南那〜狙われた南那亭
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/02/04 19:43



■オープニング本文

●これまでのあらすじ(初めての人用)
 泰国南西部に南那という土地がある。
 海に面した、三角形に近い土地だ。
 飛空船が普及するまでは重要な港湾都市だったが、近年では絶対的な港ではなくなっている。交易が盛んだったがいまではその影も薄い。漁業が基幹産業で、水系の弱さから穀物などは内陸の他領地に頼っている。内陸交易を担っているのが製塩業で、廃れた南那が領地として崩壊しないのはひとえにこれによる。海洋交易が盛んだった頃、この土地の価値は非常に高かった。

 そんな歴史的背景もあり、土地の防衛力は高い。
 保有海戦力は充実し、三角形の東側にあたる山脈は急峻で大掛かりな外敵進攻は不可能。西側は魔の森ではないが深い森で、アヤカシが跋扈している「防壁の森」。そしてすぼまった北は、「北の防壁」と呼ばれる関門で封鎖されていた。
 半面、周辺地域からは攻撃力を削ぐ交渉がなされた。
 結果、組織的な空戦力は持たず陸戦力も貧弱な軍事編成となっている。
 閉じた土地で、海洋交易に勢いがなくなったことで、より閉鎖的になった。若く力のある人材は流出し、外部からの人材もはねつける。
 完全な先細りである。

 近年、南那沿岸の無人島「尖月島」の観光地化に目を付けた旅泰がいた。
 巣食っていたアヤカシを、雇った開拓者で倒して信用を獲得。新たな外部交流の糸口を確保した。
 その後、内陸でお茶のように普通に飲まれていた珈琲に目を付ける。
 折りしも長年の不漁にあえいでいた南那は、組織的に珈琲交易に取り組むこととなった。
 こうして、天儀の神楽の都に「珈琲茶屋・南那亭」が誕生した。

 その後、高齢の椀栄董(ワン・エイトウ)が逝去した。病が原因だが、南那防衛戦略の二本柱「防壁の森」を紅風馬軍によって破られ、二年後には「北の防壁」をアヤカシに破壊されたショックが遠因とされる。ちょうど南の海でも、海賊連合が一時尖月島を占拠した時でもある。

 今、長男で壮年の椀栄進(ワン・エイシン)が統治している。最大都市「椀那」(ワンナ)を直接統治し、父の政治手法を受け継いでいる。
 しかし、次男で同じく壮年の椀訓董(ワン・クントウ)がそれまでも統治していた陸側の最大都市「眞那」(シンナ)の住民不満を受け、外部戦力を積極的に取り入れている。一応、「北の砦」と「防壁の森」を破られ危険にされされているからという正当な理由がある。

 内戦の予感が、南那を覆っていた。


●本編
 ここは、神楽の都にある「珈琲茶屋・南那亭」。


今度の休みの 昼過ぎは
街に出ましょう そうしましょ〜
いつも街角 あの店で
恋の香りと 素敵な予感〜


 メイド服をなびかせて、「南那亭めいど☆」の深夜真世(iz0135)が気分良く鼻歌をうたいながら給仕をしている。曲は、「召しませ珈琲〜南那亭にようこそ☆」。
「真世君、ちょっと」
 おっと。
 新たに入店した客の様子がおかしいぞ。
「いらっしゃ……あれ? 林青(リンセイ)さんじゃない。どうしたの?」
「南那にある南那亭にすぐ行ってもらいたいんだ」
 のんびりした真世にまくし立てるのは、南那の珈琲通商組合の旅泰、林青。尖月島開拓を主導した人物で、珈琲交易を発達させた人物でもある。
「えー。またアヤカシ? それとも『英雄のいる店に英雄がいないとはどういうことか』みたいな苦情?」
 余談であるが、真世と開拓者仲間たちは南那で「英雄」と祭り上げられている。現地の外部交流推進派による情報工作である。
「英雄の件もあるけど、加来(カク)が弱っててね。店員のメイドは少しはマシになったけど、真世君のように働きっぷりに楽しさが感じられなくて困ってるって」
 2号店である南那の南那亭は、現地の加来(カク)が切り盛りしている。こちらで真世と楽しく働いていたので、それを懐かしがっているのもあるようで。
「そういえば、巨大蟹のアヤカシを倒した時あっちには寄ってないものね。……うん。ちょっと行って店を手伝ってくるね」
「そうそう。あっちは内乱の話もあるから気をつけて。……商人たちの間でもどっちにつくかとか、内乱を早めてしまえなんて乱暴な話もあるくらい混乱している。真世君たちの立場でいろいろ調べてみて欲しい」
 真世と林青の話を聞いた常連客からは「えー。真世ちゃん、しばらく留守にするのか?」とか不満の声が上がっている。まあ、真世はこれでも一応開拓者なので仕方がない。
 とにかく、一緒にあっちの南那亭に行って楽しく働く開拓者を募るのだった。

 この時、真世は夢にも思っていなかった。
 まさか、南那亭が志体持ちの武装集団に襲われることになるとは。


■参加者一覧
鞍馬 雪斗(ia5470
21歳・男・巫
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
アイシャ・プレーヴェ(ib0251
20歳・女・弓
禾室(ib3232
13歳・女・シ
泡雪(ib6239
15歳・女・シ
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰


■リプレイ本文


「いらっしゃいませ! 南那亭に、ようこそ☆」
 椀那の南那亭に、アイシャ・プレーヴェ(ib0251)の声が響く。
「お二人様ですね。お席にどうぞ」
 案内する腕の動き。ふりん、と南那亭メイド服のフリルがひらめき、さらさらストレートの青い髪が踊る。少し開放的な胸元。にこやかな笑顔が眩しい。
 案内した先に、狸の尻尾が覗く南那亭メイド服の後ろ姿があった。
「よし。足りない物はちゃんとメモをしたのじゃ。……それじゃわしは買い出しに行ってこようかのぅ」
 振り向いた姿は禾室(ib3232)だった。
「お願いしますね、禾室さん」
 ウインクして竹筒容器をテーブルに置くアイシャ。とてとてと出掛ける禾室。
 そして店の奥には泡雪(ib6239)がいた。
 にこ、とアイシャの様子を見守っているが、不意に横を向いた。
「……アイシャ様の様子と、先に私がしていた動きを比べてどういう違いがありましたか?」
 横には、現地の南那亭めいど☆二人がいた。
「その……泡雪さんは柔らかい感じがしたけど……」
「アイシャさんは折り目のある動き方かな」
 二人は互いの表情を見合って、自信なさそうに答えた。
 聞いて笑顔を見せる泡雪。胸元は正しく閉じている。
「では、同じところはどうでしょう?」
「どっちも見ていて気持ちがいい」
 今度は返答が早く、歯切れもいい。
 くす、と満足そうに微笑して業務に戻る泡雪。口では教えない。
 落ち着いた佇まいの泡雪を見つつ、それでも互いに遠慮する店員二人。
 そこへ誰かがやって来た。
「戸隠菫だよ、よろしくね。……南那亭、一度働いてみたかったんだ」
 青い瞳で戸隠 菫(ib9794)がウインクした。メイド服を揺らめかして明るく店内を回遊する。ロングブーツが楽しそうにステップする。
「可愛い格好で接客するのって楽しいよね。うるさくならない程度にリズミカルなステップで動いていると見ている方も動いている方も楽しいじゃない」
 これでようやく二人も頷きあい、働き始めた。それぞれの個性で。泡雪、ほっと目尻を下げる。
 アイシャもこっそり見守っていて安堵したが……。
「あれ? そういえば真世さんとお姉は?」
 気付いてきょろと見回した。

 アイシャの姉、アーシャ・エルダー(ib0054)は店の厨房にいた。
「じゃあ、兄弟の跡目争いで内乱になりそうなんですね?」
 事情を話した深夜真世(iz0135)に詰め寄る。
「跡目争いというか、権利闘争みたいな感じなの〜」
「権利闘争?」
 んんん? とさらに詰め寄るアーシャ。
「その、今まで海側優遇で陸側冷遇体質だったから領主の代わるタイミングで対等にしろって……」
 真世の説明を補足すると、交易上、優位性のある塩を他の領地に高く売る代わりに穀物を多く買い取っていた、と。
「お姉?」
 ここでアイシャが首を覗かせた。
「いい感じに南那が発展しつつあるのに、私たちで何かできることないでしょうか……」
「お姉!」
「ああん、アーシャさん〜」
 アーシャ、やるせない思いが募り妹と真世をまとめてむぎゅりと両手で抱いた。
「ひとまずお店を盛り上げますからね〜」
 すりすりと頬を二人に摺り寄せヤル気を出す。
 そんな三人を眺めている人物が。
「内乱……ですか」
 へにょ、と猫耳を伏せるのは緋乃宮 白月(ib9855)。
「こちらの南那亭は初めてですけど……穏やかではないですね」
 南那亭では相棒の羽妖精とメイド服姿になって手伝った事もあるが、今回はぐいとつば広の赤い革帽子を被った。そのまま南那亭を出る。
「出来る限り情報を集めてみましょう」



 白月と同じ考えの者は他にもいた。
 カツ、カツとヒールの音を響かせ歩く人物。細い脚が伸び、両サイドの丈は長いが前後は太股丸みえなドレスが体の動きを浮き上がらせていた。
「お姉ちゃん、腹ごしらえにどうだい?」
 露天商の声。
「……無礼だな」
 つん、とそっぽを向いて先を急ぐのは、お姉ちゃんではなく鞍馬 雪斗(ia5470)。髪を払った指に金色の指輪が光り、耳に双子星の耳飾りがキラキラ揺れる。
(……とはいえ、ミラーシの踊り子服じゃ営業周りしてるのか分からんな。これじゃ)
 雪斗、自覚は一応あるようで。
 そんな彼の行き先は、南那親衛隊の練兵場。
「ん? 飲み屋の集金かい?」
「違う。……真世さんの代わりに来た。ちょっと聞きたいことがある」
 門番に飲み屋の姉ぇちゃんに間違われ機嫌を損ねる雪斗。真世の名前を出して乱暴に言う。
 そこへ、親衛隊長の瞬膳が通り掛かった。
「お? 真世君とこの新顔かい? 今からお仲間さんの所に行くんだが」
「いや、それより確認させてもらいたいことが……」
 雪斗、瞬膳と歩きながら話すこととなった。
「不穏分子って言うにはちょっと悪いけど……。志体持ちや賊が何か企んでとかいう話は無いんだね?」
 聞いた雪斗に、瞬膳はまず吹聴しないよう求めてから説明した。
「内乱の心配は、あるね。軍備はこちらの栄進様が持っていたが、周辺警備の名目で訓董様も志体持ちの軍備を強力に進めている」
「いいのか、放っておいて?」
「配備が迅速だった。外部の義賊集団をまるごと雇ったにしても現地入りが妙に早い。すでに手遅れだし……」
「まだあるのか?」
 促す雪斗。
「おそらく、訓董様はもう義賊集団の傀儡だろう」
「証拠は?」
「政治の基本は武力。……丸腰の土地に組織ごと武力を引き入れれば、遠からず訓董様の意見は通らなくなるだろう」
 ここで二人は足を止めた。
「久し振りだな、ルズガル。元気でやってるか?」
 通り掛かった厩舎からそんな声が。
 見ると、クロウ・カルガギラ(ib6817)が軍馬にブラシをかけていた。「防壁の森」を越えたアヤカシと戦った時に乗った軍馬だ。馬ははむっとクロウの服を噛んだ。
「お。覚えててくれたんだな、よしよし」
「クロウ君、待たせたね」
 嬉しそうなクロウに瞬膳が声を掛けて近寄った。
「いいよ、楽しんでる。……それより瞬膳さん、商人達の間に『内乱を早めてしまえ』なんて声もあがってるらしいな」
「残念ながら、あながち冗談でもないだろう」
 ここでこういう話ができるくらいにね、と瞬膳。
「……もし内乱が起こる事で得をする者がいるなら、どんな連中が該当するだろう」
「外部の者だろうね」
 瞬膳がそう返した時だった。
――パァン、パァン!
 どこからか銃声が響いた。悲鳴と喧騒もかすかに聞こえる。
「どこだっ?!」
「街中です。南那亭のある方向!」
 瞬膳の声に兵の報告。
「南那亭が襲撃!? こうしちゃいられねえ、すぐに俺もそっちに向かう! ……ん?」
 急いでルズガルに跨ったクロウだが、ある考えが浮かんで振り返った。
 視線に気付き頷く瞬膳。
「陽動の可能性だね。……当番兵、我々は各要人の警備に当る」
「栄進側だろうね、危ないのは」
 雪斗も軍馬を借り南那執務官邸へ急ぐ。親衛隊も続いた。
 実際、さらに別の場所から銃声などが響いている!



 時は少し遡る。
――パァン、パァン!
「え?」
 突然の店外からの銃撃に、真世が目を丸くしていた。外には銃を構えた覆面男性が六人程度いたのだけ分かった。丸くなった瞳は、すぐに力なく伏せられた。
――どさ……。
「真世さんっ!」
 悲鳴が店内に響く。アーシャが真世に駆け寄る。
「みんな、逃げて!」
 アイシャ、裏口を指差す。
「何者? ……裏口は待ち伏せされてるかも。厨房に隠れて」
 菫、現地のメイド二人のお尻を叩いて下がらせる。
 この時には敵、正面と窓から乗り込んできた。
――ばふん!
 ここで煙遁の煙が充満した。
「落ち着いて。私についてきてください」
 泡雪だ。
 客の手を掴んで……厨房に引き入れた。
 さらに店内で銃声が響く。
「ここはあたしが頑張らなきゃなんだよ」
 菫、咄嗟に印を結ぶと銀盆だけを手に前に出た。まだ煙は残っている。敵の適当な射撃を銀盆を利して右にいなす。突き出された銃剣も左にいなす。カカッ、とブーツの踵が鳴るのはテーブルなどを避けるための細かいステップ。どしゃ、と敵はテーブルに突っ込んだ。
「今だ!」
 屈んでいたアイシャ、大胆にスカートの裾を上げる!
 白く眩しい太股には、クナイホルダー。きらん、と抜いて投げる。
 が、敵に当る前にテーブルの竹筒に命中。倒れて中の粉が舞った。
「バカめ」
 と言わんばかりの敵だったが、くしゅん!
「あらかじめコショウを仕込んでおいたんですよ。……お姉、真世さんは任せて」
 肩を押さえる真世を受け取るアイシャ。そのまま隠れる。
 代わりに、アーシャが立った。怒りの形相でっ!
「我こそはアーシャ・エルダー。誉れ高き帝国騎士であり南那亭めいど、更に南那の英雄部隊、その他もろもろ以下略! 命惜しくない者は前に出なさい!」
 ぶん、とデッキブラシを中段に振り構えた。敵、弾を撃ち切って銃剣突撃。
「いざ勝負〜〜!!」
 アーシャ、長さを生かしいて先制。右袈裟に左の一人を肩口から叩き伏せ、戻す動きで右の一人の鳩尾に柄の先をどすん。
 さらに外部から銃声。
「無事かっ!?」
 宝珠銃「ネルガル」を手にしたクロウが戻ってきて参戦。彼とアーシャによる怒りの挟撃で敵を圧倒した。

 一方、泡雪。
「裏口からも来ますか」
 厨房でなだれ込んできた敵二人と対峙していた。
「……もう一度煙幕を張りたいのですが」
 それはもうかなわない。近距離戦を想定していた敵は幸い、短剣が得物だ。
「はしたないですが、やむを得ません」
 泡雪、メイド服のスカートを自らまくった。
 ちなみに泡雪のメイド服はロングスカートだ。
 立体的な動きを利して、一瞬でがばっ、とド派手にまくった!
 それはもう、敵が一瞬視線を奪われるほど。
 瞬間、敵は小さな悲鳴を上げて仰け反ることに。
 同時に泡雪を追い越す影。
 ごちん、ごちんと敵をのした。
「手早く、楽しく」
 菫、振り返りウインク。
 銀盆でとどめの給仕といったところで。



 時は再び、南那亭襲撃前まで戻る。
 とて、とて、とメイド服の後ろ姿が歩いている。狸の尻尾も、ゆらり。
 禾室である。
「ん?」
 ぴく、と狸耳が反応して横を向く。禾室、信じられないものを見たような表情。
 で、向きを変えてとてとてとてと走り寄った。
 そしてある屋台にかじりつく。
「いらっしゃい」
「握り寿司、じゃのぅ。南那で見るとは……」
 絶句する禾室。以前、珈琲交易開拓で南那に来ていた時にはなかった。
「みんな、英雄部隊さんのおかげさ。生食には抵抗があったが、海産物の揚がる南那にぴったりさ」
 天儀からの食文化がいつの間にか、現地事情に合う形で息づいていた。ぱああっ、と禾室の表情が明るくなる。
「あれから真世たちは頑張ったようじゃしの。……それより店主、以前南那に来た時と比べて、なんだか空気がピリピリしとる気がするんじゃが……。最近、何かあったのかのぅ?」
 寿司を買いながら小首を傾げ聞いてみる。
「南那の海側と陸側で喧嘩しそうでな? ついでに、南那は近代的な開発の目にさらされていないってんで、まだ金になる資材があるんじゃないかと外部の旅泰たちが目を光らてんだよ。……ま、これは前からだがね。で、珈琲で当ったわけだろ? これはもう余所も真似してるが、手付かずの次なる商材があるんじゃないかってね。商人からは『手付かずの鉱脈』って噂されてんだ」
「『手付かずの鉱脈』、のぅ……」
 ふと考える禾室。
 自分が関わった珈琲もそうだった。
 逆に、ここで店主のやっている握り寿司もそうだろう。
 この時!
「あっ、そのメイド服はお前も……」
 禾室、通り掛かった覆面の男に指差されていた。
 繰り出される覆面男のナイフ。これを月歩でかわすと印を結ぶ禾室。
「何者じゃ、お主達!」
「うるさい! ……う」
 足元の影が伸びて敵の動きを封じた。
「店主、そこの縄で縛るんじゃ」
「お、おお」
 指示を出し、その間に耳をぴこり。
「雑魚はいい。それより英雄喫茶だ」
 遥か先行する他の敵の声を超越感覚で拾うのだった。

 この頃、椀訓董側高官官邸。
「我々も戦いをしたいわけではない。これまでの内部にあった海側と陸側の立場を対等にしたいだけだ。だから、我々がここで根気強く対話を重ねている」
 高官が、テーブルに座る白月にそう説明する。
「だから、英雄部隊の方にも誤解して欲しくないんです。新しい南那としてやっていくため、権利を主張しているだけなんです」
 白月、座って太股の上に置いた帽子「タルンカッペ」をきゅっと握る。泰国出身だが、生まれ育った故郷とはまるで違う様子に気分が上がらない。
 すう、と顔を上げ息を吸って言葉を紡いだ時だった。
――ターン!
「銃撃だ! 襲撃して……逃げたっ!」
「何? まさか、栄進側か?」
 信じられない、という風に立ち上がる高官。
「追いましょう!」
 もう、白月の顔は有事の開拓者のそれになっていた。
 やや寂しそうな瞳をして走るのは、「話し合いでお互いに理解し合えるといいですね」と声を掛けようとして、言葉を出す前に事が起こったから。
 心のもやもやを払うべく、白月が賊を追う。
 瞬脚も使い、追い付く。
「こいつ!」
「はっ!」
 ぶうん、と白月の弧を描く踵が反転する敵の側頭部に入った。
 旋蹴落で敵をダウンさせた。

 その頃、雪斗。南那執務官邸。
「火は消した! 大したことない。陽動じゃないか?」
「あっ。そこの! 逃げるそいつを……」
 馬で迫る雪斗の目の前に、逃げる覆面の賊がいた。
「まさか……降りながらか?」
 空気撃で転倒狙いだったが、高速騎乗中ではままならない。
「一か八かだな」
 神秘のタロットを一枚抜いた。「魔術師」の正位置。
「発想の転換!」
 瞬間、蔦が迫る敵の足元から伸びて一瞬動きを止めた。
――どごっ!
 これ目掛けて雪斗が馬から飛び降りた。クッション代わりとなった敵はこれでばたんきゅう。



 真世が落ち着いた時、全員南那亭に集まっていた。
 アーシャやアイシャ、泡雪や白月たちが荒れた店内を片付けている。
「さ、これで傷口は大丈夫」
 手当てした菫が微笑する。
「ありがと……。その、どうしてここが襲われたの?」
 聞く真世。
「とにかく関係各所全部を襲ったらしい。目的隠蔽かな?」
 クロウが不機嫌そうに言う。
「雇い主は商人らしいが…正体までは下手人に明かしてないみたいだ」
 雪斗も捕らえた賊を調べていた。
「下手人自体は泰国の別の地方の小悪党みたい。……アーシャさんが尋問したから間違いないかな」
 菫は、アーシャの指ごきごきしつつ「手加減苦手ですから〜」な姿を思い出し、ぞっとしつつ。
「楽しい気持ちは伝染するし、料理の味も引き上げる。わしはそんな風に思うのじゃ」
 厨房では、禾室が現地のメイドにそんなことを言いつつ買い出しした握り寿司と軽食の用意。
――きゅぅ……。
 それに気付いた真世のお腹がなった。
「あはは……」
 照れ笑いする真世。怪我が大丈夫そうで、釣られて笑う一同だった。