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■オープニング本文 ここは希儀、精霊門のある宿泊地「明向」。 「ふうん。ここが希儀かぁ」 貸本絵師の下駄路 某吾(iz0163)がきょろきょろと周りを見回す。 「師匠、お食事処があります」 連れている、弟子の灯(あかり)が某吾の裾を引っ張る。指差す先に暖簾が。 早速くぐる。 「いらっしゃい」 「ええと……じゃ、この炒め飯を二つ」 注文したところで、雰囲気に気付く。 「次の『ターゲット・バレル』にゃ、天儀から開拓者の駆鎧乗りが来るらしいな」 「現役開拓者は、強そうだな」 「いやいや。来るのは所詮アヤカシ退治の専門家だ。駆鎧格闘に関しちゃ、どうだろうな?」 「おいおい。あっちの現役だって駆鎧同士の戦闘はしてるだろ?」 こちらでは駆鎧を使った格闘競技「ターゲット・バレル」なるものが一部で流行っているようだ。昼食の話題に上げて熱く盛り上がっているようで。 「『ターゲット・バレル』ルールじゃ戦ってないだろう? その分こっちの猛者のほうが有利じゃねぇか?」 「格闘に細かいルールなんざ関係ないね」 「それにこっちの駆鎧乗りはもっぱら土木作業専門で、開拓者を引退した者が多いしな。ついでに駆鎧も遠雷型のみ」 ちなみに、「ターゲット・バレル」。 希儀の土木作業に借り出された一部の引退開拓者が、「お。これが駆鎧か、おもしろぇな」とか自分たちの現役時代には配備されてなかった駆鎧を扱っているうち、模擬戦を始めたという流れで誕生した。 とはいえ、メシの種で壊し合いをするわけにはいかず、格闘競技として「駆鎧の前後の腰につけた樽(バレル)を両方破壊する」というルールが整備された。作業中などの行きがかり上で駆鎧を使ってはじめた喧嘩や、ルールもなく駆鎧で戦うことを「ターゲット・バレル」とは呼ばない。もっとも、あくまで一部で熱心に取り組んでいるだけのマイナーなものではあるが。 当初は一対一だったようだが、今では十六人のバトルロイヤル方式となっている。 閑話休題。 「いらっしゃい」 店に新たな客。 「よーし、作戦前の最後の食事だ。どれでも好きなものを頼め!」 「作戦前って、俺らが出る『ターゲット・バレル』は次の日だぜ、おやっさん」 「まあいいじゃねぇか。こういうのは気分だ。……おい店主、これを人数分くれ」 「好きなものを頼めといいつつまとめ注文……おやっさんも変わらんねぇ」 うるさい中年三人組だ。 どうやら明日のターゲット・バレルに出るらしい。 これを、店の端のテーブルで若い男女連れが聞いていた。 「あの三人のおじさんたち、明日のに出るんだって」 娘が少年に向き直って言う。もくもくと食べていた青白い少年はちょっと顔を上げた。 「どっちでもいいよ。……ボクが一番駆鎧をうまく扱えるんだ」 「ふぅ……。バカな兄さん」 どうなら兄妹らしい。妹の方は自信過剰な兄に苦労しているようで。 それはそれとして、某吾と灯。 「そういえば師匠」 「ん。なんだ、灯?」 「私たちは希儀の様子を伝えるため、『ターゲット・バレル』の様子を描くんですよね? 描くのは、駆鎧だけ? それとも人も?」 「その場じゃ描けないこともある。そういう時は、後から描けるよう心に刻んどくんだな」 灯の様子ににこりとする某吾だった。 この時、現地住民らしき客が興奮して声を大きくしていた。 「ま、どっちにしてもターゲット・バレルの生え抜き、『鉄鎖腕砲の鉄』にゃ敵わねぇんじゃねぇか?」 「いやいや。『鋼剛雷衣の浜』も地元の強さを示してくれるはずだ!」 どうやら地元選手としてその2人が明日の試合に登場するらしい。 「そういや天儀から一緒に来た開拓者たちはどこいったかな? あいつらたしか、ターゲット・バレルに参加する依頼を受けたって話だったが」 下駄路、敵の情報として天儀から来た開拓者に一応報告しておこうかな、などと思いつつ「はいよ」と店主ののぞけてくる炒め飯の皿を受け取るのだった。 |
■参加者一覧
からす(ia6525)
13歳・女・弓
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎
アレーナ・オレアリス(ib0405)
25歳・女・騎
ニクス・ソル(ib0444)
21歳・男・騎
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)
15歳・男・騎
アナス・ディアズイ(ib5668)
16歳・女・騎
ヴァルトルーデ・レント(ib9488)
18歳・女・騎
ルプス=スレイア(ic1246)
14歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ● 出場者や出資者、地元の顔役などが出席する前夜祭はすでにたけなわだった。 「機体へのダメージ云々ではなく樽を壊せばよい……中々の趣向を凝らした競技のようですわね」 腰まである波打つ豪奢な金髪が揺らぎ振り返った顔は、アレーナ・オレアリス(ib0405)。優雅に笑顔を振り撒いている。 そんな様子に気付き、一人の少年がはぐはぐとパスタとかバケットとか食べる手を止め振り向いた。 「えっと…今回、敵倒して動きとめてっていうのは駄目なのですよね…?」 ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)だ。彼の食べっぷりに「我も」と集まった美食家達も不満そうな視線を送っているぞ。 「ルールに対して美しくはありませんね」 アレーナ、諭すように言って横を行く給仕から希儀産白ワインを取って軽く口をつける。「おお」と彼女を取り巻いている男性達が優雅な姿に溜息をついている。 その向こうでも、白ワインに軽く口をつける姿が。 「明確なルールを設けてのアーマー試合か。珠にはこういう趣向も面白い……希儀に渡ったお嬢さん方にも、俺の勝利をプレゼントだ」 瞬間、きゃあ、と歓喜の悲鳴がわいた。満足そうに前髪をかきあげる姿は、ロック・J・グリフィス(ib0293)。彼を取り巻いていた現地の女性達に、一輪の赤薔薇をぴしっと差し出したのだ。どうやら紳士的な様子が受けてちやほやされているようで。 そんな開拓者の前をどっかどっかと歩き去る三人のおっさん達。 「貴公たちもターゲット・バレルに?」 特徴的な帽子を被るヴァルトルーデ・レント(ib9488)が、三人に声を掛けてみた。 「お? 聞いてくれるのか、姉ぇちゃん?」 「どのような者が出るのか些かの興味がないとは言わぬので、な」 暑っ苦しく顔を寄せてくる三人のおっさんに涼しく返すヴァルトル。 「仕方ねぇな、よく聞けよ。俺らJ!」 「K!」 「Aの、『切り札部隊』だっ!」 ふん、ぬっ、がっ、とナイスポーズする三人のおっさんたち。 「面白そうな舞台になった。嫌いではない」 ヴァルトルーデはクールに言い放ち背を向ける。 「待て、貴様も名乗らんか!」 Kの言葉に振り返る。 「我が家名届かぬ異国の地なればの出来事、無碍にするわけにもいくまいて」 呟き向き直るヴァルトルーデ。 「名は、『死神の如き舞踏』 」 それだけ答え去った。 「……」 そんなヴァルトルーデを、からくり開拓者のルプス=スレイア(ic1246)が眺めている。こちらのテーブルの料理はほとんどなくなってない。 彼女を追う切り札部隊の三人がぎゃんぎゃん背後から言ってるがヴァルトルーデは長い金髪にさらりと指を入れ受け流している。 「きみは……騎士じゃなさそうだね」 ヴァルトルーデを真似てシフの黄金の髪に指を入れていたルプスに話し掛ける者がいた。 「ルプスといいます」 「からすというよ。ルプス殿は……砲術師か。騎士ばかりが集まったようだが、どうだろうね」 来たのは、弓術師のからす(ia6525)。 こく、と頷くルプス。 「そういえば、ぼんやりと何を?」 「人間の観察にはよい機会。競技者の人となりでも見ていました」 ふうん、とからすは返し皆を見る。賑やかにやっているヴァルトルーデもロックもネプもアレーナも、すべて騎士だ。 ほかにも……と周りを見た二人に黒ずくめの人物が気付きやって来た。 騎士のニクス(ib0444)だ。 「からすの駆鎧は……火竜だったね」 「喰火っていうよ。よろしく」 酒の杯を掲げるニクスに、茶をずずずと飲むからす。 「16人同時のバトルロイヤルなので……正直どうなるか分かりませんね」 新たなに騎士のアナス・ディアズイ(ib5668)も寄って来た。 「アナスは確か、人狼・改だったね。確か、鍛え抜いたチェーンソーを持ってたはずだが……」 ええと、と色付き眼鏡の奥で思いを巡らせていたニクス。特徴を思い出したところできりりと顎を引いた。 「俺のエスポワールも負けてはいない。良い勝負をしよう」 「ええ、そうですね。共闘するなら応じます」 掲げられた杯に、自ら持つ杯を合わせ健闘を誓う二人だった。 それはそれとして、そんな会話につかつかと青白い少年がやって来た。 「ふん。ボクが一番……」 「もうっ! 恥ずかしいこといわないでよ」 すぐさま妹が止めるが。 「ボウズ、そんないきがっていいのか?」 「弱い犬ほど良く吠えるってな」 「なんだと、雑魚壱号・弐号!」 名無しの地元駆鎧乗り二人がやって来てからむ。青白い少年のあだ名は「ボウズ」に、そして名無したちは「壱」と「弐」決まった。 「おっと。明日はお手柔らかに頼む」 ここでロックがやって来てワインを地元選手についでやる。 「ちょっと聞きたいが……あの血の様に紅い左腕。奴はジルベリアの吸血部隊の生き残り……」 「面白そうだな」 ロックの話に、やって来たヴァルトルが興味を示した。 「鉄鎖腕砲の鉄か? 奴は過去は語らんぜ」 新たにやって来た地元選手が言う。 「そういう貴方は?」 アレーナもこちらに来ていた。 「鋼剛雷衣の浜と、人は呼ぶなぁ」 「はぅ! なんか二つ名を持ってる人いるのです? …うらやましいのです! 僕も頑張ったらかっこいいの貰えるのですかね?」 にやりと浜が顎をなでた横からネプ登場。はうはうと期待に狐尻尾を振っているが……。 「ま、二つ名が命取りになるかもだしな」 貸本絵師の下駄路 某吾(iz0163)もやって来てぼそり。 「どうだろうな? って、お前ら」 一緒に来た鉄がとぼけるが、目の前の料理にがっつき始めた某吾に呆れる。 「負けないのです〜」 ネプも凄い勢いで食い始めた。何の勝負を始めているのだか。 「あるものは食べる、という人が多そうでしょうか」 ルプス、前夜祭から参加者達をそう判断した。 ●実況 さあ、やって参りましたターゲット・バレル決戦当日。 場所は夕焼け前の円形闘技場跡地。 ぐるり、と出場駆鎧がすでに円形に並んでいます。選手登場はこれから。 おっと、十二時の位置にいるロックが今、薔薇を観客席側に投げウインクした。 「ロック・J・グリフィス、X……参る!」 粋なことをしますね。 さて、彼から時計回りに出場者と搭乗駆鎧を見ていきましょう(★は開拓者)。 ★ロック・J・グリフィス/X(クロスボーン)(アーマー「遠雷」改) ボウズ/白鳥(アーマー「人狼」) ★からす/喰火(アーマー「火竜」) 鉄/鉄腕鬼(アーマー「遠雷」) ★アナス・ディアズイ/轍(アーマー「人狼」改) J/ダイヤ(アーマー「人狼」) ★アレーナ・オレアリス/ヴァイスリッター弐(アーマー「人狼」改) ★ニクス/エスポワール(アーマー「人狼」改) 浜/大漁丸(アーマー「遠雷」) A/スペード(アーマー「人狼」) ★ネプ・ヴィンダールヴ/ロギ(アーマー「遠雷」改) ★ヴァルトルーデ・レント/ヴァイナー(アーマー「人狼」) 弐/鯰(アーマー「遠雷」) K/クラブ(アーマー「人狼」) ★ルプス=スレイア/フォルツァ(アーマー「人狼」) 壱/狢(アーマー「遠雷」) 一機だけ大型で形の違う火竜型が目立ってますね。両脇の選手がやや嫌がっている様子。 あるいは三機チームと聞くA・K・Jの位置取りもポイントか。 さあ、試合開始の合図は間もなく。 ――タァン! ここで試合開始の号砲が鳴った! ● 「バレルの位置が酷いね」 開始早々、からすが「喰火」の首に下げられて揺れるバレルを嘆く。他人と違って高い位置にあるため目立つのだ。 「もらった!」 そんなからすを、隣にいたボウズが白い人狼型駆鎧「白鳥」で軽やかに狙った。 「おっと」 ――ごぉぉ… なんとからす、火炎放射でボウズの突撃を止める。怯む白鳥だったが、バレルは燃えてない。水の入った樽は火に強い。 「燃えれば幸運と思ったけどね……」 さして残念といった様子でもなく赤い瞳を薄めてラインダートで横を抜け外周遁走に走ろうとする。その先に位置していたはずのロックはすでにいない。行ける、と身を引き締める。 ――ぱかん! 「ん?」 後部からの小気味良い音と衝撃に振り向くと、臀部のバレルを割られていた。 左手に位置していた鉄鎖腕砲の鉄がラインダート直前に迫撃突で迫り攻撃を受けたのだ。さらに火竜の火砲は前面だけとばかりに追いすがろうとする。 「狙いはいいけどね」 残念、と微笑するからす。右腕の相棒銃「七五」で後方射撃。これは鉄にシールドで防がれたが。 その瞬間だった。 「掲げた腕ってのは捕らえやすくてね」 からす、今度は左腕の獣鎖分銅を投げて敵の掲げた腕を絡め取った。に、と微笑した瞬間! ――どどどど…… ラインダートで走り出した! ずりずり引きずられる鉄の「鉄腕鬼」。倒れた衝撃で前部バレルが割れた。 しかし、立ち上がりからの一連の応酬は目立ちすぎた! ――ターン、ばこっ! 「ん?」 からす、前部にある最後のバレルが破壊された。 これで脱落。 首を巡らせると、ルプスの人狼型「フォルツァ」がいた。手にしたアーマーマスケット「アメイジング」から硝煙が立ち上っている。 「格闘の場で射撃兵器を用いるなら、射撃兵器で応じるべきですね」 コクピットの中のルプス、一撃で仕留めないと蹂躙される位置関係にあっただけにほっとした様子だ。 「それにしても」 ぐ、とフォルツァの向きを変え闘技場中心部を見る。 「出る杭は打たれる、ということでしょうかね」 観察して呟くルプス。 目の前では乱戦が繰り広げられていた。 時は号砲直後に遡る。 「おっしゃああ!」 Aの人狼型「スペード」がオーラを噴射し誰よりも早く前に出たのだ。 「これぞ『三方盾陣』!」 「まかせんしゃ〜い!」 Kの人狼型「クラブ」、Jの同型「ダイヤ」も迷わずオーラダッシュで、一見囲まれてしまうため不利と見られる中央へと急いだ。 これへの対応と、位置関係で勝負の明暗が分かれることとなるッ! 「技の弱点は出所ではなく仕舞い時です」 Jの隣にいたアレーナ、反応が早い。人狼改「ヴァイスリッター弐」のオーラ噴出全開、ダイヤを追った! 別の場所になるが、ルプスの隣に位置していた壱の遠雷「狢」がアレーナより二拍子遅れてオーラダッシュで中心に行く。 一方のA、K、J。 ダッシュで中心に行き合流に成功。振り向いて盾をかざしていま、ピタリとポーズを決めるように三方をガードしようとする。 「ふ。そんなところだろう」 ロックもこれあるを期して中心に向かっていたが、オーラダッシュがないので遅れている。 その目の前をアレーナのヴァイスリッター弐が行った! この時、3人組はまだポーズの途中にあった。 「蜂のように刺し……」 ――がしゃっ! Jが振り向いて盾を構える直前の、一瞬の隙間をアーマーソード「ケニヒス」で貫いた! すかん、と弾けるバレルの箍。割れた隙間から水がこぼれる。 「何ィ」 「なんと、K!」 「こっちゃこっちで忙しい!」 二人で反撃を呼び掛けるAだが、Kは突っ込んできた壱を返り討ちにしていた。追尾が一瞬遅れると防がれ逆に前の樽を破壊されるようで。 「この機体、昨晩の優雅な姉ェちゃんだな?」 一方A、仕方無しに一人で反撃――昨晩の悠々とした姿を苦々しく思いながらねたみをぶつけるが如くハンマーを振るった! 「……蝶のように舞う!」 アレーナ、ぐうんと半円を描く動きを一瞬でやってのけた。「くっ」と唇を引き結んだのは、タクティカルコンバットで無理な動かし方をした反動から。 「おっと、もう一体……」 「やはり連続攻撃をするか。……踏み台に借りるぞ」 ――がしっ! 背を見せたアレーナを狙い体勢を立て直したJだったが、ここへロックが迫撃突。獣騎槍「トルネード」を見舞いひっくり返す。がぽっ、とJの機体背後のバレルも破壊された。 続いて踏み台にすると、一気にKの背後のバレルも破壊。 ――がぼ… 「ん? 共闘できんということか?」 振動に気付いて振り向くと、壱がロックの背後のバレルを壊していた。 「まあいい。守るべき場所は、はっきりしているからな」 盾で最後のバレルをガードするロック。K、壱の残り一個同士がにらみ合う。 一方、アレーナ。 「やりますわね」 Aを突いたが盾で防がれていた。逆に攻撃が来るが、見切って上体だけでかわす。かわし際の攻撃で敵を転倒させるが、ポジションリセットで立て直され樽破壊は出来ず。アレーナ自身も今の攻撃でやや体勢を崩していた。その隙にAに前部の樽を破壊された。三人組のエース格の貫禄を見せる。 ――ターン! ごぱっ! が、突然Aの前面バレルが弾けた。 その遠方正面に遠雷改「ロギ」の桜色の機体。 「はぅ! 突撃以外の戦術でもしっかりと戦えること、見せてみせるのです!」 ネプがアーマーマスケット「アメイジング」で撃ち抜いたのだ。 「おのぉれぇ!」 「撃っては逃げてのヒット&アウェー戦法なのです!」 Aがオーラを噴出して追う。リロードの問題があるネプ、逃げる。 ――ぱこ〜ん! ここで小気味良い音がしてAの最後の樽が弾けた。 「三人組が散った時点で致命的…」 Aの背後には、相棒斧「ウコンバサラ」を振り抜いたままのポーズの人狼型「ヴァイナー」がいた。A、ここで陥落。 「そして乱戦で足を止めるは致命事項…無論、私にとってもだが」 ヴァルトルーデだ。 すぐに逃げる。 「はっ!」 ――ごぼっ… ヴァルトルーデ、振り返ったところで樽を割られた。 「…甘い」 ボーズがここまで移動していた。振り返ったヴァイナーの前部バレルを破壊した。 しかしヴァルトルーデ、戦わない。すうっ、と背後の樽を見せ付けつつ逃げる。 「さらに甘い!」 ボーズ、瞳を煌かせて追撃をしたが……。 「ターゲットバレルはそう甘くないよ」 背後から迫っていた鉄の餌食に。背中のバレルが割られ、前部は取って返したヴァルトルーデが潰す。 「自信過剰もいいけどほどほどに」 微笑し弱点を教えてやるが、もちろんボーズには聞こえない。 ● もう一度、号砲直後に戻る。 「せっかくの場だ! 行かぬとあっては面白くない!」 実は、ニクスの人狼改「エスポワール」も中心部を通常歩行で目指していた。 「ん?」 おっと。背後からの気配に気付いた。 振り返ると、左隣のスタートだった浜の大漁丸が迫ってきていた。 ――がしっ、ずぎゅる… 「開拓者以外の参加者達を退場させるまでの共闘、でしたね?」 アナスだ! 浜の背後からの襲撃を、横合いから出てきたアナスの人狼改「轍」が盾で防ぎ、チェーンソーで樽をずたずたにした。 「おのれっ」 すかさず浜、鋼剛雷衣で守りに入るが……。 「無茶をするが……絆の強さにおいて誰にも負けん!」 ニクス、愛機を信じ最小旋回円周で回り込む。凄い横Gが掛かるが自身は我慢し、タクティカルコンバットで浜の背後を取り、アーマーソード「ケニヒス」を叩き込んだ。 これであっさり浜が落ちる。 この時にはすでにからすが落ちている。 すぐにJ、A、ボーズが脱落したが。 そして射撃して逃げたネプ。 「隙ありだぜ?」 ぱ〜ん、と背後の樽を割られていた。弐の遠雷型「鯰」に止まってリロードしたところを狙われた。 「はう。そんなものくれてやるです」 ネプ、続いての攻撃には振り向き盾で防ぐ。前部のバレルを重点防御する戦法だ。 そして加速して逃げる。弐は逆に鉄から狙われていたようで樽を割られ、ネプを追えない。 「さて、次はここから狙うですかね」 ネプ、改めて安全地帯らしきところで周りを見る。 そして、気付いた。 「はぅ! 僕と同じことを考えてる人がいるです!」 戦場の端に、同じくアーマーマスケット「アメイジング」を持つルプスのフォルツァがいることをッ。 すかさず構えるネプ。体が開いて樽の守りが甘くなった。 対するルプスも構えた。 ――ターン! 同時射撃は、相打ち。 ネプが失格しルプスが背後一つとなる。 この時、ロック。 「X、オーラチャージ発動だ…今、赤き流星になる!」 Kと壱に共闘され、本気になっていた。しかし、ごうん、と雷鳴が響き充実したXの姿を見るとあっさり逃げた! 追っていたところ、鉄の鉄腕鬼に気付き振り返る。 「邪魔をするか!」 双方、斬撃が重なる。鍔迫り合いになるかと思いきや……。 ――ばこん、ごばっ! 双方の最後のバレルが割れていた。 「覚えておけ…俺は不死身の空賊、左腕にテッサワンを持つ男」 ロックが言葉を絞り出す。 鉄もロックも、鉄鎖腕砲で相打ちとなっていたのだ。 この時、ルプスはKと壱追われていた。 オーラダッシュで逃げるフォルツァ。 「射撃兵器を用いすぎましたかね……でも!」 すでにマスケットを捨てて相棒槍「十市槍」に持ち替えている。 「うはは、逃げるだけかよ? ……おっ!」 フォルツァ、切り替えしてKにライドスラッシュ。最後の前部バレルを割る。 続けて壱も狙うが、最後の樽は背後だ。一歩遅れていた壱はそのまま突っ込んできているぞ! ――ガツン! 二機が勢い良く正面衝突し、転倒。どちらも背後の最後の樽を失うのだった。 ● 「ん? ……背後に感あり」 アナス、これまで生き残りに大きく貢献していた「動体感知」で敵の接近を知った。 轍を方向転換させると、ヴァルトルーデのヴァイナーがいた。 「残るは開拓者ばかり」 呟くヴァルトルーデ。確かに残りはアナスヴァルトルーデ、そしてニクスとアレーナだけ。 「……処刑あるのみ!」 ヴァルトルーデ、迷わず行った。何かを為される前に即断速攻の心意気! ――ガシッ! 勝負は、或いはこの前に決まっていたのかもしれない。 ヴァルトルーデは、アナスの盾に止められた。専守と見て、シールドで押し合いを展開。押し勝ってアナスの前部バレルを叩いた。 「斬鉄し回鋸の刃!」 アナスは、自分の体に負担を掛けつつ無茶な動きでヴァルトルーデの背中を狙った。 手にしたチェーンソーで! 形としては相打ちだが、それまで共闘して無傷だったアナスが生き残る。 そして、アレーナ。 「どんな時にも美しく誇り高く!」 ケニヒスを構え、ヴァイスリッター弐が間を詰める! 対する、ニクス。 「足場の悪い方から来ないことはお見通し」 攻撃に盾を合わせると、足を狙った。 「流麗かつ神速の動きで!」 アレーナ、ポジションリセットで立ち直りニクスの前部樽を見事に叩いた。 が、しばらく遅れてニクスに後部樽を壊された。 序盤から最前線で戦い続けたアレーナ。ここで力尽きる。 ――がしん、がしん。 今にも沈まんとする斜光の照らすコロッセオ廃墟で、二機の駆鎧が歩み寄り正対した。 揺らぐ、湾曲した大きな太陽。 その手前に、エスポワール。係員が来てバレルを前部に付け替えている。 がぱり、と背中のハッチが開きニクスが顔を出した。 対面には、轍。やはり係員がバレルを前面に据え付けなおしている。 アナスもハッチを開き姿を現した。長い金髪が風に洗われる。 「自分の樽が破壊されるまでに、一人でも多く退場者を増やすつもりでした」 「騎士、ニクス。……エスポワール、参る!」 アナスの言葉を聞いて、ニクスが騎士の礼をしてハッチに戻った。付け替え作業は共に終っている。 「……最後の退場者を、出します!」 アナスも応じて、操縦席に戻る。 わああ、と観客が盛り上がる。 某吾が手に汗握る。灯が息を飲む。 そして、エスポワールと轍が正面から激突したッ! 盾で互いを制する鍔迫り合いから……。 「昨晩は褒めていただき感謝します!」 アナス、やはりチェーンソー。 「俺のエスポワールも負けてはいない!」 ニクスも言葉を繰り返す。 そして――。 夕日に焦げる、もつれた二つの影から盾の影が飛び、チェーンソーを押さえ、剣の影が一閃した。 止まる二体。 ごぽっ、と影の腹部から煌めく液体がこぼれ出た。 「夕日を背後に、綺麗だな」 呟く某吾。 さらりと手元の紙に「勝者、ニクス」と記すのだった。 |