香鈴、一夜城燃えし後〜南那
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/04/19 22:13



■オープニング本文

●宿場町・互輪(ゴリン)でのこと
「さぁさ、我ら香鈴雑技団〜♪」
 弁士、陳新(チンシン)の声が宿場町の広場に響いた。
 そこでは軽業師の烈花(レッカ)が力自慢の闘国(トウゴク)と組んで手に汗握る空中での雑技・妙技を披露していた。
 すでに広間には多くの人が集まっている。リーダーの前然(ゼンゼン)はナイフ投げの妙技を先に披露し、多くの拍手を誘っていた。
 いつもの香鈴雑技団の公演である。
 ちょっと違うのは、剣舞の兵馬(ヒョウマ)、歌姫の在恋(ザイレン)(iz0292)、弓使いの紫星(シセイ)(iz0314)、針子の皆美(みなみ)がいないくらい。この四人は天儀に移り、仲間を待っている。
 しばらくして陳新が講談をはじめた。
「古今東西、戦場で知略奇策はあれど今回の『往来橋』」
 陳新、町の先にある橋の名を出した。
 数日前、眞那軍により一夜城ができたばかりである。
「聞けば眞那の椀・訓董(ワン・クントウ)氏の雇った儀賊軍、洪・白翌(コウ・ハクヨク)氏の配下が築いたとのことだが、安心召され。椀那の椀・栄進(ワン・エイシン)氏が攻めればたちどころに蹴散らすこと相請け合い」
 陳新らが開拓者と築いた砦について、ずけずけと言い放った。
「いやまて。互輪の自警団が攻めていったらほうほうの体で帰ってきたぞ。『かなりの猛者が守っている』の言葉は、自警団の情けない言い訳か?」
 客からそんな声が上がる。
「あれには欠陥がある。『背水の陣』といわれる素人仕立ての陣。栄進氏は火攻めであっという間に落とすこと間違いなし。……ただし、これは事あれば自らの領地をも焦土とするとの意思。もしこれをするならば、その領主には今後心を許さぬがよし」
 陳新はそう話し盛り上げた。

 後日、椀那の親衛隊がやって来た。
 往来橋の戦いは、あっという間に決着した。眞那側の砦が燃えたのだ。
 火攻めというより、眞那側が自ら火をつけて引いたのだが。
 椀那側が火を使って攻め込んだように見せかけて。
 撤退する時、交通の要衝である往来橋も焼失した。わざとである。背水の陣で築いたときからの目論見の一つだった。
 同日、南那の英雄部隊こと深夜真世(iz0135)たちの一団が北東部にある北窓(ホクソウ)の反乱を鎮めていた。


●時は戻り、現在
 さらに後日、眞那の洪義賊団宿舎。
「まさか北窓が動いて兄側がそこを鎮めるとは……」
 ほっそりとした訓陶が長椅子に沈み込むように座り、溜息混じりに言った。
「放っておいた密偵から聞きましたが、あそこは良質な鉱物資源が眠っているようで」
 白翌がそちらに背を向けたまま呟く。
「……おかしいとは思いました。反旗を翻したのに一気に南那の心臓を狙わず、のんびりと戦力を温めてましたから」
 白翌、改めて振り返って言った。
「私の考えでは、この戦いは北窓を取る戦いだった」
 訓陶は少しずつ告白する。
「眞那の住民は椀那側との格差解消を求めていたが、そんなことをしても南那の抱える問題を根本的に解決しない。もう、南那は行き詰っている」
 漁業は落ち込み、製塩業は年々尻すぼみで、珈琲交易も初動の優位性を失いつつあった。
 すべての遠因は、内向的な土地柄でよそ者を嫌う体質。内部での活気が失われている。
 長年の悪い影響が積み重なった結果だった。
「私は、これらの打破に門外不出の機密事項だった北窓の地下資源活用を訴えてきた。しかし、父も兄もこれを嫌った」
「……地下資源掘削には外部の助けが必要だから、という理由でしょうか」
 白翌の言葉に頷く訓陶。
「そのとおり。掘削には技術がいる。外部に頼って掘削しても、儲かり潤うのは外部の者。昔から伝統的産業に携わっている者は豊かにならない。いや、連動して豊かにはなるが、そうなっても発言力は外部の者が高くなっていく。そうなると古き南那は崩れる。これを父も兄も……歴代の領主は、嫌った!」
 訓陶、顔を上げる。
「それを、いまさら何だ! 兄は何を考えている?! 北窓に手を付けるならそうすればよかったじゃないか! 私は、一体何なんだ……」
「お任せください」
 まくし立てる訓陶を白翌がなだめた。
「訓陶様は、領民の期待を背負っています。それは栄進様に向けられたものではありません。……私の部下が布石を打っています。次の行動に出ます」
 優しく白翌は言う。

 そして、香鈴雑技団。
「どうしたって、陳新?」
 前然が陳新らのところに来るや聞いた。
「次の私たちの行動は、完全にお館様から任された。……私の考えだと、これとこれとこれ」
 陳新、そう言って仲間に自分の考えを示した。
 以下に記す。

・【白陽】…椀那沿岸部に遠征し、海賊に占領された漁村「白陽」を奪還する。海賊はすでに村に居座り、拠点にしているが特に軍備などせず空き家に適当に居座り、村の食料を毎日無駄に消費しています。村人は普通に生活中。漁村内での白兵戦となりそう。

・【北窓】…北窓の奪還を目指し進軍する。椀那親衛隊の残留部隊との戦いとなる。椀那側はまさか眞那側がここを狙っているとは思っていないので完全に虚を付かれることとなる。ただし、城攻めとなるため勝利するには開拓者の助力が必要。

・【羅関】…北窓まで行く途中の小さな農村。ここで雑技公演をしたり、眞那軍が焼失した往来橋のかなり上流に架けた橋を材料に新たな町づくりなどを説き、この村を味方にするよう工作する。貧しい町で、主要道から外れたどん詰まりにあり発展から取り残されていた町である。

 以上、三つの行動から選択し、まとまって一つを実行する。
 いずれも今後の利点と欠点がある。
 洪義賊軍は、【北窓】に侵攻する予定。香鈴雑技団は友軍として開拓者を独自に雇う。【北窓】に従軍してもよし、義の心により単独で【白陽】開放に尽力してもよし、同じく単独で【羅関】で兵站地確保にうごいてもいい。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
ニクス・ソル(ib0444
21歳・男・騎
猫宮 京香(ib0927
25歳・女・弓
真名(ib1222
17歳・女・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
来須(ib8912
14歳・男・弓
三郷 幸久(ic1442
21歳・男・弓


■リプレイ本文


 一匹の迅鷹が空高く舞っていた。
 すいっ、と低空飛行に移ると、白陽の近くにある林に向かう。
 そこには泰拳士風の衣装に身を包んだ少年がいた。林の影に隠れるようにしている。
 来須(ib8912)である。
 潜伏しつつ白陽の様子を観察し、仲間に動きがあるか確認しているのだ。
 背後には、香鈴雑技団や同行する開拓者たちがいる。
「なあ、白陽開放はいいんだがよ……」
 相棒の迅鷹「レアス」をまた空に放った来須が振り返った。
「こういうのって、依頼人の意向ってのが重要なんじゃねぇか?」
 前然や陳新に聞いてみる。
「俺たちは洪・白翌の指示で動いている。その意向が『好きにしていい』だからな」
「皆さんを雇うって決めましたので、どこに行っても大切な意味があるなら、集まる戦力を見て適材適所がいいと思いました」
 前然が言い放つと、陳新が付け加える。
「傭兵は依頼人の矢で鉄砲玉で、ただそんだけなんだけどな。依頼人に怪我されたら困るからよ。適当に行こうぜ」
 来須、一応納得したようだ。
 そんな三人を尻目に、女性陣たちは明るい。
「さてと、こちらでは私は変装しておかないとですね〜。謎の白猫仮面として行動しますよ〜」
 猫宮 京香(ib0927)がおっとりにこにこと白猫面の準備をしている。
「あー、いいなぁ。香辛姉ェも変装だし、アタシも何かお面を持ってくればよかったなァ」
 楽しそうな京香につられて烈花がそわそわ。これを見た京香、うふふとさらに楽しそう。
「私は紅印が戻ってくるまで変装はできないけどね」
 二人のそばにいる真名(ib1222)。現在、相棒の玉狐天「紅印」の「狐獣人変化」で狐のアヌビスに変装していない。人魂で猫に化けさせて、白陽で先行偵察させているのだ。
「俺の雪も偵察に出てんだぜぃ」
 横で威勢のいいルオウ(ia2445)。彼の相棒、神仙猫「雪」もすでに白陽入りしているらしい。
「そういえば、海賊は商人の手先だって話を小耳に挟んだが、どうなんだろうな?」
 商人風の荷造りをしていた三郷 幸久(ic1442)が振り向いた。
「……あるかもしれませんね。海賊が略奪行為をして逃げずに居座っているのは何か目的があるのかもしれません」
 こく、と陳新が頷く。
「まあ、調べてみるさ」
 ニクス(ib0444)が大きな荷物を背負って立ち上がった。
「結構似合うじゃない?」
「君ほど変装は得意ではないよ」
 からかった真名。ちょうど紅色の小鳥がやって来てどろんと玉狐天の姿となり、ごそごそと真名に何か行ったかと思うと同化。『狐獣人変化』で狐のアヌビス姿となる。
 ニクスは微笑すると商人姿で白陽に向かう。

 白陽の村にて。
「わあい、こっちこっちー」
「あははっ。待て待てー!」
 子供たちは漁師長屋の通りを元気よく駆け回って遊んでいる。
 それを見送る、白い猫。
『まったく、私がなんでこんなことを……』
 白い猫はこっそりそれだけ呟くと、へにょりと髭をたらしつつとぼとぼと歩く。
 神仙猫の雪である。
 潮風に吹かれ、ふっと黒い鼻先を上げる。
「海賊か。おっきな顔していすわってんだろーなー。……よしっ、皆困ってんだろうし、追い出してやろうぜぃ!」
 青空に幻として浮かぶのは、ぐっと拳を固めて主張するルオウの幻影。雪の主人はそう言って、彼女に偵察を任せたのだ。
『ボン? 後で高くつきますわよ』
 ツン、とそう言ってやったのだが、どこがどうやったのかうまく丸め込まれて一人だけで偵察に来ている。
 この時、この村のちょいワル猫がやって来た。
 見栄っ張りそうな半面、頼りなさそうなイケメン猫も。
『はぁ……』
 にゃーにゃーとアプローチされて面倒くさそうな雪。
 ここで名案。
『にゃ!』
 厳しく雪が鳴くと、現地のオス猫はぴゅーっと駆け出した。というか、他の猫も集まってくる。
 猫呼寄を使ったのだ。そして報持ってくるよう言う。
 雪、猫たちを散らすと優雅に背中を伸ばして日向ぼっこすることにした。
『でも、平和ですわね』
 先の子供たちの様子から見て、首を捻る。



「平和、か」
 古びた長屋の連なる通りに腰掛け呟いた男がいる。知的な印象のある男性だが、都会的な印象はなくどこか田舎風景が似合っている。
 三笠 三四郎(ia0163)である。
「どうですか、珍しいものがあるよ」
 そこへ、行商人が。
 目を上げると、商人に化けた幸久だった。
「……見せてもらいましょうか」
 三四郎、素知らぬ振りして客の振りをする。
「前評判どおり、よそ者と分かると警戒するようだ」
 幸久、天儀の三味線や酒、耳飾りなどを出して勧めるふりして手応えを話す。
「世間話を振っても冷たいし、安く売るといっても食いついてこない」
「村人は海賊に手懐けられている?」
 溜息をつく幸久に、三四郎が確認してみる。
「よそ者に警戒している、でしょうね。宿場町は東の方にあるから、そっちの方が商売になるよって。……この村に近付くなって事なのかな?」
「まあ、どちらにしろ私はあちらを狙います」
 首を捻った幸久に、海の方に顎をしゃくる三四郎だった。

「おい」
「え?」
 村の男に声を掛けられ、リィムナ・ピサレット(ib5201)がぎくりとして振り返った。
「見ない顔だな」
「う、うん。旅から旅をしてるからね」
 うろんそうな男。リィムナは明るく言い放つ。
「この村からはすぐに出たほうがいい。海賊が居座ってるし、討伐に軍隊が来るかもしれん」
「海賊っていっても……海賊船は? 人数はあまり多くないのかな?」
 リィムナ、それとなく聞いてみると男は警戒した。
「……遠浅の海岸に大きな船は不便でな。沖から小船で乗り込んで来てる。これ以上は首を突っ込むなよ?」
「わ、わかったよ。じゃあね」
 リィムナ、無邪気を装って村を出る振りをした。すぐに物陰に隠れるが。
「今の、絶対に海賊だね。……長屋の並びから、あそこ当たりに海賊は居座ってそうだけど」
 見取り図を見て当りをつけると、そちらにそっと移動する。
 すると、物陰に狐のアヌビスが。
「リィムナ。ここの村長、村を守るために海賊と仲良くしてるようよ?」
「真名さん、どうして身を隠してるの? 潜入前は踊りとかの色仕掛けで油断させるとか言ってたのに」
「よそ者に敏感みたいね。村人から迷惑そうな目で見られたわ。……うまく海賊を村人たちから引き離そうとしたけど無理ね。海賊は椀那の正規軍が来ると覚悟してるらしくて、いつでも村人を人質にできるようそばに置いてるわ」
「だったらあたしと三四郎さんに任せてよ」
 元気よく言うリィムナ。
 とりあえず、真名はいったん林まで引くことにした。

「お前、何者だ?」
「いや、流れてきた商人ですが」
 村の中で誰何されて振り向いたのは、ニクスだった。
「いいや、お前は正規軍の手先だろう?」
 聞いてきた男はそんなことを言って絡んでくる。
「それはない、本当だ」
「ふん。よそ者の言うことなんか信用ならん。背負った荷物の中も商売道具ではなく武器だろ? ……どっちにしてもここに近付くな。そっとしておけば海賊どもはいずれどこかに行く。海賊なんざすぐに海が恋しくなるもんだ。」
 どうやら海賊ではないらしい。
「商売道具に間違いはない。……ただ、あまり事を荒立てたくないんですよ。これで勘弁してください」
「出て行け。近寄るな!」
 ニクスの言葉に嘘はなかった。ただ、最後に金を握らそうとしたところで相手は機嫌を損ねた。
「できるなら、村人に被害なく海賊を追い出したい」
 これを見てニクス、腹をくくった。真っ直ぐに聞いてみた。
「奴ら、正規軍が来ても手出しできんように村人とできるだけ一緒に暮らそうとしてる。……待て、こっちだ」
 村人、突然ニクスを掴んで物陰に。しばらくして男性が歩き去る。特に普通の格好だ。
「今のが海賊だ。見分けはつきにくいだろ?」
「じゃあ、海賊の船を教えてくれないか?」
 ニクス、どうするつもりだ?

 そのころ、雪。
『にゃにゃ、にゃー』
「これはボンに知らせなくてはね。普通に遊んでいる子達を巻き込むわけにはいきません」
 野良猫どもから情報を得て林に戻る。
 時を同じくして、真名。
「もうすぐ海賊の定期連絡船が来るなら、リィムナや三四郎の言ってた作戦が出来るわね」
 海賊どもが酒宴をしていた空き家で聞き耳を立てていた情報を手に林に走る。
 三四郎と幸久は。
「ねえ、売れてる?」
 話し合っているところにリィムナがやって来た。
「ああ。『思っていたように』ね」
「じゃあ、もっとよくしてあげる」
 含みを持たせて言う幸久に、リィムナが並べた商品を覗き込むようにしてごにょごにょ。海賊船が来ることを知らせる。
「いい買い物ができたな。それじゃあ一緒にあっちを散歩しませんか?」
 三四郎が満足そうに言って海岸線の方に誘う。
「うん、いいね」
「お買い上げありがとう」
 リィムナがついて行き、幸久は店じまいとばかりに荷物を片付けて林の方に向かうのだった。



 そして、残りの者が潜伏する林。
「三ツ兄ィたちがやって来る海賊船を叩いて海賊を村から引き剥がし……」
「私たちがその背後を叩くんですね〜」
 真名や雪、幸久の情報を確認した陳新が頷く。横では京香がゲイルクロスボウを抱いてにこにこ。
「だけどよぅ、空で戦っちゃいけねーんだろ?」
 よしよし、と雪を迎えたルオウが素朴な疑問。
「沿岸部ならあまり問題は大きくならないらしい」
「ニクスも言ってたわ。『村で戦うんじゃないし、ちょうどいい』って」
 尖月島が開拓されてからそんな雰囲気らしい、と前然の説明。真名は村に残ったニクスの言葉を思い出してぼそり。
 こうして、潜伏から突撃待機への準備が進む。
 その中で。
「なあ、陳新」
 幸久が陳新を連れ出した。
「陳新は何を望む?」
「え?」
「仕える眞那が勝利を収めて成り代わればいいのか、それとも他のなにかか」
 陳新、ちょっと考え込む。
「ぽっと入った俺が偉そうな事はいえないが陳新なりに望む結末は思い描いていたほうが良いと俺は思う」
 子どもに詰問しているようで気の引けた幸久が間を置かず言ったときだった。
「眞那の声が通ればいいんじゃないですかね。住民は声を上げて、眞那の領主がその声に応じて、そして雇われて私たちの義賊団が力添えをしました。住民の声が少しでも届けばいいと思います」
 悟ったような笑顔だった。以前、真名に聞かれてから随分考えをまとめたようだ。もう、迷いはない。
「陳新たちが負けても、声が届けばいいのか?」
「はい。私が望むことは、前然や烈花、闘国の無事です。お館様から雑技団に出資してもらった分だけの貢献を早くして、天儀に渡った仲間を追うことです」
「安全で貢献度が高いのは、羅漢だったんじゃないか?」
 改めて聞いてみた。
「こっちに来たのなら、何か貢献度が高いような言い訳を考えておかないとですね」
 陳新、そう微笑した。
「ふうん、なるほど」
「わっ!」
 来須、隠れて話を聞いていたようで突然姿を現した。びっくりする陳新。
「すっきりした」
 それだけ言う。
「矢でも鉄砲玉にでもなるぜ」
 とは言わないが、見据えた瞳にそんな色がある。
「まあ、そのためにはあちらを交渉の席に着かせるのが一番安全だな。眞那側にある程度の権限を認めるために……」
 幸久がそこまで言った時だった。
「あっ。龍が飛んだ!」
 離れた場所から闘国の声が響いた。
 指差す空に舞う、一匹の龍。
 三四郎が相棒の轟龍「さつな」で出撃したのだ!
 海賊船への攻撃開始の合図。村の海賊達にも知らせるため、派手に飛んでいる。
 もちろん、こちらも出撃だ。
「あ、船の奪取始まったでしょうか〜? ではこちらも突撃といくのですよ〜」
 いち早く京香が相棒の霊騎「千歳」に跨り出た。
 真名、ルオウ、来須が徒歩で続く。
「烈花、行くぞ。闘国は陳新を守って殿を」
 雑技団にはリーダー前然の指示が飛ぶ。
「……どこまでやるかは別にして、みんな無事だといいな」
 幸久は相棒の駿龍「暁」に騎乗して空から。陳新たちを見下ろしてぼそりと言えなかった続きを口にする。
 主人を乗せた暁は、森に長く潜伏していたストレスを発散するように群青色の身体を大きく使い、飛ぶ。

 こちらは、一度目立つように高く飛んだ三四郎騎乗の轟龍「さつな」。
「さつな、目が覚めたか? それじゃ、低空飛行だ!」
 昼寝好きの相棒だけに、潜伏時も大人しかったらしい。半面、戦闘できるか心配そうに様子を確認する三四郎だったが、さつなはもともと彼と遊ぶのが好き。主人の指示にキレよく反応しぐうんと低空飛行に切り替えた。沖に近付いた海賊船を狙う。
 その背後を、砂浜から追う姿。
「サジ太、奇襲のターンだよ!」
 リィムナだ。
 すいーっ、と横を飛ぶのは相棒の迅鷹(上級)「サジタリオ」。
 いや、すぐにきらめく光となってリィムナの背中と同化。リィムナが瞳を見開き顔を上げたと同時に、彼女の背中から光の翼が生え、ふわりと空を飛んだ。もう、砂浜に小さな足跡はつかない。
 目の前に下りてきたさつなの影に隠れるように飛ぶ。

「て、敵襲だーっ!」
「聞いてねぇよ、オイ!」
 焦ったのは、接近した海賊船の乗組員。
「とにかく矢を射かけろ。槍を持ってる奴は伸ば……」
「退路を断ちます。覚悟してください!」
 指揮系統が回復したが時遅し。さつなが甲板を掠め飛び、三四郎が咆哮を放つ。
 いや、さつな。
 通り過ぎない。
 強引に方向を変えつつ滞空し、やがて甲板に下り立った。
「さつな、後は頼みます!」
『ぎゃ!』
 三四郎、精霊槍「マルテ」でリーダー格を突き刺すと船内に侵入。咆哮をした後だけにクロスボウの射撃が集中する。扉を閉めて難を逃れた。
 ちなみに、それ以上射撃は来ない。
 なぜなら……。
「ほらほら夜だよ、お前ら〜もう寝なさい〜♪」
 三四郎に続いて甲板に下り立ったリィムナの歌声が響いている。ナハトミラージュ、そして三四郎の咆哮と条件がそろい完全にノーマークだ。頭部にはローレライの髪飾り、キラリ。
「む……おっと」
 ぐらり、と波で揺れるのもあり眠らず抵抗する敵もいる。クロスボウの射撃を受けるリィムナ。
「そんな敵には……」
 撃った敵に、とすとすっ、と鑽針釘が刺さる。
 リィムナ、投擲したり刀で斬りつけたりして手際よく捕縛していく。

 そのころ、三四郎。
「前にいる者はもう何もできないと考えてください」
 長い槍を前に構え、敵を近寄らせない。クロスボゥを持ち出す敵から撃たれはするも、一気に殺到し敵を貫く。
「後からならどう……ぐはっ!」
 背後の通路から、ドヤ顔で敵が出てきたが槍を引き反対側で喉元に突きを入れた。
「大暴れしますので、そのつもりで」
 三四郎、突き出した姿勢のまま冷たく言い放つ。



 この頃、白陽の村では。
「出会え出会え、正規軍は俺っちらの船を狙ってきやがったぜ!」
 海賊達が空き家から出て自らの海賊船を守ろうと海岸を目指していた。
――ざ……。
 そんな海賊どもの前に立つ男一人。
「む。何だ、お前?」
「黒鳥剣……」
 黒い衣装の男はそれだけ呟くと、腰溜めに黒い剣を抜刀した。
 ひゅん、と居合いの剣が一人を斬る。
 ニクスだ。
 ニクス居合いで敵を止めた。
「テメェ!」
「悪いが手加減をしてやるのは苦手でな。死にたい奴からかかってこい」
 襲いかかってくる敵に再び居合い。
 しかし、これは多勢に無勢か。
――トス……。
 勢い付く敵の足元に、矢が立った。
「ニクスさん!」
 撃ったのは上空から。
 空には暁に乗った幸久がいた。飛び去りながら弓「瑞雲」でもう一射する。
――ドカカッ!
「まずは撹乱していったほうが楽そうですね〜。村の中を走っていっぱい混乱させちゃいますよ〜」
 地上からは、京香。
 千歳に乗って背後から突っ込んできた。ゲイルクロスボウの射撃はなぜかピンポイントに男の股間に飛んでいく。もちろん防具があるので一発目はセーフだが、鎧越しにも相当痛そうで。
「あらあら、ごめんなさいね〜」
 京香、わざとらしくくすくす。
「畜生、村人を人質に取れっ!」
 新たな指示に回れ右をする海賊達。
「あら、こっちは通さないわよ」
 そんな声と同時に白い壁がずどんとそびえる。
 真名が結界呪符「白」で通せんぼしたのだ。
「烈花、そっちは頼むわ」
「まかせて、香辛姉ェ!」
 雑技団も使う。真名が指差す敵に烈花が三角跳びで襲い掛かる。
「へへーん、だ。お前らなんかぜんっぜんこわくねーよーだっ」
 ここでなんとも高飛車な咆哮が響く。
 振り向く敵。集まる視線の先に、ルオウと雪。
 たちまち寄って来る敵の武器を叩き落すルオウ。雪はすねこすりで敵を転ばせる。
 が、ここでも敵は次の手を打った。
「ひぃぃ……」
「待て。おい、この村人の命が惜しかったら……」
 一人の海賊が迂闊に避難しようとした村人を捕らえたのだ。
「てめぇ。つまんねえ真似なんかしてんじゃねえよ!」
 ルオウ、早かった。
 隼人で一気に敵に詰め寄る。その迫力に海賊は動きを固めた。ぐぐぐ、と強力でルオウの腕が筋骨粒々になったのも一因だ。
「おらっ!」
 ルオウ、村人を掴む手をむしりとって海賊を投げ飛ばした。
「村人さん達は家の中に隠れていてくださいね〜。賊の方たちは遠慮なく向かってきてくださいよ〜」
 これを見た京香、村を回りつつ住民に声掛け。
「のうのうと馬に乗ってんじゃねぇ!」
 敵が取り付いてきたが……。
「人の射撃を邪魔する奴は、馬に蹴られてなんとやら、ですね〜」
 ロデオステップからの蹴りで文字通り蹴散らしたり。千歳と一緒だと遠近自在。
 これを、前然が冷静に見ていた。
「敵は散開したね」
「ああ。……レアス!」
 前然の言葉に頷いた来須、迅鷹「レアス」を呼び戻した。
「しめた、ガキどもがいるぞ。人質に取れ!」
 敵の集団がやって来る。
「だってさ?」
「下がってなよ」
 前然が聞くと来須、レアスと同化して光の翼を生やした。そのままトップスピードで敵に突っ込む。
「がっ!」
「ぐっ!」
 次々と倒れる敵。
 脚絆「瞬風」と 「疾風の翼」で敏捷性を上げ、駆け抜けざまに敵の攻撃を回避しつつアームクロスボウ「イチイバル」の篭手部分で殴り倒したのだ。
「ちぇっ」
 前然、ナイフ投げをする暇もなかったようで。
 そして、ニクス。
「さて、『商売道具』の出番がきたようだ。」
 ついに背中の荷物を下ろした!
 皆が戦い戦線が拡大したことで敵に隙もできた。十分展開できると踏む。
「うわあっ。何だ、こいつはッ!」
 異様な気配に気付き振り向いた海賊が恐怖の声を上げた。
 そこには、古びた漁村にそそり立つアーマー「人狼」改「エスポワール」の姿があった。オーラチャージで神々しい光を纏っているぞ。
「ダメ押しだ」
 操縦席のニクスの冷静な声。
 外では、振り下ろされたアーマーソード「ケニヒス」の威力に、どぉん、と土が舞っていた。わざと外すように海賊に振るったのだ。腰を抜かした海賊は、そのまま大人しくなった。ニクス、次の敵を探す。
 一方、砂浜。
 結構な数の敵が海賊船支援に村から抜け出て来ている。
「もちろん、行かせない」
 ざざざ、と砂を巻き上げ通せんぼするように暁を飛ばした幸久が弓で牽制する。
 やがて、敵の抵抗も少なくなってきた。



 その後、村は無事に開放できた。
 捕らえた海賊達を締め上げると、やはり商人に指示されたとのこと。ただし、途中から塩の取り引きの商談もしていたそうだ。
 白陽の村人は、椀那ではなく眞那からの義賊団と聞いて驚いた。
「椀那も、製塩に手間と金がかかるようになったことを理解して欲しいもんじゃ」
 そんな不満も言う。浜辺の松は使い果たし、今では眞那からも買っているのだと言う。

 結局、海賊は捕らえたものの、直後に接近した椀那の南那正規軍との戦闘を避けるため、海賊を縛っておいて撤退した。
「頼むから引いてくれ。眞那側から受けた恩は忘れんから」
 撤退を願った村人の言葉だ。