|
■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ● ここは地の果て、流されて西部。 馬に跨った人物がウエスタンハットを目深に被ったまま町の看板を見上げた。 名は、「もふらタウン」。 「ふぅん。ここが延伸中の蒸気機関車の次の停車駅になる町ね」 いま、強い風が吹いた。ウエスタンハットが風に煽られる。 帽子は首紐でとまり、ばさりと長髪がなびいた。 黒髪の少女がかすかに笑う。 名は、紫星(iz0314)。 背には長弓を背負っている。 荒野を長く旅してくたびれた馬を急かし、もふらタウンに入った。 場面は変わり、町の真ん中にある酒場。 きいこ、と扉が遊び黒髪の少女、紫星が入った。 ぎろり、と客達の視線が集まる。どいつもこいつもひと癖もふた癖もありそうな面構えだ。中には腰のホルスターに手を掛けようかという者もいた。 が、すぐに酒を飲んだりポーカーの続きに夢中になったりする。 「いらっしゃい。何にする?」 カウンターに座った紫星に店主の男が聞いた。 「ミルクを。ダブルで」 肘をつき瞳を伏せてそれだけ言う。 この時。 「ひゃっはははは。『ミルクを。ダブルで』だってよぉ」 「ここはママの(以下略)ようなガキの来るところじゃねぇぜ?」 「しかもなんだい、この拳銃全盛期に弓なんか背負っちゃって」 店の奥でならず者下っ端風男性たちがカードを持ったままはやし立てている。 ――トントン・トン。 「……ひ」 ならず者達、一瞬で押し黙った。 紫星が長弓で眼にも止まらぬ三連射をしたのだ。 「弓の早撃ちかい?」 「さあ。私は私をバカにするバカを放っておけないだけよ」 ミルクをダブルで出す店主にそれだけいう紫星。 「何だぁ? 弓を打つってなぁ、銃を撃ったと同じことだよなぁ? 保安官も逃げ出すこの町でいい度胸……」 別のならず者が詰め寄ってきたが、「う」と立ち止まった。 紫星が何かを出して掲げているのだ。 「私が新しく派遣された保安官よ。脳天に私の矢を突き立てられたくなかったら悪させずに大人しくしてることね」 ツン、と紫星が言い放ったその時! 「何だと、テメェ!」 男、銃を抜いて撃った! が、紫星はもう席にはいない。 ごろごろっ、と横を転がりピタリと膝立ちすると、弓を水平に構えて一射。 「ッてえ……」 「わざわざ脂肪の多そうな肩を狙ったの。これ以上は脳天を覚悟してもらうわ」 ざわ……と店内がわき立った。 客の大半が立ちあがって腰に手を掛けようとしている。 刹那! 「おっと、そこまでだ。小さな保安官の挨拶だろ? いきり立つなって」 吹き抜けの二階からそんな声が飛んできた。しゃくれた顎の男が立っている。 「そういうことだな。この町で大勢が動くことになると戦争になる。それでもいいのか?」 きぃこ、と新たに入店した鼻ひげの男も応じた。 これで立ち上がった男達は静まり席に着いた。紫星に銃を向けた男は傷を手当しながら舌打ちして逃げていく。 「何なのよ、これ?」 改めて席に座りミルクのダブルを手にした紫星がたずねる。 「この町は二つのギャングが勢力争いをしているの無法地帯なのさ。あんた、前の保安官のようにはなるなよ?」 前任者は謎の死を遂げているとだけ聞いていた紫星は、「なるほど」と呟きミルクを飲む。 「二階にいた男が片方のギャング『フルハウス』の用心棒、入り口にいた男がもう一方のギャング『ホイスト』の用心棒だ。今はこの二人が両陣営を抑えているから保安官無しでもなんとかなっているが……」 不安そうに話す店主。 「いいのよ」 紫星、ぼそりと言った。 「え?」 「私は、さる高官の娘。私が死んだら軍が動くわ」 寂しそうに呟く紫星。 「え? ここは自治経済特区で……まさか、ここを開拓した二大商人から取り上げるつもりで……」 うろたえる店主。この町は、何もないところから築き上げた住民達の誇りである。 「その結果、利益を争って二大商人……いえ、二大マフィアが権力闘争に明け暮れ無法地帯となってるんでしょ?」 「……」 押し黙る店主。 確かに、もう二大マフィアの決戦しか道のない町だ。そしてどちらかが残れば、一般の住民は完全にマフィアに取り込まれてしまうしかなくなる。 そして後日、その日がやって来た。 突然、町のあちこちで二大マフィアが闘争を始めたのである。 住民である貴方の採るべき行動は。 この町の明日は、どっちだ。 |
■参加者一覧 / 北條 黯羽(ia0072) / 羅喉丸(ia0347) / 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454) / 柚乃(ia0638) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 慄罹(ia3634) / ペケ(ia5365) / からす(ia6525) / エルディン・バウアー(ib0066) / 无(ib1198) / ティアラ(ib3826) / リンスガルト・ギーベリ(ib5184) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / クリスティア・クロイツ(ib5414) / 高崎・朱音(ib5430) / クロウ・カルガギラ(ib6817) / ナキ=シャラーラ(ib7034) / 雁久良 霧依(ib9706) |
■リプレイ本文 ● ウエスタン衣装の少女が馬で通りを行く。 「牧場のお嬢さん、今日も可愛いね」 「お。もふらのとこのお嬢さん。どちらまで」 見かけた人が立ち止まり笑顔で声を掛ける。 「たまにはこの子に町の外を見せてあげようと思って」 鞍上の娘は、柚乃(ia0638)という。もふらタウン郊外に広大な土地を所有する地主の娘だ。 では、と会釈して馬に拍車を掛け一気にもふらタウンを出た。 「あら」 そこで行き倒れを発見した。 波打つ金髪の少女である。 「またですか」 ほふ、と柚乃。 慣れた手つきで介抱する。 「またかよ、柚乃」 ある飲食店に入った柚乃を、店主の慄罹(ia3634)が迎えた。 「『また』店を改装したって聞きましたので寄りました。とにかく、この人に何か美味しいものを」 「まず水を飲みな」 言い返す柚乃が行き倒れ少女をカウンターに座らせてやる。 「うむ、すまぬの」 「って、おい。本当に行き倒れてたのか?」 目を瞑っていた少女は水を手にすると元気にごくごく飲み始めた。さすがに突っ込む慄罹。 「これはいっぱい食わされましたかね」 溜息をつく柚乃。 「そうでもない。良からぬ者であれば我の暗殺拳が唸っておった。親切者に拾われて感謝しておる」 「そりゃいいが、名前は?」 「リンスガルト・ギーベリ(ib5184)。地上最強の竜と人は呼ぶな」 聞いた慄罹に、にやりと少女は名乗るのだった。 ● 次の日の早朝、町の通りで事件が発生していた。 ぶらん、と首なし死体が掲げられさらされていたのだ。 「第一発見者は?」 着任したばかりの保安官、紫星(iz0314)が周りに聞く。 「あたしだよ」 「名前は?」 「リィムナ」 名乗りを上げたのは、リィムナ・ピサレット(ib5201)という少女だった。 「おい。ありゃあ、フルハウスの奴じゃねぇか?」 同時に、別の場所から声が上がった。 「ちょっと! これを機会に騒ぎを起こすんじゃないわよ」 素早く声を張って抗争突入を防ごうとする紫星。 「これは酷い……。せめて魂に安らぎあれ」 隣では駆けつけたシスター、クリスティア・クロイツ(ib5414)が祈りを捧げていた。 「とにかく下ろして。……だれか、手を貸して」 「よし。俺が手伝おう」 紫星の呼ぶ声に、近くを馬で通りがかったクロウ・カルガギラ(ib6817)が声を上げた。愛馬からひらりと下りて進み出たのだったが。 「あっ……。アンタ、殺人罪で指名手配中の『ラピスアイ・クロウ』!」 「おっと!」 ――ガゥン! クロウ、振り向きざま拳銃を抜いていきなりぶっ放した。 「ぐあっ!」 銃を抜いてクロウを背後から狙っていた男が撃たれてふっ飛ぶ。 「ちょっと、今コイツに手を出したらしょっ引くわよ?」 「酷いな。あっちは捕まえなくていいのかよ?」 「居場所は分かるからいつでも……って、ちょっと。アンタ何やってんのよ?」 紫星の意図を理解しているクロウが大人しく腰に縄を付けられていると、別の女性が近寄ってメジャーを取り出し紫星の肩幅なんかを測っていた。 「え、何してるって? そんなの決まってるじゃないですか。棺桶の寸法測ってるんですよー、アナタの」 棺桶職人らしい。名は、ペケ(ia5365)。 「どこの世界にそんなセクシー衣装の棺桶職人がいるのよ」 「武器を持ってないと見せないとねー」 ペケ、にまり。そのまま首なし死体を測りに行く。 「それより第一発見者は……あ、アンタだったかしら?」 「失礼じゃの。我には先の者と違い立派な耳も尻尾もあるじゃろ」 消えたリィムナを探していた紫星が目を付けたのは、同じチビッ子ながら猫の獣人の高崎・朱音(ib5430)。異国から流れてきたばかりのガンマンである。 「それならそうと……え? 第一発見者は『見えない悪魔』? 一度姿を消したらどこいくか分からない? ああ、もう。それなら先にこの男を……」 「おいおい、乱暴に扱うなよ」 住民から教えられた紫星がクロウを連れて行く。 「ふっ、それにしても中々に楽しそうな事になっておるではないか」 朱音の方はぺた胸の前で腕を組んで騒ぎを見詰めている。と、シスターに気付いた。 「汝、クリスではないか!」 「え? あ、朱音様?」 振り向き驚くクリスティア。 朱音と知り合いらしい。 ● さて、酒場。 「マスター、この町に何か大きな仕事はある?」 天河 ふしぎ(ia1037)が名刺を差し出し聞く。 「……ふうん、流れのサムライガンマン『ふしぎザショット』ねぇ」 マスターは書かれた文字を読んで、どちらが縦だか横だか分からないステーキと格闘し始めたふしぎを見る。 「例えば、あれがフルハウスの用心棒」 マスター、右奥のテーブルに足を投げ出しいい気分で酒と煙草をやっている女性ガンマンに視線を向けた。黒髪に露出の多い黒い衣装、そして小麦色の肌。赤い瞳と衣装の赤い模様が印象的な女性。 名を、北條 黯羽(ia0072)という。 「そしてあっちが、高額賞金首『レイヴン』」 マスター、今度は反対の奥に視線をやる。 そこにはからす(ia6525)が座っていた。黒髪をサイドアップにした黒ずくめの少女で、肌と、目の前のミルクのダブルだけが白い。いや、こちらの視線に気付き、妖しく細めた瞳と衣装の模様は赤かった。 「はぁい、からすちゃん♪」 ここで、からすに女性が近寄って絡んできた。 「マスター、あれは?」 見ていたふしぎが聞く。 「少し前に街にやって来た流れ者のセクシーガンマン……」 「ん? きみは確か……」 マスターの説明とからすの言葉が被る。 「黄金の指の異名を持つ『カラミティ・霧依』よ♪」 雁久良 霧依(ib9706)が、うふん、とマイクロビキニにテンガロンハット姿をしならせ後ろ手に長い黒髪をすくい上げる。 「黄金の指?」 思わず聞くふしぎ。顎をしゃくるマスター。 「今日も可愛いわね♪」 髪をばさっと下ろしてから黒ビキニに包まれた胸をつんと張って、からすの小さな顎を官能的にくねらせた指に乗せた。この指で何人昇天……ごほごほ、何人籠絡したことか。 「……とまあ、仕事だらけさ。賞金首の吹き溜まりでもあるけどね」 「ホイストの用心棒は?」 「一人消えたところだな」 「一族の敵討ちにはちょうど……」 「やれやれ。太平の世になり、武が必要とされなくなったと思ってたが」 ふしぎが思わず決意を口に出しそうになったところ、一人の武骨な男がカウンターに座った。 名を、羅喉丸(ia0347)という。 「よお。どうだい、この町には慣れたかい?」 マスターが聞く。 「ああ、もふら牧場でよくしてもらっている。……それより、柚乃さんを見掛けなかったか?」 「いつもなら一曲歌ってるんだが……。そうそう、昨日はまたあんたみたいに行き倒れを見つけたらしいな」 つまり羅喉丸もしばらく前に街にたどり着き、行き倒れていた所を柚乃に助けられたらしい。 「この人は?」 「ただの旅人だ。やることがなくなったので世界をこの目で見て回ってるんだよ」 聞いたふしぎに答える羅喉丸。 この時。 ● ――きぃこ。 クロウの胴体を縄で縛って連れている紫星が入店した。 「あら、いらっしゃい〜」 『いらっしゃいもふ』 「あら、もふ龍。今日ももふもふね。ミルクのダブルを二つ」 バーテンの紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)が応じ、金色のもふらさまが注文を取りに行く。応じる紫星。 「ミルクに合うサンドイッチもいかがですか?」 「頂くわ」 沙耶香の交渉に応じた紫星。クロウの方は意外な顔をした。 「縄を…ほどいていいのか?」 「ここは賞金首だらけなのよ。捕まったアンタは牢であるこの町からは出ないこと。いいわね?」 思わず噴き出すクロウ。 「牢がいくつあっても足りやしない」 「そういうことだ」 「アナタも保安官ちゃんの縄に縛られたの? 気持ちイイわよね」 紫星が肩を竦めると、からすと霧依が口を出した。遠くでは黯羽がふっと微笑している。どうやら受け入れられているようで。 「おっと、俺は認めてないぜ?」 大柄な男が不平そうにやって来た。どすん、と大ジョッキを叩き付け紫星をねめつける。 と、そのジョッキを沙耶香が奪った。 ごきゅ、と一気に中の酒を飲む。 「ここで暴れてもらっては困りますね〜」 沙耶香がジョッキに酒を入れて、男に返した。飲め、と言っているのだ。 「てめぇ。……美人だからいつかモノにしてやろうと思ったが、いいぜ、今手籠にしてやる」 きゅっと飲んで杯を返す大男。沙耶香、入れて飲んで杯を返す。大酒飲み勝負だが……。 「ありがとうございました〜。お酒のお代、頂きますね〜」 沙耶香、飲み過ぎてぶっ倒れた男の懐から財布を出し、二人分の飲み代を抜いてから戻した。 「ちきしょう、兄貴をよくも!」 おっと、大男には取り巻きもいた様子。別の男が拳を振り上げて迫ってきたぞ? ――ぱしり 「人を叩いたり傷つけたりしてはいけませんよ」 この突撃を、横合いから一人の神父が止めた。振り上げた拳を握ったまま男の胸元を見る。 そこには逆十字架が掛かっていた。 ぴく、と神父の微笑が曇る。 「ただし異教徒は除きます♪」 ぐいん、と腕を引っ張り横に。 ――げしっ! 間髪入れず鋭い蹴りが。 「侍祭のティアラです。よろしくお願い致します」 高々と足を蹴り上げ男を伸したのは、ティアラ(ib3826)というネコ耳金髪シスターだった。 「そして私は、もふらタウンの教会神父、エルディン……がふっ!」 おっと、自己紹介していたエルディン・バウアー(ib0066)に横から美しい脚が飛んできてヒットしたぞ。 「ちょっと、少女保安官への挨拶中にいきなり何するんですか」 「ナンパしやがったので蹴ります」 「いや、ナンパじゃないでしょ?」 強気ティアラと取り乱すエルディン。 「ナンパじゃなかったら犯罪ですね。相手は少女ですし」 ティアラの二撃目が飛ぶ。 この様子を別のテーブルに座ってポーカーに興じている男――いや、その男の肩に乗っている尾なし宝狐禅が眺めている。 「……騒がしいねぇ」 宝狐禅「ナイ」の様子に気付いた男がぼそり。極東からのへたれ密入国者、无(ib1198)だ。顔も上げずにカードに集中している。 ――ば〜ん 「あたしは流れ者のマリアッチ、ナキってんだ。たったいま、この町についたからよろしくな」 新たに入店した少女、ナキ=シャラーラ(ib7034)が高らかに自己紹介。背中にはギターケース二つ背負っている。 「どけっ!」 おっと、これを押し退けて住民どもが入ってきたぞ。 「大変だ! ホイストとフルハウスの手下どもが派手にはじめやがった!」 声を張った住民たちは、紫星と黯羽をちらと見た。 「こっちにも間違いなく来るぞ!」 がた、と店内は騒然となった。 この時! ● 「いまだ、この瞬間を待っていた!」 店内吹き抜けの二階や一階席から両陣営の手下どもが立ち上がり銃を構えた! ――ガーン、ガーン! 交錯する銃声。 「隠れてっ!」 紫星たちは一斉にカウンターを飛び越えて隠れる。 が、一人外に行く者が。 「これは動くな」 「クロウ、脱走するの?!」 叱責する紫星。 クロウはちらと振り向いて一言。 「血の雨の降る裏側でうろつき回る屑が居るのさ」 「彼は吸血鬼ハンターですね」 紫星の横で見送るエルディンがぼそり。 「知ってるの?」 「エルディンはバチカンを総本山とする世界最大最強で最凶の宗教組織から派遣された武闘派神父ですから」 聞いた紫星にはティアラが答えた。 「神父さん、助祭さん」 横ではマスターがマスケットを渡してきた。床を滑る三丁の銃。 がし、とショットガンとライフルを掴んだエルディンが立ち上がる。 「二大マフィアが争うのならそれも良し。神は私に啓示を与えました。立ち上がれと!」 「……仕方ありませんね」 エルディンのライフルとティアラのロングマスケットが火を噴く。クロウを狙っていたマフィア達が倒れる。 ――チュイン……。 「上にもいますね〜」 2階テラスからの射撃には沙耶香が反応。 たん、とカウンターを足場にテラスの柵を掴むと、そのまま泰国鍋捌きで鍛えた腕力を生かしぐいんと上体を持ち上げ……。 「ぐあっ!」 手すりから身を乗り出しクロウを狙っていたガンマンの下顎に蹴りを食らわせた! 落ちる敵と、沙耶香。 ――もふっ! もふ龍が落下する沙耶香の下に移動。怪我なく着地することができた。 これでクロウは店外へ。 「ちょっとそこの顔面犯罪者、巻き込まれるわよ!」 紫星は向こうでポーカーをしている无を指差す。まったく騒ぎに反応してないところからして、どちら陣営でもないかたぎと見たのだ。 「顔面犯罪者……」 酷い言われように困惑しつつ振り向く无。そうすると、お世辞にも愛想がいいとは言えない、学者然とした面構えがさらに無愛想になる。犯罪者と言われても仕方のない仏頂面で。 「おっと、うごくなぁ!」 世の中酷いもので、紫星の声に反応したことで无たちのテーブルに射線が集まった。ポーカーをしていた4人がばたばたと銃弾に倒れる。 「ちょっと、手当たり次第?」 これを見た紫星、飛び出す。 「仕方ないわねぇ♪」 テンガロンハットがカウンターから出た! セクシーガンマンの霧依の援護。 「させるかよっ!」 待ってましたとばかりに銃を向ける敵がいる。霧依が銃を抜く前なのを見抜いている。 が。 ――バチィ! 「私の早撃ちはどう?」 「撃ってないじゃんか……」 どう、と倒れる敵。霧依、早撃ちには負けた。 しかし、彼女は銃を撃ったのではない。 「ネイルリングがトリガーなのよ♪」 宝珠つきの金ネイルから必中のアークブラストが迸ったのだった。さらに別の敵に撃つ、撃つ。 「こんな有様じゃ歌なんざ聴いてくれそうにねえな。まずはゴミ掃除といくか」 先のマリアッチ、ナキはいい加減この状況にムカついていた。背負ったギターケースの先に手を掛け、上から下ろすように肩に担いだ。 「重低音から入るぜ?」 ――ドゥン! ギターケースの先から重力の爆音が……いや、指ぱっちんが真のトリガーだ。とにかく担いだケースの先端から重力の爆音を放ちまくる。 この阿鼻叫喚に、絶望したようにゆらり立ち上がる者がいる。 「……もう武というものは時代遅れの必要とされないものになったと思っていたのだがな」 羅喉丸だった。ちゅいん、と脇に着弾する。 ぎゅっ、と金剛覇王拳に包まれた拳を握り締める。 「本物の武とは何かおしえてやろう」 言った時には、もう羅喉丸の姿はそこになかった。 ――みし……。 「ぐぁ」 撃った男は、一気に間を詰めた羅喉丸の裏拳の餌食となっていた。 別の男が驚愕しながら銃を構えた。今度はそちらを見る羅喉丸。 「こ、こいつ。銃もないくせ……にぃっ?!」 「無手で武器を打倒するために研鑽し続けられた技術というものがいかほどのものか、その身に刻むといい」 言った時には、離れていたはずの敵に羅喉丸の拳がめり込んでいた。 その向こうで、からすが倒れた无の所にいた。紫星も今到着。 「君、大丈夫か?」 「写本はいいものです」 无、懐から弾痕のある写本を取り出しからすに手渡した。 「銃は?」 「此れで十分ですから」 指鉄砲の形を作る。 「じゃ、脱出するわよ」 紫星、弓を撃って外に走る。 「狙撃手は位置取りが大切だからね」 からすと无も続く。 この時、黯羽。 「ったく、人が酒場でイイ気分になってたトコを…いや、待てよ。あの保安官のお嬢ちゃんが乗ってくるなら面白そう、か…イイぜィ、暴れようじゃねェか」 機嫌悪そうだったが、何か思いついたようだ。 しかし。 「『フルハウス』のボスはどこにいる?」 ふしぎが彼女の目の前に立ち、銃を構えて聞いた。 「こういう時ゃあ敵の多い方向に行くんだよ!」 黯羽、マントをなびかせ走り出た。「あ」と構え直すふしぎだが、黯羽援護の射線が集中し隠れる。彼女の言う、ふしぎにとっての敵の多い方向が分かった。 「行きましょう、シスター」 「分かりました」 禁欲的なカソック姿のエルディンがごっつい銃器を担いだまま走る。ティアラも続く。 「僕もっ」 ふしぎが続き、もふ龍と沙耶香も続く。 戦場は外だ! ● 慄罹の運営する飲食店も大変な騒ぎに。 ――がしゃ〜ん、ちゅいんちゅいん。 カウンター席でずるずるとラーメンをすすっているペケの背後で銃弾が行き交う。 「ったく…いい加減にしてほしいぜ。折角建て替えたばか……くそッ」 慄罹の方は、手にした菜箸をべきりをおりながらぎろっと店内のマフィアを睨みつけた。店の内装がすでに小破している。 「何だよ、文句があんならお前から黙らせてやるぜ?」 マフィアども、敵対しててもこういう時は以心伝心で協力するらしい。両陣営とも慄罹に銃口を向けた。 ガウン、と銃声が響く。 「うるせぇ! こっちゃ抗争ごとに酷い目に遭って五度目の修理建て替えを終えて…またか! な感じなんだよっ!」 慄罹、鉄扇を広げて銃弾を防ぐとその影からダーツを投げた。 「がっ……」 命中した敵は痙攣して動かない。毒ダーツだ。 「ひ、ひいい…毒を使う飲食店…」 「棺桶が店内に入るか、間取りも測っておきますかねー」 逃げるマフィア。その目の前ではペケが細長い店内に鋼線状のメジャーを張って測っていた。 「がふっ」 ちょうど首の位置で、逃げるマフィアはこれにモロに掛かって首が胴と泣き分かれ。 「あぁ、もう料理するぞ、テメーら!!」 「うわあっ。アチチチッ!」 「俺のフルコース、きっちり受け取れよな」 その後店内はキレた慄罹が嵐のような調理器具等乱舞とか飛び道具乱れうちとかやって酷いことに。 「……店主が一番壊してますねー」 ぽそ、とペケが言って手を合わせ、ごちそうさま。 その、慄罹が壊した窓の外では。 「クリス、今は平和を取り戻すため戦う我を援護することが懺悔になると思うのじゃ!」 黒いネコ耳ネコ尻尾の朱音が走っていた。時折、ピクリとネコ耳を動かしては振り返って二丁拳銃でズドン。通りに面した2階テラスから敵が落ちていた。 いや、朱音の向いてないほうからも敵が落ちている。 「神よ…罪深きわたくしと彼等を許し給え…」 クリスが朱音のかなり後方から援護射撃していた。 そのクリスには、接近戦を挑むべく突撃している敵がいるッ! 「はっ!」 「遅いぜ、ねーちゃん」 息を飲むクリス。敵のナイフをかろうじて止めたが手にした鳥銃を取り落とす。 刹那。 「がっ!」 敵の首が消えた。 「狩りは楽しいねぇ」 なんと、「見えない悪魔」ことリィムナが気配を消して敵背後に潜んでいたのだ。怨霊系式神を召喚し、ぱくっと敵の頭を食べたのだ。そのまま式神は消え、リィムナも消える。どさ、と敵の胴が倒れた。 「無事か、クリス」 朱音が戻ってきて、これでクリスは落ち着いた。 この時、朱音のさっきまでいた場所。 「な、何だあいつはっ。撃て撃てーっ!」 周囲のマフィアが、一点に射撃を集中させていた。 その中心に、リンスがいた! 僅かに右に寄り、少しだけ仰け反り、そしてまた元の位置に半歩寄る。 ちゅいん、ちゅいんと集まったすべての弾丸がリンスに当ることなく通過していく。 ふ、と微笑するリンス。 「妾にとって弾道は一次元であり、着弾点は0次元に過ぎぬ!」 言った次の瞬間! 「おわっ!」 敵の一人が宙に浮いていた。 一気に寄って膝をついたリンスの繰り出す右拳を懐に食らったのだ。 さらに軽く追撃するリンス。 どさ、と落ちた敵はもうピクリともしない。 「へし折った肋骨を肺腑と心臓に打ち込んだからの。……次に死にたい奴はどいつじゃ?」 くわ、と見据えるリンス。これが「地上最強の竜」。 「あ、あんな酷い死に方をさせるわけにはいきません!」 クリス、目覚めた。銃を取り直すと昔は名を馳せた射撃で撃ちまくる。 「逆らうものは皆倒すのじゃ。男を捨てたいものからかかってくるがよいぞ」 昔が懐かしいのだろう、朱音も乗ってきた。敵の急所への射撃が冴える。 「ああら、生きのいいのがいるわねぇ♪」 ここに籠絡したマフィアを率いる霧依が登場。重火器で武装している。 が、これにリィムナが目を付けた。次々と首なし死体となり倒れていく。 「い、一体何? こ、来ないで…来るなぁ!」 ――どぉん…。 金切り声を上げて錯乱した霧依のメテオが自らを巻き込み一帯で大爆発。 後、霧依とリィムナの姿は確認できなかったという。 「我らは神の代理人、神罰の地上代行者!」 「アーメン」 エルディンとティアラも射撃と格闘で周囲を圧倒しているが、ダイナマイトに火をつけた敵が投擲しようと助走しているぞ。 「ぐあっ!」 「ダメ、絶対」 からすがこれを狙撃した。比較的人の少ない場所で大爆発。 しかし、からすは別の狙撃手を狙っていたはずだが。 「跳弾を当てるのは難しいからね……おっと、大人しくしとけば殺しはせんさ」 今まで狙っていた敵から銃口を変えずに当てたらしい。そしていま、本命の狙撃手の腕にも当てた。 その通りのずっと向こうでは。 ――どすん! 二階からベッドが落ちてきた。マットレスにはホイストのボスと用心棒の鼻ひげの男だ。 「度胸ある逃げ方だねぇ」 二階からは宝珠銃を持つ黯羽が顔を出した。撃つが、鼻ひげの男が刀で弾を弾き落とす。 「そんじゃ、これならどうだ!」 ひゅうい、とマットレスに飛び降りた黯羽。着地際に男の斬戟が来たが銃の背で防いで……。 「オンミョウ・ジツ!」 ずばっ、と鎌鼬の式が用心棒を切り裂いた。 「く、くそっ……ぐはっ!」 慌てて逃げるホイストのボスだったが、横合いからの霊魂に吹っ飛んだ。 「此れで十分」 横合いにいた无は、ふぅと鉄砲型にした指の先に息を吹きかけている。鋼線の投げ輪でボスを捕縛するが、すでに絶命していた。 その通りの反対の端にある建物では。 一階でナキが敵の重包囲に遭っていた。 一斉に銃弾が浴びせられる! が、鋼鉄製のギターケースを両脇に立てかけて防ぎ、しゃがむことで正面と背後からの射線をかわした。身長が低いのを利用したぞ! しかし、絶体絶命には変わりない。普通の攻撃でこれは突破できない。 「あたしの指パッチンを食らいやがれ!」 ナキ、指を鳴らした。 ぱちんぱちん、ぱちんと何度も、軽快に。転がりながら敵の注意を引きつけつつ。 瞬間、敵が混乱してわめき散らしながら同士討ちを始めたではないか。 「よし。あたしも先に行かせたふしぎを追うぜ」 二階に上がる。 そしてそこでは。 「2月2日、夢の翼牧場を潰したのは貴様だな!?」 すでにふしぎがフルハウスのボスに迫っていた。 「その射撃の外しっぷり……あの時のボウズか」 「……い、威嚇射撃なんだからなっ」 ボスの指摘に赤くなるふしぎ。彼の足元には、目にも留まらぬ早撃ちで……をすべて外し結局居合で切り倒した用心棒、顎のしゃくれた男が転がっていたのだ。 「動揺するのは成長してない……ぐおっ!」 「これが僕の成長した姿だっ!」 赤くなった隙に銃を抜いたボスだが、ふしぎの居合いからの必殺三段突きが炸裂した。 ――がしゃ〜ん。 窓を突き破って通りに落ち、絶命した。 両マフィアのボスが死んでも、戦いは終らない。 それほど大規模な騒ぎとなっている。このままでは延々、手下達は戦い続けることになるぞ。 『もふっ?!』 「あら、もふ龍ちゃんどうしましたかー」 沙耶香が身を低くして敵を足払いしたとき、もふ龍が何かを感じて声を上げていた。 ――どどどどど……。 通りの向こうから土煙が上がっている。 先頭には颯爽と馬に乗る柚乃。 「戦いを止めなさい。みんな、止めてっ!」 ぱーん、と空に銃を撃ちながら青い髪をなびかせ颯爽と駆け抜ける。 その後から物凄い数のもふらさまの群れが続いている。まるで大地の怒りのようだ。 この後、騒ぎは沈静化するが今この瞬間が一番の騒ぎと言えた。 「ん? これは姿を現すな」 「ちょっと! それはいいから下ろしなさい」 別の場所で、マフィアたちとの射撃戦を制したクロウが周りを気にしていた。肩に背負った紫星がじたばたわめく。 「保安官と一緒なら脱走じゃないだろ……出た!」 紫星を抱えたまま、くるっと振り向き見上げるクロウ。紫星はその先にお尻を向けているので、「ちょ、見えないわよ」とか。 別の場所では、店主が、他の賞金首たちが、流れ者たちが、マフィアの生き残りが……そして住民達が見上げていた。 『いい騒ぎだった。そして多くの血が流れた。……これで我は目覚めた。そして、目覚めし者たちの血が完全復活の最後の鍵となる。毎晩、悪夢を見ると良い。ごきげんよう』 コウモリのような翼を広げて街の上に浮いていた黒ずくめの男――吸血鬼はそれだけ言うと、消えた。 「これが……パパがここにこだわる理由……」 紫星の呟き。 「討たないとな」 クロウ、紫星を下ろし呟くのだった。 ともかく、町のマフィアは共に崩壊した。 |