ。
 敵、ルオウに巨大な斧を振るった!
「へっ! どんなに硬かろうが、真っ二つにしてやるよ!」
 真っ向勝負。
 が、これは無謀。
 ルオウの剣は駆鎧の脛に入るが弾かれる。そこに横薙ぎ。吹っ飛ばされた。
 ごろん、と転がったがすぐに膝立ちから再び突っ込む。
 駆鎧は再び下段の横薙ぎ。
「人体とおんなじだ!」
 ここでルオウ、前にダイブ。
 ごめんと前転し横薙ぎを回避。起き上がりと同時に敵の横から膝裏を狙った!
――ぐらっ……。
 敵駆鎧、たまらず倒れた。
 この時、対岸ッ!



「真世さん、急いで上流側にっ」
 遠くにいたアイシャが最初に気付いた。
 流れが戻った川の、対岸上流側。
 敵の増援が物凄い勢いで迫っているッ!
「え? 何で」
 事情がつかめない真世、とりあえず走り出したアイシャについていく。
「きっと、堰を切った部隊ですね……まず魔術師を優先、次に弓術師を狙いましょう」
「うんっ。さっきアイシャさんがやってたように、だねっ」
 アイシャ、敵が再びストーンウォールを構築したのを見て魔術師を狙っていた。範囲攻撃がない分、渡河部隊に瞬間的なダメージはなかった。
 とにかく、味方はネプが確保した橋を渡り始めている。援護はヴァイスに任せ、長距離弓の利点を生かし敵増援をいち早く攻撃した。
 これが大きかった。

「すこしでも、利けば……」
 対岸上流側では、槍に換装した敵に対し柚乃がローレライの髪飾りに手をかざし、息を大きく吸い込んでいた。
「ら……♪」
 「夜の子守唄」を歌う。戦いの喧騒の中、数人が柔らかく膝から崩れ落ちる。
 もちろん利かない敵もいる。
「くたばれや!」
 ノーガードの柚乃にそういう敵が迫った!
 が、敵の目の前は黒く閉じ、ガツンと壁にぶち当たった。
「人生一瞬先は壁ってね〜♪」
『闇の間違いではないか?』
 凪沙の結界呪符だ。たまものツッコミ付き。
『おや、あっちから新手が来たみたいよ?』
 柚乃の肩にふわりと乗って周りを警戒していた伊邪那が主人に報告する。
 アイシャたちの射撃を食らいながらもうそこまで迫っている!
――ざっ……。
「ここはおっさんらに任せときな〜」
 柚乃と凪沙の前に立ったのは、軍馬に跨るアルバルク!
「じゃ、味方さんよ。いくぜ〜」
 渡った味方騎馬部隊を再編し、ここに来ていた。戦陣で味方を鼓舞し、突っ込んだ。
 凪沙、アルバルクたちを追う敵に氷龍をぶっ放す。
 そして叫ぶ!
「あんたたちの奥の手も封じたわ! 終わりにしましょう!」
 なんと、降伏勧告。
「降伏するか……引いてください」
 柚乃も歌うように声を響かせた。
 状況は、敵駆鎧はすべて停止。
 渡河もあらかた終っている。
 増援の奇襲にも対応された。
 やがて、敵は引き始める。

「深追い無用。橋を落とされると孤立する」
 瞬膳の指示が飛んで、戦闘が落ち着いた。
「真世、無事か?」
 恋人の下に駆け寄る透夜。抱き付く真世を優しく撫でてやる。
 そこに他の皆も駆け寄る。
 この様子を見て瞬膳は漏らした。
「深夜真世とその戦友……か。いろいろ助けてもらった。もう、名前のない英雄部隊は失礼だな」
 内乱は、ついに眞那側に椀那軍が侵入した。
 長らく平穏だった土地に、もう防衛施設はない。
 大勢が決した瞬間だった。