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■オープニング本文 ●前口上 大アヤカシ「黄泉」の撃破には成功した。 天儀東北に広がる広大な魔の森に国土がさらされ、既にその半分以上が魔の森に飲み込まれてしまったいた東房での戦いは、黄泉の撃破と残敵の大半の退却でいったんの決着を見る。 が、それで人々の安らかな日々が手に入ったのか? これでアヤカシの脅威に怯えることがなくなったのか? 否。 各地の森には若干の敵アヤカシが潜伏しているのだ。 もっとも、指揮系統に組み込まれた組織的な戦力ではない。 報告によると、。四叡山では舞首など、架雀山ではキメラなどが再編成されれば強力な戦力となる敵アヤカシが分散して潜伏しているという。 これを掃討するため、武天軍、朱藩軍、理穴軍の空戦部隊が各個撃破の戦闘を展開している。 しかし、出てくるのは人面鳥や眼突鴉など、単体で脅威になりえない敵ばかり。 とはいえ、探索しつつの戦闘で戦力分散の愚を犯すと各個撃破の対象となってしまう。 各軍は、開拓者の増員を求めた。 ●大凶部隊 場所は、神楽の都の開拓者ギルド。 「ねえ、紫星。本当にこの依頼、受けるの?」 おずおずと在恋(iz0292)が言った。 「ええ。うってつけだわね」 依頼の張り出しを見たまま、表情も変えずに紫星(iz0314)が言い放つ。 「うってつけって……。私たちって、今までそんなにツイてなかったのかしら?」 はふぅ、と溜息を吐く皆美。 「ちっくしょう。俺に志体がありゃあなぁ……代わりに戦ってきてやるのに」 ぱしん、と拳を自らの掌に打ち付け兵馬が悔しがった。 彼ら四人は、香鈴雑技団。 泰国で孤児だったが、泰に残っている四人と合わせて雑技団を結成して貧しい町を脱出した。 「ツイてない、と思ったことはないわ。うってつけ、と言ったのは……」 実は八人の中で、紫星だけは結成当時の参加ではなかった。 裕福な、ある町の娘だったが政略結婚に利用されるのを嫌って雑技団に入り家を捨てた。 親に頼らず、自分たちの才能だけで町を渡っていた孤児七人が眩しかった。 転じて、自らに才能はあるのか? 自分の人生は自分で決められていたか。 「世の中で、私の力を確認するのにはツイてないくらいの方がちょうどいいのよ」 さらり、と肩にかかった髪を後に跳ね除けて言い放った。 「私に才能はあるし、他人に手を引かれなくても自分の人生は自分で歩めるわ」 言葉にしなかった自問に答えつつ、受付へと歩いていく。背後で寂しそうにしている在恋に、「大丈夫。私たちがいらないって言ってるわけじゃないから」と皆美がなぐさめていた。 「しっかし……ひでぇな。この発想」 兵馬は頭の後ろで手を組んでもう一度依頼書に目をやる。 内容は、東房の魔の森で残敵掃討する武天軍、朱藩軍、理穴軍に協力し、大部隊ゆえに見逃したかもしれない地域の残敵を討伐する空中戦依頼だ。 何が酷いかと言うと、 「四叡山に潜む『舞首』は、三つ首の三連攻撃ラッシュ型。少数の時に襲われると運が悪いとしか思えないほどの相手です。討伐するには瞬間火力に自信がある者が向きますが、今まで発見できなてないため、確実に遭遇するためには『運の悪い者』が適任かもしれません」 との一文。 「来たれ、『大凶部隊』」 という煽り文句もふざけているとしか思えない。 とにかく、紫星と一緒に大凶部隊として現地に向かい戦ってくれる人、求ム。 現地には、ここで恩を売っておくのだとばかりに回航してきた中型飛空船「ラ・ヴィラ・ド・ショコラ」、通称「ショコラ」で向かうこととなる。 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
ハーヴェイ・ルナシオン(ib5440)
20歳・男・砲
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
来須(ib8912)
14歳・男・弓
八甲田・獅緒(ib9764)
10歳・女・武
ノエミ・フィオレラ(ic1463)
14歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ● 中型飛空船「ラ・ヴィラ・ド・ショコラ」の船内食堂で。 「それじゃ皆さん、ツイてませんように」 給仕係が開拓者の皆に珈琲を入れて下がった。 「…普通こういうのってゲン担いで送り出すもんじゃねえのかよ」 来須(ib8912)が不満たらたらで珈琲カップを手にする。 「不運な部隊とか俺初めてだな」 ハーヴェイ・ルナシオン(ib5440)も面長の細い顎に手を添えながら不思議そうにする。 「ツイてない奴来たれ、か。ギルドにも洒落の分かる奴が居たもんだ」 クロウ・カルガギラ(ib6817)は明るく笑っている。 「洒落かよ…偉い奴の考える事ってのはまったく訳がわからねえな」 クロウに突っ込む来須。 「あんた、生まれついての不幸者でしょ?」 そんな来須に紫星(iz0314)が言う。 「否定はしねーがよ…証拠にほら、まーたガキばっかり集まってるし」 「何で私の方を見てんのよ。まったくガキね!」 嫌味っぽく返す来須に激しく食いつく紫星。 「仲良くしろって。…しかし、正直俺はこの依頼の適任じゃなかったよな」 明るく仲裁に入るクロウ。 「人生、そんなツイてないって事はないし。生まれてすぐ捨てられたのは不運かもしれんが、お陰で今の家族に出会えたんだからプラマイゼロだし」 「ふうん。…そういう考え方、いいわね」 クロウの身の上話を聞いて紫星の目尻が緩んだ。 「だろ? 超幸運ってことだよな?」 「そりゃ言いすぎじゃねぇか?」 あまりの前向き理論についつい突っ込んでしまう来須。 「そういうあんたは幸せそうね?」 「…言っちまうと、今までそんないい事って無かったのかもな。お袋が死んだ事は分かる。親父は何処にいるんだか知らねえ。気付いたら戦ってるし、それでここに流れて来たし」 紫星にそう言われては男が廃るとばかりに神妙に話す。 「これって不幸な事か? なんでもいいけどよ」 「超幸運ってことだよ」 聞いた来須に、ふっと瞳を伏せてクロウが言っておいた。 「……それはそれでどこか歪んでない?」 紫星は納得いかずに首を捻る。 ガチャン! 「ひゃわっ!」 突然、大きな音が響き軽い悲鳴がした。クロウ、来須、ハーヴェイ、紫星がそちらを見る。 八甲田・獅緒(ib9764)だ。 「珈琲を飲もうとしたら突然取っ手が取れましたのですぅ」 はわわ、と取れた取ってだけ手にして説明する。獅子の耳をしゅんとさせ、獅子尻尾はあわあわ振り放題。 「すいません、カップは新品のはずなのに」 給仕係が慌てて飛んできてカップとソーサーを取り替え珈琲を入れなおす。 「でも、こぼれた珈琲が服とかにかからなくてよかった」 獅緒の隣で天河 ふしぎ(ia1037)がにこやかになぐさめる。 「そ、そうでしょうかぁ。ふしぎさん、優しいですね。女性にもてそうですぅ」 「も、もてるかどうかは知らないんだぞっ! 運もそんなに悪い気はしないけど、役に立てるといいな」 ふしぎ、むきになったわけではない。ツンデレなのでそんな感じなだけだ。あくまで以下略なのだ。 「そうなんですか? 私は道を歩いていて打ち水を掛けられたり扉を開けたら何故か盥が頭上から落ちてきたりは日常茶飯事……」 ただ息を吸っているだけのようにするする出てくる獅緒の不幸事例。 「歩いていて打ち水、扉を開けたら上から……み、皆さん羨ましいですっ…ハァハァ……」 横で一人もじもじ悶えているのは、ノエミ・フィオレラ(ic1463)。花も恥らうような細身の乙女だが、息を荒げていったいどうしたのだろう。 特別にノエミの想像を覗いてみよう。 「おや、君大丈夫かい? もしよければ家に入って服を乾かすといい。なに、男同士だ。なにもしないよ」 なぜか長身のイケメン男性になった獅緒が水浸しで、水をまいていたイケメン男性が自宅に連れ込もうとしていたり。 「ノエミさん?」 「い、いえ何でもございません」 獅緒に覗き込まれ、ノエミは慌てて慎み深いレディ的佇まいを保つのだった。 「そうだなぁ…言われてみればちょっと運が悪いかもって程度だから他の皆に比べたら全然地味だよな」 周りを見ていた視線を戻し、ハーヴェイが珈琲を飲んで言う。 「そりゃ何よりじゃない」 「例えばこの鉄くずとかかな」 紫星がツンすると、ハーヴェイは溜息と共に持参したくず鉄を出す。元は一体なんだったのだろう。 「運はいいときあるよ。万商店の籤で強力なのも出る時は出るけどさ。……中々手に入らない貴重なやつがなるってどういう事なの」 つん、とつついてくず鉄を転がすハーヴェイ。また溜息。 それだけではない。 「神様は俺が嫌いなの。それともあの王様が嫌いなのか?」 つんつんごろごろと次々くず鉄が出てくる。ハーヴェイ、被っていた風のキャスケットをむしり取ってぐぐぐと握り締める。だらんとした犬耳は、果たして心の悲しみを代弁しているのか。 「そーです! 不運と言えばこのくず鉄!」 静かに悲しむ者がいれば素直に猛る者もいる。 アーシャ・エルダー(ib0054)だ。 ごろごろっ、と一気にマイくず鉄をテーブルの上にぶちまけた。 「見てください。大切に使おうと思った物や、友達から好意でもらった物も入ってます……」 ああ、希望に満ちた瞳で鍛冶に勤しんだ日はいつだったか。遠い瞳で悲しく言う。 「もうどれがどれだか分からない状態ですけどね」 ふっと横を向き瞳を翳らせる。これぞしのぶ女のいじらしさよ。 「へ、くず鉄に関しちゃ俺の右に出るやつぁいねえぜ?」 ここで、ゆうらりとルオウ(ia2445)が自分を主張した。 「いいか?」 息を吸ってから、あれやらこれやらそれやらがどーたら、さらにそーしてこーしてと指折りまくし立てる。何を言っているのかは端折るが、つまり…… 「俺以外にこんな二つの称号で呼ばれちまう開拓者は、いない!」 燦然と鈍く輝く「三代目くず鉄マスター」と「七代目くず鉄マスター」の称号は、誰あろうルオウのことであるッ! 「よくもまあそこまで無駄なもの作ったものね。くず鉄に愛されちゃってるんじゃないの?」 「そう、俺こそもっとも鉄屑に愛された男!」 呆れた、とばかり紫星が言う。乗りやすいのだろう、ルオウはここぞとばかりにふんぞり返った。 が、すぐに我に返る。 「いらねーーーーーーー!」 ぺしぺしとテーブルを叩く。背中は泣いている。これぞ耐える男の悲しさよ。 「でも、でもっ!!」 代わりにアーシャが復活! うなだれたルオウの隣で拳を固めて状態を起こした。 「私、結婚して5年以上経っているのに今だ子供ができないのです!!」 「……何なんだよ、この展開」 来須が肘をついて皆から微妙に距離を置く。 「いろいろ頑張ってるのに〜」 アーシャ、テーブルに拳を叩きつけて悔しがる。 「おいおい」 「これはエルダー一族の長の妻として由々しきこと。義父義母は何も言わないし夫も急かしたりはしないけれども私がまさかの石女だったらどうしましょう…周りが優しいからこそ私は心苦しいのです」 ちょっとそういう話は、と止めに入ったクロウに一気にまくしたてるアーシャ。クロウ、言葉を入れる隙間もなくたじたじ。アーシャの方はクロウに「もー私どうしていいか」とうるうる。 「華々しい戦場とかに興味は無いけど、何故かあまりパッとしない成績だしな…。いや、良いんだ。俺は空を飛べればそれで幸せだ。ドラ猫に朝飯盗られたとか偶に射撃中に銃の部品が一個落ちるとかよくあるよくある」 側ではハーヴェイがどよよ〜んとしたままそんな呟きを。 それを見てノエミがハァハァ。 では特別にノエミの以下略。 「いつも悪ィな、朝飯を頂いちまってよ」 ドラ猫獣人のチョイ悪そうなイケメン男子に起きたばかりのハーヴェイが美味しくいただかれちゃってたり。 「ノエミさん?」 「い、いえ何でもございません」 獅緒に覗き込まれ、ノエミは慌てて以下略。 「それより聞いてください。何も無い所でもよく転び財布を落とし、慌てて取ろうとして何故かあった何かの皮で足を滑らして転がったりも……」 気を取り直した獅緒、改めて自らの不幸をまくし立てる。 「それは不幸なことだね、獅緒」 ふしぎ、ここいらで止めないとまだまだネタが出てくると感じて優しく止めた。 「ふぇ? ふ、不幸体質…そうでしょうかぁ?し、知らなかったのですぅ」 ががん、と衝撃を受けている獅緒。 これを見ていた紫星がぼそり。 「……超幸運、ってことかしらね?」 「そういうことだ」 クロウを見ると、彼は珈琲を手に力強く頷いた。 「思い出話か……」 おや、今度はふしぎの様子がおかしいぞ? ぽわわん、としているふしぎ。 「お正月に初詣に行って、夏はビーチで二人の夏物語……」 どうやら恋人との思い出に浸っているようで。 ここで異変があった! 「担当哨戒空域に達しました。『大凶部隊』の皆さん、すぐに出撃してください!」 ついに開拓者たちにお呼びが掛かった。 「よし。平和になったら今度こそ結婚するんだ…あっ、晩ご飯はパイナップルサラダで……あっ!」 ふしぎ、我に返って立ち上がっ……いや、まだ妄想にうつつを抜かしてるようなこと言ってる! ――ずびたーん! 「いっててて……」 出撃しようとしていきなり靴紐が切れてすっ転んだ。 「……これも超幸運なのかよ?」 来須、仕方ないなと転んだふしぎに手を貸しつつクロウを見る。 「どうしましょう、お2人とも素敵ですっ…ああお父様、ノエミは幸せです!」 ノエミがお花畑を咲かせてきゃぴきゃぴ妄想しまくっているのは、あえて見ない振りをする。 しつこいようだが特別に以下略。 「何だ? こいつにゃ手を貸しただけだ。アンタも手を貸してほしけりゃ転んでみるんだな」 イケメン来須、イケメンふしぎに手を貸した瞬間、ちょっと嫉妬しているイケメンクロウに気付き挑戦的な一言を投げているの図。 どうもノエミさんたらカタケの薄い本でしか見た事の無いようなシチュエーションが好きなようで。 閑話休題。 「いや、不幸だな。そのかわりもう幸運なことしか今日はないんじゃないか?」 クロウ、躊躇うことなく来須に言うのだった。 「幸運なこと、か……」 ふしぎは靴紐を応急処置しつつ呟く。 ● そして、ふしぎ・来須・ノエミが出撃した。 「きゃああああ! みみみ見ないでくださああい! ……はっ、もう少し水が!」 ノエミ、駿龍「┌(┌ ^o^)┐BL」に乗り大空で……。 曲芸飛行をしていた。 父への土産だったた最高級古酒をBLが飲んでいたので水をぶっ掛け出撃したのだが、酔いは醒めてないようで。 「そーいや、あんた『らきすけ☆』だっか?」 「そ、そんなの知らないんだからなっ!」 目の前で背面飛行や宙返りをするBLに必死にしがみつきつつスカートの中の純白紐ショーツが芸術的にちらりん☆する様子を見つつ来須とふしぎがそんな会話。一応、二人の名誉のために記すが、見ないようにはできない状況。ノエミは残っていた水をぶっかけようやく落ち着く。 「よりによって殿方の前で何てはしたない…。私はなんて不幸なんでしょうっ!」 ノエミ、さめざめ。 一方のふしぎ。 「……よく考えたら、恋人と出会っては別れをもう4回繰り返し…この人だって思ってた子にも、いきなり出て行かれちゃうし……物凄く不幸なのかも。考えてみたら、最近は温泉行く度に男僕だけで、恥ずかしい目にもあうし、スライムに襲われる夢も…」 物思いに浸りつつ過去の恋人との悲しい……って、途中から「らきすけ☆」回想してるし! 「来たぜ、オイ!」 二人のへろへろ飛行に、眼下の魔の森から中級アヤカシ「舞首」が襲ってきた。三つの顔が物凄い形相で絡み合いつつ一直線に――。 「くっ。天河ならほっといて大丈夫だろ」 来須、まだ名無しの滑空艇を加速させてノエミの方に寄せつつ狼煙銃。駿龍BL、押し出される形で横に逃げる。 「ちょっとでも隙になれば」 火炎弓「煉獄」で先即封を放つ来須。ノエミはピンクのオーラを纏い接近戦準備完了。 が、来たのは呪声のみ。 舞首、一番隙だらけのふしぎを狙った! 「はっ! 不幸でも、お前にやられたりはしないんだからなっ!」 ふしぎ、土壇場で気付いた。 瞬間、滑空艇・改弐式「星海竜騎兵」がカタン・カタンと変形。「可変翼・丙式」形態になると一気に弐式加速で突っ込んだ。 火炎を食らうが、間合いを作る舞首の目の前に出ると魔槍砲「ヴォータン」を振りかぶった! 「食らえ、『零距離咆哮』!」 槍部分を突き立て、魔槍砲どーん。セフル・ザイールだ。 ――ぼが〜ん! 次の瞬間、魔槍砲以上の爆音が。 「天河っ!」 「ふしぎ様には触れさせませんっ!」 自爆した舞首。 ふらつき高度を下げるふしぎの星海竜騎兵。 何とか立て直したふしぎに新たに森から浮上した人面鳥が襲いかかるが、来須の射撃やノエミの流し斬りが敵を退けた。 こちら、別の方面。 ルオウ・アーシャ・ハーヴェイのくず鉄不幸組には幸運が訪れていた。 魔の森から彼らを目掛けて浮上してきたのは人面鳥の群れだったのだ。 「いくぜぇ、バレル・ロール・スラーッシュ!」 輝鷹「ヴァイス・シュベールト」と「大空の翼」で同化したルオウがふわりと空中で姿勢を整えた。 殲刀「秋水清光」を振り払い背中で光る翼をたたむときりもみしながら敵に突っ込む。 気迫の声は剣気のそれで、一瞬と動きを止めた敵に空中での回転斬り。 『ガアアッ!』 ばさばさっとアヤカシ複数の羽根が舞い敵陣形が崩れる。 そして振り向き……。 「きやがれえ!」 咆哮で敵を振り向かせる。 ばっ、と再び秋水清光を構えた。一人で迎え撃つつもりだ。 「……熱いな」 そんな姿に引き寄せられるようにハーヴェイが滑空艇「アウローラ」で横に動いた。急反転からの動きは滑らかで、敵はまったく気付いていない。 「ここなら巻き込むこともないだろう。……援護する」 狭間筒「八咫烏」の黒い銃身が火を噴いた。 びしり、と横合いからの一撃が命中。人面鳥が痙攣して落ちていく。途中で瘴気に戻り、霧散した。 弐式強弾撃。ルオウの攻撃に巻き込まれた後の敵などひとたまりもない。敵の末路を見るのも手短に滑空しつつ単動作で次弾を込める。 「雑魚的には用はなーい! ので、さっさと強いのでてきなさーい!」 敵後背からは上級鷲獅鳥「セルム」に乗ったアーシャが大剣「テンペスト」を掲げ激しく乱入。 「くらえ、人妻の鬱憤パワーー!!」 グレイブソードでたたっ斬る! 追い越し際に流し斬る! セルムの方もストームチャージで適を歯牙にかけた。 「なめんじゃねえよっ! 俺はサムライだぜ? それも天下一になろうって目指してるサムライだ! 不幸? 上等じゃねえか! 全部ひっくるめて背負ってやるよっ!」 前ではルオウが暴れまくっている。 「……確かにくず鉄背負いまくってるがね……何だ?!」 乱戦でも狙撃していたハーヴェイが、気付いたッ! 下から新たに三つ首のアヤカシが不気味に……物凄い勢いで接近していることに。 「まずい。対応できない」 それでもハーヴェイ、狼煙銃を上げた。 その目の前で! 「人を助ける為にサムライ目指す俺が、不幸だってんならむしろウェルカム! そんで必ず帰ってくるぜ! 俺の尊敬する馬鹿野郎の言葉通りに!」 気配に気付いたルオウが振り向き、ぎらんと舞首を睨み振りかぶった。 「来て欲しいのはコウノトリっ! 少なくともこんなのじゃないんです〜っ!」 これコウノトリと違うお断り、とばかりに怒りの形相。大剣「テンペスト」が鬱憤パワーを乗せて大上段に掲げられる。 「夫に対してじゃないの、自分に対しての鬱憤なのです〜! 夫婦仲は良好なのに〜っ!」 「ハードラックってのは、どんな目にあってもかならず生還する強運って意味でもあるんだからなっ!」 びしっ、びしっ、びしっ、と呪声などが降り注ぐ中、セルムの暴嵐突でアーシャが突っ込み、ルオウも続いた。 「……おおっ?」 援護射撃したハーヴェイは見た。 アーシャが突き立てた剣からオーラの塊を敵にぶち込んだことを。 ルオウが駆け抜けるように叩ききったことを! 瞬間。 ――ドゴォ……。 大爆発が起こった。 舞首が自爆したのだ。 クロウ・獅緒・紫星組はどうなった? 「気をつけろ。敵も戦い慣れている!」 白い馬体に鬣や翼のオーラが金色の翔馬「プラティン」を駆るクロウが振り返りつつ声を上げた。すぐに宝珠銃「ネルガル」を構え撃つ。 彼らも人面鳥の群れに襲われていた。 「は、はわわ!? わきゅぅ!?い、痛い、痛いですぅ!?」 武僧の獅緒は、炎龍「獅炎」に乗り敵を一身に引き受けていた。 獅緒、ロングボウ「ウィリアム」を持参していた。 だが、それでいいのか? 組んだクロウも紫星も、自分は不幸ではないと言う。 獅緒は思った。 敵が出てこなかったらどうしましょう、と。 「ええと、お二人共よろしくお願いしますぅ。私はあまり不運とかはないですが、目標は出てきてくれますかねぇ??」 「出てくるよ。俺たちの前にあれだけ探して、残った場所を探してるんだから」 不安に感じてクロウに聞いたら、そう答えてくれた。 「クロウを信じてるわ」 紫星はそう言った。 だったら、私も二人を信じよう――。 「あぅぅぅ、い、痛かったですぅ。この痛みは何倍にもして返すのですよぉ」 そんなこともあり、獅緒は仕込み杖「藤家延広」を振るい、獅炎と一緒に敵の攻撃を一身に受けつつ反撃する道を選んだ。味方が攻撃しやすいように。もちろん、自分自身も奮戦する。 やがて、あらかた人面鳥が片付いた頃。 「来たわ!」 紫星の声が響く。 下から舞首が姿を現したのだ。 「獅緒さん、もういい。紫星さんも……」 クロウ、反応が早かった。 いや、獅緒が前衛で体を張っていたため視野が広かった。 銃を腰に戻し名刀「ズルフィカール」を抜刀すると、プラティンが空中で蹄を掻いて嘶き一気に滑降した! 「俺に続け!」 剣で舞首を差し戦陣「龍撃震」の合図。 獅緒、紫星がクロウの後ろにつき突撃。命は先頭に預けるがごとくただついて行き攻撃合図に備える。 いや、獅緒が遅れた。それまでの奮戦が響いている。 「これが、『ボーク・フォルサー』!」 先頭のクロウは相打ち覚悟で刃を突き立て加速してぶった切った。紫星の矢も立った。 激しい一撃の、瞬間。 ――カッ! クロウ、何があったか知覚できなかった。 ● 戦い終わって、ショコラ甲板。 「はふぅ、なんとかなりましたねぇ? …と、他に怪我してる方がいれば手当しますよぉ? いません…ひゃわ!?」 獅緒、慌てて振り向いて転んだ。 「へっ、今日はツイてたみたいだな」 手当てをしてもらったばかりのクロウが言い切った。 「そーだな。こうして戻ってきた」 ルオウも手当てをしてもらったばかりだが、強気に言い切る。 「さすがふしぎ様、『らきすけ☆』です!」 「それは関係ないんだからな、ノエミ」 ノエミは怪我したふしぎを見て何か妄想したらしくハァハァ。ふしぎ、むっすり。 「よっ……と。食いモンもらってきたぜ?」 「ありがとうございます。飲み食いしてパーッとスッキリしましょう」 ハーヴェイが甘いものを持ってくるとこれまた怪我しまくってるアーシャがやけ食い。というか、まったく元気が衰えていない。 「それにしても、あの自爆攻撃を食らって重体手前で何とかなってるって……」 紫星が皆を見て感心している。 「目標が出てきて自爆して依頼達成。しかも自爆に巻き込まれたのは頑丈なのばかり。こんな幸運はねえよ 」 来須が静かに話をまとめた。 この功績で、自分たちに「大凶部隊」というあだ名がついてしまうことは、もう少しして知ることとなる。 |