【浪志】監察のお仕事
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや易
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/04/03 23:02



■オープニング本文

「……何やってんすか、クジュトの旦那」
 もふら面の男がクジュト・ラブア(iz0230)の長屋を訪れた時、彼の様子を見て呆れた。
「何って?」
「いや旦那。あんた、風邪で寝込んでるんじゃなかったんですかい」
 クジュト、七輪の前に陣取り餅が焼けるのを待っている。寝込んでいるとかいう感じではない。
「風邪で寝込んでますよ? そういうことにしておいて下さいね?」
 にこにこして言い、最後の方に力を込める。ははぁ、そういうこってすかい、ともふら面の男。
『もの字さんの分も焼くスね』
 クジュトの相棒、土偶ゴーレムの「欄馬」が次の餅を網に置く。
「どうして仮病なんか?」
 仕方ない、ともふら面の男も七輪を囲む。す、と欄馬が茶を出す。
 一方のクジュトの方は、ふぅと溜息。
「……ミラーシ座は座敷演劇の業界から生殺し、浪志組からは重要な案件からは遠ざけられ生殺し。ってね」
「いやちょっと、旦那」
 寂しそうに言うクジュトに、もふら面の男はすぐさま食いついた。
「いいすか? ミラーシ座はしょうがないす。だから路上演奏とか自由な活動をしてるじゃないすか。……浪志組の方は、それでいいんです。もともとの根っこは、旦那はミラーシ座の仕事にありつくために浪志組にかかわったんです!」
「そりゃまあそうなんですが、町の人を守る仕事だし……やるからには……」
「旦那は戦うだけじゃないでしょう? 舞や演奏でも民の心を救える。そうでしょう? 戦うのは隊士に任せとけばいいんです!」
 ぐじゃぐじゃ言うクジュトに顔を寄せてどすの利いた声を響かせる。
「本気で怒らないで下さいよ。……ちょっと、日常がありきたりになってきたんで困ってるんです」
「は?」
 真っ直ぐ顔を覗き込んでくるところを外し、クジュトがようやくいつもの様子を取り戻して言った。言ってることがイマイチ分からないもふら面の男は首を捻っているが。
「いいですか。浪志組は基本的に、発足当時から隊の存在価値を知らしめるため『見せる治安維持』に力を入れてきたんです。隊士服を作って、それを着用して巡邏なんかするのはこのためもあるんです」
 ふんふん、と頷くもふら面の男。もちろん他の理由もあるが、抑止力という点ではそのとおり。
「私は監察方になってからは、あまり隊士服を着て活動はしなくなりました」
「まあ、隠密行動するのに目立つ格好をしませんわな」
 続いての話も分かりやすいので、ふんふん。
「というわけで、もっぱら吟遊詩人として町に出て目を光らせてたんですが……最近は『演奏の途中で事件を追う吟遊詩人』とか『続きはまた今度の兄ちゃん』とか言われるようになってしまいまして」
「あー……何回もやってますね、それ」
 思わずもふら面の男も納得してしまうような状況で。殺人人形の時もそうだっだ、放馬の時もそうだったと指折り数えている。
「こりゃイメージを変えなくちゃと、しばらく前から浪志組のことは何もしてないんですよ。まあ、そうなると当然どうなんってんだと言われる可能性もあるわけで」
「で、仮病、と」
 うん、と頷くクジュト。
「もちろん、局長や副長あたりからは『好きにやれ』と最初から言われてるし、さっきも言ったよう干されてるんで問題はないんですが……そうだ!」
 ここで何かひらめく。
「だれか私に変装して、町の様子を見てきてくれないですかね? もちろん、変装無しで普通に町に無法者がいないか、ヘンな噂が流れていないかとか探ってくれてもいい」
「……いいんすか? 旦那にお熱の観客もいますし、恨みを持ってるならず者もいるでしょうし」
「普通に、変装無しで町で吟遊詩人の仕事をしたり薬を売り歩いたりする中で異常がないかを見てくれるだけでもいいんですよ」
 にこりとクジュト。
『餅が焼けたス』
「……のんびりする気でも、何かしてるという実感が欲しいということか」
 そう考えると合点が行ったようで、安心して欄馬から餅を受け取るもふら面の男だった。
「砂糖醤油がいいですか? それともきなこですかね?」
 とりあえず、二人で焼きたての餅を美味しく味わう。


■参加者一覧
ニーナ・サヴィン(ib0168
19歳・女・吟
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
燦千國 猫(ic0741
15歳・女・泰
綺堂 琥鳥(ic1214
16歳・女・ジ


■リプレイ本文


 ミラーシ座の楽屋にて。
「身長は底の厚いブーツを履けば良し、耳は自然なお洒落の中で隠して、と」
 ケイウス=アルカーム(ib7387)が化粧台を前に楽しそうに身だしなみを整えていた。
「髪も下ろした方がいいかなぁ?」
 ケイウス、自分の後頭部で結った髪に手をあて振り返った。
「下ろす、下ろさない……。ん、下ろした方がおろおろしない」
 綺堂 琥鳥(ic1214)がケイウスの声に反応し、水晶球の様子を伺いながら言い切った。
「……あの、『下ろしたらおろおろする』とも取れるような気がしますよ?」
 あれ、と首を捻りながらクジュト・ラブア(iz0230)が聞いてみたり。
「占い…そういうもの。今回はおろおろしない」
「じゃ、髪は下ろして……琥鳥のようにしようかな」
 ケイウスはくすくす笑いながらヴェールを使って耳を隠した。琥鳥はオーロラのヴェールを愛用している。
「それはいいが、要するに素性を隠して見回ればいいんじゃな?」
 横から猫族少女の燦千國 猫(ic0741)が念を押してきた。
「はい。何か事件や話題があれば聞かせてください。町を回っていれば知っているであろうことを私に教えてくれればいいんです」
 そうすれば、浪志組から報告を求められても返事ができるでしょ、とか言う。
 ここでニーナ・サヴィン(ib0168)の声が響いた。
「なるほどクジュトさん。サボりたいのね」
「いや待って。別にサボりたいわけじゃなくてこう、日常に変化を……」
「いいのよ。誰だって怠惰になる時はあるわ。その代わり」
 どうせ浪志組で干されているのならそれを利用し姿の見えない活動をしようとしているんですなどの言いわれはあっさり遮られた。というか、誤解された。
「……高くつくわよ?」
 ニーナはクジュトに低い声で言った。
「高くって……」
「そうじゃな。手ごろに仕入れて高く売る。おぬしには商才があるのぅ」
 クジュトが冷や汗たらりんしている隙に、猫がニーナの言葉にうんうんと頷く。
「商才……詳細は所載にて……」
 遠くを眺めるような目付きで琥鳥がぼそり。
「猫は商才がありそうだなぁ。……琥鳥は本気を出したら商才あるかもな」
 にこにこ見守るケイウスは、琥珀が占い結果を紙に書いて知らせて追加料金とか言いそうな流れになりそうでならないところを面白がっていたり。
「じゃ、知りたいこともあるし行きましょうか?」
 ハープを手に立ち上がるニーナ。
「あたしは商人として市場に行って来ようかの。こういうことは任せておくがよい」
 籠を背負って猫も続いて立ち上がる。
「いつもは竪琴なんだけど……」
 ケイウスがリュート「サン・ライト」を抱えた。
「アウラ・パトリダに集合で……いい?」
「そうですね。最後はあっちに集まりましょうか」
 聞いてきた琥鳥にクジュトがこくり。
 出発だ。



 町は春の息吹が感じられた。
「服と楽器が普段と違うだけなのになんだか新鮮だな」
 春風に吹かれ、ケイウスが自らの様子を確認した。
 いつもは暖色系の色合いを好み着用しているが、今日はクジュトの白い服を纏っている。
「こんな時はいつもと違った曲なんかやってもいい……ん?」
 ケイウス、周囲の気配が変わったことを敏感に感じ取った!
「あ、あのっ、クジュトさんじゃないんですかっ!?」
 振り向くと元気そうな娘達がいた。
「あ、ああ。そうだけど」
 慎重に答えたケイウスだが、彼のターンはここまでだった。
「きゃーっ! ステキ。本人さんだなんてっ。私たち、クジュトさんの女形姿を遠くから見て一目惚れしたんですっ!」
「すごいすごいっ。握手してください……あっ、服に埃が……きゃああ、つまずきましたーっ!」
「えーっ、どうして今日は女装じゃないんです? いま女装してください。ここで着替えてください」
「……まったく、男の癖に女性の姿をして喜んでるなんて、何って変態なんでしょう。おそらく普段から指輪とか下着とか女物を着けててさぞや変態なんでしょうね……」
 一人が熱視線を向けたまでは良かったが、握手して服をはたく振りをして抱きついてきたり、ぐいぐいと服を引っ張り出てきた素肌の鎖骨にうっとりしたり、掌を包んで指の間の隅々まで触ってきたりあまつさえ服の腰を緩めようとしたり。
「わーっ、ちょっと待って。……今度。続きはまた今度。い、急いでるんだ! ごめんねっ!」
 ケイウス、何とか娘達に乱暴せずに脱出することに成功。幸運が高いのは伊達ではない。
「ちぇー」
「じゃ、また今度ねーっ」
「それまでせいぜい変態してなさい」
 四人娘は一定の満足感を得たようで、きゃるーん☆、と爪先立ちして回りつつ手を振って見送った。
「……クジュトがさぼりはじめた本当の理由って、これなのかな?」
 ケイウス、ぐったりしつつも妙に納得したり。
 そして気付く。
「あっ。『続きはまた今度』の兄ちゃんじゃないかな、あれ?」
 遠くからこっちを指差す子供達に。
「……さっき言ったかな、確かに」
 一曲やりたいところかな、などと思ったが止めておいた。というか、一曲やる前に「また今度」を言ったようで。



 この時、猫。
「ふむ。色恋沙汰は猫も食わぬというしのぅ」
 遠目にケイウスが故意に恋する……もとい、恋に恋する娘っこ集団に囲まれ好き放題されているのを見て、助けにも行かずにふいっと背を向けてしまっていた。ぴこっ、と猫耳を前にして知らぬ存ぜぬ。
 おっと、その猫耳。
 右側だけがぴくりと動いて外を向いたぞ?
「さぁ、竹輪が焼けてるよ。ちょいと食べてかないか?」
 焼き竹輪の屋台が出ていたようだ。
 猫、これに気付くと尻尾を立てた後、ぴゅーっ、とまっしぐら。
「お。どうだい、お嬢ちゃん」
 屋台の店主は炭火の上に何本も横にした竹棒を回しながら猫に声を掛けた。
 竹の棒には、魚肉をすりつぶしたものが付けられている。下の炭火で焼かれ、いい色にこんがり。満遍なく焼くために店主はあれをくるり、これをくるりと手だけ忙しい。
「ほほう、この辺の『とれんど』はそーゆー感じなんじゃのう」
「そうそう、今は食い気。春になったんだから桜を見ながらね。団子もいいが、体の温まる焼きたての竹輪もいいよ? ちょっとだけ食べてみるかい?」
 ふんふんと鼻を利かせ覗き込む猫。店主は胸を張りつつ、脇で焼いていた試食用の竹輪からナイフで少し切り取り楊枝で刺し、のぞける。
「ほう、うまい。……あたしの山菜なんかにも合うじゃろうか?」
「お? その様子、商人さんかい? それは……?」
 背負った籠を下ろして椅子にして、竹輪を味わいつつ中から商材のミツバなど山菜類を出す。店主はあるものに興味を持ったようだ。
「うむ、キクラゲじゃ。泰国料理ではよく使われるの。味は薄いが歯ごたえが良い。何より栄養は豊富じゃぞ?」
「へええっ、泰国料理か。そういや神楽の都でも泰国料理の店なんかも見掛けるようになったな。もしも売り込みたいなら紹介するぜ?」
「まことか? それはかたじけないのぅ」
 猫、早速人脈ができて意気揚々と引き上げる。



 尻尾を立てつつ気分良く歩く猫。その向こうには。
「希望があれば何でも占います…。売らない占い、いかがです……?」
 琥鳥が小さなテーブルを置いて、辻占いを構えていた。
「ちくしょう、今日は朝からついてねぇ…」
 そこに、機嫌の悪そうな男が通り掛かった。しきりに首筋に手を当て顔をしかめている。
「ん?  タダの占いか? じゃ、頼む」
 運の悪いことに絡まれた。ぐるん、と肩を回していたり。
 琥鳥、臆することなく水晶球に手をかざし占う。
「金運よし…。金が沢山手に入るかも…。…金は金でも金属……」
「お、今日は賭場だな。って、金属? ちょい待てや、わりゃあ!」
 どげし、と琥鳥の座る横の壁を喧嘩キックする男。
 すると、軒の上から金タライが落ちてきて男の頭にヒット。くらっとして本格的に怒り心頭……。
「む、治った! 寝起きに筋が違ってたが治った。ありがとな!」
 しきりと気にしていた首根っこに手を当て、今度は明るい表情。謝礼として多めの鐘を置いて行った。
 その後、次の客。
「いいかしら? ちょっと困ってるのよね」
 けだるい雰囲気の女性だ。
「ん、恋愛運悪し…。同姓運良し…。…同姓と同棲…どうせいと…?」
「凄いのね、当りよ。可愛い女の子に言い寄られて困ってるのよね……同姓? そうか、養子ね!」
 客、納得して多めのお金を置いて行った。
「ふぅ……」
 そして今日は店じまい。必要な分だけあっという間に稼いだ。
 当てもなく歩いていると、目の前にスリがいた。被害者は老人だった。道を聞いてその隙に、という手口だ。老人は気付かず、道を教えた側なのにぺこぺこして男を見送っていた。
 琥鳥、スリとすれ違い、老人に近寄る。
「……おじいさん、あの人、スリ…。スリにすり寄りスリ返し…。すりっとね…」
「これはありがとうありんす」
 すられた財布を本人に返しながら言うと、先と同じくぺこぺこしている。財布はライールで先程犯人からすり返した。
「これも昔とった杵柄…。昔盗った篠塚…。…篠塚って誰…?」
「名手ですなぁ」
 よく分からないことを言う琥鳥だったが、老人はそう称賛した。琥鳥の腕を褒めたのだろう。



 この頃、ニーナ。
――ぱちぱち……。
 ハープで最後の調べを爪弾き終え顔を上げると、大きな拍手が待っていた。
 曲に集中して気付かなかったが、広間には、ニーナの周りにはいつの間にか多くの聴衆がいた。
「さあ、次はどんな曲がいい?」
 聞くと、わああっ、と盛り上がった。
「『また今度』の兄ちゃんとは違うなぁ」
「あら。じゃあ、私が『また今度のお兄さん』の代わりをしてあげるわ」
 子供の声に気付いたニーナ。そう請け合ったところで気付いた。
 自分の目の前に、深刻な表情をした女性エルフが立ちはだかったのだ。
「貴女、『また今度』の子のことを知ってるの?」
「どうかしら。というか、子供なんだ?」
 ニーナ、相手の言いようが気に掛かり返した。
「そうよ。アル=カマルで危なっかしかった子。こっちに流れて着たって聞いたけど、昔みたいに傷付いてるはずなのよね」
「…へぇえ〜。ふぅう〜ん」
 色っぽく言う女性に懐疑の目を向けるニーナ。
「知ってるのかしら? 危なっかしいでしょ、あの子。自分から突っ走って傷付いて」
「好きな人がいるって素敵な事よね♪ 想いが伝わるといいわね♪」
 んふふふ、と大人な魅力で視線を受け止めた女エルフ。ニーナの方は華麗に視線を外してにっこり微笑むと曲を弾く。
 終ると、ぱちぱちと素直に拍手する女エルフ。
「愛とかじゃないけどね」
 ついでに先程の返事を。
「……ふうん。その金髪エルフなら浪志組の屯所にいるわよ♪」
「知ってる。故郷を捨てたとか言ってるらしいけど、やってることは同じなのね」
「そうなんだ。……ん? ちょっとごめんなさい。続きは今度で」
 ふぅ、と溜息を吐く女性を放っておき、ニーナは路地裏へと走った。
 ばっ、と路地裏奥へと駆け込んだとき。
――ぎにゃ〜ん♪
 哀しげで重苦しい、弔鐘のような音が響きナイフを手にした男が思いとどまっていた。
「ちょっと!」
 ニーナ、叫ぶ。
「……ごめん、俺はクジュトじゃないんだ。文句があるなら面と向かって本人に伝えなよ」
 ナイフの男の前には『弔鐘響く鎮魂歌』を響かせた後のケイウスがいた。
「くっ! 覚えてろ」
 ナイフの男はそれだけ言うと逃げていった。
「ケイウス、何だったの?」
「厳武(ガンブ)っていうならず者の手下。クジュトに恨みがあるようだね」
「よくよく過去に縁のある人ねぇ」
 はふぅ、と首を振るニーナだった。



 そして晩。希儀風酒場「アウラ・パトリダ」にて。
 金髪の楽師のクーナハーブの音が響いている。
 ニーナの弾く、「そよ風の故郷」という曲だ。丁寧に、丁寧に優しい音色を紡いでいる。
 客達は耳に心地良い音楽を聴きながら希儀風ワインを使ったカクテル、「エルピーダ」や「ネクタル」を飲んでいた。
「えっ! 厳武が?」
 そんな中、クジュトの声。ケイウスから報告を聞いて驚いている。
「いかんのぅ。怒りっぽいのは格好ようないもんじゃ。そんな時は栄養抜群の山菜を食べると良いぞ!」
 聞いていた猫がキクラゲをクジュトに差し出したり。
「いや、怒ってるわけじゃないですよ猫さん。ちょっと面倒なことが起こりそうで」
「…怒ってなくても起こりそう…」
 クジュトの言葉に、ぼそりと琥鳥の声。
「面倒なこと?」
 改めてケイウスが聞いてみる。
「私が浪志組に入った頃、道場破りを依頼された場所に居座っていたならず者が、厳武です。その時の手下は、数人私についてくれたのですが……もしかしたらそれが気に食わないのかもしれません」
 思い出すクジュト。ケイウスはカクテル「バッカス」を飲みつつ「ふうん」。
「……あ、それともう一つ。酷い目にあったよ」
 クジュトのファンだと言う若い娘にもみくちゃにされたことを話す。
「それ、演劇好きの妙齢のご婦人の時もあります。……そっちの方が大変ですよ」
「あれより大変……」
 ぞっとするケイウスだったり。
 それはそれとして、猫。
「へえっ。泰国料理かぁ」
「うむ。ここでもキクラゲを使うが良い」
 店主のビオスにほれほれと薦めていたり。商魂逞しい。
「う〜ん、ここって希儀風酒場だし」
 店員のセレーネが事情を説明し、猫、「さようか」としゅん。
 一方、琥鳥。
「占師さん、きょうもいるな。ちょっと頼むよ」
「……ん。恋愛でも金運でも何でも来い。ただし当たるも八卦当たらぬも八卦……」
 客に呼ばれて占いに。なんだかすっかり店に定着しているようで。
「まあ、気になることは厳武の手下くらいですかね」
 クジュトは皆に巡廻してもらった結果をそう見たが……。
「クジュトさん、ちょっといい?」
 演奏を終えたニーナが戻ってきた。ひょい、とクジュトの飲んでいた「ノスタルギア」を取り上げて飲む。
「あなたを『危なっかしい子』って言ってるエルフ女性に会ったわよ?」
「え?」
 事情を説明するニーナ。
「シャオナハットか……」
「誰よ?」
「母のいない自分に世話を焼いてくれた女性。流れ者のジプシーで、恋人と旅に出たはずだけど」
「ふぅう〜ん……それより、町は花見でぱーっとやりたい雰囲気かしらね?」
 ニーナ、話題を変えた。他に浪志組の評判が落ち着いてきていることなど思い返している。
「じゃ、次は俺が弾いてこようかな。広場じゃまったく演奏できなかったし」
 その横でケイウスが立ち上がった。リュート「サン・ライト」を弾き始めると店内がまたいい雰囲気になった。
「ふむ……いい感じじゃの」
 ててて、すとっ、と椅子に収まった猫が演奏を聞きつつしっぽゆらりん。
「今日もアウラ・パトリダは盛況…聖教…。…アウラ教…?」
 琥鳥も機嫌が良さそうだ。
「何もなければいいけど」
 クジュトだけ、少し不安。
 いい情報が入ったのではあるが。