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■オープニング本文 ここは武天の山奥。 「きゃ〜。食いついた〜」 「あ。そのまま持って逃げた」 「でも残ってくんくんかいでるのもいるよ?」 寂れた寒村の片隅で、子供たちが納屋の壁に体を隠して何かを見ている。 周りは雪景色。山間にあるのでこの時期、寒さが厳しい。ぼそり、と民家の屋根から雪が落ちた。 とはいえ、生活道の確保に雪かきが必要というほどではない。道の端には子供たちが作ったらしい雪だるまが点在してる。 森も、やはり雪に覆われている。 木々の間から点々と小動物たちの足跡が続いて……。 「こらっ!」 どこからか大人の怒鳴り声がした。 「キツネやタヌキに餌をやっちゃいかんと何度もいっとるだろう!」 びく、と振り向く子供たち。 その先で、子供たちが放り投げていた野菜などに群がっていたキツネがしたたたと森に逃げていった。 それを見て、やれやれとため息をつく大人。 「最近、獣の足が村に続いとるんでまさかと思うたが……」 「なぁ?」 ここで、子供たちの一人が声を上げた。 「何で、キツネとかに餌をやっちゃいけんのじゃ?」 「自分で餌を森の中から探すっちゅうことをせんなって、村に出てきてはいたずらするからじゃ」 いたずらとはもちろん、キツネたちが自分で村から餌を探すべく、干している大根などをかじることなどをさす。 「いたずらゆうても、冬は村も貧しいけえいたずらしようにもできん。キツネらも食べるもんがないけえ、冬に村まで来とるんじゃないんか?」 「キツネが来りゃつられてイノシシなんかもくるかもしれん。そうなりゃ村人は大困りじゃ。……村の男衆や若いモンらは、麓の造り酒屋に杜氏として仕込みに行っとる。だれも退治してくれん」 村は冬の出稼ぎとして、造り酒屋に集団で行っている。そんな男たちは春まで戻ってこない。 「それに、裏の森にゃあ昔はアヤカシが出とったっちゅう話もある。もしも小動物を追ってアヤカシまで村に来たら大変じゃ」 村人の話はでたらめではない。 なぜなら……。 「おおい!」 別の村人が慌ててやって来た。 「雪の森に入ったモンが奥で人魂を見たちゅう話じゃ!」 実際にアヤカシがいるのだから。 この村では過去に、落ち武者たちが裏の森で討ち取られたという話がある。 そのためか、「亡霊武者」や「鬼火」といったアヤカシが裏の森に出たこともあるという。 早速、村人は協議して開拓者を雇うこととなった。 場所は変わって神楽の都は、開拓者ギルド。 「ふぅん。雪の村からの依頼……。裏の森にアヤカシが出て、村に来るかもしれないので退治して、か」 きつい目付きの少女、紫星(iz0314)がある依頼に目を付けた。 「そういえば、雑技団で開拓者を雇ったときも、兄ィ姉ェは村人を守ってた……」 雑技の手伝いで呼んでも、巻き込まれた事件にはそこに住んでいる人のためと、剣を手にしてアヤカシと戦っていた。 懐かしい思い出から我に返る。 いま、紫星も開拓者になっている。 親しい開拓者の兄ィや姉ェたちは、こういう時どうするだろう? 「……やってやろうじゃない」 ぎゅっ、と拳を固めて依頼を受ける決意をする。 |
■参加者一覧
音有・兵真(ia0221)
21歳・男・泰
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
真名(ib1222)
17歳・女・陰
龍水仙 凪沙(ib5119)
19歳・女・陰
来須(ib8912)
14歳・男・弓
桧衛(ic1385)
14歳・女・サ
三郷 幸久(ic1442)
21歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ● 「わあっ!」 集落の子供たちが目を煌めかせて龍水仙 凪沙(ib5119)を見ていた。 「すいません、子供たちがやかましくて。……人の少なくなる時期で、珍しく賑やかなんではしゃいでいるんです」 かんじきを持ってきた集落の女性たちが凪沙に頭を下げた。 「はしゃいでるのは凪沙の装備のせいでしょ?」 真名(ib1222)が突っ込む。 凪沙、実はもっふりとまるごとうさぎを着込んでいたり。ぷはあ、と頭を出すとそこにも兎の耳。兎獣人の彼女を見て、遠くの壁から覗いている子供達はまた「わあっ!」と目を輝かせている。 「遊んであげてもいいんだけどねー」 凪沙、子供達に手を振る。 「村にはまだ来てないのだろ? なら、早々に退治と行こうか」 「ああ。多少の不利は承知の上で森に向かおう」 音有・兵真(ia0221)と琥龍 蒼羅(ib0214)が方針を話し合っている。 が、凪沙の様子に気付いて二人が視線を投げてきた。 「もちろん分かってる。そのためのかんじきだしね」 凪沙、気を悪くする風もない。 「私も……気にされてる?」 それはそれとして、凪沙の近くに立つ山椒魚の獣人、桧衛(ic1385)もぼそり。ぴち、と山椒魚の尻尾を揺らす。「おお」と子供たちがどよめいた。やはり気にされているようで。 「変わったものは気になるんじゃないか?」 よっ、と来須(ib8912)がアームクロスボウ「イチイバル」を装備する。掲げた腕に装着した機械弓に弓を番える。「すげぇ」と男の子たちは壁から身を乗り出していたり。 「不安もあるんですよ。……はい、白い布です」 集落の女性が別にやって来て、用意するよう言われた白い布を差し出した。 「ありがとう」 真名が受け取る。ばさりと上着の上から羽織って、「どう?」と紫星(iz0314)に聞いてみる。どうやら雪原迷彩にするらしい。人数分ある。 「ああ。……男衆が居ない時にアヤカシ、か。余計に不安だろうな」 三郷 幸久(ic1442)は真名から布を受け取りつつ、子供達のほうへ。 「ふうん」 と紫星は幸久を見送る。先程「紫星も駆け出しか。俺もそうだ。補い合っていこう。宜しくな」と声を懸けられたことを思い出した。 「家に居るんだぞ?」 幸久。ぽふり、と子供達の頭に手を置く。面倒見が良さそうだ。 「ん?」 ここで紫星、幸久の足元に気付いた。 藁縄を足全体に巻きつけているのだ。 気付けば、隣で兵真が座りこんで同じようにしている。 「あれかい? ほら、こうして巻き付けて……滑り止めだ。応急だけど使えるんだ」 荒縄をブーツに巻き付けながら説明する兵真。 「でも、かんじきが……」 「かんじきは沈みにくいが面積を食う。こっちは普通通りだけど、沈む。好き好きだね」 不審に思う紫星に言う兵真だった。 「紫星、一緒にいきましょ。防寒準備、ちゃんとしてきたでしょうね?」 そんな紫星の背後から、真名が白い布をばさー。「ちょっと、香辛姉ェ」とか不満の声が飛んだりするがきゃいきゃい楽しそうな雰囲気。そんな様子にふっと微笑する蒼羅。 そんなこんなで全員雪原迷彩を施し、アヤカシの目撃地点へと向かう。 ● 雪の重みで頭を垂れる竹林を抜け、道はやがて杉林へ。 「地形…複雑、だね」 桧衛が幼い頃から使っている愛用の短剣「フロストダガー」を大切そうに――いや、頼るように胸の前で両手で握り周囲を確認しながら歩いている。 「視界は悪いが索敵を怠らなければ問題無いだろう」 念のために「心眼『集』」を使ってみた蒼羅が言う。 周囲は地面に起伏があったり、山道が曲がって先が見通せないところがあったりする。 「視界が開けた部分でも、角度によっては見通せないしね」 真名は人魂を飛ばして、自分たちとは違う角度から周囲を確認している。 「ついでに、敵は全部浮いてるから足跡なんかつかないんだよなぁ」 凪沙は敵に有利な地形をぼやく。 「俺たちの方は、安心して歩けるのは雪の少ない山道だけ。……まあ、敵にそう思われたほうが都合はいいけどな」 兵馬は鋼拳鎧「龍札」を装備した手でぱしん、と拳を打ち鳴らす。 「それより、念のため『鏡弦』をしてみたら?」 凪沙、弓術師たちを見た。 「……任せる。その分、周囲警戒はする」 来須、アームクロスボウを装備した腕をどの方向にもすぐに掲げられるよう、左手で顔の横に支えて視線を左右に走らせる。 「え、私?!」 「紫星、いいよ。俺だけで事足りるから」 来須に期待され慌てる紫星を幸久がぽむ。 幸久、白木の弓「瑞雲」を構えかき鳴らすと、反応に集中した。 「結構射程は長いんだけど……特に大丈夫」 「よし、行こう」 蒼羅が言い先頭を歩き始める。 しばらく後。 「あ、あれ!」 桧衛が横合いを指差す。一列縦隊で進んでいた仲間が止まった。 「鬼火、だよね?」 白い布を引っ被りつつ緑色の瞳で凝視した。 「間違いない。こっちには気付いてないが、遠いな」 どれ、と兵真が寄ってきて顔を並べる。 「向こうは気付いてなさそうだ。一気に殲滅したいが……微妙に距離がある」 蒼羅、斬竜刀「天墜」の柄に手をかけているが動かない。瞬風波には遠すぎる。それだけ鬼火は目立つのだ。 「他に敵が隠れてるとかは?」 凪沙が振り返り語気を強めた。 「鬼火と亡霊武者……あそこに固まってるだけのようだ」 幸久の鏡弦。 「先制できるわね。……皆で範囲術を集中させて、集団行動を防ぐわよ」 呪本「外道祈祷書」を取り出しページを開く真名。 「いつでもいいけど、合図どうすんだ?」 来須、ついにアームクロスボウを掲げた。 「じゃ、合図はこれが派手に音を立てたら」 間髪入れずに凪沙が五行呪星符を一枚掲げ、小鳥に変化させる。人魂だ。 その小鳥が大きく右に逸れて……。 ――ドシッ! 杉の幹に体当たりした。枝の雪もばさっと落ちる。 瞬間、宙を浮いていた亡霊武者が反応。音のした杉の方を見た。 「よし!」 まずは蒼羅と兵真の前衛コンビがダッシュ。勇敢に雪のない山道から雪を被った木々の間に踏み込んだ。狙う敵まで一直線だ。 後衛も動いているぞ。 「こう見えて結構届くんだぜ?」 来須のクロスボウから矢が奔った。ぶおん、と衝撃波を纏うは、烈射「流星」! ごう、と来須の一矢が鬼火三体をよろめかす。 これで敵はこちらの存在に気付いた。一斉に襲ってくる。 「……私は」 一方で悔しそうな紫星の声。彼女にそんな範囲技はない。 「一人で仕留めようとしなくてよい。合わせるから落ち着いて援護に回ろう」 ぽむ、と幸久が紫星の肩を叩き純白の弓を即座に構えた。 紫星、無言で頷き即構える。 ――すぱっ! 二人で一斉に援護の矢を放つ。 これで鬼火の動きが鈍った。 代わって亡霊武者が前に来た。鬼火は両翼に広がり迫る。 雪の不整地だが浮いているため移動が早い。 これを見て、凪沙がにやり。 「やっぱり数を活かして包囲しに来たわね。……あまりに敵が遠かったから使えなかったけど……」 再び五行呪星符を構える。 技は氷龍。召喚するは白銀の龍。 「色は白、属性は氷、その姿は、竜! 緋にして陰陽師たる我は顕現望む!」 時を同じくして凪沙の横で、真名。 呪本を持ったまま半身となり右手をかざしている。 「完成せよ、『氷龍』!」 瞬間、冷気を纏う白銀の龍のような式が出現した。ごう、と物凄い勢いで冷気を吐き出し消えた。 「横に動いてもらっては困るな」 この時前方の蒼羅がついに天墜を抜いていた。 瞬風波の衝撃を飛ばし、自身は横に逃げる。 ごふっ、と仰け反る亡霊武者たち。 そこに氷龍のブレス二つが走る! 「最後はこれだ」 ダメージと凍えるような息で動きの鈍った亡霊武者五体の中心に踏み込んだのは、兵真。 ここしかないという場所に強引に割り込んで型を取り、大きく踏み込んで……。 「巻き込めるだけ巻き込んでいくぜ!」 崩・震・脚ッ! ――ぼっ! 大地の雪がキラキラ舞うほどの衝撃が兵真の周囲に奔った! 仰け反る亡霊武者たち。 しかしッ。 「おおっ?!」 包囲された位置で滅多斬りにされた! 「いかん」 蒼羅、出る。天墜を大振りして敵を威嚇し杉の幹に食い込ませた。どすっ、と雪が落ちてくるが、蒼羅はこれを計算済み。雪を食らった敵はうろたえ下がる。代わって斬りかかって来た亡霊武者に……。 「こちらが本命だ」 雪折。 何と蒼羅、食い込ませた天墜を離し、腰に帯びていた魔刀「ズル・ハヤト」でカウンターを食らわせた。ふしゅう、と一体が黒い瘴気に返る。 兵真はすでにいない。瞬脚で離脱した後だ。 「孤立まではしないし、後ろにも行かさんよ」 改めて拳を構える。追撃に殺到した亡霊武者を、今度は裏一重でかわしつつ拳を見舞っている。敵が消えて黒い瘴気に舞う。 ● その頃、後衛。 戦いの流れで、両翼に開いた鬼火に自由に動かれている。 「氷に弱いかどうかは知らないけどねっ!」 まるごとうさぎの頭部から完全に頭を出した凪沙が氷柱を鬼火に向けて発射。後頭部でまるごとうさぎの頭部が揺れる。凪沙の本物のウサギ耳も揺れる。 「……派手だな」 元気に躍動しつつ攻撃する凪沙に対し、来須が地味にクロスボウ発射。 「ん?」 その顔に、「やばい」という表情。 同時にナイフを引き抜き一閃! 「体当たり、来るぞ!」 振り返って叫ぶ。 前転してかわしながらの一撃。綺麗に入って敵は消滅したが、仲間との距離が開いた。 「あたしに任せて」 後から桧衛が出てきた。サムライだが軽武装で動きが軽い。緑色の胸甲を着けた上半身を捻り、フロストダガーで詰めてきた鬼火に斬りつける。 「近寄ると厄介だわね。……引きながら迎撃するわよっ」 凪沙、ぴょんと来た道を戻るような動きをする。 「先に行って。少しでも減らしておくから」 軽快に下がった凪沙を追う鬼火を狙い、桧衛が大きく踏み込んで眼にも止まらぬ突きを放つ。一体消滅。さらに敵はいるが、踏み込んだ流れで桧衛がかわす。ぼぼぼ、と散らしてきた火の粉まではかわすことができなかったが。 ちなみに、これが進行方向に当る右手の戦闘。 時は少し遡り、左手側後衛。 「紫星、接近戦に持ち込まれるとやっかいだ」 幸久が乱射をしつつ紫星を呼ぶ。 「分かったわ」 紫星、応じて射線を幸久に合わせる。 しゅん、と矢が多く飛び鬼火を牽制する。 「散ったわね」 真名は敵の動きを見て呪本を構え直し、小さな虫の式を生み出し飛ばした。 これが結構射程が長い。 鬼火の一つに突撃した。鬼火、びくっと揺らいだ後動きに精彩を欠き始めた。 「その虫、猛毒を持ってるわよ……紫星! 私と同じ奴をねらって!」 紫星に叫んだところで真名の背後から声が。 振り返ると進行方向側の味方が近接戦闘をしていた。凪沙は改めて距離を取ろうとこちらに跳ねてきているではないか。 がし、と紫星の手を掴んだ真名。 「ちょ……香辛姉ェ」 言われた狙っていた敵を射た紫星が驚きの声を上げる。 「狭い道じゃ戦えないわ。戻るわよっ!」 真名、来た道を逆走。ぽいっ、と焙烙玉も投げて……逃げたッ! 「それもいいかもだわね。……大きく引くわよっ!」 意図を理解した凪沙も生き生きと逃げる。 「すまない。いったん引く」 幸久は兵真と蒼羅を振り返り大声を張った。 「こっちも意味がなくなってた」 兵真は杉の幹を足場に亡霊武者の下段薙ぎをかわし、引く後衛を追った。 「すまん、行ったぞ!」 蒼羅の方は振り返って鋭い声を上げていた。 亡霊武者を引きつけて乱戦に持ち込んでいたのだが、ついに後衛方面にこぼしてしまったのだ。距離を取られ呪声を使われ、兵真と共に厳しい戦いを強いられていたのだ。 これに、クロスボウのリロードをしていた来須が顔を上げる。 再装填、これは間に合わないぞっ! 「……残念だな」 大きく振りかぶって接近した亡霊武者に対し、来須は何かを取り出し構えた。 ピストル「スレッジハンマーEX」だッ! ――ずぎゅん 「弓術師だからって近接に弱いとか思ってんじゃねえって」 来須、落ち着いて接射で仕留める。蒼羅がさんざん痛めつけていたので一撃だ。 「お?」 「すぐに引きます」 わたた、と来須が姿勢を崩したのは、桧衛に手を引っ張られたから。 「はっ! やあっ!」 桧衛、来須の腕を取った反対の手で白銀の広刃、暗緑色の柄をもつ短剣を振るい回り込んでくる鬼火に斬りつける。 戻ってきた兵真、蒼羅も合流し殿を固めた。 一方、先頭となった真名と紫星、凪沙。 「さあ、この広くなった道なら角度を付けて狙えるわよ?」 「ちょうど引いてくるみんなを敵は追ってるしね」 真名が術式の用意をする。凪沙も悪戯そうに笑って符を構える。 戦いの流れを引き寄せた開拓者たちは、その後敵を圧倒した。 ● 戦い終わり、村にて。 「本当にありがとうございました。ささ、大いに飲んで食べてください」 夕餉をご馳走になっていた。もちろん、この村の男達が杜氏集団として出向き毎年造っているという酒も出た。酒の銘は「寒梅」。 「……うん、きりりとした良い酒ですね」 猪口につけていた口を離し、幸久が目元をほころばせた。 「あら、酒はうるさいほうなの?」 「普通に嗜むだけですね。……皆さん、遠慮してるようだしその分も」 突っ込んできた真名に、にこりと返す幸久。 「遠慮してるというか……うん、酒蔵を嵐が通り過ぎた跡みたいにしちゃうわけにはいかないでしょ?」 上品に、お茶の入った湯飲みを両手で大切そうに抱えて香りを楽しんでいる凪沙が答える。 「酒で失敗したくもねえし、どっか鈍らせたくねえしな」 来須も湯飲みを持っていた。飲まないようにしているらしい。 「それより、あんたいい武器持ってんな?」 ふい、と横を向いて桧衛に聞く来須。 「その……幼い頃から使ってるから」 愛用の武器を褒められ照れる桧衛。ずずず、と茶を頂く。 「蒼兄ィ?」 紫星は、蒼羅に銚子を傾けようとしていた。 「強い方だが特に好きというわけでは……いや、頂こう」 蒼羅、静かに答えたが紫星の残念そうな顔を見ていい直し、くいっと猪口を空けた。にこっ、と明るい表情をして紫星が酌をする。それを受けて、今度はゆっくり味わう蒼羅。付き合いが悪いわけではないようで。 「ええと、兵真さんは?」 「ああ。もちろん頂くよ、好物だ」 兵真にも銚子を向けた紫星。陽気に、威勢良く受ける兵真。 これを見て村人たちもホッとした。 「……あの、もうアヤカシは大丈夫かな?」 「戦った後も調べてみたけど、大丈夫だ。安心していい」 ひょい、と襖の間から顔を覗かした子供を見つけ、幸久が手招きしてやる。 わあっ、と喜び入ってくる子どもたち。 次々、次々と。 さすがに幸久も予想外の展開にびっくりする。 村人達も、ようやく心から笑顔で笑うのだった。 |