七人ミサキと首無し馬
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/05/15 20:41



■オープニング本文

 今から私の話す物語は、決してご他言せぬように。
 むかしむかし、ある田舎の村にそれは綺麗な女性が付き人を従えてやって来たのですじゃ。
 曰く、訳ありと。
 着るもの身だしなみ、そして何よりその気品から名家の出ではないかとまことしやかに囁かれましての。
 おそらく、やんごとない事情で流れてきたのじゃろう、と村人は思うたのですじゃ。
 ところが、女性はすぐに高熱にうなされ亡くなってしもうた。季節も悪かったんじゃろう。
 付き人らは困り果てたが、どうしようもない。
 やがて、七人のサムライが女性を迎えに来たのですじゃ。
 事実を知ったサムライたちは悲しんだ末、付き人と共にどこかに帰って行きよったそうな。
 それから、稀に七人のサムライと首無し馬のアヤカシが村の近くに出るようになりましたのじゃ。
 もしかしたら、女性が亡くなった責任を取らされたのかもですのう。
 村への道中にお地蔵様をおまつりすることで、アヤカシが村近くに来ることはなくなり昔話になってしまいましたがのう。
 え?
 どうして他言せぬように、と?
 なぁに、七人のサムライが自らの失態を広めさせぬよう、太刀を振りかぶって口封じにやって来るからに決まっておる――。


「ひでぇ話だな、おい」
 貸本絵師の下駄路 某吾(iz0163)はそう言って呆れた。
「自分から話しておいて、知れば殺しの手が伸びるってないかがなもんよ?」
 腕組みする横で、弟子の灯(あかり)がぶるぶる震えている。
「まあ、知ってしまえば七人のサムライから追っ手がかかる、というなら語り部はもうこの世にはいない。つまり話をしてきた語り部は幽霊だったというオチがついて物語は終るんだがな?」
 貸本作家の厚木遅潮(あつき・ちしお)はそう肩を竦めて茶を飲む。
「で、それを次の仕事にしようと?」
「ああ。本来は講談師による怪談物なんだが……」
「無理だ。無理無理。語りでは映えるが読み物としては難しいだろう」
 某吾、手を振った。
 実際、語り部の力量が左右するオチである。真のオチも処理しにくい。

 そんなことがあった後日。
 某吾の元に客人があった。
「わしらの村に『七人ミサキと首無し馬』という言い伝えがありましての?」
「ちょっと勘弁してくれぇ」
 某吾、顔をしかめる。
「おや、語り部の怪談はご存知で。ならば話が早い」
「ちょい待ち。……あれって、実際にあった話なのかよ!」
「もちろんですじゃ。道中にお地蔵様をおまつりして村近くに現れることはなくなった、まではの」
 愕然とする某吾。村人はさらっと言う。
「じゃが、先日地蔵様が蹴倒されてましての? こりゃあいかん、と元に戻したのじゃが……」
 ごくり、と息を飲み込み続きを待つ某吾。
「地蔵様から少し村に近い場所で人死にがでたのですじゃ。刀傷と、馬にかまれた痕もあったんでまちがいないじゃろうと」
「待て」
 ここで某吾、とめた。
「何で、そんな話を俺のところに持ってくる?」
「もう、開拓者ギルドに退治を頼んだんじゃが、費用がちょいとあれでな? そうすると、ギルドの係員は『そういう奇天烈話なら、今から紹介するか資本絵師に話をすればなんとかしてくれるかもしれない』と紹介されましての」
 つまり、貸本にして後から儲けて、一部の売り上げを話題提供代としてもらえばどうかと。
「ひでぇ話だ」
 某吾が絶句するのは、何だかんだ言いつつ困った人は助けたいという人柄だから。
「仕方ねぇ」
 というわけで、腰を上げる。


■参加者一覧
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
龍水仙 凪沙(ib5119
19歳・女・陰
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
来須(ib8912
14歳・男・弓
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓


■リプレイ本文


 依頼の村から外れた平地。
 地蔵のある場所にて。
「……七人ミサキかあ」
 武僧の戸隠 菫(ib9794)がしゃがんでいた姿勢から立ち上がり言った。地蔵に手を合わせていた。
「未練を成就する方法は無いから、可哀そうでも消滅してもらうしかないか」
 やや伏目がちに言ったが、口調は明るい。いつもの菫だ。
「昔話になるくらいに昔から長く彷徨ってるそのサムライ達にもそろそろ休んでもらいたいよな。それにしても……」
 しみじみと地蔵を見ていたケイウス=アルカーム(ib7387)が言葉を紡いだ。
「聞いた事のある怪談話がオチ以外は実際にあった出来事だとは」
「きみ、興味津々だね〜〜〜」
 ひょい、と叢雲・暁(ia5363)が首を横にしてケイウスの表情を覗き込む。
「い、いやそのもちろん興味だけじゃなくて、えーと……」
 わたわたとした言い訳。
「その伝説って、単に死んだ侍がアヤカシ化して封印されただけじゃねーのか」
 ぼそっ、と来須(ib8912)が横から指摘した。
「そ、そう。アヤカシ退治なら力になれるかなって!」
「ふうん。ケイウスちゃんはお話の興味で参加したんだぁ」
 こくこく頷いたケイウスの横で、雁久良 霧依(ib9706)がにんまり。
「いやだから……」
「なーんか謎が多い依頼ね。本当にアヤカシなのかしらねえ……」
 霧依に向き直る横で、龍水仙 凪沙(ib5119)が人差指を口元に当てて思いを巡らせている。
「ああ。情報に妙な点はあるが…どのみち実際にこの目で見なければ確かめようがない、か」
 琥龍 蒼羅(ib0214)も静かな佇まいで考えていた。
「そーだな。ケイウスさんはもちろんそんなつもりで言ったんじゃないよなっ!」
 新たに篠崎早矢(ic0072)がにこにことケイウスの弁護を始めた。えらくにこにこしている。何か下心があるのだろうか? ケイウスもちょっと腰を引き気味。
「それはいいけど、被害者の体に馬の噛み跡があったって言うのが気がかりね」
「首の無い馬がどうやって噛むってんだよ…」
 よそでは霧依がそう言い、来須が突っ込む。
「そうね。まさかとは思うけど、首だけ飛び回っているかもしれないわね」
 凪沙、霧依に言いうんと頷き合う。
「周囲は機動力のある馬に有利な地形、一体だけとはいえ特に注意が必要だな」
「うん、そうだな。蒼羅さんの言う通りだ。弓で狙うのが楽な首なし馬を最初に狙おうか」
 蒼羅が唸ると、今度はそちらに同調する早矢。ケイウス、何となくホッとしたり。もちろん早矢は特に何かするとかいうつもりはなかったのだが。
「それにしても、どうして七人ミサキは現れるのかしら? 迎えに来た女性の代わりにだれか身代わりでも連れて返りたいのかしら? それとも、六人が現れて欠けた一人を連れて行くとか」
「一人欠けて現れて、だれか一人を新たなミサキにするってのなんかだったら、イヤだな」
 その来須、菫の素朴な疑問に反応して眉をひそめた。
「どちらにしても、だれも身代わりには……」
「なんだか面倒くさい相手みたいだね〜」
 姿勢を正して改めて口にする菫の言葉に被せ、暁が気だるそうに遮る。両手を頭の後ろで組んで胸を反らしてみたり。
 その時、気付いた。
 初夏の雑草が風に揺らいでいた黄昏時の田園風景が、徐々に霧に飲み込まれつつあることを。



「霧が出てきたな…」
 早矢も周囲の変化に気付いて周りを改めて見回した。彼女の緑を貴重とした衣装もだんだん霧に包まれていた。
「気をつけて。散開すると同士討ちの危険があるわ」
 霧依が早矢の側に寄った。
「こう視界が悪いと弓の意味ってのが…あるか」
 矢を番えずに火炎弓「煉獄」を構えた来須。鏡弦で索敵するつもりだ。
「鏡弦はクルス君にまかせる」
 強弓「十人張」を構える早矢は……索敵はしないようで。
「いいけど……って、来てるぜ。正面から七匹」
「ミサキたち、だけ?」
 天輪棍を構えた菫が来須に身を寄せ確認する。
「正面? 縦列、それとも鶴翼かしら?」
 凪沙が五行呪星符を構えて前に出る。
「七人のサムライ……だけ? 首無し馬は?」
 ケイウスは聞くや否や、詩聖の竪琴で警戒なリズムを奏で始める。楽曲は、「泥まみれの聖人達」。遠くまでよく響く警戒な調べだ。
 その横で、突出しようとした暁がたたらを踏んでいた。
「あれ? いま気付いたんだけど……今回の相手って、突っ込んで牽制とかして足止めしようとしたらフクロにされる?」
「あまり味方と離れすぎないようしたほうがいいな。逆に、移動の早い馬が突出してくれば……」
 蒼羅は止まった暁の横に並んで牽制しつつなだめる。
「……普通に前衛やるよ!」
「いた! 敵後方から一気に来た!」
 暁の決心ともう一度鏡弦をした来須の叫びが被った!
――ドカカッ!
 他の者も、もう音で分かった。
 凄い勢いで馬の蹄の音が接近していた。
「もう待てないわ!」
 凪沙、白銀に輝く龍らしき式を召喚。一直線に敵を巻き込む冷気のブレスを放った!
「で、やっぱり近付いてくるんじゃねえか。しょうがねえ…」
「近寄らせる訳にはいかん!」
 愚痴る来須に凛々しく言う早矢も弓で狙った。
 いや、正確には視界で確実に捉える手前で、放った。そうしないと濃くなった霧のため安全圏での二射目ができない。何より近寄らせる訳にはいかない。
 そして、それらはすべて空を切った。
――ガッ!
 一つの音を残して、一瞬だけ姿を現した馬のアヤカシは目の前から消えた。
「そんな……」
 この時菫、顎を上げていた。
 敵の馬アヤカシが、霊騎の「踏みつけ」のように跳躍していたのだ。
「……ふうん。しかも結構飛ぶのね」
 前でアイギスシールドを掲げて味方の盾になろうとしていた霧依はまったく動かないまま、それだけ呟いた。完全に頭上を抜かれた。それでいて視線は上げない。信念は崩れない。なぜなら――。

 話はいったん、馬の行方に。
「奏できる!」
「あたしが代わるね!」
 狙われたケイウスは敵をまんべんなく削ろうと「精霊の狂想曲」を奏でていた。菫、身代わりにならんと敵の着地点手前に入った。
 ぶうん、と天輪棍を大きく振り回す。
 がつっ、と着地した馬は攻撃を前脚に受けてそれ以上の行動はできず。が、今度は体当たりの動き。ケイウスと菫が左右に別れかわした。

 ここで蒼羅の叫び。
「前、来るぞ!」
 もちろん、上を見上げていた霧依はそれ以上馬アヤカシを追っていない。前に集中していた。
 敵サムライアヤカシ、横一列で同時に突っ込んできている。
「アヤカシになってもつるんでるなんて仲のいい事ね。いいわ、みんな纏めて瘴気に帰してあげる♪」
――ドウッ!
 これを待っていたとばかりに霧依が盾を下げ、錫杖「ゴールデングローリー」を掲げる。同時に敵の足元から炎の柱が巻き上がった。そのさま、まさに火山の噴火の如く。
 それでも敵の突撃は止まらない。というか、止まればまた食らう可能性がある。止まるわけがない。
 この時、蒼羅。
 つつつ、と剣も抜かずに微妙に横に動く。
 左翼にいる横一列の敵をやや誘導し……。
「一体ずつ確実に」
 巨大な斬竜刀「天墜」を鞘走らせ踏み込みと同時に抜刀一閃!
 誘導して空いた隙間に身を入れている。蒼羅側から見て横一列だった敵は、今度は縦一列になっている。一対一の対峙となる。
 そこへ、とどめの秋水!
 それはそれとして、蒼羅は背後に位置してしまうことになるほかの敵についてどう考えていたのだろう。
「……待ちで前衛やるのもたまにはいいかもね?」
 暁だ!
 手裏剣「八握剣」を投げて敵を迎撃していた暁が忍刀「風也」を逆手持ちに蒼羅の背中合わせに入っている。長いツインテールの髪が派手に舞うが、この刀は乙女の頭髪を斬ることができないとの言い伝え。邪魔にもならなければ迷いはない。逆に、ひらりと落ち着いた髪の奥で見据える瞳に迫力が宿る。
 瞬間、動いた。
 敵一体を横に凪ぐ。

「七人のサムライと首無し馬…なるほど、確かに話の通りだね。……何かが足りないけど」
 逆に下がっているのは、ケイウス。きょろきょろと何かを探している。
「悪いけど……」
 代わって前に出る菫。
 一瞬、片手で印を結びながら一瞬目を閉じて意識を集中した。
(長い戦いの歴史の中で、だれか一人が欠けることは不思議ではないはず……それでも七人を保っているということは)
「あなた達の身代わりになんかさせないからね、ミサキ達!」
 目を開き、喝の気勢と共に精霊力をまとう。
 敵が来た!
「あたしが使える最大の奥義で消滅させてあげるから!」
 振るうは黒塗りの天輪棍。見据える瞳の強さの如く、炎の幻影が武器を包む。
 これが「護法鬼童」の一撃!
「せめてもの、餞」
 腰を落とし振り切った棍の手応えを感じる菫。背後で敵が瘴気に返る。
「ほらほら、通さないよ〜」
 暁は健康的な太股を晒しつつ細かくステップステップ。
「コレが『NINJA』の様式美!」
 動き回って敵の足を攻撃している。一撃は浅い分、数多くの敵を翻弄し足止めに貢献していた。右翼の敵は完全に崩れた。
 左翼は?
「数の上では互角…、早めに数を減らせばその分一体に複数人で対応出来る」
 蒼羅は数を減らす作戦。
「こう乱戦になるともうコレしかないわね〜」
 背後では凪沙が小さな虫型の式を召喚して敵に襲わせていた。「毒蟲」という。猛毒で敵の手足を痺れさせるのだ。もちろん、動きが鈍る。
――ドカカッ!
「今度は後からだな」
 来須は、引き返してきた馬アヤカシに狙いを定める。
「とにかく早く番えてたくさん矢を……」
 早矢、もう撃った。
 近寄られるのがイヤで弾幕を張るつもりだ。
 これが図に当った。
『ヒヒン』
 見えないながら跳躍前を捉えた。今度は上からの攻撃はない。
 代わりにそのまま突っ込んできた。
「くっ……」
 狙われた来須、山猟撃で迎撃しつつ身を投げた。
「来た!」
 この時、ケイウスの叫びが響いた。



「……なるほど、確かに話の通りだね」
 力強く竪琴の弦を弾くケイウス。
 「重力の爆音」を叩き込んだ先には、たったいま姿を現した、空飛ぶ馬の首がいた。
「まさかと思ったけど、やっぱり飛び回ってるねぇ」
 これを横目で見た凪沙が悪戯っぽい微笑。口元に添えていた五行呪星符をひらめかせると、どどんと結界呪符「黒」が登場した。
「うまく後から出てきて囲んだつもりなんだろうけど、お見通し♪」
 仲間の背中側になりそうな方面に配置し、敵の包囲を邪魔した。
 これに引っかかった馬アヤカシが回り込んでくる。
「いい仕事だ」
 その動きを読んでいた蒼羅、腰を落として雪折で迎撃。敵の足を狙い転倒させた。そこへとすとす、と早矢の矢が刺さり、瘴気に返る。
「侍の頭が馬……なんかじゃなくてよかったな」
 見たくもない、と来須が首アヤカシに射撃射撃。何かが絡まっていた馬の首は突進を止めた。
「そういうのも頭に入れてたし、かしら?」
 アヤカシに絡まっていたのは、霧依のアイヴィーバインド。にまにまと来須の考えを言い当てつつ敵の動きを観察する。
 下がれば、アークブラストで追撃。
 と思っていたのだが。
「敵は釣野伏せりを狙ってるようでもなし。機動力のあるのは消えた。……こりゃ、後は楽勝かな〜」
 もちろん、暁も敵の戦略を頭に入れていた。
 それがない、となると数的有利になったこちらに分がある。
 しかし。
 そんな打算をしていた暁の瞳が見開かれたッ!
――お嬢さま……お嬢さま……
 ビシッ、と頭の中で何かが弾けた。
 視界は、既に宵闇と霧で非常に悪い。
 きょろ、と見回したのは暁だけではない。
「呪声?」
 凪沙も視線を巡らせている。
 そして……。
「で、出たぁっ!」
 早矢の叫び。
 指差す方――後で気付くが、村側だったと言う――に、ぼぅ……と白く透ける女性の姿が浮かんだのだッ。
 その表情の、なんと無念に引き歪んでいることか!
「ひぃぃぃ……」
 早矢が撃つ。
「最包囲じゃねぇかよ」
 来須は背中側を仲間に任せ、侍アヤカシに魔刀「エペタム」を投げつけ牽制。戻ってくるのをキャッチし敵を睨む。
「これで呪声はある程度防げるはず」
 凪沙は再度、結界呪符「黒」。敵の視界を防いで術から逃れる。
 その横から、再び顔を出す幽霊達。
 が、その動きは想定内。
「突っ込んで……」
 暁だ!
「牽制!」
 いつもの動きで生き生きしている。
「よし、前はあらかた片付いた」
 対侍アヤカシに戻っていた蒼羅の声。
 しかし、敵はまだいた。
 結界呪符の壁が今度は開拓者側に不利に働く。
――恨めしい……恨めしい……
 幽霊の中に、恨み姫も交ざっていたのだ!
「迎えを求めてここまで?」
 主戦場と逆サイドが後衛だ。狙われたケイウスが立ちすくむ。
「だったら、七人ミサキはここに……」
「聞いてないわね」
 菫が身を呈し突撃する。霧依は不意打ちにも慌てずアークブラスト。もちろん、ケイウスも重力の爆音で迎撃している。
「どうして、恨んでばかり……」
 菫が渾身の一撃を放った瞬間!
――恨めしい
 ドォン……。
 恨み姫は、自爆した。
 近くにいる者を巻き込んで。



「まあ、敵はそれで全滅だったんだけどね、下駄路ちゃん♪」
 霧依が下駄路 某吾(iz0163)にそう報告してウインクした。
 あれから戦闘はすぐに終わり、開拓者たちは村へと帰っていた。
「あんた、余裕だが自爆に巻き込まれたんだろ?」
「おかげで『浄境』を結構使ったかな?」
 大丈夫か、と某吾が一同を見回すと、あっけらかんとして菫が答えた。
「首のない馬まではやっぱり、って感じだったんだけどね〜」
「まったくだ」
 凪沙が無邪気に言う。来須はやや不機嫌そうに同意。
「でも地蔵って、結局なんのご利益もないって事かな?」
 一応、戦闘後にも地蔵の整備をした暁が素朴な疑問。
「まあ、何もしないよりはいいんじゃねぇか?」
「それより某吾さんは私たちの話を貸本にするんだろ?」
 暁にそう答えた某吾。そこに早矢が興味深そうに寄って来た。
「あのサムライ達が悪いわけじゃないのに、殺された上にアヤカシになったなんて、なんだかなぁ…」
 その横で、ケイウスが釈然としない表情だ。
「未練、があったんでしょうね。サムライたちにも、恨み姫たちにも」
 うーん、と首を傾げながら菫。
 迎えたい人と迎えてもらいたい人がその場にいたのに、との疑問だ。
「未練、だな。首と胴体があっても馬と首が分かれたまま」
 蒼羅が戦闘を振り返りつつ言う。
「すれ違った時は戻らない、か。……日常でどこにでもありそうな話だな」
「せめて某吾の本では、あの人たちを格好良く書いてもらえるといいんだけど」
 呟いた某吾にケイウスの願い。
「……分かった」

 のち、世に出回った貸本では七人ミサキと首なし馬は侍女と女性の幽霊と無事に出会うと戦うのをやめ鎮まり、首のくっついた馬に女性を乗せて上の方へと静かに戻っていく場面があった。地蔵の側には見送る開拓者八人分の小さな地蔵が添えられ、「見送り地蔵」と名付けられたと締める。