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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ●あらすじ ここは地の果て、流されて西部。 荒野の中に「もふらタウン」という、開拓中の町があった。 近くの鉱山では良質の鉄鉱石など地下資源採掘の見込みが立ち、蒸気機関車も延伸中。自治経済特区との位置付けで、幌馬車での交易も好調で多くの人が流入していた。 町の外れではもふら牧場がのどかに広がり、教会ではバチカンからの……おっと、なんだか頼もしい神父さんやシスターさんたちが人々の心を穏やかに、棺桶職人や料理人など一癖ある住民たちも明るく楽しく過ごしている。 町の利権を独占しようと力で支配しようとする者たちもいた。 二大マフィア「フルハウス」と「ホイスト」である。 中央から派遣される保安官を次々に亡き者にし、力で支配していたが……。 「私は、さる高官の娘。私が死んだら軍が動くわ」 弓を使う少女、紫星(iz0314)が新たな保安官として派遣され無法地帯の状況が変わった。 マフィアがついに全面衝突したのだ。 流れてきた賞金首や一癖ある住民たちも戦いに身を投じ、あるいは巻き込まれ、やがて二大マフィアは滅んだ。 多くの血が流れ、大変な騒ぎとなった。 あるいは、すべては運命だったのかもしれない。 多くの賞金首が引かれるように流れてきたのも、一癖ある住民がここに身を落ち着けていたのも。 この戦いの犠牲者と喧騒が儀式となり、人ならざるものが目覚めた。 『いい騒ぎだった。そして多くの血が流れた。……これで我は目覚めた。そして、目覚めし者たちの血が完全復活の最後の鍵となる。毎晩、悪夢を見るとよい。ごきげんよう』 蝙蝠の翼のある、黒づくめの病的に白い肌の男性。 吸血鬼の復活である。 ● 「おかしい」 蝋燭明かりの揺らぐ酒場のカウンターで、保安官の紫星がミルクのダブルを飲みながら難しい顔をしている。 「……あの日の吸血鬼のことかい? あれから大きな騒ぎはないし、また眠りについたんじゃないか?」 酒場の店主が皿を磨きながら声を掛けた。 「私が気にしてるのは、奴の言った『これで我は目覚めた。目覚めし者たちの血が完全復活の最後の鍵となる』ってところよ」 顔を上げる紫星、浮かない。 この時。 「保安官ちゃ〜ん、今晩もツンツンでイイね〜。俺をタイホしてかかとでぐりぐりしてーっ!」 ひょ〜い、と変質者が万歳ダイブして紫星に襲い掛かって……いや、抱き付きに来た。 「ここの留置場は『カウボーイギルド』に変わったって言ってるでしょ?」 紫星、右手を伸ばすとがきっと変質者の顎下に入れる。喉輪という技で突進を止めた。 「ああ。吸血鬼自身が目覚めたのは分かるが、『目覚めし者たち』というのが分からないな」 「そういうこと!」 店主は心配する風でもなく会話し、紫星は仕上げに小柄な体を跳躍させ変質者を床に叩きつけた。体重を乗せて後頭部を叩きつけられた変質者、ノックダウン。 「……おそらくだけど、『この町に引き寄せられるようにやって来た者』が『目覚めし者たち』じゃないかって思うのよね。ほとんどあの騒ぎに関わったのだし」 「ああ。この町にいついた神父さんやシスター、料理人たちも騒ぎに関わっていたものな。うちの流れてきた店員もそうだったし」 ぱんぱんと手の汚れを落とす紫星に、なんとなく納得する店主。 「目覚めし者、というか引き寄せられた者、なのかしらね。みんな文句をいいつつここに滞在してるし」 ちなみに紫星。 流れてきた賞金首が多すぎるため、留置場を新たに『カウボーイ・ギルド』の受付にして、賞金首たちを登録管理して住民から寄せられる礼金付き事件の斡旋所にしている。 「カウボーイ・ギルドかい? まあ、マフィアが消えた後、残ったならず者で暴れるものを退治したり、吸血鬼の手下退治をしたりで活躍してもらってるしな」 マフィアが一気になくなることで新たな勢力発生や治安の低下などがあったが、ギルドのおかげで丸く収まっているようだ。 この時。 「ん?」 店主、突然の眠気に襲われた。 「くっ……何?」 紫星の声。同じく突然の眠気にとらわれているようだ。 ――ばさっ! そして吹き抜けの二階から侵入する者。 開け放たれた天窓、月を背後に黒い翼を広げた姿ッ! 『待たせたな。我の嫁にもらうぞ』 ばさり、と紫星の背後に舞い降りると首筋に口付けして牙を立てた。つ、と血が鎖骨に伝わる。紫星、完全に眠りに落ち力を失った。 『さあ、悪夢の始まりだ。……これまで毎晩繰り広げられた悪夢で我が眷属は町の各地に広がっている。カウボーイギルドの諸君とあの戦いにいた者はこぞってダンスに参加するがいい』 吸血鬼は紫星を抱いたままそう言い残し、 舞い上がり夜に消えた。 この後、町の西部居住区の地面が盛り上がり、西洋風の城が姿を現した。そこに住んでいた住民はすでに吸血鬼の毒牙に掛かり獣人(ビーストマン)となっている。 カウボーイ・ギルドに所属――というか、紫星が勝手に登録した賞金首たちはホテルの風呂で、或いは酒場で飲んでいる最中に、もしくは就寝中に気付いて起きるなどして事態に気付いた。 ここから、動き出す。 |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454) / 柚乃(ia0638) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 慄罹(ia3634) / ペケ(ia5365) / からす(ia6525) / 猫宮・千佳(ib0045) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 无(ib1198) / レティシア(ib4475) / クリスティア・クロイツ(ib5414) / 高崎・朱音(ib5430) / 計都・デルタエッジ(ib5504) / アムルタート(ib6632) / 霧雁(ib6739) / クロウ・カルガギラ(ib6817) |
■リプレイ本文 ●事件発生前 「紫……保安官、子供が夜の酒場にいていいのか?」 酒場に入ってきた琥龍 蒼羅(ib0214)が、カウンターに座り何かを飲んでいる紫星(iz0314)の姿を見つけ、通り際に声を掛けた。 「お酒は飲んでないわよ」 ツン、と紫星がミルクのダブルを見せるように言った。 「ならいい」 「賞金首でないなら別に私に捕まることはないのよ?」 ぶっきらぼうに言う蒼羅。気になって紫星が聞いてみる。 「ハンターズ・ギルドはお尋ね者だけじゃないと聞いた。……賞金首の情報を得ようとするならちょうどいい。しばらく滞在させてもらう」 蒼羅、気にしてくれた紫星に微笑して離れた場所に座る。ここでの生活を気に入ったのかもしれない。 「そうそう、賞金だよ賞金!」 その横に、くるくるっと回りつつアムルタート(ib6632)が座った。 『いらっしゃいませもふ〜』 「働くもふらさまなんて珍しいな」 蒼羅、接客にきた金色のもふらさま「もふ龍」にそう言う。 「もふ龍ちゃんは番もふらなんですけどね〜」 もふ龍の主人、紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)は困ったような嬉しそうな表情でカウンターの中で料理を作っている。 「よ」 クロウ・カルガギラ(ib6817)もやって来た。 「この町は今、微妙なバランスで成り立ってる。周りが賞金首だらけだからって下手に騒ぐと、保安官以下他の賞金首が黙っちゃいないぜ?」 「どーしてさ?」 アムルタートが聞く。 「騒ぐと復活した吸血鬼が力を付ける可能性がある。だからほら、あそこの訳ありそうなのも大人しくしてる」 クロウ、店の隅を指差した。 「……しかし、古代の文献の記載が現実にあるとはね。あ、スタンド」 そこには『写本「占事略决」概略』などの書籍を脇にブラックジャックに興じている極東からのへたれ密入国者、无(ib1198)がいた。そばでは尾無狐がテーブルの胡桃にじゃれ付いている。 「おお……」 ディーラーがバーストした。无の手は12。无がヒットしていれば逆にこちらがバーストしていた。 「訳あり?」 「いろいろいい武器を持ってるみたいでね」 无を見た後聞き返したアムルタートにクロウが答える。 「……しかし、何かが起こりそうな月夜だな」 「はい、今夜の満月のようなカクテルができましたよ〜」 ふうっ、と天窓を見上げ夜空を見る蒼羅。沙耶香は満月のように紅い酒の入ったグラスを出すのだった。 ● そんな月を、滞在する時計塔てっぺんの屋根裏部屋の窓から見上げる者が。 「こういう晩には、いい魔女の薬が作れそうではあるね」 ベッドに腰掛けるほぼ下着のような薄絹をまとう、赤い瞳の少女が薬剤調合をしながら微笑していた。 「『魔女』とも呼ばれるけど、魔女の惚れ薬なんかはできないね」 高額賞金首『レイヴン』とも呼ばれる少女、からす(ia6525)だ。組んでいた足を解いて、今度は机に座ってごーり、ごーりと薬草をすりつぶす。からす、薬剤調合なんかで大人しく暮らしているらしい。 窓からの月明かりが彼女を照らし続ける。 「今宵は月明かりがさやかですね、牧場のお嬢さん」 そんな月夜に、騎乗したカウボーイハットの少女が声を掛けられた。 「ええ。馴染みの店の『クローズ』の看板文字が読めちゃうくらいに」 振り向いた少女は、柚乃(ia0638)。 ぼんやり見ていたのは、慄罹(ia3634)の飲食店だった。毎回、マフィアの抗争に巻き込まれて壊され改装を続けながらやっていたのだが、ついに閉店してしまっている。柚乃もなじみだったので寂しそう。 「店主がならず者を懲らしめるためとはいえ、ダーツに毒を塗りましたからねぇ」 「お嬢さん、今宵も綺麗ですな。……そうそう。店主が毒を使う飲食店、っていう噂が広まったのがねぇ」 「夜食なら別のいい店を紹介しますぜ、お嬢さん」 次々に住民が寄ってきて柚乃と話をする。相変わらずの人気者だ。 「ふふっ。私じゃなくてもふらたちを夜食に連れて行ったんです」 実は西部居住区にもふら達の食糧の仕入れ元があるらしい。 その、柚乃の話している通りの向こうで。 「ふんっ!」 突き出す拳。飛び散る汗。 「はっ!」 今度は蹴りを繰り出す。 「あら、羅喉丸さんも出掛けてたんですか?」 鍛錬する姿は羅喉丸(ia0347)だった。柚乃が気付き近寄る。 「柚乃さんに何かあってはまずい。長らく牧場に置いてもらっているし、このくらいはな」 汗を吹きながら答える羅喉丸。行き倒れたところを柚乃に救われ、結局彼女の牧場の厄介になっている。 「あんたもすっかりこの町の住民じゃの?」 「気になることが多いので。……吸血鬼とか」 羅喉丸、聞いてきた住民に気さくに話し紅い満月を見上げる。 「うに……。コクリちゃん、どこいったにゃ……」 そんな羅喉丸のそばをへにょりと方を落としつつとぼとぼ歩く猫……いや、ねこ耳頭巾の少女一人。 猫宮・千佳(ib0045)だ。ふわふわスカートの後から伸びるねこ尻尾も、へにょ。 ――だだだっ! この時、千佳に駆け寄る白い影。 「ああっ。夜に外に出てはダメだとあれほど……」 ざざざ、だきゅ〜、と千佳にひしっと抱き付き。 教会シスターのレティシア(ib4475)だ。 「うにゅ? 私はこのもふらタウンに来たばかりにゃよ?」 「あら、ごめんなさい私ったら……でも子どもよね? 教会の孤児たちがどこかに行ってしまったの。一緒に手分けして探しましょう」 レティシア、見上げた千佳に人違いだったと気付いたがここは持ち前のしたたかさで自分のペースに巻き込む。 「うに。私もコクリちゃん探してるからちょうどいいにゃ」 レティシアと千佳、手を繋いでその場を後にする。 頭上に満月が紅かった。 ● そんな満月の見えるホテルの一室で。 「ですが驚きましたわ。計都様までもふらタウンに流れ着いていたとは」 黒い服に身を固めた教会シスターのクリスティア・クロイツ(ib5414)がベッドに姿勢正しく腰掛けてぼんやりと同じ部屋にいる二人を見詰めていた。 「そうじゃの。計都に会うのも久しぶりじゃの? お互い変わってないで何よりじゃて」 ちっちゃなお子様黒猫獣人、高崎・朱音(ib5430)が言ってがぶりとビーフジャーキーに食いついた。牙を立ててぐぎぎ、ぐむむと硬い干し肉と格闘する様子は猫そのまんまな感じ。 「そうですね〜。ほら〜、クリスティアさんカタいコト言わず楽しみましょう〜」 もう一人は、胸のおっきな細目笑顔のメイドさん風賞金首、計都・デルタエッジ(ib5504)。おっとり言いつつ有無を言わさずクリスティアにグラスを持たせ酒を注いでくる。ぐいぐい。 「い、一応、わたくしはシスターなのですが……」 「そうじゃそうじゃ。ほれ、クリスもせっかくの再会じゃ、ぱーっと行くのじゃ」 杯を手に困った様子のクリスティアに、ぱーっと両手を伸ばして朱音が囃す。仕方なくくいっと一気に干すクリスティア。ほわわんと頬を染めて腰砕けに身をくねらせる。 「ふふふ〜♪ 朱音さんもどんどんいっちゃって下さいな〜…」 これを見た計都は満足そうに今度は朱音に勧める。 「我か? 我は見たとおりお子様での……」 「またまた〜。朱音さん、見た目より結構な年齢らしいじゃ…げふんげふん〜」 「いいおったな? いいおったな?」 「とかいいつつちゃっかり飲んじゃって〜」 何だかんだで酒を飲んでつまみを食べて。再会を喜びつつ、ひと仕事した賞金でご機嫌である。 「ホテルでこんな贅沢三昧……いいのかしら?」 そんな二人のじゃれつきをよそに一人ベッドに身を半分崩しつつ座り頬に手を当てるクリスティア。ほふぅ、と酔いを醒ますように溜息をつく。 「とか何とか言いつつまんざらでもなさそうじゃのー。ほれ、火照っておるなら脱げばよいではないか」 「あらあら〜。杯が空いてるじゃないですか〜」 朱音と計都が改めてクリスティアをロックオン。 朱音が服を脱がそうとしたり計都が酒を注ごうとしたり。 「あ、朱音様、計都様も……そんな……はうぅぅ……♪」 どったんばったんするホテルの一室。 窓の外で、満月が紅かった。 場面は酒場に戻る。 「ん?」 クロウが気付いた。 「何だ?」 蒼羅も感付き周囲を警戒した。 「んー……」 『なんだかねむいもふ〜』 カウンターでは沙耶香がこっくりこっくりと船を漕ぎ出しそうな様子で、もふ龍にいたってはもう眠ってしまいそうで。おっと、沙耶香については眠気に襲われつつも、ジャガイモの皮をむく手はしっかりと動いている。 「はっ! はわわっ」 しかもそのまま眠らずに正気付く。きょろきょろと真っ赤になりつつ周りを見たり。 「んー……眠くなったね〜。眠い時は寝るのが……」 アムルタートは欲望の赴くままにカウンターで寝ようとしているし。 この時、アムルタートの背後。店の入り口付近。 「……行動が早いですね奴さん」 无が、異変に反応した尾無狐をなでている。 「あっ、あれ!」 アムルタート、はっと、正気付いた! そして指差す。 ――ばさっ。 『待たせたな。我の嫁にもらうぞ』 吹き抜けの天窓から吸血鬼が侵入し、眠気に襲われていた紫星の背後を取った。 『さあ、悪夢の始まりだ。……これまで毎晩繰り広げられた悪夢で我が眷属は町の各地に広がっている。カウボーイギルドの諸君とあの戦いにいた者はこぞってダンスに参加するがいい』 紫星の首筋に牙を立てた後言い放つと、そのまま浮かんでさらって逃げた。 瞬間。 ――ごごごごこ……。 「何だ?」 地鳴りと振動が響き渡る。 慌てて外に出るギルドの者たち。 「あっ、みんな!」 そこには天河 ふしぎ(ia1037)がいた。 目の前の西部居住区では地面が盛り上がり、西洋風の城が姿を現していた。 「居住区は見事崩壊したでござるな」 霧雁(ib6739)もいる。腕を組み戦いの予感に目を細めている。 「大忙し、大忙しですよーっ」 その前を棺桶職人のペケ(ia5365)が走って通り抜けた。 「ぐぉううう……」 「きゃーっ!」 周りでは、満月に向かって吠えビーストマンに変身する者、それに怯えて逃げ惑う人、いや、ビーストマンの振るう爪の犠牲になり倒れたり新たに地面が盛り上がって異形の怪物となった死体――ゾンビのビーストマンどもが暴れたりなど大混乱となっていた。 「元凶はさっきの吸血鬼……間違いない、あれは昔、中村・鈴主水(ベルモンド)叔父さんが話してた、闇の一族だ! 鈴主水一族の末裔として、絶対滅ぼさなくちゃ!」 ふしぎ、覚醒したようにまくし立てて吸血鬼の飛んで逃げた城に向かった。クロウや蒼羅も続く。 「名を上げ、拙者の忍銃術を流行らせるでござる!」 霧雁は中央区の騒ぎを鎮めに走る。多くの人の目にに自らの忍銃術を焼き付けるのだ。 「城にも行きたいですが……こちらも何とかしないとですね」 手元の手帳に記録しながら店を出た无も霧雁に続く。 ――ぐおぅ、わああっ! 『もふ?』 もふ龍、反対側からの騒ぎに反応した。 「今、東部居住区の方からも悲鳴が聞こえましたね〜」 「だね〜。きっと賞金首がいるよ。あっちの賞金首はもらったよ〜♪」 沙耶香が振り向き、アムルタートが走る。もふ龍と沙耶香も追った。 果たして、敵の正体は! ● 東部居住区でもビーストマンが暴れていた。 「だから夜で歩いてはダメって……」 「うに。レティシアお姉さん、ここは任せるにゃー」 レティシアと千佳は中央繁華街からこちらに移動していた。 そこでいなくなっていた教会の孤児を発見したレティシアは、迫り来るビーストマンから子どもを庇うように抱いていた。その前に敢然と立ちはだかる千佳。 「旅の魔砲少女の流れ弾、とくと味わうにゃーっ!」 がうん、がうんと北斗七星の銃とマジカルデザインな銃をぶっ放す。流れ弾とかいいつつ無駄弾は一切ない。流れるような射撃と言う意味か。魔法を込めた弾がびす、びすと着弾し一体撃破。だがもう一体いるぞ。 「千佳さん……後はお願いします」 レティシアは子どもを連れて離脱。 「うににっ、子どもたちも行くにゃ♪」 千佳は避難するレティシアを援護すべくビーストマンを撃つ! 横っ飛びから回転してぴたっ、と止まると敵が倒れた。一発だ。 そしてまたどこかから聞こえる悲鳴。 「うに、聞こえるにゃ。助けを求めるその声が! 魔砲少女、お呼びとあらば即参上!にゃ♪」 ネコ尻尾とスカートを揺らして走る! その頃、中央居住区の柚乃。 ――どどどどど……。 『もふーっ! もふーっ!』 『もふもふ、もふー!』 もふらさまの大群が柚乃の元に殺到していた。 「まあ、土だらけ。……あの城がせり上がった時に居住区の巻き添えをくって生き埋めになったのね」 わきゃわきゃもふもふと二足立ちしてゼスチャーするもふらさまの言いたいことを理解し、ほろりと涙する柚乃。 「分かりました。土に埋もれてもふらさまお怒り、晴らして見せます」 もふー、ともふらさまたちが歓声を上げた時。 ひょーい、と跳躍してきた狼のビーストマンが襲い掛かってきた。 「危ない!」 羅喉丸、割って入る。三連打で敵の攻撃と相打ち・初撃・止めをやってのける。どう、とビーストマンは崩れた。ふしゅぅぅぅ、と変身が解け人の姿に戻る。首筋に、牙の痕。 「不死の怪物である吸血鬼の眷属となったか……せめて人として、住民仲間をその爪であやめてしまう前に」 「なので、元凶の吸血鬼を討伐しに行きますっ。皆さんは安全な場所に……聖なる加護を与えます」 合唱する羅喉丸。そして住民にホーリーサークルを掛ける柚乃。 「お、お嬢さん。あんた一体……もしかして、伝説にある『青き衣を纏いて混乱の地に下り立つ者』……」 住民は、今まで慕ってきた相手が見たこともない技を出したことに驚きを隠せない。 「いいえ、私は普通の町娘です」 柚乃、カウボーイハットを取り振り向き言うと城へと馬を急かした。 「俺はあっちの居住区が心配だ」 羅喉丸、東部居住区へ向かった。 その目の前で、騒ぎに外へ出てしまった住民がビーストマンに迫られているではないか! 『もふーっ!』 どげし、と横合いから飛んで出て来たもふ龍がもふ龍あたっく。ビーストマンを仰け反らせた。 「はいはい、雑魚はどいてどいて〜♪」 続いて出てきたアムルタートが敵のがら空きの胴に踊りかかってばっさり。とどめも刺さずに先を急ぐ。 「はい、お家に戻って大人しくしててくださいね〜」 最後に沙耶香がちゃきん、と中華包丁を使って敵を料理。住民に声を掛けて走る。もふ龍がぴょんぴょんこれを追う。 ふ、と目を細めた羅喉丸も追う。 そして聞いた。 「そこまでにゃ! 罪もない人を傷つける悪い…変な人? …にはお仕置きにゃ!」 遠くに響く千佳の声を。 その千佳、広間にいた。 目の前に丸々太った豚のビーストマンがいた。しかも人の身長の二倍はある。 「うにゅ……」 これと戦っていた。威勢は良かったが、すでに服がボロボロに切り刻まれている。 ここで羅喉丸たちがやって来た。 「何やってんの、撃てばいいじゃない〜」 アムルタートの声を聞いて両手の拳銃を放つ千佳。しかし敵は回転。当った弾をことごとく受け流している。 しかも両手に持った巨大な中華包丁を広げ近寄ってくるではないか。 「うにっ!」 ばっ、と猫っ飛びで交わす千佳。ひらめくスカートがまたちょっと切り刻まれる。 これを見て沙耶香が一歩前に出た。手に、中華包丁。 「どちらの中華包丁が扱いに長けているか……勝負ですよ!」 『ご主人様のほうが上に決まってるもふ!』 言い放ちダッシュする沙耶香。もふ龍がぴょんと跳ねて応援する。 沙耶香、回転し前進する敵と並走する。 キンキンキンキンキン……。 たちまち包丁同士の手数勝負。いや、敵「チョッパー」は回転を止めて本格的に沙耶香狙いに変わった。 キンキンキン……。 さらに包丁同士の応酬。 ――ざっ……。 ん? 沙耶香、足を引いて半身になったぞ? 「熊の手!」 ひゅん、と包丁が敵の攻撃の内に入った! ふわっ、とチョッパーの片手だけが宙を舞った。 「ナイスだよ、沙耶香〜」 ここでアムルタートがひらっ、と沙耶香を追い抜くように隙間を抜けて敵の懐にステップ・イン。軽やかな舞のような動きからナイフが煌めく。 ぽーん、ともう一方の手も宙を舞った。アムルタート、舞の終演をぴたっと決めている。ぐさっ、と中華包丁を持った手首が大地に刺さる。 『ぐおおおお……火力火力!』 敵、苦しみあえぐが……なんと、どこからか新たに火炎放射器を取り出して手当たり次第に放射し始めたではないか! 「た、確かに中国料理は火力が命ですが……」 「火遊び好きって、マフィアじゃない〜」 はわわと引く沙耶香と、火傷はごめんとばかりに距離を取るアムルタート。 敵はいい気になって回転しながらまたも千佳に迫る。 「魔砲少女はどれだけきつくても絶対負けないのにゃ♪」 千佳、今度は逃げるのではなく敵の懐に猫っぽくもぐりこんだ。さっきまでの動きがいいフェイントになっている! 「さっき近接用魔弾を込めといたにゃ♪」 ――ずきゅ〜ん。 敵の腹に押し付けゼロ距離発射。 「じゃ、私はドタマぶち抜くよ♪」 ひらっ、と跳躍したアムルタートは敵の肩に乗っていた。着地と同時に露わになった太ももから拳銃を抜いて額にピタリ。ズキュンと一発放ち離脱する。 よろける敵に、羅喉丸。 「再び、この技を振るう時がくるとはな」 遠巻きに雑魚相手をしていたが、ここぞとばかりに距離を詰めた! 「絶招、五神天驚絶破繚嵐拳」 体が黄金に光り輝く、火炎放射の過ぎた隙間に体を入れるッ! ――めしぃ……。 渾身の拳が入った。 「森羅万象は五行よりなるが故に我が絶招にて滅せぬものなし」 心穏やかに説明する羅喉丸。五行相克の理に従い、相手の体内に莫大な練力を叩き込み存在そのものを消滅させることで……。 ――どしぃん。 敵は倒れた。 「だめだ、どいつもこいつも。料理一つ満足にできんとは……」 最後の一言を残して。 戻った姿は、ホイストのボスの死体だった。 「お抱えの料理人に満足できなかったのですかね〜?」 沙耶香、少し同情する。 ● 時は遡り、中央繁華街の時計塔屋根裏部屋。 「……何か起きたと感じて外見たらこのありさま」 からすが呆れて吸血鬼の城を見ていた。 「やれやれ、タダ働きはしたくないものだが」 急いで黒い衣装を着て部屋を出る。 つつつーっ、と螺旋階段の手すりに上品に腰掛けて滑り降りると外へ。 『きぃききき』 出たところ、蝙蝠のビーストマンが軽やかに襲ってきた。 「吸血された住民の一部はこうなるようでござる。……死体も」 霧雁がいた。からすに襲い掛かったビーストマンに背後から迫っていたところだ。 からすが気付いたと同時に敵の腕に絡みつく霧雁。どしり、と体重を掛けて組み敷くと左手に持った銃身16インチ越えのバントラインスペシャルの銃口を敵の頭にごりり。そのまま純銀製ホローポイント弾を容赦なくぶち込む。びく、と痙攣して敵は力なく横たわると死体に戻った。 「これぞ拙者の忍銃術!」 霧雁、息を止めたのを確認すると奔刃術で駆けながら撃つ。かわされ接近されるも左右の2丁拳銃を十手のように使い敵をいなす。またも腕を絡めて動きを止めて至近距離でズドン。 「……私はあそこに居座るとしよう」 からす、ああいうのは好みではないようで、三階の前面がテラスになった建物に上がり樽をバリケードにして陣取った。そこで呪弓「流逆」を放つ。 ひゅん、と飛んだ矢。逃げる住民を追う敵にまっすぐ……。 いや、捻じ曲がった! そのまま敵の首筋に刺さる。深々と刺さった様子が、いかにも弱いところに当ったようで。 「結構いるね。騒ぎで出てきた住民が建物に無事に戻さないと」 既に、ビーストマンの存在に結構な住民が建物に閉じこもったのだが、もう少し逃げ遅れがいる。重点的に、長い距離も関係なく次々と矢を射るからすだった。 「ん?」 からすが凝視したのは、多くのビーストマンの出てきた区域に気付いたから。 乱射で行く手を阻み、敵がこちらに注目したのと同時にこの場を捨てて動く。 もう一度、時は遡る。 ――ごごご……。 「はふぅ」 ベッドの隙間の床に、頬を赤く染めたクリスティアが観念したように力を抜いて横たわっていた。 が、予想されたあれやらこれやらが、ない。 閉じた瞳を開けると、組み強いていた朱音と計都が腰を浮かして窓の外を見ていた。突如現れた吸血鬼の城を見ているのだ。ビーストマンに襲われた住民の悲鳴も聞こえる。 「こうしてはおれんの」 「宴会中でしたが仕方ありません」 うん、と頷き合って朱音と計都が立ち上がる。 「……」 クリスティアもちょっと物足りなさそうに肩までずり落ちた服を正して外に向かう。 そんな三人に蝙蝠のビーストマン高い跳躍を見せて襲い掛かる! 「銃使いが近接戦闘出来ぬと思うでないわ!」 朱音が左のマキリで返り討ち。その反動で距離が離れたところを右の短筒「一機当千」を放ち止め。 いや、その背後からさらに別の敵がひょ〜い、と高く跳躍して踊りかかっている。 「折角の宴会を台無しにしてくれたツケは払ってもらいませんと〜…」 顔はにこにこ笑っている計都が朱音の後ろで魔槍砲「ペネトレイター」を構えている。今、細められた目が薄く開くと殺気が溢れる。 ――どぅん……。 敵の額を射抜く。後に吹っ飛ぶビーストマン。 「敵の不意打ちには警戒怠り無く〜」 「当然ですわ」 計都の声に頷き、横を固めるクリスティアが漆黒の十字架、『魔槍砲「死十字」』を抱えてぶっぱなす。 「うふふふふっ、此れは神罰なのですわ……!」 神の代行者、頬を紅潮させながら撃ちまくり。 贅沢三昧でお酒が入っているためか、どこかいっちゃってる表情だがこれでも一応シスターだ。 そしてこの間に朱音はマスケット「レッドスター」に持ち替えている。 「どんな距離でも戦えるのが我の戦い方じゃて。……人の楽しみを台無しにする輩にはキツイお仕置きをせねばの」 にまり、と悪戯幼女な微笑を見せて遠く迫り来る敵を撃つ。 もちろんこの3人に身を隠して狙撃という考えはない。 敵のわく地点を目指し移動し、撃つ。 やがて三人組とからすは広間に辿り着いた。 ――どしゅっ! とん、ころころ……。 飛び込んできた光景は、逃げようとした住民の走るほうに素早く回り込んだ敵が、デスサイズを住民の首に掛けて振り切ったところだった。 『バインド』という蝙蝠型ビーストマンの頭である。 「ボスじゃの」 「償いが必要ですわね」 「狙撃しがいがありますね〜」 朱音、クリスティア、計都が射線を合わせる。 「敵は移動力自慢か……おっと」 三角跳びですべてかわした敵に、身を隠したからすが射るがこれもかわされる。どころか壁を蹴り方向を変えてデスサイズで攻撃されるが何とか山猟撃で受け防御。敵はそのまま壁を蹴って距離を取る。 「これはどうだろう?」 からす、矢を変えて射撃。敵を掠る。納得の表情のからすだが、敵の変わらない動きを見て眉をひそめる。 「拙者に任せるでござる!」 ここで霧雁登場! さすがシノビ。敵のトリッキーな動きについていく。銃撃もするが、やはり敵のマントを掠めるだけ。 「流石に素早いでござる……では!」 霧雁、至近距離で銃撃と同時に夜で時間停止した! この隙に敵の背後に回りこみ羽交い絞めに。 時は、動き出す。 「ぐお……」 銃弾が命中したのは、霧雁だった。 なんと、バインドの腹は空洞。そのままあざ笑うかのように距離を取る。 「神経毒を込めた矢が利かなかったのはそのせいか……」 煙幕を投げつけながらからすが言う。朱音、計都、クリスティアがこの隙を逃さず射線を集中させる。 「ではここは私めが勤めましょう」 この騒ぎの中、突然広間に无が現れた。執事のような口調で落ち着き払い、丸眼鏡の位置を整えている。 バインド、无を狙う。 煙幕、三連射、そして无の登場。 射撃組、次の敵の動きはここしかないと狙いを定める。が、撃てば无を巻き込む可能性が高い。手が出せない。 瞬間! 『がっ!』 敵の動きが无の手前で止まった。 「……そこ、鋼線がありますよ?」 そう。 无、手前に鋼線を張って現れていたのだ。 バインドはデスサイズを構えて被害は免れたが、動きは止まった。 「今じゃ!」 朱音の合図で全員の射撃が集中する、立ち上がった霧雁が襲い掛かる……。 ――ごろっ……。 そして、息絶えた敵。 「足りない。まだ足りないぞ……」 最後にはフルハウスのボスの死体が転がっていた。 ● こちらは、吸血鬼城の内部。 大きな厨房で慄罹が溜息をつきながら中華鍋を火にかけていた。 「やれやれ、俺も落ちぶれたもんだなぁ。出張料理人として料理が作れるのはいいんだが、しばらく日の光も浴びてねぇ。こんな薄暗い城の奥に……な、何だ?」 ぐらっ、と城自体が揺れて慌てて火を落とす。 と、同時に城の内部が騒がしくなった。 「一体どうし……うわっ!」 慄罹、城の内部を行き交っているのがビーストマンであることに気付いた。 「くそっ、前払い額が半端ねぇからおかしいと思ってたがつくづくついてねぇ……」 これもすべて、一回毒ダーツを使っただけで毒使い料理人といううわさが広まってしまったため。まさか店を畳むこととなりこんな化け物城で働くはめになるとは思わなかった。 「ん?」 窓を見た慄罹、外の夜空を飛ぶ吸血鬼を見た。 「今の……保安官か?」 紫星を抱いていたのを見た。跳んだコースからして明らかに城の最上部に下り立ったのが分かる。 「こうしちゃいらんねぇ」 慌てて引き返しおたまなどを戻し、コートを羽織る。 ばっ、と通路に出た慄罹に敵が立ちすくむ。雇った料理人だが様子の違うことに気付いたのだ。 「ああ、料理人だ。……だから料金分は働かねぇとなっ!」 広げたコートの下には毒ダーツ&手裏剣がじゃらり。そしてビーストマンに飛び掛る! ――すぱっ、すぱっ! 「……まぁ、捌くもんがかわっちまったが」 ふ、と黒笑みして振り向くその手に、暗器爪。丸腰に見えてそんなものを装備していた。 ところが、いつの間にか多数の敵の囲まれていたり。 「……って、おい。そりゃ集まりすぎじゃねぇか? ま、いい。何枚にでも下ろしてやるぜ!」 不敵に笑うと狂気の表情で敵に手裏剣や毒ダーツを投げつけ突撃する。 その行為、あまり無謀! ――どかかっ、ひひぃ〜ん! ここに颯爽とカウボーイが現れる。 「行きなさい、聖なる裁き」 飛び行くホーリーアロー。 「……そんな姿から解き放ってやる。恨んでくれて構わんぜ」 さらに馬の影から前転で飛び込んでくる影。ぴたっと回転を止めると宝珠銃「ネルガル」を構えてズドン。 その後から、ひゅんと空気を切り裂く音。 「男や化け物と、ダンスを踊る趣味はないだからなっ!」 鞭「フレイムビート」が奔り敵の動きを止め、構えた宝珠銃「レリックバスター」から放たれた銀の弾丸で敵を葬る。 「お前ら……」 ぱっ、と表情をあかるくした慄罹。 前転して身を起こしたクロウがウインクしてまた銃を構え直し撃つ。 ふしぎが力強く頷き鞭を振るう。 「危ない!」 そしてカウボーイが馬を下りて、死角から味方に迫っていた敵の前に身をさらす。はらりと落ちるカウボーイハット。豊かな青い長髪が豊かに流れると、敵の攻撃から生まれた光が攻撃主へと反転し貫いた。 「暈影反響奏……まだ敵は来ます」 振り向いた姿は、柚乃だった。 ここで倒れた敵は、元の住民に戻って死体となっている。 「……俺が連続殺人犯の汚名を着た理由さ」 クロウが寂しそうに言う。 「俺も被ったなぁ……」 「だったら全員で汚名を被ればいい」 「それで町が……皆さんが守れるなら」 ぼそりと同意する慄罹だったが、ふしぎと柚乃の言葉に我に帰る。クロウも頷いている。 敵のビーストマンはここに集中しているが、全滅は時間の問題だろう。 実は、混乱のうちにここを密かに突破している者がいた。 「居住区に手下が出ているならこちらは手薄。今が好機とあれば……俺は元凶である吸血鬼の撃破に向かう」 蒼羅、ここは仲間に託し単身先を急ぐ。 さすがにもう抵抗はない。城の上層部に向かうと、いかにもという大きな両開きの扉があった。 ぎぎぎ、と力を込めて開ける。 「ようこそ、我が城へ。……この娘の仲間の血が一人分だけ、必要なのだ。協力してくれるな?」 白面黒装束の吸血鬼が蒼羅を出迎える。 「俺だけ、ここへ通したということか?」 「手加減された、と思うならここで力の限り踊るがいい。娘が貴様の血を受けて我と同族になる儀式に相応しい」 蒼羅が斬竜刀「天墜」を構えて静かに言うと、吸血鬼は挑発するように答えた。 いや、一直線に飛んで来た。爪が迫る! 「ふん……」 蒼羅、虚心で見切る。 「保安官。……紫星、大丈夫か?」 そして祭壇に横たえられた花嫁衣裳の紫星に近寄り体を揺する。 と、目を覚ました。 『ぁぁああああ……!』 上体を起すと不自然なほどの迫力で蒼羅の肩に掴みかかる。何とか斬竜刀を掲げて防ぐが壁まで吹っ飛んだ。蒼羅、叩きつけられて口の端から血を流す。 「ふん。助けに来たのなら素直に血を吸わしてやればいいものを」 吸血鬼は詰まらなさそうに拳銃を構えた。紫星が普段使わない、飾りになっていた銃だ。 ――ターン! 姿勢を整えようとする蒼羅に向かっていった銃弾は! 「危ない!」 広間に姿を現したレティシアが短銃「白羽」を撃って吸血鬼の銃弾に当てて逸らした。 「新たな客……綺麗な女性ばかりだな」 パチン、と指を鳴らす吸血鬼。すると、がしゃーんと周りの窓を破ってビーストマンがなだれ込んできた。 が、レティシアの背後からの銃声が。 「紫星は返してもらうんだぞ…って、ぼっ、僕は男だっ!」 ふしぎだだ! 「ハーイ、棺桶職人ですよーぅ。吸血鬼用の棺桶、お届けに参りました」 さらにふしぎの背後から遅れてきた謎の棺桶屋、ペケが登場。 「死んだら棺桶に大人しく収まるのがこの世の『法』ってもんです。生きた無法者は保安官が、死んだ無法者は私ら棺桶職人の領分ってことで……」 ペケ、真っ当なことを言いつつ背負っていたデカいカラクリ棺桶をどげし、と横に置く。 「久々にやらせていただきます」 き、と吸血鬼を見据えてレバー・オン。シャコッと棺桶の蓋が四方に開いたぞ! 「やれるのか、オイ?」 ぱちんと指を鳴らす吸血鬼。ビーストマンらが襲い来る。 「さがって、ここを動かないで」 レティシアが皆を制した。 ここに来る前、「保安官の紫星さんがいなくなると教会の子供達が寂しがるので」と教会本国からの退避勧告を無視した時のことを思い出しつつ。孤児の子供達に「ここを動かぬよう」と笑顔で安心させて言い含めた時のことを。 「すべてを、守ります」 レティシア、銃口を上にしてシャンデリアを撃った。 ――がしゃーん。 突っ込んでくる敵の真上に落ちるシャンデリア。数匹巻き込まれ人の死体に戻る。 が、すべてはとめられない。 この時、新たな影が。 「皆さんに聖なる加護を!」 「痛くはねぇだろ? 悪い子は永遠にお休みしてなっ」 柚乃が到着しそそり立つ。慄罹が飛び込んで手裏剣を投げレティシアを守る。 「行ってください……はっ!」 レティシアの『泥まみれの聖人達』が合図で皆突っ込む。しかし、広間入り口から新たな敵が。最後尾となったレティシア、鉄傘でかろうじて敵の爪を防ぐ。 「……殺気で気付きました。人だった時の貴方ならわたしに気配を悟らせはしなかったでしょうに」 背後を見もせず哀れみの言葉を掛けると、銃口を背後の敵の額にピタリ。撃つと同時に振り向くと、死体は住民に戻っていた。 ● ふしぎは紫星の方に殺到していた。 紫星、ふしぎに気付いて爪を振りかざし襲ってくる。病的な瞳と肌に変わっている。 「紫星、紫星どうしちゃったんだ、目を覚まして」 必死の説得をしつつ、聖なる水でぬらした鞭で紫星を打つ。 しかし、服が弾けるだけだった。 「待て、ふしぎ。操られているのであれば、先に吸血鬼を倒す必要がある」 これを蒼羅が止めた。 「そんなこと言っても……」 「ほほう。我を倒すと言うか」 振り返ったふしぎに吸血鬼の振るった爪が入る。 「うわっ!」 「ふしぎ!」 ふしぎと変わって蒼羅が前に。繰り出される攻撃を澄み切った心で読み、澱みない動きでかわす。そればかりか、白梅香で反撃もする。 「……不愉快だな。やはりこの娘の相手がお前たちにお似合いだ」 「む、逃げるか? ……紫星!」 距離を取る吸血鬼。それを守るように紫星が踊りかかってきた。これには身を引くしかない蒼羅。再び時間稼ぎの戦闘に入る。 「ぺけけけ……」 他の敵は、ペケが圧倒していた。 近い敵には子どもの身長はあろうかという長さの鉄杭を振るう。遠い敵には左腰から取り出した投擲用の多量の釘を投げる。 「聖なる裁きの矢!」 柚乃も魔法の矢を放ち敵を寄せ付けない。 「ったく、これじゃあ追加料金もんだぜ?」 慄罹はにやりとクナイを投げる。何か紙がついているぞ? 「ん?」 吸血鬼、これを左腕で受けた。刺さった紙を見ると、領収書。 「領収書は上様でよかったか? 名前があるなら書いとくぜ?」 「我が名は、B……B……」 聞き取れない発音だった。 というか、それどころではない。 吸血鬼が両手を前に合わせたとたん、図太い謎の怪光線が一直線に飛んできたのだ。 「おわっ!」 ふっとぶ慄罹。柚乃やぺけも巻き添えを食う。 ここで新たな声。 「冷たい土に還るがいい。貴様らにはそこがお似合いだ」 クロウが到着した。 飛び込み前転でBB砲を避けると、片膝立ちで宝珠銃「ネルガル」発射! 「下らん」 吸血鬼、再びBB砲で弾丸ごとふっ飛ばす。 しかしクロウ、既にそこにいない。またも前転で吸血鬼に迫っていた。 が、吸血鬼の反応も早い。ネルガルを叩き落したぞ? 「終ったな」 「まだだ。レディ・ホワイト!」 勝利を確信し吸血鬼が牙をむく。その瞬間、クロウが隠し持っていた小型の装飾短銃「レディ・ホワイト」を出して渾身の一撃。 「おぉ……」 銃撃を額に受けよろける吸血鬼。 ここでさらに広間に新たな影が! 「拙者の忍銃術の出番でござる」 「撃たれる前に、ですね」 霧雁、時を止めて吸血鬼の背後で半円を描く動き。素早く撃った後、時は流れる。 吸血鬼の目の前では、勝負所と見た无が白面式鬼で分身を作ると霊魂砲発射。 「ぐおおお……」 前と後を塞がれたまま攻撃を食らう吸血鬼。 「まずい。蝙蝠に分身されちまう!」 「開けたら閉める、が棺桶職人です」 クロウの言葉にペケが出た。右腰から何かを取り出し口に含むとぶしゅーと噴煙。そのまま吸血鬼に踊りついて引き倒しつつ回転地獄車。最後は巴投げで特製棺桶にぶち込んだ! 「よし、撃てっ!」 クロウの合図で全員が棺桶に攻撃を集中。 がたっ、と棺桶が倒れ開くと、かさかさになった吸血鬼が。 「これでお終いです」 ペケが鉄杭で固定して、ジ・エンドを迎えた。 この時、紫星が気を失い倒れた。 「紫星? ……王子のキスで目を覚まさせる! 鈴主水流闘殺法鞭技−闇狩人!」 ……。 …………。 「ちょっとアンタ、何やってんのよ!」 紫星の声と、すぱーんという平手打ちの音が響いた。 詳しくは描写しない。ともかく、正気に戻った。 「……以上が報告です」 お役目があるのだろう、无が詳細を書き記したので詳しく知りたい向きは彼の著述を参照するといい。 ● 翌朝。 「行っちゃうの?」 すっかり元に戻った紫星が聞く。 「この街は嫌いじゃないが……両親に誓ったんだ。これ以上奴等に誰かの家族を食らわせはしないって。次の吸血鬼を、討つ」 クロウ、紫星をなでると小さな手荷物を持って背を向けた。お別れだ。 「俺も、狙っている賞金首があるんでな」 蒼羅も立った。 「さて……」 无も。 「良かったにゃ、良かったにゃ。……うに、それじゃあ次の困ってる人を探しに出発にゃー♪」 千佳は探し人が見付かったようだ。一緒に連れ添ってらぶらぶと出発する。 羅喉丸も、ふしぎも、朱音・計都・クリスティアも、からすも町の外に。 「ち、ちょっと待ちなさいよ。あんたたち、私にまだ捕まったままなんだからね。私がいいって言うまで……」 「ああ。『いい』って言うまで……また困ってたら助けに来てやるさ」 クロウほか、全員が紫星に振り返って言う。 「しっかし、どうするよ?」 町に残った慄罹が頭をかく。柚乃も溜息をほふり。 「楽しくやるしかないんじゃない〜?」 アムルタートは陽気に踊る。これを見てペケは手拍子。 「お腹が空いては復興もできませんね〜」 沙耶香は料理を作っていたり。 背後の町には、吸血鬼の城が残っていた。 残った住民がその後どうやって生計を立てたかは、伏せる。 ただ四半世紀後、ここに城を中心とした大型娯楽施設が栄えたことだけ、記しておく。 紫星と、「いいというまで捕まったまま」の面々がどうしたかは、荒野に吹く風のみが知るのかもしれない。 |