南那〜椀那の矛先
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/03/20 20:45



■オープニング本文

●これまでのあらすじ(初めての人用)
 泰国南西部に南那で、内戦が勃発した。

 これまで地域を統括していた、最も古く大きな海側の都市「椀那」(ワンナ)は、志体持ちの職業軍人を唯一抱え、南那全域の軍事権を持ってきた。
 対する、陸側の比較的歴史の浅い大きな都市「眞那」(シンナ)は、軍備も許されず質量共にあまり良好とはいえない穀物を取り引きしていた。
 南那全体を、高齢の椀・栄董(ワン・エイトウ)氏が統治し、長男の椀・栄進(エイシン)氏が椀那を、次男の椀・訓董(クントウ)氏が眞那を直轄していた時はこれでよかった。問題は、栄董が他界してからだった。

 眞那側の住民は元々、沿岸部重視の政治にうんざりしていた。
 近年、珈琲交易が当たったことにより、これまで穀物取り引きだけでは苦しかった内陸部が潤った。
 住民も、拳を振り上げる余裕ができたのだ。
 これを訓董氏が止めた。いや、預かったのだ。
 北の砦の崩壊や西の森からのアヤカシ侵入を理由に、外部から私設軍をまるごと雇うことで住民に肉体的負担を要求せず一気に軍拡をした訓董氏。間髪入れずに軍事行動を起こした。
 眞那と椀那を繋ぐ交通の要衝であり、両地域の境となる「往来橋」に一夜城を建設することにより占拠したのだ。

 一方、椀那。
 眞那側の動きの直前に、内乱を促したい商人の雇ったならず者から官邸など要所に襲撃を受けていた。余談だが、「英雄部隊」として近年の困難解決に努めた開拓者たちに縁のある「珈琲茶屋・南那亭」の南那店も襲撃を受けた。
 さすがに軍事行動の気配があったところに、一夜城。
 ついに栄董氏が動くことになりそうだった。


●本編
「報告します!」
 椀那の官邸一室に緊張した声が響いた。
「先の官邸及び市街地への攻撃は、珈琲通商組合の一部商人も関係していたことが分かりました」
「分かった。我々に味方する商人の確認を急げ」
 報告を聞いた栄進が怒りを押し殺したような声で応じた。
「古参の林青(リンセイ)商会をはじめ、当初から関わっていた商人から報告が入るはずですが、概ね後から加盟した商人が該当するそうです。……後は、古参の数人も関わっている疑惑がある、と」
「林青は必死だな。……まあ、こちらとしては信用できる人物がいて助かるが」
 栄進、船月島開拓から関わっている林青には全幅の信頼を寄せている。
 ここで新たに。
「報告します、北窓(ホクソウ)の刻・概堂(コク・ガイドウ)が反旗を翻しました!」
「何……」
 さすがにこの報告は焦ったようだ。
「こちらの役人を追い返してきてます。商人の後ろ盾があるようですね」
「訓董側とは呼応してないのか?」
 栄進、精悍な顔で襲い掛かるように確認した。
「は、はい。特に眞那側から北窓への接触はなかったそうです」
「まあ、場所も遠いし刻一族が我ら椀の一族と手を結ぶということはないハズだ」
 むむ、と考え込む栄進。
 そしてさらに伝令が!
「報告ッ! 沿岸部の白陽(ハクヨウ)に海賊が攻め込んでますッ!」
「な、なんだとぅ?」
 さすがに栄進、耳を疑った。
「備尖(ビセン)の顕・庵錬(ケン・アンレン)はどうしてる?」
「アヤカシの残党退治に全力を尽くしているため対応できないそうです」
 解説すると、大型船の停泊できる備尖は南那の玄関口で比較的大きな町だ。それが南那沿岸部の東に位置し、製塩業が盛んで南那の金庫とも呼ばれる白陽はのどかな農村地帯で沿岸部西に位置していた。
 加えて、内陸では宿場町、互輪(ゴリン)の先にある「往来橋」に眞那軍が一夜で砦を築き、内陸北東部の北窓で刻氏が反旗を翻した。
「まさか裏でつながってるのか?!」
「……ならず者を使ってるわけだから、北窓と白陽は可能性はありますね」
 イラつき声を荒げる栄進。静かに応じたのは、ちょうど室内に入ってきた親衛隊長、瞬膳(シュンゼン)だった。
「出撃だ、瞬膳。開拓者も呼んで侵攻準備をしろ」
 栄進、静かに言い切った。

 その後、神楽の都にある「珈琲茶屋・南那亭」。
「え? 何その世の中全部が私の敵みたいな状況は」
 「南那亭めいど☆」の深夜真世(iz0135)が旅泰の林青から南那の状況を聞いて呆れていた。
「うまいこと被せてきたとしか言いようがないね。それより、私の方は引き続き珈琲通商組合を裏切った商人の絞込みをする。真世君は、『英雄部隊』として南那……いや、椀那に行って、どこかに攻め込んで欲しいんだ」
「……どこかに攻め込むって」
 真世、またしても呆れた。
「戦力分散の愚は犯せず、かといって往来橋、北窓、白陽のどれも放っておけない状況。幸い、備尖のアヤカシ残党は何とか現地が対応するらしいけどね。とはいえ、栄進氏は瞬膳に往来橋攻略を命じたらしいから、真世君たちは少数で北窓か白陽のどちらかを鎮めて欲しいらしい。もっとも、栄進氏は往来橋と北窓を迷ってるから、真世君たちが望めば往来橋を攻略してくれてもいいらしい。とにかく『英雄部隊』を募って……」
「待って」
 ここで真世、泣きそうな顔で話を止めた。
「その……海賊に襲われてる白陽も大変なんでしょ? もっといっぱい雇って、全部同時に何とかできないの?」
「ダメらしい。……もともと南那は外部の人間に不信感を持っている。眞那も力を付けたのは結局よそ者のおかげ。椀那の南那亭が襲われたのも、よそ者。『真世君とその仲間以外は信用できないし、これ以上よそ者を登用するわけにはいなかい』ってことだ」
「……分かった」
 真世、林青の辛そうな表情を見て聞き分けるのだった。


■参加者一覧
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
アイシャ・プレーヴェ(ib0251
20歳・女・弓
猫宮 京香(ib0927
25歳・女・弓
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918
15歳・男・騎
龍水仙 凪沙(ib5119
19歳・女・陰
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰


■リプレイ本文


 椀那の練兵場にて。
「はぅ! 北窓は僕たちが鎮圧してくるのです!」
 ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)が軍馬を駆りつつ親衛隊長の瞬膳にまくし立てていた。
「よし、良くぞ言ってくれた。それでこそ英雄部隊!」
 頷いた瞬膳の横から、豪華ないでたちで軍馬に跨る椀・栄進が出てきて言った。
「え? 栄進さんも出るの?」
「当たり前だ。敵が弟なら後ろで眺めておくわけにも行くまい。どちらが統治者として相応しいか、とくと見せてやる!」
 たじろぐ深夜真世(iz0135)に、武人としての鍛錬も怠らない栄進が吠える。
「英雄、か……」
 雪切・透夜(ib0135)は、ちょっと遠くを見て呟いていた。
 恋人の様子に気付いた真世。透夜と目が合う。
「……僕はそれを厭うんでね」
 何があったんだろう、と小さくなるく真世。
『心配無用だ、真世殿。主はそれが必要なら関係ないはず。むしろ使い切るだろう』
 その様子を見て、透夜の上級からくり「ヴァイス」が真世に説明した。
 この時、瞬膳が近寄ってきた。
「真世さん、とにかく北窓を選んでくれて助かったよ」
「あ〜、もう、よそ者よそ者って、何で一括りにするのですか! 開拓者も強盗犯も海賊も一緒なのですか!」
 真世の横から霊騎「テパ」に乗ったアーシャ・エルダー(ib0054)が出てきて言う。イライラしているのは、開拓者増員の直訴をしたが、長年南那に尽くしてきた彼女たち以外は信頼できないと断られたからだ。
「アーシャさん?」
「大丈夫ですよ、瞬膳さん。ちゃんと北窓に行きます」
 心配そうな瞬膳に、アーシャと一緒にいた妹のアイシャ・プレーヴェ(ib0251)がこたえた。相棒の空龍「ジェイド」を預け、戦馬「ジンクロー」に騎乗している。
「だけど気持ちはみんな一緒。とっとと北窓を鎮圧して白陽に行くわよ」
 そして、にま、とアイシャの背後から龍水仙 凪沙(ib5119)が顔を出す。
「はう? うさねーの相棒は?」
「桜鎧なら預けてきたわよ。今回は久しぶりにシギュンに乗って行くわよー」
 聞いてきたネプに機嫌よくこたえる凪沙。甲龍を預ける代わりに借りた南那の軍馬「シギュン」も久々に凪沙を乗せて嬉しそうだ。
『む〜、どこもかしこも大変です』
 そして難しそうな顔をしている羽妖精が一人。
「うん……。厳しい状況を少しでも早く事態を収拾するために、全力を尽くしましょう」
 緋乃宮 白月(ib9855)が上級羽妖精「姫翠」をなだめる。
『そうですね、マスター。真世さん達に掛る負担を少しでも減らせるように頑張りますよー!』
 主人の言葉に納得いった姫翠、明るい表情になり元気一杯に両手を広げた。
 一方、ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)。
「すごい状況だね!」
『……で、ボクはどいつを殴ればいいの?』
 いらだつ周りの雰囲気にのまれて声を弾ませている。一緒にいる相棒の羽妖精「大剣豪」もワクワクしているぞ?
「あとのお楽しみ♪ まずは反乱を鎮めるよ。北窓を陥落させよー!」
『おー!』
 白月と姫翠よりも元気に盛り上がる。
 これを見ていたアルバルク(ib6635)の相棒、上級羽妖精の「リプス」。
『おじさん、乗りが悪いじゃん。ちょっと酒が足りないんじゃない?』
「……戦う前に酒は飲まねーよ」
 アルバルク、元気の有り余るリプスを適当にあしらっていたり。
「可愛い子が多くていいですねー」
 そんな羽妖精たちの様子を見て猫宮 京香(ib0927)はにこにこ。
「ねえ?」
 京香、透夜に振った。
「え? そうですね」
「……透夜さんに対しても『可愛い子』を見る視線なのね」
 良く分からず相槌を打つ透夜だったが、真世は何となく意味に気付いたり。
「それじゃまずは北窓の叛乱鎮圧。……あー、身体が2つ欲しいわね」
 凪沙、仲間の準備ができたと見てシギュンの馬首を巡らせ、出る。
「うさねーに二倍いじめられるから勘弁なのですよー。というわけで、往来橋も北窓も早く終わらせて、落ち着かせましょうなのですよ!」
 遠雷・改「ロギ」を収めたアーマーケースを背負い軍馬に乗るネプが彼女を追い抜きながら威勢を上げ。
 京香が霊騎「千歳」で、真世も霊騎「静日向」で続く。
 もちろん、瞬膳の親衛隊も栄進を取り囲んで出た。
 二つの軍勢がそれぞれの戦場へと向かっていく。



 北窓は、東の山地を背に佇んでいた。
「はぅ。敵は城に篭ってるのですか……」
「ジルベリアの城塞都市に比べるとすっごくしょぼいね!」
『しょぼいねー』
 遠目にネプが眺める横で、ルゥミと大剣豪が遠慮ない感想。実際、壁に囲まれた町といった感じだ。
「とっとと城門を壊してしまいますか」
「はぅ。うさねー、壊しすぎると眞那側にもし攻められたときに守りきれなくなるです」
「その時はネプに壁になってもらいましょうか」
「うさねーひどいのですー」
 腕まくりする凪沙。ネプが正論を説くとにんまり笑いと一緒に暴論が返ってきた。
「まー、門だけならいいんじゃねーか?」
 仕方なくアルバルクがなだめる。
『今日のおじさんマジせこいよねー。いたいけな妖精ちゃんを鉄砲玉にするなんてえー』
 相棒のリプスが悪戯っぽい視線で主人に絡んできた。
「痛い気なら十分あるからよ」
『ヒドー!』
「ぶつくさ言うない」
『言うね! 言うね! 力の限り!』
 仲良く言い合っている様子を、姫翠が見ている。
 ちら、と白月を見た。
「……大丈夫。僕たちもいつものように」
『はい、マスター。アルバルクさんもいつも通りなんですね』
 白月の言葉に納得する姫翠。
「……いつも通りにされちまったよ」
 アルバルク、ぼそりと一言。
 そして別の方を見る姫翠。
「真世さん、今こそ弓の腕を振るうときですよ。それにアイシャがいるんだもん。大丈夫、大丈夫」
 アーシャがアイシャと真世を一緒にはぐだきゅ〜。
『いつも通りですね!』
 改めてうん、と納得する。
 一方、透夜。
「それにしても、遮蔽物がなく門まで遠いですね」
「まずは近付かないと何も出来なさそうですね〜。千歳、大変かもですが頑張ってくださいね〜」
 眺めている横に京香が立つ。はいっ、と今、霊騎「千歳」を走らせた。
「お姉、行ってきます。真世さん?」
「うんっ」
 アイシャと真世も行く。
 弓術部隊の三人がまずは出た。

 最初に、アイシャがジンクローの足を止めた。
「さて、お立ちあい。天儀がには流鏑馬なる騎乗射撃の文化があるのだとか? では、この私めも独自ながらご披露致しましょう」
 一礼するとロングボウ「フェイルノート」をこんな遠くから放った!
 射線は方物を描いて一気に城壁上部の敵弓兵を襲った。
「おわっ!」
「遠いんで当りはしないが、なんちゅう正確な射撃じゃ」
「ちゅうか、あそこから届くとは」
 敵弓兵、どよめいている。反撃の矢が帰ってくるが、高さを生かしているからこそアイシャまで届くもののいずれも地面に刺さる。
「少しずつ円周を縮めますよ?」
 近付いたことで敵の矢も当るかもしれないレベルになった。逆にアイシャの弓もさらに正確になった。絶妙の距離を保ち円周を横に動いて矢をかわしつつ長距離攻撃する。「おぅ」、「わっ」と悲鳴。敵数人が右肩を押さえ姿を隠す。
「京香さん、私はここから撃つね?」
 前進していた真世、ロングボウ「流星墜」を放つ。敵の矢はまずまず精度が上がっている。
 京香、まだ行くぞ?
 さすがに敵の矢が防具に当たり千歳にも降り注ぐ。
「ここまでくれば射程バッチリですよ〜。天狼星で撃ちぬくのですよ〜!」
 我慢の表情をしていた京香、快心の微笑を見せてゲイルクロスボウを構える。
 放つは烈射「天狼星」。
「おわっ!」
 命中した敵以外の数人も衝撃波でふらついている。
「これ以上近寄せるな! あいつに攻撃を集中……」
「何だ、あれはッ!」
 味方を鼓舞する声の中、開拓者の後列を指差す者がいた。
 その先にはッ!
「はうっ。ロギに乗って突撃なのです!」
 大地を滑るように桜色の巨体が突進していた。
 噴出するオーラが荒野の石を跳ね飛ばし、広げたマントが激しくなびくっ。
「撃ち方、奥っ!」
「もう一度オーラダッシュで一気に門まで近付くのです!」
 ばふん、と再びマントが広がる。敵射線は集中したが一気の加速で被害は最小限だ。
 この時、ロギの後続。
「真世さ〜ん、援護よろしくね」
 ぶんぶんと真世に手を振り凪沙とシギュンが行く。
「真世、行って来る」
 続いて軍馬に乗った透夜とヴァイス。さらに後続部隊が続いている。
「さて、相手は塀の上……と」
 先頭の凪沙が五行呪星符を一枚空中に投げた!
 瞬間、瘴気の霧が塀の上の敵と大地を駆ける味方を結んだ線上にぼふんと発生した。
 決して、視界を奪いつくすものではない。ちょっと色がついている程度である。
 が、敵の判断は「何かあるのか?」と一瞬遅れた。
「そっち有利の高低差だけど、その分こういう使い方ができるのよね〜」
 この隙に瘴気の霧の下をかいくぐって距離を稼いだ。
 半面、再開した射撃は一斉攻撃の側面もある。
「危ない!」
 これは透夜が前に出て白銀の大盾を掲げ被害を最小に抑える。
――ドゴン!
 このころ、ついにネプのロギが城門到達。一発目のゲートクラッシュを見舞っていた。
 ほぼ同時に、残りの開拓者も城壁手前に到達。
――ピカッ、ゴゴン!
「はんらんぶんし出てこいー! 早くしないと更地にしちゃうぞー!」
『しちゃうぞー!』
 ルゥミが魔槍砲「赤刃」でスパークボム。範囲爆破で城壁を揺らす。大剣豪と挑発しまくり。
「……姫翠?」
 この様子を見て、城門から射撃を誘いつつ巧みに離れる動きをしていた白月が相棒の名を呼んだ。
『それでは……参ります!』
 きっ、と上を向いた姫翠が凛とした声を残して高く飛んだ。
 注意が白月に向いている隙に、塀の上にトラップ「妖精の迷宮」を仕掛けまくった。
「うまくやってるようだね」
 姫翠の見て微笑する白月。今の隙に矢を食らったが、改めて塀に対し平行に動く。
「お前らは奴を追えっ!」
 上では敵の指揮官が部下に指示を出す。
「そんじゃ、アイツに鉄砲玉な?」
 後方でアルバルクが長射程のマスケット「魔弾」を放っていた。ちゅいん、と塀の壁に当る。
『常に隠れてるなんて卑怯者だよね〜。じゃ、本日の攻城戦開始』
 アルバルクの横に控えていたリプスが一気に戦場を駆けた。
「頑張って来いよ、鉄砲玉〜」
 アルバルク、武運を祈る。



「流石に前で戦い続けるのは厳しいですね〜」
「あっ。京香さん!」
 京香が真世の場所まで下がってきた時、前線では決着が付いていた。
 城門では凪沙が振り返っていた。
「ネプ、補強の鉄材は錆びたわよーっ!」
 錆壊符で門扉の鉄の補強具をさび付かせていたのだ。
「ロギの前に開かない門はないのですっ!」
 ネプ、ウコンバサラを構えて再びのゲートクラッシュ!
――ドゴッ、ガコン!
 門は破った!
 が、そこから黒い巨体が現れロギを押し返したぞ?
 敵方の駆鎧だ。
 そのままロギと一緒にぶっ倒れる。
 この時、城壁の上。
「くっ……こうなったら門を崩して潰し、火をつけ……」
『おっとー。大人しく寝たい? それとも首を落とされたいかなー』
 常に城壁に隠れていた敵弓術隊の隊長が最後の決断を口にしたと同時に、リプスが姿を現していた。透明になって背後を取り、相棒剣「ゴールデンフェザー」の刃を隊長の首にくっつけている。いま、眠りの砂で部下を眠らせた。にひひ、と優越感に浸るリプス。
「くそっ。俺を倒したところで概堂の頭は攻撃の手を緩めやせん」
『じゃ、その頭以外は手を出さないように。一騎打ちくらいは温情でさせたげるからさー』
 これで上の話は付いた。
 話は下に戻る。
「な、なにがあったですか?」
 ネプがロギから出て門を見たとき、颯爽と風に吹かれる数騎の騎馬部隊を見た。
「大人しく見てな。頭の登場だ」
 がこん、と敵駆鎧のハッチも開いて相手が言った。
 その視線の先。 
「ウチの弓術隊の猛攻をくぐり抜け門扉を開けるたぁな。……俺は、北窓の刻・概堂。すまねぇが町で暴れんのは勘弁してくれな」
 無精髭を生やした細身の男、これがこの町の支配者たる元山賊だった。
 ここまで言って概堂、「ん?」と眉を潜めた。
 アーシャが進み出たのである。
「我こそは誇り高きエルダー一族の長の妻にして、帝国騎士のアーシャ・エルダー。名高き南那の英雄部隊の一員、さらに珈琲が美味しい南那亭のメイド、その他いろいろ!」
 堂々、風に吹かれ馬上で言い放つ。背後には透夜、白月、ルゥミ、京香が付いた。敵の人数を見て整列し武威を見せ付ける。
「戦なんてせずに珈琲飲みに来るといいいですよ! さもなければ私と勝負!」
 アーシャ、言い放ちアックス「ラビリス」を構えた。
「おもしれぇ姉ェちゃんだなぁ。……ちょいと面貸しな」
「弓自慢がいたわね。お相手願えるかしら?」
「じゃ、俺はそこの小僧と遊ぶかな? 来な」
「泰拳士もいるなっ! どちらが強いか手合わせ願おう!」
 概堂が気取ってアーシャに言い席を外すと、女性弓使いが京香にウインクして背を向け、大柄な剣士が透夜を睨んでから顎をしゃくり、泰拳士風の男が白月に真っ直ぐな視線を投げてから戦いに誘った。一騎打ちを望んでいると分かり、それぞれが敵に付いていく。
「……俺の相手はもしかして、こいつか?」
 一人残った敵は、モヒカン。
『やぁやぁ、ボクこそは妖精剣士だいけんごー! いざ尋常に勝負!』
 ルゥミの横から大剣豪が進み出て名乗る。モヒカンの怒りは頂点に達したっ!
「ふざけるなふざけるな! どうして俺はいつも貧乏くじなんだ!」
 モヒカンが細身の剣で突きの猛ラッシュ! これをことごとくかわす大剣豪。というか、敵は怒りのあまりまともに狙いをつけてなかったり。
『もう終わり? ボクのターンだねっ。いざ回転、大旋剣!』
「おわっ!」
 大剣豪、獣剣「ヨートゥン」の柄の先を両手で持ってぐるんぐるん……とは回らず大きく振って剣先を当てに行く。モヒカン、派手好きなようで派手にかわす。
「よぅし、それならこっちも必殺技、モヒカン割り!」
 モヒカン、自分の頭髪のような綺麗なダウンスイングを見せる。
『何の! 大旋剣!』
 縦の大振りと横の大振りが交錯したッ!
 結果、何故だかしっかりと剣を持った大剣豪とモヒカンが刃を合わせぐぐぐと鍔迫り合いに。二人の顔が間近に迫る。
 刹那。
『負けてね♪』
 なんと大剣豪、投げキッス。腕輪「メビウス」が揺れて誘惑の唇で、うっふん☆。
「でへ?」
 あっさり戦意をなくすモヒカンだった。

 別の場所で、白月。
 荒野の風に吹かれ首に巻いた緋色のリポンが弄ばれていた。
 それでも、やや左に開いて拳を固めた構えは揺るがない。
「へええ、ちっこくて細いのに、しっかり基礎ができてるじゃねぇか」
 敵の泰拳士、嬉しそうに言うと馬を下りてどっしり構えた。
『マスター、ご武運を!』
 姫翠は光の粉を白月に掛けて引いた。
 これが合図になった。
「行くぜっ。耐えられるかッ!?」
 敵、体格差を生かして力押ししてきた。
「うん……身体の気の流れ、いいです」
 白月はどっしり構えていたかと思うと柔軟に敵の突っ込みをすり抜けた。パシンとすれ違いざまに拳を入れる。しばらくこの攻防が続く。
 が。
「八極天陣か。いつまで持つ? いや、コレが交わせるかッ!」
 敵は一発狙い。背拳で身を翻し間髪入れずに追撃してきた!
 圧倒的な寄せ。そして拳を振り上げ絶望的な入り。もう、交わせない。
「……諦めません」
 敵が聞いたのは、その一言だった。
 その後のことは覚えていない。
 ただ、自分の攻撃が入った感触はあった。
「がっ!」
 同時に、白月の訳の分からない動きから足の裏が顎にヒットしていた。
 相打ちで、どうと倒れる。
『あっ』
 姫翠が歓喜の声を上げた。
 ゆらりと立ち上がる白月。気力を込めていた分、敵を上回った。

 この時、透夜。
「心に誓うものがあるんでね」
 呟いて構えていた手裏剣を捨てた瞬間、オーラが立ち上った。抜刀した太刀「鬼神大王」が輝く。これまで攻勢だった敵は槍を突き出すが……。
――どがっ、ひひん!
 透夜、トリビュートを構えたまま突っ込んできた。敵は盾に圧されて落馬。すぐに戦う姿勢を取る。
「小憎、もう容赦しねえっ!」
 大地に足を踏み締め、突きの猛ラッシュが来た。慌てて馬を下りる透夜。盾で防戦。
「この間合いで手裏剣なしは辛いだろ?」
 巧みなステップで透夜に突っ込ませないようにしている。
 そればかりか、透夜の太刀を弾いた。間髪入れず踏み込んできたぞ!
 透夜、今度は短刀を構えた。明らかに貧弱。冷ややかに笑う敵。
 遠巻きに見ていたヴァイスの瞳が見開かれる!
――ひゅん、どすっ!
 何かが飛んで敵を刺した。慢心していた敵の心理的衝撃は大きい。
「この、小憎……」
 透夜の短刀の刃がばね仕掛けで飛んだのだ。怯んだ敵を盾で押し潰し決着する。
『主らしいな。飛び道具を棄てた時点で既に決めていたか』
「備えは常に大事ってね。戦いなんてそんなモノさ」
 苦笑するヴァイスにさらりと言ってのける。

 京香も似たようなことをしていた。
「あらあら〜。流石に一騎打ち希望なだけあって手強いですね〜。急所を狙わせてくれないとは…」
 千歳との息もばっちりに動き回り敵の急所を狙っていたが、すべて交わされていた。
「のんびりしてるくせに射撃は正確だからね。分かりやすいわ」
 敵の女性弓使いも人馬一体で動きまくり。
 実に見ごたえのある移動砲台同士の攻防が繰り広げられていた。
「京香さん、撃たないね」
「共に一撃必殺を狙ってるみたいですね。見ごたえある位置取りの攻防です」
 遠巻きに見守ってる真世とアイシャはそんな会話を。
 やがて京香が撃った!
 同時に突っ込む。
「あら、山猟撃かしら?」
 敵はこの動きを読んでいた!
 鉈に持ち替えカウンターの準備。
 しかし。
――ひひん、どごっ!
「きゃあっ!」
 京香、千歳を反転させて敵の山猟撃より早く後ろ蹴りを見舞った。
「あはは〜、射撃でケリをつけるとは一言も言ってないですからね〜?」
 落馬した敵に改めてクロスボウを突きつけ勝ち誇る。

 そしてアーシャと概堂。
「ふふん。もうちょっとよく狙ったほうがいいんじゃねぇか?」
 アーシャの斧を交わし勝ち誇る概堂。反撃の一撃が来る!
 この時、位置取りを任せていたテパがぐいと前に出た!
「テパ? ……そうか、私らしく!」
 はっと愛馬の意図に気付き、騎士盾「ホネスティ」を掲げ盾ごと敵の攻撃を押し潰した。思わず仰け反る概堂。攻防一体だった槍を持ったままバンザイ状態になってしまう。
「当れーっ!」
 良く狙え?
 そんなん知らないと言わんばかりの横薙ぎフルスイングをするアーシャ。
――どうっ……。
「落馬して被害を最小にするとは流石。……ですが、矛を納めてください。私たち開拓者を敵に回すのは懸命ではありません。利益が欲しいなら正しい交易を。南那を攻めて疲弊させて何の得があるでしょうか」
 ぴたりと斧の先を突きつけて諭す。
 同時に、概堂の背後の城壁で弓兵たちが白旗を振っていた。



 北窓に入った開拓者達は、ある重大な事実に直面していた。
「ふぅん。南那の東部山岳地帯は、実は良好な宝珠鉱山と宝石鉱山……か」
 意外な情報に凪沙が唸る。
 刻氏と後ろ盾の商人たちに正直に白状するよう説得したところ、あっさりと口を割った。
「え? 白陽の海賊は自分たちの扇動ですって?」
 白陽を気にしていたアーシャが睨むと、商人たちはすぐに止めさせると約束した。
「とにかく、こんなお宝を放置し続ける椀一族が一番の悪人だ。近年の南那の経済危機はここに手を付ければ一気に解決だったのに」
 商人たちが弾劾するように言う。
「どっちにしても、栄進さんたちに相談だね」
「ああ。……真世には休息も必要かな?」
 皆にそう主張する真世。透夜は気の張っている恋人を気遣いようにそっと背後から包み込むのだった。